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小説書き組合コミュの軽い気持ちで文章を書いてみるトピ

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ここは「みんなに文章を見てもらいたいけど、独立トピを立てる勇気がない‥」って方のためのトピックです
ショートショートや(もちろんショートショートでも独立トピを立てていただいて結構です)勢いだけで書きなぐった文章、詩とかでもOK
感想等も気軽にこの場で


●以前の「こ、こんなんでもいいですか‥?(ブルブル)」トピを改良してみました

コメント(596)

よく晴れた日に、ぼくは小さな鳥を拾った。

死んだ雀。

家にかえったら埋めてやろうね、と、おばあちゃんの皺くちゃの手が、ぼくを自転車の後ろに乗せる。
手の中でぐったりと横たわっている雀を、何度も撫でた。
ぼくが力をあげれば、また動き出す気がしていた。

家につくとおばあちゃんは鍬を持って来て、柿の木の下を掘りだした。
『さぁ、お墓を作ってやろう』
掘った穴に死んだ雀を横たえて、ぼくは土を被せる。
最後まで、雀は動かなかった。

次の日。
まだ陽も昇りきらない朝に、ぼくは目を覚ます。
もしかしたら、雀が生き返っているかもしれない。
一人起きて、こっそり部屋を出て、柿の木へ向かった。
石をどけて、盛り上がっている柔らかい土を掘り返す。
ぼくはドキドキしていた。
動き出した時の期待と、動かなかった時の不安。
それとすこしの罪悪感。

しかしどうした事か、いくら掘っても雀は出てこない。
ぼくは、ふと、思い至って上を見上げる。

あぁ、そうか。
柿の木(きみ)が雀を食べちゃったんだね。


《拙い文章ですが批評、感想頂けたら嬉しいです》
>>[561]

レスありがとうございます!
まさにこのトピにそって前々からあった話を勢いで書いたSSでしたので、勉強不足もあり拙い文章ではありますがとても有難いです。

最後は特に文字数制限が何文字かわからず、500文字で収めたかったので、中途半端になってしまったのは否めません。大変参考になります。
ありがとうございました。
>>[564]

大変わかりやすく批評して頂きまして、本当にありがとうございます。

一人称で書いてしまう癖のある私の文章に対して、一つの物語を同じ物語として別の人や物などの視点でたくさん書く練習をするといいと、昔とある方に言われたのを思い出しました。
私も子供にしては大人っぽ過ぎるなぁと、書いてる時に思っていたので、最後の柿の木の事も含め、改めて清書する機会があれば考慮していきたいと思います。

勢いで書きたくなった時があれば、またupすると思いますので、是非宜しくお願いします!
あいつらの笑い声が、部屋をぐるぐる回っている。

このせまい空間の中に漂う波。
そのケタタマシイ笑い声は、赤色。人から生気を奪い、攻撃する波長を含んでいて、血液に溶け込んでくる。
私はそれを感じとる。

これがあいつらの口から出た汚い音波、汚い脳波、汚い生活の結晶なんだ。
波なんて、やがては何の意味もなさずに収束して、消えていくことを感じたい。
「あいつらの考えていることも、この波とおんなじなんだ。
何の意味もなさずに、消えてしまえばいい。」

でもその音は、わたしに向かって発せられた。
だからその音は、私の脊髄に間違いなく波打った。
純粋な思考を大きく揺さぶる。そして刻みこむ。
一本の線だった波が、激しくうねりだす。
それを感じて立ち上がって、白い玄関を開けて、外の世界に飛び出す。

制止を振り切って、私は誰もいない外の世界に独りになった。
冷たい温度が私の体に充満してくる。
私は白い息を吐きながら、私の意識は、何の意味もなさずに消えていった。

やがて、日常に引き戻される。
母の冷たい手のぬくもりで、意識が醒める。
父に強く叩かれて、日常に戻る。
叔母に意地悪く罵られて、再び私の人生は、真っ赤な渦に飲み込まれる。
私は泣き出す。涙は渦に吸い込まれていく。

人を切り刻みたいけど、それはできない。
ならば、自分の体を刻むまでだ、それが私の答えだった。
私がいなければいいのか、彼らが全員いなければいいのかの、どっちかだ。

真っ赤に染まった私の精神に、私の腕も真っ赤に染まった。
こうして私の血液が美しいのは、私が若いからだ。
そう思って、私は左手に、手の甲にナイフを差し込む。

でも、ババアになったら?
そう考えると、答えはひとつだ。
誰かのためにやってるんじゃない。
私が死ぬためなんだ。
若い私がこうやって綺麗に死んでいくことを、私自身が望んでいるんだ。
そう思って私は、手に刺したナイフを回転させ、血管を押し広げる。
血が掻き出される。私の小さな体から。

掻き出された真っ赤な血は、真っ黒な血となっていくような感じがした。
血管の奥から、汚いものをたくさん吸収した、どす黒い塊のようなものが湧き出てきた。

私って、ババアだったんだ。

こんなに汚い血が体に流れていたんだ。あの人たちと同じように。
もう少しは、綺麗なんだと思ってた。

そうして起きる。
私はベッドに横になっていて、普通に起きることができた。
ベッドが血しぶきで染まっている。
誰もいない。ただ私の部屋に赤みが増しただけ。
私という生き物が、ここに住んでいますって言う証拠が増えただけ。
朝日が、意味ありげに薬の錠剤を照らしているだけ。
私の苦痛が、増しただけ。
左手が、痛いだけ。
『誰でもない、君への手紙』


例えば今君は旅の途中で、細く、長く、狭い道に居る。

その道はゴツゴツと荒れていて、少しでも気を緩めれば足を挫き、足の裏の皮を裂き、爪を剥がす。
もう少しの時間でも、この道を歩き続けたくはないと、君は思うだろう。
例え、この道を歩き続ける事が、この苦しみから抜け出す唯一の道であってもだ。

