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「はなさきこ」お話の小部屋コミュの沖縄海洋博、珊瑚の首飾り、パンタロン (前編)

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ーある青春の一ページー


1.カチンコ沖縄が返還されて、海洋博が行われた頃、私は青春真っ盛りだった。。

ロンドンではツィギーという、小枝の様に華奢(きゃしゃ)で、背の高いモデルさんが流行っていた頃だ。 目はこれ以上大きくならないだろうと思われる位に、アイライナーを入れていた。

ズボンも、パンタロンと呼ばれる末広がりのベルボトムだった。
(そうだ、ラッパズボンだ)

私は平均よりも、いくらか背が高い方で、スタイルもまあまあだと自己満足ている。
だからこの流行に乗って、パンタロンやジーンズも履いてみたかった。

だのに、母はなかなかオッケーを出してくれなかった。
ツィギーが超ミニを着て、美空ひばりが「真っ赤な太陽」発売に、ミニドレスを着るようになると、“私の娘にも・・”と思ったのだろう、母は私にも何枚かミニドレスを買ってくれた。

うちはミニが良くて、何故ズポンはいけないのだ??・・・
二十歳も過ぎて、少々世の中に馴れて来た事も手伝って、私は母に内緒でパンタロンを買った。
それをある日出勤する朝に、知らん振りをして着て行った。
母の出掛けるのは、私よりも少し早かったから、見つからずに済んだものの、帰りには困って、母が寝た頃を見計らって帰った。

このパンタロンは、限りなく白に近いベージュで、生地は厚手のサテン風だった。
おしりにピッタリで、その曲線は膝まで続き、そこからヒラ〜っと裾へ広がっていた。

靴も厚底で、ヒールは太く大きく、私がそれを履くと、(殆どはパンツで隠れてしまったが)多くの人達を見下ろす形になった。
ヤヤ〜〜、世の中が違って見える!

いつもコンサバティブな、お嬢様風の洋服を着せられていた私が一変した・・・様な気がしたものだ。
職場での評判も良かった。
だからある日、堂々とそれを着て帰宅した。
どうやら、母も気に入った様だった。

次の日曜日に、二人で伊勢丹へ買い物へ行くと、自分の為にはイージーオーダーで注文し、私のは、既製服売り場で、真っ赤なパンタロンスーツに、黒の細めのベルトが付いているのを買ってくれた。

翌日それを着て出勤すると、会社の社長室長に呼ばれた。

私の所属する経理課は、社長室下にあった為、きっと何か用事でもあるのだろうと社長室へ向かった。
そこの秘書さんが、私を室長室へ案内し、私はOO室長とお会いした。 
あっ!この人は・・・と頭の中を霞めたのは、この年のお正月の新年会での事だった。

それは何かと言うと・・・
私は新入社員で、皆さんへの自己紹介をしながら、お酒をついで回った時の事だった。

室長とお話をするのは初めてだったと思うが、どの方が偉い方で、その他大勢かも区別が出来なかったし、兎に角、皆さんに新年のご挨拶をしながらお酒やビールをお注ぎして、自分も頂いたと思う、が・・・
(頂いたに決まっている)

つい羽目をはずして、
(余興も何もないのに飽きてもいたし、)
「私、小唄を少々習いましたが・・」と言うと、
「あ、そうですか、それは一つ聞きたいですね」

ーで、唄ってしまった〜!

「迎春」でもあるし、「春風さんや〜、主の情けで〜咲いたじゃ〜ァァないか・・」という恋歌だった。

それで止めておけばいいものを、干支の話が続いて、室長が仙台出身と分り、前の年の冬、釜石、松島へ一人旅をしたお話をして、「エンヤーとっと、エンヤーとっと」の掛け声で始まる、大漁節まで歌ってしまったのだ・・・ 
今から思うと、本当にアホかいなと思うようなお話だ。
 
でもそれが、私なりの若さだったのかもしれない・・・

そしてお話は元に戻ると、

「貴女のそのスーツは何処でお買いになったのですか?」と聞かれ、

「はい、新宿の伊勢丹です」と答えると、

「とても良いですね。 うちの受付嬢のユニフォームにしたいと思います。 出来れば商品名を教えて頂けますか?」

一体室長はどこで私を見たのだろう??
と、私は不思議そうな顔をしていたと思う・・・

「今朝、貴女をエレベーターの中で見ました。」
と聞かずとも、答えは成り行きで返って来た。

仕事に戻って来ると、目と鼻の先に居る受付嬢、兼電話交換士が、待ってましたとばかりに聞いた。

「私達にも連絡が入ったのよ、新しいユニフォームのことで・・それというのが、貴女の着ているパンタロンスーツだって言うじゃない?!、今皆んなで話し合っている所なのよ!貴女も一緒に部屋へ来ない?!」と誘われた。

