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文芸の里コミュの詩集「1」

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 ☆



 風鈴



人の気配が

鈴を

鳴らして行つた



行く春


樹に葉が繁つてゐれば
 慈愛を感じる
   と彼は語つた。 
梢に陽が煌めいてゐれば
 愛だと。 

そこに鳥たちがきて
 声の色づけをすれば
愛の二乗だ。

やがて小鳥たちが
希望へと翔んで行つた後に
一本の古木が立つてゐる。






雁渡る

天鎮まりて

眠る家



啄木鳥


木屑

香りて

降る



人間の土壌


同じ人間ながら
 同じ種子を食べて
全く違つた芽が出てくる

あるものは 邪な刺をもち
あるものは 優しくおほらかに枝を張る

どうして同じ種子を食べながら
 かうも異なものを 
胚胎し 育てる人間の土壌






雷鳴れば
 大路行き交ふ
  蟻せはし


浮気女


浮気女の吹く笛は
息の下から声が洩る
音色はおのづと生温く
烏の声にも劣るかな



ひばり

空の境界
抜け出て
歓喜降らす



機関車


高原の駅でもない
 薄原に
錆付いた機関車が
 投げ出されたやうに
置かれてゐた………
 としても さほど不思議ではない

そこまでは登つてきたが
 さらにその上の天までは
吊り上げられなかつたまでのことだ 

たとへ曇天であらうと
 天と名が付くからには
相当の覚悟がなければ
 上がれはしないだらう



家族


流氷や
心ひとつに
眠る家



線路


夏野を行く線路は
どこで交はるのだらう
晩秋の枯野の中であらうか
冬に入つて雪の中であらうか
雪に埋まつた線路は確かに
もう離れ離れとはいへない
雪といふ不可抗力に
抱き取られてゐる
炬燵に容れた二人の足のやうに
ぬくもりの代はりに
冷たさを共有して凍りついてゐる



さまよひ猫


これまでのやうな
変幻極まりない
生き方ではなく
たとへば
あの蝸牛のやうに
一つの家にしがみつく
生き方を身につけてゐたら
こんなに死期を
早めはしなかつただらうに

さまよひ猫よ
おまへはあまりに
気位が高過ぎたのだ
それで 自らをさへ信じられなくなり
ほつつき回るやうになつた
塵箱から塵箱へ
路地から路地へ
あげくは
腐敗の街から腐臭の街へと



銀世界に


銀世界の上は一面の青空
雪は些かも降つてゐないのに
尾根を煙らせて走つていくものがある

何だらう
目を凝らすが
橇も雪上車も走つてはゐない
実体のないところに
雪煙だけが上がつてゐる

あれは風だ

風に粉雪が従つて走つてゐるのだ
積つた雪のなかでも
風に信頼しきつてついていく
純粋なやつだ
無邪気な子供のやうに
教師を慕つて
ついて回つてゐる雪たちだ



火の見櫓


鳶が火の見櫓に留まつてゐる
危急を報せて?

