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文芸の里コミュの詩集 12

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   ☆



 残り鴨


沼に夕日の耀く頃
 きまつて 慌てる鳥がゐる

頚を伸ばし 重い身体を引摺つて
 水面を掻き乱すが
翼が身体を 空中に支へはしない
水は血飛沫のやうに 跳ねとぶのみだ

翔べない鳥 残り鴨
おまへに今 もつとも必要なもの
 それは観念と休息

十分休んだら
 百八十度の転換をして
向う岸へ滑つていくこと
 慌てることはない
水と風に委ねて
 ゆつくり泳いでいくことだ



 行く春


樹に葉が繁つてゐれば
 慈愛を感じる
   と彼は語つた。 
梢に陽が煌めいてゐれば
 愛だと。 

そこに鳥たちがきて
 声の色づけをすれば
愛の二乗だ。

やがて小鳥たちが
希望へと翔んで行つた後に
一本の古木が立つてゐる。



 雁


雁渡る

天鎮まりて

眠る家



 
 啄木鳥


木屑 

香りて降る

啄木鳥のゐて



 風鈴


人の気配が

鳴らして行った                       



 人間の土壌


同じ人間ながら
 同じ種子を食べて
全く違つた芽が出てくる

あるものは 邪な刺をもち
あるものは 優しくおほらかに枝を張る

どうして同じ種子を食べながら
 かうも異なものを 
胚胎し 育てる人間の土壌



 蟻


雷鳴れば

大路行き交ふ

蟻せはし



 浮気女


浮気女の吹く笛は
息の下から声が洩る
音色はおのづと生温く
烏の声にも劣るかな                    



 帰省


古里を持たぬ子供らが
 大きくなつて
古里に帰つて来たときは悲しい

古里にはやつぱり
 樹があり 林があり 山があり
丘があり 火の見櫓が立つてをり
 日のあたる原つぱがあつた
そして 多くはない人々を容れる
 集会所とか 小学校とか 教会が
あつた………

それらすべてを
 取り去つたやうな
いや はじめから存在すらしなかつた
 それでもそこを古里と信じ込んで
帰省して来る子供たちが悲しい



 機関車


高原の駅でもない
 薄原に
錆付いた機関車が
 投げ出されたやうに
置かれてゐた………
 としても さほど不思議ではない

そこまでは登つてきたが
 さらにその上の天までは
吊り上げられなかつたまでのことだ 

たとへ曇天であらうと
 天と名が付くからには
相当の覚悟がなければ
 上がれはしないだらう



家族


流氷や

心ひとつに

眠る家



ひばり


空の境界

抜け出て

歓喜降らす



 線路


夏野を行く線路は
どこで交はるのだらう
晩秋の枯野の中であらうか
冬に入つて雪の中であらうか
雪に埋まつた線路は確かに
もう離れ離れとはいへない
雪といふ不可抗力に
抱き取られてゐる
炬燵に容れた二人の足のやうに
ぬくもりの代はりに
冷たさを共有して凍りついてゐる



 逆転


人が影と共に
あるいてゐるやうに
光と一緒に歩いてゐるとは思へないものか
そんな逆転は
人生に起こらないものか
逆立ちをすれば
手で天を支へてゐるやうに………



 ひとりぽつち


どうしてかうも
人は人をおいていくのか
その結果
おいていかれた者も
おいていつた者も
ひとりぽつちとして
取り残される

ひとりぽつちは
荒野を彷徨つていくしかない
すさみきつて……

待ち構へてゐるのは
野垂れ死にか
熊の餌食

それでも人は人を
おいていかうとする
まるで
熊の本能が潜んでゐるかのやうに



◇ セキレイの淋しくをれば木霊かな



 銀世界に


銀世界の上は一面の青空
雪は些かも降つてゐないのに
尾根を煙らせて走つていくものがある

何だらう
目を凝らすが
橇も雪上車も走つてはゐない
実体のないところに
雪煙だけが上がつてゐる

あれは風だ
風に粉雪が従つて走つてゐるのだ
積つた雪のなかでも
風に信頼しきつてついていく
純粋なやつだ
無邪気な子供のやうに
教師を慕つて
ついて回つてゐる雪たちだ