だから君は、度々踏み外す。
道の横に広がる、青々と茂る草むらへと。

変わり映えしないその草むらで、その道からは見えない深い沼へ何度も嵌まり、その都度誰かに助けられてきた。
しかしもう、君を助けようという人は居ない。
今まで君を導いてきた、あの先導者達はいないのだ。
他の旅人が黙々とこなすように、君もあの道を歩き続ける術を覚えなくてはならない。

今、その道から一歩踏み外し掛けている片足を、引っ込める事が出来ればの話だけどね。

(了)

『返信』


何とか、足を引っ込める決心がつきました。

あなたの手紙が助けになった事は否定出来ません。
ただ、自分の意志で草むらへ逃げ込むのを止めたのは、初めての事のような気がします。

そもそも、この辛い道を歩く羽目になったのは、これまでの私自身の旅の進め方に起因するのでしょう。
仕方が無いというよりは、極々当たり前の事であると痛感しています。

心の弱い私の事ですから、これからも多分、いや絶対に、道の横に広がる草むらへ逃げ込みたくなる時が来るでしょう。
その時は、背負ったリュックの中の『果実』を眺め、まだ見えない道の出口の先を夢想し、ニッコリと微笑みたいと思います。

言い忘れた幾つもの『ありがとう』と、
言い損じた幾つもの『ごめんなさい』と、
誰でもない、あなたへ。

(了)
髪の毛を染め終わり、鏡に映る自分の顔をまじまじと見つめる。
うん、若返った気分だ。
鼻歌交じりに髪の毛を乾かしながら、ふと思い出した。
白髪が生え始めた数年前、染め終わった後は、本来の自分を取り返した気分になっていた事を。

「年をとったもんだなぁ」

声に出して言ってみたが、悟りのような感慨は全く出てこない。
さり気なく、しかし確実に迫り来る老いの影に、心の成熟具合が追い付いて事に気付く。

ぶるるっ、と震える視界の向こうに、リビングでくつろぐ妻と娘が見える。

……君たちは、本当にそこに居るのかい?



1

何度見返しても同じ壁しかないよ

飽きたわけでもなかったが、少しずつナニかに溜まっていた疑問があふれ出す感覚に襲われ、それからしばらく自分を斯きたてるような自問が続いて数十度目。やっとそれの効力が発揮した。
同じ壁と睨めっこして早五年(早いのか遅いのかは謎だが)、蛾や蝶の苦労を思い浮かべながらゆっくり部屋の戸を開けた。
トイレ以外で意欲的に出てきたことがなかった廊下は裸足に冷たく、サブイボを一瞬戦慄と間違えた。
今は(確か)夜中の一時二十八分過ぎ。
流石に家は寝静まっている。

途中で普段はぶつけない様な所で転んだりぶつけたりして、住人を何度か起こしかけながらも五年ぶりに玄関へ向かう。
物音をなるべく立てないようにそっと玄関ドアを開けながら、恐怖と得体の知れない気持ちに頭も心臓もパンパンになった。
出た瞬間、秋の冷たいでも気持ちよく肺を満たす空気に思わず微笑んでしまった。

(外だ。
信じられない。今外にいるんだ!)

得たいの知れない気持ちが踊りざわめき恐怖も震わせる。
早足に大またにずんずん道を進みながらも、背は思いっきり丸まってる。
寒いのか暑いのかさえ分からない。
明らかにアドレナリンが大奮発。
こんな生きた感覚はしばらく・・・いや、一度も感じた事はなかった。

(自分は何をやっているんだろう)
その疑問が頭に浮いたのは割りと唐突だったと思う。
そう、パソコンかゲームか何かしててふっと、でも切り込んでくるようにクリアーな声になって頭に入ってきた疑問は、靄の中ではよく目立った。
最初は何でそんな疑問が出てきたんだろうと疑問に思った。
そして程なく理由に検討がつくと鬱陶しい異物として忘れようとした。
それでも浮かぶその疑問を持て余しはじめ、ネット仲間に相談しようかと思ったが気恥ずかしくなって止めてしまった。
しばらく鬱陶しいさと気になる衝動が交互に競り合いついに今日、後者が勝利した。


久しぶりに歩く近所は真夜中のせいか現実味が無く、どこかの腐った小説の主人公になった気分になった。
パーカーのフードを深くかぶり、両手を腹ポケットに突っ込み、今度はわざとらしく猫背でズンズン歩く。
余裕が出てくるとフードの縁から景色を覗いてみた。
最初に目に付いたのはしばらく会っていなかった中学校の同級生の家の表札。
美人で勉強もできて人徳もあったから密かに目をつけていた。
その先の曲がり角を左に曲がり、車一台分がぎりぎり通れる道を五件ほど先に行くと、これも中学一緒に塾へ行っていた友人の家の表札が目に入った。

(あの子は相変わらずくりくりのかわいい栗目をでかいメガネで隠してるんだろうか。)

そんなくだらない思い出を知り合いの表札を見るたびに順繰りと思い出していく。
中学に上がると同時に引越しで違う区に移り、仲が良かった友人の大半と違う中学になってしばらく不貞腐れていたこと。

(でも、入学して二週間もうちに新しい友達ができてあまり気にならなくなったっけ。
小学校の頃走り回った自転車探検も遠出しすぎて迷子になって、帰るのがえらく遅くなって大豆の上に正座させられたっけ。
今時やらないよな・・・あれ地味に痛いんだよ・・・)

七夕のわっかつづりのように思い出を繋げていくと恐怖が薄らみ、子供の頃みた光景が目の前に広がるようだった。
数分前まで重みのある静寂に包まれていた町もホラー映画の一場面を思わせる青白い蛍光灯の光も、ふと秘密を包むような暗闇と道を照らし出す提灯のように見え始める。
気持ちが軽くなり小学生の頃遊んだ川原に足は向く。
唐突にバカな事がしたくなった。