たしかに火の見櫓は
危険を報せるためにある

けれども鳶は
危険を告げるために
留まつてゐるのではない

獲物を物色するためだ
知られたら
好物の小動物は逃げてしまふ

それでも火の見櫓が
警鐘を打ち鳴らすために
立つてゐることは確かだ

人と小さな生きものの
かけがえのない
いのちを守るために



ミソサザイ


丘の団栗の樹に
ミソサザイが
赤い口を開いて啼くときは
注意せよ
悪霊どもが
うろついてゐるのだから






鳥が墜ちた
翼をすぼめ
まつさかさまに
凄まじく風を切つて墜ちた

果たして墜ちたといふ表現が
当つてゐたかどうか
矢の数倍の速度で突つ込んできたのだ
使者が地を撃ちにきたとでもいふやうに……
その徴の如く

鳥影はいづこにも見当らないのだ
この地球を突抜けて行つたとしか思へない

また 別の鳥がやつてくる
いや 突抜けて行つた鳥が
地球を半周して
再び突き刺してくるのだ
嘴が火色に輝いてゐる
それで焼き切つてやるとばかりに



栗の実


風のない日

しきりに

栗の実は落ち

やはらかき地に

はまりこむ



人生


フアンの力士が
優勝戦線から脱落すると
次のフアンの力士へと
期待を繋ぐ
その力士も敗れると
さらに下の好みへと

次から次へと段階を下げて
希望を寄せていく

そして最後に
敵意さへ抱く力士の
優勝をみることになる

人生に力瘤を入れると
得てしてかうした

ざまを見ることになる



小蟹


我々が一生かけて紡ぎだすものなんて
たとへそれが
名にし負ふ芸術品であらうとも
海を背にした小蟹が
浜辺で泡を吐出してゐるやうなもの
精一杯自分の力で
泡を吐いてゐるつもりでも
絶えず寄せてくる波を
かぶつてゐなければ
たちまち炎天に干されて
仰向けになるだらう

一生かけて吐き続けた泡は跡形もなく
背景には宇宙が
心憎いばかりに澄んでゐる



タラント


カナリヤは

啼けば啼くほど

赤くなる



訓練


寒い冬の空
訓練の鳩たちは
鳩舎の上を
巡る めぐる
強固な魂となつて

雪混じりの
羽毛は降り止まない



闇の奥で


鳩の霊は生きて
青い空に飛び発つて行つたが
猫は枯草の上に
横たはるだけだつた。
猫は犯してきた数々の
悪さを悔悟しつつ
いつか飛べる日を夢に描いて

そのうち猫は綿津見深く
魚をあさりに出掛けて行くだろう。
この欲望には克てないから。

貪欲と悔悟の葛藤に疲れきり
猫は永い眠りに入つていく。
が、そこも
魚を追つていつた海の
底であると察知するのだ。

闇の奥で
幽かに閃くものがあつた。
鈍い痛みとともに……
猫ははたして目を醒ますだらうか。



高原に


高原に一筋の煙が昇つてゐる
何かの合図のやうでもあり
牧場主一家の
団欒のやうでもある
たとへ
火葬の煙であつても
私は驚かない



夜更けの音


村の運動場には
 砂場があつて
鉄棒には
 ピーピーが一個
  忘れられてぶら下がつてゐる
夜が更け風が出ると
 からからつと鳴る
ピーピーと鳴れずに
 ぶち当たつては
  不自然な音をたててゐる






木陰にハンモックを吊つて
木間越しに湖を見てゐる
湖面を撫でて届く風に
教会の鐘が響いてゐる……
木漏れ日は跳梁し
草花は薫り
耳に鐘の音は絶え間なく






奥深い開拓村では
夜になると
周りの山で狐が鳴いた
これから村を侵略するぞと

これを撃退するには
各々の心に
火を焚く以外になかつた






荒野を彷徨つてきた熊が
 廃屋の傍の 井戸を覗いた
不意に熊の貌に
 おののきが走つて
  あたふたと逃げだした

熊は水に映つた自分の貌に
 何を見たのだらう
底知れぬ闇の奥から
 熊を見上げてゐたもの…



残るもの


知識は
鞄に詰め込んだ書物
鞄を手放せば
もう本人とは関はりがない

受験勉強で得たものが
三年後には残つてゐないやうに
知識は流れ去り
霊のみ神に帰る



丘に立つ墓標


海に面した眺望のきく丘に
 七つの墓標が立つてゐる

生前は 狭く小さく閉ぢこめられて
 暗く陰気な世界しか
見ることがなかつたから
 今この目眩くばかりの
明るい丘に立つて
 戸惑ひつつ
 畏れてもゐる
はたしてこれで善かつたのだらうか
こんな贅沢をして……


リボン


校庭の隅に

落ちてゐた

赤いリボンが

不意に

風に目覚めて

飛び立つた

その子の家に



つけまとふもの


希望を失つた悪魔は
希望のある人間を狙つて
四六時中つけ回り
食はうとしてゐる
ストーカー

悪魔が希望を
中に取り込んだからといつて
自分の希望にすることなど
出来はしないのだ

それを分つてゐて
しふねくつけまとふのは
人間を同じ滅びに誘ひこみ
同病相憐む式の
慰めが欲しいからにちがひない



奇跡のやうに


尾羽を風に吹かれて
鶴はどこまで歩いて行くのだらう
追ひ風に逆毛になつてゐるだけ
見栄えのいいものではない

貴婦人がふくらむスカートの裾を
気にする風情で
遠ざかつていく鶴よ

枯野の果ては深潭で

木枯らしが吹いてゐるばかり
そこでどんな目覚めがあるといふのか
いや 淵にのぞんでこそはじめて
救ひの気流も巡つてきて
一気に舞ひ上がれるかもしれない
奇跡のやうに



