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日記ロワイアルコミュの幸福なる殺人

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 まだ四月だというのに五月の雨が降る。そんなことも分からなくなるくらいに僕は雨水の水温をジャックして、そして漂っていた。

 何軒あるのだろう?

 数えたこともない閑静な住宅街の一番外苑にあるアパートの一室で、僕は殺された。いや、正確には殺された場所はどこか離れた場所かも知れない。
 雨粒は僕の体を通過して、アスファルトをさらに冷却する。
夜の、夜中の始まりだった。

 僕の部屋は軽量鉄骨アパートの二階にある。パジャマのポケットを弄ったが何にも無い。
 鍵などなくともドアを通過出来た。この期に及んで人生とは全て勉強である。部屋にはゲージがあったが、中には何もなく、「きっと誰かが何かを移したのかも?」と思って少し安心した。
 僕が殺されたことで、いずれこの部屋にも警察や家族が出入りするようになるかも知れない。「見られたらヤバいモノ」が無いか? 一応調べてみることにした。部屋は1Kでロフトがついている。まずはロフトの枕元だろう。湿っぽい布団はそのままに、僕は「見える部分だけ」を見た。部屋の明かりはついていないが、僕にはサーチライトのように全てが見える。
 不意に思い立つ。今、僕が最も執着せねばならない場所。それはテレビの横のカラーボックスだった。いろいろ思い出しては部屋のあちこちを探索するものの、預金通帳や印鑑、財布、或いは僕の身分を証明するような大切なものが殆ど見当たらない。あるのは漫画やゲームソフト、冷蔵庫の中にはマヨネーズが一本あるだけだった。
 これまた誰かがどこかに移したのかも知れない。
 僕には分かっていた。ここに居れば良いと。ここに居れば、あとは入れ替わり立ち替わり色んな人物の会話から状況を推理することが出来る。
 しかしそれではダメなのも分かっていた。その前に誰かに何かを伝えなければならない。僕が誰に、何故、どのように殺されたのか?という事を納得しなくてはいけない。
 だから僕は部屋を出た。どこへ?僕の胸からは糸が出ている。それはへその緒のようにどこかへ繋がっている。僕はそれを辿っていった。
雨は次第に強くなり、僕と糸との関係性も脆弱なものになりつつあるのを悟った。住宅街を抜けると小学校。小学校を過ぎると再び住宅街へ。さらに遠くへ。僕はジャンプした。眼前に広がるのは真っ黒な航空写真。僕には全て見えていたんだ。夜の灯台のように煌々と指し示すその方向へ。
 しばらくするとヘソの緒のような糸が薄くなり、そして消えた。
 僕は行く宛もなくただそこに留まった。

◆◆◆

 遠藤勝己は4月の雨を聞いていた。彼女のいなくなったこの部屋で雨音の調べを聞いていた。
 窓を半開きにし、煙草の煙をそこから吐き出すと、テレビからは詰まらぬ落語の下げによる客席の爆笑が響いた。
 勝己は部屋を出た。計算すると35時間ほど飯を食べていない。煙草も最後の一本しか残されていなかった。
 最寄りのコンビニは部屋から徒歩5分くらいの所にあった。傘を差したがサンダル履きでは足がビチョビチョに濡れてしまう。
 「デイリーマート」でセブンスターとペプシコーラとサンドイッチとシーフードヌードルを買い、店を出た。
「いつまで雨が降るんだろうな?」そう呟きながら空を見上げる。
 電柱の上に男が一人立っているのが見えた。
(ヤバいな)直感的にそう思った。
 勝己は所謂霊感体質だ。今までも何度も「拾って」帰ったことがある。こういう時は目を合わせずに気付いてないフリをするか?目が合ってしまった場合は(自分には何も出来ないから頼って来ないでください)と心の中で念じるしかない。
 今回は恐らく目が合ってしまったので、後者を選択せざるを得なかった。

 足早に部屋に戻り、鍵を閉める。シーフードヌードルの蓋を開け、台所の薬缶に火をかけた。
換気扇を回そうと紐に手をかけた瞬間、台所の窓から男が入ってきた。
さっきの電柱の男だ。
(うわ、最悪)と思いながら、気付かないフリをして再び部屋に戻る。
煙草に火を点け、テレビのチャンネルを回した。

