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社長三国志馬鹿一代☆出張版コミュのレオンさん 三国志短編を補完するトピ。

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今日から 不定期ではありますが、
レオンさんの描いた三国志をちょっとずつ貼り付けていきたいと思っています。
1回の更新度がどのくらいになるかは不明です(==;

コメント(25)


よろしくお願いします。 新作出来たら、日記じゃなくこっちに貼るかな(^-^)


「苦寒行の始まり」



力のない者は滅ぶのだ。 そう思わねば、やってられない戦いだったが。
幾つもの引きはがされた軍旗が荒野の上で焼かれている様子をじっと見下ろしながら、男は息を吐いた。
勝ったな。
大声を挙げ、我先に逃げ惑う軍団の姿が何故か、もの悲しい。
私の勝ちだ。
正念場と肚を据えてよかった。
勝ったという確信が沸いたせいか、急に疲れを感じた。
「勝ちましたな」
静かに呟いた夏侯淵の頬には、まだ乾ききらぬ返り血が滴っていた。
「うむ、辛うじてではあるが、我が勝利だ」
燃やされる袁の字が刻まれた旗から呻き声のような音と煙が立ち上って行く。
兵士たちも疲れ切った表情ながら、少し誇りのようなものを感じているのではないだろうか。
腰に吊した剣を抜く。
「天よ、我が手は必ず天下を掴んでみせる」
まだ、終わりではない。 敗れたとはいえ、袁紹はなお、力を蓄え、再起の刻を待っているのだ。 虎視眈々と……。
この勝利によって兵たちに、曹操軍が天下の軍だと意識付けれれば良いのだが。
これからは北を目指す戦いになる。
緒戦は私の勝ち。 だが、おまえはそう簡単に屈しまい。
誇り高き名目の総帥の貌を浮かべ、男は剣を北に向けた。
曹操孟徳と袁紹本初の戦いはまだ、始まったばかりなのだ。
今は、まだ行けん。
だが、北を攻める。
曹操は静かに空を睨んだ。



第一話
2006年11月01日01:30


【小説三国志大戦☆馬超 】


西涼にはやはり勇者が多いようだな。鎮圧せねばならないとはいえ、つわもの揃い相手にいささか手を焼きかねん。
馬超と韓遂率いる涼州の兵十万が覆う原野を見渡し、男は唸った。
董卓亡き後の西涼にはそれほど求心力も才覚もないものが君臨している、いわば烏合の衆と見なしていたのだが。
いささか、認識を改めねばならんようだな。
馬騰や韓遂についてはある程度器を計れたが、これが馬超の力か。
私みずからが赴いただけのことはあるようだ。
草原の風はともすれば、詩でも吟じたいくらいおおらかである。大きくなりそうな気持ちを抑え、曹操は推測した。
劉備や孫権の動きが気になるので、最低限の兵しか引き連れて来ることは出来なかった。
十万。
兵力は互角。本来ならば十五万は欲しかったが、足りない部分は私の動きで補わねばならんか。
そう、結論付けた時だった。
近くで、無数に土煙が舞い上がった。
来るか。
各地点に配置していた部隊が応戦すべく体勢を整えるのを見ながら、曹操は馬上で抜剣した。
まだ、気付いてない部隊がある。敵襲来を告げる銅鑼の音が鳴り響く中を曹操は前進開始した。
総大将の突出は危難をはらむが故に兵に緊張を与える。
馬超はこの首を所望しておるのだ。
変事にざわめきながらも迅速に動く兵。
最先峰の兵たちが馬超軍の兵たちと激戦を開始する。
強い。
同数ならば、歴戦ゆえに負けはしない。その見込みの甘さを潰走し始める前衛のぶざまさによって察知した曹操は傍らに控えていた曹仁、曹彰を手招きした。 緒戦で兵の心が折れるとことである。
奮戦の末に西涼兵を退却に追い込んだ時には戦胞には綻びや傷みが無数に刻まれていた。
「存外にもやりおるな」 死者こそ少ないが手傷を負ったものが多く見受けられるのを感じ、曹操は嘆息した。
「戦士としての馬超の強さが蛮族を勇士たらしめるということですな」
「まったくだ。 若いが、並の将にはない天稟を持っておる」
蛮勇にして、果断。
畏れを知らぬがゆえに動きは予測出来ない。
呂布に匹敵する。
直接馬超に当たった兵たちが漏らした悲鳴がまさに正鵠を射てるようだ。
それでも、騒ぐ血がみずからに流れてることを感じ、曹操は大笑した。

