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リレー小説を作る会コミュのシナリオ通りに進むサスペンス小説

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では、こんなのつくってみました。
皆さん気軽に参加してみてください。

1      はじまり
10リレーめ 1つめの殺人
20リレーめ 主人公疑われる
30リレーめ 2つめの殺人
40リレーめ 主人公襲われる
50リレーめ 3つめの殺人
60リレーめ 犯人が分かる
70リレーめ エンディング

指定された数字の数のリレーめの人は必ず指定されたシナリオ通りの内容を書きましょう。
“リレーめ”というのは、はじまりから数えたストーリーの数のことを言います。削除する人がいるかもしれませんので、コメントの最初に書いてある数字に惑わされないようにしましょう。

まったり行きましょう。
でも、なるべくつじつまは合わせる方向性で。

コメント(60)

−17−



限界だ。



明人と兵頭さんは床に座り込み、安堵したのか「おもちゃで良かった」などと少し笑みを浮かべながら話し合っている。
なぜ。
なぜ笑っていられるのだろう。

「人殺し」

あたしは明人にそう言った。
明人は何を言われたのかすぐには理解出来ないようだった。

「・・・ひっ、人殺しって、ゆ、由香、お、俺は・・・」

「人殺しよ。分かってるの?明人。そのおもちゃのピストルが本物だったらあなたは人を殺していたのよ?」

「だっ、だっ、だって・・・」

明人は何か言い訳をしようとして言葉を探している。今さら何を言い訳しようとしているのだろう。

「まあまあ、姉ちゃん。姉ちゃんの気持ちも分かるけれど、おもちゃのピストルやったんやから、ここはまあええやないか。撃たれた兵頭も怒ってないようやし。」

姫田さんがなだめに入る。なぜみんなは明人をかばうのだろうか。狂ってるのは明人なのに。やっぱりこんな時に狂わないあたしの方が狂っているのか。

「・・・分かりました。もういいです。あたし警察が来るまで部屋でひとりで休ませてもらいます」

そう言うとあたしは部屋から出て、二階の自分の部屋まで向かっていった。
後ろで、「ちょっと待ってよ由香・・・」という明人の声や、「まあ仕方がないか」という高橋さんの声や、「そんなに落ち込みなさんな明人君」とかいう姫田さんの声が聞こえる。
そんなことはもうどうでもいい。
もう何も考えたくない。

あたしは自分の部屋に入ると中に誰もいないことを確認し、窓の鍵を閉め、カーテンを閉め、ドアの内鍵を閉めた。
これで誰も入ってこれない。
もう何も考えないでおこう。警察が来たら全てを解決してくれるはずだ。それまで何も考えないでいよう。

あたしは警察が来るまでこの部屋でひとりでじっと待つことにした。
―18―

結局。

みんな他人なんだな。

何か寂しい。

そう思った。

速く警察来てくれないかな。

警察…?

そういえば何時警呼んだんだろう…??

あの高橋って男が呼ぶって言ってたけど、あの人が一番怪しい。

背中がゾクッとした。

その時だ。背中の方で何か音が…

ブウーン、ブウーン…

携帯電話?

その振動音の後、急にカーテンから火が出た。

嘘。

私はカーテンに近寄った。

カーテンの下に何やら、見たことの無い箱が。

携帯電話と、ライターと配線が絡み合った物が入っている…

そしてライターから、(恐らく改造されているらしく)30センチくらいの火柱が立っていて、カーテンを燃やしていた。

これって…

時限爆弾!?

いや違う。

時限発火装置だ!

もしくは携帯で操作できる自動発火装置…いやいや、そんな事どうでも良い。

逃げなきゃ。

私は思った。

そして一目散へドアへ走った。

ドアを開けて外へ出た。
階下へ降りよう。

今なら間に合う。

でも…

あそこに発火装置を置いた犯人が、さっきの女性を殺害した人ならば、私があそこへ閉じこもった事は『想定外』だったのだろうか。

そう思いつつ、先程の部屋へ戻った。

一階の部屋のドアを開ける。
すると中には誰もいなかった。
―19―

えっ?
一階のさっきまでいた部屋は空っぽになっていた。ついさっき…
ほんの五分の間だ。
一体どういう事?
私は訳が分らなくなってきた。
5分の間に何が起こったというのだろう。しかも奇妙な事に、さっきの女性の死体すら無くなっている。

私は部屋の電気をつけた。
そして、女性の死体のあった所を見た。
すると、驚くべき事に、血すらも消えて無くなっている。
誰かが拭いていったのだろうか。
「ちょっと…」
背後で声がした。
姫田だ!
「えっ」
私は振り向いた。
そこには、姫田が一人ポツンと立っていた。
「えっあの…」
私が言おうとすると、姫田が勝手にペラペラ喋りだした。
「ほんま訳わからへんわ。急にみんな何処行ったん?」
姫田も知らない。
どういう事。
「えっ、私こそ部屋にいたから知りません、しかも部屋燃え出して…あっ火事になっているかも。」
「部屋におった?確かに部屋入ったやんなあ。俺は、姉ちゃんが部屋に入った後急に腹痛くなって、トイレ行ってたんや。帰ってきたらこれや。一体どうなってるんや。」
「あの、部屋が火事に…」
「火事〜?大丈夫やろ」
何故知らないのに大丈夫と言えるのだろうか。
―20―

「雨で消えるやろー。この大雨やで?」

「・・・でも心配です」

たしかにこの大雨だ。でも・・・、と私が心配そうにしていると、姫田は、急に気づいたように言った。

「部屋に戻ってから、姉ちゃんはずっと部屋におったんやな?」
「はい」
「火事って、なんで起こったん?」
「それが、時限発火装置みたいなものがカーテンの下にあって、なんでかわからないけど、それが発火したんです。誰も私が部屋に行くなんて思わなかったと思うし、なんで私たちの部屋にあったのかもぜんぜんわかんなくて・・・。で、みんなに言わなきゃと思ってここに来たんです」
「・・・そっか」

そう言うと姫田は「みんなを探そう」と言い、廊下へ出た。

「え・・・ちょっと待ってください」

私は相変わらず火事のことが心配だったので、部屋に行くことにした。

「じゃあ俺はみんなを探すわ」

私は急いで部屋に戻った。
するとそこに、なぜかみんないた。
どこですれ違ったのだろうか。

「あ、由香!!大丈夫!?どこ行ってたの?」

明人の顔はすっかり青ざめている。

「由香・・・由香が部屋にいると思って来てみたら、火が出ててびっくりしたよ。無事でよかった・・・でも部屋にいたんじゃなかったの?」
「いきなり火がついて、びっくりしてさっきの部屋にみんなを呼びに行ったんだよ。そしたらみんないなくて・・・」