 火の見櫓


鳶が火の見櫓に留まつてゐる
危急を報せて――
火の見櫓は危険を報せるためにある
 けれども鳶は
危険を告げるために
 留まつてゐるのではない
獲物を物色するためだ
知られたら好物の小動物は逃げてしまふ
 それでも火の見櫓が
警鐘を打ち鳴らすために
 立つてゐることは確かだ



 光の如く


結局は
この小さな(聖書)に
いのちのすべてが
こめられてゐると
知るとき
悔悟と期待が
一時に押し寄せる
光の如



 陶器を焼く


人よ
もし山に篭もることになれば
赤々と火を熾して
陶器を焼かう
君の人生には通用しなかつた
もつとも愚かなやり方で
聖なる陶器を焼かう



 ミソサザイ


丘の団栗の樹に
ミソサザイが
赤い口を開いて啼くときは
注意せよ
悪霊どもが
うろついてゐるのだから



 徴


鳥が墜ちた
翼をすぼめ
まつさかさまに
凄まじく風を切つて墜ちた

果たして墜ちたといふ表現が
当つてゐたかどうか
矢の数倍の速度で突つ込んできたのだ
使者が地を撃ちにきたとでもいふやうに……
その徴の如く

鳥影はいづこにも見当らないのだ
この地球を突抜けて行つたとしか思へない

また 別の鳥がやつてくる
いや 突抜けて行つた鳥が
地球を半周して
再び突き刺してくるのだ
嘴が火色に輝いてゐる
それで焼き切つてやるとばかりに



 献上


たとへ
体内に不治の病巣が
日々大きくなつてゐたとしても

それは
体内に果物を育てるやうなものだ
瑞々しく立派に育てて
潔く献上するとき
その人はパラダイスにゐるだらう



 栗の実


風のない日

しきりに

栗の実は落ち

やはらかき地に

はまりこむ



 人生


フアンの力士が
優勝戦線から脱落すると
次のフアンの力士へと
期待を繋ぐ
その力士も敗れると
さらに下の好みへと
 …………
さうやつて
次から次へと段階を下げて
希望を寄せていく


そして最後に
敵意さへ抱く力士の
優勝をみることになる

人生に力瘤を入れると
得てしてかうした
ざまを見ることになる



 小蟹


我々が一生かけて
紡ぎだすものなんて
たとへそれが
名にし負ふ芸術品であらうとも
海を背にした小蟹が
浜辺で泡を吐出してゐるやうなもの
精一杯自分の力で
泡を吐いてゐるつもりでも
絶えず寄せてくる波を
かぶつてゐなければ
たちまち炎天に干されて
仰向けになるだらう

一生かけて吐き続けた
泡は跡形もなく
背景には 宇宙が
心憎いばかりに澄んでゐる



 タラント


カナリヤは

啼けば啼くほど

赤くなる



訓練

冬の空
訓練の鳩たちは
巡る めぐる
強固な魂となつて
雪混じりの 羽毛は
降り止まない  

苦闘の闇の奥で 鳩の霊は生き
飛び発つて行つたが
猫は枯草の上に 横たはるだけだつた
猫は犯してきた数々の 悪さを悔悟しつつ
いつか飛べる日を夢に描いて……
そのうち猫は 綿津見深く 
魚をあさりに出掛けて行つた。
この欲望には克てなかつたから。

貪欲と悔悟の葛藤に疲れきり
猫は永い眠りに入つていつた。
が、そこも
魚を追つていつた海の
底であると察知したのだ。

闇の奥で
幽かに閃くものがあつた。
鈍い痛みとともに………
猫ははたして目を醒ましただらうか。



 高原に


高原に一筋の煙が昇つてゐる
何かの合図のやうでもあり
牧場主一家の 団欒のやうでもある
たとへ
火葬の煙であつても
私は驚かない



 夜更けの音


村の運動場には
 砂場があつて
鉄棒には
 ピーピーが一個
  忘れられてぶら下がつてゐる
夜が更け風が出ると
 からからつと鳴る
ピーピーと鳴れずに
 ぶち当たつては
  不自然な音をたててゐる



