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日記ロワイアルコミュのおれのサンタクロースを紹介します 【創作】

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 学童へ迎えにいくと、娘の美羽がしょげた顔をして出てきた。「どした?」と訊いても口を開かず、さっさと車に乗ろうとする。おれは黙って運転席に座り、受け取ったランドセルを後部座席において、彼女のシートベルトをしめてやった。

「なした?」

 美羽が目をうつむきがちにして、唇をとがらせる。こりゃ友達となんかあったなと、親父の勘が働いた。

 とりあえず車を発進させ、雪の残る路地から、すでに溶けてしまった大きい通りへと曲がった。最初の交差点で信号待ちになったとき、「友達とケンカでもしたか?」とおれは訊いた。美羽がこくんとうなずいた。

「なして?」

「だって」と彼女が、頬をふくらませる。「アユちゃんが、『サンタなんていない』って言うんだもん」

 ははーんと思いつつ、もうそんな歳なのか、と感じていた。いや、おれが小学校低学年だったときも、サンタクロースはいないと声を大にするクラスメイトはいた。別に不思議ではないのかもしれない。

 おれは、娘にとっておきの話をしてやろうかと思った。おれのサンタクロースの話である。

 しかし、小学一年生の彼女には複雑すぎて判りづらいかもしれない。とりあえずその話は横におき、多くの大人がそうするように、おれは「サンタ、いるよ、ほんとに」と目を見てにっこりと言った。

「それに見せただろ? パパの友達が、フィンランドでサンタクロースと一緒に撮った写真」

「でもアユちゃんが、あれはニセモノだって言うんだよ」

「偽者かよ」とおれは苦笑した。「あれ本物だよ。それに、もし『ニセモノ』だったとしたら、『本物』も存在することになるだろ?」

 難しい顔をして、美羽が首をかしげる。

「だからさ、『ニセモノ』っていうのは『本人に見せかけた別人』って意味だから、ニセモノがいるなら、本物もいるってことさ」

 美羽が唇をとがらせた。「わかんなーい」

「あはは、そうか。難しいよな。とにかく、サンタクロースはいるよ。パパ、約束できるし、自信をもって言える」

 信号が青になった。おれは胸をそらしながら、車を発進させた。

「ほんとー?」

「ほんと」

 おれは、大げさに頷いた。親指を立て、「ほんと、ほんと」と力強く繰り返す。

「よかったー」と、美羽がほっと息を吐く。「アユちゃんが、『パパとママがサンタだよ』って言うんだよ」

「パパ、サンタじゃないよ。パパが子供のときも、ちゃんとサンタクロースきたし」

 ちゃんといい子にしてたから、とおれはニヤっと笑って付け加えた。娘は、「美羽もいい子にしてるもーん」と慌てたように言った――。

 


 
 これが、今日の夕刻のことである。あと何年間、あの「白ヒゲ」で「赤い服」のサンタクロースを信じているかわからないが、できるだけ長く娘には信じていてもらいたいと思う。自分の経験から言えるのだが、そのほうがクリスマスは楽しかったし、プレゼントが枕元においてあるのも、不思議で嬉しかった記憶がある。

 いよいよ信じなくなったら、そのときはおれのサンタクロースの話を彼女にしてあげようと思う。でも、いまはまだきっと理解できないに違いない。

 だから、ここでこっそり、あなたに先にしようと思う。話をまとめるための予行練習みたいなものだ。

 もちろん、そのときがくるまで、美羽に内緒にしてくれると約束してくれるのなら、だが――

 

◇◇◇



 あれは、忘れもしない小学校五年生ときだ。多くの子供たちが、人気のあったファミコンをクリスマスプレゼントに考えていた、そんな時代だった。

 夕方ごろ下校すると、台所にいたかあちゃんが声をかけてきた。クリスマスを二週間後にひかえた、すこし寒い日だった。

「なにさ?」

 ランドセルを背負ったまま台所に入っていくと、かあちゃんが、「あんた、とりあえずそこに座りなさい」と食卓テーブルをあごでさした。こういった場合、はっきり言って叱られた記憶しかない。