火は、もう消えていた。消火器が2、3個転がっていた。
雨で消えるだろうと思っていたけど、窓は閉まっているんだから、それは無理なことだと気づいた。まぁもちろん大火事になれば話は別だけど。
すると、カーテンのあたりを調べていた高橋が振り向いて言った。

「お嬢ちゃん・・・危なかったね。こんなものがあったよ」

そう言って高橋は、こげついた発火装置を見せてくれた。

「これはおそらく遠隔操作できる発火装置だな・・・」

高橋は、発火装置を調べはじめた。
すると、今まで黙っていた兵頭が口を開いた。

「お・・・おかしい・・・よ・・・!!こ・・・これは・・・。きみ・・・君なんじゃないのか犯人はっっ!!!」

そう言って私を指差した。

「え・・・!?」
「だ・・・だってそうだろっっ!お前、あ・・・あ、あやしい!!!部屋にいるって、い、言ったくせにっ・・・、い・・・いなかったじゃないかよ!」
「ちがいます!!私部屋にいました!!!」
「由香・・・」

明人は私を見た。私を見る目がさっきとは違っていた。がっかりだ。もう明人とは一緒にいられないな、このペンションを出たら私たちはもう会わないことにしよう、本気でそう思った。
明人は言った。

「由香はチェスにも詳しいよね。クィーンのこともすぐ分かってたし・・・女の人が死んだときも落ち着いてた。部屋にいるって言ったのもうそだったの?君があの時間に部屋にいることがわかったのは、君だけだ。ねえ由香・・・」

ああ、思いっきり疑われてるよ私・・・。
オーナーは私を見ているが、何も言わない。高橋さんは、装置を調べながら、言った。

「お嬢ちゃん、念のためいろいろ聞きたいんだけど、いいかな。気を悪くしないで欲しい」
「はい・・・・あ、そういえば!!さっき明人も言ったけど、私、チェスの駒が気になります・・・。さっき女の人が殺される前、チェスの駒が飾ってある部屋で、クィーンの駒だけなくなってました。もしまた違う駒がなくなってたら・・・」
「・・・わかった。それはあとで見ることにしよう。まずは君に話を聞きたい。いいかな?1度さっきの部屋に戻ろうか」
「はい・・・」

私は事情聴取されるようだ。疑われるのって、気分が悪い。
姫田はどこに行ったんだろうと気にしながら、みんなと一緒にさっきの部屋に行くため、階段を下りた。明人は、私の隣には来なかった。
-21-

皆で部屋に戻ると、慌しい足音と共に姫田さんが戻ってきた。

「なんや、みんなどこ行ってたんや〜。」

高橋さんが振り向いた。

姫田さんは高橋さんと目が合うなり言った。

「あ、俺はてっきりもうみんなを…」

「ふん!」

高橋さんがワザとらしい咳払いをした。

姫田さんは何かを言いかけていたが、それで黙った。

二人の動作はかなり怪しかった。

私は高橋さんをじっと見つめた。

今から私はこの人に尋問される。

なんか嫌だなあ。

私は思った。

「お、俺は関係ないよ」

明人の声。

私は振り向いた。

オーナーや兵藤さんに詰め寄られて、あたふたしている明人が見えた。

でも何故?

何故私が疑われるの?

っていうかこの高橋さん、本当に刑事なの?

おもちゃの拳銃持っている時点でかなり怪しいし。

「高橋さん、貴方本当は警察官じゃないわね?」

高橋さんが口を開くより前に、私は聞いた。

横に立っていた姫田が苦笑いをした。

「…」

高橋さんは答えなかった。

「もおええんとちゃいますか?」

姫田さんが言った。

「…」

高橋さんは無言だったが、意を決したように目をかっと開いて言った。

「分った。我々の正体を明かそう」

そして皆を見回して言った。

「みんさん、騙してすまない。お嬢さんの言うとおり私は警察官ではない。私の本当の正体。それは…」

それは?

私は息を飲んだ。

雷が鳴った。

「私は高橋探偵事務所の所長をしているプロの探偵です。姫田は私の助手で、高橋探偵事務所で私の次に優秀な探偵です。そして…」

高橋さんは兵藤を指差していった。

「あそこにいる兵藤は、最近会社をクビになったらしく、我が事務所に探偵見習いとして置いてくれと言って来た者です。探偵歴は2週間で、まだ研修中です。今回ある依頼を受けまして、彼に見習いとしてついて来させたのです。」

「みなさん、騙してもうてすいませんなあ。」

姫田さんが頭を下げた。

「警察手帳はもちろん偽者です。拳銃はハッタリ様にいつも持っているのです。二つとも探偵の仕事には役立ちますので」

高橋はそう言って頭を下げた。

「ひひひ…ひひ」

兵藤さんだけが誇らしげにニヤついていた。

高橋探偵事務所。

数々の難事件を解決してきた有名な探偵事務所だ。

「そ、そんな」

私は言った。腹が立った。

「何それ。みんなを騙しておいて。それで私が悪いって言うの。私が怪しいって言うの。何よ。嘘ついていた連中にそんな言われ方したくない。」

私は頭に血が上った。

「す、すまない」

「ご、ごめん。落ち着いてえなあ」

二人は本心から謝ってるみたいだった。

確かに彼らからしたら仕事みたいなものだ。

だから疑うのは、仕方無いのかもしれない。そもそも人が死んでいるのだし。

でも、元はといえば私を疑いだしたのは…

「ひひひ、お前の彼女…ヒストリーってやつだな…ひひ…お、お前止めろよ。」

兵藤がニヤつきながら、明人に語りかけている。

「そんな、よして下さいよ。俺まで疑われるのごめんっす。っていうかヒステリーっすよ。」

明人が慌てて返事をしている。

私は兵藤のところまで歩いて行った。

小さい。

私は161cmだ。

でも見下ろせる。

よく見ると、身長の高くなるシークレットブーツを履いていた。


「ひいっ…す、すいま…」

兵藤は迫りつつある私を見て、謝ろうとした。

そして明人は、兵藤から離れた。

パチン☆

「しぇん…」

兵藤は私のビンタで、くしゃみのような語尾で謝り終えた。

「謝れ、今すぐ謝れ」

むきになった私は言った。

何よ、私こそ焼き殺されかけた被害者なのに。なによ。



なんなのよ!!!!!!!!!!!!!!!


