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生活保護者の集いコミュの【放送】「生活保護」でまた誤報!? 専門家がテレビ局に質問状

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http://www.asahi.com/digital/mediareport/TKY201007080489.html
筆者 水島宏明
2010年3月放送の「ニッポン国民の皆さん 田村淳でございます」は社会派バラエティをうたい、本物そっくりの選挙ポスターまで作った(TBSのウェブサイトから)

「支援団体や弁護士が怒鳴り込んでくることも」と行政の主張を字幕付きで紹介(「ニッポン国民の皆さん 田村淳でございます」より)

車やクーラーに×印を付けて、生活保護の不便さを強調 (「頭脳警察わかるテレビ」より)


 「やれやれ、またか……」

 私が長く取材する貧困問題、特に生活保護を巡る分野では視聴者をミスリードしかねない残念な放送がときおり流される。そのたびに専門家たちが指摘や抗議をするのだが、背景には制度の複雑さに加えて制作側の勉強不足、偏見、誤解が見え隠れする。

 今年3月29日にTBSが放映した「ニッポン国民の皆さん 田村淳でございます」(以下「田村淳」)。お笑い芸人のロンドンブーツ1号2号の田村淳が参議院選挙に立候補するという想定だ。「無所属36歳」というポスターを作り、実際の候補者と見まがうタスキをかけて選挙カーで街頭遊説。番組ホームページでは「独自の目線で現代ニッポンの真の姿にアプローチする社会派バラエティ!」とうたっている。

 番組では田村がジャーナリスト鳥越俊太郎と上野公園の野宿者に話を聞いて歩き、ホームレスだと住所がないため仕事を見つけにくいという窮状を当事者から聞いてリポート。「2種類に分かれるわけですね。もう働きたくないという路上生活の方と仕方なく路上生活やっている方と」(田村)、「半分くらいは仕事したいけどチャンスがない……」(鳥越)と、半分のホームレスは働く意欲がない、と受け取れるコメントをしていた。

 一般的には、ホームレスは好きで怠けている人たち、という偏見や誤解が根強いが、ホームレス取材を長く経験すると野宿生活を好きでしているという人にはほとんど出会わない。仕事や家を失い、借金を背負った人。家族などの人間関係が切れ、逃げる生活で孤立した人。アル中などの依存症に苦しむ人。さらに精神病、知的障害などの事情が複雑に絡み合う。好きでやっていると言ったとしても本音は違う。そんな人ばかり。仕事したくない人が半分、というのは相当に乱暴だ。

 田村と鳥越はこの後、新宿区役所に行き、ホームレスへの生活保護適用の実態を聞く。「生活保護制度にも実は大きな問題が……」というナレーションに続き、田村と新宿区福祉事務所職員(唐澤邦子主査)との会話が放映される。


区「ホームレスの方がいったん施設に入ってアパートに行くことになりますよね。アパートのお金って契約のお金がだいたい30万円近いんですけど、そのお金を出したとたんそれを持って逃げてしまうことが」(中略)

田村「行政の支援を裏切った人には僕、厳しく罰してもいいと思うんですけど」

区「と思うんですけど、そういう法律じゃないので。それがOKなところが。普通の感覚から言ったら、ちょっと許し難いですけど、法律的にはそういう人をダメって言ってはいけないとなってますから。で、支援団体がついて来て、弁護士さんや司法書士さんなんですけど、そんなこと何度でもいいじゃないかという感じで怒鳴り込んで来るんですよ」

田村「許し難しですね」

区「で、新宿区でだましたら2度と来られないと思われるでしょ? 2度と来ちゃったりするんですよ。これが……」(中略)

田村「法改正が必要な気がしますね」

区「ぜひ議員さんになってそれをお願いしたいと思います」


◆行政が言いたい放題

◆「怒鳴り込む弁護士」非難


 生活保護法には、無差別平等の原則があり、生活困窮に至った理由や前歴を問わない。その時点で生活に困窮していれば受けられる制度だ。だから、2度3度来る人もいる。要件を満たしていれば行政には保護の義務がある。現職公務員が公共の電波でここまで法批判するのは珍しい。それにしても「弁護士や司法書士」の話、そのまま聞けば田村ならずとも「許し難し」と思うに違いない。

