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感動の話コミュのペルーのちょっとイイ話

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「カミーロのTシャツ」

それは、彼がまだ小学生の頃の話だ。
ペルーでは、日本では考えられないほど貧富の差が大きい。
彼が生まれ育った首都リマでもそうだった。
彼は比較的恵まれた家庭に生まれた為、近所の子供同士でサッカーをする時も、
芝生とゴールのある場所で普通にサッカーボールを蹴っていた。
時々、彼は貧しい地区の友達にサッカーを誘われた。
彼の従兄弟がその地域に住んでいたからだ。
貧しい地区の子供は、裸足で、布を丸めたボールを蹴っていた。
そしてサッカーが終わった後も、インカコーラではなく、只の水を飲んでいた。
コーラなんて高くて買えないのだ。
「なんでこんなに差があるんだろう?」
彼は子供なりに一生懸命考えたが、その答えは出なかった。
でも、彼は貧しい方のサッカーに心惹かれた。
勝ったときの喜びが違ったのだ。
絶対に負けたくないという気持ちが全面に出ていて、自然とプレーも激しいものになった。
時にはケンカもした。
それでも、豊かな地区では決して味わえない楽しさがそこにはあった。

貧しい地区に行くと、なぜかいつも彼を目の敵にする少年カミーロがいた。
どうも、彼が豊かな地区の子供であることを妬んでいるようだった。
いつも負けん気をむき出しにして、激しく当たってきた。
そして、彼が12歳の時だった。
その日のカミーロはいつもよりも一層激しく挑んできた。
彼は左膝を思いっきり蹴られた。
あまりの痛さに骨が折れたのではないかと思ったくらいだった。
彼は泣いた。
しかし痛さで泣いたのではない。
何もできない悔しさで泣いたのだ。
相手は3歳も年上で体も大きかった。
しかし彼が偉かったのは、悔しさで泣きながらもプレーをやめなかったことだ。
彼は涙を流しながら、最後までプレーを続けた。

サッカーが終わって、彼が一人でバスを待っていると、カミーロが近づいてきた。
「ごめん。悪かった。」
カミーロの手にはTシャツが握られていた。
カミーロは無言で差し出した。
一番大切にしていたTシャツだった。
彼は黙って、そのシャツを受け取った。

それがキッカケだった。
目に見えない壁が取り払われた気がした。
その日を境に、彼は本当にカミーロたちの仲間に入れたと思った。
正直、それまではカミーロを怖いと思っていた。
それが、次の試合では本当に楽しくサッカーができた。
そしてカミーロと友達になったことで、思わぬ副産物もあった。
貧しい地区は犯罪も多く、彼がサッカーをした後に自分の持ち物の所へ戻ってみると、きれいさっぱりなくなっていたりする。
バス停から従兄弟の家までのわずか10分の間にカツアゲに遭い、お金を盗られたこともあった。
しかしそれがピタリとなくなった。
どうも周りから仲間だと“認知”されたようだった。
もしかしたら、カミーロが裏で手を回してくれていたのかもしれない。
大人になった今でも、カミーロとの交流は続いている。
結婚式にも呼ばれた。
ペルーに帰れば必ず会いに行く。
そして酒を酌み交わす。
その時の話題と言えば、毎回“あの日の膝の怪我”の話である。
あのTシャツは、もちろん今でも彼の宝物だ。


彼のお気に入りチームは「アリアンサ・リマ」だった。
ペルーを代表する強豪チームだ。
ライバルは、同じリマを本拠地とする「ウニベルシタリオ」。
大雑把に言えば、アリアンサ・リマは労働者層、ウニベルシタリオは上流階級、という色分けになる。
彼はよく、忙しい父親に代わって母親に連れられて、スタジアムへ出かけたものだった。

事件は、彼が13歳の時に起きた。

彼が家に帰ってみると、母親が台所で泣いていた。
いつもは玄関まで出迎えてくれるのに。
聞くと「アリアンサ・リマの飛行機が落ちた」という。
選手・チーム関係者38名が亡くなったのだ。
テレビは延々そのニュースを流し続けていた。
見続けているうちに、彼は悲しくなり泣き出してしまった。
リマの町は悲しみに沈んだ。
父親も叔父も選手の葬儀に出席した。


シーズン途中で、突如チームは消滅した。


しかし周囲からは救いの手が差し伸べられた。
チリの強豪コロコロは、無償で選手4名を貸し出してくれた。
アリアンサ・リマを引退した元選手たちも現役に復帰した。
その中には、ペルーの英雄「クビージャス」も居た。
アリアンサ・リマは継ぎ接ぎだらけの即席チームで、なんとか残り試合を戦った。
中でも彼が特に感激したのは、事故のチャリティーマッチに、ウニベルシタリオの選手がアリアンサ・リマの選手として出てくれたことだ。
アリアンサ・リマは選手の数がまだ充分ではなかったのだ。
収益は全額遺族に寄付された。

いつもライバルだったウニベルシタリオのサポーターも、この日ばかりは共にアリアンサ・リマの応援歌を歌ってくれた。

その日のスタジアムの光景を、彼は生涯忘れないだろう。


エルゴラッソ305号
いとうやまねさんの記事より















【エピローグ】
事故の傷も癒え、チームも安定してくると、アリアンサ・リマもウニベルシタリオも、いつもの強烈なライバルに戻っていった。
そして、ウニベルシタリオのサポーターからは「フォッケル!フォッケル!」というコールが起きた。
フォッケルとは、墜落した飛行機の名前だった。
「最低でしょ?」
そう言って、大人になったマリオは笑った。

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