ものがたろうコミュのスープ

VoL:3【スープ】 (AM9:00~)

同じ庵で同じ朝を迎えたつもりの冷たいスープ…
「・・・・・」
「・・・・・」
音と言えば、見せる意味もない真っ白なソーサーの嫌味な騒音と、
さほどの音量でもない筈のとぼけたワイドショーニュース…
何時間言葉を口にしていないのか…？！
冷めたスープは乾きささくれた篭女の腹に殊の外凍みる…
欲しくも無い朝食を淡々と胃袋に納める庵男の物腰は、誰に見せるこだわりなのか?!
全で目の前に鏡でもあるかのように、どこまでも好色に意を置く伊達な型座り…
長い月日で研いだつもりの庵男の美意識に、篭女は“大姦は忠に似たり”の極悪を思う｡
無色無味な朝食が終った時、その朝始めて意識が聴かせた物音…
４０畳のダダ広いリビングの先にある玄関のチャイムが鳴った｡
庵男と篭女は一瞬の思案を重ねる…（来た…）
錠が掛かったドアをどうしても開けようとする忙しない音…
「〇〇さん！〇〇さぁ〜ん！開けますよぉ〜！」
その声に応える大姦ゆえの空意地は、何ﾒｰﾄﾙもある玄関迄の歩数にまで伊達を映した｡

玄関をゆっくり開けると、無言の侭１４〜５人の男達がゾロゾロと続いた…
硬く安い裃ながらも、眼光だけは上等な男達の姿を見た庵男の顔色は見る見る赤らんだ｡
それまで何時間も無言の下敷きになり掛けていた庵男の脳裏に浮かぶ安堵…（助かった）

地味な裃の袖口を見詰める篭女に男達が問い掛ける、
「おたくは？」
「・・・・・・・」（応える訳もない…）
「奥さん？！」
「・・・・・・・」
そんな会話に割って入る庵男が毒づく、
「何の令状って？？？」

男達は、キッチン・トイレ・バス･･･下駄箱の底の底までガサった｡
見つけたいのは、ある筈だったのは、チャカ…
拳銃一丁で(初犯なら)凡そ１年喰らうところ、何故か無い…

篭女は自分の視線が男達の袖口から長いクローゼットに移る事を恐れるかの様に、
中でも一際眼光鋭い男を見詰めた｡男と視線を交えたその時、
一人の男が長高いクローゼットに手を掛けた…（ヤラレタ…）
が、ある筈のモノがそこには無かった…
どうやら、そろそろのガサを見当としていた庵男が鼻を利かせた先、
２丁の影を篭女も気付かぬ内、何処かに落として来たらしい…

観念したかの様に黙り続ける篭女に、視線を交えた男が徐に名刺を差し出した…
＿上野警察署＿捜査４課＿警部補＿本倉隆志（偽名）＿「ここだから｡」
受け取った名刺を右のポケットに差し込むと、布の真下にある豆を指先に感じながら、
庵男が着替る洋服を左手にし、ソファーに深く腰掛けている庵男にそれを手渡した｡
「お前、銭あるのか？大丈夫か？」
篭女には、それ迄何日も耳にした事のなかった人間の声だった｡
既に令状下に在る庵男の身柄拘束の先、篭女に待っているのは捌き切れない動乱･･･
それでも篭女は薄っすら微笑み軽く頷いた｡
「今 持ってかれるらしいからよ･･･戻ってろ･･･」
そう語る庵男に“まだ言うか！？”と返答するかのように顎をしゃくるりながらまた頷く篭女･･･。

内心恐れ慄いた先程までの張り詰めた息は、
一時でも組織とあの目付けから解放される安堵にあぐらをかきながら、
篭女は、気が付くと、無色無味だった冷めたスープの味を喉の奥で思い出していた･･･
オニオンスープ･･･“あの人が好きな味”･･･
遠ざかる幾人もの男達の後姿に紛れる庵男を見送った後、
篭女は自分だけ飲み干せなかったスープ皿に目を落とした｡
朽ち果てた広尾のテーブルが最後の日･･･篭女は己に覆い被さる浮世の闇の中で、
それまで逃れ続けていた思いとは真逆の方角⇔
目付けの在り処に足を向けねばならない掟を尻目に、
広尾：午前11:00、篭女は右手の中で豆を何度も何度も弄んでいた…

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく…？！
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◆傾城に残せし刹那の華やぎか拝む手中に一弾の豆（もと）　　　　　　


◆蒸せ返すスープの熱み戯言の腐ったオニオンあの恋しさに似て


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◆Something So Raight
http://www.youtube.com/watch?v=TTq8iYHM-qo