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文芸の里コミュの少年の夢 未完 29

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 退院すると堂田は、幹太に向けてメールを書いた。まず命の恩人になってくれた幹太への感謝を綴った。小学生にも分かる言葉で綴った。
 馬車から投げ出されて気絶する前と、意識が回復して退院した今と、どう違うかといえば、心が自由になった気がすると書いた。かつては小さなことにも拘って、くよくよしていた自分がなくなって、なぜか自由に羽ばたいていけるようになったと書いた。恐らくこれからの人生は、この羽ばたくような自由の感覚に乗って生きていけそうな気がする。これは幹太君によって与えられた自分の第二の人生かもしれない。
 以前君は、僕に草野球をススメテくれたことがあったが、野球場の土地云々で、考えが中断してしまっていたのだけれど、僕は農地という土地を所有していたことを忘れていた。これに気づいたのは君が地方大会で優勝したと知っとき、その遊ばせてある農地を野球の練習場にすればいいと考えたのさ。で、今、優勝のお祝いと、人命救助のお礼に、君に僕の所有地の三分の一を差し上げることにした。その土地が分かるように、印をつけておいたよ。地面に刺した細竹の上に赤い布がひらひらしているのが、その目印で、三分の一の土地を囲ってある。野球場とするには少し狭いけれど、その先は国有地で、まばらに低木が立っているけれど、その木を切らなければ、そこも遣ってかまわないと思う。
 現在畑になっている残りの土地は、僕がいつかここに帰ってきたとき、種を蒔いて作物をつくるかも知れない。しかしそれはずっと先、僕が老人になって帰って来たときのことで、それまでは、南瓜や西瓜をつくってもかまわない。君が一番心配していたマリエちゃんとアユミちゃんが、遠くて学校へ通えないことは、いろいろ考えて、僕は家を空けて旅立つことにしたから、そこに住むように伝えてくれ。
 家の管理は幹太君に任せる。家の鍵は牛乳瓶の底に入れて土を詰めておくから、そこから取り出して家の錠を開けてくれ。
 妹のアユミちゃんはまだ学校じゃないけど、アユミちゃんとママが来て住んでもいいよ。家の中の一室に荷物やガラクタを投げ込んであるけど、その部屋の片付けはいつか僕が戻ったときするとして、土地も家も全部幹太君に任せるとする。
 それからマリエちゃんと幹太君の間を、子供たちがとやかく言って、からかったり虐めたりしたようだけど、これからはそんなに気を遣って、リカちゃんだけがマリエちゃんに連絡するとか、しなくてもいいと思う。というのは、馬がガキどもを蹴ったり、噛み付いたりして、制裁を加えたので、やつらは怯えておどおどしていると思うからさ。手に包帯をしているのと、腰をかばって足を引き摺っている奴がそれだ。馬がやったというより、もっと大きな力が働いて、そいつらをこらしめたんだな。僕にもまだその大きな力の源については、分からんのだ。しかし働いたことは間違いない。馬はその力に動かされたのさ。僕が馬車から振り落とされたときも、その力が馬に及んで、馬が立ち上がったんだと思う。具体的に林檎が食べたくて立ち上がったのだとしても、馬が我慢できないほどの大きな力で臨んで来たものがあったんだよ。
それが今回家を空けることにも繋がっていたかもしれないなあ、とも思うんだよ。どういうことかというと、暢気に馬車を馬に曳かせて収穫を農協に運んだりしていないで、朝早く車で出荷してしまい、空いた車を西里の奥まで飛ばして、学校に遠い子供の送り迎えをしなさい、ということだったかもしれないのさ。しかしそれは不可能だと分ってきた。運転免許を取るのに一箇月はかかる。その間に雪になる。雪になれば、間違いなく学校に通えない生徒が出てきてしまう、ということさ。馬には気の毒だけれど、いつまでも馬車を曳かせるわけにはいかなかったんだよ。
 その馬だけれど、この間馬牧場に送り出したよ。これからは観光に訪れた客を背中に乗せて、のんびり野道を歩くんだと思う。僕の人生も変わるけど、馬の生活も変わる。
 僕は明日柿の木坂を離れて旅立つけど、誰にも言わないで行くつもりだ。だから君も見送りとか、そんなことは考えなくていい。少年のうちは少年野球に、高校になれば高校野球、大人になれば大人の野球に向かうだけでいいのさ。おじさんはそのどの野球にも加われなかったけれど、君が僕の分をがんばってくれればそれでいい。
 マリエちゃんとアユミちゃん、そして君の妹のリカちゃんには、よろしく伝えてくれ。駅で見送るなんてことはいらない。では元気でやりたまえ。桃子おばちゃんにも、よろしく言ってくれ。いつか君が病院に持ってきた、桃子おばちゃんの高校の修学旅行の写真、記念に貰っていくよ。
 では、元気で一生懸命生きること。僕も君に貰ったいのちを大切に生きていく。バイバイ。

 堂田はこんなメールを幹太に送ると、キャスターバッグに荷物を詰め込み、家を出た。鍵の上に土を詰めた牛乳ビンは玄関前の踏み石の上に置いた。
 バスターミナルに来ると、がら空きのバスに乗った。

  未完

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