「すいません、すいません」

兵藤はそう言いながら、即座に土下座した。

何度も何度も頭を床にこすり付けて、すいませんの言葉を繰り返した。
−22−

「まあ、そうだなあ、今私たちは本物の警察を待ってるほかはないわけだが、私はちょっと調べ物に行くとしよう」

部屋を出る前に高橋さんは私の肩をたたき、こう言った。

「姫田君、君は皆を頼む。助手はそうだな、由香ちゃんに来てもらおうかな」

助手!?
なぜ?
しかし、もう明人や兵頭さんと同じ部屋にいたくなかったあたしは、怪しみながら高橋さんについていくことにした。
部屋から出て二人きりになった後、部屋の中では、兵頭さんの「助手なら僕が・・・」という声とそれをなだめる姫田さんの声が聞こえた。

「色々イヤな思いをさせて悪かったね。通常、人はパニックになるととんでもないことをすることがある。我々はそういうことは慣れっこなものでね、明人君の行動を責めてもまたパニックになっても困る。それと兵頭君についても、あれはあれで使い道のある男でね、許してくれたまえ」

「・・・なぜ、あたしが助手なんですか?」

「うむ。先ほどまでの行動を見てだね、冷静な部分と感情的な部分が調整がとれていると思ったのだよ。人間はね、バランスがとれていないと・・・、姫田君のように冷静すぎるのも良くないし、兵頭君のように感情に支配されすぎるのも良くない。それと・・・」

「それと、犯人と思われる人間がそばに置いた方がいいと思ったからですか?」

あたしは途中で口を挟んでみた。

「・・・うむ。確かに君は死体のそばにいたし、火災事件のすぐそばにいたことだし、疑わしいのは確かだろう。だがね、あの血まみれの女性を君が殺したとして、その殺した君が返り血ひとつ浴びていないということがあるのだろうか?」

確かにそうだ。あの部屋にいた人間は誰一人返り血は浴びていなかった。あんなに血まみれの死体だったのに・・・。

「となるとだね。あの部屋にいた人間以外の人間が彼女を殺した、もしくはその死体を部屋に入れた、と考えた方が考えやすい。しかし、なぜそんなことをするのだろう?発火装置についてもそうだ。あんなもので人を殺そうと考えたのだろうか、気がついたらすぐ火を消せるレベルだ。そうなると犯人はどこかであたふたしている私たちをみて喜んでいる愉快犯である可能性が高い。そして、そうなると由香ちゃんが言っていたチェスの駒というのもあながち的外れではないと思ってね。それで助手にしようと思ったのだよ。」

「それでも、あたしが犯人かもしれませんよ?」

「うむ。その時は私の推理が間違ってたとガッカリするだけだよ」

高橋さんはそう言ってイタズラっぽくあたしに笑った。
うん、最初あたしがこの高橋さんに感じた好印象は間違いではなかったかもしれない。

「分かりました。それで探偵さん。あたしは助手として、これから何をすればいいんですか?」

「うむ、それなんだがね。最初の一歩は助手の由香ちゃんに決めてもらうことにしようかな?この事件で疑わしいことが色々あるだろう?」

疑わしいこと。
確かに色々思い浮かぶ。
あの正体不明の女性の死体、よく調べた方がいいのではないだろうか?
ラウンジにあったチェスの駒、今回の事件に関係があるのかもしれない。
あたしの部屋での火災事件、部屋をもう一回調べると何か手がかりがあるかもしれない。
そういえば行方不明だったオーナーの奥さんは見つかったのだろうか?厨房に探しに行ってみようか?
それと、兵頭さんが言っていた殺人鬼、その殺人鬼が犯人であるのであれば、どこかに潜んでいるかもしれない。

気になることはいくらでもある。
まずどこを調べに行こう?
-23-

先ずは奥さんだ!

私は思った。

奥さんは、まだ殺されていないかもしれない。

じゃあ奥さんの行方を捜すのが一番大事ではないだろうか。

「あ、あの」

「ん?どうしたのだね?」

「奥さんってどうなったのですかね?」

それと消えた死体だ!死体が一人歩きする訳が無い。

「それと死体。何故死体が消えたのでしょう?」

「…」

高橋さんは無言で目をつぶった。

そして10秒位たってから目を開けて言った。

「死体の事はすっかり忘れていた。誰かが運んだのだろうか。そうすれば外部犯の犯行という線が濃厚だろう。しかし、先ずは奥さんの身柄を抑える必要があるだろう。じゃあ決まりだ。奥さんを探そう。すまないが、オーナーを呼んできてくれ。携帯の番号にかけてみよう。」