『ジョンの愚痴』

やぁ、僕の名前はジョン。
このブロック内に長年住み着いている、至って普通の男だ。
少しスケベだって言われてる事を除けばね。
日々前向きに、そして楽しく暮らしているが、最近困った事態が頻発している。
このブロックの最古参、我が家の裏に住んでいるチャップマンって奴が原因だ。
そう、お察しの通りご近所トラブルって奴さ。
家と図体のでかさだけが取り柄の常識知らずで、僕以外のご近所さんともしょっちゅうトラブってる。
以前はこんな奴じゃなかったんだけどね。
僕がこのブロックに越してきた当初は色々世話になったし、その点については感謝もしている。
その恩義を忘れて、彼に喧嘩を売った事もあるよ。
彼の家にまで乗り込んで、コテンパンに伸してしまったものなぁ。
色々理由はあったけど、あれば僕が悪かった。
本当に反省してるよ。
多分、それの恨みが残ってるんだろうね。
お金をコッソリ貸したり、僕の仕事の下請けを出したり、それこそ色々してあげてるんだけど、彼から感謝の言葉なんて殆ど聞いた事が無いんだよ。
執念深いよね。
でもだよ。
だからって、人の家の裏庭に勝手に入って良いという理屈はどこにも無いと、君も思わないかい?
最近じゃその裏庭の一部も、元々は俺の物だなんて言い始める始末。
……もしかして、裏庭に埋まってるアレに気付いちゃったのかな。
本来なら、ショットガンぶっ放しても非難されないケースさ。
僕だから我慢してるんだよ、僕は我慢強いからね。
このブロックのリーダーである、お向かいに住むアンドリューも、彼には再三忠告してるけど、馬の耳に何とやらって感じだ。
アンドリューの忠告を受け入れる気配は無いけど、アンドリューと対峙してる時の彼はいつ見ても興味深いんだ。
虚勢を張っているけど、足元はガクブルだからね。
面子を気にするタイプなんだろうね、彼は。

だらだら愚痴ってしまったけど、要はそろそろ僕にも我慢の限界が近づいているって話さ。
もう自分から喧嘩を売るような真似はしないけど、彼が何かにキレて事を起こしたら、今度こそショットガンをぶっ放してしまうかもしれないな。
今まで結構我慢してきたからね。
さぞ気持ちがいいだろうと夢想してしまうよ。ハハハ。

……ん?
そうしたら彼が飼っている犬はどうするつもりかだって?
あの犬には何度か手を咬まれて、痛い目に遭ってるからね。
僕には興味が無いから、君が飼ったらどうだい?
手は咬まれるけど、暇潰しにはなると思うよ。
右足ってどっちだったっけ。
ふと当然だと思っていた常識がわからなくなった。
箸を持つ手に付いてる足だとわかっていた頃には、箸を持つ手を動かして確認していた。
しかし右足と右手の連動がなくなってしまった昨今、最早右足を判別する手段を失っていた。
普通の人なら決して悩まない。
いやむしろ考えすらしないだろう。
脳の一部の障害が世界を変えてしまった。
僕自身の判別もその思考は生かされていても、もう正常とは程遠く、誰にも理解はされないだろう。
右足から前に進む。
その右足がわからない。
僕は雑踏に立ち尽くし、人混みを妨げた。
怪訝な顔で立ち止まる僕を振り返って確認する人や、邪魔だと言わんばかりに肩をぶつけて通る人、動けない僕は必死に右足を考えた。
わからない。
わからない。
どちらが右足わからない。
動けない。
動けない。
右足を前に出せずに動けない。
情けない。
情けない。
わからない僕が情けない。
悔しくて涙が溢れてくる。
普通ができない、ただそれだけで、もう動けない。
答えが出せない、ただそれだけで、もう動けない。
右足、僕の右足、わからない右足、ふたつの足が並んでる。
ただ一歩、たった一歩を踏み出す事に、僕の右足がわからない。
「右足ってどっちですか?」
馬鹿げた質問を僕はする。
答えがなくとも問いかける。
冷たい視線と無関心、これだけ人がいても、誰一人だって答えてくれない。
立ち尽くし、問いかけ、答えを求める。
答えがなくとも、問いかける。
「僕の右足どっちですか?」
『無題』

ほら、この研磨された部品見てみな。
ツルツルのピッカピカだろ。
傷一つ無くて美しい、とお前さんは思うだろ。
でも違うんだな。
細かい傷が何度も重なって、表面の大きなデコボコを削って、一見ピカピカに見えてるだけなんだよ。
言ってみりゃ、細かい傷の集合体の成れの果てって奴だなぁ。
人間も一緒って事よ。
ちょっとやそっと傷付こうが、構わねぇじゃねぇか。
輝く人生を送る為には、その傷は通過儀礼みてぇなもんよ。

……お、もうこんな時間かい。
お前さん、まだ帰らんのか。
電気と戸締まりだけは忘れんなよ。
じゃ、また明日な。



蒸し暑い夜だった。
だけど流れる汗は、その蒸し暑さからではない。
目の前で炎上している人間の熱のせいだった。

「お姉さん、警察の人かな?」

炊きあがる炎を背に、こちらへの向き直った人影の一つが私に話しかけた。

「偶然とはいえ、よくここに辿り着いたね。運が良いのか悪いのかは別にしてだけど」

むせ返るのような異臭がただよう。
輪ゴムを大量に燃やしたときのような、あの臭い。
異臭がきつくなり、堪らず私は鼻と口を抑えて膝を折ってしまった。

(吐き気がする‥)

せり上がってくる物を押さえつけながら、視線は声のした方から離さなかった。

「あぁ、すみません。もう終わりますから」

影の言葉に訝しんだのも束の間。
私の目の前で燃え上がっていた人間の炎が一段と激しさを増し、爆風に目を瞑った一瞬のうちに人間だったものは消し炭となり空へ舞い上がってあた。
その爆風の巻き込まれるようにして、辺りに充満していたあの臭いも空へ舞い上がって消えたようだった。
いつもの、あの呼吸をしても害があるようでないとは言いきれない空気へと戻っていた。

「‥貴方達は、なに?」

だが臭いとは簡単に消えないもので、まだ膝を折ったまま立ち上がれないでいる私は同じ姿勢のまま目前に立つ影を睨みつけた。

「お姉さんは僕たちが今巷で噂になってる連続変死事件の犯人だと思ってる?」

炎が消えた暗い路地で私を見下ろす影は、おそらくは笑っているのだろう。柔らかく、まるで世間話でもするような口調だ。
ただ単純に聞きたいことを聞いているだけ。
裏も表も真ん中もない。
純粋に影は質問をしているだけのようだった。

