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小説を書いてみよう!コミュの【悩める二人の優雅な休日】

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2作目をアップします。


タイトル:「悩める2人の優雅な休日」
文字数 :16000字未満。(40×40で10枚程度)
作成日 :1997年
コメント:学生時代の友人と、社会人になったストレスを
    発散させるために、当時人気絶頂だったバスケ漫画の
    パロディ小説を書こう・・・ということになって考えた
    作品です。

※パロディ作ではありますが、オリジナル色を濃く作成して
 おりますがコミュニティの主義、教義に反していると判断
 された場合は削除して頂いても構いません。

幾つか 補足説明をしますと・・・。
?今回の投稿のために、一応(すぐに分かる程度ですが)
 登場人物等を改名させております。
?パロディとはいえ、オリジナル色を濃く出している
 (という、作者:私 の思い込み)ですので
 原作の漫画とは、性格、キャラ設定等は異なります。
?設定時期が「ゴールデン・ウィーク」となっておりますが
 文章の都合上、祝日の表記は作成当時の祝日となっています。
 ※4/29がみどりの日、5/4が国民の祝日

その他、ツッコミどころも満載かもしれませんが・・・。
細かい突っ込みはナシ、ということで。
できれば楽しく読んでいただけれると助かります。

作品が作品なだけに、できましたら【感想】のみでお願いいたします。

コメント(12)

リンクではこちらを。

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=415326188&owner_id=7536856
ゴールデン・ウィーク
  黄金週間   というのは、きっと社会人の為に作られたに違いない。
 ――そう、考えながら人込みを器用にすり抜け、歩く。
 観光地に住む者の休日は、はっきり言って最悪だ。それが、連休だと尚更だった。
 なにせ、歩けば観光客に当たる。道を聞かれる。ここまでは我慢できる。観光地に生まれ育った、宿命だと思えば諦めがつくからだ。
 騒がれる。これは、自分が(自慢ではないが)有名になってしまった所為だから、仕方がない。でも。道路からはみ出して歩く、ごみをポイ捨てする、ものを壊す。これはやめてもらいたい。観光客にとってはただの観光地だろうけど、同時に居住区でもあるのだから。ここに住む者にとっての。
 溜息。
 無駄に悩んでいても仕様がない。でも目に余る。
 なにが、ゴールデンなものか。観光地の住人にとって連休とは
ダークネス・ディズ
地獄の連日   でしかない。きっと、休みたい社会人が勝手に作ったに違いない。
 憲法記念日。新緑の季節に、そう都合よく憲法を作ったりするものか。
 みどりの日。幾ら任期が長かったとはいえ、天皇だからって誕生日を祝日にするな。そもそも今の天皇に失礼極まりじゃないか。
 子供の日?子供にとっては毎日が祝日のようなものだ。こじ付けに決まっている。
 あまつさえ、国民の休日!こじつけ以外のなにものでもない。馬鹿にしている。
           オ ト ナ
 休みたいんだ、社会人達は。だからこじつけて休日を作ったんだ。
――なにがゴールデン・ウィークだ。それは、大人達が決めた呼び名だ。
「あのぉ……鶴岡八幡宮はこの道でいいんですか」
 呼びかけられて、振り返る。ガイド・ブックを片手に目線を彷徨わせる3人組。
「ここよりは、鎌倉駅まで電車で行って、そこから歩いた方がいいですよ。もしこの辺で観るものがあるのなら、別ですけど」
「どうもありがとうございますぅ」
 言って3人揃って礼をして歩き出す。「もぉ誰よ此処で降りて大丈夫だって言ったのぉ」
 と、背後の声。溜息。
 街には……行くのをよそう。その方がきっといい。

