大好きな人が忘れられない。コミュのサヨナラボタン　2-2

打ち上げも残り30分。
ウーロン茶がなくなった。

私の隣では弘さんと、学典で弘さんと同じ担当だった陽子さんが赤外線でアドレスを交換している。
二人のリクエストを聞いて、飲み物を取りに席を立った。
酔って寝ている人を避けて廊下に出る。
廊下は２００人分の靴が散乱していて、誰かの靴を踏まなければ奥の厨房まで行けない有様だった。
申し訳ないと思いつつも、思い切り踏んで進む。足の裏が少し痛かった。
いくつかの部屋の前を通り過ぎる。今日は貸切なので、どの部屋も学典のメンバーしか居ない。

厨房でウーロン茶を受け取りながら思った。
こんなに人が居ても。
こんなに人が居ても、結局知り合いになれるのはごく一部なのだ。
弘さんは、２００人居たらいい人に出会えるかも、なんて言っていたけれどそれは違う。同じテーブルならまだしも、全然知ってる人の居ないテーブルや部屋にいきなりお邪魔できるほど、私は社交的ではない。
この飲み会だって、弘さんが行こうって誘ってくれたから来ることができたのだ。
今日この打ち上げの中に、私の知り合いは弘さんしかいない。もしかしたら学典で同じ班だった人が居るかもしれないけど、探すのは難しいだろう。
つまり、今日私が参加しているのは一番奥のテーブル周辺のみなのだ。今手に持っている３つのウーロン茶を持って、どーもー！とばかりに他の団体に乱入でもしない限り私の社会は広がらない。

でもまぁ。
今日はこれでいい。
弘さんとは色々話せたし、陽子さんとも知り合いになれたし。
私にしては上出来。独りでも学典に参加して良かったと思う。
まぁ･･･、心残りとしては、佐々木さんともぅちょっとお話したかったなぁ･･･とか？
思ったり･･･しないわけじゃないけど。
なんて。

「あ～もぉ･･･。乱入して社会を広げるとか何とか考えたって、結局私が今一番したいことってそれなんだなぁ～」

そんな勇気も無いくせにね。
バカみたい。

また廊下の一番奥に向かって戻る。靴をやっぱり踏んでいく。足元が悪いせいでバランスがとりにくい。
不安定な体に合わせて、携帯のストラップに付いた鈴がチリチリ鳴った。グラスの氷も一緒に揺れている。
思いついて、ジャケットから携帯を取り出した。
シルバーの携帯に付けた、ストラップ代わりの下賀茂神社「病難除け水守り」を光に透かす。
丸いカプセルの中に下賀茂の清水と葵とキラキラする粉が入っている水守りは、スノードームのようで綺麗だった。

GWに泊りに来た地元の友達を京都案内していた時、その可愛さに惹かれて友達と一緒に糺の森の相生社の隣の売店でこれを買ったのだ。
水守り自体は下賀茂の本殿近くの売店でも売っていたのだけれど、相生社は恋愛成就のお社だから何か良縁を運んでくれるような気がする！ということで、しっかり赤い紐の物を選んでみたりした。
病難除けのお守りだと言うことはこの際気にせずに、その日から私たちのストラップはそれになったのだった。

だから。

お守りを揺すって鈴を鳴らす。
底に溜まった粉が、舞い上がってキラキラする。

下賀茂の神様･･･相生社の精霊様･･･。
お願いします。
ほんのちょっとで良いんで、私にチャンスを下さいませんか？

席に戻ると、弘さんと陽子さんもその他諸々の女の子も、みんな居なくなっていた。