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書庫 「葉っぱ猫」 mixi処コミュの声無しの詩/一章?

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『一章 「歌」うような「音」で』





 その日。
 大学生、牧ノ瀬渉《まきのせわたる》は家庭教師の初日にして──躓いていた。

 だが、渉はそんな素振りも見せずに、軽い口調で目の前の少女に話しかける。
「じゃあしーちゃんは今、作曲家を目指してるんだ?」
 柔らかな絨毯の上。
 ……困ったなぁ。
 頭の中ではそんな風に思いながら、それを表情には微塵も出さず渉は視線を落とした。
 その言葉に こくこく と頷いたのは、高校に入って半年ほどの少女。
 白くて透けるような肌は、ほとんど日に当たっていないのだと想像させる。
 髪は肌と対照的なほど黒くて、本当に部屋の灯りでも艶がわかるほどの長髪は、座っていると地面に届きそうになっていた。

 そんな彼女。
 住名詩季《すみなしき》こそが、渉にとっての『問題』の原因を作り出していた。

 二人で囲んだ丸テーブルには現代文、古典、英語を中心にした教科書が散らばっている。
「そっか。……じゃあ声が出せなくても目指せる分野なんだ?」
 再び こくこく と頷く詩季。
 けれど、詩季の柔らかそうな唇は、笑みは作っても、開くことはない。
 何故なら、一見どこにでも居るような彼女は、言葉を話せないからだった。
 正確に言えば。
 詩季は声帯の障害によって、言葉を知っていても、音として発することが出来ない。

 牧ノ瀬渉。特に目指すものもない大学二年。現在の副職、家庭教師。
 その生徒は、目の前に座っている高校一年生の、住名詩季。
 苗字は違えど、この少女は渉にとって『再従妹』という立場だった。
 だが、渉には彼女に対して『再従妹』という印象はない。
 それ以前に実は、目の前に座った詩季とは今日で十年ぶりの再会。
 感じる印象的には、ほとんどもう、他人同然だった。
「……うん? そりゃそっか。楽器を吹いたり弾いたりするのに声は関係ないしね」
 それでも、渉はそんな素振りを見せることなく『従兄』として、優しいお兄さんを演じるかのように笑いかける。
 五歳も離れた、渉の中で名前と特徴しか記憶にない少女もまた、小さく微笑んだ。
 詩季の声帯障害は、今に始まったことではない。
 少なくとも渉の記憶に残った微かな断片によれば、彼女は生まれながらにして声帯に神経の通わない病気を患っていた。
 なのに渉は、彼女の伝えたい言葉を一切誤解することなく、受け取れている。
 理由は簡単。
 ただ、詩季が『筆談』という手段を取っているからだった。
『渉くんに来てもらったのも、音楽大学に受かりたいからなんだよ』
 素早く、しかし綺麗な丸文字が、渉の言葉を受けて跳ねるように戻ってくる。
 そんな筆談に最初は驚きだったが、数時間も経つにつれていい加減、渉も慣れてきた。
『でも試験って、ピアノや音楽関係だけじゃなくて、基本学科もあるんだ』
 言葉を書きながら眉をひそめて、嫌そうな表情を浮かべる詩季。
 渉は「はは」と笑った。
「そりゃそうだよ。特待生は別にして一般試験は当然。でも、勉強結構できるでしょ?」
『勉強できてたら、家庭教師なんて頼まないよ』
「確かに、そうだね」
 渉はまた笑った。
 さっきから笑いっぱなしだった。
 何故なら。
 渉にとっての『躓いている原因』は、未だに解決できる素振りすら見せないから。

 ……この問題、どう解けば良かったんだっけ?