第2話
2006年11月01日01:33

【小説三国志大戦☆司馬懿】


仮病であるか。
再三促していた出仕を拒絶したばかりか、証拠を隠すために目撃した侍女まで斬って捨てるとは。
そうまでして仕えたくない、と思われていたとは舐められたものだな。
使い物にならない男なら、即座に処断すべきだったが、未知数の器だった。 容易に測れない故に、器、大なり、と期待したくもある。
使える駒は、まだ欲しかった。
「司馬懿、仲達か」
見た男の顔と名を忘れることはない。市井に潜った大才と言う噂もある。間諜の報だけでは、わからないので、一度間近で見たが、茫洋とした風貌の男だった。
酒を呑む。
街に行く。
共には手練の間諜を選んだ。戦場や敵地よりも、商家や民衆を探らせていた男を選んだ。
「うまい酒を呑もうか」 「酒の肴は何にしよう」 「任せる」
法や令では贅沢を禁じているが、極秘にそれを許可した店もあるにはある。禁制の品だとわからないように調理出来る才があればよいのだ。
料理にもそれだけの覚悟があれば、認めてよかった。
質素を装いながら、さりげなく趣向を凝らした味。隠したい美姫の貌に泥を塗るのではなく、見るべき者にしかわからない佳女に仕上げる才。
「うまいな豚だな」
豚にしか思えないが、豚にあらざる歯触りと軽さ、そして、清涼感があった。単に汁に薬草や酢を入れただけでは出せぬ味わいだった。
秘伝、という言葉にしてすませるのがよいかもしれない。
「旨いな、何か秘密があるのか」
「さあ、いかがでしよう」
「私は袁操という金持ちだが、屋敷の料理人に真似させたい味だな」
「ありがたいお言葉です。ただ、私は口下手な料理人ゆえに、お教え出来るだけの練度になっておりません。口伝でお伝え出来ないのが恥でありますが、また誇りでもあります」
金子に釣られて、口を割らないのがよかった。
「この味を学びたいなら、食べてみねばならんか」
「はい。 士は己を知るために命を賭ける。料理人も、喜んでもらうお客様のために包丁を振るいます」 「ははは、敵将の首を跳ねてきそうなくらいの腕、そして包丁だな」
豚を斬るには、大き過ぎる包丁だった。もっと、大きなものを斬るものなのではあるまいか?
「滅相もない」
「厳罰な曹操様が見たら怒るやもしれん」
「はっ、ここは都ゆえ、気を付けます」
「まあ、曹操も案外旨いというやもしれんがな」
「どなたがお客であろうと、ただ、旨いものを食べていただきたいです」
そんなものかもしれない。それでいい。
しばらく、肉を肴に酒に浸った。酔いたいのかもしれない。たまに政務の合間に考えるのは、詩と仙界、それに亡き息子曹昂のことだった。
曹昂の夢を何度か見るが、それは悪夢であり、優しい夢でもあった。
仙界で仙人たちと戯れる曹昂の姿が脳裏に浮かんだ。
そして、消える。
ふと、店内に見慣れぬ若者の姿があった。
見覚えはある。
司馬懿仲達。
静かに隅で酒を呑んでいた。寡黙。人と交わることが嫌いなのか、一人で黙々と酒を呑んでるようだった。
混んできた気配がある。 「店主殿、あそこの席に相席してもかまわないかな」
はあ。
情けない声を出した店主に軽く頭を下げ、移動する。
司馬懿仲達。
涼やかに酒をあおっていた男が不意に、こちらを見た。
「横はよろしいかな」
「結構ですよ」
静かな笑みだった。
ただ、黙々と酒を呑む男だった。ゆっくりと呑むのが好きなのだろう。味わいながら、浸りながら呑んでいた。
深く酔ってはいないようだが、多少酔っているようだった。
「旨そうに酒を呑むね、兄さん」
「旨い酒は旨く呑む、それが好きなんです」
「ほう。しかし、一人でとは珍しいな」
「旨い酒なので、酔いたくなります。 人にはあまり迷惑をかけたくないので、酔いつつも、自分の屋敷に帰れるくらいの加減でいつもやめてます」
「ほう、おもしろいな。たまには、酔い潰れてもいいのではないか?」
「苦しくないなら、楽しんでいるうちに酔い潰れていられるなら、酔い潰れたいです」
「何か賭けないか?」
「酒は賭けに使えばまずくなります」
「だな。 今の話は忘れてくれ。 楽しい酒の話ではないしな」
それから、他愛ない話をした。もちろん、さしである。
熟練の間諜には、違う偵察を数刻だけ命じてある。
「世の中はどうなるかな」
「わかりません。ただ、戦は強いかもしれませんが、曹操という人は戦が好きではないのかもしれませんね」
「おもしろい話だな。 ただ、何故曹操なのだ? 孫権や劉備などはどうなのだろう」
「中原を動かしているのが曹操です。孫権も劉備もわかりませんが、曹操の動きがあって、それに対策して彼らも動きます」
ふむ。
曹操という男を見ているのかもしれない。この若い眼差しは。
「曹操に仕えたいと思ったことは?」
「実は三度ほどお誘いをいただきましたが、お断りしました」
「何故に?」
関心が湧いた。静かに生きようとしているのか? あまり権勢に対する欲は感じられなかった。
「怖いのです」
「怖い? 何がだ」
余程鈍くなければ、この会話がすでに、曹操かあるいはそれに近いものとの会話になっていることを察知しているのがわかった。しばらく、杯に手が伸びていない。
「哀しいですが、私は自分が何を望んでいるかも、まだわからない男です。まして、曹操という方が何を望んでいるのか? 読み違えれば、死があるかもしれない。 その恐怖があります」
「名は?」
「司馬懿、仲達にございます。親しい者は仲達と呼びます」
「ほう、司馬の八達の仲達殿か」
何か忘れたが、やはり何かやったはずだった。
「たしか、最近あなたの噂を聞きましたな」
如何様な噂を?
そう聞き返す司馬懿の眼には勁い光があった。ただ、何かやるかもしれない、茫洋としながらも、中に太く、しっかりとしたものを持った眼差しだった。
「侍女をあやめられた、とか」
本当は妻がやったのは知っていた。
「それは本当の話です。私は正直、誰にも仕えたくありません。曹操様が私に出仕を命じられた際、私は病を理由に断りました。そして、それを察知した侍女に揺すられました。 妻や家族に類が及ぶくらいなら、私も手を汚します」
「優しいんだな。 聞いた話では、侍女を斬ったのは仲達殿、あなたではなく奥方と聞いた」
「ははは、それはありません。 我が妻は、しとやかな女。人をあやめる度胸もなければ、家事さえしないようなつまらん女です」
「なるほど、な。 案外、いい男だな」
「あなたも人が悪い、曹操孟徳様」
「気付いていたのか?」
「ある程度ですが。 お斬りになりますか?」
「何故だ?」
「侍女を斬り、あまつさえ、出仕を拒絶いたしました」
「いや、斬らん」
斬れば、賢者は逃げるだろう。それに、死を覚悟した者は梃子でも動かない。
「細君は健在かな」
「はい。ですが、少し病を得て、臥せっております」
「そうか、仲達殿。 紙と筆があれば処方箋を認められるのだが」
「是非、お願いいたしたい。 妻が死ぬば、私も生きてはいけません」
「比翼の禽、連理の枝、か。うらやましいな」
紙に字を弉らせた。
「これは」
司馬懿の顔が紅潮した。 「声には出さなくていい。ただ、早く持ち帰るといい」
「なんと礼を言えばよいのでしよう」
「まあ、気にするな。それより呑もう」
「寝ている妻がいるので一杯だけ」
「だな」


去り際、仲達は曹操に仕えないだろうが、他にも仕えないと約束した。別に強要したわけでもないが、それも一つの美学だった。



数日後、


館で詩作に耽っていた曹操は一人の人物の訪問を受けた。癖のある妙齢の美女だった。
「おぬしは?」
舞い落ちる木の葉の中、ゆっくりと歩み寄るその姿は、何処となく、さりげない色気があった。
「司馬懿仲達の妻にございます。先日の処方箋のおかげで快復いたしました」
「はは、なかなかの名医であったか?」
「ええ、おかげで私の病は治りました。 御礼と申してはなんですが、つまらないものを」
そこには、司馬懿仲達の曹操陣営への参加を表明した文面が簡潔に印されていた。
「曹丞相に助けていただいので頭痛薬になれば、と」
「しかし、この字はあなたの字のようだが」
「夫、仲達は忠義の士です。 妻が受けた恩は一生かけても返す漢です」
言って、女は後ろを振り向いた。
「ね、あなた」
「司馬懿、仲達にございます」
まだ、使い道は考えてなかったが、いずれ戦力になる男だろう。
司馬懿仲達。
この曹操に、何をもたらすのだ?
中原の英雄は、眩しい風の中、ふと思った。


