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日記ロワイアルコミュのきんぴらなんかじゃない

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僕は夕飯を買いに近所のスーパーへ向かった

大学入学を機に大阪で一人暮らしを始めてからほぼ毎日通っているスーパー、閉店15分前には惣菜のほとんどが半額になるのはチェック済みだ

いつものようにカゴを持ち一直線に惣菜コーナーへ向かう
閉店前の店内は閑散としていて惣菜コーナーも同様、人もいないが惣菜もほとんど残っていない

残り少ない惣菜を今食べたいものを考えながら物色していると、値引きシールの上からさらに半額シールを貼られたきんぴらのつぶらなゴマと目があった

「やぁ、元気?」

「ん、まぁまぁかな」

「毎日暑いね」

「せやなぁ」

「体力落ちてきたんちゃう?なら僕のこと買いなよ、元気出るよ」

「ゴメン、今日は揚げ物の気分やねん」

「じゃあ揚げ物と一緒でいいから買ってよ」

「いや、気分ちゃうわ」

「・・そっか・・無理言ってゴメン」

きんぴらのゴボウは少し悲しそうに俯いた

僕の胸は少し痛んだけど今日はどうしても唐揚げが食べたかった

俯いたきんぴらの横を通り過ぎ揚げ物コーナーへ向かう

やがて店内にホタルの光が流れ始める、店員が店を閉める準備を始めだした

僕は唐揚げをカゴに入れ早足でレジへ向かう

そのとき一人の店員とすれ違う

その店員は売れ残った惣菜を片付け始めた、次々と乱雑に売れ残りを黒い袋に入れていく

売れ残ってしまった惣菜は、さっきのきんぴらはどうなってしまうのだろう
答えがわかりきった疑問が頭をよぎってイヤな気持ちになる

クソッ 惣菜に感情移入なんかしてどうすんねん

思いとは裏腹に僕はその店員のほうに歩き出していた

「あの、この唐揚げ置いてやっぱりこっちのきんぴら買っていいですか?」

店員は僕のほうをチラッと見てまた片付けを始めた
店員にとっては僕が何を買うよりか店をいち早く閉めることが重要なのだ

僕は唐揚げを元の場所に置いてカゴにきんぴらを入れた

「あーもう!全然きんぴらの気分ちゃうのに!」

「・・・こっちだって別にあのままでも売れてたし・・」

お互いブツブツ言いながらレジを通し店を出る

「まぁちょっとは感謝してほしいかな?僕がゴボウとニンジン嫌いじゃなかったことに?」

「絶対感謝とかせーへんし!ていうかむしろ食べさしてあげへんし!」

「うわ、めっちゃ怒ってるやん」

「でも・・ありがとう・・」

そう言うときんぴらは僕の肩にスッとニンジンを寄せた

僕はその瞬間気づいた






きんぴらが男ではなく女だったことに




「きんぴら・・なんで・・」

「・・しょうが・・なかってん・・仕方なかったんやもん!惣菜コーナーじゃ、強くなきゃ・・フリでも強くしなきゃ生き残れなかったから・・!」

他の惣菜がどんどん売れて行く中一人残っていく孤独感、値段を下げられる屈辱感、きんぴらは惣菜コーナーでどれだけ不安な想いを募らせていたのだろう

僕はソッときんぴらを抱き締めた、タッパーが少しへこんでペコッと音がする

「ゴメンな何も知らんで・・でももう強がらんくても大丈夫やから・・」

「・・・・うん・・」


きんぴらは僕の肩で少し泣いた



「あ・・なんか辛気臭くなってもーたな、ゴメンゴメンッ、このまま家帰るんもなんやし、どっか行く?」

「あ、うん・・でも私、惣菜コーナーから出たことないから・・」

「あ・・!そっかーじゃあまぁ僕に任せてよ!」

「・・・事故とかせんといてな!」

