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競馬・ダメ予想家のダメダメ理論コミュの宝塚記念【1】/結論

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今日も蒸し暑い一日だった。
仕事に忙殺された一週間を終え、私はいつものバーへ足を運んだ。

金曜日の夜とあって、今日は8人分の座席がほぼ満席だった。
マスターに促され、奥から2番目のカウンター席に腰掛ける。

『いらっしゃいませ。お疲れ様です』

着席と同時に、冷えたハイボールが差し出された。
初めてここに座ったダービー前夜から一ヶ月。
今日で何回目の来店かは忘れてしまったが、暑い日の一杯目はハイボールと決めていることを、マスターはすでに覚えてくれている。

『調子はどうですか?』

他の客の酒を作りながら、マスターが訊いてきた。
調子というのは、もちろん競馬のことだ。

『さっぱりだね。小遣いを増やすどころか、借金が増えそうだよ』

『今週は宝塚記念でしたっけ?』

『そうなんだけど、これがまた難しいんだよね』

『そろそろ流れが来ますよ、きっと』

柔らかく笑いながら、マスターは次の注文に取り掛かった。
そうしている間にも、何人か新たな客が入ってきては、満席の店内を見て引き返していく。
今日はゆっくり話せそうもないな。そう諦めていたとき、やにわに声をかけられた。

『競馬ですか?』

隣の席に座っていた、私と同年代ぐらいの女性だ。
不意打ちをくらった私は、つい言葉に詰まってしまった。

『ごめんなさい。私も競馬をやるからつい・・・』

『いやいや、こんなところで競馬ファンと出会えるなんて思ってもなかった』

『競馬ファンってほどでもないの。G1のときしか馬券は買わないし』

『じゃあ、今週の宝塚記念は?』

『買うつもりだけど・・・』

『難しい?』

『だから、ちょっとだけご教授願おうかと』

『僕でよければ』

ハイボールを一気に飲み干す。
気付けば、彼女のグラスもほとんど空になっていた。
飲み物の追加を促すと、彼女は私にお気に入りのカクテルを勧めてくれた。

『競馬はいつから?』

『ちょうど10年前の宝塚記念。当時の彼氏に誘われて』

『奇遇だな。僕は20年前の宝塚記念だよ』

『じゃあ、10年先輩ね。そのときの馬券は?』

『当たったよ。そのせいで一気に競馬の虜になっちゃったけど。君の馬券は?』

『スイープトウショウの単勝。ビギナーズラックってやつね』

私は目を丸くした。いや、自分の目だから見たわけではないが、それぐらい驚いたということだ。

『一点買い?』

『えぇ。だから私もすっかり競馬に魅了されちゃった』

『すごいじゃないか。あれを一点で仕留めるのはすごいよ』

『牝馬が何頭か走るって聞いて、その中から直感で一番輝いてると思った彼女を買っただけなの』

『女の勘ってやつだ。怖いね』

『人を妖怪みたいに・・・』

自嘲気味に笑う彼女の向こう側から、心地いい風が吹き抜けていくように感じたのは、きっと気のせいだろう。
そんな彼女に少なからず興味を抱いた私は、月並みな質問をしてみた。

『今までで一番好きな馬は?』

『ダイワスカーレット』

即答だった。彼女の声が弾む。

『ダイワスカーレットか。いい女だったよなぁ』

『まるで昔の恋人みたいな言い方』

『いや、恋人ではないな。僕は彼女の馬券は一度も買わなかったからね』

『あんな強かったのに』

『彼女が強いことはとっくの昔に気付いてたんだ。でも素直じゃなかった』

『本当は好きなのに、つい突き放しちゃう感じ?』

『そんなところかな。要するにガキだったんだよ』

『男はそれぐらいがいいんじゃない?』

穏やかな笑みを浮かべながら、暖かい眼差しを投げかける彼女。
その視線から目を逸らし、私は慌てて天窓を見上げる。
雨で滲んだ月明かりが、ぼんやりと二人を照らしているように感じた。

『そういえば、名前を聞いてなかったね。何て呼べばいいかな?』

『私は風子。風の子と書いて風子ね』

それが本名かどうかは分からなかったが、先ほど彼女から風を感じたのは、気のせいではなかったのかもしれない。



■結論

『マスターって、独身かな?』

ひとしきり競馬談義に華を咲かせたあと、途切れた会話を埋めるように私は訊いた。

『さぁ、どうかな』

『2年もこの店に通ってるのに知らないの?』

『知る必要がある?』

『必要はないけど、興味はあるだろ?』

私の問いには答えず、風子はグラスの中の氷を揺らしながら云った。

『マスターって何というか・・・すごく絶妙な距離感で接してくれるでしょ?』

『それは僕も感じるよ』

『私は今のこの距離がいいの。相手のことを知れば知るほど、遠ざかっていくこともあるし』

『そんなものかな?』

『知らなくてもいいことが多すぎるのよ。勝手に知って、勝手に幻滅や失望をして・・・』

競馬も似たようなところがある、と私は思った。
余計な情報を知ってしまったがために、買おうと思っていた馬を嫌ってしまい、そういうときに限ってその馬が走る。
そんなことをしみじみ話すと、風子は目を細めた。