第3話
2006年11月10日01:27

【【三国志】清廉の士☆鮑信 】


使い物にならない兵士だけではないか。青州に巣くう黄巾賊残党に苦戦している現地の兵士たちを見て、曹操は嘆息した。
不甲斐ない。
多勢に無勢。百万あまりの黄巾賊は脅威なのは間違いない。だが、仮にも正規の武人たちが攻めあぐねてばかりでは、話しにならん。
逃げ腰の兵の姿を見ながら、曹操は不機嫌この上なかった。
「漢の正規軍がこれでは、国も乱れるな」
皇甫嵩や盧植と言った熟練の指揮官たちが亡き今、漢でまともに戦える将はいないということなのか。
散々に打ち破られていく鎮圧部隊の中にあって、整然と隊列を維持しつつ戦うものたちがいた。
「あそこの五千ほどの将帥は誰なのだ」
動きはよかった。強い弱いはわからないが、必死に戦っているのか、黄巾も苦戦しているようであった。 「駆ける」
兵糧や荷物を後詰めに任せ、曹操は精鋭七千だけを渦中に進めた。
青州の猛者たちよ。
怒号や血飛沫の中に突き進む。不意の乱入に乱れた黄巾兵が俄かにどよめいた。
「曹操参上!」
黄巾討伐や反董卓軍での働きが多少は伝わっているのだろうか。曹操の名に驚愕したのがわかった。
「はは、鮮やかですな」 兵たちが獅子奮迅の働きで敵を食い破っていくのを見て、陳宮が笑った。
確かに、この動きでいくばくかの流れは変わるやもしれん。だが、百万の黄巾の者たちは、賊として討てばいいだけの者なのか。
為政者の都合だけで乱れた大地。賊や軍隊に奪うだけ奪われ、疲弊し、飢えた者たち。
「兵たちに引き上げを指示せよ」
「しかし、この勢いに乗らない手はありませぬ」
「いや、退く」
「何故です、殿」
陳宮が珍しく、噛み付いて来た。
「俺にもわからん。ただ、討っても、討ってもはい出る黄巾のものたちを見ていると俺にはわからんのだ」
「殿」
「民を救うことすら出来ない国。黄巾と戦った俺だから、何か違うのでは、と思うのだ」
「今、討たねば」
「今、討たなくとも、よいではないか。元は民なのだ」
ただの民の叫びが正規の軍を退けるような強さを持つのだ。それは尋常なことではあるまい。
「殿は何か得体の知れないことを考えておられるのでは」
「民を討つのは不毛だ」 撤退し、後方に戻る最中だった。
「曹操殿」
「おぬしは」
それは名士、鮑信だった。高潔な人格をした男である。以前、反董卓軍で共に轡を並べた鮑信であった。 「援軍とはかたじけない」
返り血を浴びてはいたが、さわやかな男だった。勢力こそ弱小だが、鮑信には志のようなものがあるように感じられた。
「私が来たからには、嘆くことはない。青州を救うつもりでいる」
「この戦いは単に民を討つだけではすまないのでは、と私は見てます。青州の黄巾を討てば済むと考えるようなら、ある意味この国を救うには、すべての民を討つはめになるやもしれんのです」
「つまり流れを変えねばならん、ということだな」 「はい、戦いながら私が感じたのは、黄巾に走るものはみな追い詰められた棄民や流民だということです」
「ふむ、国の荒廃が招いた悲劇だな」
「責任は民ではなく、為政者です」
「もし、私がこの民が味わっている苦しみを背負ってやれば、民や国は変わるやもしれんな」
「新しい時代を築く者が背負うべき責務でありましよう」
百万の難民。
それを救うのは限りなく不可能に近い。
「今の漢には無理な話だな」
「漢でなくとも、立ち向かわねばなりません」
「口で言うのはたやすいがな」
「曹操が民を救う道を歩む者ならば、私はあなたに仕えましよう」
「民か」
天を見上げた。
無慈悲な天が救えないなら、誰かが、か。
人任せにしているようでは、曹操も語るに落ちるな。
頭痛がした。
だが、それこそが必要なことなのかもしれない。誰も背負わない重み。
清廉の士の澄んだ眼差しを睨み返しながら、曹操は唇を噛み締めた。


第4話
2006年11月18日20:55

【典韋】


死を恐れぬならかかってくるがいい。
戟を構え、仁王立ちする巨漢は無言ながらそう叫んでいるようだった。
執念だな。
既に百近い矢にその身を貫かれ、足元の血溜まりは池のようですらある。
眼差しに宿る光りの鋭さに負けたような気がした。 まさに、悪来だな。
配下の兵が恐る恐る近づいて、その死を確認した。 やりおるな。
張繍は死せる勇士の眼を見据えながら、呻いた。
酒に溺れ、女に走った。それほどまでにだらけきった姿を見せながらも、これほどの剛勇の士が身をもって守ろうとした男。

曹操孟徳。

涼州の片田舎にも董卓や馬謄などの領袖がいたが、この男が命に代えて守り抜いた曹操も稀有の大器と言わざるをえんのかもしれない。
鄒氏に溺れて、油断しきった曹操を小物と見たが、早計だったかもしれない。 追撃に出た兵たちもはかばかしい結果を出してはいない。
「悪来典韋か」
悪来という男については詳しく知らないが、典韋という男をたとえる際に使われたほどの名だ。
西涼では勇士は讃えられる慣習があった。
「まさに、戦士としかいえまい」
憎い敵だが、見事な男だった。侠の匂いがした。
「丁重に弔う、べきだな」
新兵ならこの姿や気迫に圧倒されて気死しかねない。
「首を撥ねて、見せしめにしてはいかがですか?」 若い将校が言った。
「男には汚してはならん生様がある。 それを学べ」
典韋。
その忠と勇。
うらやましく思う。


第5話
2006年11月19日02:49


【肉屋の肉】


皇帝が愛した女だから、どんな女かと思えば、こんな程度か。
洛陽に入城し、宮殿に入った董卓は玉座の傍らに君臨する女を見て、へどを吐きそうになった。
美しい、という感銘はまったくない。痴呆めいた幼帝の横で優越感に浸った笑みを浮かべている三十くらいの女。綾絹で彩ろうと美はそこにない。
「遠路遥々、大儀であった」
まるで、自らが皇帝にでもなったような態度だった。うやうやしく頭を下げながら、耳障りな声を味わい、董卓は皇帝に視線を移した。
怯えている、ただの子供。くだらん。この大地に号令をかける者ならば、睨み返すくらいの太さぐらい持て。
たいした内容のない話を終え、退廷すると、董卓は居室の鈴を鳴らした。
李儒。
肚を割って話せる配下だった。
「閣下、いかがなされました」
「ふん、今日は儂は不快じゃ。 何進の妹と甥は実に不快じゃ」
「やはり、早めに消したいのですね」
「ああ、あれは無価値なる者どもだ」
肉屋の娘から身を起こしたらしいが、宦官の人形だったのだろう。あまり聡明でもなければ、容姿も掃いて捨てるほどのものだった。
床には、掠ってきた女が鎖に繋がれている。
「あやつで、皇后なら、おまえでも皇后だな」
宮殿の警備具合を確認するため、兵を賊をよそわせて、宮女をさらわせてみたが、簡単に成功した。
悪くない女だった。肌の白さと髪の黒さがよい。
「なぶるのですな」
「ふん、こんなくだらん地に来てやったのだ、女くらい好きにさせろ」
逃げることは不可能だ、と観念してるのだろう。似てる、昔、西涼で追った牝鹿の眼に似ていた。
鎖を解き、女に剣を与えた。
「儂は今からおまえを狩る。 そして、貪る。それが嫌なら、その剣で儂を刺してみるがいい」
抵抗する女はいい。
覚悟を決めて、女が剣を構えた。
素手であれば、こちらも不安はある。
気品、一介の宮女ながら、ある種の高貴さや誇りが感じられた。
刃の軌道は鋭い。一閃、雷が尾を引くような鮮やかな太刀筋に危うく、肩を斬られていた。衣に引かれた紅い線が血の匂いとともに深みを増す。
剣を持つ手を掴むと壁に叩き付けた。
体勢を整える間すら与えず、近づくと頬を殴打した。
何か言ってるのが聞こえたが、あまり考える気にも、聞く気にもならなかった。
全身を噛み、髪を引っ張ったり、中に子種を仕込んだりしていると気が晴れた。
悲鳴や抵抗は喜びである。体内にある欲望は女の一人や二人で満たされるようなものではなかったが、喘ぎとも叫びともわからぬ鳴き声に包まれていると、牡に還ったような快楽があった。
「ふん、逝きよったか」 血も流さねば、首も絞めてないのだが。
気付いたら、骸になっている女を見て、董卓は起き上がった。
「酷いですな、董卓様」 「都に税を収めても見返りすらないのだ。奴隷の一人ぐらい喰らうても罰はあたるまい」
殺した女の肉は李儒に渡した後、家畜に食べさせることにしている。
「生きた牝を狩るのは戦の次に愉しい。 が、李儒よ、おまえは死んだ女が好みだったな」
「はい、文句も抵抗もないが故」
「おまえも一度ぐらいやるがよい。 屍も悪くはないかもしれんが、いつも儂が殺したもののおさがりでは、つまらんだろうし」 「されど、一体誰を」
ある程度意図は掴んでいるはずだった。
「肉屋の牝犬はやや肉が古くなったやもしれん」
毒殺か自害という形ではありふれている。見聞きしたものが戦慄するようにやるのがよい。
「幼帝は愚かだが、罪はあるまい。これで安らかにしてやるがよい」
毒薬だった。使い方はいろいろあるが、毒である。 「ははっ、しかと承りました」
踵を返し去っていく李儒を見送りながら、董卓は血の付いた上着を脱ぎ捨てた。