彼女達の部屋へ案内された私は、その話よりも交換台が面白かった。
目の前で同僚の一人が、外線から架かって来る電話を、手際よく捌(さば)いていた。

それから暫く経つのに、彼女等のユニフォームは、以前と一向に変らぬブルーの上っ張りだった。

「どうしたの? あの話は??」と受付嬢の一人に聞くと・・・

「ああ、あれね・・OOさん達がスカートも欲しいって言い出して、駄目になっちゃったのよ」と言った。

「ふ〜〜ン、残念だったですね〜」
私だったら、オファーされたまま、喜んで全面的にお受けするのに、集団生活は実に難しい。

それからまた暫くして、ランチタイムに、階下のざくろ(料理屋さん)で昼食を済ませた総務の部長さんやその部下、室長の取り巻きと出くわし、食後のお茶に誘われた。

だから一緒に経理部で働く、ナベ(渡辺)ちゃんも誘ってゴチになった。
同僚は私と同じ歳で、相手グループは私達からすれば、かなりオジサンに見えた。

何が面白いのか、その後も食事やお茶をご馳走してくれた。 だから気心も分った頃は、こんな質問も出来るようになった。

「電話交換士には、技術手当てがありますね、そして和文タイプのOOさんにも・・・私も辺(ナベ)ちゃんも経理課に働いて、算盤も出来るし、暗算も出来るのに、算盤手当てが付いていなんですが、、」とまた馬鹿なことを言ってしまったのだ。

ああ!それなのに、次の月のお給料日に、同じ経理部でお給料担当のオカザキ君が、私達の傍へ来て「二人共臨時昇給だね?!」とそっと言った。

本当だ! 辺(ナベ)ちゃんに聞くと、同じ額だけ手当てとして上がっていた。

上で働く人は、その人の一存で何でも変える事が出来るのか!?
まだ世の中の仕組みを、良く知らない私には驚きだった。

言ってみるものだ・・・

そしてその晩、辺ちゃんと私は、オカザキ君と私の仕事相棒でもあり、彼の友達の伊藤さんを誘って、奢ってあげたのだ。
(いつも、奢ってもらいっぱなしの私達だったから)




2.カチンコ 七階出店、植村の150円社員弁当、角刈りギョロメの板さんとその兄貴分


私の働く経理部の上には、総務部と社長室そして、社員食堂があり、植村の出店があった。
だから社員弁当は、格安の150円で用意されていた。

ナベちゃんも私も、たまにお弁当を持参したが、大体の場合はこの植村のお世話になった。

私達社員は、店の横に下がっている暖簾を開いけて、「お願いしま〜す!」と言うと、角刈りギョロメの板さんが、「あいよ!」と言って手渡してくれる。

最初はなんか取っ付きにくそうな、ヤクザ風の印象で、ジロッっと見られたが、その内ジョーダンを飛ばすようになった。

このあんちゃんの田舎は東北で、なかなか陽気な人だった。
本名を知らない私は時々、「植村く〜ん、特製弁当一人前〜!」なんてからかっていた。

私の悪い癖で、兄をおちょくっては母に叱れていたから、きっとその癖は外でも出たのだろう。(困ったものだ)

それでも友達になった、角刈りギョロメあんちゃんは、私とナベちゃんの弁当の蓋をちょこっと開け、余分な物を入れてくれた。

歳はきっと、私達よりも二歳か三歳上だったかもしれない。

もう一人は、渋くドスが利いていて、前掛けの付け方からして貫禄があった。
それは、角刈りギョロメの兄貴分というより、板場の責任者だったのだろう。

ちょっと顔がかしんだ丸顔で、髪はキレイな丸刈りにしていた。(これじゃ印象が丸々だが、)