* * *
 最近、駅前に大型書店ができた。いつか行ってみようと思っていたが、部活の帰りに寄るのは体力的に負担が大きいと考えて、足が遠のいていた。
 ゴールデン・ウィークの中日。折角だから部活も休みにして、足を運んでみる。休みということもあって、人は多いが、街中ほどじゃない。入口を入ってすぐ、新刊コーナーにちらりと目をやり、エレベーターに乗って最上階へ。
 棚に並べられた文庫や新書をじっくり見て回り、何冊かを手に取る。少し考え、そのうちの1冊を購入。階段で、階下へ降りる。マンガは殆ど雑誌で、部活の後に部室で回し読みしているから、気に入ったのだけを単行本で買う。収穫は、ゼロ。発売日まで、まだ間があるらしい。ついでに、発売日もチェックした。
 その階下にも、目を通す。洋書は殆ど興味がない。しかし、隣の参考書コーナーはじっくりと目を通した。何冊か、買い込む。これで勉強するには、まだたいぶ日はあるだろうけど、いいだろう。
 そして最後に、1階へ。先程簡単に目を通した新刊コーナーをじっくり見て、気に入ったものがなかったので、そこでようやく、一番気に掛かっていた雑誌コーナーへ向かう。
 情報雑誌をパラパラ捲り、元に戻す。メンズ・ファッションの雑誌を素通りし、目的のスポーツ雑誌の所で立ち止まる。首を逡巡させて、目的の雑誌を見つけると、手を伸ばした。と同時に浅黒い腕が同時に伸びてくる。同じ雑誌を、掴んだ。
「あ」
「あ」
 お互いに顔を見合わせ、異口同音に声を出す。
「こんな所で。奇遇だな」
言ったのは、お互いによく見知った――とはいえ部活の繋がりで、だけだけど――人物。
「そっちこそ」
 言い返すと、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そうか。お互い様だな」
「久し振りだよな。この前の、練習試合以来か」
「……1ヶ月くらい前、だな」
「まだ、その位しか経ってないのか」
「時間の感覚、ずれてないか?」
 ウ チ
「陽将は時間を忘れるくらい練習しているから」
「あと、2週間……か」
「あっという間だな。とはいえ、お互いに試合が始まるのは更に1週間後くらいだけどさ」
その言葉で、もうそんな時期か……と呟いた。それから、はたと気付いたように言う。
「で……このほん雑誌どうする。1冊しかないぞ」
「お互いに金出し合って買ってもいいんじゃないのか」
「全刊揃えてるんだ」
「じゃあ、お前が買えば。俺は、見たい所だけ見ればいいから」
「……すまんな」
「でも、すぐ読みたい」
 俺の言葉に、やれやれといった溜息を吐く。
「そうだな。こんな所で会ったんだ。近くの喫茶店にでも入って、話でもするか」
 言って、するりとそれを抜き取る。
「レジ持っていくから、外で待っててくれ」
 その言葉に、俺は従った。