「ねえ、見えてるんでしょう?」背後から声がした。勝己はそれを無視して手元の雑誌を捲り始めた。
「無視しないでよ。ちょっと話を聞いて欲しいんだ」
非常に面倒くさい。百害あって一利なしである。
しばらくすると薬缶の口が鳴った。火を止め、カップに湯を注ぐ。

ブゥン。

 変な音を立ててテレビの画面が消えた。
「おかしいな…」勝己はそう呟きながら、リモコンを手に取る。リモコンを持つ手に半透明の白い手が重なった。
「そんなことしても無駄だよ」
結局、シーフードヌードルの麺は伸びることになった。

◆◆◆

 彼の話を要約すると、「自分は誰かに殺された。殺されたという感覚だけがある。しかしそのことに対して自分は全く記憶がない。生前の自分が何者なのかも分からない。このままでは成仏出来そうにないから協力してくれ」という内容だった。

「断ったらどうする?」
「成仏するまでそばにいるよ」

 よく見ると若い。まだ二十代半ばくらいに見える。あくまでも雰囲気からだが、人に恨まれるようなタイプには見えない。それでも世の中には逆恨みというものだって存在する。怨恨という線もないわけではない。

 勝己はテーブルの上に散らばったゴミをデイリーマートの袋に入れていった。
(コンビニでバイトしているときに強盗に刺されたとか?)
いろいろ考えていると、この若者が不憫になった。自分より年下の屈託ない青年がどんな理由であれ殺されてしまうなんて。

 かといって、面倒なことにクビを突っ込むほど酔狂ではない。
 勝己は条件を出した。

 それは「自分を殺した奴が分かったら、勝己をフった女のところに化けて出る」ということだった。青年はこの条件をあっさりと飲み込んで、ここに共同捜査本部が設置された。

 まずは情報集めである。

「自分の名前は分かる?」
「いや、分かりません」
「年齢や住所、職業なんかは?」
「住んでいた場所なら分かりますよ」
「どうしてアソコの電柱に登っていたの?」
「体に繋がっていた糸をタグってる途中でそいつが消えちゃったんですよ。それがちょうどあの辺りだったんです。2日間くらいかなぁ。アソコで僕の存在に気付く人を待ってました」
「ということは、お前が死んで2.3日しか経っていないことになるな。それとお前の住んでたところにも案内してくれ。ここから近いのか?」
「そんなに離れてないですよ」

 勝己は原付にまたがった。青年が数メートル前を飛んでいて彼を誘導していく。
 玄関前についた。
「なかなか綺麗なアパートだな」青年は突っ立ったまんまだ。
「鍵は?」
「持ってるわけないじゃないですか?!」
(それもそうだな)そう思いながら郵便受けを覗いた。何やら二通ほど封筒が入っている。勝己はそれを取り出した。一通はマンションの入居案内だった。ポスティング用なので名前なんかは書いていない。
 もう一通。
 それは先月分の携帯電話の明細書だった。一万二千円。きちんと先月末に引き落としになっていた。
 名前は「古河要」と書いている。電話番号もバッチリだ。

「部屋の中には入れるの?」
「はい、この前通り抜けて入りました」
「何か変わったことやヒントになるものは?」
「いや、なかったですね。僕には引き出しなんかも開けられないんですよ」
「それじゃあ難しいな」
「そうかも知れませんが…。あんまり元の部屋の様子も覚えてないんですよ」

 勝己は書いていた携帯番号にかけてみた。
留守電サービスに繋がる。音声案内は一般的なマシンボイスだった。

「独り暮らしということは実家もありそうだなぁ。場所に心当たりない?」
「全くないんです。その辺の記憶」

 二人は勝己の自宅に帰った。青年の名前が分かっただけでも収穫である。勝己はパソコンを開き、ネットで「古河要」という名前を検索してみた。
 工業大学の教授の名前がやたらにヒットする。単なる同姓同名か?70件名辺りから怪しいのが見つかった。
 それらを総合すると、「2002年の走り幅跳びS県大会にて北野博陵高校代表として三位に入賞している」ということだった。
 続いてS県北野博陵高校をネットで調べると、同校のホームページがあった。勝己はそのページをプリントアウトしてポケットにねじ込んだ。

