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【小説作ろうの会】コミュのsajikiの小説「希望だとか絶望だとか」

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 最近銃で人を殺すゲームばっかやってるのでこんな小説になりました。怖いですね、ゲーム脳って。

コメント(2)

 さっきまで銃座のAIとして機能していた隣の男の体が俺に向かって崩れ落ちてきた。敵性人の弾丸が男の体を打ち抜いたのだろう。曳光弾は敵にも味方にも役にたつ、と昔誰かがいっていたことを思い出した。

 入隊仕立ての頃に学んだ生きた人間と死んだ人間の見分け方を思い出す。思い出している間も男の生暖かい血液が漏れ出しているのをオレは掌で感じていた。男の目を覗き込む。男はオレの目を見返しているようでいて、ここではないどこかを見ているようでもあった。

 多分男にはオレには見えないものが見えているのだろう。ここではないどこか。可視化も言語化もできない場所。できればそこがお花畑に囲まれた安易で平凡な安らぎのある場だと考えたい。

 オレは男をその場に放り出して、男の替わりに銃座に立ちグリップを握り締める。握りこんだグリップの暖かさが男がさっきまでここにいたことの直接的な直感的な証拠だと感じる。オレは目視した順に照準を合わせ引き金を引く。

 オレ達よりさらに貧困な装備しか持たされていない敵性人の頭をぶち抜き、脳漿が飛び散る。ヘルメットくらいかぶっておけ、と思う。それ以上は何も感じない、思うところも特に見つからない。耳の穴に詰め込んだイヤフォンから指令だの伝令だのだれかの悲鳴だのオム・マ・ニ・ベ・メ・フームだのが聞こえてくる。

 オレはそれを聞いて苦笑する。オム・マ・ニ・ベ・メ・フーム。ラマ教の信者はこのマントラを唱えることで自分が輝かしい来世に行けると本気で信じている。本来戦闘中の私語は懲罰房行きの罰則事項だが、祈りの言葉で罰を受けた事例をオレは幸運ながらにして知らない。

 オレ達の中にも神を信ずるものもそうでないものもいる。神を信ずるものの中にもアブラハムの神を信ずるものやヒンドゥーの神々を信ずるものやオレの知らない神を信ずるものもいて結構ややこしい。

 信じがたいことにアブラハムの神を信ずるものの中にもキリストのいうことしか信じないものやムハンマドのいうことしか信じないものやジョン・スミス・ジュニアのいうことしか信じないものがいて、酒の席などではたまにそのことについて熱心に口論することがあるし、また口論ではおさまらず殴り合いに発展することもしばしばだ。

 信心のないオレからすればばかばかしいことこのうえないが彼らはそれが己の人生を賭けるべきものだと信じている。一度、衛生兵にお前らの信ずる神は無力だなと罵ったことがあるが、衛生兵はオレを憐れむ目で見つめるだけだった。

 幾度かの戦闘を繰り返すことでオレは呼吸するように敵性人を殺すことができるようになった。以前は敵性人を殺したり仲間が殺されるのをみて体温を上げたり下げたりすることもあったがそのような感覚は完全に過去のものとなっていた。

 自分が死ぬことの恐怖は相変わらず強固に存在するがそのことが戦場での判断を鈍らせることはない。子どもの頃蟻地獄に蟻を入れてもがく様を楽しんでいたことに対して祖父は無益な殺生はよくないと優しく諭した。そのことを今でも時々思い出す。

 銃座に立ってから何人撃ち殺したかもうすでにわからなくなっている。そのくせ残弾数だけはしっかり把握できている。昨日だれかがイヤフォンをはずすと上官にどなられるのはイヤフォンに軍が開発した脳波をいじってオレ達をコントロールする機能が備わっているからだと言っていたが本当なのかもしれない。

 ひとしきり敵性人を片付けると敵性人は退却していった。ひとまず今回も拠点防衛に成功したといえる。今夜は乾杯…というわけにはいかないがひとまず落ち着くことはできそうだ。

 誰であろうと後片付けから逃れることはできない。オレは自力で歩くことが困難なものの搬送を命じられた。呻いているものを優先して医療室へと運んでいく。声をかけても反応しないものの中にもただ意識を失っているだけで明日からでも戦場に立つことができるものいる。

 そのことを確認するためにオレは動かないもの一人一人を揺さぶったり瞳孔が開いているかどうかを確認したりする。死体がすぐに体温を失うわけではないから触っただけじゃわからないことも多い。とはいえ死んでるものと生きてるものの判別はそう難しいことじゃない。大抵の直感ははずれない。だからそいつを見たとき一目で死んでるものと判断してしまった。
儀礼的にまぶたを押し上げ眼球を露呈させペンライトの光をあてると意思を感じさせる目で俺を見つめ返した。
「生き残っちまったのか」
「残念だけどな、立てるか」
「無理だな、さっきから足の感覚がねえ」
「両足か」
「ああ」
「よかったな、これで国に帰れる」
 オレがそういうと男はちげえねえといいながら力なく笑った。
「オレは保険に入ってるからな。しばらく働かなくてすむ」
「保険って民間か?それとも国営のやつか」
 そういうと男はまた力なく笑った。国営の保険料が払えるようなやつはこんなところにはいない。
「うらやましいだろ」
「ああ」
 生きている人間はその男が最後だった。情報部が今日はこれ以上の攻撃はないと判断したためか今夜はめずらしく当直以外のものたちのアルコール摂取が許可された。オレはアルコールの味が理解できないので配給された分は別のやつに渡しそいつから替わりにタバコをもらった。

 自分のベッドに戻ると横になりタバコに火をつけた。煙で肺をいっぱいにする。至福のときだ。
「おい、タバコは喫煙所じゃねえとうるせいぞ」
二段ベッドの上から声がした。オレのベッドの上はしばらく空席だから人がいるとは思わなかった。もしかして今日配属されたやつだろうか、だとしたら不運なやつだ。
「すまない、移動する」
「いや、かまわんよ。罰を受けるのは俺じゃなくお前だからな」
 部屋の外から笑い声が入ってくる。ふと窓の外を見ると今日は満月だったことに気づく。今日の当直は幸運だ。タバコを吸いおえると靴の裏で火を消した。ありきたりだが至福のときというのは長くは続かない。
「なあ、ひとつ聞いていいか」
「残念だが俺はゲイじゃねえぞ」
 声の響きからして三十台半ばから四十台といったところだと思われた。よほどのことがないかぎりその手の連中から狙われることはない。
「敵性人、敵ってなんだ?」
「酔ったのか」
 ベッドの上から何か飲み物を飲んでいる音が聞こえる。ベッド上の飲酒はタバコ以上の厳罰だ。
「そりゃおめえ、お前を殺す全てだよ」
 オレは二本目のタバコに火をつけることにした。タバコに火をつける作業以上に繊細な作業をオレは知らない。
「じゃあオレをここへ送り込んだ政府も敵か」
「お前、そうとう酔ってんな。そうだ、そのとおりだよ」
「じゃあ国の戦争を支持してる連中も敵か」
「もちろん」
 男はいくぶん気分がよさそうだった。
「じゃあ味方ってなんだ?」
 男は即答した。

「お前さんの目に映った連中、全員だよ」

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