ある日お弁当を取りに行くと、年配の女の人とこの兄貴分(名前は井上さん)が何やら話し込んでいた。 私達に気づくと女の人は、店の方へ行ってしまった。

「あの人が植村の女将さん?」と聞くと、

「うん、そうだよ」

「女将さんも時々は、ここへも来るんだ!?」とまた聞くと、

「うん、今日はちょっと日本橋で人手が足りなくてサ、手伝いに行かなきゃならないのよ・・」

「へ〜そうなの、掛け持ちか〜、大変だね。」

「宴会か何か?」

「そうそう、三つも入っちゃったから猫の手も借りたい位らしいよ。」

「私、手伝おうか?」

「う〜〜ム・・」

「芸者さんは出来ないけどサ、仲居さんのお手伝いなら出来るかもしれないわよ?」 (ここでお互い爆笑!!)

「あああ、そういうことね・・」

「そういう事よ!」

「女将さん〜、ちょっとすみませ〜ん」

と井上さんは先ほどの女の人を呼ぶと、

「この子がね、今晩うちを手伝ってくれるって言ってるんですが・・」

「あ〜ら、可愛いわね。 始めまして・・本当に手伝ってくれるの? 大丈夫?」

「はい、大丈夫です。 出来るわね、ナベちゃんも!」

ナベちゃんは私の横で、事の成り行きをキョトンとして見ていた。

でもつられて、「はい」と答えた。

それで決まった。 今晩ここでの仕事が終ったら、日本橋へ行く・・・




3.カチンコ 日本橋植村本店、ナベちゃんと私のアルバイト


そして私達は赤坂から銀座線に乗り、日本橋へ向かった。

昼間会った女将さんが出て来て、仕事の段取りの為、責任者のお姉さんを紹介してくれた。
私達の仕事は、この仲居さん達が下げて来た食器類を厨房へ運ぶことだった。

若く元気一杯のナベちゃんと私は、キビキビと働いた。 
(いい運動だ)

宴会も終わり、座敷も店も静かになってきた頃、私達はお姉さんに呼ばれ、小さな部屋で夕飯を頂いた。
帰りには女将さんが、この日のアルバイト代をくれて、私達は家路に着いた。

帰りの地下鉄銀座線、丸の内線を乗り継いで、ナベちゃんは小田急線に乗り換える為、新宿で降り、 私はそのまま中野坂上まで行き、方南町の単線に乗った。

家に帰ってこの話をすると、母も兄も呆れていた。 
一体この娘は何をやり出す事やら。。と言う訳だ。

この後も植村さんからは、何回かお手伝いを頼まれた。



4.カチンコ報道部へ入った、私の幼馴染涼子ちゃん、報道部の嫌味なお兄ちゃん達

私の小学校からの友達が、短大を出て某旅行会社のツアーコンダクター(バスガイドの改良版)だかに付くには付いたが、直ぐに解散になったとかで、次の仕事を探していた。

この子は色々拘る(こだわる)癖を持っていて、何かとやりにくい。
私を友達だと信じてもいるし、いつも連絡をくれる。 
私のタイプではないのだけど、仕方がない。
こういうのを、腐れ縁と言うのかもしれない。

そこで私は、たまたまエレベーターで一緒になった室長に聞いてみた。 確かその時、もう一人監査役も乗っていたが、

「あの〜、今うちでは求人をしていますか?」

「何故ですか?」と、室長は誰にでも丁寧な言葉を使う。

「実は私の友人が、仕事を探しているのです」

「あ、そうですか。 貴女のお友達? もしそのお友達も一緒に仕事をする様になったら、あなたも楽しいでしょうね。」

「はい、その通りです。」 (でも・・・)

「でしたら連れていらっしゃい。面接しますから。」

「本当ですか?! 有難うございます。 私と違って短大も出ていますから。 早速連絡します。」

と言う訳で涼子ちゃんは、私と同じ会社に勤務することになった。
彼女が配属されたのは、報道部というところで、私達の経理部につながる、長い廊下の向こう側にある大部屋だった。

そこはだった広い部屋で、担当別に沢山の机が並んでいた。
報道部はその一角にあり、後で分ったことだが、ここの部長は後に室長と役職争いになったらしい・・がそれは私が辞めてからのことだ。

さて、この報道部には春に大学新卒男子が何人か採用になり、涼子ちゃんはこの一員に加わったのだ。
その前に、私達より二歳上の綺麗な落合さんも居たから、経理部と違い、若い人が何人も集まった。