「俺が失業中で良かったな」勝己は横目で要を一瞥し、要は声を出さずに会釈した。もうひとつ分かったのは要が25、6歳であること。それは出場年から推測出来た。

◆◆◆

 S県までは電車で三時間かかった。大人1人と霊体1体。
北野博陵高校は割とすぐに見つかった。プリントアウトした学校所在地図は結構詳細まで描かれていた。
 要のことを知っている教師もいるかも知れない。玄関で会った生徒に職員室の場所を聞き、職員室で陸上部の担当教師を尋ねた。
三十分くらいで放課後となり、その間2人は待たされていた。

「どうだ?何か思い出したか?」
「うーん、どうもよく分かりません。高校なんてどこも似たようなもんでしょ?」
「まあな…」

 しばらくして体格の良い男性教師が現れた。

「お待たせしてすみません」
「こちらこそ、お忙しいとこすみません」
「ところでどういうご用件ですか?」
「突然で恐縮なんですが、8年くらい前の陸上部員で古河要という選手はいませんでしたか?」
「8年前ですか?私が赴任して来たのが5年前なんですよ。ちょっと分かりませんね〜。あ、卒業生名簿を見たら分かるかな?」そう言いながら教師は一旦席を外し、何やら分厚い冊子を手にしながら戻ってきた。

「7年前?ええっと、古河要という生徒は確かに居たみたいですね。ところで古河要がどうかしたのですか?」

 勝己は無言になってしまった。考えてみたら警察ならいざ知らず個人情報なんか教えてくれる筈がない。
「申し遅れました。私、こういうものです」勝己は名刺を差し出した。

「(有)ピープル代表取締役社長滝田…さん」
「はい」
以前、営業をしているときに名刺交換したヤツである。ずさんな勝己はそれを財布に入れたままにしていた。

「はあ、それでどうされたんですか?」
「いや、古河君にはウチで働いてもらってたんですけどね、彼が突然会社に来なくなったんですよ。ちょうどその頃、我が社の重要書類が紛失したもんですから、内々で調査しておったんです」
「彼が…ですか?」教師は訝しげな表情になった。
「それで何を知りたいのですか?」
「ええ、彼の実家のご住所だけでも分かれば…と」

 教師は開いていた名簿をパタンと閉じた。
「そういうことなら警察とかに相談されてはいかがでしょう?当校としては個人情報の問題もありますからお教えするわけにはいきません」
「もちろん場合によってはそうなりますが、現段階ではまだコトを大きくするのはアレだろうと思いまして…」
「お答えしかねますね」

 勝己は額から汗が出てきた。要が勝己の肘をついた。

「多分、ここじゃ教えてもらえないから出ましょう。何か怪しまれてますし」

 勝己はすごすごと職員室を後にした。せっかくの学校ネタだったのに、捜査は振り出しに戻ってしまった。
 落胆する勝己の顔を見て、要はVサインをしながら言った。
「僕、住所分かりましたよ」
「何で?!」
「だって後ろから名簿を覗き見しましたからね」
「でかした!」
「N市尾長町332ー1でした」

 勝己は初めてコンビである意味を知った。

◆◆◆

 今の時代、公衆電話を探すのは一苦労である。
駅まで戻り、電話ボックスで電話帳を捲った。N市に「古河」という名字は9件。住所まで該当するのは…もちろん1件である。
 勝己は携帯から電話をかけてみた。

「はい。古河です」出たのは母親らしい声だ。
「お忙しいところすみません。北野博陵高校OB会の中村と申しますが、要さんはいらっしゃいますか?」
「今、他県にて独り暮らしをしておりますが、何かご用でしょうか?」
「ただ今、同窓会の名簿を作っておりまして…秋頃に同窓会も企画しておりますから」よくもまあ、口から出任せが言えるものだ。勝己は自らの意外な才能に陶酔した。
「あら?でしたら娘の方に伝えますので連絡させましょうか?」
「娘?!」思わず2人は顔を見合わせた。
「ええ、要はウチの娘です」
「いえ、何でもないんです。一応娘さんに聞いてみてください。あた改めてこちらからご連絡いたします」そう言って電話を切った。

 わざわざこんなところまで来て「古河要」が女性だったとは。さすがにこれは初動捜査のミスとしか言いようがない。

「あそこ、本当にお前の部屋なの?」
「多分…そういえば…!」
「そういえば?!」
「あの教師ですけど、勝己さんが『彼』と言った瞬間顔が曇りましたね。名簿も女子のページを開いてたような気がします」
「早く言えよ!そういうことは!」

とりあえず駅前でラーメンを食べて、二人は帰宅した。




2に続く
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1484485586&owner_id=11313129

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