第6話
2006年11月26日04:56


【流浪】


呆気なく死んでゆくものだな。荊州を制圧中の英傑孫堅が戦死したという報せを聞き、劉備は俯いた。
漢王室にたいする忠義。南方のごろつきくらいに見られていた孫堅は董卓に破壊された都、洛陽を再建する作業を行ったり、国や民にたいする思いを持った男だった、という。
勢力を拡大し、覇権を握る。まつりごとの中心である都から離れることによって、南は確実に孫堅の勢力圏になったはずであった。
誰かが統一しなくても、民や帝を思う諸侯同士が協議して当たれば、国は良くなるはずだった。
「また、一人義の士が亡くなりましたな」
堂々たる髭を夜風に靡かせ、現れたのは関羽だった。
「なぜ、哭いている」
関羽の赤顔の頬には静かだが、涙が流れていた。
「兄者が結ぶなら、孫堅殿はまたとない相手でした」
勇猛なる孫堅を畏れた董卓は孫一門に列なる者たちを高位に付かせるかわりに加担するよう要請したらしい。
そして、孫堅はそれを堂々と跳ね退けたのである。荒くれ者と蔑まれながらも、筋を通す男である。
「乱世の習い、いつかは敵になったかもしれないが、私は孫堅文台という男を知りたかった」
野心もあったかもしれないが朝廷にたいする熱いものもあるように見えた。部下たちとの絆の深さといい、爽やかな男に見えた。
華雄という董卓軍の大将を斬った猛き男である。
しばらく、南は静かになるのではないか? 推測だが、孫堅ほど袁術や劉表は戦が得意ではない。
得意でないとは、言い返せば、好まないということだ。
天下を目指す者は北、を目指すか。
漠然とだが、袁紹の顔が浮かんだ。 そして、曹操。董卓軍に単身追撃をかけ、壊滅した雄。
生きているなら、曹操は袁紹に食いつく。
「兄者、酒が暖まりましたぜ」
大樽に盛られた酒を軽々と抱えながらやって来たのは張飛だった。
「雲長、嫌なことは酒で忘れよう。 嫌なことばかり考えるより、人生は長い。 少し休むのも悪くあるまい」
「ですな」
そう、結論づけた。
夜空には星が輝いていた。だが、空よりも一杯の酒を楽しもう、そう思った。



第7話
2006年12月24日 16:05


【小説三国志☆忠勇なる張任】


首を撥ねるしかないのか。
頑なに降伏を拒む気骨は買いたかったが、いたしかたないか。
寝返りの気風が芽生えてる益州に、壮士あり、か。
引き出されてきた敗残の将、張任な貌を睨み、劉備は眼を閉じた。
簡単に節を曲げはしない。
勝者にも奪えないものがある。
惜しい。
だが、信念を捨てた瞬間に、張任という男はいなくなってしまうのだろう。
刑吏に引かれていく張任の背中を見送る。
さらば、忠義の志士よ。
ふと、居合わせていた法正や孟達と目線があった。
様々な生き方があるのだ。
その良し悪しを問う資格は自分には、もはやあるまい。
益州の曇天を見上げながら、劉備は拳を握り、絞めた。



第8話
2007年01月02日09:55


【小説三国志2007年版☆献帝劉協伯和(180-234)】


また、性懲りもなく、このようなものを。
各地の豪族や諸公に帝が書いたと思われる書状を見て、丞相、曹操は苦笑した。
内容は現在への泣き言と曹操を討て、程度のものだった。
くだらん。
一笑に伏していい内容だが、天子としての覇気があるのはよかったが、無駄に歯向かうのは許し難かった。
「今度こそ、帝をお斬りにならねばなりますまい」
「いや、それはならんな。あくまで、私は漢の臣下なのだからな」
漢に仕えてるが、この仕打ちには参るな。
「生意気な廷臣を何人か斬らねばなるまいな」
帝は斬れないが、その意思は斬らなくてはならない、と感じた。
「帝は飾りですな」
「その件については解答の言葉を持たん」
そう、思った。
不意に、荀いくの顔が浮かんだ。


第9話
2007年01月03日03:22


【小説三国志2007年版☆孫堅文台(156-192)】

見事な陣容ではないか。西涼の武者、総勢五万を見据えながら、少壮のもののふは嘆息した。
孫堅、字は文台ははためく董卓軍の旗を見た。 本隊である董卓は来てないようだが、大将の華雄はなかなかの剛の者であることは識っていた。
負け戦。
何が起きてるかは計りかねたが味方から送られてくる兵糧が滞りがちである。じりじりと対陣が長引けば、敗色も濃厚になる。
敵は前面の華雄だけではない。
規則などで縛るにも、所詮限界がある。
孫堅は兵を原野に進めた。間合いが狭まるごとに敵陣から放たれる気迫が頬を叩くのがわかった。
数だけでなく、実力も備えた軍。野犬の群れめいた気配とは裏腹に、よりすぐりの精兵の集まりだというのが肌で感じられた。
感覚を強いて、理解させるなら、兵と兵の隙間にさらに眼では捉えられない兵を含んだような陣容なのである。
こちらは、だいたい三万弱である。江東の子弟を鍛練した精鋭が旗本の中核を担っているが、末端は調練もままならない新兵ばかりである。
野蛮な、と見做された江東の勇を天下に示し、一躍名を挙げるには、手緩いことは出来なかった。
兵が緊張していたのがわかった。少し、ほぐすか。
江東の虎、と謳われた男は、その精悍な顔にその由来となる凄絶な笑みを浮かべた。