彼等はエリート意識みたいなものがあって、何となく変だった。

ある日、私は涼子ちゃんに、彼等の集まりに誘われた。

さて何処へ行こうか、と言う事になり、誰も良い場所を言い出さないので、

私が「バラライカは?」と言うと、

誰かが、「ああ、聞いたことがある。良い店らしいよ」と言い、

「どこにあるの?」

「お茶の水」

じゃあ其処へ行こう、という事になった。

女性が私を入れて三人、男性も三人の計六人は御茶ノ水へ向かった。

そこで私はガッカリしたのだ。

何が私をガッカリさせたかと言うと、
彼等の会話だ。
入いる隙が全くない。 

自分達報道の噂話と、学生時代のサークルの話、そこへ短大出の涼子ちゃんも加わり、後は綺麗な落合さんとの会話だった。

私は一人で飲んでいたが、誰も私に話し掛ける人はいなかった。
会話に入ろうとしても、すぐパチンと弾(はじ)かれた。

同じ様な年齢で、同じ会社で働いているのに、彼等は全く違う世界に居た。

帰ろう・・・と決めて、涼子ちゃんだけにそっと言った。
でも涼子ちゃんも涼子ちゃんだ。(彼女の性格は知っているものの)
帰りの電車の中で、今あった色々の場合の事を考えてみた。

やっぱり私には面白くなかった。
とぼとぼと家路に着いて、

「ただいま〜」と力なく言った。

「お帰り、早かったね。」と母が言い、

「なんだ、まっこ、もう帰ってきちゃったのかい? 涼子ちゃんと一緒だって言ってたのに。」 (まっことは私のことだ)

「バラライカへ行かなかったのかい?」

「行った〜」

「あれあれ、荒れてるね!?」

「そうよ〜、荒れてるのよ!」

「まっこ〜、一体どうしたんだい?」
(これは兄の口癖だ)

「私、あんなつまらない人達初めて見たよ。」

「どんな話をしたんだい?」

「自分達の学生時代の話と、報道部の話ばっかし〜!」」

「ふ〜〜ん、そうかい。」

「まっこ、世の中には色々な人がいるんだよ、だからと言って、皆んなに合わせる必要もないんだけどね・・」

と、兄は一生懸命慰めて(なぐさめて)くれる。

「あれは学歴の差だ〜」

「え〜、何だよそれは??」

「まあまあ、うちへ帰って来たんだから、もう忘れろな、話聞いてやるからサ、一杯飲むかい?」

「うん、飲む飲む、飲み直しだ。」

「そうかい、話が合わなかったね〜、そういうこともあるさ。」

「じゃあ、まっこもこれから大学へ行くかい?」

「何言ってんの? そんなことじゃないのよ、問題は!」

「何だと思うの、まっこは?」

「高学歴でもね、人との対話の仕方とか、その場の雰囲気を考えても良いんじゃないかと思うのよ」

「ム〜、」と兄貴。

「私が男だったらね、その辺のことも考慮に入れて、話題を選ぶわよ。」

母は始まった〜〜と思ったのか、襖の向こうで寝る支度をしだした。

一夜明ければ、忘れてしまうこともある。
忘れるという事は、人間の生理現象の中でも大切なことなんだ・・・



5.カチンコ伊藤さん宅へ御呼ばれ
 
経理部の四人組(オカザキ君、伊藤さんにナベぢゃん、私)はその点気楽だ。
開発部に入ったモデル兼業の玲子ちゃんは、またちょっと違っていた。

スラっと背が高く、小さい顔の中に大きい目が一段とモデルっぽかった。
たまに用事で経理部へ来て仲良しになった。
私よりも二歳年下だった。

その開発部には彼女と一緒に机を並べる、伊藤さんの友達(安部さん)も働いていたから、たまに全員が一緒になることもあった。

気楽な仲間との会話は楽しい。
また経理部の打ち上げも愉快だった。
夏のビアーガーデンへ行ったり、部を上げての集まりは、皆も和気藹々ではめも外した。

夏のキャンプは秋川渓谷だったか、何とか渓谷だった。(飯ごう炊爨だ)
この時は社を上げてだったから、若者の殆どは出席したし、行かない上司はドーネーション(カンパ)をしてくれた。

