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【オリバト+】コミュの【悪夢に魅入られる】

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文:やはと

※やはとさん以外の書き込みはご遠慮ください。

コメント(46)

「ハア・・・ハア・・・。」

ガシャン! 少女は暗闇を走っていると金網に突き当たった。
苛立ちから思わず金網を叩く。
後ろから少女を追いかける無数の足音。少女は振り返らずに、金網沿いにまた走り出した。
唯でさえ暗い闇の中、少女の黒い服装と髪が、一層彼女の存在を虚ろにする。

しかし、追いかけてるのは男、しかも軍隊の屈強な兵士だ。追いつかれるのも時間の問題である。



「いたぞ、向こうだッ!」

すぐに見つかり、追いつかれそうになる。

「う、うわあああああああァ!」

「どうした、クリス捜査官!」

少女を発見し、先頭を走っていた捜査官は急に何もないとこに向かって銃を抜き、発砲する。

パァーンッ!

「近寄るな、近寄るナァーッ!」

「落ち着け!」

他の捜査官が後ろから羽交い締めにする。 が、銃を掴んだまま離さない。

「うわァァァァーッ!」

パァーンッ!

銃弾が押さえ込んでいる一人の頬を掠める。生暖かい紅の液体が頬を伝って地面に滴る。

一人の隊員がすぐさま握り締めた銃を蹴り飛ばす。銃は暗闇を飛んでいき、そのうちに地面に落ちる音がした。
ただひたすら喚き、暴れるだけの隊員。 必死に押さえつけている間に少女は闇の中に消えていく。

「・・・クソッ!」

闇の中に遠い足音と隊員の呻き声。

その後、追跡は打ち切りとなる。




第一話「悪夢と言う名の」

「そうか、彼女は逃げちゃったか。」

「ハッ!」

被った黒い帽子に手を当て敬礼をする。報告を受けた青白い男は笑いながら手を振る。

「そんなに怖い顔しなくてもいいよ。」

「ハッ!」

頬に傷を負った男はそう言われながらも、態度を変えようとはしなかった。
この隊長は知っている。この男に特別な権限が許されていることを。

この敷地内での「生殺与奪の自由」

当然、これは非公式だ。そんなこと、国が許したなどと誰が認めるものか。
しかし、それは事実である。

隊長の頬を一筋の汗が伝う。

「まあ、君にはしかるべき処分をしたいところだけど・・・。まだ部隊を指揮してもらわないと困る。」

そう言うと、男は椅子から立ち上がると、壁の棚に手を伸ばす。
彼の手には一冊のファイルが握られていた。

「今回、急に発狂した隊員がいるそうだね?」

「ハッ!」

「そいつら全員ここに呼んでくれたら君は返そう。」

にこやかに笑いながら彼はパラパラとファイルをめくっていく。

「Yes、Sir!」

「じゃ、帰っていいよ。」

煙たがるように手を振る男に従い、部屋を後にする。

バタン


部屋を出た途端に汗が止まらない。なんなのだ、あの圧迫感は。
そして、隊員達の事を思い、唇をかみ締める。

「・・・すまない・・・。」

隊長を務める男は、下を向いたまましばらく動かなかった。




「食事は済んだかい?デッド。」

男の部屋には7人の隊員が無造作に倒れていた。男は内線を使い電話をかける。

「あ、僕だよ。7人頼む。今こっちにあるから。」

相手の返事を待ち、頷くと電話を切った。

「珍しいタイプだね・・・。肉体に損傷を与えない。僕のと一緒だね。」

先ほど奪った記憶を反芻していると奇妙な記憶が幾つかあった。
おそらくスタンドだろう。くっくっく、と笑い椅子にこしかける。

「まだ、時間はあるさ。クックック・・・ハァッハッハッハッハ!」

高らかにその男―アレン=カークライトは笑い声をあげた。







「ハア・・・ハア・・・。」

少女は一夜通して歩き通した。もう歩くことすら嫌になる。ベンチがあるのを見つけると、ゆっくり近づき、倒れ込むように座る。
ここは先ほどの基地から大分離れた公園だ。確かここに人が来ることになっているはずなのだが・・。
今はまだ日も昇っていない。時間は朝だったは・・・ず・・・



「ナタリーさんですか?」

気がつくと目を閉じて寝ていたらしく、その声に反応して目が開く。
そこには青年が立っていた。長いブロンドの前髪を、ヘッドバンドで後ろに流している。

「・・・ええ。」

いつの間に眠っていたのだろう。気がつくともう朝だ。太陽が昇り始め、辺りにはもう元気に走り回る子供達がいっぱいいる。

「・・・一人でこんな所で寝たら危険ですよ。」

「疲れていたんです。走りっぱなしだったから。」

「ええ。そのようだったから起こさずにずっと待ってましたよ。」

「・・え?」

「女性を一人置いておくわけには行かないですからね。」

そう言うと青年は先ほどの自転車を起こして跨った。

「さ、後ろにどうぞ。案内します。」
青年の指差す後ろは、どうやら後輪の軸に取り付けられたステップに乗れ、と言うことらしい。
ナタリーはベンチから立ち上がると疲れが少しは抜けていることを確認し、青年の指示に従って後ろに立った。

「じゃ、行きますよ。しっかり捕まってて下さい。」

ゆっくりと公園をで、道に出るとスピードに乗って走り出す。
しっかりと青年の肩を掴みながら、ナタリーは先ほどの事を思い出していた。

(ずっと寝顔を見られていたってこと・・・・なのかな。)

考えてみるとなんと恥ずかしい事だ。しかし、この場合は仕方がないと見るべきか。

「ところで・・・。」

「なんです?」

「貴方はアジアンのようですが・・・・。」

それに自転車の男は笑いながら答えた。

「ええ、僕は日本人です。名前は銀平と言います。・・・少し曲がりますよ。」

そう言うと彼は大通りから路地に入る。路地をしばらく行くと、小さな子供達が遊んでいた。

「おい、シルバーの兄ちゃんが女連れてるぜ!」

子供達は銀平に気づくと、口笛を鳴らして騒ぎ立てる。

キュッとブレーキをかけて止まり、銀平は子供達に声をかける。

「そんなんじゃねーよ。あとさ、シュウは見たか?」

「シュウ兄ちゃん? えーと今日は見てないかな。」

「うん、今日は外で見てない。」

「そっか。分かった、サンキュー。」

ニッと笑い、また銀平は自転車を漕ぎ出す。
この青年はなかなか子供に好かれてるようだ。

「もう少し時間かかりますけど、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。」



銀平たちが通り過ぎたあとの子供たちはいつもの疑惑について話し出す。

「いつ見てもさ、シルバーの兄ちゃんってすごいよな。」

「確かに。どうやって片手であんな運転してるんだろう。」




それからしばらくして、彼はゆっくりと、一つの建物の前で止まった。

「ここです。」

そこは、一つのアパートのようなものであった。
銀平に促され、ナタリーは自転車から降りる。
改めて見上げると、随分古い建物である。

「三階です、行きましょう。」

そう言うと彼は自転車を転がしながら階段を登っていく。
ナタリーは少し間を空けて彼の後に続いた。



ガチャ

「おーい、いるかー?」

「はーい、いませーん。」

奥から明るくふざけた声が返ってくる。

「あのさー、ナタリーさん送るから車貸してくれよ。」

ドンッ

ドタドタドタ

奥から物音がして、一人の男が出てくる。
その男はまじまじとナタリーの顔を見た。

「・・・なんですか?」

すると、男はニッと笑っていきなりナタリーに顔を近づけた。

「!!」

パーンッ!

「いってぇーーーッ!」

男はナタリーに平手打ち、つまりビンタを喰らった。
ナタリーは肩で息をしている。いきなりの事で手が出てしまった。

「あのな、初対面だろうが。」

ドガッ

銀平にも蹴られて、男は玄関を転がった。

「ったくよォ〜。ちょっとした挨拶じゃねーか。」

笑いながら男は立ち上がるとナタリーをもう一度見る。

「すまなかったね。俺の名はシュウ。哀川愁だ。んじゃ、送るから少し待っててくれよ。」

そう言うと男は銀平とナタリーの横をすり抜け、階段を走り降りていった。

「・・・じゃ、下に降りましょうか。」

ポリポリと顔を掻き、申し訳なさそうに銀平がそういうので、ナタリーはなんだかおかしくなってしまい、笑ってしまった。

「ん〜、じゃ、行きますよ。」

銀平と一緒に降りると、シュウが車に乗って待っていた。

「さ、乗りな乗りな。」

銀平が助手席に乗り、ナタリーは後部座席に座る。

「じゃ、出発するよーん。」

ふざけた声とは裏腹に、確かな手つきで車を操作する。車一台分のギリギリの道を、いとも簡単に走りぬける。

「すごい・・・。」

「へっ、俺に惚れるぐらいならビンタしてくれよ。」

「え?」

「あ〜、ごめん。こいつの言う事は気にしないで。」

銀平が苦笑いしながらフォローする。シュウは平然として車を運転している。

「変わった人たち・・・。」

しかし、幾分か今までより心地よかった。疲れからか心地よさか、ナタリーは眠りに落ちてしまった。
夢を見た。

それはいつも見る夢。

みんなが私を見る。

黒く淀んだ目が私を見つめる。
そしてみんな私から離れていく。

待って、なんで置いていくの。



「ナタリーさん。」

身体を揺り動かされ目が覚める。重たい瞼を開くと銀平の顔がある。

「着きましたよ。」

そう言って微笑むとすっと後部座席から出て行った。
もう着いたのか、と思いがならいそいそと車から降りる。

そこは銀平達が住んでいた地区とは違い、どちらかと言うと綺麗な方であり。
そして、目の前に立つ建物は、かなり立派なものであった。

「・・・スピードワゴン財団。」

ここは一昔前に石油を掘り当てた男が立てた財団のNY支部。
この財団は表向きの投資などの他に、
ある力を持つもの達の力になる為に、活動している。
ナタリーは、ある事件を起こし施設に入れられている時に、その存在を知った。
そして、助けを求めた。
しかし、途中で施設側に悟られてしまい、準備が不十分なまま逃走劇が上演された、と言うわけなのである。

「さ、案内しますから。」

そう言うと銀平はナタリーの前を歩き、建物へと向かう。

「そういえば。」

ナタリーは辺りを見渡した。

「シュウさんが見えませんね。」

「シュウは先に中に入りました。」

そう言って銀平は苦笑いをする。なにかあるようだ。

「ま、ひとまずうちのボスに会ってもらいますよ。それから・・・。」

そう言って銀兵が取っ手を掴みドアを引いた瞬間だった。

「ヘイ!君がナタリーかい?」

一人の男が、そう言って笑いながらいきなりナタリーの両肩を掴んだ。
ビクッとして手を払いのけようとするが、まったく腕が動かない。

(何て力・・・!)

おっと、と言う顔をして肩を掴んだ手を離すと、男は着けているサングラスを外して挨拶をした。

「レディ、ようこそSPW財団へ。私が副支部長のザイバンだ。」

そう言うとナタリーの方へウインクをする。

ナタリーはぽかん、としていたが、やっとの事で頭が作動したように動いた。

「あ、初めまして。ナタリーといいます。」

「よろしく。じゃ、引き続きシルバーが案内するから。じゃ、また後で!」

そう言うとサングラスをかけ、手を振り、踊るように歩きながら奥へと去っていった。

「銀・・シルバーさん。」

「どっちでもいいよ。」

「なんでこんなに変な人ばっかりなんですか?」

「・・・ハハハ・・・」

銀平は苦笑いしか出来なかった。



バンッ!

「しーぶっちょーうッ!」

シュウは部屋に入るなり、後ろ姿の女性に向かって抱きつこうとした。
もうすぐで、と言うところで女性の左手の甲がシュウの鼻を強打した。

「ぐっ」

裏拳で鼻を強打し、涙ぐむシュウ。だが顔は笑顔のままだ。

「シュウ、これ以上ふざけるならスライム並に惨殺するわよ。」

「失礼しました、支部長。」

真面目な顔に戻し、すっと直立して用件を伝える。

「ナタリー嬢を連れてまいりました。もう少しでシルバーが連れてくると思います。」

「よろしい。」

パタン。と音を立てて持っていたファイルを閉じ、本棚に戻す。
かつかつとヒールの音を立てながら、支部長は自分のデスクへと向かい、椅子に座るとシュウの方を向いた。


「ご苦労様。下がっていいわよ。」

「はっ。」

シュウは軽く頭を下げるとそのまま部屋を出て行った。

「さて、と。」

ガチャ

ピッピッピ・・・

プルルル

「あ、トミー? 新しい子が入るかもしれないから。よろしくね。じゃ、また後で。」

ガチャン





コンコン

「シルバーです。ナタリーさんを連れて来ました。」

「どうぞ。」




「さ、入って。」

銀・・シルバーに促され部屋の中に入る。

手前の壁には膨大な量のファイルが納められた棚。目の前に、向かい合うようにして並べられたソファー。
そして、奥にある大きな窓にブラインドがかかっている。そしてその前の大きな机の向こうに座る女性が一人。