孫策に続く。
第10話
2007年01月07日08:05


【小説三国志2007年版☆孫策伯符(174-200)】
父の姿をよく見ておけ。
旗本と共に華雄軍に突撃を開始した父、孫堅の姿に少年孫策は戦慄した。
無謀だ。
兵隊の壁に向かって、切り込む孫堅軍。後翼での待機命令を出された孫策は止めることさえ出来ない立場の弱さに歯噛みした。
父の強さは知っていた。孫子の末裔を自認するだけあって、勇敢なだけでなく、駆け引きが巧みである。
刹那の強襲で華雄軍の前衛を崩すと、踵を返すかのように全軍を後退させる。その繰り返しを行いながら、華雄軍の末端に揺すぶりをかけてるのがわかった。
怒号を孕んだ砂塵を睨む。金属が猛る音や悲鳴を巻き込みながら、父、孫堅を中心に渦が出来るのがわかる。
華雄は傑出した将のようだ。じりじりと父の軍を引き寄せながら、孫堅だけに攻撃を集中し出しているのがわかる。
乱戦の最中に矢まで使い始めている。味方もろとも、孫堅を射抜く。そんな不屈の意思が感じられた。
父、孫堅の首は安見しても三万の精兵に匹敵する、と董卓が漏らしたのは有名な話だ。
「やばいな、親父に攻撃が集まり過ぎている」
出よう。
任されている兵は二千だが、乱戦の間隙を突くだけなら、事足りる。
走れ。
若い自分に、訓練のきいた兵が付いているのは幸いだった。老兵が多いが、度胸が座ってるのだろう。
すました顔で動いている。
「こわっぱめが!」
進行を阻害すべく、重装備された一隊が現れた。
抜剣の鞘鳴りの音色が、ひどくゆっくり聞こえた。 首を貫かれた華雄軍の将校が血と喚きを放ちながら、落馬する。
「突き進めい!」
大将の勇を示す必要があった。強ささえ植え付ければ、兵の士気など挙がるものだ。
近寄って来るのを幸い、斬って、捨てる。
「おう、策いかがした?」
「親父、大将が窮地に立つなど、下策ではないか?」
「ははは、これぐらいにしておかねば、華雄は釣れん」
「華雄?」
「儂の首を捕るため、華雄は動く」
見れば、華雄軍の旌旗は、ひどく近い位置で揺らめいていた。
「行く」
孫堅が行く。雄叫びを挙げながら、猛き旗本たちが続く。
厚い。
兵が分厚い壁になって、進路にはだかる。激突する度に相互から無数の戦死者、負傷者が続出する。
旗本たちがばたばたと倒れるのが見えた。
跳ぶ、孫堅の兜が跳ね飛ばされる。
「親父!!」
歓声が湧いた。 孫堅軍から湧いたのだ。
見れば、父が血塗られた刀を手に戻って来る。空いた手には、血が滴る生首が握られている。
「華雄だ」
激しい死闘だったのだろう。 刀傷だらけになりながら、戻って来た父が淡々と言った。
江東の強を父が天下に知らしめたのだ。
孫策は父の大きな背中をその瞳に焼き付けようとした。
ずっと……


第11話
2007年01月10日07:42

【小説三国志☆スペシャルエディション・
       つかの間の勝利。 覇者なれたブヒよ(笑)】


愛しさのようなものを感じる。 身体に刻まれた傷の一つ、一つを代償にしながら、ついにここまで来たのだ。
さらば、友よ。
冀州を制圧した私は、いくばくかの切なさを感じた。
目の前に横たわる墓には、私の友が静かに眠っている。
袁紹本初。
苛烈な戦いだった。幼い頃から、兄弟のように育ったのに。
天下など、取りたいと願ったことはなかった。血塗られた手になろうと、心に描くのは友や仲間の笑顔だった。
戦うこと以外に前に進む術をしらなかった。
筆を手に言葉の海に魂を委ねながら、世に背を向けようとしたことが一体何度あっただろう。
荒野に横たわる屍を想う。 おまえはどこから来たのだ? おまえは何を望んだのだ?
私の前に現れたばかりに、無残な姿を晒すとは。
天の無慈悲さをしらなんだか。
剣を手に、甲を纏い、血で歴史を描く。
私はこの頭上に王冠を受けよう。 だが、それは見えずともよい。 だが、それは語らずともよい。
天下を治めようと、帝を名乗るのは愚だった。
袁紹は北の王だった。 董卓は中原を従わせ、天下を震わせた。その様は、皇帝より、皇帝らしく。
見渡せば、中華はまだ、群雄の時代だった。
「殿、戦いは始まったばかりですな」
張遼が言った。
そうなのだ、何も終わってなどいない。 袁紹を倒しただけで、まだ戦いは終わらないのだ。
さらば、最大なる袁紹よ。
おまえを倒した私は、その屍の彼方に道を求める。
「覇者ですな」
「そう呼ぶ者もいるが、所詮、私は私だ。気を抜けば、名もないものの手にかかって命を落とすやもしれん」
つかの間の勝利の匂いが鼻先をくすぐる。
だが、風が吹けば、また、戦の薫りが私を待つのだろう。
さらば、本初よ。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※この文章はレオンさんが覇者に昇格した記念に    ※
※かかれたため、タイトルが普段と違っています。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
第12話
2007年01月14日 04:10


【小説三国志2007年版☆孟達子度(???-228)「降将孟達、魏王と会う」】

投降だと。
まさか、と思いたくなりながら曹丕は苦笑した。
蜀より馳せ参じた壮年の男の顔を見て、曹丕はふと唸らざるをえなかった。
孟達子度。 蜀きっての将、というよりは益州の将だな。 関羽の荊州での戦死により蜀にいづらくなったか。
華やかな戦袍を纏った武将が平伏する姿を見て、曹丕はうたれた。
言葉よりも姿勢の美しさが心を震わせたのだ。
「孟達、子度にございます」
よく通る声で響いた。
「ふむ、存じている。 武勇にも長けておるようだが、おぬしが詩歌や教養にも長けているのもよく知っている」
「ありがたいお言葉です」
「前口上はさておき、君ほどの男がなぜ、魏に降ろうというのだ? 蜀は君を大将と認め、遇したはずだぞ?」
「仰せのままに。 されど、劉玄徳は天下に羽ばたく器ならず。 弟、関羽の死を悼み、呉に戦を挑む、と国を挙げて準備にかかりました」
「麗しい兄弟愛ではないか」
兄弟などいかほどのものか。 血を分けた兄弟とはいえ、陰惨な争いもあるのだ。
劉備が呉に戦を挑む気配を見せているのは放った間諜からも聞いていたし、幾人かの証言、それに蜀の北に対しての備えがゆるくなったことから推察できた。
「私は勝てぬ戦は嫌いです」
「つまり、蜀は呉に負けると君は言うのだな?」
「はい。 劉備が呉に挑もうと呉は負けませぬ。 民意とてなければ」
孫権の手腕かはわからないが、本土である揚州にしても新しく加わった荊州にしても呉の統治は上手かった。 戦を嫌うという姿勢ゆえか軍隊の強さは未知数であるが、潰されない強さと安定のある国という印象はあった。
「今の劉備にあるのは、関羽将軍の仇だけです。 そして、私もある意味仇です。 私が救援を送らなかったから、関羽将軍が討たれたと噂する者もいます」
「甘いな」
関羽が優れた大将なのは父、曹操からも何度も聞かされていたが、ある意味で関羽は負けるべくして負けたと言っていい。
孫権は、国を挙げて荊州を盗ろうとした。 荊州戦に割いた兵員にしても派遣した大将の顔触れにしても、遊びはまったくなかった。 益州と荊州を同時に統べるだけの器がなかったのかもしれない。
劉備は益州の獲得に賭けていた。 だから、守りを関羽に任せたのだろう。
関羽がそれだけの重みを持った将なのもわかる。 父曹操が関羽は劉備の配下の一部将にすぎないにも関わらず、主劉備よりも丁重に扱ったほどの男である。 それだけの大きさがあるのだろう。
「君には悪いが、君が五千や一万を率いて加勢に向かおうと返り討ちに遭うか、調略にかかり、孫呉の先兵にされただけだな」
戦神、鬼神と関羽を讃える武将は多い。 故に誤ったのかもしれ……。
不意に、ありえない筋書きが浮かんで、曹丕は不快感を感じた。
赤壁の戦いや漢中での戦いで一応、天下は三分され、かりそめの平和のようなものが出来た観があった。
それは父曹操もあったのか、漢中以降は屋敷でぼんやりしてる感じがしたくらいだ。
だが、それで満足しない男がいる。