* * *
 書店を後にし、向かった所はあまり古都にはそぐわないオープンカフェの喫茶店だった。こちらも先日オープンしたての店のようだったが、思ったよりすいている。
 陽気もいいので外の空いているテーブルセットを見つけ、そこに座る。お互い申し合わせもしていないのに、同じことを考えていたようだった。オーダーをして、そこでやっと、再び口を開いた。
「こんな所で会うなんて、奇遇だな」
「まぁ、試合以外でめったに顔を合わすこともないけど。本当に奇遇だ」
「で、俺が言うのもなんだが……なんで此処にいる」
「あの本屋に、行ってみたかったからに決まってるだろ。そういうお前こそ、何であそこにいた」
「街まで行こうと思ったんだが……急に嫌気がさしてな。で、折角駅前まで来たんだから、どこか寄らないと勿体無い気がして。ついでに雑誌も買っておきたかったしな」
「あ。雑誌。読ませてくれよ」
 すると、さっきと同様に溜息を吐く。わがままな弟を持つ兄の表情に限りなく近い顔をし、やれやれ……と呟いて、袋から雑誌を取り出した。
「汚すなよ」
 そう言って、手渡す。
 オーダーしたものが届くまで、しばらくあった。ちょうど遅目のランチ・タイムにあたり、なんとなく軽い食事をとりたいと思っていたのでクラブサンドを注文み(ちなみに奴はなぜか可愛らしくもケーキセットだった。さすがにケーキ名までは耳にしなかったが)、それが届くまでの間で、読みたい記事だけ読み終えた。
「サンキュ」
「あぁ」
 俺が雑誌を返すとそう言って、丁寧にそれを仕舞う。
「どうだ、調子は」
 奴はケーキ――どうやら生クリームたっぷり、というものは頼まなかったようだ。一見しただけなら具の少ないピザのようにも見える――にフォークを突き立てながら、そう尋ねる。
「敵に、そんな事話せるか」
「どうせ、シード決勝まで行かないと会え試合できないんだ。今の調子を聞くくらい、いいだろう」
「……まぁ、いいか。そうだな。今年は、いけるぞ」
「そうか。楽しみだな」
「そういうそっちこそどうなんだ、槙田」
「内緒」
言って、ケーキを口に運ぶ。
「お前、ずるいぞ」
 ウ チ
「南海は……いつもの通りだ」
「『常勝』」
「そう。常に、勝つ。勝ち続けることが、俺達の使命だからな」
「今年も、優勝狙いか」
「勿論だ。そして、全国制覇。今年こそ、全国でナンバー・ワンになってやる。今年で最後だしな」
「残念だが、そうはいかない。今年こそ、俺達がナンバー・ワンだからな」
「そう言って、2年」
「今年は、違う」
「そうか。楽しみだ」
言うと、ケーキ――後で槙田からそれは〈キッシュ〉だと聞いた――の半分ほどを一気に食べ、コーヒーを呷った。それを見て、俺は慌てたようにクラブ・サンドを頬張った。
     ルーキー
「どうだ、新人  は」
「また、いっぱい入部ってきたけど……いつまでもつか」
「それは、お互い様か。どうだ、よさそうなのはいるか」
「まだそんなことはわからない。そっちこそ、いるのか。去年の千堂みたいな奴は」
 俺の言葉に、槙田は渋面を浮かべる。どうやら、目立っていい逸材は、いないらしい。とはいえ、千堂ほどの実力を持ったルーキーが、そうゴロゴロと出てきてもらっても困るのだが。
 千堂――去年の新人。高校バスケ界に華々しくデビューした、末恐ろしいほどの実力を持った男。去年の初戦でスタメンで登板し、鮮烈な印象を見るもの全てに与えた。