「大丈夫やって!」

僕は駐車場に停めていたバイクにまたがった、きんぴらの入ったタッパーを置く場所に少し迷ったが、袋に入れてハンドルの横にかけることにした

「七月言うてもバイク乗ってたら夜はまだ少し肌寒いから、袋ん中はいっときや」

「・・ありがとう」

きんぴらはニンジンを少し赤くした

油っこくなくて素直なヤツやな、なんて思いながら僕はバイクを走らせ始めた

「今から海沿い走るからちょっと風強いけど我慢してなー!!」

「えー!?うみー!?私海見たことないねーん!」

「おい!まだ海ちゃうって!袋から顔だしたらゴボウとニンジン飛んでくから危ないでぇ!」

「キャーッ!めっちゃはやいっ!」

そんなたわいもない会話をしながら、僕ときんぴらは夜の海岸線を飛ばした




海岸公園に着くときんぴらはすぐに海のほうへ向かった

きんぴらの髪のような細いゴボウからゴマ油のいい香りがした

「海ー!めっちゃ広ーい!」

「こんなとこで良かった?」

「まぁまぁかな」

「あぁそーか」

ベンチに座る、夜の海風が心地いい

それから僕ときんぴらはいろいろな話をした
生い立ち、兄弟のこと、趣味、将来の夢・・

僕らはお互いにしゃべり続けた
話が尽きることはなかった

きんぴらは話してみると、たまにピリッと辛い毒舌を吐くが、日本料理らしくとても凛とした、笑顔が素敵な惣菜だった

きんぴらと一緒にいると楽しい、笑いが溢れる、もっときんぴらのことを知りたい





僕は、きんぴらに惹かれ始めてる自分がいることに気付いた








*****************************************************************




きんぴらのことが好き、その想いが自分の中で確信に変わると同時に僕の体は動きだしていた

「なぁー海のあっちのほうに見える明かりなん・・っ急にどうしたん!?」

僕は後ろからきんぴらを抱きしめた

「急にゴメン、でも僕きんぴらのこと好き・・めっちゃ好きやねん・・!もう離したくないねん!」

そう言いながらきんぴらを強く抱きしめた
ベココッとタッパーのヘコむ音が潮風に掠われる

「・・でも私達、まだ知り合ったばっかりやし・・・・」

「僕も最初はそう思ってた・・でも今ここで言わんかったら・・もう二度ときんぴらに会えんくなるような気がすんねん!」

「私・・ニンジンとゴボウしか入ってないよ・・それでもいいの・・?」

「具材なんて関係ない!全部ひっくるめてきんぴらのこと大切にする!」

「でも・・・・」

「でも・・?やっぱりアカンのかな・・」

「・・ううん、なんでもない、好きって言ってくれてうれしい・・ホンマは私も一緒にバイクに乗ってたときめっちゃドキドキしててん・・」

「ホンマに!?まぁバイク乗ってるときの僕イケてるからなぁー」

「ちゃうし!運転ヘタやから事故るんちゃうかなって思ってドキドキしてただけ!」

「ヒドッ!僕めっちゃドラテクあるっちゅーねん!あーぁ、ていうか雰囲気台無しやん」

「ていうかあんたに真剣な雰囲気とか似合わんから抱きしめられたとき笑いそうなったわ」

「え、マジで!ショック!」

「うそうそ♪めっちゃうれしかったで、ありがとう♪」


僕らは寄り添ったまま笑いあった、きんぴらが何かを言いたそうにしたのが少し気になったけど、潮風も、波音も、全てが二人を祝福するように幸せに満ちた時だけが過ぎていった






まだ住む場所がどこにもなかったきんぴらは新居が決まるまで僕の家に住むことになった
部屋はワンルーム、二人で暮らすには少し狭かったけどきんぴらとずっと一緒にいれることがうれしかった

