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【オリバト+】コミュのタッグバトル会場

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こちらは『オリジナルスタンド闘技場』のキャラクターを使って、
リレー小説形式で天下一武道会的な大会を催すトピです。

【暫定ルール】
1、これぞと思うコンビを投稿する。
2、8組集まったところで受付終了。
3、書き手を募集開始。予約トピに『予約』と書いた人が書く。
  5人まで予約可能、既に予約トピに名前がある人は予約できない。
4、予約した順に書く。ただし、次のバトルに自分の作ったキャラがいる場合は
  順番入れ替え。コメント数は無制限。
5、バトルを書き終わったら、予約トピから自分の予約コメントを消す。
  これによって、次の人が予約できるように。
6、決勝戦まで繰り返す。

バトル自体のルール
・2対2の混戦タッグマッチ。
・武器や道具などの使用も可。禁じ手無し。
・フィールドは半径20mほどの円形ステージ。
・ステージ外に出て10カウントでその選手は失格、そのバトルからは除外される。
 ただし、相棒が一人で勝ってくれれば次からは復帰可能。
・どちらか片方が再起不能や死亡した時点で敗北。
・ダメージなどは継続する。休憩時間はあるので疲労もある程度は回復するが
 完全ではない。

第一回戦〜第四回戦の対戦表が提示されたら執筆開始。
第一回戦と第二回戦、第三回戦と第四回戦の勝者が、それぞれ
第五回戦、第六回戦に進出。更にその勝者が決勝戦となります。

対戦表は投稿順ではなく、ランダムに決定されます。

執筆者はまず、対戦カードを以下の形式で書いてから、
バトルを執筆してください。

============================================================

第○回戦

『チーム名』

【キャラ名1/スタンド名/登場した部
 スタンド能力の簡単な説明】
&
【キャラ名2/スタンド名/登場した部
 スタンド能力の簡単な説明】

V.S.

『チーム名』

【キャラ名1/スタンド名/登場した部
 スタンド能力の簡単な説明】
&
【キャラ名2/スタンド名/登場した部
 スタンド能力の簡単な説明】

============================================================

コメント(68)



scene2【チーム:ハートブレイク・タイム】


「ここは静かで良いねえ……。」

チーム毎にリングを挟んで対角線に
配置された選手控え室。

そこは観客席とは打って変わって静寂で、
足音1つ、滴る水の一粒さえハッキリと
聞き取ることができる程だ。

しかし、そんな静寂の中にあっても
観客の声援は、波打ち際の波の音の様に
静かにそれでいて何処か厳かに選手の耳へと響き、
ドラムの様に選手達の闘争心を高めてくれていた。


当然先程ポツリと呟かれた言葉も
その静寂に拾われ、届け先へと伝わっており、
それを聞いた相方“まきし”は、

「――ああ、いい感じだ。
 この緊張感のおかげで、表面はどこか冷えているが、
 内側の熱はガンガン上がってきやがる。」
――と返事をしながらスタッフ達の
用意した塩ビ製のベンチに腰掛け、深呼吸を繰り返す。


何故それを行っていたのか。
理由は至極簡単。

何時もの野良喧嘩とは違う円形闘技場。

そこでの勝利の為に今は平静を保ち、
冷静の中に情熱を、情熱の中に冷静を、
宿しながら心算を練る。

それが何よりも重要だとまきしは理解していたからだ。


そんなまきしを視界の端に捉えながら
“イルムガルド”は自身のスタンドの
ヴィジョンと同様のデザインである
コインを指で弾き感触を確かめる。

これが彼独特のコンセントレーションの
高め方なのかもしれない。

指で弾いては手の甲に乗せ、又弾いては乗せる。

驚く事にその軌道は何度繰り返しても全くの同一。
回転するコインの速度も同一だった。


それを幾度か繰り返した頃、
まきしの瞑想が、そしてイルムガルドのコイントスが
まるで取り計らったように、ピタリと停止。



「準備は万端かい?」

イルムガルドはニヤリと笑い手の甲のコインへと目をやる。


「準備…?そんなもんとっくのできてるね。
 それにヤツらを仕留める算段もできた。


 そしてそのコインは――“表”……だろ?」

イルムガルドはそのコインへと
焦点を合わせる前に、まきしを一瞥し、
それから改めて手の甲のコインへと視線を移す。


「お見事……」
そう言ってコインをポケットに仕舞うと
イルムガルドは立ち上がった。


「さあ……」「さあ……」
『パーティーの始まりだッ!!』

互いに拳を突き付け合い、2人は控え室を後にした。



scene3【チーム:ルピとムトウの神隠し】


「えっ?武器は必要無い……ですって?」

大会のルール(あれをルールと呼んで良いのか?)に則って、
選手の為の武器を運んできたスタッフは
耳に飛び込んできたその言葉に拍子の抜けた声を出す。

そんな間の抜けた声に
(俺、変な事言ったか?)などと内心思いながら、
「だーかーらぁー……
 俺達は武器なんか使わないってのよ。」
――と念を押すようにもう一度そう伝え、
“ムトウアキラ”は≪理解したかい?≫
――と肩を竦めてみせた。


「はっはぁ……それでは……。」

本当に大丈夫なのか?
見るからに優男。
話しによるとスタンド能力自体にパワーが有るわけでも無いらしい。

しかも相方は――だろう?
そんなアンタ達が頼れるのは支給された
武器じゃあないのか?

一方的にいたぶられる戦いなんて見たくないぜ?

そんな事を考えながらスタッフは
武器を乗せたボードを押して控え室を後にする。




「なぁ!」
しまった、何かやっちまったか?オレ!?

控え室のドアに手を掛けた途端に聞こえた
ムトウアキラの声に毛を逆立たせビクつく。

試合を控えた選手を邪魔しちまうなんて
スタッフ失格だ!叱られちまう!

いやまず命が危ない!!
MS5(マジで死んじゃう5秒前)ってやつだ。


「ハッハイ!」(せめて命だけは〜)
「本当に一番凄い力ってなんだと思う?」

「はへぇ?」

予想外の質問にまたもや拍子抜けた声を出すスタッフ。
ムトウアキラはというと、今度はそれを気にも留めず話し出した。


「それは『知力』だと俺は思う。
 ――要は作戦ってことだ。
 武器は10の力で10の事までしかできねぇ。
 でも知力さえあれば1の力で10……いや100の事だってできる、だろ?」

確かに一理あるな。
スタッフは心の中で深々と頷く。

「そんな訳で俺は武器を使わないのさ……。
 あぁ仕事の邪魔しちゃって悪かったね。」

試合までまだ若干時間がある。
それを確認したムトウアキラは座っていたベンチに寝そべり、眠り始めた。

邪魔しちゃ悪いからな。
ソッとドアを開けスタッフは控え室を後にした。



「試合の事、心配してくれてありがとうな。」

ドアを閉めた時にそう聞こえたのはこの大会のスタッフをやって良かった。

そう思える思い出の1つだ。


scene4【第4回戦】


「タチバナ。」「何です、ビッチ――失礼。」

「選手が入場してきたわ。」
「杏子、仕事の邪魔です。出て行きなさい。」
(切り替えはやっ!)


何時までも撮影会を止めない杏子。

そんな彼女に業を煮やしたアルジスが
タチバナに引っ付いて離れない杏子を
無理矢理引き剥がそうとする様子は
端から見たら“ロミオとジュリエット”
並みの悲恋にすら思える。

もちろんタチバナも
「杏子!もう貴女からは離れません!」
などと何処かの王子様のような台詞を並び立てていたが、

コウから「試合が始まるわ。」と
呼び掛けられた途端に掌を返したかの様に態度を豹変させ、
杏子そっちのけで選手達へと視線を移してしまった。

その変わり身の早さは圧巻なもので、
不信感を抱いていたスタッフ達を
(これがプロか……)と唸らせるほどだった。


「では試合を始めましょう!4回戦……

【チーム:ハート・ブレイク・タイム】 
  VS
【チーム:ルピとムトウの神隠し】」

『始めてください!!』

コウが両チームを紹介、
次いで2人で試合開始を告げる。

その瞬間、声援が音の壁の様にスタジアムを駆け巡り、
そのうねりの渦中で両チームは相手を互いに見据える。


「お前1人なのか?パートナーはどうした。怖じ気付いたのか?」

まず口を開いたのは、まきし。
そしてその口から飛び出したのは単純な疑問と挑発だった。

拳を鳴らしながら睨み付ける2人の前に
立っていたのはマントを羽織ったムトウアキラただ1人だったからだ。


「御託はいいからさっさと来なよ。
 後400秒でケリを着けなきゃならないんでね。」

「ほざくなよッ!ランシドッ!!」
その物言いに腹を立てたのか。
まきしは“ランシド”に拳を打ち込ませる。

しかしその拳は命中する事はなく、
なぜか“ムトウアキラ本人”によって
受け止められてしまった!?


「な……なんだってぇぇぇーーー!?」

驚きを隠せないまきし。
そこにもう1人のムトウアキラが
突然現れ“ストレンジカメレオン”を発現、
まきしの顔面へと拳を叩き込んだ!


「そっちの俺は偽物さ。よく見ろよ、
 俺の方がイケメン――だろ?」

スタンドである“ランシド”の拳を
受け止めた“偽物”のマントの隙間から
一匹のコモンリスザルが顔を覗かせていた。

「そしてアレが俺の相棒さ。」

「テクニカルヒットですね。

 おそらく……ムトウアキラは自分自身に
 被せるように、ルピのスタンド、
“Westward Odyssey”を発現させたのでしょう。

 マントはあのコモンリスザルを隠すため、
 そして能力故のイメージのズレを隠すためのカモフラージュ。

 そして殴られる瞬間、
 彼自身は能力(場所交換)で瞬間移動。
 まんまと相手に一撃を加える事に成功した。

 つまりは――彼はあの布切れ一枚に
 幾重もの罠を張り巡らせていたわけです。」

「詳しすぎる解説ありがとうございますタチバナ。
 何処かの誰かさんも助かったと言っています。」
(スタッフ:誰だよ!?)


