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日本書紀を読み解くコミュの弟比売 その4

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「なんと、藤原に館を・・・」
「それだけではございませぬ。大王は、今、お忍びでそちらに・・・」
「行ったと申すか」
今頃はその腕に抱いているやも知れぬ。
大中比売はあまりの悔しさに身もだえして悔しがった。
血の涙が出るのではないかと思われるほど、頭に血が上る。
「い、五十鈴や。氷室(ひむろ)の氷を出しておくれ」
「かしこまりましてござりまする」

梅雨の鬱陶しさもあいまってつわりが重く、しきりに冷たいものを飲みたがった。
闘鶏(つげ)の氷室から氷を運ばせては、そればかり口にしていた。

「妾のこの苦しさも知らず、わが大王は春の蝶のごとくに浮かれておられる・・・」
ため息をつきながら、五十鈴にきかせるともなく愚痴をこぼしていた。
「大王は病を得てからというもの、交接ができなんだ。
 病が癒えたのはよろしいが・・・伽女にうつつばかり・・・」
ころころと涼やかな音を立てて、清水に浮かべた氷が運ばれてきた。
「伽女にいちいち嫉妬をするわけではない。一夜限りのお戯れは大王として当然のことよ。
 しかし、お子が出来たら養育せねばならぬのに、娘子の出自をちいっともお考えにならぬ。
 弟比売は中臣の比売だと申すのに・・・」
氷を浮かべた清水を、静かに喉に流し込む。
五十鈴が大中比売の額に滲んだ汗を絹で拭き取った。

「五十鈴や、このようなことまで聞かせるのは、そなたが誠心誠意妾に仕えてくれるからじゃ。そなたが妾の心の拠りどころよ」
「滅相も無い。ありがたき幸せにございまする」
「弟比売の動きがわかったら、また教えてたも」
「かしこまりましてござりまする」

雲の切れ間から日差しがこぼれ、梅雨の季節に終わりを告げる。
雲の糸に雨だれが光、水晶の首飾りのように虹色に輝いている。
しかし、物思いに沈む大中比売の眼には何も映ってはいない。

未だ見ぬ弟比売の若い体躯に絡みつく夫の姿を、つい、思い浮かべてしまうのだった。
「大王、おなごは見目かたちだけでは判りませぬぞ」

ひどく疲れた気がする。
夏は間近であった。

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