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文芸の里コミュのカラス

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  ☆


薄ら寒いと感じながら
クーラーを止めるのを忘れているように
何か重大なことを忘却して
生きているこのごろ
体と心の感じ方がちぐはぐで
二者の間を揺れ動くでもなく
ある距離をはさんだまま
別人のように歩いている
 ♪
 山口さんちの***君
 このごろ少し変よ
 どうしたのかな
 ♪
幼子の童謡が聴こえてきて
銀杏の木を振り返ると
カラスが大きく首を上げ下げして咆えている
カラスめ 俺を馬鹿にしてからかっているな
そう思ったら
足元に野良猫が蹲ってカラスを睨んでいる
そうか この二者の間には
かねてからの確執があるわけだな
まるでこの俺さまみたいなものだ

ところでさっきの童謡だが
歌に出てくる男の子の名前が思い出せない
のだ
思い出せないから
いきおいそこに俺の名前が飛び込んできて
まかり通ってしまうことになるのだ

山口さんちの ケンタ君 
このごろ少し変よ 
どうしたのかな
なんて

そんなことを考えて歩いていると
前からせかせかとペダルを踏んで
自転車の婦人がやって来た
すれ違うとき婦人の口から
声が洩れた
〜どうしてるかな〜
どうしたのかな ではなかったので
ほっと胸を撫で下ろした
そのまま走り去ると思っていたら
婦人は猫のところで自転車を停めた
そしてハンドルにぶら下げてきた
レジ袋から
猫に与える料理を取り出している
木のカラスはこうなるのを知っていて
猫を立ち退かせようと
吼えていたのだった
しかしその甲斐もなく
料理が運ばれてきてしまった
あとは騙して料理を横取りするしかない
しかしあのイソップ童話のように
うまくいくだろうか
悪態ばかりついてきたこのカラスは
とっさに身を低くして
甘言を弄するなどできなくなっていた
そうであるからには
悪態の上に悪態を重ねて
吼えに吼えるだけだ

婦人は腰に手をやって
木のカラスを睨みつけ
猫が食事を済ませるまで
離れようとしなかった

カラスよ そろそろ次なる作戦を
考えたらどうだ
甘言ができないとなれば
たとえばこんな手を使ってみるのはどうだ
水溜りに行って口に水を含んでくる
婦人の上に来たら嘴を開いて放水するんだ
婦人はそれをカラスのいばりと勘違いして
二度と来なくなるだろう
これなんかはいちいち俺が教えなくても
カラスの悪巧みの部類と思われるがなあ

愛は残る 愛はつづく
女は日傘をさしてやって来らあ
カラスは少しトーンを落として
そう言った

間もなく婦人は猫から離れ
来た道を引き返してくる
俺を追い越すとき
また明日ね
と口ずさんだ

銀杏の木のカラスは
青い秋の空に吸い取られて
もういない
猫が一匹 毛繕いをしている


  ☆

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