「聞く必要なんかねーだろ。面倒だから消すぞ」

もうひとつの影が唐突に横槍を入れてきた。
右手を私の方にかざすようにして伸ばしている。
その手の中に突如として閃光が生まれた。そして次の瞬間にはバチバチと電気と電気がぶつかり合うような音が響いた。
「あぁ、私死ぬんだ」となんとも客観的な思いを馳せながら、私はその光を見つめた。
こんなに綺麗な光が命を奪うのか。命を奪うのは闇であるはずなのに。‥‥なんて少し小説の読みすぎだろうか?
時には闇も光に立ち向かう。光は明るく、暖かくはあるが善ではない。闇は暗く、冷たくはあるが悪ではない。
つまりはそうイうことなのだろう。

「‥クオンか」

影が何カを言ってイる。
くおん?
何を訳のわカらなイことを言ってイるのだろウ?

「心を縛られちやったみたいだね」

心を縛られタ?
もうひとつの影も訳のわカらなイことを呟イてイる。

「ちっ‥俺たちに借りでも作る気か?」

「どうだろうね。まぁでも手間は省けたんだし良いんじゃない?」

「 手間って言うほどのことじゃねえんだけどな」

「ふふ。まぁ確かに」

彼ラはナニを言っテいるのだろウ?
そしてナゼこんなにも空気が薄イのだろウ?
呼吸がくるシイ。
喉を締め付ケラレルようナ痛ミだ。
クルシイくるシイクるしいくるしイ。

「‥‥これならいっそ殺してあげたほうが楽だったかな?」

「だから言ったろ?消そうか、って」

のンビりとした会話が聞こエル。
私ハコンナにもクルしいのに。

「あぁ、でももうすぐ終わるみたい」

腕に最後の力がこもる。
首をへし折りにいくかのように。
これが火事場の糞力というやつなのだろうか。
こんなときになんて無意味な。いや、無意味でも今の私にはとても有難いことだ。
この苦しみから開放してくれる、愛すべき糞力。

「さよなら、お姉さん」

影の声が聞こえた。
少しだけ、ほんの少しだけ別れを惜しむような、そんな声だったように思う。
その声を最後に、私は自分の首を絞め殺す腕に更なる力を入れ、私を絶命させた。
苦悶と恐怖の表情を浮かべなから絶命した私が、彼らの前に転がった。

「心を縛って、意思を縛って、身体を縛る、か。手頃な凶器がなかったからって、自分で自分の首を絞めさせる光景はあまり見たくなかったかな」

『全テハ我ガ主の意思』

「‥‥あーはいはい。ったく趣味のわりぃやつだな」

『報告ヲ待ツ』

地を這うような獣の声が消え、そこには彼らと私の死骸だけが残った。

「‥じゃあ帰ろうか」

「そうだな。あー、ねみぃ」

そう言うと風が舞い、彼ら包み込み舞い上がった。
そうして後にはなにも残らなかった。
彼らが人間を焼いた後も。
彼らが居た痕跡も。
彼らと対峙した私の成れの果ても。

何一つ、そこには存在を残すことはなかった。

【無題1】

○視点A

「ふぅ、また・・・か」

知り合いを通じて知り合った女の子。何度か一緒に出かけていい感じだと思ったのに、今日映画のあと、振られてしまった。

もうあなたには会えない、と。

俺のどこが悪かったのだろうか。せめてそれくらい言ってほしかったな。
俺といる間、彼女は俺の話に笑っていてくれて、楽しそうにしていたというのに。
まだ僅かに見える彼女の後ろ姿を見ながらそう思った。

――なんかあいつに、悪いことをしてしまったな

彼女をを紹介してくれた友人に心の中で謝罪しつつも、歩みを進めることにした。
どこかベンチかなにかに座り、心を落ち着かせよう。さすがに2年間付き合った彼女に振られるのはつらいものがあった。
それは、世間が夏休みと言われる日の最終日、8月31日のことだった。

「報告、するか」

いい子だったけど、よりを戻すなんて無理だし、ストーカーまがいのことなどしたくはない。
数年間彼女のいなかった俺に彼女を紹介してくれた友人に改めて礼を言いたい。

そう思って携帯電話を取り出そうとしたそのとき・・・

『おいおい。諦めるなんて、おまえらしくないじゃないか』

空耳か。
誰かの声が頭に響いてきた気がして、あたりを見るが
俺に話しかけたような人物は見当たらない。

――気のせいか

しかしそのことをこれ以上考える間もなく・・・

「・・・!?地震か!」

グラグラッ!
かなり揺れが激しく、立っているのがやっとだった。
それほどの大きな揺れだった。

「どこかに捕まらない…と」

近くにあったベンチへなんとか手を伸ばし、揺れが収まるまで待つことにした。
そして数分後、揺れは収まった。
そのベンチへ腰を掛ける。

「ふー、なんと収まっ・・・」

ズキンッ!!

同時に激しい頭痛に見舞われ、頭をおさえる。
この数日間見舞われていた原因不明の頭痛。
だが元々頭痛を持っていたためあまり気にしていなかった。
仕事に支障もなかったので、病院にもいくことはなかった。

