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『君と僕』の言葉たちコミュの「物乞いの少女」(11/7若干修正)

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 少女がいた。少女は生まれつき手足が不自由だった。言葉もまともには喋れず、産みの親すら知らなかった。いつも道の隅にうずくまって通る人から施されるのを待ち続けていた。
 まともに生まれていれば誰からも愛されるような姿になっていたかもしれない。けれど、髪はちぢれ顔のあちこちにはあざがあり、やせ細っていた。少女は愛されることはなかった。
 目の前を通り過ぎていく人達は、みな笑いあい、きれいな衣服を身につけ、帰るべき家を持つ人たちだった。ただ少女にとっては通り過ぎていくだけの人で、パンをくれるかもしれない人で、殴りつけるかもしれない人だった。
 彼らは元気なうちは何もくれない。お腹が空いて苦しくうめくと誰かがパンをくれた。綺麗な内は誰も見はしない。動けなくなって少女がみすぼらしく異臭を放くらいで目を向けた。そんな姿で誰かにしがみつくと、血が出るまで殴られた。血を流しながら倒れていると、誰かがお金をくれたりした。
 誰も彼もが同じに見えて、関心なんて持ちようもなかった。少女にとって生きるためには苦しむことが必要で、それ以外何も出来ず何にも知らずにいた。
 少女は眠ることを知らなかった。夢の中でも少女は物乞いで、ただパンを待っているだけだった。ただの一度も幸せを知らないから想像することもできなかった。消えることない飢えと痛みから逃げられることはなかった。

 あるとき少女は周りのようになろうとしていた。笑いあう人たちを見て、自分もそうなれるか試してみた。けれど手足は動くことはなく、発した声はまともな言葉にはならなかった。笑顔を作ろうとしても、ただ頬が引きつるだけだった。少女は決して立ち上がることはできなかった。やがて少女は自分はそういうものなんだと理解した。そもそもなぜ周りのまねをしようとしたのか分からなかった。
 あるとき少女は泣いていた。なぜか目の前のパンが食べられず、自分の臭いにむせながら。何かが湧き上がりただ言葉にならない嗚咽で泣いていた。痛かったのかもしれない、ひもじかったのかもしれない、何も出来ないくらいに苦しかったのかもしれない、生きるために苦しまなきゃならないのが耐えられないくらいに辛くなったのかもしれない。誰にも、少女にさえなんで泣いているのか分からなかった。どうすれば良いのかも知らなかった。

 あるとき少女は耳も聞こえなくなった。殴られたときに、いつもの痛みとともに何かが消えたのが分かった。自分がどこか遠くへ飛ばされたのかと思った。けれど少女は変わらず殴られていた。起こることは何にも変わらなくて、ただいつも苦しいときに聞こえていたドクンドクンという音がなくなっていた。どこまでも続く静寂の中、自分の存在がぼやけた気がした。
 やがて少女の両目は、ゆっくりと光を失っていった。殴られた後遺症か、あるいは栄養不足かもしれない。目の前に落ちたパンが見えず、人からの視線を感じられなくなった。明けることのない夜が来たのだと思った。ただ、痛みが、飢えが、苦しみが鮮明になるのだけを感じていた。もう少女に残されたものはなかった。どこまでも来ない朝を待ち続け、いつしか少女の辛さが薄れてきた。ぼんやりとした意識の中、初めて安らぎというものを感じた。初めて少女は眠ることを知った。

 誰よりも飢えを知っていた。誰よりも痛みを知っていた。誰よりも苦しさを知っていた。誰よりも辛さを知っていた。
 幸せを知らなかった。不幸を知らなかった。生きることを知らなかった。死ぬことを知らなかった。
 誰にも知られず、そんな少女がいた。何にも知らないまま、少女はそこにいた。

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