 あの場に、俺も(多分槙田も)居合わせていた。千堂が出てきて、ほんの数分プレイをしたのを見ただけで、全身が粟立ったことは、まだ忘れることはできない。今後、神奈川県の高校バスケ界、後には全バスケ界を担うと、今から目されているのは、その実力を見て間違いないだろう。
だからこそ、千堂ほどの逸材は、見つけるのは難しい。槙田は渋面を浮かべたまま、苦笑とも、溜息とも取れるような息を吐き出す。
「自称、スーパールーキーなら、若干1名いるんだがな」
その口調は少し複雑なものだった。
「口ばかりで、実力が伴わないのか?」
「いや。実力はまぁ、あるんだが……素行に問題があってな」
「そうか。それも困り者だな」
「あぁ。湘南の流山を目の敵にしていてな」
「流山か……まさか、湘南に行くとはな」
「あぁ」
 去年の千堂並に、騒がれているのは――とはいえ、こちらが勝手に騒いでいるだけなのだが――弱小チームの湘南に入学した流山。その実力は県内屈指と名実ともに申し分ない。
 また、去年の千堂を凌ぐ実力を持つと噂されているが、その真意はまだ分からないが、神奈川県にあるどの高校バスケ部の監督、顧問も躍起になって流山をものにしようとしたことは記憶に新しいことだ。……監督業をやっているということで、随分と噂を耳にしたので、他人事ではなかったのだが。
「これからの湘南は、楽しみだな」
「まぁ……上がってこられれば、の話だろう。流山一人で、そうそうあの弱小チームを立ち上げ直すことは難しいと思うぞ」
「それは、監督としての見方か」
「いや。一般論だ」
 言って、サンドを齧り、コーヒーで流し込む。
「で、陽将にはいないのか、スーパールーキーとやらは」
「うちは8軍まであるからな。増えても減っても、知らない奴の方が多いし。ましてや、新人なんて多すぎて全員の名前と顔を覚えてられないさ。ただ、残念なことに目立ってよさそうなものはいなかったと思うけど……スタメン1軍以外まで、目を掛けられないか
                     ハナダ
ら、本当の所は分からないな。あとで部長 にでも聞いてみるけど」
「あぁ……そうか。部長兼任じゃあ、なかったんだな」
「当たり前だ。これで部長まで兼任だったら、学校から金貰うぞ」
「お前、監督、タダ働きでやってんのか」
目を見開いて、槙田は大声を出す。余程驚いたらしい。
「タダ……って。まぁ、学生だしな。金貰う訳にはいかないだろう」
 俺の言葉に、ますます槙田は驚いた表情をする。納得がいかない、と目で訴える。まるで自分のことのようにムキになっている様が可笑しくて、口元が歪む。
「タダ働き、ではないと思うぞ。一応、奨学金貰ってるし。寮も個室でタダだしな。それに、奨学金貰っている割に、バスケの成績が良ければ多少勉強の成績が悪くても、大目に見てもらってるし」
「お前……苦労人だな」
「それほどでもないさ」
「顧問はどうしてる?」
「相変わらず、椅子に座ってお茶啜ってる」
「……大変だな」
「運が、悪かったと思って、諦めてる」
 言って、(サンド・ウイッチを注文したにも拘わらずついてきた)フォークを奴に向ける。
「でも、今年こそ、その苦労が報いられる。お前を打ち負かし、県内トップで全国に行き、ゆくゆくは、優勝。その、自信があるんだ」
「しかし、こちらも負けていられない。まぁ、どうせリーグまでは会えないんだからな」
 言って、槙田は少し笑んだ。
「お互い、リーグで会おう。それまでは、この話は無しだ」
「そうだな。いがみ合っていたからといって、勝敗に関わる訳じゃなし」
 そう言って、俺も笑む。それから残りのサンド・ウイッチを平らげた。

