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生活保護者の集いコミュの「社会的インパクト投資」が問う公と私の新しい関係 カネはいかに使うべきか

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中川 雅之 2015年8月28日(金)

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278874/082100001/?P=1

 2015年7月16日。兵庫県尼崎市の稲村和美市長は、会見場に居並ぶ記者らを前に、耳慣れない言葉を口にした。

 「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」。市長はそれを「官民が連携して行う新しい投資モデル」として、若年層の就業支援に活用すると発表した。

 SIBとは、様々な社会課題に対して行政と投資家、実行主体としてのNPOや民間団体が連携して取り組み、そこから得られる報酬を資金提供者に還元して、持続可能で効率的な課題解決事業を実現する手法のことだ。


尼崎市は若年層の就労支援にSIBの仕組みを導入した
 投資家に金銭的メリットを提供することで、行政の社会保障費などに「投資」の視点を入れ、効果を最大化しようとする点に特徴がある。日本では2015年に、尼崎の例を含めて、試験的事業が3件始まったばかりだ。

 同市が就業支援の対象としたのは、生活保護受給者のうち十分な就職活動ができない状況にある15〜39歳の若者。市は域内に約200人いるとした。

 同市の生活保護率は、2015年6月時点で人口の4.13%。厚生労働省の被保護者調査(5月概数分)では全国の保護率は1.70%で、尼崎の割合は2.4倍に達する。稲村市長は会見で「とりわけ本市では、社会保障分野での予防的取組みが重要となっている。ここにしっかり投資することに価値があるということを、多くの人に理解してもらう」と述べた。

 就業支援によって生活保護の受給者を減らし、納税者に回ってもらう。それによって社会全体が経済的利益を享受する。それがこの事業の眼目だ。

 対象を比較的若い層に限っているのは、働ける可能性が高いというだけではなく、「納税側」に回ってもらうことによる便益が大きいからだ。事業に必要なコストは、初期段階は日本でSIBを主導的に進める日本財団(東京・港)が支出する。同財団の社会的投資推進室・工藤七子室長は、「今回はあくまでパイロット的な位置づけのため、財団が資金提供する。事業を通じて投資を集めてリターンを返す仕組みをしっかりと構築し、外部からの資金提供を募る」と言う。

 事業の拡大に必要な資金を民間から募り、抑制できた行政コストの一部を資金提供者に還元する。それをインセンティブにして、より多くの資金を募り、社会課題の解決に使える資金を増やしていく。SIBとは、これまで行政が担うことが多かった「公共の利益」に対する支出の原資に、民間資金を取り込む仕組みだ。資金だけではなく、運営ノウハウも民間の知見を活用し、より効率的な「社会的事業」の確立と促進を目指す。

 もう1つ、SIBの具体例を紹介する。「日本初のSIBモデル」と銘打った横須賀市の「養子縁組」の取り組みだ。今年4月に始まった。

 日本財団と横須賀市、一般社団法人の「ベアホープ」(東京都東久留米市)が連携し、横須賀市在住で子供を養育する意思または環境がない妊娠中の女性と、全国の養親をマッチングする。

 初年度は日本財団が資金提供し、ベアホープがマッチング事業を実行する。その後、効果を測定・評価したうえで、ほかの民間団体からの資金を募集。浮いた行政予算などから投資家に対してリターンを提供することを目指すというものだ。

社会に与える「インパクト」を測定

 初年度は4組の養子縁組を目指している。日本財団や横須賀市の推計によると、親が生後間もなくから子供を養育しない場合、乳児院から児童養護施設を出るまでにかかる市の負担額は1人当たり約882万円。この事業を実施した場合、4人分で約3530万円の行政費用が浮く。ここから人件費やカウンセリング費といったマッチング事業の費用である約1800万円を引くと、残りは1700万円。この便益を、投資家や社会に還元することを目指す。

 効果は厳密に測定する。厚労省の委託で指導的福祉従事者の育成を目指す日本社会事業大学(東京都清瀬市)と、社会的投資利益率などの定量評価を手掛けるNPO「SROIネットワークジャパン」の2つの外部機関が、社会的な便益計算や取り組み評価を担当する。

 こうしたSIBモデルが通常の投資と大きく異なるのは、「投資効果」を金銭的な増減だけで考えないことと、中長期的な視点で捉える点にある。

 SROIネットワークジャパンの代表理事で、SIBに詳しい慶応義塾大学大学院政策メディア研究科の伊藤健・特任助教は「費用便益分析という手法自体は以前からあったが、その適用範囲がインフラ建設などに限られてきた。それが、社会福祉の分野に採用され始めた」と指摘する。

近年は道路などの建設でも、金銭的な費用だけでなく、「時間がどれだけ節約できるか」「環境面でこれだけの効果がある」など、様々な側面の評価を入れることが標準になってきた。それがようやく社会福祉の分野にも適用され始めたのだという。

