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連続小説「MIYAKO」コミュの第一章  祇園祭

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七月に入るが、梅雨はまだ明けない。京都中の人々が祇園祭を楽しみにしているが誰よりも楽しみにしているのは都であった。都は京都で産まれ育ち、今年カトリック系の大学を卒業したばかりの23才、ふつうの女性である。目立った恋をすることもなく、ごく平凡な恋に憧れている。
河原町を歩けば「こんちきちん」と祇園囃子が胸を焦らせる。今年の夏はなぜか恋の予感がするのだ。

コメント(10)

『よお! お疲れ! もう上がりかい?』
本社ビルのエレベーターホールで、同じ課の竹田輝が声を掛けてきた。
『はい。今日は部長が出張なので。。』
『あぁ!そうだったなぁ』
竹田はふと、自分の腕時計に目をやった。
彼は少し照れながら、
『俺の友達で、見崎っていうやつがいて、祇園で焼き鳥屋を開いたんだ。それが、今日開店なんだ。どう?付き合わないかい?』
凛としたエレベーターホールに凛とした背広姿の男達。
ただ、輝はそこにいるどの男とも少し違っていた。
よれよれのYシャツのボタンはなぜか弟4ボタンだけが外れている。
ネクタイはそのYシャツの上で結ばれているというか、巻かれていた。
大柄なその肩の上に背広を乗せ、少し困った顔をするとかれはもう一度時計をのぞきこみ、私の返事を催促する。

「だめかな?ほら、今日から吉符入だしさ。こう?なに?お祭りっぽくドカーンとやらかさないかい?!」

エレベーターホールに彼のドカーンという声が木霊する。
隣でエレベーターを待つ背広姿の男達は目を何事かとこちらに視線を注いでいる。
あんまり大きな声なので少しクスクスと笑ってしまった。

「ああ、ごめん、ちょっと声がでかかったな・・・」
私はこの人を嫌いではない。
全員が同じ顔に見えるこの会社で輝だけはなにか特別な雰囲気をだしていたし、私はそういうのが大好きだ。
せっかくの祇園祭の始まり。この人と過ごすことにしてみよう。

「すこし、声が大きいくらいの方が気持ちいいですよ。さ、行きましょ。その焼き鳥屋さんの最初のお客さんにならないと。」

機械的な音が鳴りエレベーターがやってくる。
エレベーターの中は無機質だったけど少しだけ夏の匂いがした。
祇園祭というと7月17日の山鉾巡行、前日の宵山、その前の宵々山が全国的に騒がれる。しかし、本来は7月1日の吉符入りから7月31日の夏越祭までが祇園祭である。その吉符入りとは南観音山関係者が八坂神社の神官さんにお祓いをしてもらい、無事に祇園祭各行事が行われるように祈願することをいう。吉符入り後の夕刻には、祇園祭本番に向けて巡行当日の浴衣姿で囃子稽古の総仕上げを行う。全国的に見ると小さな行事かもしれないが、京都では大きな神事のはじまりでああり、全てのはじまりといわれる。

一力前の新しく舗装された石畳は通り馴れたせいか京都らしく見えている。二人は小道に入り『和』と書かれた真新しいのれんをくぐった。
午後6:00 京都駅八条口。
黒のスーツを着た、東山部長がゆっくりと改札口から出て来た。
歌舞伎役者のような上品な顔立ち故、社内でも人気が高い。

彼は先月の株主総会の席で、次期取締役に任命されて以来、
最近は何かにつけて東京出張が目立つ様になった。
四十代での異例の取締役抜擢には、現会長(現社長の父)の非嫡出子であるということと、東大卒であるということ、そして会長にそっくりの経営手腕は、社内でも定評があり、現社長も認めざるを得ない状況だ。現社長の息子も取締役だが、彼には全く経営手腕が無く、社長も手を焼いている。しかし自分の子に社長の座を譲りたいという気持ちがあり、社長は今回の人事に関して、不服であった。
(会長がいるうちに、着々と準備しておかないと、俺の居場所がなくなってしまう。。。)そんなことを考えながらも、スピード出世を楽しんでいるようだった。

東京の仕事が早く終わり、久しぶりに祇園にでも繰り出したい気分だ。
(今日は何の予定もない。部下でも呼び出して、地盤固めでもするか。)彼の頭には、部下の竹田輝の顔が浮かんだ。彼は元日銀総裁の血を引くサラブレッドだ。使える。。。。

