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ビルマ戦線 一兵士の回想コミュの一兵士の回想4

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『高雄=マニラ』

 やがて台湾の高雄港に入る。何日か判らないが午後であった。
 碇泊してまず目に入ったのが埠頭に並べられたたくさんの黒い乾物である。
 よくよく見るとバナナである。そのバナナが判らないほど蝿がいっぱい止まっている。

 家にいる頃はパラフィン紙に包んだ干しバナナをうまいうまいと食べたものだが、この蝿の群れを見て気持ちが悪くなった。
 でもある兵は言った。蝿が食べて死なない物なら大丈夫だ、蝿が毒見をしていると思えばよろしいと。
 なるほどそういう見かたもあるなと思った。
 高雄では将校や下士官は下船出来たが兵は許されない。暑い船の中でじっと我慢しているしかない。

 現地人がサンパン、小船で、バナナ、パパイヤ、砂糖黍等を売りに来た。
 長い竹竿の先にざるを結びつけてその中に品物を入れて舷側に突き上げては買ってくれと声をかける。
 食べ物は一切買ってはならないと厳重に言われていたが、上官のすきを見て買っている兵もいた。
 高雄を出る時はまだ船団らしくなかった。同じような輸送船は二、三見えていた。

 海はますます静かになる。雨はたまには降ったが風は穏やかだ。十一月というのに夏に向かっているような気配がする。まだ何処へ行くのか判らない。発表もないのだ。

 やがてフィリッピンのマニラ港に向かうということである。
 マニラ湾の入り口、左手にコレヒドール島が見えて来た。島は真っ赤に見え、僅かにみどりがある。
 砲弾の跡が生々しく激戦であった事が感じられた。

 間もなくマニラ港に入る、静かな港であった。敵か味方のものか判らないが艦艇の残骸が二、三見えていた。


『マニラ=昭南島』1

 ここも高雄と同じで上陸が許されない。ますます暑くなった船内で拷問にあっているような感じである。
 上陸した下士官がバナナを買って来てくれた。一本ずつ分けあって食べた。これだけの事でも嬉しく感じる。

 マニラ港を出て航海に移った時には十一隻の船団になっていた。
 前方右側にアメリカ航路に就航していた客船の浅間丸が灰色に塗って見えていた。何処まで一緒になっていたか判らない。

 二列縦隊で間もなくジグザグ航路をとる。これは空襲を避けるために航跡を分散させる手段である。この航跡は二日くらい消えないということだ。

 私の乗った勝関丸は船列の中程であるので、左に折れた時は僚船が遥か後方に見え、右に折れた時は遥か前方に見える。
 併行した時は話が出来そうに近くに兵の顔が見える。
 この繰り返しをいつまで続けるのか、夜になると誘導船が遥か前方で一分間に一回位の割りでチカッチカッと光を放つ。

 マニラを出て幾日過ぎたのか、海は大きな緩いうねりでますます静かである。
 昼間は時々飛び魚が船と併行して群れをなして、舞い上がってついて来る、ひと時の平和感を覚える。
 また、ある時は2メートル位の人食い鮫が、白い腹をみせながらヒラリヒラリとついて来る。

 夜になると夜光虫が海面いっぱいに広がる。蛍の光りの半分位である。
 へさきで高く掻き分ける水の腹に光る夜光虫の神秘さに幻惑を感じる。
 ここへ飛び込んだらさぞ気持ちが良いことだろう。天国に行く道はここにあるのだろう、などと思ったものである。

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