諸葛亮、孔明。

もし、諸葛亮が関羽を餌に呉を釣り上げ、不安定になった荊州を餌に魏、呉、蜀が三国で血塗られた争覇を繰り広げたならば。
魏対蜀だけでなく、蜀対呉、ひいては魏対呉まど行われれば、天下の行方などわからないものになりかねない。
仁知勇を兼ね備えた英雄とはいえ、諸葛亮からすれば関羽など扱いずらい大将である。
が、劉備がその死に怒れば、無論、戦いの口実にはなる。
「私の降伏を認めてくださりますか?」
射るような視線は孟達からだった。
「認めよう。以前通り、房陵、上庸、西域は君が治めたまえ」
「ははっ」
「しかし、まだ新城には劉封がいる。 これを打ち払って欲しい」
御意、と叫び、踵を返し、戦地に戻っていく孟達を見送り、曹丕は苦笑した。
ともあれ、領土が増えたのだ。 父曹操よりも広い地域に号令をかけることになる。
名実ともにこの国を治めつつある。
そして。

皇帝。

魏がここまで力を奮い始めたのだ。
実態なない者に皇帝を名乗らせておく時間も残り少ない、な。
今が治世なのか乱世かはわからないが、少なくとも一つだけ言えることがある。
それは父、曹操の時代とは違う、ということだ。
居並ぶ臣下に解散を命じ、曹丕は退出することにした。
天下というものの抱えきれない大きさを感じながら……。


第13話
2007年01月14日 05:30


【小説三国志2007年版☆朱治君理(156-224)
            「孫呉の風、再び」 推定198年作品】

挑発気味に動かした若手将校の仕種が気にいらなかったのだろう。
兵たちに指図さえ与えず馬を走らせた孫策が剣を抜いた。
刃が閃くことが意味するのは、死。 慣れた手つきで孫策が刀身を左右に振る度に、無数の屍が落下し、主を失った馬たちが悲しげにいななく。
その様は一陣の疾風だった。 孫策の駆け抜けた道を紅い線が追う。 そして、無数の騎馬が「孫」と刻まれた旗を揺らめかし、煙を舞い上がらせながら、駆けていく。
「どうした? 君理」
粗削りだが、立派な武者になられたものだ。
お父上で孫堅様が亡くなられてから耐えた甲斐がありましたな。 一瞬、男、朱治は涙が出そうになった。
主君、孫堅文台が荊州攻略で非業の最期を遂げてからの日々は地獄だった。 孫堅がいなくなったことで解散した孫堅軍が蘇った。
「何、ぼーっとしてんだ。 いくぜ」
「はっ」
朱治は頷くと手綱を握り締めた。
進む先には、天下が待っているやもしれない。


第14話
2007年01月14日 06:56


【小説三国志2007年版No.001☆劉封(?−220) 「孟達と劉封」 推定220年】

物分かりの悪い男だな。
共に戦った誼みで味方になるように使者を送った見返りがこれだとは。
首になって送り返された部下を見て、孟達は嘆息した。
まだ粗削りだったが、劉封という若者は惜しかった。 生意気なところや劉備の養子であることを鼻にかける点を除けば、それなりの将になるやもしれなかったが。
無惨に殺害された使者を手厚く葬るように部下に指示を与えながら、孟達は新城を見た。
その気になれば、一揉みであるが、手荒な真似は出来れば避けたかった。 戦えば兵が悲しむ。 兵は民であり、それに魏も蜀もない。
「久しいな、子度。 曹賊に降り、さらには俺にまで一味に加わるよう呼びかけるとは」
城から出てきた鎧武者が劉封だとわかったのは敵意に満ちた声と槍の閃き故に。
不意に突き出された穂先を軽く弾いた孟達は唸った。
「劉封よ、劉備に仕えても無駄な争乱に巻き込まれるだけぞ」
「馬鹿な! 天子をないがしろにした魏に降るおまえが何を言う」
「天子がなんだ! 漢の帝が正しいならば、何故民が苦しむ。世が乱れる。 劉備も曹操も本質など変わりはせん。 天子様の為を想うなら、天子様のために、畑でも耕すがいい」
高みから見下ろしているものの理屈だった。 比較的豊かな地域は問題ないが、貧しい地域には飢えがある。 無駄な戦いさえなければ、飢えた民を豊かにするために税を回すことも可能だった。
「天子のためなら、間違いなく魏を討つ。 それが劉備は関羽が死んだことにより、国内すべてが呉憎し、孫権討つべしだ。 劉備という男は感情で動く。 あんな男では、益州が食い潰される。 魏でも蜀でも善政さえ敷けば、民は喜ぶ。 そこに天子も劉備もあるまい」
「かもしれん。が、この劉封は愚直なのやもしれん。 孟達、おまえの気持ちは受けた。 我が心に秘めよう。 だが、俺は劉備の子。 血が繋がらずとも父は父。どんなことがあろう、劉備の歩む道を行くのみ」
「……」
もはや、惜しいとは思わなかった。 男が自らの肚を語ったのだ。若さ故の過ち、などと愚弄するつもりもない。選択を尊重するのも優しさである。
「話せて嬉しかったぞ」 無言で退く劉封を見送りながら、孟達は自陣に戻った。
「将軍、危険でしたぞ。 使者を斬るような相手に……」
不安の色を隠せなかった部下が非難がましく言った。
「すまんな。 別れを告げただけだ。 短い間とはいえ、味方だったのだ」
「甘いですな」
「ああ、甘いな。 だが、劉封は私が討つ。 ならば、異存あるまい」
話しているうちに劉封の旗が土煙を湧かせながら、城から出てきた。
劉封という若者がいた。 それが、今は敵として一人前に目の前に立ったのだ。
「行くぞ。 敵将劉封を討ち手柄を立てい」
立ちはだかる者に挑むのも礼儀だ。
今は、戦士としての礼儀で応えるのみ。
まさか、この剣をおまえに向ける日が来ようとはな。
肩を並べて戦った勇士の姿が目の前に飛び込んで来る。
後悔はすまい。
皮肉げな運命を断ち切るかのように、孟達は剣を鞘から抜いた。
戦塵が雄叫びに揺れ、舞い上がった。


第15話
2007年01月14日 07:46

【小説三国志2007年版002☆孫策伯符(174-200) 「小覇王の眠る時」 200年作品 】


すまない。
戦いだけの人生ゆえに、すっかり失念していたが。
病床を見舞う妻の顔に涙が浮かんでいるのを見取り、若き王は申し訳なさを感じた。
「あなた……」
「皮肉なものだな、あれだけ好いて、結ばれたはずなのに、こんな時しかおまえといられないとは」
戦で負った傷のせいか、起き上がる気力がなかった。 大将としては失格なのだろうが、いつも前で戦っていた。
「笑うかもしれないが、今が一番幸せだ。 おまえといられるのだからな」
戦は戦で好きというより、必要に駆られてしているが本当に好きかはわからない。 本人は気分を害するから言わないが、自分より周瑜のほうが遥かに戦好きである。
「泣くな」
大喬、小喬と謳われた美女を貰ったと周りは面白半分、やっかみ半分で持て囃すが、大喬は普通の、平凡な女だった。 本人はそれを気にしていたが、そこが愛おしかった。 普通の女でいてくれるから、普通の男に還れるのだ。
「可愛い涙だな」
流れた涙を拭ってやっていると指先に涙が落ちた。
そして、それを口に含む。 漠然とだが、優しい味がした。
「いつも側にいてやれなくて、すまないな」
「しかたありません。 乱世なんですもの」
「ちぇっ、つまんないな。 少しばかり、駄々をこねてくれた方が俺は嬉しい」
言うと大喬が頬を膨らませた。 怒ってるのだろう。 真面目だから、怒ると怖い。
「昔、親父がお袋に甘えてるとこを見たことがある。 子供の俺はあまり面白くなかったが、お前に甘えてる俺を振り返るとなんだかなあ、と思う」
「小覇王なんて呼ばれても、あなたは優しい人です」
「止せよ。 小覇王なんて、残酷な乱暴者みたいな呼び方だろ」
小覇王は、覇王項羽に因んだあだ名だ。 無敵の快進撃で秦を倒した英雄である。
「でも、項羽より劉邦のほうが遥かに残酷だわ」
「そうか?」
「項羽は敵には残酷だったけど、味方や民衆に優しかったわ。 そして女にも」
「虞美人か」
覇王項羽には華のような美女が常にいたと言う。
「くだらん話だが、俺たちの前世は項羽と虞美人かもな」
どうでもいい内容のない話だ。 だが、大切な相手とすれば、それだけで大切な想い出になる。
「早く、戦終わらしてえね。 まだ、やりたいこともあるしよ」
「やりたいこと?」
「ああ、お前といろんなとこを見て廻りたい。 その、お前が嫌でなければ」
大喬が嬉しそうな顔をした。 身体が持ち直したら、行きたいものだ、と孫策は願った。