――またか・・・よ・・・

声にならない。
声が出ない。
いままでとは比べ物にならない痛み。
そして次第に俺の意識は、眠りへと、入っていった。



○視点B

「・・・・・」

太陽に光がまぶたにあたり意識が目覚める。
そしてそっと、まぶたを開てけみる。

止まっていた時間が、動き出す。

少し体が重く、だるい気はしたが
徐々に回復し、視界が開けてきた。

――日差しがまぶしいな

周りを見ると、通行人は足を止め通信端末を手に取りどこかへ連絡している者がほとんど。
その様子から、なにか異常な気配は察することはできた。

「・・・・」

そして自分の端末もバイブレーションがなっていることに気づき、手に取る。

【8月31日 16時50分頃 東京都、近県、関東地区で震度5強を観測】
と、速報が流れていた。

――そうか、地震があったのか

周りの様子をを見るかぎり、震度は大きかったが建物倒壊などの被害は
なかったようだ。
しかし、そんなことはあまり問題ではなかった。

携帯端末で現在の時刻を確認する。
ディスプレイには

【2014年 8月31日 16時54分】

と表示されていた。

「ほんとうに・・・成功したのか」

座っていたベンチから立ち上がり、周りをキョロキョロ見渡してしまう。
普通の状況下で、周りをキョロキョロ見渡しうろうろしていたら挙動不審。
だが、大きな地震があり周りが混乱してる今の状況なら誰も気にも留めないだろう。

「っと・・・’彼女’を探さないと・・・」

自分の目的を忘れるところだった。
たしか名前は・・・

オレは携帯端末を操作し、電話帳から目的の人物の名前を探した。

「あった」

探し人の名前を確認。

「まだ’5分程度しか経っていない’はずだ。まだ近くにいるかもしれない」

電話するのが手っ取り早いと思ったが、つながらない可能性もあるので少し歩き、探してみることにした。

 一輪の花。どことなくも変哲のない花。無造作に男は千切り取り散らす。地面に落ちる花弁ひとつひとつに名前をつけてあけなければ、花が散らされた意味がないのだろうか、とも男は考えやる。
 やがて意味のないことだと思い至る男はまた花を千切りとる。取っては散らし、散った花を見る。
 男は狂っている。その意味のない行為に酔いしれている。いかに馬鹿馬鹿しい行為かと自虐的に笑う。
 まともである事になんら意味などない。狂ってしまえば狂っていれば、世界など、自在にどうとでもなると男は狂った頭で考えている。
 散った花はアスファルトを彩っていた。月明かりに照らされた男は正に狂っているとしか形容できない姿で、その行為自体に陶酔し声もなく笑っていた。
 都会の花などいくつもないのだ。その花を千切り散らす。見つけ千切り散らす。狂っている頭で狂っている考えで狂っているから花を千切り散らす。
 正気など失ってしまえばいい、男は投げやりに考えながら、その衝動に身を委ねた。
 誰が見るのだと、誰が咎めるのだと、誰が関わるのだと、ぐるぐると花を千切り散らしながら、そんな考えを巡らせながら、いくつもいくつも花を千切り散らす。
 誰も見ては見ぬ振りをした。見ても見ない事にした。醜悪な姿を見なければ、また自分も正気なのだと思えるからだと男は考えている。
 いずれは誰かが見咎める。いずれは誰かが狂気を指摘する。それが恐ろしい、とても恐ろしい事だと男は考える。花を千切り散らす事にだけ没頭したい。その反面誰かが咎めるのを待ってさえいる。

 愚かしい、ああ愚かしい、つくづくどこまでも救えない。狂ってしまった事すら救えない。恐れ狂ったふりをする。男は恐れ怯えていた。けれども花を千切り散らす。ただ千切り散らす。

 やがて男に声を掛ける物好きが現れる。男はその声に振り向くべきか、花を千切り散らす事にするのか答えを出せないでいる。
 花は千切られ散らされていく。幾人もの手によっていくつもいくつも散らされていく。
 男もその一人に過ぎない。男もただその一人に過ぎないのだ。 
『夢十一夜(漱石先生、すんません)』

こんな夢を見た。
私は永く入院している病室の窓から、外を眺めている。どうやらまだ私は子供のようだった。
そう長くはないだろう。
自身の身体の事は、自分が一番よく分かっている。やや悲観的な考えをぼんやりと巡らせながら、外の雪化粧に目を奪われている。
美しい雪。
もう、二度と雪に触れる事なんて出来ないんだろうななどと思いながら、窓から目一杯腕を差し伸べてみる。
あと少しというところで、私の指先は雪を掴む事が出来ない。私が腕を伸ばす度に、雪は逃げるように遠ざかってゆく。不思議な事に、窓の中に吹き込むどころか、窓の桟に積もる事もない。
「雪にまで嫌われてるみたいだ」
自嘲しながら、窓を閉め、カーテンを強く引く。
触れられないのなら、いっそ見えない方が良い。
そう自分に言い聞かせ、私は真っ白な味気ないベッドに潜り込んだ。
暫くすると、同室の何人かの子供達が窓から外に出て、雪の中を転げ回ってはしゃいでいる声が聞こえてきた。
非難がましい思いと、少しの羨望を滲ませながらその子供達の楽しそうな声を聴いていたが、ふとある事に気が付いた。
雪は、子供達と戯れて本当に嫌がってるのだろうか?
窓を開けて待ってるだけでは、雪と一緒に遊ぶことは出来ない。
窓を閉め、カーテンも閉じてしまった以上、もう雪には触れられないが、次に雪が降ったら勇気を出して外に飛び出してみよう。
自分の命が長くない事を忘れ、私はベッドの中でそんな誓いを密かに立てた。

(了)
 記憶が錯綜していた。いや混乱していると称するのが正しいのだろう。つい先ほどまで私はビアグラスを手にしていたはずなのに、気がつくと居間で横になっていた。
 訳がわからず記憶をゆっくり辿る。
 面倒な仕事が終わり帰宅した。いつも通りにろくに着替えもせずに冷凍庫からビアグラスと冷凍庫からビールを取り出した。普段は発泡酒なのだが、週末はビールと決めていた。音を立ててビアグラスにビールが注がれていく、泡がグラスのふちにまで届く前にゆっくり注ぐのを止めて、泡が表明張力でグラスのふちで留まるのを眺めて悦に入る。
「まずは一杯……」
 冷たく冷えたビールが喉を通っていき、ほど良いアルコールが血管を巡るのを想像しながら、二口目……そうだ、そこからは記憶がない。途切れていた。
 そこまでは記憶していた。だがそれ以上が出てこない。テーブルにはまだ注がれきっていない缶ビールが残っている。ビールの残量を確認したが、飲みすぎた訳でもなく買い置きした分が確かに残されていた。
 訳がわからない。まるで狐狸にでも化かされた気分だ。部屋中を消え失せたビアグラスを探す。
 しかしいくら探してもビアグラスは見つからなかった。そもそもワンルームのどこへ隠せる場所があるのか、なぜ記憶が途切れているのか、思い出せない事に混乱していた。