 これに対し「弁護士や司法書士」らが反論の声をあげた。生活保護受給者の権利保護に取り組む「生活保護問題対策全国会議」や「ホームレス総合相談ネットワーク」などが「事実に反する」として抗議し、TBSに質問状を送付。6月18日には記者会見で「あたかも弁護士、司法書士らが理不尽なクレーマー的存在であるかのように発言しているが、いかなる根拠や事実に基づいてなされたのか。これら弁護士らに悪感情を抱いているとうかがわれる職員の一方的な発言を特段の根拠や資料も示さずに垂れ流し、当の弁護士らに取材した形跡もない」(戸舘圭之弁護士)と批判した。

 背景を説明しよう。

 「田村淳」では、野宿者の場合まず施設に入ってからアパート、という順番が決められた手順のように解説されていたが、これは法律で決められているものではない。生活保護の原則の一つに、居宅(つまり普通の住宅)保護があり、本来、住居がない生活困窮者が生活保護申請の意思を示しアパート暮らしを希望した場合、それを認めねばならず、新宿区も病人や障害者や母子家庭などには、すぐ適用している。

 その一方で、野宿者には緊急一時宿泊施設や自立支援センターという、生活保護法ではなくホームレス自立支援法に基づく施設に入るように勧めるのが新宿区の通常の対応だ。生活保護だと一人ひとりに生活費や家賃なども支出することになるので負担が大きい、施設に誘導し負担を減らしたいというのが自治体側の本音だろう。

 ところが、これらの施設は制約が多く、一つの部屋に2段ベッドがいくつも並ぶため、多数と一緒に寝起きをせねばならず、それを苦痛に感じる人が多い。施設に入るなら野宿の方がましという入所経験者も少なくない。そのため弁護士ら支援者側は「ホームレスだけをアパートではなく施設に入所させるのは差別だ。本人が選択できるようにしてほしい」と要望してきた。

 08年、野宿者の男性(58)が新宿区福祉事務所にアパートへの入居を前提に生活保護の申請用紙を出したが、すぐには受理されず、さらに受理後しばらくして却下になり、本人が申請却下の取り消しを求めて提訴。宇都宮健児弁護士(現日弁連会長)を弁護団長にいわゆる新宿七夕訴訟として争われている。

 弁護士や司法書士が生活保護の申請に立ち会う支援をしているのは、ホームレスがアパートへの入居希望を持っていても、単独で福祉事務所に行くと申請させなかったり、施設へと誘導されたりするからだ。弁護士らは「生活保護法に則った対応」を要請し、法律違反がないことを見届けているのだ。

 区職員の発言はこうした「弁護士や司法書士」の支援活動への意趣返しなのだ。それなのに番組は区の主張に無検証・無批判で、「法改正」まで持ち出して、法を遵守すべき公務員の法軽視の発言にお墨付きを与えている。田村や鳥越、制作者はこのおかしさにどこまで気がついて取材し放送したのだろうか。

 生活保護に詳しい弁護士や学者らがテレビ局に質問状を出すのは今回が初めてではない。08年1月4日にフジテレビが放映した、世の中のいろいろな問題を分かりやすく解説する知的バラエティー番組「頭脳警察 わかるテレビ(以下「わかるテレビ」)。問題になったのはこの中の「3分23秒でわかる生活保護」というコーナーだ。


◆TBSだけでない

◆フジテレビにも質問状


 VTRで「生活保護を受けた場合、日常生活の中でできなくなる事があるのはご存知?」というナレーションが流れる。

「生活保護の人は(車の)所有はもちろん絶対に運転をしてはいけません」「さらにいくら暑くてもエアコンを持つことも禁止されてしまうことがあるのです」「もし貯金すると突然、生活保護費を打ち切られることもあるのです」という説明とともに車やエアコン、預金通帳の映像に「×」がつけられていく。さらに、実際の生活保護受給者が住む4畳半を映し、「もちろんエアコンはありません」と強調する。

 実はこれらの制限は絶対ではなく、過去の判例で否定されたものや厚労省の通知で運用が改められたものも多い。制作者はそのあたりを意識したのか、VTRでは「詳しくは各市町村窓口に問い合わせてください」「預貯金が認められる場合もある」など小さな字幕で留保をつけてはいるが、多くの視聴者にはナレーションや大きな「×」で強調される「できない」という印象だけが強く残るだろう。