 夢


木陰にハンモックを吊つて
木間越しに湖を見てゐる
湖面を撫でて届く風に 教会の鐘が響いてゐる………
木漏れ日は跳梁し 草花は薫り
耳に鐘の音は絶え間なく



 狐


奥深い開拓村では
夜になると
周りの山で狐が鳴いた
これから村を侵略するぞと

これを撃退するには
各々の心に
火を焚く以外になかつた



茄子


露に濡れ光る
 茄子の紺色
この新鮮な
 艶めきのまま
保つておかうとしたら
 即刻 食べてしまふしかない
情けないことだ
そして哀しいことだ



 熊


荒野を彷徨つてきた熊が  
廃屋の傍の 井戸を覗いた
不意に熊の貌に  おののきが走つて  
あたふたと逃げだした

熊は水に映つた自分の貌に
 何を見たのだらう
底知れぬ闇の奥から
 熊を見上げてゐたもの……



 残るもの


知識は
鞄に詰め込んだ書物
鞄を手放せば
もう本人とは関はりがない

受験勉強で得たものが
三年後には残つてゐないやうに
知識は流れ去り
霊のみ神に帰る



 丘に立つ墓標


海に面した眺望のきく丘に
 七つの墓標が立つてゐる

生前は 狭く小さく閉ぢこめられて
 暗く陰気な世界しか
見ることがなかつたから
 今この目眩くばかりの
明るい丘に立つて
 戸惑ひつつ
 畏れてもゐる
はたしてあれで善かつたのだらうか‥‥



 もう鴎をうたはない


鴎よ 私はおまへを見損つてゐた。
ついこの間の報道番組で
現場証拠としておまへのことを
見せつけられたのだが
おまへは北海道のある島で
今ではそこにしか棲めなくなつたといふ
あの憎めない 剽軽もののオロロン鳥から
彼等が雛鳥に与へようと
一日がかりで苦心惨憺して獲つてきた魚を
あつさり横取りしてゐたではないか。
そればかりではない。
おまへたちはオロロン鳥の卵を盗んで飲込み
餌探しに沖へ出てゐる親鳥の帰りを待侘びる
オロロン鳥の雛を襲つて
残酷にも頭から飲込んでゐたではないか。

いにしへの歌人の心をとらへてきた如く
世に染まらず漂ふ気高い鳥と信じてきたのに
そして天の翼を持つ鳥の列にも加へてきたのに
おまへたちにいつから
蛇の残酷な血がはひつてゐたのだ。
鴎よ もうおまへたちの歌はうたはない。
分つてしまふともう うたへはしないのだ。



リボン


校庭の隅に

 落ちてゐた

赤いリボンが

 飛び立つた。

その子の家に                       



 つけまとふもの


希望を失つた悪魔は
希望のある人間を狙つて
四六時中つけ回り
食はうとしてゐる

悪魔が希望を
中に取り込んだからといつて
自分の希望にすることなど
出来はしないのだ
それを分つてゐて
しふねくつけまとふのは
人間を同じ滅びに誘ひこみ
同病相憐む式の
慰めが欲しいからにちがひない



 奇跡のやうに


尾羽を風に吹かれて
鶴はどこまで歩いて行くのだらう
追ひ風に逆毛になつてゐるだけ
見栄えのいいものではない

貴婦人がふくらむスカートの裾を
気にする風情で
遠ざかつていく鶴よ

枯野の果ては深潭で
木枯らしが吹いてゐるばかり
そこでどんな目覚めがあるといふのか
いや 淵にのぞんでこそはじめて
救ひの気流も巡つてきて
一気に舞ひ上がれるかもしれない
奇跡のやうにーーー



 営為


名もなき沼に

一羽のカイツブリ

水に潜りては

輪をつくる



 いのちの種子


燃え広がる
 炎の
最初の一点が
 マッチにあるとしたら

いのちの一点は
 種子にあるだらうか

いや それはいくら
 伸び広がつて
地球を埋めようとも
 炎に包まれてしまふから
いのちの一点とはいへない

真のいのちの種子は
 神の手の内にある
何ものにも侵されず
 醇乎として保たれてゐる



   ☆

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