「だが……軽いな。
 やはりお前のスタンド……
“ストレンジカメレオン”とかいうヤツは
 俺の“ランシド”同様に非力なようだな。」

そう言うとまきしは自身の手で頬を撫で
≪ノーダメージだ。≫とアピールした。

対峙するムトウアキラもそれは承知だったようで、
そんな挑発を受け流し、涼しげな顔だ。


「んなコトはとっくに知ってる。
 自分の能力だからな。
 ――だからこそ重要なのはココ(頭脳)だろ?」

コンコンと自らの頭を小突くと、
ムトウアキラは次の刹那、地面を蹴り上げまきしへと距離を詰める。

それが合図だったかの様にルピも
「キィッ!」と鳴き、
ムトウアキラの姿を模した
“Westward Odyssey”の肩に乗り、
まきしへと前進させた!


「非力は承知!
 だからこそ数打たせてもらうぜ。」

一気に距離を詰める
【チーム:ルピとムトウの神隠し】。

早くもクライマックスなのか!?
――と観客は期待に胸を弾ませて
はちきれんばかりに声援を送る。

そんな絶対的不利な状況。

それは揺るぎない筈なのに……
イルムガルドは全く動きを見せず、
それどころか笑みさえ浮かべて見せた。


「まきしよぉ……まだ俺の出番じゃあねえよな?」

「勿論だ、イルムガルド。
 今俺のテンションは活火山の溶岩並みに
 熱くなってるんだからな!」


“ストレンジカメレオン”、
そして“”の拳がビュオンという
風切り音とともにまきしの顔面を襲う。

「ランシドッ!『パーティー』の時間だッ!」


しかし、2体のスタンドの拳が命中する瞬間、
発現された“ランシド”が姿を変え黒い布となり、周囲を覆っていった!


「さぁて……パーティーの始まりだッ!」

そう言ってまきしは両手を高々と掲げる。

するとその瞬間、周囲を待っていた
“ランシドだった”黒い布は地面をそして四方を、
最後には上空すらも覆い尽くしていった。


(『パーティー』……、これがスタンド能力なのか?)
と、ムトウアキラが推察をしていた矢先、

その真っ黒い地面から幾つもの柱が、
続いてテーブルが、そのうえ人の形をした“何か”までも現れ
その光景はまさにパーティー(晩餐会)だ。

「ウキキ……」
その光景に唖然としたルピはムトウアキラの肩へと乗り不安を見せる。

その状況から僅かに自分が優位にあると
気付いたまきしはゆっくりと姿を見せた。

その服は先程とは違い、
白いYシャツに黒ベスト、黒パンツ。
つまりは給仕役(ウェイター)の格好だった。


「さて…信じるかどうかは別として……。
 ルール説明だ。
 この空間を『パーティー』と、俺は呼んでいる。

 ここでは俺のスタンド“ランシド”が
 主催者となり、パーティーを進行させる。」

そう言ってまきしは2人から視線を逸らさずに、
周りのヒトガタに盆に載せたワインを配っていく。


「制限時間は3時間、
 それまでに“ランシド”を
 見つけ出さなきゃならない。

 ――と言っても時間を決めるのも
“ランシド”の仕事だからな。

 もしかしたら瞬きしてる間に
 過ぎちまうかもしれないし、
 何年も掛かるかもしれない。」

「なら手っ取り早く本体のお前を叩くさ!」

手慣れた手つきで最後のワインをヒトガタに手渡した瞬間、
“ストレンジカメレオン”が掛け声と共に
発現され、まきしへと拳を打ち込む!


「おいおいおいおい……。
 予想はしてたけどよぉ……。」

ビシィ!という打撃音が辺りに響く。
しかしそれを行ったムトウアキラは、
≪やれやれか……≫と肩を竦めた。


拳が命中したまきしの体は周囲の様に黒い布と化し、
それをモノともしなかったのだ。

「まぁ……こういう事だ。
“主催者”だけじゃあなく
 俺でも晩餐会を終了できる。

 ――だがお前達は俺に触れられない。
 よってこの晩餐会から脱出する手段は、
“ランシド”を見つける他無いのさ。」

「どうやら【チーム:ルピとムトウの神隠し】、
 まきし選手の術中にハマってしまったようですね。」


「ちなみに観客からは見えていないので、
 タチバナさんの能力で1箇所こじ開け、
 そこからカメラを通しての中継となっております。」

「私のBDM(ブルースドライブモンスター)に不可能はありません。」


チィと舌打ちしムトウアキラはまきしから半歩後ろに下がる。

するとその背後から“ストレンジカメレオン”が発現され、
ムトウアキラから離れていった。


「パーティーが始まったぜ……。」

そうまきしが呟いた瞬間、
ザワザワと声が響いていた場内が静まり、
突如クラシック音楽が奏でられた。


「こりゃあヤバいね……。
 ルピ!ランシドを探すぞッ!」
「ウキィッ!」

そう言うとルピ達は各々が晩餐会を勤しむ影の群れの中へ消えていった。

それを眺めながらまきしはほくそ笑む。

(フッ……、解けるわけが無い。
例え晩餐会に加わった百数十人を
全て調べ終わろうとも!
会場全てを調べ尽くしても!
ランシドの謎は全く違うものなン――…)

「――わかったぞッ!!」
「エッ!?もう!!?」

まさか!能力が発現してから30分も経っていないぞ!?

それなのに……“ランシドの謎”を暴いたという事か!?


「謎解きはすぐ済んだ……。
 お前を殴った瞬間にね。
 なんでスタンドの拳をあの布みてーな
 モンは受け止められた?
 答えは簡単。
 この空間自体がスタンドって事……。」

「つまりだ……ここは“ランシド”の中。
 俺達は“ランシド”の中にいたッ!」

ムトウアキラがそう叫んだ瞬間、
地面がボコボコと窪みだし柱をテーブルをそして饗宴に勤しむ黒い影達を飲み込んでいった!

「さあ、勝負はこっからだ!」

バァッ……と光が辺りを覆い、そこに2人と一匹の影が姿を現す。

“ランシド”の謎を暴いた
【チーム:ルピとムトウの神隠し】は
再びリングに姿を現したのだ。




「――9ッ!」
「――ッ!しまった!」

姿を現した途端に耳へ飛び込んだ声に
驚いたムトウアキラは咄嗟に横へと飛ぶ。

次の瞬間ルピ達には予想外の声が響いた。

「――10ッ!
 リングアウト後10秒が経過したため…
 まきし選手、ルピ選手はリタイアとなります!」

そう“ランシド”から脱出したルピ達が姿を現したのは場外だったのだ。
「キキィ……?」

まだ事態の把握を仕切れずに周囲をルピは見渡す。

そんなルピをヒョイと摘まみ上げると、
まきしは笑ってみせた。

「俺の算段だと此処で2人とも
 リタイアさせるつもりだったんだが……
 粘るじゃないか……ムトウアキラ。」

「そりゃどうも……、
 ――ところで何でこんな面倒くさい
 手段を取ったんだ?」



「他人を傷付けるのは好きじゃあねぇ。
 たまには茶でも飲みながら戦うってのも
 いいもんだろ?」

そう言うとまきしは肩にルピを乗せたまま、文字通り『ステージ』を後にした。



【ハート・ブレイク・タイム:まきし】
【ルピとムトウの神隠し:ルピ】
ともにリングアウトでリタイア!!




「――さてと……。
 アンタの出番だろ?イルムガルド。」

ルピ達がリングを後にしたのを見届けると
ムトウアキラは改めてリングの中心に立つ
イルムガルドへと向き直した。

その視線に気付いたイルムガルドは――
「さぁてと……俺の出番か……。」

と言うと懐から銃を取り出し、構える。


「俺はまきしみたいに優しくはないぜ。」

片手にピストル、片手に花束ならぬ“コイン”を構えるその姿は充分すぎる程の凄みを見せつけていた。

(拳銃か……距離を潰して接近戦に持ち込むしかないかな。)

そんな思考を巡らせながらムトウアキラは
ジリジリと距離を縮めていく。

しかし奇妙な事にイルムガルドは距離を
取ろうとはしなかった。

拳銃という遠距離を得意とする得物を
持ちながらも距離を取らない。

それに違和感を覚えながらも、
ムトウアキラは更に距離を詰め
“ストレンジカメレオン”を発現させた!

するとムトウアキラの姿が突然消失。
次の瞬間にイルムガルドのすぐそばに現れた!

「ストレンジカメレオンは触れた物と
 位置を交換できる能力!

 そこら辺りに転がる破片には
 既に触れてたのさッ!」

“ストレンジカメレオン”の拳が
イルムガルド目掛けて振り下ろされる!

だがそれが届く瞬間、
「――ジャッジメント・マイ・セルフ…。
 ――あらゆる攻撃を避ける事ができる。

 コインは“表”だ。」――と
イルムガルドが呟き、
その途端に“ストレンジカメレオン”の
振り下ろされた拳は全て空転。

最後の大振りでできた隙を突いて
イルムガルドの拳銃が火を吹いた。


「つぁァッ!?イッテェーーッ!」

突然太腿から噴き出した血と
それに伴う激痛に堪えられず
ムトウアキラは呻き声を上げた。


「さて……流石に公衆の面前で殺人を犯す
 わけにはいかねえかな……。」

ダメージを確認したイルムガルドは
次いでもう片方の足へと銃口を向ける。



「手っ取り早く退場してくれや。」

ターンッ!と拳銃独特の乾いた音が響く。

しかしその無機質な凶器は誰かを傷付ける
事無くリングへとめり込んだ。

それが着弾する瞬間、
ムトウアキラは再び“能力”で距離を開けたからだ。


何とかして銃弾を回避したムトウアキラは

「ふぃー……」――と一息つき、

「――なんて面倒臭い能力だ……。。
 コインの裏表を当てることで
 命令を強制させるのか。」
――とイルムガルドの能力にボヤいてみせた。


ジャッジメント・マイ・セルフ。
確かに厄介な能力だ。
もし自身の体に触れられて
≪リングアウトしろ≫とでも言われたら一溜まりも無い。

一体何秒間持続される能力なのか?