その女性は立ち上がるとナタリーたちの前までやってきた。

「貴方がナタリーさんね? SPW財団 NY支部長、ミシカです。」

そう言って微笑み、手を差し出した。ナタリーは少し躊躇いながら、その手を握った。

「・・・ナタリー=ラングです。」

「ようこそ、ナタリー。私達は貴方を歓迎します。」

ミシカは、手を離すと彼女を軽く抱きしめた。ナタリーは驚いて目を大きくしたが、すぐにミシカは身体を離し、ソファーに座った。

「さ、貴女達もここに座って。色々説明することはあるからね。ナタリーにはこれから、ここで働いてもらうんですから。」

「へ?」

開いた口がふさがらないナタリーの横で、シルバーは明後日の方向を向きながら頬をぽりぽりと掻いていた。
「働くんですか。」

「ええ。」

「誰が?」

「貴女が。」

ナタリーはシルバーを見た。シルバーは決してこっちを見ない。

その様子にはぁ、とため息をついてミシカはシルバーを睨む。

「・・・シルバー。」

「は、はい。」

ビクッとして、ミシカの方を向く。

「トミーの所で手続きでもしてなさい。」

「はい。失礼します。」

軽く頭を下げ、そそくさとシルバーは部屋を出て行った。

ガチャ バタン

「まったく・・・。」

大げさに頭を押さえ下を向く。

「命令ぐらいちゃんと聞きなさいよね。忠誠度でも低いのかしら。」

ミシカがぼそぼそと呟いている間に、ナタリーは向かいのソファーに座っていた。

「あ、ごめんね。えーと。どこから説明した方がいいのかしら・・・。」

「・・・私はとりあえず向こうから抜け出すのを手伝ってもらうだけかと。」

その言葉に、ぽんっと手を叩きミシカは頷いた。

「それはね、えーっと。貴女が捕らわれてた施設がね。ちょっと問題があったのよ。」

「問題・・・?」

「話すと長くなるから・・・ショートカットするわね。
 そこの所長のアレン=カークライトは私達が一番に注意をしている、つまり最重要人物ってところ。」

「アレン=カークライト・・・。」

「見たことあるかしら?」

「いえ、聞いたこともありません。」

「そう、残念ね。じゃ、後は歩きながら話すわ。」

ミシカはそう言うと立ち上がり、ドアの方へと歩いていく。
ナタリーも慌てて立ち上がり追いかけた。



カッ カッ カッ

「あ、支部長。お元気そうで。」

歩いていた男がミシカに声をかける。

「ありがと。どう、調子は。」

「ん〜・・・まだコンタクトが取れませんね。でも何とかして見せますよ。」

「そう。頼んだわ。」

男は腕をあげて「任せてください」と示して走って行った。

廊下を進むと、右手にエレベーターがあった。エレベーターの扉に「7F]と大きく刻まれている。ミシカは「↓」のボタンを押した。

「ここはね、一応投資だとかそういったこともやってるのよ。」

チーン

エレベーターが到着した、と音が知らせる。
ウィーンと言う音とともに、扉が開き、中に乗っていた人がミシカに挨拶をしながら出て行く。

2,3人残ったエレベーターにミシカとナタリーは乗った。ミシカはまだ点灯していない「1F」のボタンを押す。
ドアがゆっくりとしまり、エレベーターは下の階に向かって動きだした。

「でね、私達はスタンドによって起きた事件などの解決にも協力しているの。」

「スタンド・・・。」

「貴女も持っているでしょう?」

そう言ってナタリーに微笑みかけるミシカ。
ナタリーは初めて聞くその名前が、何故かすんなりと頭に入っていった。

「スタンド、か。」

その間にもナタリーとミシカ以外の乗客は何度も入れ替わり、降りては乗っていく。

チーン

ふと上を見ると、表示が「1」になっている。

「さ、出るわよ。」

またドアが開くとそこは最初ナタリーたちが入ってきた入り口が正面に見えた。

「こっちよ。」

そう言ってミシカは右の方へと歩き出した。ナタリーも後についていく。

改めてナタリーは回りを見渡した。
入り口からまっすぐ進むと受付があり、そこには二人の綺麗な女性が客の応対をしていた。

上を見上げると、エレベーターを囲むように2Fへの大きな階段が二手に分かれている。中央のエレベーターの前に受付、そして入り口が直線状に並ぶ。

ミシカの後についてどんどん奥に進むと、一つのドアがあった。

コンコン、と二度ノックする。

「ミシカです。入るわね。」
ガチャ

ミシカが先に入り、促されナタリーが後に続く。

入ると、そこは一つの部署のように机が5つ固まっておかれており、その机の上は書類やファイルで埋め尽くされている。
何も置かれていない机が一つだけある。そして、机たちから離れたところにもう一つ机が置かれており、
そこで一人の男が何か作業をしているようだった。

そこら辺は普通の会社のようだが、一つだけ違う点はソファーが3つ並べられており、
二つで人が寝ていると言ったところだろうか。



「おや、支部長。」

男がこちらに気づき、手を振る。ミシカも笑いながら手を振り返す。

「彼女がナタリーよ。こっちに配属になるから、よろしくね。」

「ふうん、彼女がか。」

男はナタリーに顔を近づけてじーっと見つめた。
ナタリーは少し後ろに引き気味な姿勢になりながらも、目線はそらさずにいた。
すると男はふっ、と笑い手を差し出した。

「トミーだ。一応ここの課長と言うことになっている。」

「ナタリーです。」

大きな手だ。握ってみると、硬く分厚い。
身体だってとても大柄で、まるでアメリカンフットボールの選手のようだ。

バンッ

「もう会ったと思うが、向こうで寝てるのがシュウだ。で、こいつがジン・・・おい、ジン起きろ!」

ドンッ、とトミーがソファーを蹴ると、不機嫌そうな声が返ってくる。

「・・・なんだよ。」

「新入りだ。挨拶しろ。」

むくっと、ジンは起き上がると、ナタリーにぺこっと頭を下げる。

「ジンだ。おやすみ。」

目も開けずに挨拶し、そのまま倒れ込んでまた眠ってしまった。

「すまんな、ジンは常に眠気がある体質でね・・・。」

「あ、いえ。大丈夫です。」

「あとシルバーはもう会ったよな? 後一人いるんだが・・・。」

バンッ

「かちょーう!」

急に開く扉 大きく明るい声。振り向くと満面の笑みのブロンドの綺麗な女性。

「やっとのことでSUSHIをゲットしました!」

右手にはガッツポーズ。左手にはビニール袋。

「そうか、良かったな。アリサ、こちらが新入りのナタリーだ。」

「まあ!」

アリサは走りよると、ナタリーの両手を掴んでブンブン振り回した。

「私はアリサ。一緒に頑張ろうね!」

「は、はい。」

(ふ、ふらふらする。)

「その辺にしておきたまえ。」

苦笑するトミーにはっとしてアリサは手を離す。

「賑やかだこと。じゃ、彼女はLV1のペーペーみたいなものだから、後はよろしくね。」

ミシカはナタリーに「じゃ」と声をかけて、ぽんっと肩を一つ叩き、そのまま開いたままのドアから出て行った。

「ま、今日はとりあえずみんなの顔を覚えてくれりゃいい。あそこの綺麗な机が君の机だ。」

そう言ってトミーが指差すのは先ほどの綺麗な机。他が汚すぎるだけだが。

「じゃ、私はまだ仕事が残っているからね。」

そう言ってトミーはまた席に戻ると、熱心に作業を続けた。

「ん〜、じゃ少しお話でもしましょうか!屋上で一緒にスシでも食べましょう!」

「え、あのちょっと」

ナタリーが何か言う前にアリサはナタリーと腕を掴み、そのまま引っ張るとソファーと反対側の壁の方へと歩む。

「さてと。」

そう言うと彼女が上を見上げる。そこにはエレベーター一個分のスペースの暗闇があった。

「ディバイン!」

そう彼女が叫ぶと、彼女の横に人型のそれが現れる。

「スタンド・・・」

彼女はナタリーの腰から手を回し、しっかりと掴む。

「ナタリーも私に捕まってくれると助かるわ。」

「?」

不思議に思いながらも、何か嫌な予感がしたのでナタリーはアリサにしがみつくようにした。

「そーれ。」

アリサの掛け声で、アリサのスタンドの手が、暗闇の中へと伸びていった。

しゅるしゅる

「・・・よし。」

アリサのスタンドが、片手でしっかりとアリサを掴み、アリサはナタリーとスタンドと、ナタリーはスタンドにしがみつく。

「いっくわよ〜〜〜〜!」

アリサが叫んだ直後であった。

びゅん

急激に上に引っ張られる。

「ひゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」

ナタリーの叫び声が次第に小さくなっていった。

「・・・・・うっせぇなぁ。」

ジンは迷惑そうに呟いた。

【アリサ=スバイン スタンド:ディバイン・シュタイナー

 能力:手足が異常に伸びる。元に戻る時は胴体か手足の先か選べる。】
ヒュー

「・・・!」

言葉にならないとはまさにこの事だと後のナタリーは語る。

しばらくすると、明かりが近づき、そして

ポン

空に投げ出された。

「ええっ!?」

「まーまー、落ち着いて。」

急に視界が開けたと思うと、見えるのは限りなく青、青。

「で、でもッ!」

と言いながらナタリーが地面の方を見ると、そこには大きなマットが敷かれていた。

バフッボフッ

暑さ50cmはあろうそのマットは二人を優しく抱きかかえる。

「うん、何度やっても楽しいなー!」

満面の笑みを浮かべながら言うアリサの横で、ナタリーは絶句していた。

「ん、どうしたの? ナタリー?」

「いえ、何でもないです・・・。」

すこし、そのままにしておいて下さい

辛うじて言えたその言葉に、アリサの頭の中は疑問符が占めていた。

(ま、毎回これが続くわけじゃないよね。)

こんなのが毎回続いたら死ぬ。ナタリーはそう思った。





「ごめんね、さっきは驚かせちゃったみたいで。」

バツが悪そうにアリサはナタリーにスシを勧める。あのジャンプの中でアリサはしっかりと守っていた。

「いえ、ビックリしただけです。あと、高い所がちょっと苦手で・・・。」

苦笑しながらナタリーは玉子を手に取る。にっと笑ってアリサはマグロを手に取った。

「いただきますっ!」

「いただきます。」

ばくっ むしゃむしゃ

ぱくっ もぐもぐ

『お、美味しい!』

同時に声をあげて、二人は顔を見合わせて、笑いあった。




「そういえばさ。」

「はい?」

最後のイクラの軍艦巻きを手に取り、アリサは口をもごもごさせていた。
ちょっと待って、と手で合図しながら口の中のものを飲み込む。

「ふー。ナタリーのスタンドって何て名前なの?」

「名前、ですか。」

考えたこともない。スタンドと言う名前も今日知ったぐらいだ。
しかし、頭の中に一つの言葉が発生する。聞いたことも無い、意味も分からない。
だけど、このスタンドの名前はこれなのかもしれない。

「名前はきっと、エフィアルテスと言う名前です。」

それを聞くと、アリサは軍艦巻きを持ったままうーんと唸った。

「エフィアルテスねぇ。難しい名前だね。どういう意味なのかな?」

ぱくっ むしゃむしゃ

ごくん

その問いにナタリーは苦笑する。

「分からないです。」

「ま、そんなものなのかな。」

「・・・エフィアルテス、か。」

そう呟くと、ナタリーの目の前に、黒い、貴婦人が現れる。辛うじて女性と分かるが、大きなつばのある帽子と顔の境界は定かではない。
こころなしか、揺らめいて見える。

「これがナタリーのスタンドかぁ。」

アリサはエフィアルテスに手を伸ばしかけたが、止めた。

「なんか・・・不思議な感じだね。」

「不思議?」

「怖いようで、優しいような。よくわかんないね。」

じっとエフィアルテスを見つめるアリサ。彼女は何を考えているのだろう。
ふいに、ふっと笑ったアリサは立ち上がると屋上の正常な出口へと歩き出した。

「さ、ランチは終わったよ。今度は歩いて帰らなきゃ。」

「・・・はい!」

軽く念じるとエフィアルテスは引っ込んだ。上手く扱えているのだろうか?
逃げている時は得に意識せずに、むしろ勝手に動いていたような感じもした。

ドアの方でアリサがこちらを向いて待っている。
ナタリーは小走りに駆け寄り、一緒に階段を降りて行った。

先ほどの疑問をアリサに聞いてみた。
アリサは「焦る必要はないんじゃないかな。」と言った。
これからここで働くことになる。その時は否応無くスタンドを使う時が来る。
「それまでに能力とか分かってたら楽だけど・・・。」
それでも私達がカバーするから。そう言ってアリサは笑う。

「そうそう、住む所は私と一緒になると思うからさ。」

「そ、そうなんですか。」

正直会ったばかりの人と暮らすなんて、と思う。だが、アリサなら。
とても、不安にならない。何故だろう。

「・・・よろしくお願いしますね。」

「こちらこそっ。」


一話「悪夢と言う名の」

to be continued... ⇒
部屋に鍵をかけ、階段を三階分駆け下りる。
ばたばたしながら一階に辿り着くと、そこには人の姿があった。
そこからまた駆け足になったところで、外がとても眩しい事に気がついた。
雲が欠片もない。快晴ってやつだわ!

「んー! いい天気だね!」

私は待たせていた少女に声をかけた。黒髪の少女はそっと微笑んだ。

「そうですね、太陽が眩し過ぎるぐらいです。今日は黒いものは着けれませんね。」

彼女の名はナタリー。最近一緒に暮らし始めた女の子だ。

彼女にそう言われて見てみると、今日はどこかのバンドの名前が入った白いTシャツにジーンズ生地の、膝よりちょっと下までのパンツだ。
後ろで組んだ手には小さな黒いショルダーバッグが握られている。
ナタリーはどうも黒が好きみたい。私はもっと明るい色はどうか、っていつも言ってるんだけど。

「やっぱそっちの方がいいよー。似合ってる!」

「そ、そうですか?」

ナタリーは少し照れくさそうに自分の服装を見て、外に出て行った。
今日は本当に嬉しい。太陽に感謝しなきゃ!


二話 エフィアルテス


「・・・でもさすがに暑いねー。」

二人で一緒に並んで歩く。いつもなら支部まで軽いものなんだけど・・・。

「そうですね。朝でこれだけ暑いと昼はもっと暑くなるのかな。」

「嫌だわ。シュウに送ってもらえば良かったかしら・・・。」

そう言って自分のバッグからハンカチを取り出す。本当に暑いのは辛いなあ。
支部に着いたらお化粧直さなきゃ。



ナタリーが来て、10日が過ぎた。

私のその間の仕事は、主にナタリーを早くSPW財団NY支部に慣れさせることだった。
個人的には女性が増えたこと、そして妹が出来たみたいでとても嬉しかった。

それからと言うもの、ナタリーとは一緒にご飯を食べたりして仲良くなった、と思う。

だけど、多分ナタリーはまだ全てを開いてくれてはいない。
それはきっと時間がかかることだろう。だから今はきっと触れるべきではないんだろう。

そうそう、二人で住んでいるけど、同じ建物にシュウとシルバー、そしてジンが住んでいる。
だから、夕ご飯は一緒に食べる機会が多かった。

ジンの部屋に押しかけてるから、ジンは迷惑そうだったけれど。
だって、ジンの部屋ってほとんど何も無くて広いんだもの!