この時は、なんだか例の報道部のグループだけが浮いて見えた。
涼子ちゃんは調子がいい。この時は、ちゃんと私達のグループに入って来たから・・

そうか、大勢の中では彼等も困惑するのだ。

何度か会社の行事を一緒に過ごすと、親しみが違って来る。

私は頑張って沢山のご飯も炊き、皆にお握りも作ったし、味噌汁も作った。

夜のキャンプファイアーは、本当に楽しかった。

そして何日かが過ぎたある土曜日、伊藤さん宅に遊びに行くことになった。
立川の駅から直ぐだ。 

羽衣町にはうちの親戚の叔母さんも居るから、遅くなったら泊まればいい、と考えていたが何の事は無い、結局みんなして、伊藤さん家にお泊りとなった。 ナベちゃんとオカザキ君、それに私だ。

翌日、朝帰りの私達三人は中央線に乗り、二日酔いで重い頭を抱え、私は中野駅で降りた。

後から分ったのだが、これにはどうも訳があったらしい。
用事があって開発部へ行くと、

安部さんが、「伊藤君家へ行ったんだって? どうだった?」

「楽しかったわよ。 うんと飲んだからお家の方も呆れたんじゃないかな??」

「歌も歌っちゃたし、アハハハ!」と、笑う私を眺めながら、

「あのね、僕の勘だけど、伊藤のヤツ君に惚れてると思うぜ・・・」

「いや〜だ、何言い出すのォ」

「エッ!ホント? 嘘だ〜」

安部さんは黙って私を見ている。

「だって私そんな事言われても困るわよ、一緒に机並べて仕事しているんだから」

「それに、」

「それに、何だい?」と、安部さんが聞く。

「私のタイプじゃないの。」

これを聞いて、玲子ちゃんが笑い出した。

「じゅあね。」と、言って開発部を出て自分の仕事場へ戻った。

この人がね〜、私を・・・と、さっき安部さんから言われたことを思い出す。

「ねえ、伊藤さん、仕事楽しい?」

「な、なんだよ突然、どうした?」

どう考えても、伊藤さんは兄貴というタイプだ。
この前お宅へ伺(うかが)った時、伊藤さんは妹さんと、とても優しい会話をしていた。

よく皆で飲みに行くけど、そういう付き合いが恋愛に発展するケースも、あるにはある・・・

が、それはこの場合私には当てはまらない。
私の王子さまは他に居る。
まだ出会わないだけのことだ。



6.カチンコ契約社員制度

私が短期間働いたこの放送関係の会社を見つけたのは、新聞の求人欄だった。
何か面白そうな仕事はないかナ、と思いながら大体毎日見ていた。

変なもので、見続けると親しみが湧いて来る。
「あれ〜、また募集している、どーして?」
と思うのだ。

この会社、何か欠陥でもあるのかいな?
年中募集広告出して・・すぐ社員が止めちゃうなんて・・・と余計な想像も浮かんでくる。

一つ確かめてみよう。 雇われるにしても、嫌なら断ればいいのだし、

と言う訳で、履歴書(私の場合いつも余分に書いて置く)を持参して伺った。

直ぐ面接になったかどうかは忘れたが、三人の年配(私からすると)男性を前に何やら質問を受けた。

今から思うと、きっと室長も総務部長もこの中に居ただろうし、三人目は経理部長だったかもしれない。 私は経理部に配属されたから。

誰が誰でも良いのだけど、質問も答えもちょっとアンユージャル
(Unusual)だった様な気がする。

「お父様はお亡くなりになったのですか?」

「はい、そうです。」

「小さい時にですか?」

「いいえ、私が生まれる前です。」

ここで御三人さんは、顔を見合わせた。

「今、生まれる前に、と仰いましたね〜」

「はい、その通りです。」これにはちょっと説明が必要なようなので、

「私は四月生まれですが、父が亡くなったのは、前年の八月で、私はすでに母の胎内に居たそうです。」

「は、は〜、なるほどね」と、ここで一同再び顔を見合わす。

「では、お父様のお名前は?」

やっぱりだ、これは私が高校の進路指導室に呼ばれた時、心無い先生から一発食らった質問と同じだ。・・・が、私はもう何もかも承知しているのだ。 慌てる事はない。

「はい。OO寅之助と申します。」

「そうですか、姓が違うようですが、」

しょうがない、言ってしまおう。
何だか水戸黄門のドラマみたいだ。
でも私には印籠(いんろう)もないし、「これが目に入らぬか〜!控え〜控え〜!」とは言えず、・・

「実は、自民党区会議員のOOの弟です。 と、母は申しております」

一同三度顔を見合している・・・
(やっぱり、区より都のほうがインパクトあり? お母さん頑張って!今度は・・・と言っても、もう遅いか・・?)