数字も疑問点が多い。「気になる支給額はというと、最低生活費の金額までは保障されます」というナレーションとともに、「9万3820円 東京23区 60代1人暮らしの場合」という字幕が出る。この数字は、住宅扶助支給額の一部や期末手当などを算入していない不正確な低い金額だ。また、出産、葬式での援助金額も実際よりもかなり低いものだった。

 生活保護については、弁護士らが司法の場に持ち込んで、法律に照らして適切な運用をしない行政を敗訴させ、運用を改めさせるケースが相次いできた。VTRでは「(受給には)働けない、などの条件がある」「ホームレスを続けていては生活保護は受けられない」という説明があったが、これも訴訟の争点にもなっているところだ。

 弁護士や司法書士、学者などが参加する「生活保護問題対策全国会議」は放送の後、質問状をフジテレビに送り「誤った情報を伝え」「誤ったイメージを与える」と批判した。さらに「公共放送で生存権に関わる誤った情報が流されるということが、公共放送の役割からも、重大な問題であり、また、市民の基本的権利を守るという意味からも許されることではない」と注意を促した。


◆背景に「水際作戦」

◆餓死事件も発生


 2つの番組で浮かび上がった問題点を考えてみたい。

 「田村淳」の場合、一般的には公共性や信頼性が高い行政の発言をそのまま放映するという、報道機関として通常なら落ち度なくみえるケースでも問題が生じている。行政の対応そのものが争われていることもあるからだ。研究者や利害対立者から状況を聞いていないと、結果として一方的もしくは誤解を招く報道につながりかねない。

 そして、出演者のコメント。番組ではなく個人としての意見なのかもしれないが、視聴者には大きな印象を与える。どの程度許されるのかも議論となろう。

 「わかるテレビ」では生活に関する制限の厳しさが強調され、補助も含め支給額は実際より低く伝えられていた。本来なら生活保護を受けるべき人がこれを見たら、申請に躊躇してしまうのではなかろうか。生活保護費については厚労省の告示で毎年のように改定され、それぞれの世帯への支給額の算出法は複雑だが、自治体の職員などに聞けばすぐに分かる。正しい情報を伝えるべきであろう。

 それにしても生活保護に関する限り、番組内容だけでなく、出演者の一言コメントまで含めると、誤解や無知は相変わらず多い。

 私は長いこと、貧困、とりわけ生活保護を取材のテーマにしてきた。1987年、札幌で起きたシングルマザーの餓死事件がきっかけだった。その母親は3人の子どもを抱えてパート労働の掛け持ちで体を壊し収入が途絶え、福祉事務所に行って生活保護を求めた。しかし職員は当時39歳の彼女に対して「まだ若いから働けるはず」と言って生活保護の申請手続きをさせなかった。その末の悲劇だった。

 この数年、北九州市などで餓死事件が相次いだが、その背景には札幌の事件のように、生活保護の正規の手続きを踏ませる前に(つまり水際で)あきらめさせる行政のやり方がある。これは生活保護の「水際作戦」と呼ばれるようになり社会問題となったが、実際には今もあちこちで行われている。新宿区などの行政側と弁護士らの闘いも、法を適用せずなかなか生活保護を受けさせようとしない行政VS.法律に基づいて生活保護の受給を求める弁護士側、という文脈で捉える必要があるのだ。

 生活保護は困窮すれば誰でも受けられる権利であり、憲法25条で生存権として保障されている。ところが行政側に取材しようとすると「積極的にアピールするような制度ではない」。なるべく知らせたくない、利用させたくない、という姿勢が以前から露骨だ。

 札幌の餓死事件が起きるまでは、生活保護についての報道といえば大半が「不正受給」についてだった。すなわち「もらうべきでない人がもらっている」こと(専門用語で「濫給」と呼ばれる状態)を強調するものだった。逆に「もらえるはずの人がもらえない」(専門用語で「漏給」と呼ばれる)報道は皆無に近かった。当時の国や自治体などが財政事情から漏給を意識的に作り出しながらそこに目を向けさせないように濫給=不正受給ばかり調査し熱心に記者発表していたからだ。

 「不正受給 過去最悪」などの報道の数々。必要な人が受けられない、という報道でなく、受けるべきでない人が受けている、という情報への偏り。行政は不正受給が多いと強調し、だから厳しく対応するのは当然、と水際作戦につながるような支給抑制を正当化してきた。