それを把握出来ないムトウアキラは
ただ距離を取る事だけに専念するしかなかった。



「なかなかどうして……。
 しつこいねえ……ムトウアキラ。」

しかしイルムガルドはそんな膠着状態を
是としなかった様で、
すぐさま自身の握る拳銃へ命令を唱えた。

「いいか……お前の放った銃弾は
絶対に獲物を逃がさない。」

そう命令したイルムガルドは宙へとコインを弾く。

宙を舞うコインはクルクルと回転し頂点に達すると落下。

そしてイルムガルドの手の甲へとおさまった。

「表だ。」
イルムガルドがそう宣言したのを合図に
ムトウアキラは駆け出す。

所詮2分の1、どちらにせよ戦闘が不可避ならば距離を詰めるのが正解。

そう判断したからだ。


それをイルムガルドは一瞥すると、
ゆっくりと手の甲のコインを見せつけた。

「残念、オ・モ・テだ!」

そして甲高い声でそう叫ぶと頭上に向けて
数発の銃弾を発射した。

対するムトウアキラも表が出た以上、
退くしかないと考えた様で能力を駆使し
銃弾を撹乱した。

しかしそれすらも無意味、命令は強制される。

その絶対的現実の通り、
ムトウアキラの躯を3発の銃弾が抉っていった。


「ハッハァッ!無理なんだよムリィッ!」
力無く膝を突くムトウアキラの顎目掛けて
イルムガルドは蹴りを繰り出し、跳ね上げる。

「弾く指の力!高さ!
 そして受け止める手の位置!
 そこさえ理解すれば思い通りの目を
 出させることくらい朝飯前だッ!」


なるほど、だから≪リングアウトしろ≫
――と命令しなかったのか。
俺が表裏を選んだらいくら思い通りの目を出せても意味が無いものな。

頭を蹴り上げられながらそれでもムトウアキラは思考を止めようとはしなかった。
最後の武器は『知力』だと信じてやまないからだ。

再び顔目掛けて繰り出された蹴りを
“ストレンジカメレオン”で受け止め、
「そんな年季の差も知力は埋めるぜ?」
と皮肉を言うとニヤリと笑ってみせた。

「――ッ!……なかなかどうして……。
 闘志は折れないなぁ……。
 それなら……残った足に撃ち込んで
 リングアウトさせてやるよォォーッ!」

そう言ってイルムガルドは再び銃口を
ムトウアキラに向け、銃弾を撃ち出す。


砲身から飛び出し捻り込まれながら
銃弾はムトウアキラへと襲いかかる。

勿論ムトウアキラがこのまま倒れるワケも無い。
再び能力で回避し、同時に距離を詰める。
その瞬間ドッと観客達の声援が高まり音の壁を生成する。

そんな圧力をビリビリと感じながら
イルムガルドはコインを取り出し
「ジャッジメント・マイ・セルフッ!!  
今から俺の躯は鋼になる!
 勿論コインはオモテだッ!同様にィッ!」
――と叫びコインを弾いた。




「助かったよ……。
 何らかの能力でコインを
 操ってたワケじゃあなくてね。
 ――それなら何とでもなる。」

宙にコインが舞った瞬間、
そう呟くとムトウアキラは
“ストレンジカメレオン”を発現、
イルムガルドと場所を交換した。

「――既にイルムガルド。
 触れてたのさ、アンタにね。」
「ナニィィィーーーッ!?」

宙を舞うコインはそのままムトウアキラの
手の甲に舞い降りる。
そのコインは『ウラ』。

「さて……コインは外れた。
 ってことはだ……。
 今のアンタになら俺のスタンドでも充分。
 ――ってことさッ!」

「ヒイッ!」と短く悲鳴を上げた
イルムガルドが距離を取る隙さえも与えず
その全身へと幾発も拳を叩き込んでいく。


最後にリングに立っていたのはムトウアキラ只一人。

リングの中央で勝ち名乗りを上げていた。

4回戦勝者
『ルピとムトウの神隠し』

To Be Continued ⇒

第五回戦 準決勝二組目


『いきものがかり』

【アルジス/ラブトーク/3部
 スタンドをつけた口でキスをすると物体に意志を与える】

【杏子/エレクトロ・チューン/3部
 自分が触れている生物と、その生物から半径3m以内にいる生物2体の体の一部を操る】



VS



『ルピとムトウの神隠し』

【ムトウ/ストレンジカメレオン/2部
 スタンドが触れた物と本体の位置を入れ替える】

【ルピ(コモンリスザル)/Westward Odyssey/ 3部
 飼い主そっくりの、誰の目にも見えるスタンドを出す】
「なぁ…どうしても戦わなきゃダメ?」

バトル会場へと向かう廊下でムトウアキラは歩きながらスタッフに問いかけた。

この質問はもう何度目になるだろう?

スタッフはただ首を横に振ってそれを返事の代わりにした。
返す言葉は決まっている。[NO]だ。
たったそれだけの言葉ですら発することが億劫になってしまっていた。

「俺としてはね、女の子と戦うってのは嫌なんだよ。
 男は女の子を護ってこそカッコイイと思わない?

 …まぁ時として例外もあるけどさ。女の子の方が強い場合とか」


――――――――――


「ぶぇっくし!」

「あら、小汚いですね。どうされました鉄雄様、風邪ですか?」


――――――――――


「でもこれって最初っから倒しにいかなきゃいけないだろ?
 やっぱ俺の趣味じゃないんだよなぁ…」

グチグチと不満を漏らしながらもその歩みは止まることはない。
自覚するほどの小心者で慎重派、平たく言ってしまえば臆病な彼であっても、やはりそこは男だ。
会場に近づくにつれて徐々に大きくなっていく観客の熱気を帯びた声に当てられて、否が応にも気分は高揚していく。

「キキッ」

「うわ!?どうした、ルピ?」

ムトウアキラのジャケットの内側を駆け上り、その肩に座った相方のコモンリスザル――ルピは器用にそこで飛び跳ね、最後にはムトウアキラの頭の上に蹲踞のような姿勢で座り込んだ。

どうもテンション上がってんのは俺だけじゃないみたいだな。

ルピの動きを目で追っていたムトウアキラはその動きが止まると、

「そう意気込むなよ、リラックスしていこうぜ」

頭の上に手を伸ばしゆっくりと背中を撫でてやった。
ルピは気持ちよさそうにそれを受け、大きな丸い目を細める。

あと一歩進めば会場に足を踏み入れる、通路の照明より一際眩しいライトの明かりが差し込むところでスタッフは足を止め、「御武運を」と言って一礼した。
堅苦しいなぁ、と感じながらも立ち止まってそれを受けたムトウアキラとルピは、

「それじゃま、行ってくるわ」 「キキッキッ」

まるで買い物に出掛けるかのような気楽さで光の中にその身を投じた。
一方、こちらは控え室。

「あの、すいません。もうそろそろ試合開始の時刻なんですが…」

「あ、すいません。杏子、まだ終わらないの!?」

バトル会場へと向かう廊下に立ち、控え室に背を向けた状態で催促を続けるスタッフに応えたアルジスは、控え室の奥で鏡に向かい、スカーフを結び直している杏子へと問いかけた。

「もうちょっと…たしかあの時はダルイながらも唯一のオシャレと思って……
 ここをこうして、こっちから通して…できた!
 アル姉、お待たせ!」

タッグバトル第三回戦、ジョルノ・ムラマァーサとジキルとのバトルで汚れてしまった制服を着替え、綺麗なものに身を包んだ杏子はアルジスの隣に並び立つ。
胸元のスカーフの結び目は一目にはどうやって結んだのかわからないほど複雑で、アルジスは首を傾げた。

「杏子、その結び目どうしたの?
 アナタがそんな手の込んだことするなんて珍しいじゃない」

一般的な結び方よりずいぶんと可愛らしいそれを指差しながらアルジスが訊ねると、

「んー?コレね、私が初めてタチバナさんに会った時と同じカッコなの。
 タチバナさんが気付いてくれるかわかんないけど…
 タチバナさんに出会えたことは私の人生で一番のラッキーだから、ジンクス、かなー」

僅かに頬を染めながら照れくさそうに離す杏子をアルジスは微笑ましく思った。
相手は全裸のホモだけど、自堕落だった杏子が何かのために、と一生懸命になっている姿を見るのは感慨深いものがある。

「準備はよろしいですか?では、行きましょう」

足早に先導するスタッフの背中を眺めていた杏子はふと気付いてアルジスを見遣り、

「アル姉、顔と足は大丈夫?」

指差しながら心配気に顔を顰めた。
前回のバトルで【ニート・エクスペリエンス】の攻撃を避ける際に強制的に動かされて痛めた両脚、勝利を決定的なものとしたリングへの『キス』をした際に受身も取らず痛打した女の命、顔面。

ルールに禁じ手はなし、と名言されてはいるが、バトル開始以前にスタンドを使用することはさすがに憚られた。
合間に行われた二つの試合の間に両脚のマッサージはしていたが、気休め程度にしかなりはしない。

アルジスは杏子を安心させるように微笑むと、

「大丈夫よ。このくらい、良いハンデだわ」

口元に貼っておいた絆創膏をピッと剥がしてみせた。
つられて杏子も微笑んだところで、スタッフの足が止まる。「御武運を」と一礼するスタッフに礼を返し、

「さ、杏子、行きましょう!」

「うん!よーし、頑張るぞー!」

二人は歓声巻き起こるバトルの舞台へ進んでいった。
バトル会場へ二組が同時に姿を現し、それを見た観客は一斉に歓声を上げる。
その中にはそれまでの試合に敗北した者もいて、

「負けるなよ!パーティーが待ってるぜ!」
「お前たちは負けない。コインは…表だ」

といった声や、

「勝ってくださいよ…負けたら僕等との勝負が無駄になる…」
「買ったら特上の江戸前食わしてやるからなァ!」

と、それまでの対戦者からの応援の声も混じっていた。
会場の温度は完璧な空調設備によって常時平温状態に保たれているが、熱気の中心にいる二組は温度が上昇しているように感じた。

「さて、解説のタチバナさん、見所はどういった部分ですか?」

先ほどしょっかーの名を叫んだ時に落ちてしまっていた実況、と書かれた札を正しながらコウはタチバナに訊ねる。

「そうですね、両者とも前回のバトルで片方が負傷していますから、それをどう補うかがポイントとなるでしょう。
 また、今回のバトルでは直接攻撃力の高いスタンドはいません。
 どう工夫して如何にして戦うのか?そこにも注目したいですね」

試合直前ということもあってコウとタチバナの顔も引き締まる。
二組は歓声に手を挙げて、或いはその手を大きく振りながらリングの上を目指して歩いていく。

そこに辿り着くとルピはムトウアキラの頭から降りてその長い尾をくるりと丸め、獣独特の四足歩行の体勢になった。
それを見たムトウアキラは胸中で(やるっきゃないか、な)と呟いて先ほどの試合で使用したマントを翻す。

対面にいる杏子は携帯電話の充電と電波状況を再確認し、よし、と頷いて隣に立つアルジスに親指をグッと立てて見せる。
アルジスはそれに微笑みで応えるとリングを爪先でコンコン、と叩いて脚の調子を確かめ、視界に被さった髪を後ろに流して視線の先にいる相手を見据えた。

臨戦態勢であることを感じ取った観客が一際大きな歓声を上げ、会場の盛り上がりが最高潮に達したところを見計らったコウは目の前のマイクを掴み、


「それでは、準決勝第二試合目!