ジンの部屋に食べ物を持ち寄ってはみんなで話して卓を囲んだ。
これはジンが来てから、よくやってることなんだけどね。それにナタリーが加わっただけなんだけど。


〜前日〜


「いやー、本当に美味いね、このアボカドディップ。」

シュウはクラッカーで器用にすくうとそれを口の中へ放り投げる。
ご満悦、と言った様子で、うんうんと頷きながら次のクラッカーを手に取る。

「確かに美味しいよなー。アリサ、腕上げたね。」

「はは、そうかなー。ナタリーがいるから張り切っちゃっただけだよー。」

そう言って私はシルバーの持ってきた野菜の炒め物を食べる。
にんじんや葉野菜とベーコンの炒め物だ。シルバーは本当に料理が上手でびっくりする。
いつもシュウが何もしないため、シルバーが作ってるらしい。

「まあ、見た目はリーガンのゲロ以下だけどな。」

その言葉にシルバーと私の両方から拳が飛んだ。
シュウは両方の頬を打ち付けられる結果になった。

ドガッ

「なんでシルバーまで殴るんだよッ!」

「俺は喰ってる最中だったから。」

きっとシュウは殴らせるために言ってるんだ。分かってるんだけど腹が立つ。

「でも、本当に美味しいですよ、これ。」

ナタリーはそう言ってパクッとクラッカーごと口に入れてほおばる。
その言葉に私は少し目がうるうるしてしまう。

「あ、ありがとー!」

思わず抱きついてしまった。うん、こんな子が欲しかったんだ。

ナタリーには教えておくことがある。それは私達がやる仕事のことだ。
基本、私達はスタンド関係の件になる。
だけど、そんな早々そういった仕事があるわけじゃないので、私達はこのSPW財団の一員として仕事を担っている。

例えば、書類をコピーするのを手伝ったり、急いで届ける書類を届けたり、とか。
まぁ、基本なんでも屋って感じね。






現実に戻る。季節は夏。いくら赤道直下に比べれば安定した気温のNYといえど、やはり夏は暑い。

「やっと着いたわねー。」

キィと音を立てながら、扉を開けると、中から冷涼な空気がぶわっと吹きかける。
それだけでとても気持ちが良くて生き返るようだ。
私は後ろを振り向いてナタリーに笑いかける。

「ささ、早く中に入ろっ!」

ナタリーが入るのを確認すると扉を離し、我らが巣へと歩き出す。

ガチャと音を立ててドアノブを引くと、そこにはすでに自分のデスクで仕事をしているトミー、寝ているジン、
そしてなにやら担ぎ出しているシュウとシルバー。

「おはよー!」

私の声にジン以外の3人が軽く反応する。私は自分の机と向かい、紙の山の上に鞄を置いて椅子を引いて座る。

机の上にはすでに指示を書かれた紙が置かれていて、私はそれをぴっと取って眺めた後、顔色を変えた。

「げっ、今日はコピーだらけだ・・・。」

書かれている枚数を合わせると四桁に達するというのは苛めだよね、絶対。

「心配要らない、それはナタリーと一緒にやってもらうからな。」

トミーはそういうと、親指を立てた左腕でくいっと壁を指す。そこにはコピー機が二台置かれている。
なるほど、まだナタリーにはコピーの仕方を教えていなかったか・・・。

「よし、ナタリー。一緒にやろうか!」

「はい。」

そう言って二人で立ち上がったところでシュウが新品の蛍光灯を、シルバーが小さめの梯子を担いでいるのに気がついた。

「今日はそれ?」

「ああ、二階の男子トイレだとさ。」

「んじゃ行ってきます。」

「はーい。いってらっしゃい!」

二人が外へ出て行き、私達は互いに机の上に置かれた書類を何とか見つけ・・・たのは私だけだけど。
お互いに確認しながらコピー機へ向かう。



ういーんういーん

「アリサ、ナタリー。」

「はーい。まだコピーは終わりません。」

「いや、仕事だ。ジンを連れてイーストリヴァーに向かってくれ。」

仕事だ。しかもジンを連れて行くなんて・・・。
ピッとボタンを押し、コピーを中断する。トミーの元へ向かうと、一枚の紙を渡される。

「車を用意してある、すぐに向かってくれ。」

「分かりました。」

私は頷くと、ナタリーについてくるよう合図し、ジンの机から黒いガムを二つとり、ジンの寝ているソファーへと近づいていく。
そして、ジンの口を無理やり開けると、その中へガムを一つ落とす。

ジンはそれを噛みだすと、目を開け大きくあくびをした。

「もう一つくれ。」

「ほいっ。」

私の手からガムをもう一つ受け取ると、眠気は覚めたようですっと立ち上がると私の手から指令の紙を奪い取り確認する。

「よし、行くか。」

今日は私とジン、ナタリーの三人でチームと言うことになる。

車は早々にイースト川を左手にとり公園を目指す。
右手にはエンパイアステートビルが相変わらずの姿を見せ、前方の右奥には貿易センタービルが小さく見える。
太陽はさっきよりも真上に近くになっており、、車の中のエアコンが効いてなければきっと汗だくになっていたことだろう。
ふと左を見ると、ナタリーがじーっと前を見ていた。

「ナタリーは初めてになるよね。」

「あ、はい。そうですね。」

苦笑いしながら応えるナタリーは少し緊張した面持ちに見える。

「大丈夫、今日はジンがいるし、見学と思えばいいよ!」

「ああ、自分の身ぐらい自分で守ってくれ。」

助手席からジンはそっけない声を送る。

「ちょっと、ジン。そんな言い方ないんじゃないかなー。」

「そんな余裕はないかも知れないだろう。気をつけておくことにこしたことはないさ。」

「そりゃそうだけど・・・。」

「大丈夫です、アリサさん。」

「まあ、今回はちょっと手強そうだからね・・・。」

そう言って指令の紙を見る。
イーストリヴァーの公園に最近奇妙な石像が増えてきているらしい。
しかも、それは全て恐怖の顔をしていて、まるで 人 間 のようだ、とのことだ。

「どんなスタンドなのかしら・・・。」

「さぁな。しかし、人を石に変えてるとすれば・・・。」

沈黙が流れる。でも!

「大丈夫だって!だって、ジンがいるし。」

「おいおい。」

なにより、三人いるってことがとても大事だ。
相手が一人でもこちらは三人!




「これは・・・。」

現地に着いた。
以前は川に面しているためここを活用する人が多く賑やかだった。

今は、そこに人の姿はいない。奇妙な石像だけを残して。

公園のあちらこちらにと建てられた石造。
なんの脈絡もなく、明らかに公園で浮いている。そして、その石像の苦悶の表情。
全ての石像が、何かに恐怖している。

「なんか・・・女性の石造が多くない?」

ぱっと見えるだけで10数体。そのうちの半分以上が女性だ。

「・・・本当にこれは石なのでしょうか。」

「どうだろうな。ただの石像にしてはリアルすぎる。」

ジンは一つの石像をじろじろと覗き込んでいる。

私も自分の目の前にある石像を見る。
髪の長い、すらっとした女性。何かが来るのを拒むように手を突き出している。
つまり、何者かに襲われている・・・。


「なにをしてるのかの?」

その声の方を見ると、一人のおじいさんが不思議そうにこちらを眺めていた。

「あ、いえ。謎の石像について調査しろって言われたので。」

「そうかいそうかい。確かにこんなものいきなり置いてかれちゃ困るからのう。」

髪の毛の残ってない頭をさすりながら、おじいさんは自分の近くの石像を眺める。

「なんとも素晴らしい出来映えなんじゃがなぁ。」

「おじいさんこういうの詳しいの?」

私の問いにおじいさんは笑いながらゆっくり歩いてきた。目じりのしわが一層増し、年齢を物語る。

「詳しくなんかはないさ。」

曲がりかけている背中、にこやかな顔。

「ただ、とても人間にそっくりだろう。表情が特にな・・・。」

そして、私の目の前まで来た。口を開けてニッと笑うおじいさん。
私は嫌な予感がしたので後ろに下がった。

「ぬしらはどんな表情を見せてくれるのかの?」

このおじいさんが・・・・?

後ろの二人が臨戦態勢に入ったのが分かった。
私も身構える。

「くっくっく。」

先ほどの柔らかい笑い顔ではなく、不気味な笑顔。

そして、おじいさんの後ろにスタンドのヴィジョンが浮かび上がった。

「『ユアー・ガール』・・・」

「な、なんなのよこの大きさはッ!」

背後、と言えど。その大きさは2mどころじゃない。軽く10mはある!
とてつもなく巨大な骸骨。明らかに常軌を逸している!
いったい、どうなってるの!?

私はとにかく、スタンドから目を離さずにジンたちのいる所まで戻ろうとする。

「逃がさぬよ・・・。」

ギラッと骸骨の目が光る。それを見た瞬間、身体が動かなくなった。
な、なに? 一体どうなってるの?

「クックック。」

ゆっくりと、おじいさんは近づいてくる。

【謎のジジイ スタンド:ユアー・ガール ヴィジョン:巨大な骸骨の顔
 能力:その目に睨まれると動けなくなる。】

「ジン! なにしてるのよ!」

「いや、こっちも動けないんだが・・・。」

「うそ!?」

「残念ながら本当だ。」

その声には口調ほどの冷静さが篭められていない。何てことだ。これほどのスタンドは出会ったことがない。

「まことにいい表情だ・・・。大丈夫、すぐに終わるからのう。」

そう言って爺さんは私をジロジロと舐め回すように凝視する。
ああ、とてつもなく嫌!

「フフフ、その表情! 実にいいぞ! 私に対する嫌悪感に溢れておるッ!」

何故かテンションの上がるお爺さん。ああ、つまりこの人は変態か。なんてことかしら。

「エフィアルテス!」

ナタリーの声がした。彼女のスタンドが発現したらしく、お爺さんの手前まで来たところで私の視界に入った。

「邪魔をするなッ!」

お爺さんは大きな声で怒鳴った。あまりの声の大きさに私は耳が痛くて顔をしかめた。
こんな至近距離で叫ばないでよ、まったく!
その時、またあの骸骨の目が光り、エフィアルテスの動きが止まった。

「くっ!」

「大人しくせんかい、まったく・・・。」

ここで違和感に気が付いた。今、私は「ジン、何とかしてよ!」と言おうとした。

声が・・・・出せない?

「その表情のまま止めさせてもらったぞ。」

そう言うとお爺さんは茂みから大きな袋を取り出した。

「クックック・・・。」

ああ、どうしたらいいんだろう。
袋から出てきたのは、大きな鉄の塊だった。
あんな2mはありそうなもので殴られたら・・・


鉄の塊?

2mも?


そして、お爺さんは懐から金鎚と鉄の杭みたいなものを取り出し、
一心不乱に鉄を削りだした。

・・・あれ?

「ああ、芸術がまた生まれるぞッ! クハハハハ!」

なんか、違った?


「出来た! 新たな芸術がここに生まれたのだッ!!」

あれから数分後。とても老人と思えないスピードで鉄の塊を削りだしたお爺さんはついに私の像を完成させた。
それはこの公園にあるどの像とも同じ、恐怖の顔をした像。

しかし、どうも悪い人には見えないんだよね・・・。

「ハッハッハハァーッ!」

おかしい人には変わりないけど。
私はため息もつけず、眉一つすら動かせないが、どこか安堵した。

ひとしきり興奮して笑ったあと、お爺さんは動けないままの私達に、気付いたようだ。

「おっと。ありがとの。」

「わわっ!?」

おじいさんのスタンドが消えると、私達は動けるようになった。
私は後ろに下がろうとしている体勢だったので、急に動けるようになったことでその後10mほど後ろにダッシュしたところでジンに受け止められた。

「・・・ありがと。」

うわー、すっごい恥ずかしい。

「なにをしているんだ?」

ジンは、一つため息をついたあと、眠そうにあくびをした。私はジンの身体から離れてナタリーを見る。
どこか困惑した表情で、何度か躊躇ったあと、スタンドを引っ込めた。

私は、おじいさんに近づいた。お爺さんは腕を組んで像を眺めている。

「この辺りの像はお爺さんが?」

「そうじゃ。殺風景な公園だったからな。腕がうずいての。」

そう誇らしげに告げる。ものすっごい違和感満載な像なんだけどね!

「しかし、爺さん。この像のモデルはみんな動けなくしたのか?」

「もちろんじゃ。人間の表情で一番素晴らしく美しいのは恐怖の表情。そのためには本当に怖がらせなくてはな。」

とんでもなく悪趣味・・・と言うか変態な気がしてきた。私は苦笑いする。
ジンは報告書を見る。表情はまったく変えない。

あ、あくびした。


「・・・この像のモデルらしき人物がみんな行方不明になっている。その件に関してはどうだ?」

「行方不明? ワシは何もしとらんぞ。」

「まあ、確かに今は開放してくれたしね。」

私は首をかしげる。

「分からんさ。あのまま動けなくしてからだったらどんな手段でも殺すことが出来る。」

「とんでもない。ワシのスタンドは一切危害を加えることは出来ないんじゃ。」

「どういうことですか?」

ナタリーが興味を示した。私のスタンド以外見たことなさそうだったし、気になるのかな。
私も気になるけど。

「話せば長くなる。ワシがスタンドを発現したのは戦争下でな。ちょうど第二次世界大戦と言うやつじゃ。」

「ちょっとまて、爺さん何歳だ?」

「ワシか? ワシは今年で81になるぞ。」

えー、絶対嘘だ。60ぐらいだよ。あ、それだと戦争に参加してないのか。

「ワシはな、戦争が嫌いだった。あの時に言えば粛清されただろうがな。人を殺す気にどうしてもなれんかった。」

そう言うとお爺さんは像の肩辺りをなでた。なんか私が触られてるみたいで変な感じ。

「ある島でな、ワシらは降伏を促した。しかし、戦争好きの一部の奴らは、住民を虐殺していた。
 それもあってなのか、どうも向こうの軍に強制されてるのかは分からんが、誰も降伏してこない。」

それって・・・確か日本の・・・。

「そんな時じゃ。いつものように降伏を促して回っていたらな、一組の親子が白旗を振りながら着てくれた。
 ワシらは歓喜したよ。これで厚く保護すれば、もっと増えるだろう、とな。その時、仲間が撃たれた。敵の軍の兵士が一人おったのだ。
 兵士は怒っておった。特に親子の方にな。親子は怯えるようにワシらの後ろに隠れおった。ブルブルと震えて、必死に何かを呟いていた。
 そこでワシは気付いたよ。軍は住民に降伏するな、とかそんなことを言っておったんだとな。
 ワシらは必死に敵意は無い、と訴えたが聞く耳を持ってくれんかった。言葉が通じてないのもあるかもしれんが、な。」

私達は静かにおじいさんの話を聞いていた。

「スタンドを発現したのはそのすぐあとじゃ。ワシらを殺そうと、軍は住民に手榴弾を持たせて降伏させようとしておった。
 ワシは悲しくなったよ。こんなことのために住民を巻き込むなんてな。そして戦争と言うものが悲しくなった。
 その時はまだ力が弱く、手榴弾の爆発をとめることで精一杯だった。何か一つの対象を、な。」

「それから力を研究した。ワシは各地の紛争に赴いては住民を助けることに力を尽くしていた。
 ただ、住民もワシらを襲う時がある。その時にスタンド使って気付いたのだ。仲間がその住民を殴ろうとしてな、殴れなかったのじゃ。
 正確には殴れたんじゃが、とにかく危害を加えることが出来ないようなのだ。スタンドを発現中はな。」

「・・・それでこの趣味はいったいなんなんだ?」

ああ、いい話だったのに!

