例として前者では、ケイト・ウィルヘルムの「無限ボックス」(The Infinity Box)、トマス・M・ディッシュ「死の中へと」(Getting into Death)、ジョージ・R・R・マーティン「星と影の詩」(Songs of Stars and Shadows)、ジェリィ・パーネル「正義」(High Justice)などを引き合いに出している。そして中でも安田氏は、ウィルヘルムを持ち上げ、作風と収録短編を紹介した後に、「僕は大好きなのだ」と告白し、「現在ル・グィンと並んで米国の女性SFをリードしていることは間違いない」と手放しの褒めようだ。
続いて安田氏は、新人パトリシア・マキリップの作品『エルドの忘れられた獣たち』(Forgotten Beasts of Eld)にふれる。そして彼女の作風を、「かなり癖のある文体が、そうした(ストーリイをとりあげても特にどうということはない場合のこと:引用者注)単調さを救うテクニックの一つになっていると指摘する。
積極的・激情型なエリスンに対し、違った意味でSF大会にシラけた顔をしている作家として、バリー・マルツバーグを安田氏はあげる。彼のやり方は、作品の中でパロディ化してみせるというものだ。そして例としてあげられたのは、『惑星会場での集い』(Gather in the Hall of the Planets)。
安田氏は、その作品を説明した後、馬鹿馬鹿しいパロディと読むより、作者のしたたかな内面吐露小説として読むべき、と指摘する。
話題は変わり、そのティプトリーの期待の処女長編『世界の壁まで』"Up the Walls of the World(未訳)が刊行される。
その長編を紹介した後、この作品にはティプトリーの長所と短所を併せもつことになったと評価。長所とは、構成の妙に加え、ティプトリー独特の文体がそれぞれのパートにふさわしい書き方をしているなど、細部にまで気を配った切れ味の鋭さ。
短所は、逆にそうした凝りすぎが、長編としての一貫したストーリイの流れを阻害し、全体としてのリズム感をやや損なっている点と、安田氏は指摘する。
出版では「世界ファンタジイ大賞」の受賞作も含めたアンソロジーを年々出版する計画があるとし、早速そのアンソロジーを安田氏は紹介する。
まず巻頭に掲載された作品とともに収録された、ロバート・ブロックの「受賞スピーチ」が紹介される。
そして、マキリップの紹介のあと、ロバート・エイクマン「ある少女の日記から」”Pages from a Young Girl's Journal”を詳細に紹介したあと、この作品が「よくできた恐怖小説は恋愛小説に近い」「ゴースト・ストーリイは詩に近いもの」という点を実践した傑作だと褒め称える。