だが、その夢は、叶うことなく終わった。

建安五年、小覇王孫策絶息。享年二十六歳。

その夢は弱冠十八の弟に引き継がれた。

その、魂とともに……。

to be continued?
第16話
2007年01月14日 09:04

【小説三国志2007年版No.003☆公孫鑽伯珪(?−199)】

馬を走らせていた。 速く駆けれるよう、兵に馬に慣らさせるようにしなくてはならない。
幽州は匈奴や鮮卑が巣くう地である。 生温い中原の役人や貴族は知りえないだろうが、異民族は騎馬の扱いに長けたものが多い。
逃げる匈奴を討つには、彼らと同等、あるいはそれ以上の速さを備えた馬とそれを操る技術が必須だった。
「将軍、もうこれだけ速くなれば問題ないのでは?」
騎兵の訓練を見守っていた将校がその激しさを見兼ねて言った。
「違うな。 匈奴の速さはこんなものではない」
何回か匈奴の討伐を行い、白馬将軍と呼ばれるようになったが、まだ足りない。

負けないだけでは駄目だ。 白馬の群れを見ただけで逃げたくなるまでにしなくてはならない。

劉虞は匈奴を手なずけようとしているが、言葉や文化が違う連中はしっかり叩き、畏れを植え付けねばならない。

呂布や董卓が率いた西涼の騎馬は恐ろしかった。 姿を見ただけで逃げたくなったものだ。

「匈奴には、泣き叫びたくなるような騎馬隊を示す必要がある」
「和平は駄目でしようか?」
「無理だな。 下手に手なずけようとすると今までの戦いの意味がなくなる。 和平交渉するにしても、しっかり倒してからだ」
引き分け程度の状況で講和しては、いつ巻き返されるかわからない。
訓練の最中に何頭かの馬が脚を折ったようだ。 傷付き朽ち果てた馬。
見た目が白いだけの駄馬だったか。
「ここまでやると可哀相な気もしますね」
白甲冑を纏って現れたのは従弟の公孫越だった。
「幽州だけではなく、匈奴の地域も治めるつもりでいる。 それには、今のままではならん。 私は公孫家の国を造るつもりでいる。 北の果てでは、漢が定めた位階、官爵など無意味だしな」
言いながら、公孫鑽は南の冀州の方角に視線を向けた。
「いずれは袁紹をも討つ」
大きく出たやもしれないが、それぐらいでないと話しになるまい。
「調練を怠るものは斬る」
愛馬に跨がりながら、公孫鑽は言った。
兵に緊張が走る。
強さを得るための試練なのだ。
そう思った。


第17話
2007年01月15日 06:37

【小説三国志2007年版No.004☆袁紹本初(?−202)】

篭城とは、皮肉なものだな。
白馬の騎馬武者を率いた男が臆病にも、城を固めて出てこんとは。
名門、袁家の総帥、袁紹本初は堅牢なる城塞を見据えた。
守りは万全なのだろう。 工兵たちに柵や城壁の破壊を命じてはいるものの、なかなか進む気配はなかった。
「なかなか粘るのう」
城塞に取り付いた兵士たちが苦戦していると言う報せを受け、袁紹は振り向いた。
「殿、厄介ですな」
「うむ。 私としては短期決戦を期したいのだがな」
田豊に公孫鑽の篭る城の地図を渡した。
「堅牢ですな。 外も堅いですが、外壁の中も更なる鎧で覆われております」
「やむをえんな。 冀州に兵糧などの追加を求めねばな」
「そうならざるをえんでしよう。 ただ、殿の差配通り、匈奴にも尽力を求めました」
「ふふ、ご苦労。 中華は広いが狭いのう。 以前北の果てを見たが、考えさせられた」
「始皇帝の築いた長城を見られた、という話ですな」
「ああ。 確かに見た目は凄かったぞ。 ただ、あれは建造物としての壮大さを誇るが、匈奴らはうまく破って中に入ってるようだった」
「それは」
「うむ、さすがは始皇帝。 城壁の突破は不可能らしいが、中には地下を掘ってきた者もおるようだ」
「それは有益な話ですな」
「だろう?」
戦いしか知らない猪武者には出来ん芸当だろう。
分厚い壁を築いたつもりが、墓穴を掘るとはな。
口の端に笑みを浮かべると袁紹は地図を睨んだ。
幽州の地図、を。


第18話
2007年01月15日 07:49

【小説三国志2007年版No.005☆関平(?−219) 219年 荊州にて】

終わりを迎えるのか。
荊州を突如襲った呉の大群を見据え、若者は半ば観念せざるをえなかった。
呉、呉、呉。
孫、孫、孫。
見渡す辺りに翻る旗の全てが孫呉の旗であり、その隙間から無数の矢が飛来して来る現状。
瞬く間、一瞬ごとに兵たちが朽ち果てて行く。
「おのれ……」
高らかに笑う声が聞こえた。 呉軍の兵気は高いのだろう。
放たれる矢の一つ、一つが的確に蜀兵の生命を奪う。
「撤退だな」
益州や新城に放った救援要請の使者も無駄に終わったのだろう。
「関平殿」
呼びかけられ、若者関平は振り向いた。
「これでは、戦になりますまい。 落ち延びましよう」
「馬鹿な! 荊州を捨て、何処に行くと言うのか?」
長い流浪の果てに獲得した領地である。 それをみすみす。
「関羽雲長は天下の将。 荊州の王なるぞ」
「されど、負けは負けにござる。 無駄死にを避けることこそ、肝要かと」
戦いにならない。
何故、逃げることや降伏を口にする兵がいるのだ。
暗澹たる気持ちになりながら、若者は真上に展開された無数の呉旗を見た。
なんて、大きいのだろう。
揺らめく旗と怒号が全てを飲み込み、……