 いくら探しても見つける事ができなかったが、後日意外なところで姿を表した。メーターボックス内にビアグラスがあった。なぜメーターボックス内にビアグラスを置いたのか、置いた私ですらわからない。いや、そもそも私が置いたのか、それすら疑問にせざるを得ない程、曖昧な事すぎて思い出せない。
「不思議な事もあるものだ」
 もうそう括るしかなかった。あの時に病院へ行くことも考えたが、一瞬だけおかしいだけで何もなかったのだ。無理にでも忘れようとした。

「気になる癖に……」
 背後から呟くように声が聞こえた。振り返るとそこは鏡に映った私がいた。気のせいだ、そう思った瞬間口から言葉が漏れた。
「お前なのか?」
 自分が発した言葉の意味を理解する前に、私は答えていた。
「ああ、そうだよ」
 そう言い鏡に映った私が笑みを浮かべた。
 笑みを浮かべる私から私は目が離せなかった。どこか私はおかしくなってしまったのだろう。やがて声が漏れてくる。おかしくもないのに声をあげて笑う。
 ああ、そうだ、すべて私なのだと、私は理解した。いたずらにメーターボックスにビアグラスを隠す私の記憶が脳裏をよぎる。そして居間で横になり私が驚く事を考えて笑った事も、こうして私の前に姿を表し驚く私を想像してた事すらも、私だった。
 そうだ……私なのだ。
『Two ways of Kiss 』

男は突然、女に問い掛けた。
「キスには、二種類あるって知ってる?」
「え、フレンチとぉ、え〜っとぉ、ディープ? ……うふふ」
男は何も言わず、笑っている女を抱き寄せ唇を奪う。
んん……、とくぐもった声を漏らし、不意のキスに女は微かに抵抗した。
花弁は少しずつ押し広げられ、凶暴な蜂によって蜜は奪われてゆく。
男は、始めた時と同様の唐突さで唇を離し、女を見詰める。
女の微笑みはもう既に消え、震えた唇が、男の唾液で汚されている。
「……ちょっと、急に」
その後の言葉は続かなかった。
女は男の両頬を押さえ、男の唇に、自身の唇を重ねていった。

女もまた、先ほどの男と同じように唇を唐突に離すと、楽しそうな笑顔で言った。
「クイズの答え、分かったわ」

(了)
「たいへんです。博士!」
 慌ただしく学生が勢いよく扉を開いた刹那、鈍い音と共にガラスが砕ける音が研究室に響いた。
「博士。大変です!」
 学生はそんな音と妙な手応えも気にする事もなく、扉を開いて同じ言葉を繰り返した。
 学生の足元にはガラス片を撒き散らした惨状の床に横たわる博士と呼ばれる男がいた。
「博士。仮眠は仮眠室でってお願いしたじゃないですか!!」
 学生は横たわる博士に情け容赦ない声を浴びせた。
「お前が扉を勢いよく開けるからじゃろうがっ!!」
 学生の声に呼応するように勢いよく立ち上がり、声を荒げる学生に博士は怒鳴り返した。
「逆ギレですか!」
 学生も負けじと怒鳴り返した。
「逆ギレは貴様のほうじゃ!! 勢いよく扉開けて人を吹っ飛ばしておいて、いきなり何じゃ!」
 博士も負けじと怒鳴り返したが、勢い余って口腔内粘液の飛沫がどうやら学生にかかったらしく、あからさまに不快感を示す態度で、学生は顔を歪めながら両手で顔を庇い、庇った手をハンカチで拭きはじめた。
「いや、そんな事よりもですね博士たいへんです」
 そう言いながら学生はさり気なくハンカチを汚物を扱うかのような手つきでゴミ箱へ捨てる。
「さっきから大変大変と一体なんじゃ!」
 いろいろと言いたい事のある博士だが、ゴミ箱に捨てられたハンカチを見て諦め、詳細を聞くべく学生に訪ねる。
「メロンパンの皮が単品で販売されました」
「え?」
「単品でメロンパンの皮が販売されました」
「は?」
「販売されたんですよ。メロンパンの皮が」
 先ほどから文言の順番が変わるだけで具体的な説明が全くない学生の発言と、人を扉で殴打しておいてこの報告、セキセイインコのセキセイとはどのような意味だったかという疑問に言葉を失う博士にかまわず学生は続ける。
「先ほどコンビニに『ドキッ!第24回シジミの貝殻で作る巨大ロボット』の予約する為に行った際に、レジ横に発注ミスと思わしき商品が山積みになっていて思わず購入しました」
 そういい学生は懐から田舎まんじゅうを取り出し博士に手渡した。
「うん……ありがとう」
 博士は学生から田舎まんじゅうを受け取り研究室を無言で退出した。
 博士は世の中の広さや理不尽さを改めて痛感していた。
「すべての事象は連続性に成り立つ訳ではない。断続的に事象は不連続であり、その連続性は我々がただ補完している故に連続性を保っているに過ぎない錯覚であり事象は不連続性な連続性である……」
 田舎まんじゅうを博士は口にしながら独白する。そしてゆっくりと窓を開けて食べさしの田舎まんじゅうを手に叫ぶ。
「脈絡がなさすぎるわーっ!」
 博士は窓から全力で田舎まんじゅうを放り投げた。
 セキセイインコの背黄青鸚哥という漢字から背中が青や黄色という意味だと後日博士は知るのだった。
『夢十二夜(漱石先生、本当にすんません)』