 「田村淳」で、新宿区の職員が「アパートの入居費用の持ち逃げ」を強調して、法改正が必要だとした姿勢と重なり合う。持ち逃げが問題なら、直接大家に入居費用を振り込むことなどは可能だし、やっている自治体もあるのに―。


◆メディアの認識不足が

◆誤解・偏見の発信源に


 生活保護は「自分の血税がどう使われるか」という意味で一般の関心が強いテーマだ。そこに、こうした行政からの情報発信の偏りが加われば、一般の人たちは生活保護がどんな制度でどんな人にどう運用しているのかを理解せぬままに、「ズルしてる奴がいる」「人を甘やかすだけだ」などの先入観を持つようになる。残念ながらメディアの人間も同様だ。

 生活保護についての誤解や偏見、無知。代表的なものは「不正受給が多い」というものだろう。実態を詳しく検証取材すれば、暴力団員が関わるような悪質なケースは決して多くはない。むしろ事情があるのに不正受給にされてしまうケースの方が多いと感じる。

 ところが認識不足のメディアは「不正受給は許せない」などの感情論を導く番組や記事を作りがちで、視聴者や読者に影響を与え、さらなる「誤解」の発信源になっていく。偏見が拡大していく負の循環は今も続いている。

 これまでは行政側が不正受給などのネガティブな情報ばかり発表し、報道もそこにばかり目を向けるという連鎖があったが、最近、状況は変わって来た。

 昨年の政権交代で、厚生労働省は1960年代以降公表してこなかった日本の貧困率を昨年秋に発表。ひとり親世帯では先進国で最悪の水準であることが分かった。

 生活保護についてもこれまで熱心に発表してきた不正受給(濫給)だけでなく、本来受けることができる人のうち生活保護の網がかかっている人の割合(生活保護の捕捉率という)を今年春に初めて発表した。これによると受給資格があるのに実際に受給している人はおよそ3割に過ぎず、他の7割は受給していないことが判明した。つまり漏給についても初めて大雑把なデータながら公的に発表された。こうした情報の開示は歓迎すべきで最後のセーフティネットへの偏見を減らし、信頼性を高めていく要因になっていくはずだ。

 残念ながらその意義の大きさに着目した報道はメディアではほとんどなかったが、メディアの側も専門的な見識が求められる時代になりつつある。行政からの情報発信が変わりつつあるなか、我々メディアもそれに対応した報道ができるのだろうか。

 制度や背景が複雑で運用の仕方をめぐって争いもある生活保護や貧困の問題をバラエティー的な視点で「分かりやすく」解説するというのは、言うは易しで実際かなりハードルが高い。特に生活保護のテーマを扱うならば相当に勉強した上で放送時間もかけてきっちり説明する、というのでないと今回のような結果になりかねない。

 「わかるテレビ」の件では、弁護士らと局側が話し合いを続けた結果、別の機会に生活保護についての本格的なドキュメンタリー制作につながったという結末を聞いた。「ノンフィックス『生活保護―仕事も家も失ったぼくら』」(09年3月)として放映されたのだ。折しも派遣切りが横行していた08年末、契約を突然打ち切られ、住居を追い立てられる派遣労働者の一家を題材に生々しい実態を描いていた。行政の現場や受給に頼らざるをえない困窮者側、さらに電話相談を通じてそうした困窮者たちを発掘し福祉事務所に同行して支援する弁護士らの営みも画面に出てきた。生活保護という制度の現状に対して理解を深める良い番組だったと思う。双方が話し合った結果、この分野ではそれなりに知られるベテランのディレクターが制作を担当したという。こうした前向きな番組制作についてはもっと知られてもいいと思う。

 「田村淳」についても何らかの前向きの結末になることを願っている。

 「やれやれ、またか……」。

 生活保護がとりあげられるたび、ため息をつくような事態はそろそろ終わりにしたい。(「ジャーナリズム」10年7月号掲載)

   ◇

水島宏明(みずしま・ひろあき)

ジャーナリスト。ドキュメンタリー演出家。1957年札幌市生まれ。地方の民放でロンドン特派員、ベルリン特派員などを経て、現在は東京で報道ドキュメンタリーを制作。主な番組に「母さんが死んだ」「ネットカフェ難民」。著書に「ネットカフェ難民と貧困ニッポン」など。

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