* * *
 食事を平らげた後、残りのコーヒーで少し世間話をし――といっても、結局はバスケの話題になるのだが――空になったカップが虚しくてもう一杯頼む。今度はポットで出て来る紅茶にした。
それが届き、また違う話をしているうちに、なぜか苦労話にすりかわっていく。始めにそれを口にしたのは、藤井だった。
「バスケがしたい」
そう、溜息交じりで呟く。
「してるだろう」
「純粋にバスケがしたい」
「……」
「1年ん時は、まだ良かった。顧問は相変わらずだったけど、先輩がいたからな。2年になって、先輩がいなくなったと同時に、選手兼監督にさせられた。おかげでこのざまだ」
「新しい監督が来る予定は」
「今のところない」
「そうか……こればかりは、俺には何とも言えんが」
 そういった、無難な言葉しか掛けてやれない。確かに、純粋にバスケができる環境に奴がいれば――陽将にきちんとした監督や指導者がいれば――こんな事にはならなかったのだろう。しかし、監督と兼用で選手をやっていて尚、あの好成績というのは、ある意味凄いことでもある。だからこそ、学生で「監督」という肩書きを持つことが許されたのかもしれない。
 しかし、そのことが喜ばしいことだけではないことを、奴を見て知った。結局、純粋に部活を楽しむことも、そして純粋にバスケを自分がすることができない。それを想像し、自分がもしそういう境遇になったらと考える。
(やはり、嫌だな)
 耐えられない訳ではない、だろう。しかしそれにも増して、バスケが好きだという気持ちがなければ、到底できない。何もしてやれることはないが、だからといって、代わってやるわけにもいかない。
「ん、どうした?」
「……いや、なんでも」
 首を傾げてそう尋ねた奴に、あいまいに返事をして、俺は紅茶を啜った。もう、だいぶ温くなっている。
「なんか、小難しそうな顔してるな」
「そ、そうか」
「……眉間に皺が寄ってるぞ」
 言って、指を差す。するとちょうど顔だけ屈ませた槙田の額に人指し指が突き刺さった。その直後、周囲の何処からか微かに黄色い声が漏れる。
「ホラ、あそこ。イイ感じよね」密かに指差す。
「ホント、アツアツよね」
 冷やかしの言葉――アツアツなんて言葉を今時使っている時点で冷やかしにしか聞こえない――かとも思ったが、なにせ昔から女に間違われることが多かったから、きっと仲睦まじく見える俺達の行動を羨ましがっての声だろう。知れず、溜息が漏れる。
「ん、どうした?」
 先程の俺の言葉そのままに聞き返す。槙田は、この周囲の様子が分かっていないらしい。だからこそ周囲が俺達のことを気にするのだと、きっと槙田には分かってはもらえないことだろう。
「なんでもない、と言いたいところだが。……くだらない悩みなんだ」
「俺に相談する、ということか」
「そんなものかな。まぁ、ただ聞いてもらいたいだけなのかもしれないけど」
 言って、紅茶を一口飲み――冷めかかっていて、少し不味かった――口を開く。奴は真面目な顔つきで、俺の言葉を待っている。
「俺、女に見えるか?」
「……は?」
「だから、女に見えるのか、聞いてるんだ」
「…………」
 槙田は、どう答えていいかわからない、という表情をした。
「遠目に見て、俺の性別がどちらに見えるか、ということが一番肝心なことなんだ」
「……俺の場合、お前が男だと知っているからなぁ」
「じゃあ、例えば知らなかったら。お前が学校の友達と一緒に街を歩いていて、偶然私服の俺を遠目に見たら。どっちだ」
「う〜ん……」
 槙田は唸りながら俺の顔を凝視する。暫くしてから曖昧に、答えた。
「もしかしたら……見間違うかもしれない、かな?」
「……そう、か」
「それが、どうかしたのか」
「……よく、女に間違われるんだ、なぜか。そして、今もそう。俺達、男女のカップルだと周りに思われてる」
「はあ?」
 素っ頓狂な声をあげ、槙田は周りを見回す。
「そんなことしても、無駄だぞ」
「どういう、ことだ」
「だから、俺は、よく女に間違われる。どうしてか、間違ってくれるんだ、ミナサンは。で、今も間違われていて、だから、必然的にカップルだと思われている、ということだ。それが、悩みなんだけどな」
「…………」
 困惑した表情で、槙田は俺を見た。始めの問いの真意が、少し理解できたのか、「あぁ」などとひとりごちる。
「俺は、そんなに女顔ではないと思うんだが。身長だって、女と比べたらかなりデカイ部類に入るし」