 継続する問題。
 それは、家庭教師でありながら、わからない問題に直面している、この状況。
 筆談と口頭による会話を続けながら、さりげなく渉は教材を探っている。
 だが、問題のヒントになるような部分は見当たらなかった。
 は、はは……。

「……あんたさ、何一人で笑ってんの?」

 不意に。
 詩季の部屋と廊下を繋ぐ扉が開いた。
 そして、扉の向こう側から吐き出された毒舌と共に、茶髪の少女が部屋に入ってくる。
 笑っている渉を睥睨、はん、と笑鼻で笑った少女は、腰に手を当てていて。
 渉の目の前に散らばった教材と、実は雑談だけで進んでいない問題に気付いた少女は、
「あれでしょ、問題、わかんないんでしょ」
 的確な突っ込みをした。
 ぐっ、と渉は笑い声を詰まらせるが、事実なので返す言葉もない。
「あんたは昔からそうよねぇ……わからない部分があったら、笑ってごまかす。ほら、昔のあれもそうだったじゃない」
「えーと、どれだっけ」
 投げられた言葉に、ぴくり、と頬の端を引きつらせる渉。
 それは、触れられたくない痛い記憶と受け取られたようで、彼女はにやりと笑った。
「知らん振りしても駄目に決まってんでしょ。そうそう、あれはしーちゃんがまだ六才になる直前でした……」
「いや! とりあえずそれより勉強だろ今は!」
 唐突に始まりかけた思い出話を、慌てて区切った渉。
 だが、どちらにせよ問題を解けるわけでもなくて、渉は焦った。
 ……思い出の話に入られるのは、困るんだ。
「ほら、麻衣はこれ解けるんだろ? 代わりに解いてくれよ」
 どちらを選んでも鬼門という状態だったが、それでも渉はいっそ白旗を振ってみせる。
 その様子に麻衣は肩をすくめると、
「役立たずよね。しーちゃん、ほれ、あたしに見せてみ」
 苦笑いを浮かべた渉は無視したまま、少女はテーブルに近づいてきた。
 その少女に、詩季が筆談ではなく、手を動かした。
『お姉ちゃん、渉くんには酷いよね』
 それは、手話なのだろう。
 渉には何を話しているのかわからなかったが、少女は理解しているようで、
「そんなことないわよ? こいつは高校時代、あたしのことガン無視だったしね」
 平然と答えている。
『そうなの?』
 振り返った詩季の手の動きに、渉は降参と言わんばかりに両手を上げた。
「……ごめん、手話は読み取れないや」
 目の前に居るのは、詩季の五歳離れた姉──住名麻衣《すみなまい》。
 詩季よりはまだ、彼女のことのほうが渉の記憶には残っていた。
 彼女も言った通り、数年前までは同じ高校の同級生だったのだから。
 麻衣は手話が出来るらしい。
 詩季が姉に話しかけるときは、筆談ではなく手話だった。
 だが、渉には何を話しているのか、内容は雰囲気でしかわからない。
「会話の内容知りたいの? あれよ。しーちゃん、あんたがきもいってさ」
 渉のそんな空気を察したのか。
 笑いながら説明した麻衣に、詩季は驚いた顔をして首を ぶんぶん と横に振った。
 背中まで伸びた黒い髪が、左右に広がる。
「おい、言ってないってさ」「きもいじゃなくて帰れって言ったのよ」
「……。……!? ……!」
 うんうんと頷く詩季だったが、最中に姉の言葉が被り、今度はあわてて首を振る。
「あっはっは。楽しい」
 わざとらしい笑い声。
 渉は小さくため息を漏らすと、頭を掻いた後、手で追い出すような素振りを見せる。
「妹をいじめるな。ていうか、今は勉強中だから。邪魔をするな。帰れ」
「帰れって、酷いなぁ。ほら、あたしはこれを持ってきたのよ」
 しかし、渉の暴言にも堪えた様子を見せない彼女は、右手に持った何かを投げた。
 テーブルの上に落ちてきたのは、大学受験対策のドリル。
 見れば年代的には少し古いが、礎的な部分を埋めていく総合問題集だった。
「それ、あたしのお古。だけど一問もやってないから、よかったら使ってよ」
 当時、睡眠時間を削ってまで勉強していた渉は、ショック。
 少しだけ、麻衣を睨み付けた。
 だが、飄々とした態度で麻衣は肩をすくめると、そのまま何も言わず部屋を出ていく。
『お姉ちゃんは、あれでも気にかけてくれてるんだよ』
 再び筆談に戻った詩季が、書いた言葉に笑いながら頷く渉。
「……そうみたいだね」
 開いたドリル。
 その最初の1ページ目、目次の覧の端っこに、目が留まる。
 そこには汚い文字だったが、『頑張れ詩季!』というメッセージが書き込まれていて。

