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文芸の里コミュの旅立ち

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                  午後の旅立ち



 ☆旅立ち

 鴨行きて今夕空の幕を引く


 水が温むとともに、水辺の鴨が立ち去る季節に入る。
 一年の別れ、あるいは永遠の別れかもしれない。
 一群の鴨の動きが慌しくなっている。旅立つ日が近いと分るが、
その時の指令はどこから来るのか。先頭の一羽の後に従うといっても、その一羽は何を持って出立の時をはかるのか。
 体内時計を持っているなどというが、それは謎だ。
 鳥が神の声を聴いているとも思えない。しかし彼らは自覚している。いつまでも、生ぬるい沼に留まってはいられないことを。
 そしてついに、翼がいっせいに水面をうつのだ。
 その動機は、不吉な鳥の黒い影がよぎったとか、背後から大風が攻めてきているといった、恐怖心に煽られてなのかもしれない。
 動機は単純でも、機が熟していたからこそ、動機たりえた。

 鳥より少し進んでいるはずの我々人間は、鳥を参考にして頭で理解するのだ。鳥に旅立ちがあるのだから、人間にもあるはずだと。
自然環境を保護するとか、そんな悠長なことでは追いつかない、本格的な旅立ちの日が、接近していることを、頭脳だけではない、もっと高度な智恵の援けを借りた霊の感覚で察知しはじめているのだ。

 鴨の一群が旅立つのは、夕方が多いようだ。夕暮れのほうが、それだけ早く曙光に出会えると思うからなのか。それとも棲み慣れた土地への未練から、目が霞んでくるぎりぎりまで、飛び立てないでいたのか。
 彼らが残らず飛び立ち、夕靄にのまれてしまうと、夜の帳が下りて本格的な闇が訪れる。

     ☆

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