寿詞(よごと)実践会コミュの実践講座６――旧理論の呪縛(１)

　さて、いよいよ最初の章「混ぜるな。危険！」で「本書とは相容れない」と述べた旧理論へのアンチテーゼを展開していこうか。
　といっても、ボク(なんどもいうようだが)は、これらの理論を否定はしていない。各々、まだまだ通用する素晴らしいアプローチであることは変わらない。ただ「寿詞の実践にかかるコンシャスネスと混ぜないでほしい」といっているだけである。

　そうだね。たとえに「電流」と「電子の流れ」を挙げてみようか。
　あなたも「電流は、プラスからマイナスに向かって流れる」と定義づけられていることを知っているだろう。この理論をベースにさまざまな開発がおこなわれ、ひとびとの便利をもたらした。
　ところが「電子のはたらき」が解明されるにつれ「電子はマイナスからプラスに向かって流れる」ということが発見された。これには、当時の学会も困ったらしい。だって「電流は電子の流れ」と規定すると、いままでの電流理論をベースにした理論はみんな、足場を失い、ひっくり返ってしまう。
　だから、問題が生じない範囲なら「電流はプラスからマイナスに向かって流れる」という定義を継続することにした。

　アインシュタインの相対性理論に至っては、もっと深刻だった。なぜなら、それまでのニュートン力学を根底から否定してしまうからね。こちらも、引力や重力に関して問題が発生しない範囲までは旧理論を採用している。
　ここにハイゼンベルクの不確定性原理が登場すると、相対性理論にも矛盾が生じる。さらに超弦理論やブーツストラップ理論などが、その原理の矛盾を突く。そこに人間性を持ち込んだホーキングの人間論的宇宙論……といった具合に、先端科学の世界ですら、新しい理論は、つぎの理論が登場するまでの壮大なる仮説の域を出ない。
　かといって、旧理論の価値がないということではない。あくまで「相容れない」という部分を持つだけのこと。
　この「寿詞のコンシャスネス」だって、そういう意味では仮説であり――さらに「寿詞の実践」は、その壮大なる実験である。だからボクは、世に存在する理論や哲学、宗教、思想……などなどを一切否定する立場を採らない。
　あくまで精神の時代――新しい潮流に気づき、これを感得したあなたに「ともに実験に参加しないか？」「こんなに素敵な魂の思い出づくりができるよ」と呼びかけているだけである。
　だから、ここでのアンチテーゼとは、新しい潮流――すべての存在が意識化するステージにおいて、相容れないところの解説に過ぎない。

　といった尻から、ひとつ、お断りしておかないといけないことがある。
　それは「言葉の呪縛」である。詳細については拙書『魔法の言霊?』を参照していただきたいのだが「言葉は、それ自体が限定を持ち、あなたを拘束する」ということだ。つまり、言葉自体が「呪」という存在なのである。
　どうして、こんなことになったのかというと「言葉は、人類の文化・文明が未発達な段階において、先祖が規定したもの」であるからだ。つまり、言葉とはコミュニケーションのための道具であることから、その道具としての使い途がある。同時に、それ以外の使い途を拒否するのだ。つまり「言葉は、もっとも未発達で原始的な道具」であるわけ。
　そのため、そこに共通の足場がないと理解に差異が生まれてしまう。だから、くれぐれも、これから書かれていることの言葉を理解しようとするのではなく、その底流に在るコンシャスネスを感じ取ってほしい。