私はさっきの部屋に戻った。ドアを開けると、姫田さんと兵藤さんが取っ組み合いをしていて、横で明人が頬を押さえて泣いていた。

「痛い…痛い…」

明人がべそをかいてぶつぶつ言っていた。

その横では、

「僕が探偵だい、僕が推理するんだい〜」

と叫び狂う兵藤と、その兵藤を抑える姫田さんが、

「やめてえなあ、恥ずかしいなあ」

と言っていた。

ドアの傍にいたオーナーが私に気付くと苦笑いをして言った。

「兵藤さんを止めようとしてね、彼氏君殴られたんだ」

「…」

明人はもういいや。

「あの、奥さんの番号聞かせてもらっていいですか?」

オーナーは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐ真剣に戻り、

「ああ、そうだね。すっかり忘れていたよ。」

そう言って番号をメモ用紙に書いて渡してくれた。

私は直ぐに部屋を出た。

醜い争いを見たくなかったからだ。

でも部屋を出ようとする時、雷のような姫田さんの怒鳴り声が聞こえた。

「いい加減にしろ!!!」

そう言って、姫田さんが兵藤さんの頭を殴った。

殴られた兵藤さんは頭を手で押さえて、言った。

「痛い。よくも殴ったなあ〜う、訴えてやるからなあ〜」

そう言いながら泣き出した。

私はそれを見て直ぐにドアを開けて出た。

兵藤さんが泣く声が洩れていた。

高橋さんのところへ戻ると、私は早速電話しようと携帯電話を取ろうと思って、ポケットをまさぐった。

「あ、無いや」

携帯をどこかへ置き忘れてきたみたい。

恐らく部屋だろう。

「すいません、携帯無いので、かけてもらえますか」

私がそう言うと、高橋さんはにこりと無言で笑って、メモ用紙をみて携帯で電話した。

高橋さんは番号を打つと、携帯に耳を当て、真剣な表情に戻った。

つながるのだろうか。

つながるとしたら、奥さんは近くにいるのだろう。

「どうですか?」

私は思わず聞いた。

「…」

高橋さんは人差し指を口にあて、黙れと無言で示したが、その後表情が緩やかになって言った。

「おっ繋がったぞ」

「えっ、じゃあ」

しかし、その後再び無言になって険しい表情になった高橋さんの顔が緩やかになる事は無かった。

「出ないなあ。音は鳴っているのだが。」

ブウ〜ン、ブウ〜ン。

その時だ。どこかで微かに、携帯の振動音が鳴っているのに私は気付いた。

ブウ〜ン、ブウ〜ン。

高橋さんも気付いたみたいだ。

私と目が合ったとき、彼はその音が鳴る方向へ目を向けた。

私と高橋さんはその音の鳴る方向へ歩いていった。

音が大きくなる。

段々と、近づいてくる。

それは、さっき火をつけられた私の部屋だからだった。

「…」

部屋に入っても、高橋さんは無言だった。

部屋の携帯音が、さっきの自動発火装置の携帯だと分った時、再び彼は私に疑いの目を向けた。

「動くな」

彼は私に向かって言った。彼は携帯一度を切ると、私を睨みながら部屋の出口に立ち、また携帯で電話した。

「姫田君か?私だ。上へ来てくれ。…ああ、今すぐに。全員だ。」

ドタバタする音が聞こえてきた。

姫田さん、兵藤さん、オーナー、明人。

皆が不安げに入ってきた。
オーナーが口を開いた。

「か、家内は、」

すぐさま高橋さんが言った。まるで喋るなとでも言うかの様に。


高橋さんは自動発火装置の携帯を手にとってオーナーに見せた。

「これ、奥さんのですよね?」

「ああ、はい。同じ機種です。でも…それが家内のものとは思いませんでした。そうなんですか?」

「ああ、はい。どうやらそうみたいなのです」

高橋さんが奥さんの携帯ディスプレイを開いた。

中を覗き込んだ高橋さんが言った。

「むむ…着信履歴があるぞ。恐らく放火犯人からのだろう。」

やはり優秀な探偵は推理力があるな。
私は少し感心した。しかし、彼のこの推理力が私の更なる不運を呼び寄せようとは。

「時間的にもそうだ。この電話で、犯人は放火をしたのだろう。」

皆の注目の中、高橋さんは自分の携帯に番号を打ち込み、発信した。

私は横からその番号を見た。

その番号を見た時、最初は何かの間違いだろうと思った。

悪い夢でも見ているのだろうって、だって出来すぎだから。まるで推理小説の主人公にでもなった気分だった。

その番号。

それは私の携帯電話の番号だったのだ。

驚くべき事はそれだけではなかった。

高橋さんの発信はすぐに着信に変わった。

何故かと言うと、ベッドの下から私の携帯の着信音が聞こえてきたからだ。

皆が一斉にベッドの下を見た。

すると底にはさっき一階にあった女性の死体が、私の携帯電話を握りしめながら横たわっていたのだった。

「こ、この着信音、由香のですよ。高橋さん」

明人が高橋にそう告げた。
そして高橋の携帯を覗き込み、言った。

「お、俺は共犯じゃないっすから。だからちゃんと言います。この携帯も、番号も絶対由香っす。」
−24−

「共犯?」

高橋さんは明人の方に振り返った。

「・・・共犯。明人君、そうすると、君は犯人の目星がついているということかね?」

「犯人の目星って・・・、この状況じゃあ由香が犯人に決定じゃないですか!?」

「ひひひひひ、犯人決定〜」

兵藤さんが笑う。高橋さんは兵藤さんを一瞥するとこう続けた。

「由香ちゃんが犯人だとすると、この正体不明の女性を殺した後、二階の自分の部屋に連れてきて、わざわざ自分の携帯を死体に握らせたということか・・・?なぜ、そんなことをしたんだろうねえ?」

「すると、先生は由香ちゃんは犯人じゃないとお考えですか?」

姫田さんが質問する。高橋さんはしばらく黙った後、こう答えた。

「・・・うむ。どうだろうねえ?この事件は分からないことばかりだ。まあ、犯人は我々を混乱させようとしていることは間違いないだろう。かくいう私も見事術中にはまったということだろうねえ。」

そういうと高橋さんは辺りを見回した。

「どうやら犯人は我々を疑心暗鬼にさせ混乱させようとしているみたいですな。私からすれば、皆怪しい。かくいう私も皆さんからすれば怪しい人間のうちの一人でしょう。どうです皆さん、ここは皆で情報交換としませんか。物事をひとつひとつ整理していった方がいい。」

皆はとまどいながらもその提案に同意した。

「それならば、と。まずは兵藤君、君からだ。君が言うここ周辺に潜んでいるかもしれないという殺人鬼の情報を皆に教えてくれたまえ。」
-25-

「ひっ」
眼鏡をシャツの袖で拭いている兵藤が、名前を呼ばれて又しても猿の様な声を出した。

「“ひっ”やあらへん、はい!や」

姫田さんが優しく叱った。

「あんたなあ、そりゃ、僕らあんたより年下やで。でも上司やねんで、言葉くらいしっかりしてえな。」

「もう良い、姫田君。この男はそういう男だ。さあ、教えてくれたまえ」

姫田さんを止めて高橋さんが言った。

このおっさんどうしようもあらへん何が探偵や、そう言いながら姫田さんは横に立っていたオーナーの方を向いて苦笑いした。

「ひっひひひ…さ、殺人鬼ですね。ひひひ、警察の人に聞いたのですが、例のF県の連続殺人の犯人に酷似する女がこの付近で目撃されたそうです。し、しかもガソリンスタンドで…お、男と一緒だったそうです。ひっひひひ…」