『和』の玄関で、靴を脱いでいた竹田輝の携帯電話が鳴った。
「LOVIN'YOU?」都はニカァと笑う。都独特の笑顔だ。
「うわ、部長」輝は苦笑いし、都を見ると。
「シャララララ、シャララララ、シャララララ~ララ~ラ~ラララ」ニコニコしながらヒールを脱いでいる。
「はい、竹田です」
「お疲れさん。東山だ。会社か?」
「いえ、もう帰るとこで・・・」
「行くか?」東山の声は携帯を通して都にも聞こえている。
「今日はちょっと・・・」輝は都に背を向け、受話器と口元を手で被せ、断ろうとした。すると都は輝の背中に飛びつき、
「祇園におりま〜す。」
  ・
  ・
  ・
「北野がいっしょです。いや、えぇ・・・・では、待ってます。」輝は携帯をたたみ、都を見ながら眉をゆがめた。
「部長と飲むの初めてやぁ〜。竹田さんはよぉ来はるん?」
「たまにな・・・。今日休みなんでしょ。あのおっさん!」
「ははは。年中無休やな。」都はここに来てから京女になっていた。輝には初めてみるもう一つの都であった。

「ようこそ、ご予約は?」和服姿のこれまた京女の登場だ。下足番の仲居との違いがすぐに分かる。甲高い声が特徴だ。
「いえ、見崎さんの紹介で来た竹田といいます。」
「そぉどすか。よくまぁ。さぁ。どうぞどうぞ。東京からですか?さぁ。こちらえ。」「そぉどすか。あとからお一人どすか。」長刀鉾の帯が案内してくれた。
「さぁ。どうぞ。ごゆるりと。」八坂とある四人が座れるカウンターの個室、壁には山鉾巡行の軸が掛けてあり、反対の壁には檜扇が生けてある。カウンターには様々な食材が積んであり、一番に目がつくのが早松茸だった。
「一本、二万ぐらいか!?」輝は部長が来ることに感謝した。
「すごい、お店ですね。」都も席に着くや、堅くなっていた。
「部長が一緒でよかったですね?」ニカァと笑顔を見した。
「ホントだよ。」輝は自分の腕時計に目をやった。

「お〜、いらっしゃい、いらっしゃい。」黒のスーツを来た、見崎和夫が現れた。ソムリエのような振る舞い、出来すぎた笑顔、見た目からやり手である。
「どおです?この店は?」
「いいね〜、高そうだね〜、そう、紹介します。会社の後輩、北野都」
「はじめまして、見崎和夫です。竹田さんとは大学が一緒でして・・・」見崎はスッと握手を求め、名刺を出した。
「はじめまして、北野都です。」都はニコッと笑った。
「すごいんだよ見崎って、ここで三件目だよ!やりてだよなぁ」
「だから、竹田さんも一緒にやりましょうよ。サラリーマンは卒業しましょうよ。」
「やだよ。皿洗いは苦手だよ。」
「ははは。私も苦手です。」ニカァ。

「まぁ、ゆっくりどうぞ。食事はお任せで行きますよ。ワイン付きで。」
「焼き鳥にワイン?すきだな。合うの?」
「タレには合うよ。レ・フォールド・ラトゥールでいい?さぁ、どうぞお試しあれ。」
「じゃぁ、乾杯!!オープンおめでとう!」
  ・
  ・
  ・
「そぉどすか。まぁ。どうぞどうぞ。」「失礼致しますぅ。お連れの方がお着きになりました。さぁ。どうぞ。」
座敷の前の下駄箱にパリッとしたスーツを着こなした男がやってくる。
男はポケットから出したであろうハンカチで額を拭くと黒い漆塗りのしきりで隔離されたその空間に輝と都の姿を確認する。

「いや〜二人だったのかい?もしかしてお邪魔だったかな」
東山は二人を茶化すようにそう言い放つ。内容はただのスケベ親父のお決まりの文句かもしれないが、東山が放つとどことなく上品さが伺える。
「やめてくださいよ〜!私と竹田さんは別にそんな関係じゃないんですから〜」
輝が口を開く前に都ははつらつと喋り、言い終わるとまたニカァっとわらった。
輝は一度髪をぼりぼりと書くと少し苦笑いをする。
テーブルの上のラトゥールは半分に減っていた。

「まぁ部長、そんなとこ立ってないで一緒に飲みましょう」
その中年の男はどこか含むところがある。社内での評判がいいがただ単に部下と談笑するために飲みに来る様な男ではないことを輝は知っていたし、無論今日来た目的が自分にあることも十分承知していた。
輝は都のほうを向くと東山に悟られないようにウィンクをしながら頭を下げた。