　まずは「・成功の尺度を経済に求める理論」「・潜在意識を活用するという成功理論」について考えてみよう。
　前者は「なんとなく……」の同意は得ることができると思う。でも、前章の「エネルギーバランス」で、より明解になったのじゃないかな。ボクは経済そのものやお金儲けを否定しているわけではない。ただ、その前に「バランス感覚」を求めているだけだ。あくまでトータルでの幸福――素敵な魂の思い出づくりを目指すことが、本当の意味での成功であると考えている。だから「成功をお金」とする理論は、バランスを崩す元凶となってしまうため、相容れない。
　後者は「ひとの意識を切り分けることはできない」という視座からの相容れない理論である。その証拠に潜在意識と顕在意識のボーダーラインを引いてみるといい。あなたには絶対にできな筈だ。もちろん、ボクにだってできない。
　たとえば、いま潜在意識側にある「犬」という概念。つまり、あなたはいま「犬のことは考えていない」わけである。ところが、ここを読んだ瞬間、あなたの頭の中に「犬」が登場する。そこで「犬のことは考えないぞ！」と、あなたが思えば思うほど、大量に「犬」が出現してくるのだ。
　これが「こころのはたらき」であり、そういう設定になっているのだ。このことを仏教の聖である天台智顗(てんだいちぎ)は、摩詞止観(まかしかん)の中で「一念三千」と述べている。詳細は拙書『魔法の言霊?』に譲るが、簡単にいえば「ひとの意識は、いつでも宇宙大」ということだ。その宇宙大の意識を切り分けることはできない。
　よしんば、潜在意識と顕在意識が存在すると仮定したとしても、潮流は意識化に向かっている。当然のことながら「いっしょくた」になってしまっているわけ。だから寿詞コンシャスネスは、潜在意識論とは相容れない。

　つぎに「・『ありがとう』といった主語に自分が入る言葉理論」について考察しよう。
　ボクは「ありがとう」を「感謝の言霊」として高く位置づけている。にもかかわらず、世間で「ありがとうという言葉をいいましょう」といった活動や理論に賛成できない。そのパラドックスについてお話しする。
　この「ありがとう」自体は、やさしい波動を持った素敵な言葉だ。そして、まさしく感謝を表す言葉でもある。だから、あなたに感謝の気持ちがわき起こったら、どんどん使うことには、まったく問題はない。つまり、思わず口をついて発せられたなら、言葉の持つ感謝の気持ちが発現して――発したあなたも、受け取った相手もしあわせにする。
　ところが世の中では「とにかく、ありがとうをいいましょう」と、なかば強制的な風潮があることにボクは危惧を感じるのだ。もっというなら「ありがとうをいっておけば、きっとありがたいことになる」といった御利益(ごりやく)信仰的に使われている感がある。
　このことは「思惑どおりになって、ありがたい」の響きを持つ。つまり、この「ありがとう」は「自分にとって、ありがたい」というように自分という主語をとるのだ。ということは、この言葉は自我・我欲――エゴが忍び込む領域を持っているわけ。
　同様に「感謝してます」とか「ゆるします」「うれしい」「楽しい」「しあわせ」といった言葉も「ボクが」「わたしが」「おれが」といった具合に主語に自分が入る。つまり、こっそりとエゴが育つ領域を有している。だから、思わず口をついて発せられるなら素晴らしい言霊となるが「いわなくっちゃ」で発すると、エゴがぬくぬくと育ってしまうおそれがある。だから寿詞とは相容れないのだ。

　つづいて「・『ついてる』などの憑依理論」では、ことはもっと重篤だ。
　この「ついてる」は「憑いてる」のこと。つまり、超自然的な「なにか」が憑依することで、自分自身の能力以上の結果を求める理論である。
　たしかに「眼に見えないはたらき」をしてくれる精霊という存在を「寿詞の実践」でも認めている(詳細は後述)。でも、存在するのは精霊ばかりではない。むしろ悪霊のほうが多いのだ。さらに悪霊のほうが「憑く」相手を求めてさまよっている。なぜなら「困って、助けてほしい」状態にあるからね。
　これに対して、精霊のほうは別段、困ってはいない。だけど、あなたが素晴らしい行動をするなら、感動して応援団になってくれる。これが本来の――いい意味での「ついてる」ということだ。悪霊の勤勉さに比べ、思いのほか精霊はなまけ者なんだ。あなたが素敵なおこないを継続して、なおかつ祈らないと「ついて」くれない。
　ところが、自分の立居振舞を棚に上げて、より以上の成果を求めるのは、どう考えてもエゴの叫びにほかならない。そこに「ついてる、ついてる」なんていおうものなら、悪霊が狂喜乱舞してやってくる。だって波動が合うからね。これは危険だ。
　だから「寿詞の実践」では、安易な御利益先行の「ついてる」とは相容れない。