「F県?じゃあやはり例の…」

「ナンパ師連続殺人の女け?」

高橋さんの口を遮る様な姫田さんの問いに兵藤は、はいと呟くように言った。

ナンパ師連続殺人事件。

マスコミによって勝手に命名されたこの事件の正式名称は忘れてしまったが、何ヶ月か前から世間を騒がしている事件だ。

最初の事件は山中に放置された車の中で見つかった男性の遺体。

被害者は、2,3週間前にF県のとあるナンパスポットで一人でナンパした女性と夜景を見に行く、と友人に告げた後消息を絶った。

そしてそのナンパスポット(F県の有名な国立公園の傍の歩道にナンパ待ちの女性が立っていて、そこを車で来た男性が声をかける、というやり方だった)に一人でナンパした男が、そこで知り合った女性と何回か会ってから、しばらくして消息を立ち、遺体で発見されるという事件が何回も起こったのだった。ナンパをしにいくと言って車で行き、惨殺された男性もいた。被害者は皆女性に鋭利な刃物で滅多刺しにされていて、同一人物による犯行が濃厚であったものの、被害者が一人で知り合い、被害者と犯人は携帯電話の番号とアドレスを交換していたみたいであったものの毎回偽造身分証で購入されたプリペイド式携帯を使っていると考えられる為、そこからの足取りは全くつかめないらしいのだった。

唯一の手がかりはある被害者の財布から見つかったプリクラ。
それによる似顔絵は作成されたが、いまだ犯人は謎のままだった。



その事件が起こるようになってからは、一種の肝試し、度胸試しの様な場としてもナンパできるという評判になって、そこでのナンパは、減るどころか勢いを増したのだ。

「え、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああ…」

明人が両目を見開き、私を指差して、足をガタガタ振るわせ始めた。

「どうしてん、兄ちゃん?」

姫田さんが明人の顔を覗き込んだ。

明人はおそらく、私との出会いを思い出したのだろう。

だって私たちも、F県のあのナンパスポットで、今から一ヶ月前に出会い、3日後から付き合ったのだったから。

でも、私はこの女性を殺した犯人じゃない。
―26―

明人はおびえている。完璧私を犯人だと思ってる。

明人は案の定、私たちの馴れ初めをみんなの前で披露しやがった。
兵藤もばかみたいにおびえはじめた。

明人の発表の後は、少しの沈黙。私への視線が痛かった。
オーナーが口をひらいた。

「由香さん。本当に由香さんなの?もしそうなら、もう隠さないで欲しいんだ・・・・」
「由香ちゃん、どうなの?」

高橋さんに促されたので、私は答えた。

「私じゃないです。ここでの事件もナンパのも」

疑いの目は向けられたままだけど、高橋さんは私のことを疑っていないように感じた。まぁそれが探偵なのかもしれないけど。こういうとき、誰かを最初から疑ってはいけないからね。

「それに・・・なんで最初にあの女の人が殺されたのか、謎じゃないですか?もし私がその殺人犯なら、一緒に来た男の人だけ殺すと思うんですが」

そう言って明人を見た。
明人はかわいそうなくらいおびえた表情をしている。

「私はただ、連れてきてもらっただけです。本当です。信じる信じないは皆さんにゆだねるしかないですけど・・・」

なんかまた悲しくなってきちゃったなぁ・・・。楽しみにしてきたのにまさかこんなことになるなんて。彼氏もこんな奴だったし。がっかりだよ。私って不運だ。でもまぁ1ヶ月目でわかってよかったのかもしれない。
私はあれこれ考えていた。
さっき高橋さんと言っていた奥さんのことが気になる。
奥さんのこと調べようとしてたのに、うまくいかない。
そう言いたくてなんとなく高橋さんに目をやると、わかってくれたのか、高橋さんがうなずくようにして喋り始めた。

「由香ちゃん、君の言うことももっともだ。君への疑いが晴れるわけではないが、君の言うことにも一理あるよ。疑われて気分が悪いかもしれないが・・・でも悪いがもう少し私の助手として付き合ってもらう。いいかな?」

「はい。まだ何も調べてないですし、もちろんお手伝いします」

私は答えた。オーナーのほうを見ると、おびえる兵藤と明人を見ていた。そういえばオーナーもずいぶん落ち着いている。でも、近くにこんなあからさまにおびえて気が乱れている人を見たら、逆に落ち着いちゃうかもしれない。なんといっても私自身がそうだから。

「じゃあ・・・」
高橋さんはそう言うと、
「早速さっきの携帯電話のことだが、お嬢ちゃんの携帯電話から、奥さんの携帯電話に電話があったわけだ。今のところ、おそらくその着信で、自動発火装置が作動したと思われる。では、由香ちゃんの携帯電話はどこにあるのかということが問題だ。由香ちゃんは、いつまで携帯を持っていたか覚えているかい?」

「ええと・・・いつだろう・・・・・・。あ、そうだ。明人と二人で部屋にいたときは持ってました。で、そのあと下に下りてきて・・・たぶんそのときに部屋に置いてきたんだと思います。っていうか単純に持ってくるのを忘れたっていう感じですけど」

「そうか。じゃあ由香ちゃんは部屋にあるはずだと思っているわけだね?」

「そうですね。まぁ誰か持ち出したのかもしれないけど」

「じゃあかけてみようか早速」

そう言うと高橋さんは、奥さんの携帯電話の着信履歴を見ながら私の携帯電話に電話をかけた。
・・・。しばらくしても、着信の音は聞こえない。私はマナーモードにもしていないし、電源も切っていない。だから着信音が聞こえるはずだ。一体どこにあるのだろう。とりあえず、この建物の中にあることを祈って、携帯電話を鳴らしたまま皆で建物を探すことにした。

私の携帯電話はあるのだろうか・・・。
−27−

私の携帯電話は正体不明の女性が握りしめながら、私の部屋で横たわっていた。
この事実はまだオーナーの的場さんには伝わっていなかった。
それを理由にして高橋さんは他の目的を遂行しようとした。

あたしたちが(本当はすでに見つかっている)携帯電話捜索に行く前に、そのことに納得できない明人を高橋さんは誰もいない廊下のすみに呼び寄せた。

「君が由香ちゃんを疑う気持ちは分かるが、携帯電話の件についてはあまり騒ぎ立てない方がいいね」

「ななななな、なぜですか?だっておかしいじゃないですか?」

「さっきも言ったが、由香ちゃんが犯人ならわざわざ自分の携帯電話を死体に握らせることはしないだろう。幸い、さっきの話し合いの時、的場君は聞こえていなかったようだから、このままあの携帯電話の持ち主は不明ということにしておこうと思うんだが」

「なぜですか、さっきからどうして高橋さんは由香をかばうんですか?」

「かばう?かばってなんかはいないさ。私は事実を知りたいだけでね。今、私が知りたいのは的場君の奥さんの居場所だ。的場君はもう奥さんは大丈夫だといって、かたくなに自分の部屋を見せようとしない。それなら、由香ちゃんの携帯を探すことを理由にして、見に行こうかと思ってね・・・」

「・・・ゆ、由香はナンパ師連続殺人の犯人かもしれないんですよ?」

「・・・うむ」

高橋さんは一瞬言葉につまった後、仕方がないか、という感じで語り始めた。

「・・・一応、由香ちゃんはナンパ師連続殺人の容疑ははれているんだがね。」

!