 「社会福祉を効率的に」という考え方には、行政や支援団体から反発もある。効率を求めるあまり、必要な支援などが絞られ、これまで支援を受けてきた人が受けられなくなるといった懸念があるためだ。

 だが投資を効率化せず、財政負担が重くなりすぎてもやがて必要な人に必要な支援が回らなくなる懸念は生じる。

 伊藤助教は、「重要なのは、受益者の便益と費用対効果を両立てで見ることだ。これまでは『ニーズのあるところには必要なだけ流し込めばいい』と受益者の便益だけを考えてきた結果、費用だけがかさんできた。福祉の分野を、費用対効果だけで測ることが望ましくないのは当然。受益者の便益と社会的な投資効果を両立てで考え始めた他部門の知見を、社会福祉にも投入すべき」と話す。

G8で提唱

 SIBは、「社会的インパクト投資」と呼ばれる投資に関する新たな考え方の具体的手法の1つだ。

 社会的インパクト投資という考え方は、2010年頃から英米を中心に注目を集めるようになった。特に2013年の主要8カ国首脳会議(G8)で、英キャメロン首相が社会的インパクト投資の推進を提唱したことが、各国に専門組織が作られるきっかけとなった。

 日本財団などがまとめたインパクト投資のパンフレットにはこうある。少々長いが引用する。

 「従来、日本における公共サービスの提供は政府が担い、これを地域社会のさまざまな相互支援が補強してきた。しかし(中略)日本社会は変化しつつある。推定1600兆円の個人金融資産と、強い社会的使命を持った大企業の存在は、日本のインパクト投資市場に巨大なポテンシャルがあることを示している。社会が急速に高齢化し、財政赤字が膨れ上がるという状況の中で、政府主導で社会を支えていくシステムの見直しが必要であるという認識が広がっている昨今、インパクト投資は今後の法的・制度的枠組みの整備によって、日本社会においても大きな発展の機会がある」

 投資というと、一般には資金提供者が経済的・金銭的なメリットを期待してするものというイメージがある。社会的インパクト投資でも、投資家が金銭的リターンを得る仕組みは重要になる。だがそれは、あくまで安定的に資金供給をしてもらうための動機作りだ。主眼はいかに限られた資金を有効に使って社会課題を解決するかにある。

 日本財団の工藤室長は「民間の市場と、行政などの公共部門のいずれもが、カバーできない領域が、各国で大きくなっている。その間を埋める必要を感じた投資家が、社会的投資に関心を示している」と話す。

「社会的課題の解決」という言葉には慈善や福祉の領域という印象がある。

 だが工藤室長によると欧米ではリーマンショック、日本では東日本大震災をきっかけに、「起業家精神のある金融機関出身者やビジネスエリートが『新たなお金の使い方』に関心を寄せるようになった」という。

 日本では特に、金融機関で10年以上出し入れのない「休眠預金」の活用に注目が集まっている。超党派の議員連盟が、休眠預金を民間の福祉事業などに活用できるようにする法案を取りまとめている。生活困窮者や子供・若者の支援事業などに対する助成金や貸付金として活用できるようにする狙いだ。

 預金者の払い戻し請求にはいつでも応じる体制を整えるが、払い戻し請求に応じても、年間800億円も発生するとされる休眠預金のうち、500億円ほどは活用できる見込みだ。実現すれば、民間が手掛ける社会的事業に対する投資が大きく広がる可能性がある。

限られていく社会的資源

 「“最強外資”ゴールドマン・サックスが貧困に投資する理由」でも触れたが、問われているのは、単純化すれば「カネの使い方」にほかならない。

 社会を“より良く”していくためにはカネが必要だ。

 そのカネをどこから調達し、誰にどのように使わせるのか。成熟した先進諸国ではもしかすると、往々にして「無駄遣い」と指摘される既存の国家行政や利潤を徹底的に追求する従来型の民間企業は、単独では担い手にふさわしくないのかもしれない。

 人口減社会になり、日本には自由に使えるカネだけでなく労働力も減っている。国の成長局面と異なり、社会的資源は限られており、無駄遣いは到底できない。

 公的部門か民間かに関係なく、今ある資産をどう有効活用するのかという課題は、今後の日本社会につきまとう。

 働いていない人が働くようにする方法はないのか。十分な教育を受けられない子供の能力を開発する仕組みは必要ないのか。高齢者や障害を持つ人が、少しでも周囲との関わりを増やし、社会に貢献しやすくなるコミュニティーは築けないのか。

 こうしたことは、政治の問題であり、企業の問題でもあり、家庭の問題でもある。

 貧困を生みだし続ければ、税金で社会を支える所得水準が高い人の負担はどんどん増していく。才能に恵まれた個人がどれほど稼いでも、生活水準を向上することは難しくなる。

 どうすれば我々は、もう少しうまくカネを使えるようになるのか。社会的インパクト投資の広がりは、公的部門と私的部門の新しい関係性の可能性を問うている。

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