 チーム『いきものがかり』

 【アルジス/ラブトーク】
 &
 【杏子/エレクトロ・チューン】

 VS

 チーム『ルピとムトウの神隠し』

 【ムトウ/ストレンジカメレオン】
 &
 【ルピ/Westward Odyssey】!


 試合を開始してください!」


試合開始を告げ、ゴングは高らかに打ち鳴らされた。
「ほい、いってらっしゃ〜い」

ゴングと同時にルピは「キキッ」と小さく嘶き、四足歩行で地を這うように杏子とアルジスに迫る。
ムトウアキラはそれをバトルを開始した場から一歩も動かず、手を振って見送った。

「杏子!」

「アル姉、わかってる!エレチュン!」

ルピの突進を見て取った杏子はアルジスの合図よりも早く携帯電話を開き、【エレクトロ・チューン】を発現させる。
人間のそれを遥かに凌駕する動物の動きに対応するには、普段から怠けてばかりの杏子、脚に負傷が残るアルジスでは心許ない。
直接攻撃力はほとんど有していないが、予測不可能なルピの動きを把握するためには空を自在に飛び回る【エレクトロ・チューン】は打ってつけであり、またそれしか方法はなかった。

「よっし、これであのお猿さんは監視できるから…モガッ!?」

準備が整った、と携帯電話からルピへと視線を戻した杏子はその視界が真っ白であり、次いで顔に密着した柔らかい感触に困惑した。
【エレクトロ・チューン】を発現するのに要した時間はほんの数秒にしか満たないものだったが、ルピが杏子に肉迫するには充分すぎた。
動物のスタンド使いと相対する経験など滅多になく、それゆえ杏子の行動は対人間のそれでしかなかった。

やろうと思えばルピから目を離さずブラインドタッチで【エレクトロ・チューン】を発現することも可能だったが、ルピが小さな猿であることが慢心を招いたのかもしれない。
結果、携帯電話から顔を上げた瞬間にそこ目掛けて飛び掛ったルピに顔面を覆われてしまった。

視覚から情報の大半を得ている人間が唐突にそれを奪われればどうなるのか。
更に、当事者にとっては不可解な感触を触覚的に敏感な顔に受ければどうなるのか。

杏子は容易くパニック状態に陥り、ルピの方から『対称に触れなければならない』という条件を満たしてくれているのに、ただ慌てふためくばかりだった。
両手で顔に被さったルピを掴み、パニックによる影響から後じさった際に足を絡ませてしまった杏子は手をつくこともできず、リングに思い切り腰を打ちつける。

もちろんアルジスもそれをただ見ているわけではなかった。
杏子を助けようと咄嗟にそちらに向かって一歩を踏み出そうとするが、

「きょ…くっ!?」

視界の端に『何か』を認め、背筋を走る嫌な予感にゾクリとしたアルジスは、痛む脚に無理を言わせて反射的にブレーキをかけた。

と、一瞬の間を置いてブォン!という音と共に、『何か』の拳がちょうど腹部の高さでアッパー気味の軌道を描いて通過した。
思い切り振り切られているそれをまともに喰っていれば悶絶は必至だろう。

冷や汗を流したアルジスだがその腕を両手でグッと掴むと、

「はぁッ!」

短い掛け声と共に体を小さく丸め、掴んだ腕を背中を通すようにして思い切り引きつける!
途中、脚の痛みから体勢を保つことはできなかったが、その相手を投げ飛ばすことができた。

ドスン!という音と共にリングに叩き付けられたのはムトウアキラの姿をしたルピのスタンド【Westward Odyssey】だった。
アルジスに投げつけられたそのダメージがフィードバックしたルピは、しがみついていた杏子の顔から後方に飛ばされるようにして引っ張られ、
動物的な反応から着地は成功したものの、危険と判断したのかその場を離れる。

「ぶはぁ!び、ビックリした!何、いまの!?」

「杏子、大丈夫?」

アルジスは【ラブトーク】を発現し、前回のバトル同様ストッキングに『キス』をしてテーピング代わりにし、立ち上がりながら杏子を見遣る。
その杏子は、と言えば、リングに腰を打ちつけたままの姿勢で顔を横に振っていた。

「ちょっと予想外ね、動物の本能を侮っていたわ」

【Westward Odyssey】を一旦解除し、相変わらず動きのないムトウアキラの元に戻っていくルピから視線を外さずに、アルジスは杏子が立ち上がるのを助けようと手を伸ばす。

俊敏な動きも然ることながら、それをしながらスタンドを発現させてくるとは夢にも思わなかった。
精神エネルギーを具象化するということは相当な集中力を要する。
よほど訓練されたスタンド使いか、もしくは隣に立つ杏子が正にそうであるように、スタンドを発現させる媒介となる物の扱いに慣れていなければ、そうそうできることではない。

これも動物の本能が為せる業か、と認識を改め、険しい顔つきで睨む杏子とアルジスの視線の先で戻ってきたルピを抱きかかえたムトウアキラは、

「ここに来る前にシャンプーしといて良かったなー
 女の子の顔に飛びついたのに、臭かったらかわいそうだもんねぇ」

と顔の前に持ち上げたルピの腹の匂いを嗅いでいた。
「ほいじゃまた行ってこーい」

両手で抱きかかえたままの形で、滑らせるように地面にルピを降ろしたムトウアキラは先ほどと全く同じ動作でルピを見送った。
それを見たアルジスと杏子にメラメラと闘志が湧いてくる。

「同じ戦法が通じると思っているの!?」
「バカにすんな!エレチュンッ!」

杏子は既に発現している【エレクトロ・チューン】をルピへと向けて滑空させた。
小鳥のビジョンを持つそれが示すようにパワーはほとんど期待できないが、ルピに向けて飛ばすだけで効果は望める。
「キ、キキッ!?」と戸惑いを露わにしたルピは、迫り来る【エレクトロ・チューン】の軌道から逃れようと蛇行を強いられた。

当然、ルピも【Westward Odyssey】を再度発現し【エレクトロ・チューン】の攻撃を防ごうとするが、小回りが利くうえに空を自在に飛び回る相手に人型の、それも特に秀でた能力も持たないスタンドでは歯が立たない。
まるで公園で鳩を追い回す幼稚園児のように滑稽な姿を晒すだけだった。

「お猿さんなんかが私たちに勝とうなんて百万年早いっつーの!」

万が一にもルピの接近を許さないように移動しながら携帯電話を操作する杏子の言葉と共に【エレクトロ・チューン】は加速し、
執拗に特攻をかけられたためか動きが雑になった【Westward Odyssey】の腕をすり抜け、滑空した勢いでルピの頭をその翼で叩く!

後頭部に走る鈍痛に「キキャ!?」と叫んだルピは興奮して顔を真っ赤にし、思わず横に飛び退いたが

「エレチュンに惑わされたのが運の尽きよ」

アルジスの声にすぐさまサッと青ざめる。
声がした、自分の飛んでいく方向を見ると、アルジスはジャケットを脱ぎ、片手に『口紅』を持っていた。

「ベッドにするには上等すぎるけど…これでキミはリタイア決定ね?ラブトー…ッ!?」
「うん、もったいないからさ、どうせキスするんなら俺のほっぺたにしてくれない?」

アルジスが確かに手に持っていたジャケットは、寵愛を受ける直前にムトウアキラの【ストレンジ・カメレオン】の能力で『入れ替わり』、アルジスの視界の隅でバサリと落ちた。

驚き目を見張るアルジスを前にしてウインクをしてみせたムトウアキラは、自身の背中に着地したルピに

「さっきのお返しに投げ飛ばしちゃいな!」

と叫んだ。
それを受け、素早くアルジスの背後に回った【Westward Odyssey】がアルジスの体をがっしと掴み、強引にリングの外に投げ飛ばす!
同じ顔をした人間に前後を挟まれる奇妙感に困惑したままアルジスはグン!と後方に引っ張られ、それを自覚した次の瞬間には宙を舞っていた。

「キャアァァァ!?」
「アル姉ッ!」

ルピを挟んでアルジスと対角線上にいるように移動していた杏子は、放物線を描いてリングの外へと放られるアルジスを見送るほかなかった。
満足に受身を取れず、体の側面を打ちつけたアルジスはうぅ…、と呻いて苦悶する。

「やっぱ女の子が痛がってるのを見るのは気持ちのいいもんじゃないな…」

がしがしと頭を掻くムトウアキラの場に相応しくない呟きは、バトル会場に轟く歓声と絶叫の渦に飲み込まれて消えた。
「でもこれでアルジスさんの方はおしまい…っと!」

ムトウアキラは自分の右の靴を脱ぎ、アルジスがリングアウトした方向に投げる。
先ほどのバトルで撃たれた脚では踏ん張りきれなかったのか、山なりに、左に逸れて靴は飛んでいく。

「追え!ストレンジ・カメレオン!」

だがそれに構わず、ムトウアキラは【ストレンジ・カメレオン】を発現し、数あるスタンドの中でもトップクラスを誇る機動力でアルジスがいる方向へ移動させた。
余裕の表情を保ってはいるが、銃で打ち抜かれた怪我は深刻だ。
試合開始からムトウアキラがルピに攻撃をほぼまかせっきりにしていたのも、“動かない”のではなく“動けない”のがその理由だった。

「そんなのさせない!」

杏子は未だ立ち上がらないアルジスへと走る。
アルジスの所に靴が辿り着くまでにそれをキャッチすれば、ムトウアキラの目論見は崩れ去る。

全力で走れば何とか間に合う!