・・・ああ、そうか。
驚いた。でも、そういうことなら納得出来た。
この探偵さんたちは知っていたのだ、あたしたちのことを。

「入間由香。F県のとあるナンパスポットでナンパされることを繰り返し、プリクラの写真にも似ていたため容疑者として連行されるも、証拠不十分のため釈放。その後も、また同じナンパスポットで知り合った男性、三科明人と付き合い始める。警察としては疑わしいが、一度釈放した人間を表立って調べるわけにはいかない、それで私たちがかり出されたというわけだ。本当は内緒にしているつもりだったが・・・」

「別の殺人事件がおきたので、そういうわけにはいかなくなった、ってことですね。」

高橋さんたちの言ってた、ある理由でここに来た、というのはあたしたちのことだったのだ。
高橋さんはこの正体不明の女性の殺人についてはあたしのことを疑ってはいない。
しかし、ナンパ殺人事件の犯人としては疑っているということだ。

「明人君、こういうことを言うとショックかもしれないが、君も怪しいうちの一人なんだよ。入間由香といえば、あの辺りでは有名だ。その彼女を、しかもナンパ殺人事件のことも知らずにナンパしたというのは、何とも信じがたいんだがねえ。」

「・・・!、ほ、本当に僕は何も知らずに・・・」

「うむ。今はその言葉を信じよう。今は静かにしていてくれたまえ」


そして、話は今に戻る。

「高橋さんはあたしをナンパ殺人事件の犯人だと思ってるんですね」

「・・・うむ。何らかの関係はあるとは思ってはいるよ。騙していたことはすまないと思っている。まあ、今は今おきている殺人事件の方が先だ。」

あたしたち2人は携帯を探すフリをして、的場さん夫婦のプライベートルームに足を踏み入れた。
−28−

「ちょっと待ってください」
ドアを開けようとした高橋さんの手を的場さんが握った。

「…」

一瞬の緊張。

皆の時間が止まった。

「何故ですか?」

「入ったら駄目な理由でもあるんか?おっちゃん?」

姫田だんが援護射撃した。

僅かの沈黙の後、的場さんはゆっくりと喋りだした。

「いえ、そういう訳ではないのです。ただ…」

「ただ?」

又しても僅かの沈黙の後、的場さんは覚悟を決めたかのように言った。

「僕に開けさせてください」

そう言うと、高橋さんはこくりと頷き、ノブから手を離し、半歩下がった。

すると的場さんはドアの前に立って、深呼吸をして、拳をわずかばかり見つめて、ドアを軽く二回叩いた。

その後の的場さんの発言は誰もが懐疑心を起こさずにはいられなかった。

「すいません、私です。入っても宜しいでしょうか?」

え。

的場さんはオーナーだろ。

私は思わず言った。

「中に誰がいるんですか?」

「私の息子です…中学三年生でいじめにあって登校拒否になり以来十五年間引きこもっている息子です。」
―29―

一呼吸して的場さんはドアを開けた。
けれど、そこに人はいなかった。
「そ、そんな・・・」
的場さんは本当に驚いた様子だった。
高橋さんが、「失礼」と言って、中を探ったが奥さんも、息子さんの姿もなかったようだ。
「的場さん、あなた、本当に息子さんが?」
高橋さんの問いかけにも答えようとしない。
「とりあえず、手分けして奥さんと息子さんを探すんだ。姫田、兵藤、それから明人くんは上から、私たちは下から探そう。使用していない客室の鍵は?」
「かかっていません」
茫然自失のまま、的場さんが答える。
明人たちは階段を上がって行った。
あたしたちは、まず厨房へ向かった。
「そ、そうだ。厨房から地下室へ行ける階段があるんです。地下はワインセラーになっていて・・・」
「な、なんでそれをもっと早く言わないんだ」
高橋さんが怒鳴った。
厨房は、いい匂いがしていた。
そういえば、おなかがすいたなぁなどと思う。
あまりも現実離れした事態でそれどころではなかったけれど。
調理場の引き出しを的場さんが探っている。
「な、ない。ワインセラーの鍵がありません」
「とりあえず、行ってみよう」
厨房の奥に階段があった。複雑な作りだ。
地下といよりは半地下のようだ。階段の下にはドアがひとつ。
高橋さんがドアノブを回した。
「鍵はかかっていない」
高橋さんは躊躇わずにドアを開けた。

部屋は真っ暗だ。



ヴァ〜ン!

突如一瞬闇を照らす稲妻みたいな光とともに銃声がした。


「あう〜」

犬の悲鳴のような声で高橋さんが、扉の外へ吹き飛ばされた。

バタン!