「竹田さん〜急にウィンクなんて止めてくださいよ〜ちょっとドキッとしちゃうじゃないですか〜あはは」
酔っているのか素なのか、都は輝の意図を汲むにはいささか正直すぎた。
「部長、ワインいかがですか?」
輝は話をそらそうというそぶりを見せることなく、自然にボトルを鷲づかみし、大きなグラスに注ごうとした。

東山はそのグラスの口に手を当て
「焼き鳥には日本酒だろ。熱燗もらおうか。」
この熱いのに熱燗とは、東山のこだわりであろう。それを聞いた都はニカァっと笑い、焼き鳥をほおばる。最初は箸で鳥を串から一つづつ摘み上品に食べていたが、今は酒のせいか上品とは言えない。
「わだしも・・・日本酒で!・・・モグッ」
輝はあきれた顔で東山と目を合わし、二人で苦笑いした。

「東京はいかがでした?」
そう声を掛けたのは見崎であった。ぐい飲みをザルに乗せ東山の前に持ち出した。
「どうぞ、お好みをお選び下さい」
東山は体を仰け反り、流し目で見崎と目を合わし二秒。信楽のぐい飲みを躊躇することなく手に取った。
「君は・・・CAVEだったかな?」CAVE(ケーブ)とは見崎の持つフランス料理の店のことで、東山は常連であった。輝は何度かCAVEに足を運ぶことはあったが、東山が常連であることも、見崎と知り合いであることも知らなかった。
「はい、いつもありがとうございます。おかげさまで、本日、この店をオープンすることができました。よろしくおねがいします。」
「ここはレディーファーストではないのかい?」
「ええ、やきとり屋ですから」見崎は出来すぎた笑顔で都を見た。

「部長、見崎と知り合いなんですか?」内心、輝は二人が知り合いであることに驚いていたが、そのそぶりは見せず問いかけた。
「ここが彼の店とは知らなかったがね。竹田は知り合いなのか?」
「ええ、大学が一緒でして、といっても見崎は五年いて卒業見込みのままでしたよ。」
「ハハハ、君も一応、わたしの後輩か」
「うわ〜、みんなエリートですね。わたしだけ落ちこぼれですよ」
「ワハハハ」


とうとう、その日は仕事の話が出ることなく、色恋ごともなく、勘定の心配もすることなく、店の名の通り和やかな時間を過ごした。
一昨年の猛暑に比べると、まだましだが、それも一昨年に比べたらという話で、パリが猛暑だということは間違いない。
凱旋門から一直線に続くシャンゼリゼ大通りには、様々な国の観光客、パリジャン、パリジェンヌの恋人たち、またアジア人(日本人?)も見うけられる。みんな何か飲みものを持ちながら、サングラスや、帽子で暑さをしのいでいる。
十数名の観光客を引き連れて、新米添乗員、木本深幸が汗をかきながら、シャンゼリゼ大通りから、停車中のチャーターバスへと誘導している。
深雪にとって今回が初めての添乗、そして初めての2週間のヨーロッパでの仕事ということもあり、一日の添乗が終わるとベッドで爆睡。。。の繰り返しで、プライベートの観光旅行や買い物どころでは無かった。

(今日で終わりだ。。。。)
深雪は心の中でそうつぶやくと、
コンチキチンの音を思い出し、目の前のシャンゼリゼ大通りと、四条通りをだぶらせて見ていた。。。
深雪は少し、京都が恋しくなっていた。
本社ビルのエレベーターホールは宵々山の影響か少しにぎやかであった。
「よお! お疲れ! もう上がりかい?」
輝が声を掛けてきた。

「うん。今日は宵々やし」
都はニカァと笑った。
「あぁ!そうだったなぁ」
輝はふと、自分の腕時計に目をやった。
そして、少し照れながら、
「『和』でも行かないかい?」

「あぁ・・・うん。宵々やし、ゆっくり歩いてこう。」
都は明日のためにゆっくりしたかったが、明日のために、はしゃぎたい気持ちもあった。なぜなら、明日、パリから帰国する親友の木本深幸を関空まで迎えに行くからであった。

「あしたは浴衣でも着るの?」
「それが、あしたの朝、友達迎えに関空行くの。竹田さん運転手で行く?」
都はニカァと笑い、携帯を開き、深幸からのメールを確認した。
[miyako元気?16日土曜だから仕事やすみでしょ。JL5052パリ発13:45関西着08:20親友なら迎えに着てね(*^_^*)]
「朝の8時だけど。ハハハ!行く?」
「いいよ!行く行く!関空行ったことないし!じゃ!今日は、ほどほどに飲もう!」

都は、この夏一番の笑顔をみせた。

                  第二章  『関西国際空港』へ

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