「ジン! もういいじゃない。」

「よくないだろ。この像の数だけ行方不明になってるんだぜ。」

「ワシは戦争に参加する前、美術を専門に大学で学んでおった。この像は戦争に対しての抗議のようなもんじゃよ。
 まあ、半分は趣味じゃがな。」

そういや、作り終えた時、思いっきり笑ってなかったっけ。

「半分どころじゃなかった気がするが。」

「うん。」

苦笑いしながらお爺さんは頬をかく。額にもうっすら汗が見える気がする。

「まあ、ワシは行方不明に関しては知らんぞ。」

「じゃあ一体誰が・・・・?」

「誰なんだろうねー。と言うか私達の任務はこれで終わり?」

「さあな。」

その時突然、おじいさんが倒れた。

「おじいさん!?」

私は慌てて駆け寄る。お爺さんは前に手を出して私の動きを制した。

「・・・大丈夫じゃ。めまいがな。張り切って動きすぎたわい。」

人騒がせな。

「お爺さんじゃなかったら誰なんだろう・・・。」

「・・・指令書にヴァイス・グランベヤードと言う人物の名前が載っているな。」

「手がかり!」

「ああ、それはワシじゃ。」

「じゃない!」

私が一人で悶えていると、ジンが私とおじいさんをまとめて掴んで引っ張った。

「わわっ!」
「ぬおっ!」

私達が地面に転がると同時に、おじいさんの後ろにあった私の像に槍が刺さる。

「ああ、私がっ!」

「ワシの作品を・・・・。」

おじい・・・ヴァイスさんはそういうと、がっくりしたように肩を落とした。

槍の飛んできた方向を見ると、二人の男が立っていた。
一人は赤い丸坊主。右の髪の生え際に銃弾のような後が見える。
もう一人は帽子を深く被っていて顔が良く見えない。

「ちっ、外れやがったぜ。」

そういった男の傍らには人型のスタンドが立っている。

黒幕登場?

「外れちまったし自己紹介させてもらうとするか。」

そういうと坊主頭は一歩前に出て自分を親指で指しながら叫んだ。

「俺の名はパーカー! パーカー・ゼウソルトだ。」

隣の男は、はぁ、とため息をつきながら前に出る。

「トール・・・トール・ヴァレットだ。」

「そのジジイを置いていけば他の奴らの命は助けてやるぜ!」

「イヤよっ!」

「おいおい、少しは考えろよ!」

私の即答にパーカーと言う男はダンッと足で地面を踏む。
考えるまでもないじゃない。

「いいじゃないか、パーカー。あんなジジイの肩を持つやつなんて一緒に消してしまえばいい。」

「それもそうだな。」

そう言うと、ニヤリとパーカーが笑う。
私はスタンドを発現させる。ジンをチラッと見たが、動く様子がない。ナタリーもスタンドを発現する。

「・・・どうする、ジン。」

「ナタリー、お前は爺さんと一緒に警戒してろ。アリサ、お前はそこのうるさい奴を頼む。」

「おーらい。」

「おいおい、こんな嬢ちゃんが俺の相手を務めようってのか? 夜の営みじゃないんだぜ?」

「五月蝿いわね!」

なによ、このエロ坊主!

「パーカー、油断するな。」

「チッ!  分かってるよ!」

そういうと、パーカーと言う男のスタンドが槍を構える。
・・・槍?

チラッと振り返ると、さっき私の像を貫いた槍が消えてなくなっている。

「俺の槍はな、すぐにこいつの手の中に戻ってくるのさ! 行くぞ、『サマー・アポカリプス!』」

パーカーが言い放つと同時に、槍が飛んでくる。
私は、何とか下から跳ね上げて軌道を逸らし、避ける。
が、すぐに槍を戻した『アポカリプス』が距離を詰めてくる。

「くっ!」

今度は投げずにとてもすばやい突きを繰り出してくる。
こいつ、口だけじゃあないわ!

「おらおら、どうしたよ、嬢ちゃん!」

片手で突いてきた槍を、突き出した直後に両手で薙ぎ払う。
私はガードするが、鈍い音と激痛とともに数m吹き飛ばされた。

「アリサさん!」

「大丈夫!」

転がった勢いのまま私は立ち上がる。洋服のいたるところに草がくっついてるが、そんなことを気にしている場合じゃない。
これはアバラにひびでも入ったかもなぁ・・・。

「なかなかやるじゃねーか。」

「そっちこそ!」

パーカーはニッと大きく口を開けて笑っている。

【パーカー・ゼウソルト  スタンド:サマー・アポカリプス
 人型。槍を持った軽装の騎士のビジョン。
 能力:槍を瞬時に手の内に戻すことが出来る。】
「あっちは始まったようだが・・・。あんた、スタンドは出さないのかい?」

トールと名乗る男は口だけしか見えない。その口は大きく広げてニヤリとしている。
ジンは黙ったまま、トールから目線を逸らさない。

「まあ、いいさ。『スーサイダルワルツ』!」

トールが叫ぶと横に、人型のスタンドが現れる。そのスタンドは、人と言うより人形であり、奇妙な動きをしながら動いている。
間接が不安定につなげられているようで、バランスが悪く、ぐらぐらと揺らめいている。

「『皇帝(カエサル)』」

ジンがそっと呟く。
彼の手の中にリボルバーが構えられている。しかし、ただの拳銃ではないようで、見事な装飾の施された、金色の銃だった。

「それがあんたのスタンドかい? 随分大げさなもんだぜ。」

「随分喋るんだな。やかましいったらありゃしねー。」

ニヤリとした表情を変えず、トールは身構える。
スーサイダルワルツはぐらりぐらりとしながら、彼の横に立っていた。

【トール・ヴァレット  スタンド:スーサイダルワルツ
 人型・人形の形のスタンド
 能力:???】

【ジン  スタンド:皇帝(カエサル)
 拳銃のスタンド 6連装のリボルバー
 能力:???】











「えーと、ナタリーとやら。」

「はい。」

「お主は参加せんのか?」

「でも・・・。」

「ワシのことは心配いらん。ワシのスタンドは融通が利かんからな、使えば味方も止めてしまう。」

ヴァイスはポンっとナタリーの背中を押してやる。

「ワシが言うことでもないかもしれんがな。男の方はともかく、嬢ちゃんは苦戦するじゃろう。助けてやるんじゃ。」

数歩前に出た後、後ろを振り向く。

「・・・はい!」

うん、と頷くヴァイス。ナタリーの目には決意の光が宿る。

敵を見据え、ナタリーは走り出した。
「おらっ!」

パーカーの投げた槍を私は避けようとしたが、目の前で槍が消える。

「なっ!?」

チラリとみると、サマーアポカリプスと共に、パーカーが突進してくる。

「かかったな、嬢ちゃん!」

ニッと笑い、態勢を崩したままの私に槍を突き出してくる。
まずい、避けきれない・・・・!

そこに、黒い影が横切る。

「ぐあっ!?」

何かの衝撃を受け、槍を落とすアポカリプス。
私はすぐに距離をあける。誰が助けてくれたのかは分かってるよ。

「ありがと、ナタリー。」

「よかった、間に合って。」

はぁはぁと息を切らして笑うナタリー。

「ちっ、二人が相手か・・・。」

ふぅ、と一つ大きく息を吐き出し、パーカーは槍を拾う。

「さあ、仕切り直しと行こうぜ!」

そう言ってニッと笑うパーカー。闘うのが本当に楽しそうだ。

「アリサさん、私が相手をひきつけますから。」

「大丈夫?」

ナタリーは少し笑っていた。けど、目が違った。決意、ってやつだろうか。止めても引き下がらないだろう。

「任せてください!」

「ケッ。俺はそんなシュミはないんだがなっ!」

そう言って槍を投げるパーカー。しかし、ナタリーのエフィアルテスは避けようとしない。
ちょ、ちょっと!?

「ナタリー!?」

「大丈夫です!」

そう言うと、ナタリーとエフィアルテスは槍に向かっていく。
私の額を汗が伝う。ほ、本当に大丈夫なの?

「・・・死にてえのか?」

相手も戸惑っている。そりゃ私だって戸惑うよ。
私の心配をよそに、槍はエフィアルテスに到達すると、そのまま突き抜け、私の方まで飛んでくる。

「なっ!?」
「ええっ!?」

私は慌てて槍を弾こうとするが、先にアポカリプスの手に戻る。

「どういった手品だ! あぁ!?」

アポカリプスは槍を薙ぎ払うが、まだナタリーたちに届いてもいない。
どういうこと? あの男がそんなことするわけがない。あんな闘いなれた男が間合いを間違えたりなんか。

「くそがっ!」

もう一度薙ぎ払うが、ナタリーはスタンドの肩に手をかけ、そのまま飛び上がる。
薙いだ槍はエフィアルテスをもう一度すり抜けた。
・・・実体がないタイプのスタンド??

その時、一瞬ナタリーと目があった。
狙えってわけね。

「上か!」

そう言って上を見上げたパーカーだが、槍を突き上げようとして、止まった。

「な、なんでお前が・・・?」

「掴んだわよ。」

私のスタンドがアポカリプスの足を掴む。

「今度は私が吹き飛ばす番ね!」

ハッと我に返ったようなパーカーは、また嘲って憎まれ口を叩く。

「へっ、嬢ちゃんのような非力なスタンドがどうやって俺を「いっくわよー!」

私はパーカーの喋りを遮って能力を発動させる。
距離は射程ギリギリの20M。

「ぬおおおおおおおおおおおおっ!」

重さに身体がきしむ。けど、このぐらい!

シュタイナーの左腕がかなりの速さで元の長さに戻ろうとしている。
シュタイナーの格好は、さながらレーザービームを投げる時の、イチローのように。

「飛んでけーーーーーーーーーーー!」


「ぬ嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああッー!?」
「ぬ嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああッー!?」

そのままの勢いで河に向かって投げつける。

おお、よく飛んでいったわ。

「ふっ、星になったわね!」

ライナー性の当たりが吸い込まれるように水面に飛んでいった。
凄まじい激突音と水飛沫を上げながら、パーカーは河に沈んだ。
いい気味!

よく見ると、パーカーが舞い上げた水飛沫が、ほんの少しだけど虹を作った。

「綺麗ねー。」

「・・・そんな事言ってる場合か?」

「わわっ!」

急に後ろから声がして驚いたが、振り返ってみればジンだ。

「驚かせないでよ!」

「うるせーな、終わったから早く帰ろうぜ。河に沈んだ奴も拾ってよ。」

ジンは肩にトールと言う男を担いだまま、携帯で連絡を取り出した。
これからパーカーを引き上げろ、か。

「うーん、あのまま沈んで浮いてこない、とかないかなぁ。」

「そ、それはさすがにまずいんじゃないですか。」

「ですよねー。」

急いで河の方へ向かうと、人が頑張って岸へ泳いでいるのが見えた。
パーカーだ。

私はまたシュタイナーで腕を伸ばし、パーカーの腕を掴んだ。

「あ?」

パーカーが振り返り、私と目が合う。私は手を振りながらシュタイナーの腕を元に戻す。

「ほいっと。」

「ぬああああああああああああ!!!!」

ドガッ!と言う音と共に、今度は顔面から地面にめり込んだ。

「よし、後は連れて帰ろうか。」

「は、はい。」

「もう少ししたらトミーが来るそうだ。」

「おっけー。今日はこれで御仕舞いかな。」

ナタリーを見ると、ふう、と一つ息を吐いていた。

「どうだった、今日は。」

「えーと・・・。」

ナタリーは何か考えてから、話し出した。

「スタンドの・・・エフィアルテスの事がちょっとずつ分かって来た様な感じがします。」

「ふむふむ。」

「どうやら・・・霧で出来ているようだな、こいつは。」

ジンがヴァイスさんと共に歩いてくる。トールはヴァイスさんのスタンドに睨まれて放置されている。

「霧?」

「ああ。以前エジプトで霧のスタンドがいたそうだぜ。そいつは人型を取ったりはしなかったが、非常に手強かった、と書いてあったな。」

「ふーん。だからパーカーの攻撃が効かなかったのか・・・。」

「そのスタンドを倒した時の方法も馬鹿げたやり方だったからな。まともな方法じゃ攻撃を当てるのは難しいな。」

そう言いながらジンはパーカーを引きずってトールの方へ連れて行く。

「後は何か能力があるよね?」

「ほう、どんな能力なんじゃ?」

ヴァイスさんも気になるようだ。確かスタンドの研究してたって言ってたよね。
あの時、パーカーの様子がおかしかったのは、ナタリーの―エフィアルテスの仕業だろう。

「おそらく、なんですが。」

ナタリーはエフィアルテスを眺めながら話してくれた。

「触れた人の記憶を鮮明に呼び覚ます、と言う能力だと思います。」

「記憶を、か。」

「はい。おそらく、ですけど。」

幻覚に近いものなのかな。だとすれば、納得が行くね。

「珍しいタイプのスタンドじゃの・・・。」

そう言ってヴァイスさんはエフィアルテスをじろじろと眺める。

「ま、使っているうちに違う面も見えてくるかもしれん。精進するんじゃな。」

「はい!」

ナタリーの表情が、前よりも生き生きとしてきた気がした。元気出てきてるじゃない!
良かった。
「結局あいつらは何目的だったのかなぁ。」

「もしかしたら、ワシを狙っていたのかもな。」

「お爺さんを?」

うむ、と頷くおじ・・・ヴァイスさん。私は、ちらりと二人を見る。
トールは分からないけど、パーカーはかなり手強かった。私一人じゃ無理だっただろうなぁ。

「モデルの失踪と関わっているかもしれんじゃろう?」

「そっか・・・。」

「おい、アリサ、ナタリー。」

ジンが電話を耳に当てたまま合図をする。トミーが到着したんだろう。

「ヴァイスさん、すまないが一緒に来てもらえるか? こいつらの事もあるし、詳しく話を聞きたい。」

「いいじゃろう。ワシにも巻き込んだ責任もあるだろうしな。」

「助かる。」

ジンは電話を切ると、とても大きなあくびをした。おそらく、眠気が襲ってくるころだ。

「じゃあ、俺がこのパーカーとか言う奴運ぶから。」

「私がこのトールって奴を運べばいいのね。」

「あ、私も手伝います。」

「うん、お願い。」

私とナタリーで二人を担ぎ、トミーの待つ場所へと向かった。
トミーの用意した車に二人を乗せ、私達も車に乗り込む。

「ご苦労だったな。」

「トミー、もう俺は寝るからな。」

「ああ、後は任せろ。」

「・・・・ぐぅ。」

トミーの返事を聞く前に、すでにジンは眠りに陥っていた。
トミーは、やれやれと言う手振りをして、車のエンジンをかける。


まだ事件は解決していない。これからが大変になるのかもしれないなぁ・・・。
なんかの組織が関わってる、とかだったら嫌だなぁ。


第二話 エフィアルテス

to be continued... ⇒
登場人物の紹介。


パーカー・ゼウソルト

トール・ヴァレットと組んで仕事をする男。口が悪く、気性は荒い。
職業は今のところ不明だが、闘うことを楽しみにしている節がある。
真っ赤な髪の生え際に銃痕のような痕がある。