私は思わずドアを閉めた。

「あかん、即死や」

銃で撃たれ吹き飛ばされた高橋さんを診て、姫田さんが言った。

その瞬間だった。
兵藤さんと明人が周りを押しのけて後ろへ行った。

「怖いよ〜」

二人は振り返りもせず走って行った。

「ああああああ〜」

オーナーが悲鳴を上げた。

「妻です。妻なのです」
―31―

あたしは今日一日で二人の死体を目撃したことになる。
一人目の死体はここに来たときに初めてあった謎の女性。
二人目は高橋さん。

この扉の向こうには殺人鬼がいる。
扉を開けるわけにはいかない、しかし扉の向こうには殺人鬼がいる。
このまま背を向けて逃げたとしても、銃を持っている殺人鬼に殺されるのは時間の問題だろう。

逃げ出した兵藤と明人、殺人鬼を身内に持つオーナー、もうあたしの頼りになるのは姫田という男しかいない。
しかし、その彼も味方とは限らないのだが。

「・・・、姉ちゃん、今まで疑ってすまんかったなあ。この件に関しては姉ちゃんは犯人やないみたいや。・・・いやいや、そんな顔して睨まんといてぇなあ。姉ちゃんも分かってるやろうけど、今は頼りになるのはお互いわしらだけやろ?」

姫田さんの言う通りだ、高橋さんが殺された今、姫田さんにとっても頼れるのはあたしだけだろう。

「姉ちゃん、今は探偵ごっこをしてる場合やない。逃げるが勝ちや。・・・上手く逃げられたらの話やけどな。ほんでな、ひとつ提案があるんや、これは姉ちゃんの協力が必要なんやけどな」
―32―

「あああああ…妻だ。妻だ。つまりは妻なのだ…」

オーナーは狂ったのだろうか。
頭を壁に何度も何度もぶつけている。

姫田さんは狂ったオーナーを横目で睨みながら、素早くしゃがんでズボンの裾を捲った。
そこには黒光りする回転式拳銃が隠してあった。

またモデルガンなのだろうか。

姫田さんはその拳銃を取り出し私に手渡した。
重い。

果たしてこれは本物なのだろうか。

姫田さんは右手の人差し指を立てて私にウインクした。
オーナーには秘密だという事なのだろう。

そして彼は背広に手を入れると素早くもう一丁の、今度は銀色に光る自動拳銃を取り出した。

「こっちの方が格好良いやろ。そして威力も強い。でも姉ちゃんには無理や。そっちの小さい奴使いや。」

え、逃げるんじゃなかったの?

私は思った。ドアを開けて殺人鬼と戦うの?

ふと、姫田さんが私の耳元に顔を近づけて小声で言った。
「使い方は大体分るやろ?」
甘い言葉に感じた。

「妻です。妻です。つ、つ、つ、妻です。」

オーナーは完全に狂っていた。

「いくで!」

姫田さんは私の手を握って、1階への階段へと導いた。

「何が何だか分らない。どうするの?」

「犯人は明人と兵藤や。あいつらつるんでる。間違いあらへん」

え!

「高橋さんを撃ったのは明人や。高橋さんは兵藤を疑ってた。だからワイにだけ本物の拳銃を渡してたんや。」

ど、どういう事?

「ええか、2対2や。相手は恐らく二人とも拳銃を持ってるはずや。あの二人と撃ち合いやで〜」

私は階段を上がりながら聞いた。
―33―

本当にどういうこと?

分からない
分からない
分からない

明人と兵藤さんがつるんでいるって一体どういうこと?
明人はナンパした私をここに連れてきただけなのに・・・、そして兵藤さんと私たちはこのペンションで初めて出会ったはずなのに・・・。

でも、ちょっと待って。
よく考えてみたらあたしは明人のことをよく知らない。
ただナンパされて連れてきただけなのだ・・・。
ひょっとしたら
ひょっとしたら・・・

「姉ちゃん、ボーっとしてる場合じゃあらへんで」
姫田さんの声。
そうだった、思いにふけっている場合ではなかった。

でも、
でも、
こんな場合でもひとつ頭に置いておかなければならないことがある。
さっき姫田さんの言葉だ。

「使い方は大体分るやろ?」

姫田さんはあたしにこう言った。
普通の一般女性が拳銃の使い方が分かるわけがない。
姫田さんはあたしが拳銃の使い方が分かると思っているのか。
それとも、あたしが拳銃を使えるかどうか試そうとしているのか。
それとも、ただ気が動転しているだけなのか・・・

こんなことを考えている余裕はないはずなのに、なぜかあたしはそんなことを考えてしまった。

そして、あたしはおいていかれないように姫田さんの後をついていく。
「つまり、さっき言った頼みたい事ってのはな。あいつらと撃ち合いしてくれって事や。」

一階に戻ると、姫田さんは振り向きざまに言った。

その部屋はカーテンが締め切ってあったが、電気は点いていたはずだった。

しかし、いつの間にか電気が切られていて、真っ赤な絨毯にカーテンの隙間からほんの僅かに月明かりが差し込んでいるだけだった。

「見てみい。あいつら電気消しよった。狙い撃ちされるかもわからん。」

姫田さんは私にそう言うと、佇む私を置いてすたすたと駆け足で部屋の電気のスイッチを押しに行った。

カチャ。

姫田さんがスイッチを押した。

何故暗闇なのに直ぐに分ったのだろう。
場所を覚えていたのだろうか。
やはり探偵だからちゃんと覚えているものなのかな?

でも明らかに狙い撃ちされる様に思っている風には見えない。

そしてこの拳銃…

彼は一体何者なのだろう。


そう思った矢先。

コンコン…

廊下側のドアからノックする音が。

私はドアを瞬時に見た。
そして直ぐに姫田さんを見た。

彼は日本刀の刃の様に光る銀色の自動拳銃を両手で構えてドアを睨みつけていた。


犯人を銃で威嚇し捕まえるつもりだな。

私は思った。

コンコンコン…

またしてもノックが…

次の瞬間、姫田さんの銃が火を噴いた。

凄い音だった。

何度も何度も火を噴いた。
5発、いや6発か。

白い木製のドアは焦げて黒ずんだ穴が幾つも開いていた。

姫田さんの周りには花火でもしたかのように、白い煙が立ち込めていた。


「絶対、今のは犯人や。」
―35―

今度はおもちゃじゃなかった。
姫田さんの持っている銃はおもちゃではなかった。

一体今何が起きているのだろう。

繰り返される銃撃戦。
日本で銃というものはそう簡単に持てるはずのものではないはずだ。
だけど目の前で繰り返される銃撃戦。
この日本で、この現実の世界でこうも簡単に銃を取り扱う人間を目にするとは思わなかった。

あたしは今日明人に連れられてこのペンションに泊まりに来ただけに過ぎなかった。
なのにいつの間にかこの非現実的な銃撃戦に巻き込まれている。

今このペンションにはあたしと明人の他には誰がいるのだろうか。

殺された人・・・2人 正体不明の女性、高橋さん
生きている人・・・5人 あたし 明人 姫田さん 兵藤さん、オーナーの的場さん
いるかいないか分からない人・・・2人 オーナーの的場さんの奥さん オーナーの的場さんの息子さん 

姫田さんは銃をぶっ放した後「絶対、今のは犯人や。」とつぶやいた。
犯人とはあの2人を殺害した人を言っているのだろうか。
今度はその犯人があたしたち2人を狙っているというのだろうか。
姫田さんはもうその犯人の目星はついているのだろうか。
―36―
姫田さんが笑い出した。

「ひひひ…」

銃口から薄っすらと出る煙。
まるで嫌々に行進させられている中学生の様にゆっくり出ている煙。

その煙に顔を微かに包まれて、姫田さんは銃を片手にして、もう一つの手で腹を軽く押さえて笑い出した。


「ひっ…ひっひっひっ…」

私には為す術はない。この状況がなんだかよく分らなかった。
でも姫田さんの笑い方には違和感を感じた。

犯人は二人のはず。
今ので犯人が死んだとしても、もう一人いるはずだ。

「ひゃ…はやひゃ…へっへへ…ワイの勝ちや…ワイの勝ちやあ〜」

姫田さんが声を上げて笑い出した。
おかしい。

勝ち負けの問題でも無いだろう。
姫田さんが目玉を見開いて私を見た。
「あんな、姉ちゃん…」

銃口から煙はまだ出ている。
殆ど無くなりかけているけれど。

「明人ってなあ。」

明人?

明人の正体は何なのだろう。

「明人はなあ…ひひひ…明人と兵藤とここのオーナーはなあ…」

その時、何かの機械のレバーを降ろすようなガシャっという音がした。地下に続く階段からだった。

それとほぼ同時に大声がした。

「動くなあ〜」

私は、そしてほぼ同時に姫田さんが、階段の方を振り向いた。
見るとそこには大人の片手より一回り大きいくらいの黒光りする猟銃を肩に抱えてこちらを狙っているオーナーがいた。

「妻を返せぇ!!お前ら、全員グルだろう〜、ゆ、許さない〜ひひ…」

オーナーはよだれを垂らしながら喋っていた。
狂っているのだろうか。
それとも

― 37 ―

それとも、
それとも・・・


・・・、
ここが判断のしどころなのだろう、
と
あたしは思った。

そうこうしている間に姫田さんはオーナーの的場さんに殴りとばされた。
そして次に的場さんは猟銃で狙いをつけながらじわりじわりと近づいてくる。
「ひひひひひ、許さない〜」

一瞬のスキをついて姫田さんが的場さんに飛びかかる。
しかし先ほど殴られたダメージなのか動きに精彩がない。的場さんを難なく払いのける。
そしてその時、

「今や、姉ちゃん。さっき渡した拳銃でこいつをぶち抜くんや!」

と、姫田さんがあたしに向かって大声で叫んだ。

うん。
あたしは大きく息を吸い込んだ。
やっぱりあたしの行動はこれしかない。

あたしは姫田さんから渡された拳銃を強く握りしめた。

そして、ゆっくりと地面に拳銃を置いた。


「な、何やて!」
姫田さんは驚きの声をあげる。

あたしは的場さんに向かってゆっくりと伝える。
「的場さん、見ての通りです。あたしはあなたに抵抗するつもりはありません。あなたの味方ではないかもしれないですけれど、敵でもありません。どうか落ち着いてください」

的場さんの後ろで姫田さんが抗議の声をあげる。
「何やっとるんや姉ちゃん!あんたならあのタイミングで的場を仕留めることが出来たはずや!」

あたしはその抗議に静かに返答する。
「姫田さん、一体何を言っているんですか?あたしはただの一般女性です。拳銃なんて急に渡されて使えるわけないじゃないですか。頼みの綱の姫田さんが殴り倒されたら、あたしはこうするしかないじゃないですか」

「な、こんな状況になってもまだそんなこと言ってるんかい。今はもうそんな状況じゃ・・・」



・・・これは賭けだ。
その賭けに的場さんがどう乗ってくるか。
これは神のみぞ知るということなのだろう。

突如、眩しい光を感じた。
目から火が出る、そういう感じだろうか。

私は、上げていた手を素早く下ろし落ちていたリボルバーの拳銃を握って引き金を引いた。

スクラップにされる車の悲鳴のような音がして的場さんが吹き飛んだ。
私は立ち上がり、倒れた的場さんに拳銃を撃ちまくった。
―39―

自分でも、なんでそんな行動にでたのか、わからない。

一日のうちに、あまりのことが起きすぎて、
それがあまりにもわけの分からないことの連続で、
もしかしたら、あたしも、狂ってしまったのかもしれない。

ねぇ、一体誰が本当のことを言っているの?
高橋さんと姫田さんと兵藤さんは、
あの有名な探偵事務所の人間なんじゃないの?
オーナーの奥さんと息子って、本当にいるの?
殺された女性はだれ?オーナーが料理をしている厨房に、確かに入っていったのに、どうしてオーナーは知らない人だって言ったの?
どうして一階にあった死体が、血まできれいに掃除されて、2階の私の部屋の、ベッドの下に置かれていたの?ほんのわずかな時間のうちに。姫田さんとあたし以外は、全員一緒にいたのに。

姫田さん、なんで今、急に笑い出したの?
明人と兵藤さんとここのオーナーがどうかしたの?

オーナー…ワインセラーで高橋さんが殺されたときに、「妻です」って言ったのは、どういう意味だったの?
ここへきて、「妻を返せ」って、どういうこと?

一体誰がまともで、誰が本当のことを言っているの?
もう、何もかもが、わからない。

ここは日本で、ロマンチックなペンションで、
なのにどうして、銃撃戦?
たくさん人が死んで、謎も…全然解けなくて…
むしろ、増えるばかりで…。

カチカチカチッ
わけもわからず打ち続けた銃は、すぐに弾切れとなった。

「ああああああああ…!」
弾が出ていないにもかかわらず引き金を引き続ける私。

頭の中は、真っ白だった。
ー40ー


「うきゃああああ〜」
猿のような奇声が聞こえた。

私の背中を兵藤が奇声を発しながら殴り出した。
しかし全然痛くない。
まるで兵藤が子供のようだ。

私よりも背の低い兵藤が急に襲いかかってきた。

私は柔道初段。振り向くや否や、暴れる兵藤を背負い投げで投げ飛ばした。

兵藤には受け身なんて技術はないのだろう。

「痛いよお〜怖いよお〜」

再び泣き出した。

「警察に訴えてやる。死刑にしてやるう〜」

泣きながら兵藤は叫んだ。

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