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私的文章倉庫コミュのウインナーコーヒー

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珈琲の香りは、あの日の君を連れてくる。





君は、心に帳の無い人であった。

目に写る物全てを歓び、その感性は君を美しくした。
日毎花開く君の隣りで、私までも美しくなるようであった。


私達は休日に珈琲を飲んだ。
遅い朝を二人で過ごしながら、繰り返し他愛も無い話を重ねて時間を充たした。
そして、気分の良い日には、少し硬めの生クリームを浮かべ、そのまま夜まで並んで座った。

私の言葉に耳を傾け、嬉しそうな口元の君。
その瞳を見ていたくて、私は絶え間無く話を紡ぐ。

笑い、泣き、驚き、怒り、そうして、また一口生クリームを含む。

とても幸せな瞬間であった。





君が私に最後の珈琲を手渡した時も、生クリームが浮かんでいた。

両手でカップを抱きながら、私達は座らなかった。
私が言葉を口にする度に、君は小さく頷きながら涙を溜めた。

口元は撓み、決して開く事は無かった。



そうして、全ての言の葉を落とした私の前で、君ははたはたと雨を降らせた。
何度も何度も、『ごめんね。』と囁きながら、その時まで私を気遣っていた。


もう、私達が並んで座る事は無かった。





さようならを沈めながら飲む珈琲は、何処までも深い様であった。
モザイクのテーブルに置いたカップには、すっかりと熱を失った君の分だけが残されていた。








扉を閉める時に見た生クリームは、カップの憂鬱に崩れて跡形も無くなっていた。

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