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リレー小説を作る会コミュの3つのキーワード

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3つの単語を元に小説を書いていくトピックです。
書いた人はお題として次の人に3つの単語を出して下さい。次の人はそれを元にまた小説を書いていきます。
あくまで「単語」なので「○○な××」や「△△のような□□」というの(例えば「夜の海」等)はやめて下さい。

基本的に短編連作の形式です。練習のつもりで思いつきで書いてもらって構いませんのでどんどん書いてください。
単語をどういう風に使うか、例えば単に台詞の一部分に使うか登場人物の名前にするか、それは作者さんの自由にしてもらって構いません。

他の作品と話や登場人物を共有するのも面白いかもしれません。そういう場合は作者の方に許可をもらってからにしてください。

まずは私が「薬」「家族」「衝動」で書きます。

コメント(184)

「夕焼け」「speaker」「メープルシロップ」

「Do you have a Japanese speaker?」
フロントに内線をかけた。
答えはNoだったが、別にかまやしない。
こんな安宿に日本語が話せるやつがいるなんて思っちゃいないし、正直ちょっと人の声が聞きたかっただけなんだ。

ぬくもりから遠ざかると、時々どうしようもなく人肌が恋しくなるように、なぜか突然、人と言葉を交わしたくなってしまった。
俺は、

……俺は……俺は?

…何を、考えてたんだっけ?


はあ、もうどうでもいい。
思考すら放り出すと、上を見上げた。
宿の建てつけの悪いガラス窓から、夕焼けが部屋に飛び込んでくる。
薄暗い部屋の床に、それはメープルシロップをぶちまけたように映った。



しがない写真家が、貧乏・放浪の旅の末、部屋の窓からやけっぱちで撮った夕焼け。
“メープルシロップ”と題されたこの1枚の写真が、コンテストで大賞を受賞し、うらぶれた30男が今をときめく新進気鋭写真家に変身するのは、また別のお話。


NEXTWORDS:歓送迎会・マニュアル・リレー 
やかん バーコード ヅラ 一部ヅラ やかん やかん 総白髪・・・

月給に比例して髪は寂しくなるものだ。かわいそうな頭たちを無意識に数えながら、私は声援を受けてにこやかに宣言する。
「それでは、平成19年度、取締役室歓送迎会を行いたいと思います。」

よっ名幹事!!
一年間お疲れ様!!
友香ちゃん、最高!!

頭たちは私の心中も知らず、会を盛り上げようとしわがれた声援を送ってくれた。

「それでは、この四月に取締役から常務取締役に昇進された、奥田取締役にご挨拶と乾杯のご発声を頂きたいと思います。」

奥田取締役・・・本田専務派。入れ歯の手入れ悪い。50センチ以内で激しい口臭。セクハラ傾向低い。ゴルフ自慢。

私は50センチ以内に近寄らないよう、腕を伸ばしてマイクを渡すと会場の隅っこに立った。
入社二年目の秘書に与えられる重要な任務。それは一年間の宴会幹事。今日でようやくこの任務から解放されるのだ!歴代の先輩から受け継いだありがたいマニュアルを私はもう、一行残さず暗記していた。

「ただいまご紹介に預かりました、奥田でございます。私が入社いたしました昭和47年は、オイルショックや沖縄返還に湧いた一年でございまして・・・」

ビール瓶は各テーブルに届いているかしら??
耳で常務の挨拶を聞きながらも、私の目は各テーブルをまんべんなく見回す。あ、萩原監査役…。
私は近くにいた仲居さんに「烏龍茶をあちらの方に」と指示する。ふう、早めに気づいてよかった。

萩原監査役…孤高の人。趣味:詩吟・剣舞。一人娘が弁護士。平成18年12月、軽度の心筋梗塞を起こして以来、禁煙禁酒。

マニュアルには、各年の幹事が、新しい情報を随時書き込んでゆくことになっている。

社長・・・人間瞬間湯沸かし器。猫舌につき、茶はぬるめに。
趣味:ゴルフ、社交ダンス。坂本竜馬ファン。本田専務との同席は絶対絶対絶対にダメ!!18年10月、料亭で専務に杯を投げつけたとの目撃情報アリ。

うーん。私も結構いろいろ書き込んだものだわ。

会場の入り口には、ビンゴ好きの社長の為に用意したビンゴマシーン。
一等賞はこれまた社長のお好みで、タイトリストのゴルフボールとパターなんだけど、本田専務派はゴルファーが少ないんだよな・・・。そっち側に当たっても白けるだけなんだけど。
ああ、商品のチョイスはもうちょっと考えるべきだったなあ・・・。
 二等賞は本田専務のお好みで幻の日本酒「菫正宗・辛口」なんだけど、社長派はみんなワイン党と来たもんだ。
ビンゴだけはどうしても八百長が効かないし…。

