ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

a:b:r:a:x:a:sコミュのスフラワルディー、エラノス、アスコナ

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スフラワルディーの研究書が刊行された。快挙。

鈴木規夫『光の政治哲学 スフラワルディーとモダン』
http://item.rakuten.co.jp/book/5579447/


スフラワルディーは12世紀クルドの哲学者で、ギリシャ哲学・オリエント思想の東方における合流地点のひとつ。彼が祖となる照明哲学はイブン・アラビーの存在一性論とならぶイスラム神秘主義哲学の結晶だ。


『照明哲学』英訳本のamazonレビューが概略を手際よくまとめている。
http://www.amazon.co.jp/Philosophy-Illumination-Critical-Al-Ishraq-Translation/dp/0842524576


しかし、たとえばウィキペディアのイスラム哲学の項には彼の名はない。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E5%93%B2%E5%AD%A6


西洋はイスラムを通してギリシャ哲学のデプスを知る。13世紀のトマス・アクィナスによるスコラ神学的集成においてイスラム哲学の組み込みはひととおり完了する。ウィキペディアにあるような、イスラム哲学は12世紀のアヴェロエス(イブン・ルシュド)で終わったという史観はこの地点から振り返ってできあがっている。トマス的集大成からはやがて西洋の形而上学が組み上がっていく。


これとは別の流れがあることにスポットライトを当てたのがアンリ・コルバンらの研究だ。コルバン自身はシーア派研究と銘うっているが、スフラワルディーやイブン・アラビーらの、豊穣なスーフィズム・神秘主義の流れである。


プラトンとアリストテレスそしてネオ・プラトニズムがイスラムに合流したとき、なにが起こったか。アリストテレス以前であれば、世界はあらかじめ存在しており、それをスタティックに問えばいい(アリストテレス自身はプラトンのスタティックな世界観にダイナミズムを導入したつもりになっている)。また、宗教だけでも話は単純で、すべてを神に帰せばいい。ところが、哲学と宗教が出会うとき、問いは、神とはいかなる存在か?神はなぜこの世界を存在させたか?神と私との関係は何か?というふうに重層的に地滑りを起こし始め、世界の向こうにはイデアや神があると言っていればいいということでは止められず、いかにそれとかかわっていくかが問題となる。そこで神秘主義が重要となる。論理的思惟だけではもはや神の問題に触れられないからだ。


ハイデッガーの存在論的差異を先取りしたところまで行っていたアヴェロエスと同時代人であったのが、スフワルディーである。彼はアリストテレスと夢の中での対話を記録するなど、神秘体験とギリシャ哲学とを折り重ねて思考した。そうした中で生みだされた照明哲学(存在は光であるとする定義から来る名称)のキモのひとつは現実と彼岸をむすぶ中間世界の把握である。彼は偽ディオニシウスに匹敵する天使学の大家でもあるのだが、この天使とはまさに中間世界のことであり、修行者は天使に仲介されることで神の啓示にアクセスできる。天使というと空想めいて聞こえるかもしれないが、そこにはあくまで中間世界の把握の意味がある。ここのところはアヴェロエス―トマス・アクィナスでは否定され、人間と彼岸の直のコミュニケーションは断たれてしまう。コルバンは、こうしたイスラム神秘主義の潮流をグノーシス主義やカバラーと比較しながら、スフラワルディーのそれを「東方神智学」と名づけている。


スフラワルディーの原典で日本語で読めるものとしては『中世思想原典集成 11』(平凡社)所収の『光の拝殿』のみ。必読文献としては画期的なコルバン『イスラーム哲学史』、サイード・フセイン・ナスル『イスラームの哲学者たち』(どちらも岩波書店)。また照明学派については『岩波講座東洋思想第四巻・イスラーム思想2』所収のクリスチャン・ジャンベ『スフラワルディーと照明哲学』。日本におけるイスラム哲学の最大の紹介者・井筒俊彦はイブン・アラビー寄りなので『イスラーム思想史』(中公文庫)などでもごくわずかな言及にとどまるが、『超越のことば』(岩波書店)所収の『存在と意識の深層』ではスーフィズムにおける照明論に触れた平明な解説が読める。これからイスラム神秘主義・哲学に触れてみたいという向きには井筒の『イスラム哲学の原像』(岩波新書)がおすすめ。





戦後、井筒俊彦やアンリ・コルバンらの神秘主義研究の橋頭保となった集いがある。エラノス会議だ。1933年、心理学者ユングと宗教学者ルドルフ・オットーによって始まった学際的「ERANOS:饗宴」(ギリシャ語)であり、スイスはアスコナ近郊のマジョーレ湖畔で毎年夏に開催された。出席者はたとえば、


