日記ロワイアルコミュのプルプル婆と僕

会社のお使いで銀行に行きました。

ＧＷ明けという事もあり非常に混雑しておりましたが、大人しく番号札を取ると『74』番。

電光掲示板で確認すると後12人くらい待たなくちゃいけないらしい。

キョロキョロ見回してみると、長椅子にちょうど１人分のスペースを発見したので素早く座って順番待ち。

しばらく携帯をいじったりして時間を潰し、ふと顔を上げると…お婆ちゃんが窓口で説明を受けておりました。

どうやら勝手が分からないらしく、窓口のお姉さんに番号札を取って呼ばれるまで待っててね的な事を言われたらしい。

その婆ちゃんが、もう驚くほどプルプルしてんの。

ちょっと離れた位置からでも分かるくらいのプルプルっぷり。

プッチンプリンくらいプルップルですよ。
罰ゲームで低周波治療機でも当てられてるんじゃないかって疑うくらい小刻みに震えてました。これがチワワだったら拾って帰るレベル。

そのプルプル婆ちゃん、案の定座る椅子が無くて窓口の横でずっとプルプル。

一番近い長椅子に座る人達は、顔を上げる様子すら無いときたもんだ。

…え？もしかして僕にしか見えてないの？って思っちゃうくらい全員が無視。実に世知辛い。

ここで僕は悩みました。

電車で善かれと思って席を譲ろうとしたら『年寄り扱いするな』って怒られた苦い経験…ブラックコーヒーにゴーヤの搾り汁を入れて飲まされたくらい苦い経験のある僕からすると、悩みどころです。

すぐ近くなら軽い感じで譲れるかもしれないけれど、僕とプル婆との距離は長椅子にして三脚分！

『わざわざ遠い場所に座る僕が譲らなくても、誰かが譲るんじゃねーの？』ってな感じで心が折れるには十分な距離！

しかし…このままじゃあプル婆が立ったまま。
プルプルし過ぎて摩擦で発火するんじゃないかって心配しちゃう。

島村ヨネ(79)は３年前に他界した夫の事を思い出すと、いつも温かい気持ちになる。

確かに夫の源治は無口で頑固なところもあったが、芯の強い頼り甲斐のある男性だったとヨネは今でも思っている。
息子達が立派に成長してそれぞれの家庭を築けているのも、源治が懸命に働いて我々家族を養ってくれたから。

そんな源治が重い病気を患い、余命幾ばくもないという時に…弱々しくヨネの手を握って言ったのだ。

『ヨネさん、俺はお前と一緒に過ごせて幸せだったよ。色々迷惑かけちまったな…ありがとう。本当にありがとう』

夫の前では泣くまいと決めて気丈に振る舞っていたヨネも、その時ばかりは源治の胸に顔を埋めて乙女のように泣いたのだった。

息子達は一緒に暮らさないかと言ってくれているが、息子の嫁が歓迎していない事は雰囲気で理解していた。
あの子達に迷惑を掛けたくない。何より源治と過ごした家を離れたくないという気持ちで一人頑張ってきた。

僅かな年金でも、自分一人が暮らしていくだけなら十分だった。

それにしても、この銀行という場所は何度来ても慣れない。
通帳と印鑑を持って窓口へ来てみたものの、随分と待たされるらしい…世の中の流れから置いて行かれた人間は、いつだって待たされるものなんだねぇ。

…源治さん、いつになったら迎えに来てくれるんだい？それまでの辛抱だと思って頑張っているんだから、早く迎えに来ておくれよ。
そうしてまた昔みたいに、一緒に二人で暮らしましょうよ、ねぇ源治さん。

～妄想終了(約12秒)～

プル婆は…いや、ヨネさん(83)は必死に頑張ってるんだ！

最近増してきた膝の痛みに耐えながら、今も窓口の横でプルプル震えてるんだ！

そう、あの震えは年齢からくるものじゃない！あれは捨てられた子犬と一緒なんだ！
最愛の人とはぐれてしまって、知らない場所に一人ぼっち…孤独で寂しくて震えてるんだ！

僕が席を譲らなくてどうするんだ！
あの世代の人達が必死に頑張ってくれたから、今の日本があるんだぞ！しっかりしろ僕！

よしッ！言うぞ！

『良かったら、座って下さい(ﾆｯｺﾘ)』

実に簡単じゃないか！
たったこれだけでヨネさん(86)は膝の痛みに耐えながら立ち続けなくても良いんだ。天国の源治さんもきっと喜んでくれる！

そんな決意を胸に立ちあがってヨネさん(94)の元へと歩む。

ほぼ同じタイミングでヨネさん(98)の斜め前に座っていたオッサンが窓口に呼ばれる。

ヨネさん(101)その空いた席に座る。

そう！それはまさに神懸かり的なタイミングッ！

ヨネさん(116)が座れたのは良かったけれど、立ち上がって３歩くらい歩いてしまった僕はこの後どうすれば良いんだ！ｗｗｗ

よし、自然な感じでポケットから携帯を取り出そう。

スーツのズボンって座ったままだと携帯が取り出し難いよね、ははは…的な感じで携帯を取り出して…パカッと開いて何かを確認する振りをして…自然に元の席に戻れば完璧だ！

って既に座られとるがなｗｗｗｗｗ

どうすんのこれ？ｗ

立ち上がって３歩ほど歩いて自然な感じでポケットから携帯を取り出して確認し、振り返ったら座られてる僕はどうすんの？

他に席なんて空いてないし…そうだね、立ってりゃいいんだよね。うん。それしか無いよね。

あぁそっか、この場で立ったままだと邪魔だよね。

暇潰しに壁のポスターとかを見に行こうと思ったんですよって雰囲気で移動すれば良いんだね。

別に国債にも投資信託にも振り込め詐欺にも興味無いけど、『あーなるほどねー国債ねーあれいいよねー』的な感じで顎に手を当てて軽く頷きながら壁際に移動すれば良いんだよね。

うん、知ってる。大丈夫。泣いてない。こういう時は泣かないって決めてるから。