『明日の宝塚記念は、そんなことがないようにバシッと決めないとな』

『そうね。宝塚記念ってどんなイメージがある?』

『僕なんかは、マーベラスサンデーとかダンツフレーム、メイショウドトウの印象が強いかな』

『惜敗続きの善戦マンが、悲願のG1初制覇ってことね』

風子も同じ意見だったらしい。
だとすれば、彼女の本命はまだG1を勝っていない馬だ。
そして、おそらくは牝馬だろう。

『君の本命、当ててみせようか?』

『ズバリ当てたら、一杯おごるわよ』

選択肢は二つ。
G1制覇の悲願成就という意味では、母もあと一歩のところでG1に手が届かなかったディアデラマドレだろう。
しかし風子は、スイープトウショウやダイワスカーレットを愛している。
つまり、牡馬混合G1にも果敢に挑み、歴戦の牡馬を相手に一歩も引かない強い牝馬だ。

ディアデラマドレは前々走のマイラーズC以外、これまで条件戦を含めて牝馬限定戦ばかり使われてきた。
風子が選ぶとしたら、こちらではなくもう一方の牝馬のはずである。
昨年の秋、エリザベス女王杯には目もくれず、ひたすら古馬の王道路線を歩んできた彼女。

『デニムアンドルビー』

『ご明察。素晴らしい分析力ね』

風子に驚いた様子はない。当てられる予感があったようだ。
私の本命は? と聞かれ、返答に詰まる。
正直、それほど思い入れのある馬はいない。馬券を買わなくてもいいとさえ思っていた。
あえて私は、風子の問いには答えず、質問を返した。

『馬券は何にするの?』

『単勝だけよ。いつもそう』

『さすがに勝ち切るのは厳しくないか?』

『そうかもしれないけど、自分の本命馬には一番輝いてほしいから』

そう話す風子の瞳が、よりいっそう煌く。
これはもう、彼女の夢に乗るしかなさそうだ。
そう思った瞬間、その日最後の風が私の頬を撫でた。


◎デニムアンドルビー

コメント(20)

シリーズ化ですね。風子さんのニ択の逆のマドレでいってみます。
やっぱ物書きやってた人は違いますねー。

次は官能ポルノシリーズですかね?
いいなぁ。。。このシリーズ ゴールドシップは、こけてほしいなぁ。。。
マスターはダービーのリベンジはしないのかなぁ〜わ

◎ワンアンドオンリー
私も風俗、じゃなくって風子さんのように単勝を買いますexclamation
風子さんはG1だけのわりには詳しいですね。小僧には近づけない、古きよき恥じらいと奥ゆかしさを感じてしまいました。
私も風俗、じゃなくって風子さんのように単勝を買いますexclamation
私もデニムはG1に出る度、重い印を打ってきました。
期待に応えてくれるのは今日だろうか、あるいは・・
>>[2]

全然ですよ。お恥ずかしい。
今回もダービー同様、買いたい馬がいなかったので、物語にゆだねてしまいました(笑)
>>[3]

今の恥ずかしさを忘れたころ、そのタイミングで書くことに困ったら、また書いてしまうかもしれません。
宝塚記念はさっぱり分かりませんね(笑)
>>[4]

官能ポルノはあの御仁にはかないません(笑)
いやぁ、熱いレースでした(笑)
>>[5]

こけましたね。
しかし、まさかあんな形でこけるとは・・・。
競馬は恐ろしいです。
>>[6]

マスターは今回忙しそうでしたから。
ゴールドシップは、良くも悪くもドラマチックな馬ですね。
>>[7]

荒れましたねー(笑)
直線はめちゃくちゃ熱かったです!
>>[10]

あとちょっと・・・もう少しで突き抜けたんですけどねー。
しかし、ゴールドシップがこけて、人気薄が上位を独占したので、複勝は思った以上についてくれました。
>>[8]

すいません。順番を間違えてしまいましたあせあせ(飛び散る汗)
ゴールドシップがこけそうなのは何となく感じましたが、ここまで荒れるとは思いませんでした(笑)
風子は私よりセンスありますよ。

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