第19話
2007年01月15日 15:15

【小説三国志2007年版No.006☆呂蒙子明(?−219)「冬の荊州にて」 219年作品】

あっけないものだな。
首になった関羽の顔を睨みながら、若き王は嘆息した。
長年の宿願だった荊州の奪還。 思えば、荊州は孫家にとっては呪われた土地だったな。 父孫堅が討たれ、孫家が滅びたのも荊州であったか。
荊州を治めていた劉表が、戦などがないように取り仕切っていたことが、神業であるのが身に染みる。
「関羽を斬ったからには、もはや蜀とは天下を共に望めまいな」
「仕方ありますまい。 劉備も関羽も荊州に固執しすぎたのです。平和裡に返還願えたらよかったのですが」
荊州奪還の総大将呂蒙が若手の陸遜と朱然を従えて現れた。
「大任ご苦労だった。 窶れたな」
荊州戦に命を賭けたのだろう。 呂蒙の顔には隈などがあり、頬もこけていた。
「盃を取れ」
呂蒙、陸遜、朱然に酒を振る舞いながら、孫権は言った。
「陸遜、朱然。 大将たる者、呂子明のようでなくてはならん」
「殿」
酒を口に含み、呂蒙が笑った。 次の刹那、その手が揺れ、盃が地に落ちた。
「はは、これは粗相をば」
「無茶をしたな、子明」 「荊州奪還は国家をかけた戦いでした。 この機を逃して、次があるなど思えなかったです」
「すまんな。 だが、これで国は豊かになる。 いや、豊かにしてみせる。 だから、しばし、揚州で休め」
「はっ」
着ていた上着を呂蒙にかけてやりながら、孫権は地面を踏み締めた。 荊州の土を。
「孫呉を富ませ、民に平和を与えることこそ、私の使命だろう」
荊州の空に、静かに雪が降り、注いだ。


第20話(三部作)

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2007年01月16日 04:24

【小説三国志2007年版No.007☆紀霊(不明)「虎牢関・前編」 190年作品】

勝てる者はおらんというのか?
虎牢関を死守する董卓軍を指揮する男の猛々しさに圧倒され、袁術は歯噛みした。
悠然と長大な戟を揺らしながら、誘いかける一騎の武人相手に次々と戦いを挑んでいたが、勝てる者はいなかった。
「ふん、この程度の腕で俺に挑もうとは。 俺も馬鹿にされたものだ」
炎のように紅い肌をした軍馬に跨がった男が皮肉げに笑った。
呂布。
「誰か、あの者を討てるものはおらぬのか? このままでは本初に対して面目が立たぬわ」
苛立ちを鎮めるため、蜂蜜を溶かした湯を啜りながら、名門袁家の正当なる跡取り、袁術は叫んだ。


名物、袁家。


袁家は四世三公の名門である。 四世三公とは四代に渡って高い位を授かったという意味である。
袁術も袁紹もその血筋である。
血筋上では、袁術が正統で、袁紹より継承権は高位にあるはずなのだが、世の知識人や名士たちはこぞって袁紹を推していた。

「殿、ならば拙者が」
三つ又に先が分かれた刀を手に現れたのは袁術軍きっての猛将、紀霊だった。
「おお、紀霊」
凛々しい姿の腹心を見て、袁術は満面の笑みを浮かべた。
「そちほどの剛の者なら、呂布とて」
一礼して、馬上の人になった部下を見送り、名門の血を受けた貴人は微笑した。


→次回、張遼に続く



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2007年01月16日 04:22

【小説三国志2007年版No.008☆張遼文遠(165−221)「虎牢関・中編」 190年作品】

「張遼代われ」
黒塗りの鎧を纏った男の叫びに若い男は頷き、青龍刀を手にした。
張遼文遠。
まだ、二十歳を出たばかりながら、卓抜した騎馬の扱いを誇る男は馬を戦場に進めた。

無数の旗が揺らめく。

反乱軍の大将袁紹か、その従弟袁術の軍隊だろう。 地面に転がっている無数の屍を見下ろしながら、張遼は感服した。
さすがは呂布将軍である。 半刻も経たないうちに敵将をここまで片付けるとは。 軽く見ただけで三十は転がっていた。 自らの血で生み出された海に沈むつわものたちの成れの果てを掻き分けながら、馬を走らせた張遼の眼に華やかな戦衣に身を包んだ男が姿を現した。
「我は張遼、字は文遠。 武に覚えあられる方、手合わせを所望いたす」
張遼の若い叫びに応えるようにきらびやかな鞍に跨がりし、武者が高らかに名乗りを挙げた。
「我が名は、紀霊。 逆賊董卓の狗よ、我が正義の刃をとくと味わえい」
得物は三つ又の戟。 閃く光の軌跡を捌いた張遼は感嘆した。
紀霊という男、なかなかの男だ。 瞬く間に肉薄した敵手が虚空に幾多もの模様を描く。
辛うじて凌いだ時、張遼は青龍刀を持つ手に痺れを感じた。 虚仮威しなどではない。 真のもののふの力。
「防戦一方とは、臆したか?」
苛烈な突きに紛れ、時に横薙ぎの攻撃が襲う。
呂布奉先以外にも、天下に勇士はいるものだ。 そんなことを感じた時、張遼は落馬していた。
「な!?」
背中からしたたかにたたき付けられた刹那、張遼は死を覚悟した。
だが、攻撃はない。
一陣の疾風のように滑り込んだ黒影が騎馬武者と哀れな落馬者の狭間に割り込んだからだ。
「将軍!?」
それは敵将の戟を弾いた太いそれは見間違うはずはない。
呂布奉先の方天画戟である。
「情けないな、文遠。 敵の力量を見誤ったな」
あっけに取られた張遼に自陣に戻るよう、顎をしゃくると無敗の武人は特大の戟を身構えた。
そして、それに呼応するように、紅い巨馬が咆哮した。



→次回、呂布に続く。



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2007年01月16日 04:19

【小説三国志2007年版No.009☆呂布奉先(?−198)「虎牢関・後編」 190年作品】

「張遼の手綱や鞍を斬るとはなかなかの手練だな」
呂布は嬉しかった。
久々の獲物である。
いましがたまで相手にしていた敵がお粗末なくらい弱かったのに比べ、眼の前に立つこの男は雄敵と呼んで差し支えなかった。
「呂布。 その首は国一つに値するだろう」
「ふん、貴様もな」
会話などいらなかった。 声が途切れるより速く、戟と戟がぶつかる。
鳴り響く金属音は雷鳴。 無言のまま、ただ、互いの戟だけが雄弁にその武勇を語る。
わずかの時の間に既に三十合ほど槍戟を交わした者たちは馬を走らせ、間合いを計り合う。
「まったく、たいした奴だ。 江東の孫堅といい、貴様といい、袁紹、袁術には過ぎた男たちだ」
「ふ、おぬしもな。 董卓の部下などでなければ、友になれたやもしれん」
英雄は英雄を知る。 互いに自らの武を恃む男は眼前に立つ戦士に畏敬を払いながら、攻撃を再開した。
一撃が鳴る度に、鈍い音がする。 止む間などない。
向き合う男と男は、自らの名と武を賭けて、戦う。 そこに、もはや主などない。
「ここまで、だな」
紀霊が不意に、戟を納めた。
振りかぶっていた戟を止め、呂布が眼を丸くした。
「臆したか?」
怒りもあらわな呂布に紀霊がかぶりをふった。
気付けば、辺りでは二人を無視して、すでに戦が展開していた。
それだけでない。 袁の旗の中から無数の弓兵が矢を呂布に向けていたのだ。
「騙し討ちは好かん」
「礼は言わん。 また、会おう」
馬首を返すと、呂布は愛馬を走らせた。






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2007年01月16日 04:30

【三部作、あとがき?】

今回は三部作になりました。 虎牢関っす。 紀霊が少し、強いかもしれませんが、まあ。
たまたま浮かんだんですが、なんか半端になり、むうう。
今回は個人的には、ぎこちないなあ、という気もします。 戦闘シーンはあまり得意じゃないので、課題にしたい。
張遼は弱めにしましたが、まだ若手なんで勘弁願います。 張遼の成長を描きたいんで、あえて。

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