 結局、問題は解けないままだったが、それでも充実した初めての家庭教師。
 麻衣が去っていった後も、渉は記憶に薄い少女に勉強を教えながら、ぴりっとした緊張感のある、けれど楽しい時間を過ごしたのだった。

 ──この初めての家庭教師の日、彼は二人の少女と再会を果たした。
 ──この再会の日、彼の内なる運命の海は、遠いどこかで波を作り出していた。

 ──その波は、いつしか大きなうねりを生んで、津波となる。
 ──そのことをまだ、彼は知らない。


           ◆


 一週間後の日曜日。
 部屋で目覚めた渉は、携帯のスケジュールを確認すると、眠い目をこすった。
 ……そうか、今日は二回目の家庭教師の日だった。
 頭をくしゃくしゃと掻きながら、不健康にもカーテンを開かず、電気を点ける。
 今日で、二回目。
 寝ぼけ眼で天井を眺めながら、渉は、再会を果たした詩季を思い出していた。
 そう、二回目だ。
 渉にはそれ以前に──"再従妹の少女と会った記憶が一つも残っていなかった"。

 ややこしい事に『それまで会ったことがない』というわけではない。

 渉には、記憶がないのだ。
 小さい頃に彼女と遊んだ記憶を含めた、ある時期を境にそれ以前の記憶が。

 原因はとっくに知っている。
 今から十年前に遭った交通事故のせいで、脳がその辛さに耐え切れず、その周辺の記憶も含めて辛い記憶に辿り着けないよう、一切を忘れてしまった。それが理由だった。
 少なくとも、何度か通った脳神経外科の先生は、そう言っていた。
 この『事故に遭った』ということ自体、渉自身も本当なのか疑うほど、記憶にない。
 が、先生の言うことは、きっと正しいのだろう。
 先週の、詩季と麻衣との再会は、渉にそれを強く思わせるきっかけになっていた。
 時折混ぜられる思い出の欠片が、渉には遠い、以前に存在すらしていなくて。
 話を合わせるだけでも、精一杯だった。
 事故に遭って記憶がないことは、彼女たちには話していなかったし、実のところ、話そうという気も全くなかった。
 理由なんて別にないのだが、それは何となくという感情で。
「……実際、難しいよなぁ。いろいろ」
 舌打ちをしてから起き上がったのに、何だか動く気力がなくて、渉はそのまま、もう一度ベッドに背中から倒れこむと、声に出さず、言葉の続きを選んだ。
 ……たぶん当時の事故を、詩季や麻衣は知っているとは思う。
 ……そりゃ、親戚なんだし。
 ……けど、ぶり返すようなこともしたくないんだから、仕方ないよな。
 自己完結の思考は、けっきょく取りとめもない。
 それに、会話の中の矛盾を隠すように知ったかぶりをするのは、ただ渉がそうしたいだけだった。
 本当に何となく、無意識に、そう考えてしまうのだ。
「まぁ、いっか」
 思考を投げたわけではないが、考えすぎても仕方ない。
 それよりもまずは、他にいくらでもやる事があった。
 ふと、ベッドに寝転がりながら、渉は机に手を伸ばす。
 ぐっと伸びをするような体勢で、そこに置かれていたものを手に取ると、身体を反転させてベッドにうつ伏せになった。
 机にあったのは、自分が高校に行っていた頃の、教科書や参考書、書き残したノート。
 その内の一冊を手元で開く。
 ──現役の高校生に勉強を教える。
 アルバイト感覚で始めた家庭教師というやつは、思ったよりも難しい。
 『自分一人で問題を解く』のと『解く為のヒントを与える』のでは、難易度は想像以上に変わってくる。
 そして、勉強面で余裕が持てないと、どうしても会話に緊張が出てしまうだろう。
 今日みたいな展開を避けるためにも、渉は手に取ったノートを眺めた。
 寝転がりながら、実に二年ぶりとなる高校時代の勉強内容は、適当大学生の渉にとってはどれも懐かしさを覚えるものばかり。
 ふと気付けば、そんなノートをぱらつかせながら、渉は呟いていた。
「昔は頻繁に遊んでた……らしいんだけどなぁ」
 どうやらまるで集中出来ていないようで、ごろ寝したまま、ぼーっと思い出す。
 自分の母親が言っていた話を統合すれば。
 交通事故に遭う以前、つまり今から十年近く前は、母親に連れられて行った住名家で、二人とずっと遊んでいたらしい。
『しーちゃんとまいちゃん、それとわーくん三人仲良かったわよねぇ……』
 懐かしがっていた母親の言葉がふと、頭を過ぎる。
 けれど、そのことを思い出そうとしても、記憶に存在しないものは出てこない。
 かつてあったはずのものを探す度、いつも渉の脳内には微かな痛みを残すだけで何も取り戻すことはなかった。
 先週のあの日のように、過去の思い出を語られても、今の自分には、色も熱もない。
 だが、だからと言って記憶喪失を伝えようとも思わない。
 口下手な渉は、二回目の今日も、詩季や麻衣から不意に来る思い出話を乗り越えなければならないだろう。
 それでも家庭教師を引き受けたのは、ちょっとした好奇心と──『頑張っている再従妹を応援したい』という気持ちがあったからだった。
 顔とちょっとした特徴ぐらいしか思い出せない、再従妹だったが。
 乱雑な字の並んだノートから、渉は窓に目を向ける。
 今日はきっと、天気も良いだろう。
 渉は気分を切り替えようと、シャワーを浴びてから出発することにした。