営為


名もなき沼に

一羽のカイツブリ

水に潜りては

輪をつくる



街の犬猫


街の猛犬が
赤猫を追ひかけた
猫の尻尾に口が届くばかりに接近した
その時
目の前を
急行電車がやつてきた
あはや犬は立止り
猫はそのまま行つた

犬の前を
唸りを上げて
鋼鉄の塊が過ぎてをり
犬の想像の裡に
凄惨な光景が展開してゐた

だが 
轟音疾風諸共に去つた後に
向う側から涼しさうにこちらを見てゐるのは
さつきの赤猫
いや 化け猫だつた
猛犬は怖ぢ気だち
踵を返して逃げだした



山小屋


山小屋の煙突から煙が真つすぐ昇つてゐる

何と多くの下界を省略しきつて昇つていくのだらう



西瓜


西瓜は
 真つすぐ
包丁を入れられるやうに
 筋が入つてゐる

線の通りに
 切つていかなければ
いけないぞといふやうに



草笛


ブリキの笛を
いくら吹き鳴らしても
鳥は集まらないが
草笛なら寄つてくる

それにしても
昨今の人間は
ブリキの笛でなければ
集まらない



命の影


梟は 枝にじつとしてゐれば
 餌のはうから
 近づいてきて
何の苦もなく捕へることが出来ると
 知つてゐる

じつと待つといへば
 猫もそのたぐひの動物だ
せつかちな動物は
必ず彼等の術策にはまりこむ

死といふ化物も
 そのやうにして
 命が影に呑み込まれるのを
ひつそりと待ち構へてゐる

空澄みて一羽の雁も振り向かず



気紛れではなしに


来る日も来る日も
欲しいだけの陽は降り注ぎ
水の恵みも充分受けてゐるのに
代はり映えのしない日常に
嫌気がさして
葉叢のなかの一枚が
ある日 ひらりと裏返つた
(決して気紛れではなしに)
さうやつて 朝には露を
昼には光を受けていつたが
紅葉すると
落下の原則により
諸葉が裏側から先に地に吸はれていく時
裏を上にしたその一枚だけは
吸ひ上げられていつたのだ
秋晴れの天へ
諸葉が地に吸はれると同じ速度で
天に吸はれていつたのだ

目を凝らすと
吸ひ上げられていくのは一枚ではなく
をちこちの林から 森から 並木道から
煌めきながら
舞ひ昇つていくものがあつた



船に乗り込む如く


自我といふ固い殻が砕かれるのは
百万円の壷を落とすより難しい
自分だけの力では とても叶はない
そして 自我が砕かれることなくして
神の国へは入れない
では どうすればいい?
船に乗り込む如く
すべてを神に委ねること
ほかに道はない






山径を歩いてゐると
窯があつて
火が熾つてゐた
山鳥がきて覗いてゐた
食物が焼かれてゐるかと
(こんな空想をして、鳥を侮つてはならない)
窯には
山鳥をモデルにした
器が入つてゐたのだ



あなたの中に


朝顔の 露に張りつめた花びらは
弄れば弄るほど萎れていく
ダイヤは研けば研くほど
耀きをます

あなたはどちらが真に
美しいと思ふだらう
いや 野暮な問ひは止めておかう
だが これだけは言へる
朝顔とダイヤ二つ加へても
なほ叶はないものがある
一瞬一瞬生きて耀き しかも不滅なもの

それはあなたの中に
深くしまはれてゐて
未だ目覚めずにゐるものだ



水鳥


霧が晴れてゆく
湖の奥から
水鳥が生れてくる

霧がひくのと
同じ速度で
姿を現してくる


  ☆

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