 しかし、財布から金をちょろまかしたのはずいぶん前だったし、うまくやったからばれているはずはなかった。そのころ始めたタバコも、家から200メートル以内では吸わないように気をつけていたし、家には持ち込まないようにしていた。だから、ばれていないはずだ。カード賭博で友達から小遣いをちょろまかしていたが、そんなの知られようがない。頭をフル回転させて考えたが、怒られる要素は見つからなかった。

 なのに、仁王が腕を組んでこちらを見ていた。

 おれは、おどおどしているのを表情に出さぬよう気をつけながら、「なにさ?」ともう一度訊いた。それと同時に、勝手口の鍵が開いていることを横目で確認した。いつでも逃亡をはかれるようにだ。もちろん、椅子になんか座らなかった。

「いいからあんた、とりあえず座りなさい」

 お世辞にもうちのかあちゃんは美人とは言えなかった。厄難から東大寺を守っている像の双子なのではないかと思う。本人もそれを自覚していると思っていた。しかし一度そんな話題になったとき、かあちゃんは、「そんなことないわよ! となりの奥さんが、『文子さんだったらほんときれいな肌してるし、うらやましいわあ。十歳は若く見えるわよ』って言ってたんだから!」とドンっとテーブルを叩いたあと、「あら……、美人だって、言ってないわね」と墓穴を掘っていた。

 とにかく、その迫力のある顔で迫られると、ふつうの男子なら、失禁するか、悪いことをしていなくても、「ごめんなさいぃぃぃ」と泣き出していたと思う。けれど、おれはそんなかあちゃんとすでに11年間も対峙していたわけで、多少は免疫があった。身体を軽くするためにランドセルを下ろしながら、「なーにーさ!」と三度訊いた。

「あのねえ」とかあちゃんがため息を吐いた。「あんた、なんか怒られるようなことでもしてるのかい!?」

 警戒しているのがばれたのだろう。おれは、どきりとした。

「し、してねえよ!」

「ほんとかい? 最近、マイブンでも吸い始めたんじゃないのかい!?」

「吸ってねえよ、マルボロだよ!」

 あっ……、と思ったが、遅かった。口がすべるというのを初めて体験した。かあちゃんが、「あんたねえ……」と片手で目を覆った。

 脱出! と思って勝手口に向かって走り出すと、かあちゃんが、「あんた、そんなことはいまは目をつぶってやるから、いいからそこに座りなさい」と呆れた声を出した。おれは、そんなかあちゃんの優しい言葉に、耳を疑った。

「まじで!?」

 ドアノブにつかまりながらおそるおそる振り向くと、かあちゃんが、「いいから、ほら」と椅子を引いた。おれは、なんか変だなあと思いつつ、警戒を解かずに、腰をかけた。かあちゃんが、ゆっくりと正面にまわり、でかいケツを椅子に置いた。

 太い指を組み合わせ、かあちゃんは、その手をテーブルに置いた。

「あんたはもう五年生だからわかってると思うけど――」

 壁時計の音がこちこちと、やけに大きく聞こえた。おれはごくりとつばを飲んだ。父からもらったという銀色の指輪が、かあちゃんの薬指に食い込んでいた。あのこぶしで殴られたらプロレスラーも倒れるな、と思いながら、おれはもう一度、つばを飲んだ。

「わかってると思うけど、サンタさんはいないって、もう知ってるね?」

 確認するよな言い方だった。おれは、「そ、そんなの知ってらあ!」と大きな声で答えた。

 ショックだった。この瞬間まで、おれはサンタクロースのことを信じていたのだ。

 いるとかいないとかでもめて、この二年前に幼馴染のタケルと鼻血が出るまで殴り合いのケンカをしたことがあった。決闘前、彼のTシャツを指さして、「てめーのその白いシャツを、サンタクロースのごとく真っ赤に染めてやるぜ!」と決めゼリフを吐いた。

 でも、いなかった。

「赤鼻のトナカイのようになるまで、お前の鼻をパンチしてやるぜ!」と拳を見せた。

 でも、いなかった。

 いなかったのだ。

 そんなことを思い出し、呆然としていると、かあちゃんが、「よし」と言って、ニヤリとうなずいた。こちらとしては全然よしじゃなかったのだが、現実に戻され、おれは動揺を隠しながら、「そ、それがどしたんだよ!」と訊いた。