　さて、こんどは「・『ワクワク』探しを標榜する理論」についてだ。
　あなたは「ワクワクする」というと、なにか――こころが騒ぐ……日常とちがう特別な状況を思い浮かべるだろう。これが「ワクワク」という言葉の呪縛であり罠だ。なぜなら、こう考えることにより、あなたは「ワクワク」を求める精神状態になってしまう。つまり、外にワクワクを探すようになるわけ。
　でも「ワクワク」という言葉は状態を表す。あくまで、あなたの側のことを指す。それを外に探しても、絶対に存在しないのだ。いうならば「いま、あなたがワクワクしていないなら、ワクワクなんてどこにもない」のである。なのに「ワクワク」探しをしようとするからラビリンス(迷宮)に入り込んで迷子になってしまうパラドックスに陥る。
　また「ワクワク」というのは、ある意味「有頂天」であるといえるだろう。「のぼせあがっている」状態だ。非日常を求めているわけ。でも、あなたは日常にいる。日常に必要なのは「腑に落ちる」ことだ。でないと、いつまでもギャップに悩むことになる。
　さらに新しい潮流は「すべてが意識化」の方向にある。いうならば「上昇」にあるのだ。ということは、かつて「ワクワク」といっていたことが日常となってしまっている。ことさらに探す必要はない。ただ、潮流を感得し、これに乗ればいい。きわめて平凡なのである。もっというなら、新しい潮流下では「ワクワクは日常に属し、静寂(しじま)のことを示す」ということだ。
　だから寿詞流では「ワクワク」を外に探す理論とは相容れない。

　それから「・神仏に救済を求める哲学理論」だ。
　最初に断っておくが、ボクは、あまたの宗教を否定するものではない。それぞれがそれぞれなりに素晴らしいと思っている。だから、宗教や哲学を持つことは、ひとが魂を進化させるのにとっても有意義だと感じてもいる。信仰もいい。大いに学ぶことをお勧めする。かくいうボクも、そうしているからね。
　にもかかわらず、こと「寿詞の実践」においては、これら「神仏に救済を求める」信仰論とは一線を画す。あくまで、その叡智を援用し、活用させていただくだけに止めている。なぜなら「人生ゲーム」の章でも述べたように――神さまとは「宇宙・万物を司る摂理」と定義していることと、あなたの人生ゲーム……すなわち「あなたの世界の神さまはあなたである」ことからだ。
　言い換えよう。
　あなたがあなたの宇宙では絶対的な支配者――つまり、神である。外に神仏は存在しないのだ。ここは先の「ワクワクは内に在る」といっしょ。
　ということは――あなたは神に救いを求める側でなく、あなたの人生ゲームの脇役を救う側……神として祝福し、福運を授ける立場であるということだ。もっというなら、あなたの宇宙で悟りを得、覚醒できるのは、あなただけなのである。
　もちろん、ボクの世界ではボクが神であり、覚者となれるのはボクだけだ。だから、だれもが「天上天下唯我独尊」なのである。そんな神々が集うステージが、お互いに重なり合い関係し合う多次元宇宙であり、人生ゲームの共通ダンジョンといえる。
　さらに新しい潮流からも、このことは説明できる。すべてが意識化に向かうということは、あなたが神であったことを思い出し――神として、あなたの世界に奉仕する次元にあなたはいる……ということなのだ。
　分かったかな。
　あなたの世界の救世主は、あなた以外に存在しないわけ。
　このことから、寿詞コンシャスネスは、外に神仏を設定し、これに救済を求める理論と相容れない。