私はそれが何を意味するのか分るし、何だか可笑しくなって来た。 だから不謹慎だが、笑い出してしまった。(我ながら自分の行動の突飛さに呆れる)でも事実を言って落とされるなら、それでもいいのだ。 (と腹が決まっていた)

ところが私につられて彼等も笑い出した。
それから三人の方々はちょっと内談して、面接は終った。

「採用です。 明日から出勤できますか?」

「はい、できます。 有難うございました。」

この後で、私は何かの用紙に署名捺印したのだろうが、それが契約社員の為の書類だったのかどうか忘れてしまった。
(この時の日本には、まだ馴染みのない制度だったのではないどろうか)



7.カチンコ退職、退職金丸々

それで採用された仕事は、契約制で、一年ごとの更新とあった。
(女性でも、アナウンサーは別だった)
その意味は後で、少々ややこしい事になるが、私には好都合となった。

と言うのは、私が一年を過ぎる頃、室長と総務部長に呼ばれ、再契約を望まれた。 他に行くところも予定していなかったので、残ることにした。

しかし涼子ちゃんは、ヨーロッパ旅行をするとかで、二週間の休暇が必要だったし、退職金をそのお小遣いに当て込んでいた。
だから一年が来た時、迷わず辞めた。

しかし彼女に退職金は下りなかった。
その訳は、細かい雇用既定により、(ちょっと見落としてしまいがち)一年以上働いた者に限り、その対象が認められる為だった。

だから一緒に辞めた落合さんにも退職金は下りなかった。

私は彼等より半年ちょっと延長したので、辞める時には、丸々退職金を頂けたのだ。
それは私が計算付くでしたことではなく、涼子ちゃんに頼まれて、総務部へ聞きに行って分った。

つまり、年中新聞の求人欄に募集が出ていたのも、この契約社員制度のせいだった。

な〜るほど、納得!・・・



8.カチンコそれから・・・

期待していなかった退職金を手にした私は、母を誘って北海道旅行へ行くことにした。
母の休みは限られていたから、往復とも飛行機だった。

勿論私の頂いたものでは足りない、だから兄も出してくれた。
それは五月の終わりか、六月に入っていたかもしれない。

二人で色々計画を練って、と言っても、三泊四日と短い旅行なので、大体は行き当たりばったりで、あそこへ行きたい、ここも見たい式のものだ。

私は前の仕事の時に、研修で一ヶ月札幌へ行ったから、これが二度目の旅行になった。

母は、朝のNHK連続テレビでみていた函館の朝市へ行きたいというので、札幌から汽車に乗り、途中兄の教えてくれた長万部(オシャマンベ)へ寄り、アイヌ部落で写真を撮り、

長万部の駅では、母の好きなヒシャモの弁当を買い、毛蟹の茹で立てを新聞紙に包んで貰って汽車に乗り込んだ。

荒涼とした大自然を突き進む汽車の中で、私の蟹の食べ方が下手だとか、あんまり飲むんじゃないとか、まだ見ぬ朝市ってどんなものかと話合った。

続く。


** ここへ10000文字以上は、書き込めませんとMixiのサインが出てしまいましたので、この後は、沖縄海洋博、珊瑚の首飾りと共に(後編)に続きます。



コメント(6)

パンタロン、男も履いてましたよ。
ジーンズの裾が広がり、ラッパずぼんと
言ってましたが。

ツイギーのミニ、鮮烈でしたねえ。
早く続きが読みたい!

社長はどう言ったのだろう・・・・exclamation & question
こういう連載は金を払ってでも続きを読ませて欲しい・・・
>電話交換士には、技術手当てがありますね、そして和文タイプのOOさんにも・・・私も辺(ナベ)ちゃんも経理課に働いて、算盤も出来るし、暗算も出来るのに、算盤手当てが付いていなんですが

ここの部分は思わず笑ってしまいました

主人公の明るく伸び伸びしている性格が羨ましく
自分なら登場してくるどの人物に近いだろうと思いながら読ませてもらっています。

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