こんな夢を見た。
私はまだ小学生で、私が今居るここは、私がかつて通っていた学校のようだ。
そして今は図画工作の授業時間であり、どうやら先生から(お母さん)の絵を描けとの課題を与えられているようでもある。
私は普通に母親の顔を描いてもつまらないだろうと考え、真っ赤な夕焼けの風景を描き、その夕焼けの中に、スーパーの袋をぶら下げた母親のシルエットだけを黒く描く事にした。
周りのクラスメートのざわめきや揶揄を物ともせず、私は私の持っている私の母親のイメージを、画用紙にコツコツと落とし込んでいった。
完成した絵は、私自身納得のいく物となったものの、その斬新な切り口の(お母さん)の絵は、先生やクラスメートから評価を得る事は無かった。

家に持ち帰り、パートから帰ってきた母親に、私はその(お母さん)の絵を自慢気に見せた。母親は目を丸くし、まぁ、まぁと呟きながら絵を見詰めていたかと思うと、鼻を啜りながら泣き始めてしまった。泣かせてしまったショックと、母親まで評価してくれないという事に、私は大きく落胆した。
母親が泣いてしまった理由や感情を、小学生の私には理解する事は出来なかった。夕焼けが綺麗に見える小さな窓の脇に、泣きながらも、その絵を丁寧に貼る母親を眺める事しか出来なかったのだ。
一駅歩き、浮かせた30円で母親が買ってきてくれたアイスキャンディーをかじりながら。

(了)
「またこんなところで寝てる…」


深夜のバイト帰りに足を向けたのは、その帰路の途中にある小さな公園だ。
いつも立ち寄るというわけではないが、ここ最近はほぼ毎日と言っていいほど寄るようにしている。
理由は深夜であるにも関わらず、この公園のどこかしらの草むらで眠っている『黒猫』を見つけるためだ。


「珂威(かい)起きろ。またこんなところで寝やがって」


身体を揺すろうにも目覚める気配は全くなく、身じろぎもしない。
周りにいる数十匹の猫たちが鬱陶しそうに俺に視線を向けているのが分かる。
さすがに慣れてきたとはいえ、居心地の悪いことに変わりはない。
そんな俺と猫の葛藤に気付いたのか否か、足元で眠る『黒猫』―『珂威』は目を覚ました。


「ほら、帰るぞ。影縫さんも心配してるだろうし」

「……………………」


『影縫さん』という言葉に反応したのか、珂威はゆっくりと俺を見上げるように顔を上げた。
そしてまた視線を落とし、近くにあった棒切れをつかんだ。


(かげぬい かえらない)


握りしめた棒切れで、珂威は短く地面にそう書いた。
そしてすっと立ち上がるとまた、俺を見上げた。
ざんぎりの黒髪はサイドは短く、背に流す尾は長い。
大きな黒目に、透けるように白い肌。
十五歳という年齢に対して、その身体はあまりにも細く小さい。
口が聞けず、会話は主に手記とモールス信号で行う。


「そうか、今日は影縫さん夜勤だったか…」


珂威は小さく頭を縦にふった。
そして自分の周りに集まってきていた猫たちに手を振る。
するとそれが別れの挨拶だったかのようにして、一斉に猫たちが散開していく。
猫たちを見送り、珂威はおもむろに俺の手を握った。


「ん。じゃ、帰るか」


冷たくなっていた小さな手を握り返し、俺は珂威の手をひいた。
影縫さんは珂威の『保護者』だ。
彼が夜勤のとき、やむを得ない事情で家に帰れないときは、俺が珂威の面倒をみることになっている。
というかいつの間にかそうなっていた。

あの日、俺の目の前に突如として現れた小さな『黒猫』。

無表情で、愛想がなくて、気まぐれで。
言葉を話せず、人との関わりを断絶した、小さく儚げな『黒猫』


「…なぁ、珂威。

俺、いつかお前の声を聞いてみたい」


俺の問いかけに珂威が反応しないことは分かっていたが、それでも俺は言葉にそれを乗せた。
案の定、珂威は帰路を見つめたまま身じろぎ一つしなかった。
闇のように深く黒いその目で、ただただ己の往く先を見つめたいた。







――――――【声をきかせて】 end
じわじわ締め付けられるような偏頭痛特有の痛み。
目を開けても閉じても真っ暗なのは、今夜だからだろうか。
のっぺりとした天井、寝台の横に備え付けられた棚やテレビ、真っ白なシーツ、枕。
はい、病院確定。名推理でもなんでもない。

俺の最後の記憶は、多分学校の部室でみんなと騒いでいた時のもの。
なはず。
多分。
新世界研究部、とかいう、今考えたら本当に馬鹿馬鹿しいあのコミュニティーで、俺達はいつものように議論していた。ちなみにオカルト部は別に存在していたが、ほとんどが幽霊部員で実質廃部状態だと聞いた。そのためにわざわざ新世界部を新設したんじゃなかったか。


俺達は、みな、共通して「扉」が見えた。
その扉は他の人間には見えず、触れようとすると消えてしまう。
扉の先に何があるのか、開けるにはどうしたら良いのか、それを研究……もとい、議論するのが新世界部の活動だ。
扉を見ることが出来るのはこの学校では俺を含めて5人いたけれど、世界中含めると何人いるのかはよくわからない。俺達の見ている扉は質感、デザインが全て同じものだったけれど、世界には違うものが見えている人も多く、それを同質の世界と考えて良いのかが分からなかったから。


扉、は何を意味するのか。
己の中の、例えば自我に対するイメージが表層化したのか。
はたまた、パラレルワールドの残滓を俺達の第六感が読み取ったのか。
以前までの俺は前者だった。
でも、なんてことはない。
真実はあっけないというけれど、あっけないから現実に起こるのだ。

簡単なこと。
俺達5人は、みな記憶をなくしていた。
ほんの3ヶ月前、夏期休暇の時のことだ。
俺達は心霊スポットで有名なとあるトンネルへドライブすることになった。
詳しい心情は覚えていないけれど、夜道であること、独特の恐怖、高揚感、きっとそれらがあいまって、結果俺達が乗っていた車は事故を起こした。
ガードレールに衝突後、後ろからのトラック玉突きらしい。呪いだろ。