ルピはムトウアキラの背中に張り付いたまま。
杏子の疾走を邪魔する者は一人もいない。
携帯電話を手に持ったまま、スカートを履いていることも一切気に留めず杏子は靴の落ちてくる方へとひた走る。

「おぉ!?思ったよりも足速いなー」

走る杏子の、その見た目を裏切るほどの足の速さに、本当にそう思っているのか疑問になるような口調でムトウアキラは感嘆の声をあげた。
そして、そろそろか、と胸中で呟くと、背中にいるルピに

「しっかり掴まってろよ?あの子…杏子ちゃんが靴を捕る瞬間に移動するからな」

と告げ、「キッ?」とルピが訝しげに声をあげたのにも関わらず、杏子が靴に到着するのを待つ。
全力疾走を続ける杏子はあと二、三メートルほどで靴の落下点に辿り着くだろう。

あとちょい…まだまだ……今だ!

「ストレンジ・カメレオン!俺たちと左の靴の位置を入れ替えろ!」

杏子が両手を伸ばしたのを見計らってムトウアキラは【ストレンジ・カメレオン】に左の靴を掴ませる!


杏子ちゃんが追っている[右の靴]は囮。
わざとギリギリ追いつく場所に投げて、それ以外が目に入らないようにする。
その隙に靴飛ばしの要領でよりアルジスさんの方に近く飛ばした[左の靴]に【ストレンジ・カメレオン】を向かわせ、位置を入れ替える。

投げ飛ばしちゃったアルジスさんの方はさっきのバトルで怪我してたし、着地もうまくできないだろうから、俺でもたぶん押さえられる。
そうすりゃリングアウトのカウントは俺の方が遅いから、アルジスさんがリタイアになってからゆっくりとリングに戻りゃいい。

杏子ちゃんは邪魔しようとするだろうけど、ギリギリで囮の靴を捕ったところをルピの【Westward Odyssey】で捕まえて、そのままリングを降りてカウントを待てば俺らの勝ち。

これであんまり傷つけずに勝てる!


勝利を確信したムトウアキラは【ストレンジ・カメレオン】の能力を発動し、左の靴と自身の位置を入れ替えた。
「はい、これで俺たちの勝…ち?」

ムトウアキラがリングから見下ろしたそこにアルジスの姿はなかった。
うっすらと何かをひきずったような跡があることから、アルジスはリングに立つムトウアキラ、ルピ、そして味方の杏子にすら気付かれないように移動したことがわかる。

「一体、どこにいっちゃったんだ!?」
「キキッ、キッ!」

ムトウアキラが疑問を口にするのと同時にルピは何かに気付き、耳をつんざくような叫びを上げ、しがみついている上着を引っ張る。

「ん?どうした、ル ぶわッ!?」

ルピが上着を引っ張る方向を見ようとしたムトウアキラは「ギー、ギー」と呻くような声を漏らす『ジャケット』に顔を覆われ、視界を失った。
と、同時に両肩に背後からポン、と手を置かれ、何故か脚が『勝手に』動き出し、リングの淵に足の半分をかけた状態で止まる。

「油断…したわね?」
「両脚の制御権はいただいたよ!」

ステレオで聞こえた声にムトウアキラはビクリと肩を跳ねさせ、次いで硬直した。
背中に張り付いているルピは怯えているのか、小刻みに震えている。尻尾もムトウアキラの体に巻きつけ、戦意を喪失しているのは明らかだ。

「な、なんでバレた…んですか?」

【ラブトーク】によって意志を与えられたのであろうジャケットが顔にまとわりついているのもそのままに、ムトウアキラは恐る恐るといった調子で真正面を向いたまま訊ねる。

「あら、アナタ…質問が許される立場だと思ってるのかしら?」

右から聞こえる、この妙に艶めいた声はおそらくアルジスさん…

「もう自分の意思で動くこともできないのに、ヨユーなんだねー!」

左からのやたら明るい口調は、たぶん杏子ちゃん…
どうする?どうしよう?どうしたら打開できる?
考えろ、考えろ、考えろ…
【ストレンジ・カメレオン】で適当なものを位置を入れ替えれば、一先ずは逃げられる…
二人に気付かれないようにそーっと…

「あ!今スタンド動かしたでしょ!?」

何でわかるんだ!?二人とも後ろから手を置いてきたんだ、俺と同じ方向を向いてるはずだろ!!?

「そそそ、そんなことないって!
 ホントに!マジで!!絶対に!!!」

「ウソだね!靴を追いかける時にエレチュンの視覚と同調させる番号に発信してるから、バトル会場の動きは全部私に見えてるんだから!」

やべぇ!そんな奥の手があるなんて知らなかったぞ!?

「いい度胸してるのね…でも諦めないその姿勢は好感が持てるわ」

アルジスさんのゆっくりした口調がめちゃくちゃ怖ぇぇぇ!

「ご褒美に選ばせてあげる。

 1.このままリングアウトしてカウントを待つ
 2.ジャケットに首を絞められて窒息、気絶する
 3.突然裂けたリングに呑まれて病院送り

 さぁ、どれがいいかしら?」

どうしよう?ルピは戦意喪失でスタンド出せる状況じゃないし、【ストレンジ・カメレオン】は動かせない、俺とルピの動きも制御されてる…
とてもじゃないけど勝ち目なし、か…?

「い、1番でお願いしま…」

「そういえばアタシ投げられたのよね…それもリングの外まで」
「そうだね、じゃ3番に決定ッ!」

選ばせてくれてねぇぇぇ!?

「ちょ、ちょっと待っ!……くぇ」

ムトウアキラは最後まで言葉を紡ぐこと叶わず、リングに呑まれる恐怖に支配されたまま、それすら裏切られて『ジャケット』に首を絞められて気絶した。


【ムトウアキラ/ストレンジ・カメレオン:気絶】


「さすがにあの状況でそこまで準備できるわけがないのに…
 でも、女は嘘をつく生き物だからしょうがないわよね?」

気絶し、力なくぐったりと倒れリングから落ちたムトウアキラに語りかけるアルジス。
その横に並び、ムトウアキラの背中に張り付いたままのルピを見下ろした杏子は、

「お猿さんはまだ戦うつもりかな?」

とにっこり笑って問う。
絶対に勝てるという自信と、向かってくるなら全力で叩き潰すという凄みに満ちた笑顔だ。

ルピはそれから顔を逸らし、尻尾を気絶したままのムトウアキラに一層強く巻きつけ、小刻みに顔を横に振って降参を告げた。


【ルピ/Westward Odyssey:ギブアップ】


アルジスと杏子はそれを見届けるとハイタッチを交わし、

「そこまで!勝者、チームいきものがかり!」

コウの合図と観客の声援を全身で受け止めた。
 決勝戦!!

『あの頃は若かった』

【Dr.ER/ブラッディ・クロス /3部
自分の血を操る。血が本体から離れても、少しの間なら操作することも可能。繋がっていれば長い間操作できる。】

【サルヴァトーレ=チャン/モンキー=ビジネス /3部
状況を打破するアイテムを売ってくれる支払いは現金でしか受け付けない】

V.S.

『いきものがかり』

【アルジス/ラブトーク/3部
 スタンドをつけた口でキスをすると物体に意志を与える】

【杏子/エレクトロ・チューン/3部
 自分が触れている生物と、その生物から半径3m以内にいる生物2体の体の一部を操る】


■インターバル

決勝戦開始までに15分間の準備時間が設けられた。

チャンには決勝戦の前にしておかなくてはいけないことがある。それは勿論、決勝戦で闘わなくてはいけなくなった、愛するアルジスとの対面である。
過去に交際をしていた二人、しかし大富豪であるチャンの金銭感覚や価値観に、堅実で素朴なアルジスの感覚が耐えられなかった。チャンは全てを与えることこそアルジスに対する愛の証明になると信じ、その財力を見せ付けたが、自立心の強いアルジスはそれを疑問に思い、チャンの元を去って行った。
そして今もまだチャンのアルジスに対する愛は薄れることなく、強くなるばかり。彼はオリバト世界においても三本の指に入るストーカーになってしまい、アルジスをうんざりさせていた。
しかし、追えば追うほど、彼女の心は遠く離れてしまう。

「何故だ! 私はこんなにも全身全霊で求愛しているというのに!」

それは、すでに彼女にとって彼への興味が皆無だから。

チャンはいつもどおり慣れた様子でアルジスを待ち伏せ、アルジスも突然のチャンとの遭遇に驚く様子もなかった。

「まさか、君が決勝まで残るなんて……」

「あら、ずいぶん軽く見られたものね」

「まさか、私が君を軽視するなんてありえない! 恋人同士が争わなくてはならない悲劇を憂いての言葉さ!」

恋人同士という言葉に異論はあるが、そのたび口を挟んでいては会話が進まないので、スルーした。

「私と、このモンキービジネスで手に入らない物は無い! 欲しいものを言ってみたまえ、ジュエリーか? バッグか? なんなら、屋敷でも、島だろうと!」

「いい加減、学習して頂戴。私は何も受け取らないわ」

「何も欲しくない? 何もいらないなんて、そんなことあるはずがない! それでは君はいったい何のために生きているというのだ!」

「……それが解らないから、貴方とはいられないと思ったのよ?」

「何でも手に入るのに?」

「同じくらい手に入らないものがあるわ」

この大会は、最強を決めるものではない。それならば、タチバナやジョエル、その他にも圧倒的な戦士が多数いるのだから。あくまで客が見たい組み合わせによる大会。優勝したところで、大した名誉は得られない。