「うわ、部屋きたな!」

「ちょっと散らかってるだけやって!」

「しゃーないなぁ、私も手伝ってあげるわ」


きんぴらは嫌なニンジン一つせず僕の部屋を片付けてくれた
僕はそんなきんぴらを尻目に冷蔵庫に入っていた昨晩スーパーで買ったハンバーグの残りを急いで捨てた

浮気じゃない、やましい気持ちもない・・ただきんぴらを傷つけたくなかった・・でも本音は、きんぴらに嫌われたくなかったからかもしれない

「・・今なにかした?」

「いや!なんもしてないで!ちょっと飲み物とろっかなーって思っただけ!」

「ふーん・・」

バレたのか、バレてないのかわからないがなんとかその場をやり過ごした
やましい気持ちはないにせよ隠し事は罰が悪い

「さ、部屋も片付いたしどーする?あ、もう12時なるやん」

「せやなぁ、じゃあ…寝るっ??」

「うわぁ、なんか言い方がイヤらしい、顔がイヤらしい」

「顔関係ないやん!」

「フフフ、じゃあ寝よっか!私も今日はちょっと疲れたし!」


たしかにきんぴらのニンジンは少し疲れたように見える

「うん寝よ寝よ、こっちおいでよ♪」

「えー私寝相悪いしゴボウ飛び出すかもやで」

「じゃあ僕のいびきで起こしたるわ」

「最悪!」

狭いベッドで二人、重りあうように眠りについた
きんぴらから香ばしい良い香りがした

僕はこれからの二人の幸せな日々を思い巡らせ深い眠りに落ちていった
きんぴらのオヤスミという優しく囁いた声が聞こえた







*****************************************************************




朝、僕は目を覚ました

いつもと同じ天井、同じ景色、違うのは僕の隣いるきんぴらの姿

・・が見当たらない

僕は跳び起きた、部屋にきんぴらがいない

ふとテーブルに目をやると一枚のメモ書きがあった


『めっちゃ楽しかったよ、ありがとう』




同時に僕は家を飛び出し走り始めていた、きんぴらは自分の前から姿を消していた

なんで!どーして!

思考が頭の中を錯綜した、どうしていいかわからずに今にも泣きそうだった

スーパー、ゴボウ畑、ニンジン畑、ゴマ畑、唐辛子畑、きんぴらが行きそうな場所を全て探したけどきんぴらの姿はない

きんぴら!どこ行ってんきんぴら!

きんぴらがなぜ姿を消したのか聞きたかった・・でもそれ以上にきんぴらを失ってしまうことが怖かった

僕は昨日行った海岸公園に向かった、もうここにいなかったらきんぴらの行きそうな場所がわからない

神様一生のお願い!きんぴらに逢わせて! !

