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小説を書いてみよう!コミュの短編小説 七色のクローバー

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 放課後の部室で、一人静かにコーヒーを一口飲む。のんびりとした良い時間だ。やはり新聞部というのは静かでなきゃいけない。
 だが、突然部室のドアが激しく開いた。
「駿! 七色のクローバー、一緒に探して」
「おう、病院ならこの学校を出て右に行けばすぐだぞ。なんなら案内するか?」
「早く行こうよ。今日は原稿書かなくていいから」
「……あのなぁ、白井。なんだよ七色のクローバーって」
 白井綾はそういうふざけた事は言わない。どちらかというと現実主義な奴なんだが……。いきなり何を言い出すんだ。
「これ見て」
 と言って白井は、携帯を俺に見せてきた。画面には……あぁ、なるほど。画質が悪くて解りづらいが、なんとかその七色のクローバーとやらを確認出来た。もちろんおもちゃ。結構小さい。
 多分白井が先に七色のクローバーなどと言っていなければ、なんかよくわからんアクセサリぐらいにしか思わなかっただろう。もちろん現実のクローバーは、葉が三枚か四枚なのだから。
 全く……。白井はなんて妙な物を持っているんだろうか。一体どこで手に入れたんだか……。
「このおもちゃがどうかしたのか」
「昨日部屋の掃除をしてたら、何年も使ってなかった小物入れから、コロンとこの七色のクローバーが出てきてね。綺麗だったからペンダントにでもしようと思ったの」
「それは良かったな」
 そっけない返事をしたせいか、白井はムスッとした顔になる。
「で、そこから何か事件でもあったのか」
「おもちゃにしてはかなり綺麗だしよく出来てたからさ、アンタに見せよ……。皆に見せようと思って学校に持ってきたの」
「それでうっかり無くしてしまったから、俺に探せというのか。嫌だ。なんで俺がそんなおもちゃを探さなきゃダメなんだ。第一な、学校で無くした物は九〇パーセント戻ってこないんだよ。それにいつどこで無くしたんだ」
 白井は黙り込む。もしかしていつ無くしたかもわからないとか言うんじゃないだろうな。
「何よ。アンタほんっと冷たいわよね。いいよ私一人で探すから!」
 と言って、ドタドタと部室を出て行った。全く、せわしない奴だ。……あ、そうだ。
「おい白井! 新聞どうすんだ、新聞! お前まだ四コマ書いてないだろ?」
 大声で叫ぶも、白井はもうどっかに消えていた。……どうやら、四コマは俺が書かなきゃいけないらしい。新聞部とは大変なんだ。新聞なんかそんなひょいひょいと出来る物ではない。ただでさえ俺と白井しか部員いなくて、いつ廃部になってもおかしくない状態なのだ。

 二十分程すると、白井が戻ってきた。無言でどかんと椅子に座り込み、足を組む。難しい顔をして、机に置いてあったジュースを飲む。
 我が新聞部の部室は、学校の三階の一番奥にひっそりとある。広さは普通の教室と同じぐらいだが、長テーブルが真ん中にどっしりと置いてあるのと、古いデスクトップパソコンと、小さい棚があるだけなので、二人で使う分には広くて快適だ。
「おもちゃは見つかったのか」
「そんなおもちゃおもちゃ言わないでよ。見つからなかったわ」
「だろうな。ま、諦めろ。それにな、お前高二なんだからおもちゃなんか探してないで、ちょっと奮発して高そうなアクセサリ買った方がまだいいぞ」
 そう言うと、白井はギロリと俺を睨んできた。
 ……何かおかしいな。白井はおもちゃごときを探すような奴でもないし、俺達は幼なじみで、いつも白井とはこんな感じの会話を繰り広げているが、白井はいつも怒ったりしない。だが、今はかなり怒っている。
「なんでそんなにそのおも……。七色のクローバーにこだわるんだ?」
 そう聞くと、何故か白井は黙り込む。スカートの上で握りこぶしまで作っている。
「だってほら、うーんと……。七色のクローバーよ? なんか神秘的じゃない。願いが叶ったりとか、夢があるじゃない」
「ドラゴンボールじゃあるまいし……。何度も言うけど、諦めろ」
「なんでそんなに否定的なのよ」
 白井は長い髪をガリガリとかきながら俺をひたすら睨む。色白で体は細く、どこか弱々しい印象を人に与えるが、それは全くの嘘。こいつ、かなり強気の性格だ。
「そもそも、お前そんな乙女チックな事言うような奴だったか。世の中金とかいつも言ってるじゃないか」
「何よ。アンタね、女の子が大事なだーいじな物無くしたんだから、一緒に探してあげるっていうのが普通じゃない? 不親切なめくじぐうたら怠け者!」
 そこまで言うか、この女。そんなにその大事なだーいじな物なのか、あのおもちゃは。
「絶対嫌だね。そもそもな、お前新聞も書かずに何やってるんだ。前に我が明清東高校の情報源は我が新聞部が握ってるとか張り切ってたじゃないか。新聞よりおもちゃか、お前は」
「だからおもちゃって言うなバカ。それにいつも原稿の八割は私が書いてるじゃない!」
 それを言われると返す言葉が無い。
「まぁとにかく、俺は探さないぞ。たかがおもちゃに執着するなよ」
「まだ言うかぁ!」
 白井は勢いよく立ち上がり、俺の背後から背中を思い切りキックしてきた。あぁ、もう蹴りは痛いしとっさに後ろ振り向いても見えなかったし、今日は最悪の日だ。
 ……さっそく後悔した。さすがにムキになりすぎた。どうも俺は、感情的になりやすい。