スタンド:サマー・アポカリプス(破滅風景)
ヴィジョン:槍を持った軽装の騎士

破壊力:A
スピード:B
精密動作性:D
射程距離:C(射程は5mだが、槍は投擲可であるため)
持続力:D
成長性:E

片手で軽々と振るう力を持ち、耐久には劣るがスピードもある。
槍は投げてもすぐに手元に戻すことができ、距離を掌握できる優秀なスタンド。



トール・ヴァレット

パーカー・ゼウソルトと共に仕事をする。パーカーとは対照的に冷静だが、
どこか人を嘗めている態度は共通している。
髪の色は目が覚めるような青だが、帽子を深く被るためなかなか気付かない。

スタンド:スーサイダル・ワルツ(灰燼円舞曲)
ヴィジョン:人(形)型のスタンド

能力値・能力共に不明だがゆらゆらと揺れながら動くこのスタンドは、
奇妙で不快な印象を与える。



ジン

ナタリー・アリサと共に働く青年。
常に眠気が襲う体質で、仕事をせずに一日のほとんどを寝てすごす。
しかし、彼の功績は大きく、これが許されているもの彼が優秀なスタンド使いだからだろう。

スタンド:カエサル(皇帝)
ヴィジョン:黄金で装飾の施されたリボルバー(6連装)

能力不明



ヴァイス・グランベヤード

自称・芸術家。しかし、本当に名の売れた芸術家。
主に反戦をテーマに彫刻などを手がけるが、ほとんどの作品に趣味の世界が入り、
名は売れるが、評価は低い。
しかし、一部の酔狂な人々が彼の作品に高値をつけ、売れることもある。
81歳だが鉄をいとも簡単に削り、それを持続する体力もある恐ろしい老人。
しかし、やはり限界はある。

スタンド:ユアー・ガール
ヴィジョン:巨大な骸骨の頭部

破壊力:−
スピード:B
精密動作性:B
射程距離:A(しっかりと視認出来る距離)
持続力:A
成長性:完成

能力:睨んだものの動きを止め、動きを止められたものへの外部からの攻撃を保護する。
攻撃性能はまったくない。
いつもの夢

兄がらしからぬ気遣いをし、家を出て行った日、兄は還らぬ人となり。
俺は片腕を失った、あの日の夢。


ガバッと勢いよく身体を起こす。ハアハアと息が荒れていて、
身体は汗でびしょ濡れになっており、Tシャツが汗で張り付いてとても気持ちが悪い。
足にかけていた大きめのタオルを乱暴にどかして足を床につけると、衣服を脱ぎながら薄暗い部屋を歩き台所へと向かう。
途中、脱いだものを洗濯機の方へと投げてから、棚にあるコップを一つ取り出すと大きなケースから水を汲む。


銀平は勢いよくそれを飲み干すと、コップを軽く水で注いでから水切りの上に置いた。

一息ついたからか、遠くで寝ている愁の寝言が聞こえてきた。
「ミシカさん、今日も綺麗で・・・あ、もっとぶって!」

夢でも同じような事をしているのか、と心の中でツッコミを入れて笑いをこらえながら、
銀平は寝室へと戻った。


3話 『終わらない夢』


「やつらを返した!?」

「ああ。」

「かぁ〜っ!」

愁は朝の話し合いの時にトミーが発した言葉に噛み付いた。
頭に手をあて、開けた口から悲鳴を上げる。

「苦渋の選択と言うやつだ。」

「折角捕まえたのに・・・!」

アリサは小さくため息をついた。ナタリーは、何か考え込んでいるようだ。トミーは愁の態度にやれやれ、とでも言いたい様子だ。

ちなみにジンは、話し合いに参加すらしていない。


「で、なんで返したんだ? その理由は俺たちには喋れるの?」

「そうだな・・・。まずは仕事を片付けてからだ。昼飯の時にでも話すとしよう。」

「ああ!? 別にいまd「はいはい、早く仕事片付けようぜ。」

言い出したら止まらない愁の口を鼻ごと塞いで引きずりながら俺は部屋を出る。
ウーと唸っている愁を部屋の外まで出してから、手を離してやった。
愁は息をブハッと吐き、急ぐように呼吸を数回してから、俺を睨みつけた。

「ったく、こんな時にまでスタンド使うなよな!」

「お前がうるさいからだ。」

「ったく、お前の右腕は使い勝手よすぎるんだよっ!」

「・・・それは褒めてるのか?」

俺の右腕は肩から先がない。
そこに、スタンドとして発現している腕がある。

俺が全てを失ったその日に得たこの腕が。

【銀平 スタンド:ブラザーソウル
 ヴィジョン:質感・色、ともに一般的な人の腕。】
「・・・ちっ!」

パーカーは苛立ちを隠せずに目の前にあった机を蹴り上げてひっくり返す。

バンッ  バキキッ ガンッ

「おいおい、隊長に怒られちまうぜ?」

トールはため息をつきながら、いつもの相棒の態度をたしなめる振りをする。

「うるせぇ! あんな小娘に負けちまったんだぜ!?」

頭に血が上りきって、立ち上がった拍子に折れた右腕に激痛が走り、パーカーは顔をゆがめた。

「ってぇ・・・・。」

「まあ、いいじゃねえか。俺もお前も負けたんだ。」

そう言ったトールは被っていた帽子をより一層深く被る。
トールは腕と足を銃で撃たれてはいたものの、他の外傷は特になかった。
パーカーは二度も投げられたために(二度目は手加減されていたとは言え)、腕があらぬ方向へ曲がっていたものだが。

「そういえば、お前はどうだったんだ?」

「俺の相手は酷かったぜ?」

トールは思い出したくないように忌々しく吐き捨てた。

「なあ、どんな相手だったんだ?」

「あんまり思い出したくないんだがな・・・」






「それがあんたのスタンドかい? 随分大げさなもんだぜ。」

「随分喋るんだな。やかましいったらありゃしねー。」

ニヤリとした表情を変えず、トールは身構える。
スーサイダル・ワルツはぐらりぐらりとしながら、彼の横に立っていた。

「さて、俺から行くか?それとも遠距離から攻撃出来るそっちから撃ってくるかい?」

笑いながら揺さぶりをかけてみるが、向かいに立って銃を身構える男は微動だにせず、こちらの問いかけにも応えない。

「ちっ・・・なら俺から行くか。」

そう言うとスタンドともにトールは前に向けて駆け出した。

「行くぞ、スーサイダル・ワルツ。」

そう叫ぶとスーサイダル・ワルツはそのフラフラした腕を男に向けて振りかぶる。
男はよく観察するように腕から目を離さずにその腕をカエサルで受け止めて弾く。

その動作を見てトールはニヤリと笑う。
男が弾いた勢いでスーサイダル・ワルツの上半身が回転し、弾いた腕が逆の方向から男に襲い掛かった。

「くっ!」

その攻撃をバックステップで避け、間合いを広げる。
空振りをした攻撃はその勢いのまま二回ほど回転して、また元のゆらゆらな状態へと戻る。

「中途半端な受け方じゃ俺の攻撃は止まらないんだぜ。」

「なるほど。なら、これはどうかな。」

そう言うと男は、スタンドをしまうとダッシュで間合いを詰めて来た。
普通にわき腹をめがけ右足を繰り出してくる。トールは一歩前に踏み込んで、その打点をずらす。
念のために当たる瞬間に左の肘を相手の足に落とす。

「ほう。」

男は痛みを感じないのか、表情を変えずに感心したような声を出す。
いちいち気に食わない男だ。

「これでも喧嘩は慣れたもんでね!」

踏み込んで間合いは近い。今度はこちらが右のミドルを返す。
・・・が、

「ぬああああああああ!」

「なっ!?」

トールは受け止めたはずの右足に吹き飛ばされる。いや、受け止めたのは確かだ。
攻撃を仕掛けようとしたところでの思わぬ攻撃に地面に転がるトール。すぐに起き上がるとキッと男を睨んだまま考える。

(・・・やつは俺が攻撃態勢に入ったときに右足だけで突き飛ばしやがった。
 片足になっていた俺はバランスを崩されたってやつか。)

トールは起き上がると服についた土ぼこりをパッと払う。

「あんたもなかなか慣れてるもんだな。しかし、スタンドは使わないのか?」

「さあな。」

「じゃあ、またこちらから攻めるしかないな。」

そう言うとトールはスーサイダル・ワルツと一緒に間合いを詰める。

(俺の能力を使うまでもない相手ならそれまでのこと・・・!)

フラフラしていたスーサイダル・ワルツは急にシャキッとすると、
極自然に男へ殴りかかる。
男はボクシングで言うスウェーの様に上半身だけを後ろへ逸らして避ける。
しかし、スーサイダル・ワルツは止まらずに、今度は裏拳が飛んでくる。

「中途半端じゃ止まらねェって言ったはずだぜ・・・?」

「なるほどな。」

男は避けると同時にスーサイダル・ワルツの胴体を蹴り、後ろへ大きく跳んで距離を広げる。

「大体分かった。」

「・・・?」
男は下を向き「ふぅ」とため息をつくとトールをもう一度見る。
トールはその目を見て一瞬足を後ろに運びそうになりそれを留まる。
その眼は先ほどまでの男のものではなくなっていた。先ほどまでの人を馬鹿にするような冷めた眼ではない。
覚悟を決めたような、とても熱い瞳だ。

(なんだ・・・この威圧感は。)

男はすっと銃をまっすぐにトールへ向ける。
トールは身構えて自分に言い聞かせる。ただの銃弾なら俺は弾き返せる。
しかし、能力が分からない。こいつはまだ一発も銃弾を撃ってはいない。何か隠し玉でもあるのか?

「俺のスタンド、『皇帝』の主な攻撃方法は銃弾だ。それは分かっているとは思うがな。」

男はすっと銃口をこちらに向けた。トールと、そのスタンドは攻撃に備え身構えた。

「能力については、実感してくれ。」

そう言うとゆっくりと撃鉄を起こしてトリガーに指を添える。

「『皇帝』よ、全てをねじ伏せろ。」

そう言って男は引き金を引いた。

バンッ!

(かつて、似たようなスタンド使いがいたことを俺は知っている。
 そいつら銃使いに共通する能力は『銃弾の操作』だッ! 
 避けるのは良策とは言えねぇ・・・。
 ならッ! 銃弾から目を逸らさずに弾を追うんだッ!)

スーサイダルワルツはすぐに身体を回転させ、銃弾を弾くために腕を振るう。
が、

バキキッ!

「ぐっ!」

弾かれるはずの銃弾は当たった右腕の中間辺りを貫いた。
同時にトールの右腕の同じ位置に穴が開いて肉が吹き飛び、血が吹き出る。

「な、なんだと・・・!?」

パァン!