「・・・と、まあ本田専務のお力添えもあり、この春からは非力ながら常務として、会社のお役に立てればと思う次第でございます。」
パチパチパチパチパチ。拍手がまんべんなく聞こえるように、専務派と社長派、無頼派をほどよくミックスさせた三つの円卓。配席は、わざわざ駒を作って幾通りもシミュレーションした。

「それでは、僭越ながら不詳、奥田が乾杯の音頭を取らせていただきます。今年度も当社の益々の発展と、取締役の皆様、秘書の皆さんの健康を祝して・・・」

「ここには烏龍茶がまだ来ておらん!!!!」

ん??
あ、しまった。頭に血が上るのを感じた。禁酒を始めた人がもう一人いるのだった…。しかもそれは。

雲中取締役会長…いわゆるスケベじじい。半径1メートル以内に近寄れば、必ずお触りあり。18年12月、35歳年下の元芸妓との再婚を期に禁酒。依然、セクハラは健在。

うかつ過ぎるわ、私。よりによって一番偉い人を忘れているなんて。
仲居さんと一緒に会長の席に烏龍茶を持って走る。
「友香くん、わしを忘れちゃあ困るなあ」
ぐわばっ 会長の食パンのような手が私の臀部を掴んだ。ひぃ〜

「触るな、じじい!」

条件反射的に私は、会長の手を払いのけた。
静寂が会場を包む。
こうして幹事役は19年度の担当者にリレーされてゆく。



※次の方
毛虫・新緑・ピストル でお願いします。
「毛虫」「新緑」「ピストル」

あたしはあんたの弟が大嫌いだったの。
あんたのことも、あんまり好きじゃなかったけどさ、あの弟ほどじゃないわよ。
よくさ、幼なじみっていい扱われ方するじゃない?そうそう、小説とかさ。え?少女漫画でも?ああ、そうね。ってあんた、未だに読んでんの?やめなさいよ、つまらない…あ、そう。見てないの。ふうん、同じか。
そんなことはいいのよ。
あんたの弟の話。
よくあたしにイタズラしにきたのよ。歩いてたら、後ろから小枝刺しにきたりさ。靴にかたつむり入れたり。嫌ながきんちょ!
だからさ、ムカつくし言ってやったの。
『あんたもあんたの姉ちゃんもゲジゲジ毛虫の眉毛』って。
眉毛をはたっと隠したわ。
新緑の季節だったしさ、その顔がしてやったりだから面白くなって、
『おや!毛虫が顔についてるよ!殺虫剤かけちゃおう!姉ちゃんの顔にもね!』
言ってやったの。そしたら真っ赤な顔してさぁ
『姉ちゃんの悪口は言うな!!』
そして
『お前なんか大っ嫌いじゃ!』
って。
そう、怒鳴られたわ。…手に持ってたピストル型の水鉄砲を真っ直ぐ私に向けてね。
何もしやしなかったけどね…。あとずさったら、向こうの方が走っていっちゃった。
その晩、あんたが熱出したとか聞いてさ、まさかあたしの所為じゃないと思っても、弟のあの泣きそうな怒った顔思い出して、あんたん家の前でうろついたっけ。
すぐにあんたん家のおじいちゃんだかが見つけて、送り帰されたけど。勘違いして『大丈夫だよ』って宥めてくれたなぁ。…そうか、あたし泣いてたんだ、その時。
確かあんたの弟が戸口でのぞいてた。
でもさ、数年経っても、あのちっちゃなガキにしてやられたのが嫌でさ。そう…年が経つほどに嫌だったね。なぜかしらね。
もう全然お互い喋らない年齢になったのに。…ああ、あんたとは喋ってたわよ勿論。仲良くなって意外だったね。あら、私もですって?やだねぇこの人!
待って待って、まだ笑わないの。まだあるのよ、続きが。
えーと…どこまで話した?そうそう、あのね年が経つほど嫌だったって言ったじゃない?
寝る前に、あんたの弟の毛虫眉毛を思い出すの。腹立ってねー。不思議にあんたは思い出さなかったわ。
で、あたしらの高校は一つしかなかったじゃない?まあ特別な子のさ、地方の私立以外。
だからさ、あんたの弟が高校に入学する前の日、あたしは待ち伏せたのよ。
ふふ!水鉄砲持ってね!
あんたの弟が帰ってくる小道、あたしは土塀に佇んで、あんたの弟に真っ直ぐピストルを向けたよ。
ひょろりと高くなったあのチビが驚いて、あたし見てた。
『殺すよ?』
たじろげばいい、もしくは馬鹿にすればいい、石でも投げたり、いやいっそ…相手にしなくていい…
…なにか…あいつを見下せることが、あたしに出来たらいい…
そう、いつの間にか考えてた。ふふ、今思うとね。
だけど…だけど、さ…。なんて言ったと思う?あいつは何したと思う?

『あんたが泣いてるの見て、撃ち殺されたんは俺やのに。――飽き足らんか』

そして、『どうしたらいい?』って…泣きそうな顔で微笑むんだよ。
…なっに、毛虫のくせに色男ぶってんだバカやろうっておかしくて、楽しくて、くだらなくて、切なくて…妙に、何か悲しいのが横切ってたよ…。
はは!毛虫眉毛なのになぁ!あっはは!

「あっはは」
「その眉毛も未だに黒々だから」
「は〜…はは!見ると余計笑えるわねッ」
「当然よ!あたしが選んだんだもの。いい写真でしょ」
「ふふ、…立派な弟の姿だわ」
「当然よ…」
「いいお通夜よ…あなたのお陰で」
「あたしにはあの人が全てだったの…ふふ、クサいわね」

そうして二人は少し泣いて、手をつないで笑っては泣いた。



******
長くなってすみません;
久々やっとこちらに書けて、楽しかったです。
お次は、「鱗」「いろは歌」「乳離れ」でお願いします!
「鱗」「いろは歌」「乳離れ」

いつもあなたは
ろくに人の話も聞かないで
早合点をするのね。
憎まれ口を叩くのは
本当にこれっきりにして。
屁理屈もこれでおしまい。
とっくに私は
乳離れは出来ているわ。
離婚しましょう、
ぬるま湯の毎日には飽き飽きだわ。
ルビーの指輪
を返す
わ。
か
弱き女性だっ
たけ
れど、
それも今日でおしまい。
つまらない話だと思ってる?
ねえ、私は本気よ。
なぜな
ら
昔から女性の心には
鱗が生えているの。いつまでも私もよ
ゐこではいられないわ。こ
の鱗はね、心の
奥底に生えているのよ。いつもは見えないけれど。
く
やしい?
負け犬とはこのことね。
ケンカなら負けないわ。
震えてなんかいないわ。
こ
えを大にして言わしてもらいます。
徹底的に戦うから、私。
あなたと私は今日で離婚をするのよ。
さっきまでの余裕はどうしたの?
気づいた?私が本気だってこと?
ゆ
めじゃないわ?
見つめましょう、現実を。
幸せよ、私。いつもの
ゑびす顔の
表情のあなた
も、さすがに崩れたわね。
せいせいしたわ。
好きだったわよ、今までのあなた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いろは歌」がキーワードで入ってないっていう指摘はご容赦を。
たまにはこういう使い方もありでしょ?
思いつくのは簡単でしたが、実際やってみるとなかなか難しかった。
疲れたけれど楽しかったです。

・・・、誰も気づかなかったらどうしよう?



次のキーワードはお次は「へんてこ」「かけっこ」「まねっこ」でお願いします。
「布団」「古城」「火山」

「りく」
名前を呼ばれて勢いよく振り向いたら、笑われた。
ゆずはよく私を犬みたいだと言って笑う。
飼い主が大好きで、構われるとしっぽを振ってついていく犬。
「今日は布団干したからふかふかだよ」
ゆずの家の布団はいつもふかふかしてお日様のにおいがする。
窓のサッシにゆずが手をかけたから、私との距離が近くなった。
私は今、一階の屋根に座り、ゆずの部屋の外壁にもたれて、外を眺めている。
季節柄蛍が飛ぶのが見れて面白い。
星も出てるけど、星はやっぱり冬の方がきれいだと思う。
「ゆずも出ておいでよ。蛍がきれいだよ」
誘うと、仕方ないな、と肩をすくめながらも窓の外にゆずが出てきた。隣り合って座り、蛍を眺めているだけで幸せな気分になれる。
「昼間は暑いけど、夜は涼しいね」
「まだ6月に入ったばっかだしね」
そんなに寒くないのにくっついたら、そう言って笑ってくれた。
「寒いの嫌い。ずーっと暑かったらいいのに」
「りくはホントに寒いの嫌いだね。赤道直下の国に引っ越さなきゃ」
「ハワイでもいいな。火山があってあったかい島があるらしいよ」
「それほんと?」
「わかんないけど、テレビでやってた。地面もあったかいんだって」
他愛ない話をしていると、蛍が目の前を横切って行った。
ゆずには蛍なんて珍しくないらしいけど、やっぱり私には珍しい、貴重な生き物に見える。
「私は古いお城がいいな」
「ゴージャスだね」
「違うの、亡命貴族が住んでたのかなー、って感じの地味でちっさなお城」
「よくわかんない」
「りくには古城の魅力は早かったかな。…さ、もう中に入ろう」
促されて、下に敷いていた布を持って中に入る。
二組並べてある布団に最初は一人ずつ入ったけれど、途中でゆずの布団にお邪魔した。
「寒いの?」
「うん、ちょっと」
「毛布出そうか?」
「ゆずといたら火山の国よりあったかいから大丈夫」
思ったままを言っただけなのに、また笑われた。
拗ねようとしたら、笑いながら
「私も古城よりりくと一緒にいられる方が好きだよ」
って言ってくれた。
笑いながらだったのが気に入らないけど、嬉しかったから許してやろう。
ゆずのお腹に手を回したら、苦笑しながら
「夏になったら一人で寝てね」
って言われちゃったけど、たぶん夏になっても仕方ないな、って言いながら一緒に寝てくれるんだろう。
この幸せがいつまでも続くよう、そっと願って目を閉じた。


いつも通り意味不明。地元に蛍を見に帰りたい…。
次は↑で出てきた単語三つ、「蛍」「屋根」「国」でお願いします。
 僕の国では毎日がお祭りだった。
 今日、大人になった者たちを祝うために、多くの仲間が集まってきた。
 昨日もそうだった。明日もそうだろう。
 集まってくるのは、主役の、大人になった者たちから長老と呼ばれるような年寄りまで、多岐にわたっている。もちろん、男も女も。
「お前ももう一人前の大人だな」
 そう言って僕に話しかけてきたのは、長老衆の中でも一番の長老だった。
「今日、お前も相手を見つけて契りをかわすんだ。大人になった者の義務だからな」
 僕は正直、そうすることの意味を理解できていなかった。ただ、周りの大人がそういうから、そういうものなんだな、としか思わず、何も疑問に思ったことがなかった。
 僕の兄弟も、今日、大人になったのがたくさんいる。
 兄弟たちも、それぞれに相手を見つけては、草むらの中に姿を消していく。
 僕も相手を探さなくちゃ・・・。
 お祭りは夜の間だけだ。その間に相手を見つけないと、明日にはまた、新しい大人が誕生する。
 弟や後輩に負けないためにも、頑張ろうと思って相手を探した。
 誰でもいいというわけではない。中には、というか、ほとんどが誰でもいいのだろうけど、僕には、憧れの彼女がいた。
 僕は草むらをかき分けて進み、彼女を探した。
 時には強く呼びかけて、時には、手当たり次第にあたりを探し。
 そして彼女を見つけられないまま、時間だけが過ぎて行った。
 突然、雨が降ってきた。
 僕はひときわ大きい葉を屋根代わりに、雨宿りをすることにした。
 周りで僕と同じように相手を探していた、他の大人たちも同じようにそれぞれに雨宿りをしている。
「もう、時間切れかな・・・」
 僕はひとりごちた。
 彼女も見つからないまま、時間だけが過ぎ、正確な時間はわからないけど、おそらく、もうすぐ夜明けだろう。
 このままなのかな。変われないのかな。
 そんな思いに耽っている時、僕が雨宿りしている葉の下に入ってくる影が見えた。
「あの、一緒に雨宿りしてもいい?」
 憧れの彼女だった。
「う、う、う、うん、いいよ」
 探していた彼女がすぐそばに、それも、触れるか触れないかのような近い距離にいる。
 僕の心臓は、今までで一番、という位に激しく動いた。
 それからが長い沈黙だった。僕は心臓の鼓動を収めることに集中し、何も話せなくなっていた。
「あなた、さっきから私をずっと探してたでしょ」
 雨宿りをはじめてだいぶ経ってから、彼女が口を開いた。
「私もあなたを探していたの。でも、ここって迷路みたいでしょ。なかなか見つけられなくて」
 彼女も僕を探してくれていた。
 その一言がうれしかった。僕は勇気を出して彼女を抱き寄せた。
「ありがとう」
 その一言を言うのが精一杯だった。そして僕たちは体を重ねた。

 夜が明けて、僕たちの国、蛍の国の一日は終わった。
 今日の夜、また僕たちのように、新しい大人が生まれてくる。
 そんな弟たちをやさしく迎えてやろう。
「おめでとう」
 今なら、伝えられそうな気がする。

―――――

久々に3つのキーワードに投稿します。
お題を見たときに、こんな感じのイメージができてしまったので、勢いで書きました。
次は、「幸せ」「劇」「歌」でお願いします。
「幸せ」「劇」「歌」


お琴は、歌を口ずさみながら内職をしていた。
よく寺前の屋台で売っているような、風車作りだ。

決して裕福ではないけれども、お腹いっぱいおまんまが食べられる。
夫婦となった伊八は、とても優しい。
長屋のみんなは、まだ若く、子供だか女だかわからないようなお琴をとても可愛がって面倒をみてくれる、いい人達ばかりだ。

何よりも、自分のおっとが、心から尊敬する御頭のしたで、いきいきと働き、笑顔で接してくれるのが、これ以上ない幸せではないか。
伊八は必ず、朝早く帰りが遅くとも、その日見回りの途中で起こったことや、見かけたおかしな人間の話をしてくれる。一日のうちで、お琴はその時間を一番の楽しみとしている。
特にお琴のお気に入りは、麻布坂下ルにある、井筒屋の丁稚・熊吉の話だ。

お琴は、江戸の女にしては色がまっしろで、ぷくりと張った頬は紅く、まだ幼いといえども近所では知られた美しい女子だった。
いいとこの旦那のお妾にでもなれば、内職などせずともきれいな着物を着て、芝居小屋に行き、劇を楽しみ役者たちと戯れられたかも知れぬ。

しかし、そんなことにお琴は全く関心はなかった。
家族に縁の薄かった自分に、優しく、真面目一本な伊八が一目ぼれをし、命がけの申し込みをしてくれたときには、嬉し涙が頬を伝ったものだ。

女中をしていた桝田屋のおかみさんは「あんたならもっと、いい嫁入り先があるよ」と言ったけれど、お琴は伊八の愛情に人生をかけ、そしてそれは間違っていなかったのだ。

遅い夕飯をかきこんでいた伊八が、にこにこしながら風車を作る、恋女房を後ろから抱きしめた。
「苦労かけてすまねえな」
「何いってんの、お前さん。」

伊八が名与力と呼ばれ、時の悪と戦い続ける厳しい男になっても、夫婦の仲は決して冷えることはなく、近所でも有名なおしどり夫婦として、お琴は幸せな一生を過ごした。

これは、自分の信念を貫き、小さな幸を集めながら暮らした、或る女の生涯を紹介した短い駄文である。


NEXT:「夜行性」「性質」「質問」
「夜行性」「性質」「質問」

「私は夜が好き」

 そういう彼女のことが気になり出したのが1ヶ月前のことだった。
最初はアッチ系の人なのかな? くらいにしか思ってなかった。基本的にノーマルな性質の僕とはかけ離れた存在だと思っていた。
僕と彼女は正反対だった。
僕が好きなものを彼女はことごとく否定した。
彼女が好きなものを僕はことごとく否定した。
昼ご飯はご飯派の僕と、パン派の彼女。
コーヒー派の僕に紅茶派の彼女。
洋画派の僕に邦画派の彼女。
邦楽派の僕に洋楽派の彼女。
すべてが真逆だった。
あるとき、彼女はボソッとつぶやいた。
「月光草って知ってる?」
僕は何の事なのか全くわからず、何も言わずにいた。
「1年間、月の光を集めて、年に一度だけ花を開く花なの。花が咲くのは夜だけ。それを見逃すと、その先1年は見ることができない」
そもそも花に興味のない僕にとっては、さらに何の事か全くわからなかった。彼女はそんな僕を気にせず続けた。
「その花の咲くときに願い事を言うの。そうしたらその願いは叶う」
「そう…」
僕はそういうのがやっとだった。
「信じてないのね…」
「そんなことないよ」
「うそ、だっていつもそうだもの」
「そんな…」
「でもこれはホントのこと。うそじゃないわ」
彼女は、証拠を見せてあげる、と言って、1枚の写真を取り出した。
そこに写っているのは、見たことのない花の写真だった。
「これがそう。月光草」
それを見せられてもそもそも花のことが分からない僕には、それが本物かどうかなんて判らなかった。
「1ヶ月前に咲いたの。願い事も叶ったわ」
「どんな願い事をしたの?」
僕は彼女に質問した。
彼女は微笑むながら答えた。
「あなたとお話ができますように」
−−−−−−−−−−−−−−
次は「CD」「幸せ」「ノート」でお願いします。
「CD」 「幸せ」「ノート」

僕になんとなく蔭があるのは、僕の出生が原因なんじゃないかと思う。
骨髄性白血病の姉のドナー探しの一環として誕生した僕は、生後まもなく髄液を抜かれ、嬰児にして人を救った。
こんなこと、誰にも言えない。だからこうして、ノートに書きなぐるしかない。
存在理由の停止した僕の、孤独な作業。毎日の日記。
年の離れた姉は美しい人だ。母は傲慢な人、父は尊大な人。
家族の中で僕一人だけがぼんやりと浮いている。
幸せな事実は一つだけだ。姉を救えたことじゃない。
僕のような業を背負った弟なり妹なりが、姉を生かすために再び生まれさせられなかったこと。
そのことが我が家の一番の幸福な出来事なのだ。
好きなCDを聴きながら、僕は何だか泣けてくる。
ラブソングなんか、愛を知らない僕には似合わない。
姉を見て思う。僕はまるで姉の生き写しだ、と。
姉弟なのだからと母は微笑うが、僕はそのたびに思う。
どうして。どうして。どうして。どうして。
どうして、僕は生まれてきたのだろう。
どうして、僕は生まれてこなければならなかったのだろう。
どうして。嗚呼、どうして。
誰もが描く他愛ない生命の不思議が、僕にはこんなにも苦しい。


次は「木工用ボンド」「心臓」「折り紙」でお願いします。
また取れてしまった。
携帯ストラップのマスコット。
子供っぽいし、いいきっかけなのだから、
捨ててしまえばいいのかもしれない。
けれど、木工用ボンドでキレイにくっつけてしまう。
だって・・・。
あの人がくれたものなら、どんなものでも宝物だから。
ペットボトルのおまけに付いていたストラップ、
高速道路の領収書、
折り紙で折ったカエル、
ガムの包み紙。

愛なんて存在しない。
初めからわかっていること。
割り切った付き合いを望んだのも私からだったし、
それが揺らぐことなどあり得ないと思っていた。
寂しさを埋めたくて、あの人と出会った。
出会ってしまったら、もっと寂しくなった。
どこかで気付いていたはずなのに、
こうなることは解っていたはずなのに。

終わらせないといけない。私から。
それは暗黙のルールだから。
考えただけで心臓が苦しくなる。
もう進むことも戻ることも出来ない。
どうすればいい?
そうだ、飛んでしまえ。



次は『ニット帽』『畳』『下着』でお願いします。
『ニット帽』『畳』『下着』

深めにかぶっていたニット帽を脱ぎ捨て、畳の上に放った。
背中を汗が流れる。
全取替えしないとダメだな。
下着までグッショリだ。

まだ動悸は収まらず、息はあがったまま。
誰かに見つかっていないだろうか?
そんな恐怖は、興奮が押さえ込んでいるようだ。

オレは、今夜の成果を確かめるため、戦利品である女物のバッグへ手を伸ばした。
女を引き摺った時に、若干自転車に傷が付いたかもしれんな、全く、と思いながら。


Nextwords:「動機」「動悸」「同期」
「動機」「動悸」「同期」


『東京都港区で、知人の子どもを殺害したとして、山部幸子37歳が殺人の容疑者として逮捕されました。殺されたのは、近所の小学校…』

怖いニュースが電波に乗って広がる。
昨今はすっかり増えた。主婦による無理心中なども、毎日聞くような気がする。
私はこのニュースの波から、はずれた人間だ。子どももいる。優しい夫もいる。だからか、ニュースはどこか他人事として聞いてしまう自分。でも仕方ない。幸せなんだから。
彼女がそう教えてくれたんだから。

あれは、朝いつも通りに小学校へ向かう子どもたちを見送る母たちと、他愛ない談笑をしていた時だ。

「…あれ?吉田さん?吉田さんじゃない?」

突然旧姓で呼ぶ後ろの声に振り向くと、派手な化粧をした、見かけない女の人がいる。

「あの…」
「やだ!覚えてないの!?中学で同期だった竹中容子よ!」

ようやく思い出し、彼女が邂逅を喜ぶ姿を見て、私は(あまり親しくなかったのに)と感激を覚えた。
―親しくなかったのに――いや、語弊がある。私は誰とも親しくなかった。寧ろいじめられていた。今はそんな状態があったことすら忘れるほど明るくなったし、友達もできたが、それを彼女が思い出させてくれた。優しい言葉で。
それは、改めて二人で会ったときだった。

「あなた…あのとき、いじめられてたじゃない?私ね、あのとき心配してたの。もう今は大丈夫ね?」
「ええ、もう…」
「よかった。私、実はあなたが知らないところで、あのイジメっこの女たちに注意してあげてたのよ。彼女たちビクビクしてたけど、私がいないとこじゃずっとしてたみたいね。最悪よね」

そうだったんだ。
この容子さんも、どちらかといえばみんなとあまり話さないような大人しい部類だと思ってたんだけど、イメージだけではわからないもの。
それより、彼女が私のことに気付き、こんな私のために注意してくれてたなんて。もう感動で、感謝で、涙が次々と出てくる。

「ありがとう…!私、そんなの全然知らなくて…ごめんなさい」
「いいのよ。お礼はこのコーヒー代だけでね、フフ」

冗談っ気もある微笑みで、私はすっかり彼女に心酔した。

それから彼女は、私と仲良くなってくれた。

「私、引っ越したばかりだからここら辺疎くて。車出してくれる?」

彼女が私と話したいために、私の車を選んでくれたのが毎回嬉しかった。
また、私は彼女のために料理をご馳走したり、掃除を手伝ってあげることも、とても楽しかった。

ある日、私が子どもを連れて朝向かうと、その場の雰囲気が一瞬変わった。
だが、そこへ彼女がとても優しい微笑で私たちを迎えてくれる。その彼女が言うには

「ごめんなさい。あなたの昔をみんなに話したわ。やっぱり昔を知ってもらうっていいと思うの。あなたがどれだけいじめられてたか、それをどれだけ辛抱してきたか、どんないい人だったかわかるでしょう?」

娘の前で言われるのは心が締め付けられたけど、彼女が私を想ってくれてのこと。また、近頃のいじめに対しても警鐘のつもりで、子ども達にも聞かせたなら、私はそれでいいと思った。
みんなの目が私を見てる。
なんだか、勇者のような気持ちになって、誇らしくなった。

彼女は私に色々頼んでくれる。

「うちの娘、毎日遊びにいかせるね。あなたの娘さん、大人しいから友達になってあげるって」
「夕飯は私の分までお願いね」
「あなた香水、通販で買うのよね。悪いけど私の分まで買っておいて。えーっとメーカーはぁ…」

私のために、頼んでくれる。


(すみません、続きます)

ある日、娘がもうイヤだと言った。
あの子が私をいじめると。「いじめられっこの子どものくせに。あんたのもん、全部もらってやるわ。感謝しな」と。

「まあ!さすがうちの娘ね!ふふ、それは鍛えてあげてるのよ。だっていつも家で、心配してるもの。あなたの娘を。これからイジメに強くなるための練習ね!」

娘にそれを告げ、毎日遊びなさいと私は言う。
娘はどんどん暗くなった。
別の日には、背中に三本の爪あとが。服を自分で捲らせ、肉が露出するほど引っ掻かれたらしい。
薬を塗ってやりつつ、私は「昔の私みたいにならないためだから」と呪文のように言い聞かせる。

身近にいた友人達が、私に「彼女と付き合うのはやめろ」と言いに来た。
でも私は感謝してる。彼女に感謝して生きなきゃ、幸せじゃないんだ。

「あんたのあの友人たちさ、禄でもないやつ多いわよ。もう私とあんた、離れた方がって。うるさいのよ更年期ケチくされババア」

私のともだちは、もう彼女だけになった。

「あんたの旦那貸してね。ちょっと相談したいことあんのよ」

夫は嫌がった。私は「ともだちを、私から失くさせるの?」と泣いた。
優しかった夫は、彼女からの「旦那貸してね」という電話があるたび、暗くなる。そして「早くいってあげて」と泣く私の目、もう夫は合わせてくれなくなっていった。

彼女だけが、私をわかってくれる。


けれど――

ああ、どうしたことだろう。動悸が。今日もまた動悸が。

彼女の娘が、また今日も家へ。
私の娘に馬乗りになり、髪の毛を引っ張って、「つまんねえ馬だな!速く走れよバカ!」と毛をどんどん抜いていく。
私の動悸が激しくなる。

「おばさん、今日はご飯私だけでいいって。会社まで行っておじさんつかまえてくるとか言ってたから。ほら!止まんなよブタ!あ、馬か。ぎゃはは!」

激しくなる。

なんだろう。
あの柔らかそうな首を、その首を握ってしまえば――両手でぐうっとしてしまえば…それで、済むような気がする。
動悸は治まる気がする。

ワタシハモウイジメラレタクナイノ
ヒトリボッチハイヤナノ

なぜだろう…なんでだろう……

「恵梨香ちゃん、もうやだよ…痛いよ…」
「生意気!死ねバカ!じゃあ痛くないようにもっと抜いてやるッ!!」

…な、んで……

ワタシ、イジメラレタクナイカラ、ガマンシテタライイノ
ワタシガイジメラレタクナイカラ、ムスメガガマンスレバイイノ

ワタシノタメニ
ワタシノタメニ

ともだち、失くしたくないの……


「お前が死ねばいい」



『東京都港区で、知人の子どもを殺害したとして、山部幸子37歳が殺人の容疑者として逮捕されました。殺されたのは、近所の小学校に通う高橋恵梨香ちゃん、9歳。容疑者自宅で首を絞められ殺害された様子。尚、山部容疑者の動機は現在追及中である…』

