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原作を作ろうコミュの「声優物語〜The Stories of Voice Actresses〜」

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「遅い!」
業界で最も畏れられている音響監督、小辻さんの声がブース内
に低く響く。誰に言ったわけでも無かろうに。俺は間抜けにも
返事をしてしまった。
「はぁ、そうですねぇ...」
ギロリと睨まれる。
「(ヒッ!)ちょ、ちょっと様子を見て来ます!」
総毛立つとは、この事を言うのだろう。慌てて廊下に逃げ出し
た。丁度、其処へこの騒動の大元である神崎朔哉のマネー
ジャ、韮澤さんが走って来た。最近、天狗になっていると噂
されている朔哉のマネージャにしては、腰の低い良い人だ。
その韮澤さんが、いつにもまして小さく見える。無理も無
い。今日は、深夜アニメとは言え、この春の話題のアニメの
一つ、人気ライトノベルが原作の「宝石(いし)が見る夢」
のアフレコの初日なのだ。出演声優と音響スタッフだけなら
ともかく、番組関係者、所謂、お偉方の面々が顔を揃えてい
る。その主役を務める朔哉が一向に現れないのだ。無言、有
言を問わないプレッシャーを一身に受けて、いまや針のムシ
ロどころではないだろう。俺ならとっくに逃げ出して、ア
パートで田舎に帰る準備をしているはずだ。その韮澤さんが
掠れた声で、
「あぁ、姉ヶ崎君、まだ朔哉がつかまらないんだよ。」
「...そうですか」
俺に言っても仕方が無い事に気付いたのだろう。思わず掴ん
だアシスタントの肩から力無く手を離すと、今、最も会いた
くない人間が待つブースの中に消えて行った。韮澤さんには
気の毒だが、とても、同じ扉をくぐる気にはなれない。俺は
踵を返すと、出演者がスタンバっているアフレコルームに足
を向けた。

コメント(1)

しかし、だ。アフレコルームに向かう途中、俺は頭を捻った。
業界最大手の事務所、ヒューマンプロが今最も力を入れて売り
出している人気声優の朔哉とは言え、何の連絡も入れず、マ
ネージャにさえもだ、2時間以上も遅刻するだろうか。
小辻監督は怖い。ああ、怖いなんてものじゃねぇ。思わず身震
いする。今時の物怖じしない若者の新人声優でさえ、小辻監督
の指導−いや、あれは指導なんてものじゃない、敢えて言うな
ら、しごき?−を受けたら泣いて逃げ出すか、良くてもアフレ
コ終わりに全気力を使い果たしてへたり込むか。気が付いた
ら、丸1日経っていました、なんて事もあったっけ。思わず苦
笑する。しかし、その音響監督の腕は高く評価されている。監
督が手掛けた作品の音は素晴らしく、世界的なアニメクリエー
ターからのオファーも絶えない。あまりにも良過ぎて音の方が
作品の方を食ってしまう程だ。彼に育てられた(ついて来られ
た)声優にもビッグネームが揃う。確実に日本を代表する、世
界に通用する音響監督の一人だ。
作品制作発表会で朔哉も開口一番、小辻監督の名前を出してい
た。監督と仕事が出来るのが何よりも光栄だ、と。あの時の彼
の顔は、その後のどんな発言の時よりも輝いていた。あの言葉
が嘘、あの顔が演技だったとは思いたくない。本来ならば誰よ
りも早くスタジオ入りして、挨拶に来ている筈だ。
もしかすると、本当に何かあったのかも知れない。ふと、そん
な考えが頭をよぎった時、アフレコルームの扉の前についた。
重厚な扉のノブに手をかけようとして、躊躇する。
「ふぅ。」
問題は朔哉だけではない。この扉の向こうに居る六人の姫君達
の事を思い出して、溜息が漏れる。実際問題、頭が痛い。だが
いつまでもこうしているわけにもいくまい。俺は意を決する
と、金色のノブに手をかけた。

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