「まぁ、そうだな」
「それが、なぜか間違われる。まだこのあたりは観光地でも品のいい部類に入るけど、これが、湘南海岸に近くなった所では、最悪な状況になるんだ」
「それは……」
「くだらない悩みだとは、分かってるんだけどな。どうしようもない」
「…………」
 槙田は、返す言葉を失ったまま、ただぽかんと俺を見ている。こんな事、槙田に言ったところでどうにでもなる訳ではなかったのだが、言わずにはいられない。
「……」
 この次の言葉が繋げず、つい無言になる。さすがにここで溜息は吐けないな、と考え、完全に冷め切った紅茶を口にして、その場をしのいだ。
「すまん」
「え?」
「……俺は、無力だな」
「はあ」
 暗い表情でそう呟く相手を見て、逆にこっちが素っ頓狂な声を上げる番になった。
 なんでいつもこうなんだろう……。
自分が如何に無力か、思い知らされるのは、大概こういった場面が多い。
「すまん」
そう、口から漏れる。それは、謝罪というより、贖罪のおもい言葉に近い。
「え?」
「……俺は、無力だな」
「はあ」
 素っ頓狂な声で藤井は言葉を返し、その声と同じように顔を崩す。女顔に……見えなくも、ない。表情が豊かで、瞳が良く動くから、多分そう言った印象を与えるのだと気付き、それを口にしようか迷う。迷って、それを口にするのを止め、その代わり、違う言葉を口に乗せた。
「本当に、俺は無力だ。人に相談を持ち掛けられても、何も答えてやれない。何もしてやれない」
「槙田」
「今もそうだ。どうしてこんなに無力な俺なんかに、相談を持ち掛けてくれるのか、不思議なくらいだ」
「おい」
「本当にすまん」
「槙田っ!」
 藤井の怒鳴る声で、はっとする。
「お前……その考え、後ろ向きだぞ」
「すまん」
「だから、何故そこで謝る」
「すま……」
 言いかけて、言葉が止まる。藤井の表情が、そうさせた。
「……聞いて、くれるか」
 今度は、俺が相談する番だった。
「俺は、聞くだけだぞ」
そう言った、藤井の言葉は、俺なんかよりもはるかに頼り甲斐があるものだった。
 俺は、飲み物を再度オーダーすると、それが届くまでに少し話をした。なぜかよく相談を持ち掛けられること。その具体例を含めて藤井に聞かせる。話の途中で注文んだものが届き――今度はあらかじめ冷めているアイスコーヒーにした――それを一口飲んでから、続ける。
「前も、クラスメイトから相談を受けた。進路のことで、どうしようというものだ」
「それは、誰も答えられないだろう」
「……結局、俺が何も答えられないでいたら、相談をしてきたクラスメイトは進路調査の用紙を白紙で提出した」
「それで?」
「いや。だから、そう言った事が、多いんだ。結局相談を持ち掛けられても何も答えられずに終わってしまう。その繰り返しで、如何に自分が無力な人間か思い知らされるんだ」
「ばーぁか」
「は?」
「馬鹿か、お前」
「なにが」
その言葉で、藤井はますます「馬鹿」を連呼した。
「馬鹿。馬鹿すぎる」
「……」
「で、何でそこで暗くなるんだよ」
「……いや。まったくもってそのとおりだな、と」
「だから、そこが馬鹿なんだよ。何でそこで悩む。悩む場所が違うんだよお前」
「悩む場所……って」
 俺の呟きに、藤井は俺の頼んだアイスコーヒーを呷って(しかも、氷まで食った)続ける。
「ホーハンフーヒャフハ、ハフヒ」
「は」
がりがりと、噛み砕かれる氷。
「相談する奴が、悪い」
言い直し、藤井は額をぺしぺし叩く。「ったぁ……」氷が頭にきたらしい。
しばらくは「ぺしぺし」と額を叩いていたが、それを止めると続けた。
「お前がなんでそんなにくだらないことで悩んでいるか分からないけど、今の例は相談した奴が悪い。普通、そんなこと相談されて答えられるか。答えられないだろう。それに答える方が、もっと質悪い」
「そう……か」
「じゃあ、自分に置き換えてみろよ。お前は今、進路で悩んでいる。じゃあ、誰かに相談してみよう。あ、なら俺に相談しよう」
「……」
「試しに言ってみろ、真面目にな」
そういうので、俺は少し前に会ったことを思い出す。俺に相談を持ち掛けてきたクラスメイトの言葉を思い出す。
「『進路のことで相談があるんだけど』」
「『どういった相談だ』」
「『親は大学へ行けっ、て煩いんだけど、学力的に考えても、無理そうだし。かといって就職するのも嫌なんだけど……どうしたらいいかな』
