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文芸の里コミュの雨

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雨


          Chopin - Valentina Igoshina - Prelude Op. 28, No. 15
☆雨

大きな八手の葉に小さな雨蛙が
雨に打たれて蹲っていた
赤いランドセルの女の子が
一軒の家の前で
「美香ちゃん!」
と学校友だちを誘ってから
雨に濡れる雨蛙に
カワイソウと自分の傘を半分差しかけてやった
雨の好きな雨蛙からすると
いらぬお世話だったが 
逃げずに黙って同じ姿勢をとっていた

大人になった女の子が人生に倦み疲れ 
厭世的になって
生きるためになくてはならない
霊の根本的な渇きを覚えるようになったとき
きっと恵みの雨に濡れたいと
しきりに意識するようになるから
それまでそっとしておくしかないのだろうと
雨の遮られた傘の下で我慢していた
どうせ学校の友だちが出て来れば
ケロッと雨蛙のことなんか
つい忘れて行ってしまうだろうからね
ちょっとの間女の子に
自分は小さな生き物にいいことをしたと
思わせてやればいいんだよ

そもそもこの雨蛙がもっと離れた場所から
この家の前まで跳ねて来たのも
きっとそういう謂れがあってのことなのさ
つまり いつの日か
女の子が新しい生き方をはじめられるように
ここに置かれていたんだよね
これも天の配剤 かな?

女の子が人の世に倦み疲れて
恵みの雨が欲しいと
渇望するようになるまで
これから何年かかるか

その時はこの雨蛙のいのちは消えて
何代目かの雨蛙が
もう女の子ではない成人した女性の
ひたすらな声を聴くことになるのだろう

〜ようやく私に恵みの雨が降ってくれたわ
あんなに雨蛙さんが一心に祈ってくれたからよ〜

女の子はとうに学校を終えているから
友だちを待つ必要もなく
何代目かの雨蛙が女性の声を聴くのは
別の場所ということになるよ
池のあるお家かもしれない
それなら雨蛙の家も池に浮く葉の上かな

ようやく恵みの雨が降ってくれたわ
池の水仙もあんなに喜んでまっ黄色の花をつけて
葉っぱには雨蛙がしがみついている
雨蛙さんの徹夜の祈りが天に通じたのね
少しは私の祈りも聴いてもらえたのかしら
女性は黙っていられなくて
女の子だった頃覚えた童謡を唄いだす

雨雨降れ降れ母さんが
「蛇の目」でお迎え嬉しいな
ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ
らんらんらん

待てよ
雨蛙はぶるんと体を震わせて警戒した
この歌は不吉で怖い
雨蛙に「蛇の目」ほど怖いものはないのだ
あの蛇の目に狙われたら
身がすくんでしまって動きが取れなくなる

そこで雨蛙はどぼんと池に跳び込んだ
静かに水紋が生まれ
鮮やかな花の黄を映して
幾重もの動く映像となって広がっていく
水紋 波紋 波紋 水紋 
その中に花嫁に扮した女性の姿が大写しにされている
〜まさか私じゃないよねえ〜
―そうだよ―
雨蛙がひょこんと水から顔を出した

  ☆




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