 翌日、学校に行き、教室に入ると、速攻で不機嫌そうな白井と目が合った。
「まだ諦めてないのか」
「それは私の顔で判断して欲しいわね」
 やっぱりわからない。心底わからん。何故あのおもちゃにそこまで……。ちきしょう、おもちゃに嫉妬する日が来るなんて思わなかったぞ。
「ほんっとにどこいったのかなぁ……」
 白井は鞄からポッキーを取り出し、むしゃむしゃと悲しそうに食べ始める。どうもこいつの悲しそうな顔には弱い。
「いつ無くしたかわからないのか?」
「うんふぉねー」
「全部食え」
「……うんとね、ずっと内ポケットに入れてたの。で、放課後内ポケットから出そうとしたら無かった」
 なんだか絶望的な匂いがプンプンするが……。あのおもちゃは、携帯の画面で見る限りは、かなり小さい物だったし、やはり見つける事は難しそうだ。
「一応聞くけど、最後に確認したのはいつだ」
「朝学校来る前」
「そういえば昨日は体育があったな。多分、その時だろう」
 と言うと白井は複雑な顔になり、ポッキーをちょびちょびとかじった。
「更衣室には無かった」
「となるとかなり難しいな。着替えの時にポロッと落ちたんだろ」
 白井はしばらくポッキーをかじっていたが、何故か急にニヤリと笑い出した。
「ねぇ、どうしてそんなに聞いてくるの? どうでもいいんじゃ無かったの?」
「ポッキー、一本くれ」

 授業中、何やら後ろから視線を感じた。後ろを振り向くと、委員長の野々宮玲が俺をじーっと見ている。
 もしや俺にも春が来たのか? そうか、そうか。女神の微笑みは今まさに俺に向いているバラ色の青春はもうすぐそこかなのか! ……と思っのだが、どうやら違うようだ。じーっとじゃない。ジロリだ。何か企んでそうな顔で俺を見ている。
 案の定、授業が終わると野々宮は話し掛けてきた。
「ねぇ、海藤君」
「なんだ?」
「昨日白井さんが愚痴ってたわよ」
 まぁそうだろうとは思ったが。なんだか唐突だな、こいつ。
「七色のクローバーが無くなったって甲高い声で騒ぎ立てて大変だったわ」
 ふむ。
「でも、彼女偉いわよね。真っ直ぐで、絶対に諦めない心を持ってると思う。見習わなきゃ」
「諦めが悪いだけだろ」
「そんな事言わないの。……白井さん、海藤駿は諦めが日本一悪い男だとも言ってたわよ」
 なんと。俺はいつのまに日本一になっていたのか。
「じゃあ白井に言っといてくれ。白井綾、お前こそ日本一諦めが悪いってな」
「もう……」
「それで、話の本題にはいつ入るんだ?」
 野々宮は少し悔しそうな顔になり、言った。
「放課後、生徒会室に来て。絶対とは言わないけど」
 なんのつもりだろうか。まぁ、一応行ってみるが。