「そこで俺が間髪入れずに言う。『取り敢えず、大学にいっといたら』。……そういう答えが返ってきたら、どう思う」
「……嫌だな。なんだか、真剣に考えてもらえないようで」
「だろう?次に、お前はなんて答えた」
「確か……『もう少し考えるか、親とも相談してみた方がいいんじゃないか』と言ったと、思う。『俺にはなんとも言えない』って」
すると、藤井は少し間を置き――まるで何かを考えているような表情をしている――しばらくしてから、俺に向かって言った。
「『俺にはなんとも言えない』」
 真剣な表情。
「そう言われて、どう思う?」
「あぁ、考えてくれていたんだな……と思うな」
「だろう。少なくとも、その言葉で相談にのった答えを出しているんだ。まぁ、俺に言わせれば、自分の将来を人に依存すること自体間違ってると、言ってやるけどな」
 言って陽気に笑い、残りのアイスコーヒーを飲み干す。
「だから、相談を持ち掛けられて、答えられなくて無力だと思うことが間違ってる。そこでお前が悩んでいる方が違うんだ。だから、悩む場所が違うといっている」
「そういうものか」
「じゃあ、どんな相談事も答えてやったとしよう。でも、それが本当にいい結果だと、言いきれるか。例えば俺がインターハイで優勝したいんだけどどうしようと言ったらお前、なんて答える。答えられないだろ。で、次に俺がこう相談したら?どうしても県大会で優勝してインターハイに行きたいんだ。俺に勝ち譲ってくれるか。そう、相談されたらどうする。本当に勝ちを譲るか」
「いや、それはしない」
「だろ。そういうもんだって。例えば簡単な……そうだな」
 言いながら、藤井はメニューの書かれている冊子(のようなもの)を広げる。
「アイス・ロイヤル・ミルクティーと、ココア・ア・ラ・モード。どっちがいいかな」
「は?」
「という相談で、真剣に悩んで答えを出せないのも、まぁ、馬鹿は馬鹿だけど……でも、いい加減に答えても問題はないよな」
「あぁ。そうだな」
「だから、相談された事柄の重大性によっては、答えられないものがある。それに答える方が悪いし、それで真剣に悩んで答えられないと悩むのは、馬鹿。ということだ。分かるか」
「……わかった。と、思う」
 俺の言葉に、盛大な溜息を藤井は吐き、やれやれと大声で言った。
「何で俺がお前の相談に乗ってやるかなぁ」
「すまん」
「もう、いいって」
 言うなり、立ち上がる。それから手首に視線を落とす。
「――そろそろ……帰らないと」
「そうか。すまんな、引き止めて」
 俺の言葉に、少し意地の悪い表情を浮かべる。「相談料として、さっきの、奢ってくれ」
 空になった、皿を指差す。
「あぁ。安いものだ」
「サンキュ」
「……あとで高くつくかもな」
 そう、意地悪く言うと、少しむっとした表情をする。それを見て笑い、伝票を掴んで俺も席を立つ。レジで代金を支払い――税込3202円。微妙な値段だ。相談料込みと考えても、ぎりぎりの値段だろう――駅へ向かう。
「なんか、俺の方がつきあわせた感じだな。相談にも乗ってやれず、逆に相談に乗ってもらってさ」
「だから、もういいって。こっちこそ、雑誌はタダ無料読みさせてもらったし、飯まで奢ってもらったしな。すまなかった、ありがとう」
「いや、そっちこそいいって」
「なら、おあいこということで、この話はナシにしよう」
 言っているうちに、すぐ駅前に着く。藤井は、ここからバスで帰るそうだ。俺は、駅の反対側から、歩いて帰れる距離。
「ここで、お別れだな」
「そうみたいだな」
「じゃ、お互いにインターハイ予選、頑張ろうぜ」
 藤井は言って、片手を上げて背を向ける。そのまま、歩いていく。
「あ……藤井」
「なんだ」
 振り返った奴に、迷った末言う。
「さっきのことだけど……多分、表情がよく変わるから、女に間違われるんだと思う。あまり、いい答えになってないけど」
すると藤井は目を瞠り――しばらくしてから極上とも思える笑みを浮かべた。
「サンキュ」
 そう笑顔と共に言い、奴はターミナルに到着したばかりのバスに向かって走り出す。その表情を見て、きっと多分、奴の相談にはきちんとのれたのかも知れないと考える。
 きっと、そうだろう。あの笑みを見た限りではそうだとしか思えない。
 ――相談にのるのも、そう悪くない。そう思いながら、俺は日が傾きかけた駅の雑踏に紛れ込んだ。

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