驚いているところへ次の銃弾が続き、スタンドの右太ももを貫く。激痛に片膝を地につく。

愚かだ、相手の攻撃でスタンドで防ぐことすら忘れるとはな。・・・いや、防ごうとしても同じ末路か?
・・・しかし、馬鹿げた話だ。今までどんな銃弾も弾いてきた俺のスタンドが、穴を開けられるなんて。
回転した時の俺のスーサイダルワルツの力は生半可な威力じゃあないはずなんだ・・・。

そこまで考えたところでハッとして前を向く。すでに、男は自らの目の前に来ていた。

「・・・種明かしはしてくれるのかい?」

「俺のスタンド『皇帝』の能力。『全てのスタンドからの脅威を無効化する。』

「・・・なんだと?」

「俺の銃弾に貫けないものはない、と言うことさ。」

「そうかい。」

トールは、下を向いて「ふう」と一つため息をつくと、
もう一度顔を上げて、男の顔を見た。

「・・・お前、名前は。」

「ジン、ジン・ヴィルヘルムだ。」

「恐れ入ったぜ。お前は確かに強い。」

そう言うとトールはニヤリと笑ってジンを指差した。

「ジン・ヴィルヘルム。お前を、俺は認めるぜ、好敵手(ライバル)としてな。」

「そうか。」

ジンの左拳がトールの顎を下から打ち抜く。
脳を揺さぶる衝撃。
一瞬中に浮いたトールの身体はドサッと地面に崩れた。

【カエサル(皇帝)
 ヴィジョン:黄金で細工の施されたリボルバー式の拳銃。
 能力:他スタンドから一切の影響を受けない、いかなるスタンドをも貫く銃弾を発射する。
     ただし、銃弾を操作することは出来ず、一発発射するごとに膨大な疲労が身体を襲う。】
「なんだ、その能力。俺の槍でも貫くってか?」

「ああ。」

パーカーはその銃弾の単純な攻撃力について考えを巡らせる。これは大きな脅威である。
なんせ、パーカーのスタンドである、サマー・アポカリプスでも回転するスーサイダル・ワルツを攻撃すれば弾かれるのだ。
元々の強度もあり、それに回転の力が加わることで相当な防御力を誇るのだが・・・。
まあ、本気で突いたことはないから分からないが・・・。

そこで、パーカーは一つのことを思い出す。

「待てよ、あいつをライバルと認めたのか?」

トールはニヤリと笑う。

「ああ。あいつとはいずれ戦うだろうからな。」

【スーサイダル・ワルツ
 能力:ライバルと認めたものと次に戦う時、必ず勝利する。しかし、命のやり取りは出来ない。
     一度ライバルと認めたものに勝った場合、能力は解除される。
     一度ライバルと認めたものに、再度能力を使用することは出来ない。】

「そいつに勝てるスタンド・・・は皆目見当もつかないが・・・お前のスタンドの能力なら一度は勝てるな。」

「ああ、俺もリベンジしたいからな。お前は嬢ちゃんを相手するんだな。」

「ケッ、出来れば相手したくないがな。どうも女相手だと調子がでねぇ。」

それを聞いてトールは思わず噴出してしまう。「何がおかしいんだ?」とパーカーは不思議そうな顔をする。

「いや、なんでもないさ。次は男だといいな。」

パーカーは頭をポリポリとかくと少し考えた後にドサッとトールの横に座り、ポツリとつぶやいた。

「まあ、男でもむさ苦しいのは嫌なんだけどよ。」

お前の女好きは根っからのものだろう、とトールは声に出さずにつぶやいた。

「あらぁ、貴方たち余裕なのねぇ。」

「・・・!」


唐突な、後ろからのハスキーな女性の声。トールは自らの好む色、真っ青な顔色になる。
パーカーも汗が噴き出して振り向くことが出来ない。

「元気そうで良かったわぁ。それだけ吼えることが出来るのなら次は大丈夫よねぇ。」

明るい声ではあるのだ。しかし、どこか違う。

「貴方たちを取り戻すのに多大な労力を要したわ。それに、わざわざ私が出向かないといけなかった。」

「は、はい。」

「も、申し訳ないと思っています。」

パーカーもトールも、女性の放つ精神的圧力に後ろを振り向くことが出来ない。
ただ、汗がだらだらと流れていくだけだった。
一言一言喋った後の沈黙。常にある後ろからの視線の気配。
姿が見えない恐怖。

「まあ、いいわぁ。貴方たちは今は身体を直すことを優先するのね。」

そう言うと女性の気勢が少しだけ下がった。
それだけでも圧力は下がる。人はこうも圧力を作り出せるのか。
トールは冷静にそう考えながら、彼女との差を理解した。おそらく、パーカーも頭で理解はしてないが身体で理解しているだろう。

「そうそう、パーカー。貴方には聞きたいことがあるわ。確か報告には『幻覚のようなものを見た』とあったわねぇ。」

「はっ! ・・・はい。」

パーカーは一瞬ビクッとしながらも、努めて気持ちを落ち着かせながら答える。

「・・・どういった状況でだったかしら?」

「それは報告書に書いたと思いますが、嬢ちゃんとは違う小娘のスタンドが突っ込んで来たと思ったらですね・・・。」

「そう・・・。分かったわ。じゃあ、ごきげんよう。」

女性の声がそう告げたあと、一瞬の間に強烈なプレッシャーが無くなる。
パーカーとトールは同時に振り向いた。
しかし、そこには誰もいなく、ただの見慣れた部屋の風景。窓の無い壁。ただそれだけだった。

「あの人は本当に何者なんだよ・・。」

トールはボソッとつぶやき、汗を手で拭った。パーカーは「はぁ」と大きく息を吐いて、床に寝そべって宙を見上げた。
床によって身体と衣類が密着し、濡れたシャツの感触を思い出させられたパーカーは、すぐに起き上がってシャツを脱いだ。

「着替えないといけねえじゃねえか・・・。」
「今日の仕事はこれで終わり、か。」

銀平は脚立を仕事用具を載せているカートにしっかりと縛ると、疲れたように座り込んでいるシュウに声をかける。

「おい、愁。行くぞー。」

「頼む、俺をそれに乗せて運んでくれ「嫌だ。」

愁の言葉に振り返りもせずに銀平はスタスタとカートを押してエレベーターへ向かった。
遠ざかっていく親友に愁は座り込みながら声を張り上げる。

「おいおい、少しは考える余地があってもいいんじゃねーか?」

「いや、重たいのはキライだし。」

「なんてシンプルな理由!」

愁は素早く立ち上がると先にエレベーターまで走り、下へのボタンを押す。

「お、さんきゅー。」

チーンと言う音と共にエレベーターの扉が開く。と、同時に愁は中へ乗り込み、扉を開くボタンを押す。
銀平は天井に気をつけながら、カートをその中へと進めた。愁は銀平とカートが乗った事を確認すると、ボタンから手を離し、1Fのランプを点灯させた。。

銀平は愁が意外と気の聞く奴だと分かっている。
彼は悪態をつくし、明らかなM願望があるが、根本はいい奴なのだ。
多少変態ないし変なだけだ。

「おい、お前今何か言ったか?」

「いんや。」

「本当のところはどうなんだよ、シルバーちゃん。」

銀平は表情を変えずに軽く拳を愁の鼻に当てる。
コツンと言う擬音がピッタリの衝撃。

「くっ、貴様・・・!」

チーン

「さあ、行くぞ。」

「くっ!」

愁は中途半端な痛みが一番キライだ。本人曰く「脇をくすぐられるのに似ている」らしい。
それでイライラすると言うわけだ。
「あーもう!」

ソファーにあるクッションをぶん投げる。ボフっという音を立てて男の顔面に当たり、ポサっと地に落ちた。

「支部長、私にあたるのは止めてもらえないですかね。シュウなら喜ぶとは思うよ、そりゃ。」

「うるさいわね!」

「おお、怖い怖い。」

ミシカは苛立っていた。ザイバンはふざける事でそれを紛らわせようとしたが、逆効果になると判断し、やめた。

「しかし、一本取られましたね。どうしますか、これから。」

「あの女は許せないわ・・・。」

交渉の場を持つと言うから準備してたら背後から現れるなんて・・・
何なのよ、あの能力は・・・。

何よりも腹が立つのは、まるで いつでも殺せるが生かしておいてやる とでも言わんばかりの態度。
ほとんどの人に気づかれずに近づける? そんな能力便利すぎるわ。
何か制約があるはず・・・。

「・・・あの女のスタンドについて全力で調べないと行けないわね。きっと裏の世界の人間のはずよ。」

「あの女と言っても・・・姿は見れてないですから難しいですが・・・。」

声だけしか聞こえなかった。姿を見たのはあの二人だけ。
捕らえたはずのパーカーとトールとか言う二人組。

「・・・頼むわ、ザイバン。」

ザイバンはその言葉を聞くとニヤリと笑い、すっと立ち上がる。

「任せてくださいよ、支部長。このザイバンにかかればあっという間ですよ。」

「はいはい、頼りにしてるわよ、副支部長。」

ハッハッハと笑い声をあげてザイバンは歩き出すと、急に止まり落ちていたクッションを拾い上げる。

「・・・私も久しぶりに頭に来たんでね。」

ヒョイっとクッションを空中に投げると、クッションはパッと言う不相応な音と共に一瞬で破裂したように布片と羽毛になり、床に散らばった。

「・・・後で掃除するのは誰かしら?」

「そこはシュウに任せます。彼なら喜んでやりますよ。」

ミシカからは見えなかったが、ニッと笑う彼の口元とは対照的に、
彼の目には鋭い熱が携えられていた。

「私の苛立ちもパッと散らせてやりたいものですな。」
「今日は特にこれといって私らが出動するような事件はないな。」

夕方になり、辺りが茜色に染められていく頃、トミーは一枚の紙切れを見ながら全員に告げる。
ジンは相変わらず聞いていないし、アリサはどこか浮かない顔をしていて、ナタリーは真面目そうに頷いている。
そしてシュウは、

「くっそー、今日も俺は普通の仕事だけかよ・・・。」

ぼやいていた。


正直俺はそんなもんで良いと思っている。
俺らが出るような事件、それはつまりスタンド使いの絡んだ事件。
それが世の中に必要か、と聞かれれば限りなくNOである。

俺らが出動するような事件など、起きないに越したことは無い。
俺らは普通に仕事をこなすだけの一日がずっと続けば、世の中は平和なのだ。
ただの日常が続くと言うこと。愁にはつまらないことらしいが、俺にはそれ以上に素晴らしいことは無いと思う。

「あと、これは全員聞いてくれ。」

不意にトミーが真面目そうな声で喋りだした。
俺は立ち上がると、ジンを起こす。
とても不機嫌そうに起きた彼だったが、トミーの顔を見て、急に目が冴えたように真面目な顔になる。

やな予感がした。確実だ、これは確実に俺の求めない言葉が口に出される。

「先日の捕虜奪還の件で副支部長が動くそうだ。
 おそらく、敵の勢力とぶつかることが多くなるだろう。もしもの時は、気を引き締めて臨んでくれ。」

ナタリーは何かを思い出すように上を見上げて、口を開いた。

「副支部長・・・と言うと、確かザイバンって人でしたっけ・・・。」

「うん、ザイバンさんだよ。でも、ザイバンさんが動くって珍しいなぁ。」

「そうなんですか?」

アリサは「うーん」と唸りながら正面をじっと見ている。
ジンは、「フンッ」と鼻を鳴らすとまた眠りに落ちた。
シュウは歓喜の表情をし、目を光らせている。
ナタリーは周りの異常な反応を感じ取り、何か重大なことが起きるのかと思っているのか、真面目そうな顔でみんなの顔を見比べている。

俺は、心の奥から嫌な気分だった。
例えるなら、恋人が出来た瞬間、遠く異国の地に飛ぶことになるような。
・・・それと、似たような、気分だ。
「どうやら誰か私たちのことを嗅ぎまわってるようねぇ。」

赤い髪の女性。彼女以外の空間は延々と続く闇。
漆黒のドレスを着ている彼女の姿もまた闇に溶け、彼女のその鮮やかな赤髪と、
その美貌と呼ぶに相応しい顔だけが、ぽつんと浮かぶ世界。
傍らには異形の『なにか』。

「誰が適任かしらぁ。悩むわねぇ。」

そういうと彼女は人差し指を顎にあて、首を傾けてポーズを取る。

「そうねぇ、あの子がいいかしら。パーカーとトールにはしばらく休みをあげなくちゃねぇ。」

携える微笑。その笑顔は、男たちを虜にする魔性の笑み。

「いくわよ、『シンデレラ・ケージ』。」

傍らのスタンドは頷くように吼えると、女性を抱きかかえた。
そして、闇の中に溶けて消えていく。そこに残るのは、闇。
漆黒なまでの闇。
「今日もいい月だ。」

一人屋上で空を眺める。
屋上と行っても、周りには更に高い建物があり、素晴らしい夜景は望めない。
しかし、月だけは見える。

「こんな世界でも美しいものが眺めることが出来る。それは人として生まれて出来ることで最良の行為だ。」

男はその長い黒髪を翻して後ろを向くと、さらにこう続けた。

「そう思いませんか、サティ。」

「ええ、それはいいことだと思うわ。だけど、私はここよ。」

女性の声は男の後ろからする。フッと笑った男は大げさに頭に手を当てて胸を押さえる。

「これは失礼しました。大変心が痛い思いです。」

「貴方のそういうところが好きよ、バート。」

その言葉に男は「ヒュウ」と口を鳴らし、片膝を地につけて頭を下げた。

「それはそれは。光栄です。」

「そうやって、貴方なら私を見ることが出来るのに、しないところ。そういう律儀なところが好きだわぁ。」

「あら、ばれてましたか。」

「当たり前じゃない。」

女性の声はそこで「クスッ」と笑うと、一つ間をおいて「私に見えないものは無いわ」と言った。

バートと呼ばれた男は、立ち上がると身体を声の方へと向ける。
そこには、長い赤髪の美しい女性が立っていた。美しい赤髪は風を受けてふわりふわりと動いている。
その、傍らには『異形の何か』。

「・・・いつみても貴方のスタンドと貴方の美しさは釣り合わないですよね。」

「そんなこと言わないで。」

そう言うとサティはスタンドの頭を撫でるように手を置く。

「とても便利なんだから。」

「それで、今日はどんな用なんですか?」
サティは胸元から一枚の紙切れを取り出すと、無造作に投げ捨てる。
それは滑るようにバートの手元へと飛んでいった。
バートは二つに折りたたまれている紙切れを開くと、少し眉間に皺を寄せた。

「・・・・SPWに喧嘩を売りましたか。」

「ええ、パーカー達が失敗しちゃったから。」

「それで、敵を誘い込もうって言う魂胆ですか。」

「どう?やってくれるかしら?」

バートは少しだけ鼻で笑うと、その紙切れを宙にふわりと浮かばせる。
それは瞬時に何かに切り裂かれて、細切れになり、風と共に街へ消えていった。

「私には最適の任務でしょう。断る道義がありません。」

「じゃあ、任せたわよぉ。」

「美しい貴方のためです、全力を尽くしますよ。」

その言葉を聞いて「光栄だわ。」とサティは答え、微笑った。
そっとスタンドに抱かれた彼女は、バートに手を振りながら、ここに来た時のように影の中へと体を潜り込ませた。

それが、彼女のスタンド―シンデレラ・ケージの能力。


サティが闇に消えた後、バートはまた夜空を見上げた。
月はさっきまで違う顔を見せていて、一段と大きく、そして雲がその一部を隠していた。

「美しい・・・。」

バートは声を漏らした。
風が強く吹く。髪の毛がバートの顔にまとわり付く。
バートはズボンのポケットから、そっとゴムを取り出すと、前髪をオールバックに持ち上げ全ての髪を後ろでまとめ、ゴムで縛った。いわゆる、ポニーテールだ。
時間をかけ、丁寧に。鏡の力を借りていないが、恐ろしい集中力で綺麗なオールバックが仕上がった。後ろで一つにまとめられたテールも、よくまとまっている。
広くない額や、整った目鼻立ちが一層際立つ。細くない眉や、黒い瞳、黒い髪などから大人の男の色気のようなものを感じさせながら、
その綺麗な顔立ちから、美青年との印象も受ける。

「・・・貴方の姉の最後の意志もありますからね。貴方のボスの役に立って見せましょう。」

そう言って彼は屋上を後にした。その後を、どこから沸いたのか、無数の蜘蛛たちが追いかけた。
蜘蛛は、屋上の床一面を多い尽くして、出口へと殺到した。




【本体名:サティ=パル
 スタンド:シンデレラ・ケージ  
 ヴィジョン:人型
 能力 :影の中を移動出来る】

【本体名:バート=アルカディア=ストリングス
 スタンド:アラクノフォビア
 ヴィジョン:無数の蜘蛛
 能力: ???】
次の日、「ザイバンさんと連絡が取れなくなった」とトミーから伝えられた。
最後に彼を見た人は、彼が「なーに、ちょっと女の子を見てくるだけさ」と言って外に出て行った、という。
それから会社はおろか、家にすら帰っていないようだ。
俺は、どうも胸が痛い。

そして一週間が経とうとしていた。
ザイバンさんがいなくなった、と聞いた夜からずっとあの夢を見続けている。
起きる度に身体は汗で濡れ、精神が削られるような痛みを残す。

何で今になってこんな夢を?