           ◆


 詩季の部屋は、とても女の子らしかった。
 淡い色のカーペット。ところどころに飾られたぬいぐるみ。
 ただ、もうすぐ季節は秋に差し掛かるこの十月、服装だけではなく、部屋もまた衣替えのシーズンなのだろう。
 薄いカーテンだけが少し浮いていて、前回の家庭教師の日に渉が指摘すると、詩季は恥ずかしがっていた。
 そんな部屋の真ん中。
 カーペットの丸い形に合わせたこたつに入りながら、渉は驚いていた。
 何故なら。
「……凄いな、もうあのドリル終わらせたんだ?」
 声があったなら「えへへ」と笑っていそうな、首を傾げた詩季の照れた表情を見ながら褒めた渉の前にあったのは、先週のドリル。
 姉がくれたというそのドリルの中身は、一問残らず解答済みになっていた。
 家庭教師のバイトは、一週間に一回という約束だ。
 そういう話だったにも関わらず、たったの一週間で詩季は、麻衣からもらったそのドリルを、驚くことに全問突破していた。
 渉は何気なくページをめくって、答えを確かめる振りをしながら、最後が何ページになっているのかを確認する。
『62ページ』と、裏表紙の一枚手前には、刻まれていて。
 大学受験を控えた高校三年の頃でさえ、これほど頑張った覚えのない渉は、頬を掻く。
 ……これは、家庭教師の選択を間違えてるんじゃないか?
 正直、自分のような素人が教えるよりも、専門の人の方が良い気がしてきた渉に、今度は詩季から言葉が投げかけられる。
『今日はね、使い終わったドリルの代わりに、教材探しに本屋に行きたいんだけど』
 真っ白なルーズリーフに、すらすらと書かれた文章。
 そこには彼女からのお願いが書かれていたが、今日は家庭教師の日のはず。
 下手に出かけて彼女を甘やかしてしまっては、家庭教師失格だろう。
「うん? 勉強しないでいいの?」
 しかし、言ってからふと思い立って、渉は「でも」とすぐに前言を撤回する。
「でも考えたら、今日の予定のドリル終わってるしね」
 別にドリルがなくても、普通の高校教材を利用して勉強する手はある。
 だが、つい最近聞いた大学講師の話を、渉は思い出していたのだ。