アンドレアス・シュパイザー(数学)、アンリ・コルバン(イスラム神秘主義)、ゲルシュム・ショーレム(ユダヤ神秘主義)、ルイ・マシニョン(オリエント学)、フーゴー・ラーナー(教会史)、ハインリヒ・ツィンマー(インド学)、ミリチャ・エリアーデ(宗教学)、エーリヒ・ノイマン(精神医学・神話学)、エルンスト・ベンツ(東方教会史・神秘主義)、カール・ケレーニィ(神話学・古典学)、ジル・クィスペル(グノーシス学)、アドルフ・ポルトマン(生物学)、パウル・ティリッヒ(組織神学)、ファン・デル・レーウ(宗教現象学)、マルティン・ブーバー(宗教哲学)、カール・レーヴィト(哲学)、鈴木大拙(仏教学)、井筒俊彦(宗教学)、上田閑照(ドイツ神秘主義研究)


圧巻の面子だ。世界史的には、1933年はドイツでナチス政権が誕生した年であることに注意したい。ユングとナチズムについては諸論あるが、ユングの表の動きが国際精神療法学会チューリヒに移したことであれば、裏の動きはエラノスの開催にあるのではないだろうか。世界を暗雲がおおいつつあり、その暗雲の方にも深層が、神秘主義がある。しかもそれは政治と科学とむすびついている。そのカウンターとしての深層を探ることは可能か?だからこそ神秘主義の本質を徹底してとらえる必要があるのではないか?ショーレムやブーバーやティリッヒらの参加を見ればそのベクトルは感知できよう。


ただし、エラノス会議にはユング的な方向(精神とオカルティズム→深層探究)とショーレム的な方向(歴史と反オカルティズム→救済探究)の二つの流れを内包しているように思う。ベンヤミン主義者の僕はむろん後者。


エラノス会議で寄稿された論文は会報としてまとめられた。日本でも、井筒らの努力もあり、平凡社からエラノス叢書として刊行されていたが、あまりに売れず途絶、絶版のままとなっている。他にかえがたい貴重な論文が多数含まれているので、平凡社ライブラリーなどでの復活を強く望む。





ところで、エラノス会議にはさらに古層がある。

19世紀末から、アスコナの村には精神的ボヘミアンたちが一種のコミューンをなすのだ。近くのモンテ・ヴェリタ(真理の山)に高原療法のサナトリウムがつくられると、知識人や宗教家、芸術家が集まってくる。マックス・ウェーバーやロレンスらと恋を交わしたリヒトホーフェン姉妹のような自由人たち。心理学者、神智学者、菜食主義者、ヌーディスト、ダダイスト、前衛舞踏家・・・。ヨーロッパのカウンター・カルチャーの集積地アスコナ・コロニーの誕生だ。 戦争に突き進む現代文明へのカウンターとして、また従来のキリスト教的理性主義に代わるものとして、自然回帰、東洋回帰、古代回帰、そしてあるいは革命を、時代のオルタナティブを志向した。


「バクーニン、クロポトキン、レーニンといった革命家をはじめ、ヘルマン・ヘッセ、カフカ、D・H・ロレンスといった作家、さらにはC・G・ユング、詩人フーゴー・バル、モダン・ダンスの創始者イサドラ・ダンカンまでもが、この地に参集したのである。それは誇大な言い方をすれば20世紀文化の見取り図が、ここで描かれたようなものだった。」
http://www.linkclub.or.jp/~pckg21c/land/salon.html


たとえばヘッセ『デミアン』(1919年)には、アスコナの影響が濃い。グノーシス思想から心理学までの異端思想・深層探究の系譜がたどられ、最後に登場するデミアンの母には、ユング心理学のグレートマザーの形象と古代の母権制回帰が重ねられているかのようだ。


言ってみればサブ・カルチャー、カウンター・カルチャーの源流だ。しかしそれは結局、戦争に対するカウンターとはならなかった。その意味でも、アスコナ―エラノスの系譜は今日でもけっして忘れてはならないものだ。


そういえばMERZBOWの秋田昌美がどこかでアスコナについての本を勧めていて驚いた。彼はノイジシャンである他、SMや肉体改造の研究者でもあり、また菜食主義でもある。きわめて自覚的なカウンター・カルチャーの伝承者であるのだろう。



参考

エラノス会議
http://mixi.jp/view_community.pl?id=852024
アスコナ
http://mixi.jp/view_community.pl?id=828753


コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

a:b:r:a:x:a:s 更新情報

a:b:r:a:x:a:sのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング