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ブックオフ福岡コミュの『私立探偵 藍 file1-4』

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「なに、だったらなおさら自殺だってことじゃない」
 毒物はすべて被害者の腹の中、というわけだ。
 「いえ、それが…、」
 木室警部はどうも歯切れが悪かった。はっきりしなさいよ。
 「被害者の体内から検出された毒物は、液状のものだったと考えられます。しかし、被害者の体内以外の場所から毒物が検出されないんです」
 「え、え、どういう事ですか?」
 無津呂が慌てて聞いた。
 「液状のものを運ぶのに、手ぶらじゃ無理でしょ」
 私は親切に説明してやった。
 「はい、そういう事です。毒物を入れた容器が現場にない以上、犯人が持ち去った可能性を否定できません」
 「容器でなく、何かに染み込ませて持ち込んだ可能性は?」
 「何かに染み込ませていたとしても、それを検視で発見されないようにする事は被害者には不可能です。普通に洗っただけでは必ず痕跡は残りますし、何より毒物を服用した後に部屋を掃除する暇なんてありませんよ。ほぼ即死でしたから」 
 「それで、密室殺人ってわけね」
 室警部は無言で頷いた。
 「でも、自殺の線も捨ててないんでしょ?」
 「はい、まあ、そうですね…」
 木室警部の発言はどうも釈然としない。思わず眉間に皺が寄った。
 「まあいいけど。それで、容疑者はどれだけ絞れてるの?」
 これには木室警部の後ろに控えていた栗山が答えた。細いフレームの眼鏡を神経質そうに右手で持ち上げる。
 「被害者の死亡推定時刻は12時〜12時30分。死体発見の約一時間前ですね。使用された毒物はトリカブトでしたから、ほぼ即死です。つまり、この時間帯にふれあい文化センターに居た人間が容疑者ということになりますが、事件当日は休日でしたから、職員は十人程度のみが働いていました。それから、スタジオ利用者が3人。いずれも被害者の友人です。今のところ、この友人達と、発見に立ち会った職員を中心に話を聞いています」
 「さっき、被害者は一人でスタジオを利用していたって言わなかった?」
 「はい、他のメンバーは12時過ぎにはスタジオを出ています。そこからしばらくは、被害者が一人でスタジオを利用していました。その後、定刻を過ぎても退室していなかったため、係員が様子を見にいったそうです。」
 「なるほどね」
 「引き受けていただけますか」
 木室警部は身を乗り出した。
 「とりあえずそいつらに話を聞いてみるよ。引き受けるかどうかはその後」
 「ええ〜」
 なぜか無津呂がしょんぼりとうなだれた。捨てられた爪も牙もない白熊のような目でこっちを見ている。
 「分かりました。
 みなさんには、下の部屋に集まってもらっています。話は通してありますから、自由に質問していただいてかまいません」



 無津呂を連れてスタジオを出て、二階の会議室に向かった。時計を見ると、もう六時を回っていた。どうりでお腹が空くわけである。
 「帰りてぇな」
 「えっ、えっ、なんでですか?」
 「眠いから」
 「そんな、身も蓋も無い…。密室殺人ですよ、密室!」
 無津呂は目を輝かせたが、私はやはり乗り気にはなれなかった。
 「密室殺人ねぇ」
 「なにか気になりますか?」
 説明するのも億劫だった。思わず溜息が洩れる。
 「いい?そもそも密室ってのは、自殺の擬装工作だろ。でも今回の場合、警察ははなっから他殺の線を有力視してる」
 「室内にあるはずの毒物が見つからなかったからですね」
 私は頷いた。
 「そう。つまり、毒物を室内に残していれば、この事件は単なる自殺で片付けられていたはずよ。なんたって密室なんだから。犯人にとっては、それが一番安全なはずでしょう」
 「なるほど。つまり、密室を作り出した理由は他にあるって事ですね?」
 「そう。そうとも考えられる。」
 無津呂にしてはなかなかまともな理屈だ。私は素直に認めた。
 「でもね、やっぱりそれじゃあリアリティに欠けるわ。」
 そもそも、「密室殺人」なんてものこそ、非現実的な事象に違いないが。
 無津呂は首を傾げてこちらを見ている。見ようによっては、まあかわいい仕草と言えなくもない。
 「毒物が持ち出された、つまり、二つの鍵の掛かった室内からどうやって人間が抜け出したか、どうやって密室を作り出したか、って考えるよりも、被害者が毒物を持ち込んだ方法を考えた方が、現実的だってことよ。
 そう、例えば、毒を口の中に含んだまま部屋に入って、内側から鍵を掛けてから飲み下したのかもしれない」
 「そんな。そっちの方がよっぽど非現実的ですよ」
 「そうかもね。でも、よっぽどシンプルじゃない?」
 シンプル?と、無津呂が繰り返した。
 「そう。殺人なんて、本来はとてもシンプルなものなんだよ」
 無津呂が後ろで唸った。あまり納得がいかないようだ。
 階段を下りると、そこは三階と違ってずいぶんと閑散としていた。職員はいるようだったが、おそらく仕事どころではないのだろう。全く気配がない。
 私は急に気が重くなった。
 会議室というプレートが掲げられた部屋を見つけて、私は取っ手に手をかけた。
 「藍さん、他殺じゃないって考えてるなら、みなさんに何を聞くつもりなんですか?」
無津呂が聞いた。
 「そうねぇ」
 私は少し考えてから答えた。
 「何を聞いたらいいか、聞いてみたらいいかもね」




file1-5に続く
 

コメント(4)

すごいなぁ
随所に森博嗣臭がするよ。
≫スノウちゃん
ありがとよ〜
続きは…Yけんに全て委ねます☆

≫りょうさん
はいもうばりばりに森博嗣意識ですよ。
藍さん=犀川先生?
あ〜やべ〜
なんで推理小説なんかはじめちゃったんかな‥w

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