そうか。俺はザイバンさんを失うのが怖いんだな。
当たり前だ。俺が今一番恐れているのは「周りの者の消失」。
それにザイバンさんが入らないわけがあるだろうか?
あの日、兄を失い。友人たちも失った。
そして、片腕を失い、新しい腕を手に入れた。
何のためだ? 何のためにこの腕は生まれたんだ?
もう二度と、失わないためなんじゃないのか。
この腕で、俺と周りを繋ぎ止めるためなんじゃないのか。

スッと目が覚めた俺はいつものように汗でぐったりしている身体に引っ付いているシャツを引き剥がすように脱ぎ、そのままシャワールームへと向かった。
熱い湯を浴びながら寝る前に考えていたことを思い出す。
決めよう。俺は今動かなくちゃならない。

キュッと音を立てて蛇口を捻る。水の音のしなくなった部屋の中に水滴が落ちて「ピチャッ」と大きく音を立てた。
手すりにかけていたタオルを無造作にとって身体をサッと拭く。そのまま部屋のドアを開けて外に出る。
部屋の外からブワッと温度差の冷気が身体を襲う。
ここで本来なら頭をドライヤーで乾かすが、愁を起こしかねない。奴はまだ夢の中にいるはずだ。

(・・・どうせ、自転車で会社へ向かうんだ。その間に乾くだろう。)

極力音を立てぬように着替え、サッと淡いピンクの半袖のシャツに手を通し、部屋を後にする。

外に出ると、辺りはまだ薄暗いが見えないような夜ではない。
サッと階段を下りる。今日はいつものように部屋まで自転車は入れずに、入り口に置いてきた。
本来なら盗まれる危険性があるのだが。
視野に入った自転車の姿は無事なようだが、念のため細部を注意深く見てみる。

「・・・よかった、無事なようだな。」

ロックしていたチェーンの鍵穴に鍵を差し込む。鍵を回すとカチリと音がして、柱と自転車を繋いでいたチェーンが外れた。
そのチェーンは自転車の支柱に巻きつけて、また鍵をかける。
サッと右足を上げて自転車に跨ると、俺は会社へと急いだ。

会社に着くと、辺りはもう鳥が鳴くような明るさになっていた。
町並みを走っている間に髪の毛はすっかり乾いたようだが、そのせいで頭がとても冷えている。
目の前の信号を渡って会社の裏側に回る。裏側に駐車場があり、その手前に駐輪場もあるのだ。
先ほど巻きつけたチェーンを同じ要領で金属製の柱に巻きつけていく。
きちんと鍵がかかっている事を確認してから、すぐ横にある出入り口から会社の中へと入った。
そのまま、走って階段を登る。目的地は、所長室だ。
コンコン

「開いてるわよ。」

「失礼します。」

軽くドアノブを回してドアを押す。なかなかの広さの部屋の奥にある机の方に、支部長が座って待っていた。

「で、話はなんなのかしら?」

「僕を・・・俺をザイバンさん探しに行かせて下さい。」

「嫌よ。」

「・・・どうしても探したいんです。」

「貴方じゃ無理だわ。」

つかつかと音を立てて支部長の元へ歩み寄る。
全部即答か。予想通りということですか。

「無理とかどうでもいいんです。」

そこでミシカは「はぁ・・・」と大きく息を吐いた。

「あんたも分からないやつね。」

「分からなくても構いません。」

語気を強めず、努めて冷静に。
しかし、支部長は絶対にOKを出さない。のれんに腕押しと言うことわざを思い出す。

「・・・分かりました。」

「そう。それなら「もういいです。OKを貰わなくても。」

「・・・え?」

さすがの支部長も少し驚いた顔をした。
それもそうだ、俺がここまで我を通すのは初めてだからな。
思わず笑いそうになるがこらえて、次の言葉を発する。

「俺は俺のやるべきことをします。」

「・・・そう。」

「これ以上失いたくないんですよ。すいません。」

きっと、これが最後のわがままです。心の中で呟く。

「・・・しょうがないわね。」

そう言ってミシカは立ち上がると、一枚の紙切れを俺に渡した。

「本当はジンに頼もうかと思っていたけど・・・貴方に任せるわ。」

「・・・これは・・・!?」

そこにはザイバンさんからの連絡が書かれていた。
「アジトらしき場所へと単独で潜入しているから、もし良かったら応援よろしく」と書かれていて、そばに地図らしきものが描かれている。
何ともザイバンさんらしい。よかった、まだ無事じゃないか。

「貴方を信頼して託すわ。いいわね?」

「・・・はい。」

気が引き締まる思いがして、少し深呼吸をした。
はっきりと支部長の目を見据える。
支部長は小声で「よし」と言って、また椅子に座った。

「じゃあ、頑張って来るといいわ。」

そう言って支部長は手をひらひらと振った。

「ありがとうございます。」

軽く頭を下げる。
頭を上げると同時に踵を返して部屋を後にした。

バタンと音を立ててドアを閉めると、階段を下りて自転車を取りに戻る。
裏口のドアを開けた瞬間、横から平たいものが顔を打った。
驚いて横を見ると、そこには愁が立っていた。

「俺に殴らせるとはいい度胸だ。」

そう言うと愁は「フン」と鼻で笑ったあと、厳しい視線を俺に向ける。

「・・・。」

「放置プレイかぁ? ふざけろよ。」

愁が怒っている。何も言わなかったことに腹を立てているのか。

「アリサとかナタリーに言わないのは分かるぜ。巻き込みたくないんだろ。
 俺も巻き込みたくないって言ったら、ぶん殴るからな。」

そう言うと愁は駐車場へと歩き出した。すぐ目の前に、愁の車が止まっている。
キーを差し込んで回すと、ガチャッと音を立てて鍵が開いた。
愁がこちらを向く。

「大昔にお前と知り合った時からもう巻き込まれてるんだよ。今更遠慮なんかするな、気持ち悪い。」

そう言って愁はドアを開けて車に乗り込んだ。
俺は黙って車まで走って助手席のドアを開けた。
そのまま乗り込んでドアを閉める。それを確認して愁は車のエンジンをかけた。
シュッとシートベルトを締める。愁はゆっくりアクセルを踏んで、車をスタートさせた。

「・・・ありがとな。」

「そんなこと言うなって言ってんだろうが気持ち悪い!」

心底嫌そうな顔をしている愁を見て思わず笑ってしまった。愁は更に不機嫌な顔をした。
いやはや、本当に助かった。アジトの場所って結構遠かったんだよな。

悪夢に終止符を。過去を乗り越え、今を生きるために。
必ず帰るんだ。三人で。


第三話  「終わらない夢」

to be continued... ⇒
「ふうむ。」

夕暮れ。
ザッと音を立ててアスファルトを靴が噛む。
一枚の写真を手に、古い建物の前に立つ男。

「うーむ。」

ジーッと、目の前の建物と写真の中の映像とを見比べる。
写真には、今朝取られた、ある一味のアジトと思われる建物。
眼前の建物と、似ている。

「ここで間違いない、と思ってみるとしよう。」

辺りはほの暗く、人の気配はすでにない。
と、言うのも。ここが廃墟の中にあるからだろう。
廃墟と言っても、スラムの様に人が住んでいるところではあるが、少し外れた場所にあるこの建物には、
数日前から人が住み始めたため、付近の住人は近づかないようにしている、との話だった。

「しかし、こんなにあっさり見つかる・・・か?」

写真を懐に入れながら、男―ザイバンは呟く。
(昔、ある男が吸血鬼となり、エジプトに拠点を構えたことがあった。
 その時、男の館に近づくものは門番に消されていたと言う。)

そこまで考えて、ザイバンは辺りをキョロキョロと見渡す。
情報源は、生きて帰ってきた。
そして、門番らしき者もいない。

(・・・しかし、人影らしきものもいないときた。)

そう、この建物の明かりがほとんど点いていない。ところどころ、蛍光灯が点滅しているような光がちらほら見えるが、
そこから見える人影はない。
隠れているのか、それとも、すでに立ち去った後なのか。

(・・・まー・・・入ってみてから考えるとしようか。)

ザイバンは辺りに注意を払いながら、その建物の入り口らしきものの手前まで歩く。

ピタッと壁に張り付き、耳を澄ます。
音は・・・・切れかけた蛍光灯の音ぐらいのものか。
後は遠くの方から騒がしい音。他の居住者のものだろう。

(これがもし罠じゃなかったら・・・あまりにも無防備過ぎる。誰もいない、と言うのが妥当なところだ。
 だが、それじゃあまりにもリターンが少ないよな。)

そっと肩越しに中を覗く。
まだ夕陽の光で中の所々が照らされている。見にくいが、見えないわけではない。
瓦礫の山がそこらに転がっているが、道の端に寄せられているところを見ると、誰かが使用していた事が予測される。
おそらく、現在地が玄関のようなもので、そこから廊下が10Mほど続き、先の方で左に曲がっている。
その間に部屋があるわけでもなく、そこから先は良く見えない。

(誰かが待ち伏せしている、と思っておいた方がいいのだろう。)

不意に、隅の方でカサッっと音がしたので目だけをそこに向ける。
一匹の蜘蛛がカサカサと瓦礫の上を走っている。

(蜘蛛・・・か。)

蜘蛛の糸が張られている場所には、人は出入りしていないとか言う話は良くある。
そう思ったザイバンは目を凝らして蜘蛛の巣が無いか見ていたが、特に目立つような蜘蛛糸はなかった。

ザイバンはゆっくりと足を廊下に踏み入れる。そっと瓦礫を踏まないよう、音を立てないように。
廊下の切れかけた蛍光灯の光が近づき、一瞬目に焼きついて、また暗闇に視界が移る。
そこでザイバンはハッとした。

曲がり角から誰かが見ている。

ジッと見るが、向こうは顔の半分だけしか見せず、また暗闇のため良く見えない。男か、女かすら識別出来ない。

(まずいな・・・。まさか初っ端から遭遇するとは・・・。)

ザイバンが身構えながら考えを巡らせていると、人影が喋りだした。

「君は・・・誰だね? こんな所に何の用なのかな。」

(・・・男の声だな。)
「聞こえたかい。何の目的でここに来たのかな?」

ザイバンはいつもの様な笑みを浮かべて喋りだす。

「いや、ちょっとした好奇心でね。昔、こういうところを探検とかしなかったかい?」

『こういうところ』と言う部分で、両手を広げて人差し指で地面を指す。

男らしき人影は、けして動くことなく、こちらを睨んだまま動かない。

「もし、不都合があればすぐ帰らせて貰いますけど、どうです?」

「不都合、か。」

男の声はそう言った後、目を逸らし大きくため息をついた。
そして、ザイバンにこう告げる。

「確かに不都合だが、君の通ってきた道は既に通れないが、大丈夫なのかな?」

その言葉に、ザイバンはバッと後ろを振り返った。
そこには、何重にも絡み合った蜘蛛の糸が、通ってきた廊下を塞いでいた。

(いつの間に・・!?)

ハッとしてザイバンは再度廊下の奥の方を振り向いた。
すでにそこには人影はない。

「・・・・くっ!」

(やはり罠の方だったか、畜生!)
試しに、蜘蛛の糸に触って見ようと思ったが、直前まで近づいてザイバンは触るのを止めた。

(・・・スタンドの能力なら、普通の蜘蛛の糸かどうか怪しいな。)

仮に触ったら二度と離れられないとか言う話だったら、何も出来なくなってしまう。

「とりあえず、前に進むしかないか。」

ザイバンは、ゆっくりと廊下の奥へと進んだ。
こういうとき、ザイバンは常に最悪のケースを考える。
しかし、最終的には楽観的な思考に立ち戻る。それはけして、諦めとかそういうものではない。
自身の能力への圧倒的な自信。それが、ザイバンの思考の支柱である。

(ここから出られない、と言うことはない。敵には俺の能力はばれていない。
 ならば、勝機はいくらでもある。)
 


「さて、彼はどうでますかね。」

そそくさと早めに歩きながら、彼はそこら中に自らのスタンドである蜘蛛をばら撒いていく。

「さあ、私の分身よ。」

蜘蛛達は物陰や天井などに張り付き、それぞれが糸を吐いていく。

「彼をこの建物に縛り付けるのです。出来るだけ、長い時間。」

そう言うと、男―バートは自らのスタンド・・・アラクノフォビアを再度ばら撒いていく。
蜘蛛たちは無限に沸き続ける泉のように、バートの肩に張り付いていく。
その度にバートは肩を払うようにして、蜘蛛をそこらに落としていく。

「いつみても、美しいものだな。この光景は。」

彼がそう言った視線の先には無数の蜘蛛。数え切れないほど、床に広がる蜘蛛達の群れ。

「彼は・・・動きましたか。」
「ほんっとにそこら辺にいるのね、この蜘蛛どもはっ!」

ザイバンは若干焦っていた。なんせ、床一面に蜘蛛がいたかと思うと、次は蜘蛛が天井になっていた。
無数の蜘蛛がスタンド。
普通に考えると、戦闘能力は無いようにしか思えない。

「狙いはなんだ?」

思わず口に出してしまった言葉を、頭の中で反芻する。
(単純に糸を吐くだけのスタンドなのか?
 それとも、何かしら毒を持った蜘蛛なのか?
 毒があると仮定すると、それは牙か体液か糸か。)

様々な考えが頭を巡る。
何も考えていないようで、ザイバンは頭の回転と言うものがとても早い。
何も考えていないように見せているだけなのだ。相手に油断をさせる、というわけではないが、
日本で言う『脳ある鷹は爪を隠す』なのだろうか。自分の優秀さをひけらかすつもりがないのである。

(迂闊に動いて、蜘蛛を潰したら体液が毒でした、さようなら。
 なんて展開は流石にないぜ。)

汗が一滴、頬を滑り落ち、床にとても小さな染みを作る。
慎重に動かざるを得ない。こんな時、意外と人は冷静ではなかったりする。
慎重過ぎるが故に、と言う奴だ。
ザイバンはそれを良く理解していた。

「・・・ふう。」

一つ深呼吸をする。

(これだけの数のスタンドだ、スタンド一匹一匹の攻撃力は大したことはないだろう。
 同時に、一匹一匹倒しても対してダメージを与えられない。
 糸が何かしらあるようだから、あんまり触れたくないね。

なるべく急いで思考したが、その間にも蜘蛛たちはせっせと糸を吐き、道を塞ごうとしていた。

「・・・・Shit!」

出来るだけ少ない面積で、潰さないように蜘蛛を蹴散らす。
蜘蛛たちは特に逃げたりなどせず、飛ばされても糸を紡ごうとする。
しかも、それが結構なスピードなのだ。少しの間に、出口を塞がれた様に。

(どう考えても時間稼ぎにしか見えないぜ。・・・ここがアジトだったってことかね。)

もう一つ、深呼吸をする。


「フゥー。・・・・・しょうがないね。」

そういってザイバンは自らのスタンド―マグノリアを発現した。

【本体名:ザイバン
 スタンド:マグノリア  
 ヴィジョン:人型
 能力 :???】
バゴォ!
 