 放課後約束通り生徒会室に行くと、野々宮は一人で椅子に座っていた。
「なんの様だ。早くしないと白井が怒る」
 そう言うと、野々宮はいきなり笑顔になり、じゃじゃじゃーんと自分で効果音を付けて、右手をグイッと俺の顔の前に突き出した。
「……何?」
 野々宮はバァン! とまた効果音をつけて、手を開いた。
 さすがに驚いた。なんで、どうして七色のクローバーを、野々宮が持っている!
「これでしょ。白井さんが探してるおもちゃ」
「おい。なんでお前が持ってる」
「昨日体育が終わって制服に着替えてる時に、更衣室にポツンと落ちてたの。誰のかわからなかったけど、なんかすっごい綺麗だったから拾っちゃった。でね、今日の朝に白井さんが愚痴ってて、あぁこれだなってわかったの」
 俺はさすがにイラっときた。
「なんで返さなかったんだ」
「だって綺麗だもん」
「お前、おかしいんじゃないか。人の物だぞ。返せ」
 野々宮は動じない。ニヤニヤと笑っている。
「これも白井さんが言ってたんだけどね、貴方おもちゃなんか探すなとか、酷い事言ったそうじゃない? こんなものどうでもいいんでしょ?」
 俺が何か言おうとしたら、野々宮は付け加えた。
「白井さんに、アクセサリでも買ってあげたら?」
「……返してくれ」
「わっかんないなぁ。白井さんにあれだけいった癖に……」
 俺は妙な気分になった。さっきからどうも野々宮の言動が怪しい。はっきりとは言えないんだが。こう、妙に感情が篭ってると言うか……。
 なんか引っかかるな。だが、今はそれ所じゃない。
「なぁ、もういいだろ? 返してくれよ。それは白井の物だ」
「別におもちゃなんかどうでもいいじゃない。じゃあね!」
 と言っての野々宮は小走りで去っていってしまった。
 しょうがなく、俺は部室へ向かった。

「遅かったじゃない」
「ちょっとな」
「ていうか、もうあの七色のクローバー見つからないのかも……」
 野々宮が持ってると心底言いたかったが、言えない。の、野々宮が持ってたよ。え、じゃあ取り返してくれたの? やったーさすが駿! ……いや、取り返せなかった。
 ダメだ。そんなのダメだカッコ悪い所の問題じゃない!
「なぁ、白井」
「何?」
「ほら、あれだよ。前はちょっと言いすぎた。まだ可能性はゼロじゃないし……」
 自分が情けなくてしょうがない。あれだけ見つかる訳ないだのおもちゃだの言っておきながら、目の前に七色のクローバーが現れた瞬間、気が変わるなんて……。
 最初から全力で探してやろうと思わない自分が嫌になってきた。しかし七色のクローバーは野々宮が持っている事はわかってるんだ。明日、なんとしてでも!
 と、一人脳内で野々宮に宣戦布告していると、何か小さな袋を白井が投げてきた。
「あげる」
 見るとこれは……。クッキー?
「作ってあまったから、あげるわ」
「あぁ、有難う」
 どうやら機嫌は直ったらしい。さて、どう野々宮から七色のクローバーを取り返すだが、どうしようか。
 結局名案は思いつかず、今日は細々と原稿を書いて終わった。

 俺は朝、あまり早く学校にいかないのだが、今日はいつもより十分早く行った。学生にとって朝の十分というのは死活問題だと思ってる。なるべく早く返して欲しかった。
 野々宮は朝早くてもちゃんといた。
「おい、野々宮」
「はいこれ」
 ドンっと俺の胸に七色のクローバーを押し付けた。
「……え?
 野々宮はニヤニヤ笑っている。
「一応、説明を。なんでいきなり返してくれるんだ」
「更衣室に七色のクローバーが落ちてて拾ったのは本当よ。でもね、そりゃ人の物ですもん。クラスの子皆に聞いたら、白井さんがすっごい形相で名乗り出たわ。で、ちゃんと返したわよ」
「へ?」
 野々宮は俺に少し近づき、耳元で囁いた。
「白井さんに口止めされてるんだけどね、実は白井さんに頼まれたのよ。カマかけろってね」
 俺は、ガックリと椅子に座り込んだ。……全てはそういう事か、白井。
 白井が教室に入って来ると、何やらニヤニヤ笑っていたが、俺は気にせず七色のクローバーを渡した。
「わ! 有難う駿。さっすがぁ。私嬉しいわ」
 あぁ、確かに嬉しそうだな。……だが、何故お前はさりげなく寂しそうな顔をする?
 俺は授業中、考えた。
 もうこれで一安心だろう。全ては白井の思いつきによって行われた事なのだ。だが、さっき見せた寂しげな顔が気になる。俺はとにかく考えた。
 だから、先生に当てられている事にも気づかなかったのだけれども。

 家に帰ると、俺はさっさと部屋に入った。俺は机に置いてあるシャーペンを見て、ふと思い出した。そういえばシャーペンの芯が無くなったんだった。
 滅多に開けない机の引出しを開けて、シャーペンの芯を探した。……しかし我ながら、引出しの汚さに感動する。色々な物がごちゃごちゃと詰まってる。そしてなんとなくガラクタの山を物色してみた。
 そして俺は信じられないものを見つけた。引き出しのガラクタの中には、何故か七色のクローバー!
 急に頭に閃光が走った。全て思い出した。この白井とのお揃いの七色のクローバーは、俺が小学生の時にあげた物だ!




 俺は明日、土下座覚悟で学校へ行く事にした。

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