「山口くんのお母さんが言ってたんだけどね」

 と、かあちゃんはおれのもうひとりの幼馴染、やっちゃんの名前を出した。やっちゃんの母ちゃんとおれのかあちゃんは高校のころからの親友らしく、なんでも話し合う間柄だった。おかげで、やっちゃんの家で、「となりのクラスの佳枝、けっこうかわいくね?」とおれが話していたのをおばちゃんが聞いていたらしく、翌日には、「あんた、となりのクラスの女の子にちょっかいかけてるって、本当かい!?」と、間違った情報で、いきなりかあちゃんに頭を叩かれたことがあった。本当は、やっちゃんが口をすべらせたのではないかと疑っているのだが、真相はわからない。とにかく、このときも、山口くんのお母さんと聞いただけで、「あのやろう、またなんか口すべらせたのか!?」と思った。

 だが、違った。

「美加が、『サンタクロースはいないの、おばちゃん?』って山口くんのお母さんに訊いてきたそうなんだ」

「美加が?」

 おれは茶の間の向こうにある、妹の部屋に目をやった。まだ帰宅した様子はなかった。またどこかの公園で、やっちゃんの妹と一緒に、雪面に足跡で絵を描いて遊んでいたのだろう。「暗くなるのが早いんだから、早く帰ってきなさい!」とかあちゃんによく叱られていたが、雪の降った翌日は、かならず帰るのが遅かった。

「なんかね、タケルくんが山口くんに、『サンタクロースなんかいねーよ』って話してたのを、となりの部屋で美加が聞いてたみたいなのよね」

 あのバカ、あのときもっと殴っておけばよかった、とおれは思った。子供の夢を奪うなんて、許されることではない。

 ということは――と思った。よし、おれ、かあちゃんを殴っていいことになったぞ、と。

 もちろん、謀反なんて無謀だった。ぼこぼこにされるに違いない。おれは、そう思ったことを忘れることにして、おとなしく座っていた。

「それでね、あんたみたいに小学五年ならもうサンタはいないって知ってても問題ないけどさ、小学校一年の子がそう思ってたら、なんかさみしいだろ? サンタは子供の夢だからねえ」

 かあちゃんが遠い目をした。おれは、こころの中で叫んでいた。

――その子供の夢を、あんたはいま、ぶち壊しました!

 と。

「だから、美加に『サンタクロースはいるんだ』って信じ込ませる芝居をしようと思うんだけど、あんたにも手伝ってほしいんだよ。いいかい?」

 いろいろと動揺はしていたが、お安い御用だった。サンタクロースはいないとおれに暴露したひととそんなことをやるのは変な感じもしたが、おれは力強くうなずいた。妹の美加には、もっと夢のある世界を堪能して欲しかった。おれのように、せめて、小学校高学年になるまでは。

「もちろん、手伝うよ。当たり前だろ」

「よし」とかあちゃんはうれしそうにうなずいた。

 そのあと美加が帰ってくるまでクリスマスの作戦を練ることにしたのだが、意外と早く帰宅したため、翌日に持ち越された。その様子が不自然だったのだろう。玄関からまっすぐ台所にきた美加が、おれたちの様子を見て、「にいちゃん、また怒られてるの?」と笑った。

 美加にばれないように事を進めなくてはいけない――というプレッシャーのせいで、おれはどぎまぎしてしまった。だが、かあちゃんは違った。さすがは、「あたしは演劇部出身で、女優にならないかって誘われたこともあるんだ」と自慢するだけあって平然としたものだった。まあたぶん、女優といっても般若かなにかの役だと思うのだが。

 かあちゃんはすました顔で、「あんたのにいちゃんは、ほんとろくでもないよ」と、おれに無実の罪をかぶせた。なにも知らない美加は、それを聞いて笑っていた。



《2》
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1802681396&owner_id=1154484

コメント(87)

感動しました!(゚-Å) ホロリ
今年からサンタ頑張ります!

一票!!
一票

俺もいつかサンタクロースになれるかなウインク
一票!
いつまでも娘には信じていてほしいものです。。。
途中から涙がぽろぽろ止まりませんでした。
一票。
1票。
私も子達の夢を守れる母ちゃんになります!

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