僕は海岸公園に着くと海が見えるベンチに向かった、昨日二人が語りあったあのベンチだ




そこには


一人座っている


きんぴらの姿があった





僕はきんぴらに駆け寄った

「どーしたん!一人でこんなとこまできて!」

「あーぁ・・・・見つかっちゃった・・・・」

きんぴらは弱々しそうに答えた
きんぴらのニンジンの色はとても悪く、今にも倒れそうだ

「ここまで歩いてきたん!?なんで!?どーして!」

「・・・・ここが思い出の場所だったから・・・」

「なんで・・・!思い出なんてこれから山ほど作っていけばいーやん!」

「・・・ゴメンね・・ゴメン・・足も血だらけやね・・」

僕は裸足のまま家を飛び出していた

「あやまることなんかなんもないって!早く病院いこ!」

「ううん・・もういいの・・・・もう、私ダメなの・・・・」

「なにがやねん!そんなんきんぴらが決めることちゃうやろ!!大丈夫!すぐ救急車呼ぶから!」


きんぴらは消えそうな小さな声で答えた




「私の・・・・賞味期限・・・・昨日まで・・・なんだ・・」




「・・・・!!」


僕は言葉を失った

「うそや・・・・なんで、なんで・・・」

「ごめん・・ごめんね・・・ホンマは昨日好きって言われたとき言おうと思った・・・でも、私もあんたのことホンマ好きやったから・・・」

きんぴらは大粒の涙を零しながら答えた

「な、なにあやまってんねん、お前が謝るなんて・・らしくないねん・・!」


自分の声が震えてるのがわかった
僕の目からも涙が溢れ、零れ落ちる、落ちた涙が自分の腕に抱いたきんぴらのゴボウに染み込んで消える

「そんなん・・あんたにだって涙とか似合わへんわ・・・・あんたは笑顔が一番素敵なんやから・・笑ってよ・・・・ね?」

きんぴらはそう言いながら僕に向けて笑顔を見せた
きんぴらの笑顔で細めたゴマからニンジンを伝って涙が零れ落ちる

「な・・何言ってんねん・・恥ずかしいこというなよ・・!僕の笑顔がイケてるなんて知ってるし!・・ほら!」

僕は満面の笑みを見せた

「・・フフ・・・・ありがとう・・・・」

きんぴらも笑って返した、今にも壊れてしまいそうなくらい儚い表情

「いくらでも笑ったるし、きんぴらと一緒にいたらいくらでも笑えるし、これからもずっとずっと一緒に笑っていきたいし・・もっと・・ずっと一緒にいようや・・!なっ・・?」

僕の無理やり作った笑顔の瞳から次々涙が溢れ出す
深い悲しみ、きんぴらの気遣い、優しさにほんとは泣き崩れそうだった

「・・ありがとう・・そんなん言ってくれてホンマうれしい・・私もずっと一緒にいたい・・なぁ、お願い・・聞いてくれる・・?」

「・・・・なに・・?」

「私のこと・・・・食べて欲しい・・・・」

「・・!な、何言ってんねん・・!そんなんできるわけないやろ・・!!」

「・・賞味期限切れたきんぴらなんて・・イヤ・・?」

「ちゃうよ!そんなんちゃうよ!!」

「じゃあ・・お願い・・あなたとずっと・・ずっと一緒にいたいから・・」

「・・・・僕だって一緒にいたいよ・・」


「・・・・お願い・・・・」




僕は抱きかかえたきんぴらを口に含んだ



香りのなくなったゴマ油・・・
しなびたゴボウ・・・・
味の変わってしまったニンジン・・・・

こんなにも・・こんなにも傷んでたなんて・・!!




「・・おいしい・・・・?」

「・・当たり前やんけ・・・・!めっちゃウマイわ・・!」

「・・優しいな・・ありがとう・・」

きんぴらは笑顔を見せた

「もし・・もし私が人間に生まれ変わったら・・また私のこと好きになってくれる・・?」

「当たり前やろ・・!僕んなかでお前はきんぴらちゃうかったよ・・!一番愛した人やよ・・!」

僕は泣きながらきんぴらを食べ続けた

「うれしい・・・・私も・・・・
生まれ変わっても・・・・あなたのこと・・・・好きでいたい・・・・ずっと・・・忘れな・・・い・・」

その言葉を最後に腕に抱いたきんぴらがゴマを閉じた

「きん・・ぴら・・?きんぴら・・!?きんぴらーー!!!!」

僕は声を上げて泣いた
波音と潮風が僕の鳴咽を消し去っていく













あれから二年の月日が過ぎた








僕は相変わらずスーパーで惣菜を買っていた

あの日以来僕はきんぴらを買うことはなかったし一生口にすることはないと誓っていた




和物コーナーを過ぎ、洋物コーナーに向かうところで後ろから声が聞こえた


「きんぴらとハンバーグ、どっちが好きなん?」


僕が振り向くと一人の女性と目があった

「・・きん・・ぴら・・?」

そう答えると彼女は笑顔になり僕に近づき言った


「ハンバーグ、隠れて捨てたん知っててんから
次はどこつれてってくれるん?」










バイクの後ろに彼女を乗せ
二人の恋は走り始めた

コメント(384)


なっ!

よもやきんぴらに感動するとは…

一票
きんぴらなんかじゃないならオマエは誰だww
1票です。
こんなにきんぴらのこと考えたの初めて

一票
読めてよかったことに、感謝して。

文句なしにおもしろい一票です!
凄い!! 圧巻の作品でした。
一票です。

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