ならばせめて栄光を手にしたい。

「アルジス、決勝戦で君と争うことを悲劇ではなく、試練だと考えよう。もし、私達が君らに勝ったならば、君には戻ってきてもらう。いいかい?」

「またそんな勝手なこと…。そんな方法で私を連れ帰って、意味があるの?」

「ああ、あるさ! 君が僕の傍にいるのだから!」

アルジスはしばらく考え、それを承諾した。

「その代わり、私達が勝ったら私のことはすっぱりと諦めて、二度と姿を見せないって約束して」

「ぐぬっ!?……わ、わかったよ」

お互いにかなりの覚悟が必要だったが、同時にそれくらいでなければ関係に終止符を打つことができないと考えた。

「じゃあ、死力を尽くして闘いましょう」そう言って立ち去ろうとするアルジスを、チャンが呼び止める。

「しつこいわよ」

「いや、君が受け取らないのは承知で、何か私にひとつくらい要求はないか?」

アルジスは少しだけ口元を緩め、それが珍しいことだったのでチャンは見惚れてしまう。

「本当は決勝を勝たせてって言いたいけど、それは言わない。もし何かしてくれるなら、そうね、会場を決戦の場に相応しく、華やかに飾り付けて頂戴」

「お安い御用さ!!」

チャンはアルジスの願いを叶えられる喜びに、胸を躍らせた。

■会場

「これで完全に元の姿に戻りましたね」

「タチバナ、舞台の幅に二ミリの誤差があるわ」

「む、誤差が生じるなんて美しくありません。厳しく測量してください」

数分前に突然、会場が宮殿を思わせるような成金趣味な姿に改築された。チャンのスタンド、モンキー=ビジネスの仕業だ。

スタッフたちは激昂したが、さんざん弄繰り回された舞台を元に戻すには時間がない。この大会のために何ヶ月も前から準備をし、腕を振るい、プライドを懸けて舞台を造り上げた彼らは、失意に打ちのめされていた。

そこにタチバナが立ち上がり、彼のスタンド【ブルース・ドライブ・モンスター】の再構築能力で、一瞬の内に舞台を作り直し、スタッフたちの自尊心と存在意義に止めを刺したところだ。

「当初は腕力が自慢の、ただ外したり繋げたりするだけの能力だったじゃない。いつからそんな神様みたいな力が使えるようになったの?」

「登場の度に段飛ばしで成長して、最後には世界を組み直せる程度の力を見につけていました」

「神様じゃない。世界を思い通りにする為に、何巡もやり直したサトヨシ涙目よ」

「私が邪な心の持ち主ではなく、世にも稀に見る崇高な精神の持ち主で良かったですね」

彼がその力で悪行を働くことはない。

コウは全裸で会場を闊歩する彼を眺めながら、「変態で良かったわ」と呟いた。
きっと、自身の美の追求が忙しくて、世界に興味が向かないに違いない。

「楽隊とか、大道芸人が来てるんだけど」

「追い払ってください」

それらは全てモンキービジネスの仕業だったが、またしてもチャンの贈り物がアルジスに届くことは無かったのである。

■決勝戦開始

インターバルを終え、両チームとも選手たちはすでに武舞台へと姿を見せており、客席のボルテージも最高潮を迎えていた。
ここまで素晴らしい闘いを繰り広げてきた彼らに、観客は感謝と賞賛、そして最後に相応しい死闘を期待して歓声を贈る。

「さて、スタンド使いドリームタッグによる激戦に次ぐ激戦も、ついに決勝戦を残すのみとなりました」

長かった一大イベントも、この闘いを最後に幕を下ろすことになるのだ。

「解説のタチバナさん! やっとここまで辿り着きましたね!」

「ええ、泣いても笑ってもこれが正真正銘、最後の…」

「企画が立ち上がってから、運営の不備だとか、書き手の怠慢だとか! 正直、客も懐かしすぎて、どんな試合内容だったかとか、覚えてないですよねえ!」

「そういう話は止めてください」

「特にこの四人は出番が多く、ネタが尽きているから、もう書きたくないと筆者は言っております」

「だから、そういう話はやめてください」

だって、もうやることないじゃん。

「では、決勝に残った二組について、タチバナさんの見解を聞かせてください」

「まず『いきものがかり』、このチームが残ったのは大健闘と言えるでしょう」

舞台上から解説席のタチバナにぶんぶんと手を振る杏子。それは決勝戦にしてはほのぼのとした、緊張感に欠ける風景だ。

「ほほう、でもこのチーム。能力の相性は飛びぬけてますし、チームワークもかなりのものです」

とはいえ二人は一般人だ。普段から戦闘慣れしている連中が多数出場しているこの大会で、拳を作った回数すら知れている女性のチームが、決勝戦まで勝ち進むだろうとは誰も思わない。

特に相手は、ここまでもその高い実力と機転を見せてきたER。『いきものがかり』の戦法は相性任せの奇策だ、それがしたたかさでは右に出るもののいない彼に通じるのだろうか?

そういう意味で、準決勝の『怪人ライダー』戦こそを真の決勝という見方をするギャラリーも多い。実際、素晴らしい試合だった。

「健闘を期待したいですね」


「タチバナさんが私のことを話している!」

嬉しそうにニヤける杏子と対象に、深刻な賭けをしているアルジスは渋い顔をしていた。

「私たちの分が悪いって言ってるのよ?」


一方、チーム『あの頃は若かった』、ERたちも舞台に上がる。

「さて、いつもの調子で頼むよ、チャン」

ERが景気付けに声をかけるが、チャンの様子が優れない。

「顔色が悪いが……まさか、前の試合のダメージが残っているのか?」

本職が医者のERだ、当然試合前のメディカルチェックはしている。深刻な怪我はなかったはずだ。

「ER……実に、実に言いづらいのだが……」

チャンはアルジスからの願いに息を撒いて、手持ちの金を全て使い切ってしまった。
慌てて現金を用意しようと、周辺に一軒しかないコンビニへ直行。ATMに向かい、「一度に10万単位でしか下ろせないとは、なんて不便な!」とボヤキながら、現金を下ろそうとした。
しかし、日本にも複数ある口座の全ての残高がゼロになっている……。方々連絡を取ってみるが確認は間に合わないまま、時間が来てしまった。

今、現金が無いということも問題だが、いったい我が身に何が起きたのか気がかりでならない。

破産?

不安に蒼白と呼べるほど、顔から血の気が引いているチャンを尻目に、決勝戦は開始される。

「実は……手持ちの現金が底をついた……」

「な!? なんでそれを早く言わないんだっ!!」

狼狽するER、しかしそんな都合を無視して、決勝戦開始のゴングが打ち鳴らされる。

「チーム『あの頃は若かった』

V S

チーム『いきものがかり』

決勝戦、開始です!!」

「ER! 必ず返すから、手持ちの現金を貸してくれ!」

「馬鹿を言わないでくれ、サイフなんて邪魔な物は控え室のロッカーだ!」

白衣のポケットに入っているのは、サイフはおいてきても手放さないセブンスターのタバコのみだ。

「これでも使ってくれ!」

そう言ってERが手渡したのは、たばこのフィルムカバー部分に入れていた、次のタバコを買うとき用の500円玉。

「こんなもので戦えるか!!」

「君が文句を言える立場か!!」


明らかに揉めている雰囲気の【チームあの頃は若かった】に、会場中が注目する。

「これはどうしたことでしょう……仲間割れでしょうか?」

コウがタチバナに意見を求める。

「猿が造反してるみたいですね」

「サル? それはチャン選手のスタンド名を指してですか?」

「いいえ、この2チームの共通点はお分かりですか?」

コウはぶんぶんと首を横に振ってみせる。

「アナウンスなんだから、意思表示は声に出してください。いいですか、この2チームの共通点、ここまでの試合内容という意味で、それは猿回しです」

「猿回しですか?」

「つまり、他のチームのように個々の選手が実力を発揮するのではなく、猿が飼い主に従順に従うことで結果を出してきたチームですね」

「なるほど、チャン選手を巧みに操作してきたER選手が猿回しということですね」

「当たり前です、本当に猿をパートナーにして参加する馬鹿はいません」

「いました」

「ちなみに【いきものがかり】の猿は当然 杏子です」


(「ええーっ!!」)


「あ、杏子選手、恋人からの猿呼ばわりに深刻なダメージを受けてる様子です。リタイアか!」


(「ああーー……」)


「大丈夫、意識はあるみたいです! つまり、ER選手とアルジス選手の頭脳戦が予想されますね」

「同時に、猿たちの根性の見せ所ですね」

「なるほど。 しかし、双方ともに立ち上がりから思わぬアクシデントに見舞われている様子、試合開始してください!」


「タチバナさんに猿って言われた……晴れの決勝の舞台に、顔がよく見えるように髪留めでオデコを出してきたにも関わらず、猿って言われた……」

「杏子! 大丈夫よ! ただの例え話なんだから、あなた今、すっごく可愛いわよ!」

四つんばいになってうな垂れる杏子、励ますアルジス。杏子はすでに戦闘不能の状態に陥っていた。

「ちょっと、解説コラッ! どうしてくれるのよ、これ! なんとかしなさい!」


「む、面倒くさいですね……杏子、その髪留め、とても似合っていますよ。仕方なしに似合っていると言っているのだから、差速やかに試合を開始してください」


「あの野郎……。杏子、ほら、可愛いって言ってくれてるよ!」

「うう……無理、愛してるって言ってくれなきゃ……私、立ち直れない……」

「この餓鬼……、解説! とりあえず嘘でもいいから言っといてー!」

とうとうアルジスまでが投げやりなやり取りを開始してしまう。


「さあ、愛してると、マイクに向かって、大声で」コウが面白がって後押しする。

「そんな恥ずかしいことができるわけがないでしょう……しかし、中立の立場として、選手の戦意を喪失させた責任は取らなくてはいけません」

タチバナはすっくと立ち上がり、解説席のテーブルの上に立ち上がる。そして、マイクを手に持ち、大きく息を吸い込んだ。その動作より、むしろなぜ裸であるのかが目を引いた。

「杏子! そのような言葉を公衆の面前で言うわけにはいきませんが! この試合に勝利したならば、私はいつ如何なる時でも、貴女の望む時に裸になることを約束します!!」

会場中に大音量で響き渡った宣言に、「さすが完璧な私、素晴らしい肺活量だ」とタチバナが陶酔し、皆が「すでに脱いでるし!?」と心の中でツッコミをいれたり、

「そんなもので立ち直れるか! この変態!」

アルジスが抗議したり、

「OK、この勝利あなたに捧ぐわ、タチバナさん」

杏子の闘志が熱く燃えあがったりした。


「さあ! 気合い入れていくわよアル姉!」

「猿よ、杏子、あんたは猿。聞こえてないわね、知ってるわ」

ようやくチームが睨み合い、相手の出方を伺い始める。お互いにパワー型でないゆえに消極的な立ち上がりだ。

「くっ、ER、私は何をしたらいい?」

「……さて」

ERは、スタンド発動によりできる掌の空洞から、滴り落ちる血液を硬化させた短めの剣を作り上げ、構える。
攻撃のためではない。武器があることを意識させ、相手が突っ込んでこないように牽制しているのだ。