推測だけど全員病院に搬送。
現在実質廃部だと言われているオカルト部は、もともとは俺達が所属していた部だった。
そして、部室の中には大きな扉があった。
ナントカドアのような一枚扉だ。どこにも繋がっていない。
その扉を開けばなんとやら、なんて想像をするためのものだった。
要するに俺達は、一時的に忘れていたオカルト部のことを、扉のことを、フラッシュバックしていただけだったんだ。


ネタが割れれば大したことはない、極めて現実的なアクシデントだ。
俺の記憶が戻ったのなら、他のやつらの記憶もいずれ時間差で戻っていくはずだ。なんて顔したらいいのか、ちょっとわからないけど。



朝になってからみんなと再会したら「おめでとう」と言われ、新世界研究部はようやく廃部となった。
さて。月はどっちだ。

秋の風が、嫌に湿り気を帯びていて。
気がつけば、クールビズとかで、
首もとからタイが無くなって。
秋になれば、ウォームビズ。
タイが首もとからフォーマル以外で、
姿を消したのは歓迎するが、
首輪は変わらず首もとを締め付ける。

クルマとバイクと、女の裸と。
そして煙草代が、主な悩みごとだった頃。
変わらずタイをぶら下げていた。

開襟のシャツは露骨に不良だと、
周りに発信しているようで、気に入らなかったし、
ショート襟は、アイロンを使わなければ、
様になら無い。
面倒くさがりには、向かないシャツで、
ヨレたショート襟のシャツは、
本質を知らないイキがった、幼稚な気がして、
着ることは無かった。
そうなると、レギュラー襟で、
タイをだらしなくぶら下げることが、
折衷案となる。

当時の周りにいた大人は、
ぶら下げたタイを目にすると、
「だらしない」と、眉をしかめながら、
それでも半分、しょうがないと、
笑える範疇の問題事だった。

そんな頃に、描いてた「これから」は、
恐らく「今」なんだろう。

愛すべき伴侶に恵まれ、
毎日の生活に困ることもない。
当然、煙草代に困ることは、
ここ10年以上、無くなった。
しかしこの空虚な気持ちは、
満たす条件すら、見つけ出せずに。

望めば好き好んだ「フォルム」の女の裸は、
得られる経験は、手に入れている。
望めば得られる機会もあるだろう。
しかし、それは悪くは無いが、
この渇きを潤す、
一滴の水にすらなり得ないだろう。

この渇きを潤す瞬間は、いつだろう。
髪の先から、爪の先まで震わせる瞬間。
初めての家出。
初めての煙草。
初めてのバイク。
初めてのスピード。
初めての、生命の危機。
初めての死。
初めての酒。
初めての一人の夜。
初めての、眠らない夜。
初めての女。

初めてだから、得られる潤いを、
年齢は反比例するように、潤いを求める。

あの頃、同じ月を見ていた仲間達は、
同じく憂いの月を見ているだろうか。
同じ渇きを感じているだろうか。
どうにも足元ばかりが、恐れの対象で、
月を見ていた時間を持てていた事も、
月の場所すら見いだせない、
そして見上げる月すら、見つけられずにいる。
見つけた時には、憂いが先立ち、
きっと何気に、あの頃のように気軽に、
見上げることは叶わないだろう。
あの頃、同じ月を見ていた仲間は、
同じ月を見ているだろうか。

あの頃の潤いを得ることは、
大人げないことなのだろうか。
同じ月を見ていたヤツらも、
同じ気持ちで月を見ているだろうか。

狂おしい程の渇望は、醜いことなのだろうか。

年齢を重ねることをが、歩みを進めること。
その質量が同じならば、いつからずる賢く、
エゴイスティックに考える癖がついたのだろうか。

首もとを締め付けるのは、タイではない。
自分で決めた、見えない何かが、
月を見上げることを、遮るのだろう。

好き勝手は、出来ない。
でも、渇きを感じる自分がいる。
同じ月を見ていたヤツらも、
同じ渇きを感じているだろうか。

そして、同じ月を見ているだろうか。





一話完結のショート小説を書いてみました。
「Loose」
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1960374045&owner_id=8126901
良かったらご覧になっていただき、ご感想などいただけると嬉しいです。
小一時間で書いたので粗もあるかもしれませんが…(笑)。
『某番組のエンディングに流れてそうなやつ』





目の前にボタンが現れた

よく見ると、そのボタンには『痩せる』と
表示されていた


なんとなく押してみて

なんとなく体重計に乗ると2kg
体重が増えていた

そのボタンをさらによく見ると
表明にシールが貼ってあり
剥がしてみると


『太る』と表示されていた


カツオの仕業だと思った
前回投稿させていただきました短編「Loose」の続編です。
全部読み切り形式なので、これだけ読んでいただいても大丈夫な様にしております。
よろしければご意見、ご感想などいただけたらと思います。
よろしくお願いします。

「ブラッドリーじいさんの苦笑」
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1960717463&owner_id=8126901
ショート過ぎるくらい短いショートショートの小説を書いてみました。
よろしければ、ご意見、ご感想などいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。

【Fake Flower】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1966608005&owner_id=8126901
読み切りの短編小説を書いてみました。女の子の日常生活を描けたら良いなと思い、考えたものです。
是非ご感想をお聞かせください。
【Après-midi blanc et fille】
https://mixi.jp/home.pl#!/diary/8126901/1975441278
>>[594]


……ここ、軽い気持ちで文章を書いてみるトピっす。
トピ違いっす。
宣伝は、軽い気持ちで書いてないと思うっす。
『LEGO』

あ〜……。めっちゃ辛い。

もうすぐ五歳になる孫が、遊び終わったLEGOブロックを片付けながら、気怠げに呟いた。
思わず吹き出してしまったが、彼にとっては自身の心の奥底から滲み出た、魂の吐露なのかも知れない。
笑いを堪え、咳払いをひとつ。
真面目な顔をして、彼に問う。

「人間って、なんで辛いんだろうね?」

暫しの逡巡の後、確信に満ちた物言いで答えた。

「乗り越えられなくても許される事があるって事を、知らないから」

私の呆けた顔をジッと見詰めた後、彼は片付け途中のLEGOブロックをぶちまけながら、笑い転げた。

(了)

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