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文芸の里コミュの夏祭り

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           モーツァルト ピアノ協奏曲 第21番 から 第2楽章



備忘録としての掌編
メッセージ性はまったくありません。


☆夏祭り


夏祭りは
電車で一つ
隣り街まで逃げて行く
寂しいカフェの窓辺に腰かけて
吾が街の花火を
遠雷のように聴いている

「お、やってるな」
 彼が最初に花火の音を耳にして呟いたとき、
「ええ、やってるわ」
 そう、一つ前の席に、こちらを向いて腰掛けている女が洩らした。
「あなたも、同じ口ですね。お嬢さん」
 と彼は声を送った。
「そう、同じ口よ。お嬢さんと言われるほど、若くはないけれど」
 三十代後半と見たが、失礼に当たらないように、そうつくろったのである。
「もしよろしければ、こちらへ移って来ませんか。その方が席を独占している気兼ねをしなくていいし」
「ええ、でも人が来るんです」
 女は瞳に悪びれたような光を見せてそう言った。
「デートでしたか。それはそれは失礼なことを」
 彼は花火を逃れて来た意味が、いっぺんに消えてしまったような
味気ない思いにかられていた。
 女の相手が現われる前に出てしまうのが得策かもしれない。やや子どもじみた振る舞いではあるが、窮屈な思いをしていることもないだろう。
 そう考えて腰を上げようとしたとき、夏帽子の若い女がひらりと女の席に現われた。
 逃げることもなかったな。彼は手にしかけた伝票をぎこちなくテーブルにおしつけていた。
「もし、よろしかったら、こちらへどうぞ。妹なんです」
 女がそう彼に声をかけた。
「あら」
 妹と呼ばれた女が、彼に厳しい視線を向ける。「お知り合い?」
 姉に問いかける。
「いいえ、たった今、ここでお話しただけよ。席を移るように誘って下さったけど、あなたとの約束が先だったから、そうしなかっただけ」
「変なお姉さん。前からそんなところあった? なんか狐みたい!」
 妹は姉をねめつけるように言った。
 花火が上った。花火の実像はないが、反射した淡い光が浮かんでいる。花火の反映はここまで及んできているようだ。
 彼は伝票を手に取って立ち上がっていた。
「また縁がありましたら。どうも花火というのは苦手です。ここまで逃がれてきても、遠雷のように胸に響いてきますからね」
 彼がそう言うと、自分のせいで出て行く男を哀れに思ったのか、妹の瞳がきらっと花火のように光った。女子大を出たばかりといった感じの、美しい目鼻立ちの女だった。姉も美しいが、よく似ている妹は若さに燃えて美しかった。
彼は花火の届かないもう一つ先の駅に向かって、電車に乗った。
                         了

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