ERは焦っていた。
チャンが万全の状態であれば、決勝の相手は準決勝に比べて楽な相手だと思っていた。しかしチャンが金を持っていないということはつまり、弾丸の入っていない拳銃に等しい。杏子が戦意を喪失したとき、一対一の状況が作れるかと思い、見通しが明るくなったものだが、今はすっかり本調子を取り戻している。

「予定外にもほどがある」

ERは冒険をしない主義だ。ちゃんと勝算がたたない限りは行動を開始しない。下準備には時間をかける。しかし現状は準備も何も無い。

警戒すべきはアルジスだ。彼女が能力で無機物に命をあたえることで、初めて杏子の能力が活きる。

アルジスが膝を付こうとした瞬間に、ERの手にあった剣が細い糸のように伸びて、アルジスの膝をカッターのように切りつけた。慌ててその場を飛びのくアルジス。

ブラッディ・クロスは途切れさせない限りは、自在に血液の形状や成分を変化可能だ。距離を届かせるには随分な量が必要なので、残念ながら舞台全体はカバーできないが、アルジスに集中すれば彼女の動作には追いつけるだろう。

「舞台を味方になんて、けしからんよ、お嬢さん」

ほら、彼女たちはまずそこから始めないことには拉致が開かない。アルジスの身動きを封じ、その上で先に倒してしまうのがいいだろう。

「チャン! 能力は使わせない。男の腕力でお嬢さんたちを黙らせるんだ!」

ERが後ろに下がり、チャンが前衛に押し上げられる。能力が使えないのだ、暴力に物を言わせてもらうしかない。相手はか弱い女性、能力さえ使わせなければ、チャンでも容易く二人をひねり潰すことができるだろう。

ゴン!

拳が硬いものを殴る音、容赦なく頭部を殴打した音だ、その破壊力に血を撒き散らし吹き飛ぶチャン。

「チァァァァァァァァァン!!」ERの悲鳴。

そして、フルスイングでチャンの顔面を打ち抜いた拳を、二人に向けて突きつけるアルジス。

「腕力で黙らせろ、かっこ悪い台詞ね」

馬鹿らしい、私の人生はコツコツまじめに過ごす日々、部活だってサボったことがない。毎日コツコツと労働に勤しむ私が、そんな財力にものを言わせ、苦労も知らず、肉体労働を一切しない優男に負けるとでも?

「そのストーカー、ぶちのめすのは飽き飽きなの」

ERの誤算、それはチャンが腕立て伏せを一度としてしたことがないという事実。

「予定外にも……」

誰しもが、パートナーのERもがチャンの醜態に彼への失望を隠せなくなる刹那、彼は立ち上がった。
いつもなら、この一撃で決着がついているところだ。しかし今回は違う。

「譲れない……約束があるんだ……今回だけは負ける訳にはいかないんだ……」

チャンの目に、命をも惜しまぬ覚悟の炎が燃え盛っている。例えどんなに非力な相手でも、こういう目をした敵を侮ってはいけない。必ず、起死回生の一撃を放ってくるはずだ。

アルジスがファイティングポーズをとる、すぐ横に杏子も並び立つ。

「おおおおおおお!! もんきぃぃぃぃぃぃぃ!! びじねぇぇぇぇぇす!!」

叫び、右手を高々と掲げるチャン。
答えるように「キキィ」と泣き声をあげて現れるモンキー・ビジネス。

そうだ、チャン! お前の意地を見せ付けろ! 男が引くことの出来ない性を見せてみろ!

その様子をERは期待に満ちた眼差しで見つめている。

「こぉぉぉのぉぉ! 五百円でぇぇぇ! 買えうるぅぅぅ! 最強の武器ぅをぉぉぉ! 我が手にぃぃぃっ!」

掲げられた右手には五百円玉が力強く握られている。モンキ−・ビジネスの目がギラリと光る。

「五百円デ 買エル 武器ハ ナイッ キキー」

静寂が舞台を包む。

沈黙。

「……無いの?」

「菓子クライ シカ 買エナイッ キキー」

「そうかー、そうだと思ったんだぁー。ガムとかしか買え無いよねー」

「ガム、毎度アリィ!」

モンキービジネスが消え、チャンは手に現れたガムを口に含む。

「駄菓子なんて普段食べないから、逆に新鮮だよね」

ゴガンッ!!

アルジスと杏子の渾身のユニゾンパンチがチャンを捕らえ、チャンは崩れ落ち、意識を失った。
彼が倒れた音に、400円が舞台を打つ悲しい音が響いた。

ERはもう彼の名前を叫ばなかった。

「何だこれ」

コウが実況としての役割を放棄した率直過ぎる感想を口にする。

「状況の説明をなさい」

彼女の職務怠慢を咎めるタチバナの額にも血管が浮いていた。

「おーっと、チャン選手、女に殴られて気絶したー! 満足ですか、タチバナさん?」

「大いに不服ですよ」

「他にどう表現したらいいんですか? それ以前に言葉を選ぶ価値がありますか? あの男に!」

確かに、見た目にはただ殴られてダウンしただけだ、しかも大会優勝を決める決勝の舞台で、ガム食っただけなのだ。それはヒンシュクを買って当然。

チャンは何もしなかったのである。しかしタチバナは、そこに違和感を感じていた。

「なぜ、彼は殴り返すなり、防御をするなりの動作を見せなかったのでしょうね?」

タチバナの疑問に、コウが「チャン選手はアルジス選手に好意を持って、追い回している。という情報があります」

好きな女に手を上げられなかった。最もな理屈だ。


「やった! アル姉!」

「さぁて、これで二対一ね」

アルジスが杏子とハイタッチをする。
チャンの軍資金が尽きていた。それをギャラリーは彼女たちの幸運だと思っている。しかし、事実は違う。

「備えあれば憂いなし」

不適に笑むアルジスに、ERは苦い顔をした。

「やれやれ、先手を打たれていたみたいだね」

チャンが有り金を使いきった。それはチャンがアルジスとの運命を賭けた勝負に相応しい舞台を作ろうと、手持ちを全て捻出したせいだ。しかし彼の財産は無尽蔵、このとき彼の頭の中にはまさか無一文で試合に臨む想像など微塵も無かった。しかし、何故か数多ある銀行口座から現金を用意することができなかった。

なぜなら、そのATMはすでにアルジスのラブトークの支配下にあったからだ。

そう、幸運ではない。周到な用意により招き入れた優位だ。

まさに、試合前に対戦相手に毒を盛るがごとき所業!

「とか、文句を言うのはナンセンスだよね。スタンド使い同士の闘いでは」

試合開始前の仕込みに文句を言われると思ったアルジスは、ERの潔い言葉は意外だった。

「猿を無くした猿回しに、仕事ができるのかしら?」

「そうだね、なら猿を二匹躾けるところから仕切りなおすとしよう」

ERの手に握られた真紅の剣は二本に割れて、棒状の鈍器、トンファーへと形を変える。
ERが彼女たちを咎めないのは、一対二の現状がまったく彼へのプレッシャーになっていない、つまり自信の表れだった。

「キミたちのスタンドは敵との間合いがゼロの場合、攻撃力を発揮せず、格闘で応戦する以外に手段を失う。非力なお坊ちゃんを倒せたとは言っても、キミたちの身体能力は高く無い。スタンドを使わなければ、二人がかりだろうと私は絶対に倒せないよ」

ERはその慎重さゆえに後衛を好むが、彼はもともとが戦闘のプロであり、接近戦の能力は二人を遥かに凌駕する。そして、血液を操作する技が近接でこそ威力を発揮することを隠している。
アルジスを無力化すれば、生物に触れていなければ能力が発動しない杏子もまた、無力。アルジスをさっさと倒す。パートナーが倒れても、ERの作戦に変更は必要なかった。

「おじさん、考えがあまいんじゃないかなぁ。アル姉が生き物を造らなくても、生き物はいるじゃん」

そう言って、杏子はアルジスに並び、その手をつなぐ。

「殴り合いでは私たちはおじさんに勝てない、けど、これで私はエレチュンを使い放題。お望みの接近戦に応じてあげる、さあ、入ってきてよ、私の能力の有効範囲に」

「やれやれ、優秀なお猿さんだ」

ERはトンファーを構えて一気に距離を詰めてくる。
それは彼女の予想を、そして反射速度を遥かに超えたスピードでアルジスの中心を捕らえる。

危ない! そう叫ぶ間も惜しんで杏子はエレクトロ・チューンの能力で、ERの足の自由を奪う。
ERの足がその意志に反して、アルジスの手前で地面に踏ん張ってブレーキをかける。

ありえない速度、そして破壊力を内包した動作だった。そうしていなかったら、今の一撃で勝負がついていた。杏子がそう確信すると同時、

「甘い」

ERが届かない距離で繰り出したパンチが、アルジスの頭を弾く。アルジスは弾丸でも食らったように崩れ落ちた。

「アル姉!?」

杏子は手を繋いだまま、ダラリと地面に横になるパートナーに呼びかけた。


「杏子選手のエレクトロ・チューンで足止めをした直後、ER選手の手に握られた武器の形状が変化、その長いリーチがアルジス選手の脳天に痛烈なヒット! 一撃で試合をひっくり返してしまったーっ!」

「彼の人間離れした瞬発力に、二人とも虚をつかれた形になってしまいましたね」

「まさかER選手がそれほどの身体能力を持っていたとは……その実力を決勝戦まで隠していた! 恐るべしER!」

「まさか、あれほどのパワーを素で出せるわけはありません。恐らく、彼は血液を操作する能力で、血流の速度を上げ、パワーアップしていると考えられます」

「つまり、解り易く説明すると?」

「ギア2です!」

「解り易いけど、それは言ったら駄目だあああっ!!」


追撃を恐れ先手を打とうと、杏子が苦し紛れにERの腕を操作し、その腕でER本人を殴打する。

なんの抵抗も無く自らの拳を顔面に受けるER。二撃、三撃、倒れるまでと打ち続けるが、そのたび金属同士をぶつける様な不可解な音が響き、ERは倒れず、そのうち操作していた腕がピタリと伸びて動かすことができなくなった。