 ──学生のやる気を如何に保つか、それが教師として最大で唯一の目標だ。

 別に詩季は勉強を面倒くさがっているわけではない。
 せっかくやる気を出して参考書を探したい、と言っているのだから、渉は頷いた。
「じゃあ今日は本屋行こうか」
 こたつに肘をついていた詩季はその言葉に、ぐっ、とガッツポーツを作る。
 そして、ルーズリーフにすらすら一文を書いて、立ち上がった。
『やったね! じゃあ、準備してくるよ』
 喜びながら小さな化粧ポーチを持って、詩季は部屋を出ていく。
 わざわざ見てわかる『やったね!』まで書いて、彼女はよほど嬉しいようだった。
 それを見送りながら、渉は苦笑する。
 ……そんなに喜ぶことなんだろうか。


           ◆


『市内で一番大きな本屋に行ってみたい』
 そんな詩季の希望を受けて、二人は若井市の中心にある大型書店へとやってきていた。
 おそらく、新書取り扱いの書店の中では、市内随一の書籍量を誇るだろう。
 外観も新しく、渉自身来たことはなかったが、その大きさにちょっとだけ胸が躍る。
「……ん?」
 くい、と薄い長袖の裾を詩季に引っ張られて、渉は少し視線を落とした。
 そこには詩季が差し出した、携帯電話。
 その画面には、メモ帳機能を利用して打っているのだろう、文章が表示されていた。
『この本屋に来たの初めてだけど、すごく大きいね?』
 手話の出来ない渉のため、というよりは以前からそういう方法でコミュニケーションを取ることが日常なのだろう。
 手馴れた指先で文章を打つ詩季は、何というか見た目の大人しそうな雰囲気からは少しだけイメージが違っていて──やっぱり平成生まれなんだなぁ、と渉は驚いた。
 が、返事を待っている詩季に、同意するように頷く。
「普通の本以外にも色々あるみたいだよ、ここ」
『じゃあ音楽とか、楽器の本って置いてたりするかな?』
「んーたぶん置いてると思う。そうだな、せっかく大きい本屋に来たんだから、音楽関係《そっち》のコーナーもしっかり見ていこうか。家庭教師の日だけど、たまにはね」
 たまに、なんて二度目の家庭教師のくせに言えたことではなかったが、詩季のわくわくした様子に、渉は合点がいっていた。
 先週聞いた、詩季の夢。
 作曲家。
 音楽関係が豊かな本屋なんて、市内でもごく僅かなのだろうし、喜ぶのも無理はない。
 希望を受け入れた渉の顔を見て、詩季は こくこく と頷いた。
『やった!』
 携帯画面を差し出して、顔を見上げてきた詩季。
「そんなに喜ぶこと?」
 問うともう一度 こくこく。頷く詩季。
 その様子が、まるで喜びを表現する子犬のように思えて、気付けば渉は笑顔になった。
 ……子犬になったしーちゃん。
 ……きっと黒いダックスだ。なんだか可愛いかもしれないな。
 頭の中ではそんなことを想像しながら、けれど、それは口には出さない。
 それでも、雰囲気から何かを察したのだろう。
 首を傾げて『何がおかしいの?』と訴える詩季に、渉は「何でもないよ」とだけ告げて歩き出した。
『待って! 何がおかしいの!?』
 その態度で余計に気になったのか、慌てて追ってきた詩季の携帯画面はあえて見ない。
 渉は、そのまま書店へと入っていった。
 後ろから追いかけてくる詩季の足音を聞きながら、からかうような笑顔で。


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