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日本書紀を読み解くコミュの若武尊 その3

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眠れぬ夜を過ごしたため、次の朝の大中比売の目は赤く淀んでいた。
「大王には、気分がすぐれませぬゆえ今朝はお目道理かないませぬ、と伝えておくれ」
「か・・・かしこまりまして・・・ございまする」
五十鈴は辛そうに目を伏せた。
「どうした、何ぞあったのか。大王はご心配なされておるのか」
「・・・いえ・・・あの・・・」
「どうしたと聞いておる。遠慮せずに申せ」
問い詰められ、されば、と語り始めた言葉に大中比売は愕然とした。
「大王は早速、弟比売をお招きになる館(たち)をお作りになると・・・ト占を・・・」
腹の中が煮えくり返る。

はっとして五十鈴を問い詰めた。
「ト占はいずこでお立てになると申された」
「石上(いそのかみ)と聞きましてござりまする」
「なんと」
髪の毛が一本々々逆立つのかと思われた。
「確か弟比売は春日の奥・・・におると・・・」
石上と春日は目と鼻の先、もしや、すでに弟比売をその手にかき抱いているのではないか。
そう思った瞬間、目の前が赤く染まった。


 音が無い
 深く暗い水底にこの身が堕ちてゆく
 誰じゃ
 妾の髪をつかむのは
 体がちくりとも動かぬ
 誰じゃ
 妾の足をつかむのは
 やめるのじゃ
 それだけはやめてたもれ
 誰かが腹を踏みつける
 それだけはやめてたもれ
 足がどんどん重くなってゆく・・・


「皇后様、お気を確かにお持ちくださいませ」
耳元に、五十鈴の心配そうな声が響いてきた。
「大王様もおかえりでございまする」
「なんと」
体を起こそうとしたが、動かない。
まだ悪い夢の続きなのか、冬だというのに嫌な汗をびっしょりとかいていた。
「皇后よ、何故黙っておったのじゃ。知っていれば舞いなぞさせなんだのに」

肥え気味の夫の顔がぼんやりと見えたとき、つっと涙が一筋頬を伝った。
「大王(あなた)」
「体をいたわって良い子をお産みなされ」
「あい、申し訳ございませぬ」
大王はにこやかに微笑むと、寝所を出て行った。

見送ろうと体を起こすとき、頭にちりりと痛みが走った。
髪がぞっくりと抜けている。
「なんと、不吉な」
腹を踏みつけられた感触がよみがえり、大中比売はぞくりと身震いをした。
「五十鈴、髪が抜けた。拾っておきなさい」
「あい」
刀自が持ってきた漆塗りの箱に、うやうやしく髪を入れる。
大中比売の震えは止まらなかった。

春はまだ遠かった。
 

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