「そんな……」驚愕する杏子。

ERは拳と顔面で血液を鉄のように凝固させ、殴りつけた衝撃は表面を傷つけ、内にはダメージが届かず、今は腕を一本の棒のようにし、間接を操作できなくした。

「接近戦に向いてるんだよ、ブラッディ・クロスは。ただ、肉体への付加が激しいからね、健康を大切にする医者としては避けたいわけだ」

悠々と杏子を見下すER。

「ご主人が倒れてお猿だけが残ってしまったね、さあ、どうするお嬢さん? ここは建設的にリタイアをお勧めするが……」

ERの説得を無視して、杏子は意識の無いアルジスの腕を両手で取り、引きずりながら、ERとの距離を離していく。

「諦めが悪いな、それを手放せば能力を使えないのは分かるが、まさかそうやって人を引きずりながら戦うつもりかい? 諦めなさい。でないと、とてもとても痛い思いをすることになるよ」

離れていく杏子を一定の距離を保って追いかけるER。

「ありえないっつーの。女好きそうな顔して、まったく容赦も油断も、ないんだから……」

追い詰められて尚、杏子の瞳には強い意志の光が残っている。そして、その気持ちが気絶しているアルジスに届くと信じるように、その手を強く握りしめた。

「なら、こっちだってね、 奥の手 見せてやるわよ!」
奥の手、操作するのは手でも足でも無い、『呼吸器官』だ。呼吸器の自由を奪って、窒息させる!

「エレチュン!」

杏子が凛々しく、ERを指差す。

「これは……!?」

声を発する余裕も無いER、呼吸ができない状態で激しい動作、冷静な思考はできない。適切な行動が取れなければ、呼吸困難でまもなく意識を失うだろう。

「やった!」

杏子が成功に歓喜の声をあげた瞬間、ERの体の数箇所が突然に裂け、血が噴出す。

「え!?」

予期せぬERの反応に悲鳴を上げる杏子。その鳩尾にERの拳が突き刺さる。呻く様に蹲る杏子。

「浅かったか」

一撃で戦闘不能にできなかったことに舌打ちをするER。

傷口からの流血は一瞬で収まった。血液から直接酸素を体内に送り込むために、必要な部位にいくつか傷を造ったのだ。人体を熟知した彼でなければできない芸当だった。

「狙いは分かるけど、素人考えは通用しないよ、俺は本職なんだから」

杏子は追撃をもらうまいと、ついにアルジスの手を離して、その場を駆け出す。

「万策尽きたね。足の速さでは勝負にならんよ」

今まさに彼女は無力だ。

杏子はスタンド能力を持っていなければ、普通の女子高生でしかない。
そして力を持っていても野心家でも無い彼女は、大した悪事を働かない。
怠け者で、なんとなく毎日を過ごし、美味しい物を食べては喜び、可愛い物を見ればはしゃぎ、それだけの日々を送るだけの、普通のなんでもない女子高生だ。
単純で、同時に二つのことは考えられない。その時に夢中なことに全力なだけの少女。

「負けを認めるべきだ」背後にERが迫る。

杏子はべつに楽しめるだけのお金があれば大金なんていらない。
ましてやスタンド使いたちを打ち倒して強いなんて認められたいとも思わない。
勉強も、運動もあんまりできないし、どうしてもできたいとも思わない。
でも、杏子は戦ってこれた。結果を残している。なぜそうしてこれたか、
大好きな人を大好きでいたから、そして好きな相手の為に本能に任せて全力で走ってきたから、

大好きなタチバナさんが見てる、大好きなアル姉の期待に応えたい! 喜ばせたい! 一度に二つのことが考えられないから、『勝ち』と『負け』の二つがあるなら、『勝つことしか考えられない』!!

そこに彼がいるなら、杏子は絶対にあきらめない。どんな時だって。

「私は疑わない、大好きな人を信じて疑わない、それが嘘でも、間違っていても、それを信じて出した結果に私は満足できるから!」

それでも、杏子にはERを打ち倒すことは絶対にできない。

「つかまえた!」ERが杏子に追いつく。

打ち倒せないから、場外に叩き落して、そこに10秒間だけ縛り付けておく。

止めの手刀が杏子の背に突き出される、その先端からは血液でできた小さな針が伸びている。
攻撃が届く刹那、ERが派手に転倒して、場外に転げ落ちた。

杏子は能力を使えない状況に追い込まれた。そうERを含め、会場中の人間が思い込んでいた。いや、思い込まされていた。
自信ありげに手つなぎ作戦を披露したのも、窮地に陥ってなおもその手を離さずひきずって移動して見せたのも、「杏子は一人では能力を使えない」そう思わせるため、わざわざ『奥の手』なんて言って聞かせたのも、作戦が残されていないと思わせる為、ここまでが全てシナリオだ!

アル姉の立てた作戦を信じてやりきる! 私は猿でいい。

カウントが開始される。
たったの十秒、手で地面にしがみつき、その手が通用しなければ足の自由を奪い、操作部位を次々に変えて、対応できなくする。

「勝った!」杏子が宣言する。
会場が賞賛の声であふれ返る。

しかし、場外負けのERの姿は舞台の外から消えていた。
リングへと駆け上がるER。カウントは……残り1

突然にエレクトロ・チューンの支配が途絶えていた。勝利を確信していた杏子は失意に刈られながら、前髪を束ねる髪留めに手を触れる。

ERがらしくない大声を上げる。

「役立たずと罵って悪かった! 撤回するぞ、チャン!」

振り返ると、離れた位置に倒れながらも手を掲げているチャン、その手には杏子の髪留めが握られていた。

「試合開始時、すでにこの髪留めにラブトークで命を宿らせていたな?」

チャンの指摘は当たっていた。髪留めが生きていたから、杏子はいつでも能力を使えた。

「……なんで気づいたの?」

「私がアルジスに殴られたとき、それが完全な形で決まるように、また反撃が無いように、キミは彼女を心配をして僕の自由を奪ったね。それは一瞬だったから、確信はなかった、だが疑念は湧いた」

だからといって、それが髪留めだとどうして特定できたのか、どうしてそれが彼の手にあるのか、杏子は疑問の表情で答えを求める。

「この髪留め、恋人の前で張り切って付けたのが動機にしては飾り気が無さ過ぎる。決勝戦での作戦が思いつき、慌てて用意したといったところだろう?」

そうのとおりだ、二回戦で着替えを行っている杏子が髪留めを増やしたところで意に介されない、目がいかないように地味なものが良いと考えたのが裏目に出た。
そして、それはチャンが現金を用意するためによったコンビニに同じものがあった。

「この髪留めが、無くしても翌日には忘れるような安物であること、そこに私は賭けた。中古品をいくらで手放すか、それを決めるのは持ち主だ。400円で足りたよ、そうでなければ、モンキー・ビジネスで買い取ることはできなかった」

もし髪留めが高価なものであったり、または命を宿したのが別の物であれば、チーム『いきものがかり』の勝利だった。

ガックリと膝をついた杏子、ERが背後に立ったことに気づいて立ち上がるが、打つ手は無く、ERが彼女に触れた手から血液の針が伸び、小さな痛みを感じると同時に、彼女の意識が途絶えた。

彼女の体内に入った微量の血液が瞬間固まり、血流を遮断したのだ。

崩れ落ちる杏子をERはやさしく横たえる。


「決着ぅぅぅぅぅぅぅ!! 今ここに全ての戦いの決着がつきました!!」

コウが高らかに宣言する。



☆★☆ チーム『あの頃は若かった』 優勝 !! ★☆★


大会が終了し、すべての後片付けが滞りなく済みました。

反省点はなんでしょうか? それは間違いなく、私の試合が組まれていなかったこと、加えて美しすぎる私が解説席にいることで、選手たちの命を掛けた瞬きすらも霞ませてしまったということ。
途中、実況と解説が入れ替わったりあやふやになってしまいましたが、それすらも私のパフォーマンスの幅の広さを証明することでしかありませんでした。

逆に良かった点、それは選手たちが個々の能力をいかんなく発揮し、これまでに無かったほどの名勝負を繰り広げ、解説席の私が美しかったことでしょう。
そして、私が美しい。そればかりはどうしようもない事実なのです。

さて、興味は無いでしょうが、優勝チームのその後について一応話しておきましょう。

決勝直前に交わされた約束を果たすため、アルジスはチャンとの交際を開始しなくてはなりませんでした。それゆえに杏子は後一歩で勝利を逃したことを酷く後悔し、アルジスに謝罪をしたのですが、アルジスは「気にしないで」と言って出て行き、翌日には何も無かったかのように帰ってきました。

お付き合いをして、お別れをしたという結果を出して、文字通り何事も無く、単に振ってきたわけです。

チャンは失意の果てに意識不明で病院に搬送されましたが、しばらくすればまた彼女の前に姿を現すことでしょう。果たして、「勝利したら、二度と彼女の前に姿を現さない」というアルジスの願いが叶わなかったことが、チャンにとって幸か不幸か。
終わりが無いのが終わり。無限地獄、報われない努力もあるのです。

そしてER。思えば、なんだって彼はチャンをパートナーに選んだのでしょう? 能力の相性なら他にいくらでも相手がいるだろうし、チーム名もチャンを表しているとは思えません。医者と大富豪、この組み合わせの意図はなんだったのでしょう? それを馴染みのBARのマスターが尋ねると彼は、

「チャンを選んだ理由? 金に頓着しないアイツとなら、優勝賞金の分け前を多く貰えると思ってね」

そう言ったとか言わないとか。
真相は謎のままですが、賞金は全額彼の懐に入ったという噂です。

お楽しみいただけたでしょうか? これで企画の完成とさせていただきます。
キャラクターが無数に生産されていくオリバト世界で、再びキャラクターたちにスポットが当たるかどうかは企画しだい。再開できることを心よりを願っています。

それでは、新しい物語で。


to be continued...

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