突然の破壊音にバートは驚きもせず、閉じていた目を開いた。彼は蜘蛛に指示を与えてから最上階で待ち構えていた。
 
壁を破壊して脱出する、それは想定の範囲内。
 
(考えそうなことだ。すぐにスタンドで砕け散った壁を繋ぎとめる。)
 
そう蜘蛛たちに指示しようとしたとき、それは一瞬のことだった。
もう数発の破壊音が聞こえたかと思うと、床が抜けた。

「なっ!?」

また数発、破壊音がすると、次は壁が消えた。
 
「これは・・・・!?」
 
その一瞬が過ぎると、当然の如くバートは落下し始めた。同時に、天井も落下してくる。
慌てて蜘蛛たちに糸を吐かせる。ひとまず自分の周りにある瓦礫や塵になった壁を軸に糸を固めて足場を作る。
 
(あの男は・・・どこだ!?)
 
恐らく、自分よりは下の位置にいる。そう思い下を眺めるが良く見えない。
 
「おやおや、どこを見ているのかな。」
 
相手の声は頭上から掛かった。キッと声の方向を睨むと、天井がバコッと破壊され、大きな瓦礫に乗ったザイバンが現れた。
手をひらひらさせながら、笑みを浮かべている。
 
「あんたの目的が俺をここに縛り付けること、あわよくば仕留めることだったとして。これでどっちも達成は出来ないな。」

ニヤリと笑い、再度マグノリアを発現させるザイバン。しかし、バートは笑みを浮かべた。

「それはどうかな。」

「うん?」

ザイバンは眉間に皺を寄せる。

「これぐらいのこと、想定の範囲内だと思わなかったのかい?」

バートが手を上げると無数の蜘蛛たちが糸を吐き始めた。その数、その速さ。
アラクノフォビアが吐く糸は、宙に浮く塵と塵を繋ぎとめ、瓦礫と瓦礫を繋ぎとめる。
凄まじい速さで糸は絡まりあい、ザイバンを中心に強固な檻が作られた。

「あっららー。袋のネズミってやつか。」

「随分余裕そうだが、これで脱出は出来まい。」

(後は、糸をきつく締め上げて粘着性の糸で絡め取るか。それとも・・・)

「あー、お考えのところ大変申し訳ない。」

バートがどう決着をつけるか思考していたとき、糸の向こう側でザイバンが軽い調子で声をかけた。

(下衆が・・・・!)

バートがもう一度睨み返そうとした時である。

「ここで一つ私のスタンドについて実演しながら説明させて頂きましょう。」

そうザイバンが告げたかと思うと一瞬にして檻が消えた。
バートが目にしたのは、ザイバンのスタンドが拳を突き出しているのと、その後ろに潜むザイバンの微笑だった。
「・・・我がスタンドよ!」

バートの声に従い無数の蜘蛛たちがザイバン目掛けて糸を吐く。
しかし、ザイバンは糸をひたすら殴り続けた。
糸は殴られる度にパッと消えていく。いや、正確に言うと細かく散らされている。
時々殴るのが間に合わず腕に糸が絡みついたと思うと、もう片方の腕で糸を殴り糸を散らせていく。
ザイバンの糸を殴る動作には、一瞬の無駄も無かった。まるで糸が腕に絡みつくことも分かりきっているかのように動いている。
バートは、その動きの無駄の無さに美しさを感じた。
ザイバンは徐々に近づいてくる。バートはここが潮時かな、と感じた。

「なるほど、これは美しい。」

「私のスタンド【マグノリア】は殴りつけたものを散らすスタンド。そりゃもう薔薇でも散らせれば美しいものさ!」

蜘蛛たちの糸攻撃が止み、ザイバンの拳がバートを捉えようとしたときに、蜘蛛たちの一斉に出された糸が
ちょうどバートとザイバンの間にあるザイバンの拳目掛けて放たれる。
ザイバンは、自らの拳がバートにめり込むよりも先に蜘蛛の糸に絡み取られてしまう事を予測して、拳を瞬時に引っ込めた。
バートにはその一瞬でよかった。
いや、「拳を引っ込めてくれたこと」が良かった。

彼はニヤリとしながら拳目掛けて放たれていた糸に自らの手を差し出す。ザイバンはバートの思惑に気づき拳を繰り出したが、
バートはバックステップで避ける。そして、その動作はそのまま彼の思惑に繋がる。
バートが後ろに下がったことで、彼の腕に絡んだ糸はピンと張り詰める。バートは更に体重をかけ、反動をつけて足場を蹴った。
蹴られた反動で一部が砂となった瓦礫が埃となって舞い上がり、バートは空に投げ出される。
ザイバンは抜け目なく空中で無防備に見えるバート目掛けて落下中の瓦礫を投げつけて見たが、バートの身体の周りにも蜘蛛がいるようで、空中でピタリと止まってしまう。
バートは難なくザイバンが先ほどまで立っていた瓦礫に着地した。

上にバート、下にザイバン。

「いい眺めですね。」

「抜け目のないお方だ。」

バートとザイバンはそれぞれ呟くと笑った。

「これ以上戦うことはお互いにとって得のないことだと、思われますがいかがかな?」

ザイバンがお手上げだ、というジェスチャーと共に言葉を発する。
バートはフッと笑うと二度、手を叩いた。

「貴方の戦術眼は素晴らしい。また、戦い方も実に美しい。」

バートの周りに蜘蛛が一斉に溢れ出る。そして糸を一斉に吐くと、それをロープ状に絡み付けていく。

「私の狙いも読まれているようですし、ここは一時休戦としましょうか。」

「いやはや、私の狙いは的外れだったようですがねえ。」

そう言うとザイバンはクックックと笑った。

「まぁ、戦と女は慌てて攻めてはいけないと言いますからね。」

「ほう、それは誰かの台詞で?」

「いえ、私が作りました。」

ザイバンはニヤリとした。バートもまた釣られて笑ってしまう。
なんと、美しく愉快な男だ。敵でなければ、とても楽しいだろうに。

「貴方、名前はなんと言いましたか。」

「私ですか?」

ザイバンは自分を指差す。バートが頷くと、ザイバンはスーツの埃を払い、バートの方を向いて指差した。

「私はSPW財団NY支部副支部長、ザイバン。次は、勝ちに行きますからね。」

それを聞くと、バートはロープ状の糸束を掴み、ザイバンの方を向いてお辞儀をした。

「いいでしょう。私の名はバート=アルカディア=ストリングス。またお会いできる時を楽しみにしています。」

ザイバンがニッと笑い、バートが微笑む。そしてバートは足場から飛び降りた。
落下していくがそのロープはバートのいた瓦礫の足場につながっており、また伸縮性があるのか、落下のスピードを上回る速さで上昇していく。
そのまま打ち上げられるようにバートは夜の空を飛んでいった。と、同時に瓦礫が反動でザイバンの方へ飛ばされた。
【マグノリア】が難なく拳で弾く。弾かれた瓦礫は一瞬にして砂と同然に散っていった。

「あんな使い方も出来るのかい。」

用途が広いスタンドと言うのは、シンプルでない分、頭を使われると厄介だ。
バートが宙に投げ出されてからしばらくして、ザイバンの足場が崩れ始める。どうやら、射程外になったようだ。

「さて、そろそろ地面だな。」

地面に到着するより先に、【マグノリア】は地面を数発殴りつける。
殴られた地面の一部が土の粒になり、落下したザイバンの衝撃を和らげる。
ドスン

ドガッ
ドンッ!
ドグシャア!

瓦礫となったビルの一部が地面へ思い思いに落下する。その衝撃は地震をも錯覚させるほどだったであろう。

「あたた・・・完全に、とまでは行かないか。」

土に塗れながら、ザイバンは身を起こすと穴からヒョイッと飛んで脱出する。
たはは、スーツがボロボロだな。とザイバンは土ぼこりをパンパンッと手で払い落とす。

「さて、これから先をどうするか、だが・・・。」

手がかりは失ったようなものだ。とりあえず、相手の能力を知れたのはいいか。
フゥと大きく息を吐いて顎に手を起き目を閉じる。

「蜘蛛のスタンド・・・これは厄介だな。」

数が多いスタンドは、スタンドを倒しても本体へのダメージが少ないことが多い。
とすると、本体を狙うしかないが・・・あのスタンドは守りに関しては相性がいいだろう。
しかも、多対一でも戦える可能性がある。

「うーむ・・・。」

不意に車のエンジン音が鳴る。ザイバンは片目だけ開き、耳を済ませた。
聞き覚えのあるエンジン音だ。これは・・・・。

「シュウだな・・・。」

しばらくすると、光が段々と近づいて、ライトのついた車が姿を現す。
とりあえず、ザイバンは手を振る。
俺はここにいるぞ、と。


ライトに照らされたザイバンを目指し、車は加速する。
車はザイバンの横で停まり、助手席が開いた。シルバーが慌てて近寄ってくる。

「おおいおい、どうした、そんなに慌てて。」

そう口にした時に、ザイバンはシルバーの泣きそうな顔を見た。
こいつ、もしかして。

思わず、シルバーの頭をくしゃくしゃに撫でてやる。

「馬鹿だなぁ、お前は。」

シルバーは顔を下にし、そのまま震えている。

「でしょう、俺もこいつ馬鹿だと思うんすよね。」

シュウは呆れ顔で二人を眺めていた。

シルバーの鼻をすする音が、夜の静寂に響き渡る。

「ったく・・・。」

これは簡単に死ねないな、とザイバンは思った。



第四話「美しさと馬鹿は紙一重」

to be continued... ⇒


ブロロロ・・・・


夜のハイウェイを走る車。既に日付も変わり、道路を走る車は他の時間帯に比べれば少ない。
車の多くは遅くなった帰り道を急ぐ普通車と、先の長い道のりをひた走るトラックたち。
そこから見える街並みは、多くの光が輝き、まだ一日が終わっていない事を示しているかのようだ。
しばらくすると街の景色は遠くなり、当分は孤独感と共に走ることになるが。

「で、これからどうするんですか?」

運転席に座る愁は後部座席で欠伸をしているザイバンに問いかける。
本来なら、助手席に座っている銀平に任せたいところだ。しかし、彼は今スヤスヤと眠っている。
ふざけやがって。と心には思うが、口には決して出さない。

(それは俺のキャラじゃねえからな。)

「んー。とりあえず、支部に戻ってから考えるかなぁ。」

ザイバンは後頭部を左手でポリポリとかいた。右手は座席の頭に手を回し、時折トントンと座席を柔らかく叩く。
愁はバックミラーでそれを確認すると、運転を続けた。



愁たちはザイバンを見つけた後、経緯を聞こうとした。
しかしザイバンは「後で話すよ。まずは帰ろう。」と言って、自分はさっさと車に乗り込んでしまった。
少し不満を口にしようとした愁だったが、ザイバンの「あれだけの音がなって誰もこないわけないだろ?」という台詞に納得して急いで車を出すことにした。
・・・その時に、シルバーは安堵からか眠ってしまった。

愁はチラリとザイバンの姿を確認したが、スーツはとても汚れていて、苦戦の後が伺える。
明るく振舞う性格だから元気そうに見えるが、果たしてそうだろうか。愁は少し眉間に皴を寄せて車を走らせた。
ビルのあった地域を抜け、いち早く支部に戻るためにハイウェイに上ったのだが、
やはりこの時間ともなると車はそこまで多くない。思ったよりか早く帰れるかも知れないな、と愁は考えた。



「本当に困ったものだが。」

ややあって、ザイバンの声に反応してチラッとバックミラーを確認する。ザイバンは窓の外を眺めてボーっとしている。
フウ、とため息をついて愁は運転席側のサイドミラーをチラリとみた。

「・・・ん?」

違和感を感じる。
視線は一度正面に戻ったが、もう一度サイドミラーを確認する。
左のミラーに映る車の姿は無い。光も映らない。
右のミラーに映る車の姿は無い。光も映らない。
正面を見る。対向車線には車が少なくないが、前方を走ってたはずの車がいない。
愁の額を一滴の汗が伝う。それは頬を伝い口に含まれた。

(しょっぺぇ・・・。)

夢を見ているわけではなさそうだ、と愁は内心毒づく。

「気づいたか?」

ザイバンはこちらを見ずに愁の違和感を後押しするように声をかけた。

「これは・・・どうなってるんですかね。」

「まぁ、全員ハイウェイを降りていったってのは間違いないな。」

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