*****
長くなり、規制に引っ掛かって二つに分けました。読みづらくてごめんなさい。
次は「ナルシスト」「指」「素っ頓狂」でお願いします。
お題:「ナルシスト」「指」「素っ頓狂」


「ねぇ!ちょっとこれ見て!」
娘が1枚のメモを私に手渡した。久しぶりに実家を訊ねた娘と遅い昼食を終えたばかりだった。
紙には“騎月”と書いてある。
「なにこれ?読めない」
私が言うと、娘は得意気に微笑んだ。…いやな予感がする。
「なる、って読むのよ。ナルシストのナル。かっこいいでしょ。この子の名前」
そういって愛おしそうに臨月のお腹を撫でた。

突っ込みどころが多すぎて眩暈を覚えた。
「なんで騎と月でナルになるのよ!」
「ナイトとルナよ。で、月って夜でしょ?で、ナイトにもかかってんの。友達に聞いてもめずらしい、これは読めないーって褒められたわ」
「読めない…ちょっとまって、だいたいナルシストって…あんた意味わかってんの?」
「昔で言うイケメンってことでしょ?この子がかっこいい子になりますようにって願いを込めて♪」
「ちがうって!」

わが娘ながら情けなくなってきた。
気が強いところはあるが、昔から親の手伝いもしてくれる優しい子だった。他人様にも迷惑をかけるようなこともしないので、ある程度自由にさせて育ててきたが、やっぱり何かがおかしかったのだろうか?
「あのね、名前は一生の問題なんだからもうちょっと真剣に考えて…」
「真剣よ!わたしが優子なんて普通の名前だから、自分の子にはすてきな名前をつけるって決めてたのに」
「せめて読みやすい字に…」
「もう!せっかく一生懸命考えたのに、どうして喜んでくれないの?だいたいママは昔っから、わたしの言うことに反対ばっかりしてる!どうしてわたしのこと否定ばっかりするのよー!」
娘よ、なんか話が違ってきてるぞ、と思いながら私は苦渋の表情を浮かべてテーブルのみかん籠を眺めていた…

この娘も一度言い出したらてこでも動かない。おそらく私に似たのだろう。
それにしてもこの名前。最近の子供の名前は素っ頓狂なものが多く、幼稚園の下駄箱はさながら源氏名のオンパレード、先生も児童の出席をとるのに一苦労だという話は聞いていたが、まさか我が家にもこの手の問題がやってくるとは思わなかった。
娘はすっかり不機嫌になり、なぜか涙目になっている。
仕方ない。今日のところは収めておこう。あとでお父さんにも相談して。

「優子、まだもう少し時間があるし、急がずにゆっくり考えようよ。他にもいろいろ考えたんでしょ?あちらのご両親にも見てもらって、みんなに可愛がられるいい名前にしようよ。ね?」
私はみかんを渡しながらやさしく言った。
優子は少し表情を和らげて、名前を書いた紙を自分のバッグにしまった。

娘は、まだ少しすねた顔をしながらみかんの皮を剥きはじめた。
新しい命、もうすぐ年若い母親になる娘。見つめていると愛おしさがこみ上げてきて、私ははるか昔のことを思い出していた。

18年前、この娘が生まれてきた日のことを。
温かく、柔らかい命。こわれそうなくらい小さな指が、信じられないくらい力強く私の指を握っていた。その時誰よりも幸せになって欲しいと願ったこと。
そして、どんなに反対されてもつけようとしていた“愛倫(アイリーン)”という名前をやめて、“優子”と名づけたことを。


※※※ 次は「ピカソ」「停電」「手話」でおねがいします ※※※
[ピカソ][停電][手話]
 
 
「この絵すごいねぇ」
だれかにそう言われたくて
ずっと描き続けた。
 
雨の日も嵐の日も、また心地よい風が吹く晴天の日も。

「僕は最近[現代のピカソ]という重い肩書きを背負わされ、芸術家達にも期待されてるんだよ。すごいでしょ!。」
 
「僕が得意とするのはね、風景画なんだ。
自分の目から入ったものをそのまま描き写すんだ。
ね、簡単でしょ?」
 
「ほんとは人の顔とかも描きたいんだけどさ、外に出るのは好きじゃないんだ。」
 
「声が出ないと何かと不便だからね。
あれ?いってなかったっけ
僕はうまれた時から声が出ないんだ。」

「だから手話を習わされたよ。初めは難しかったけど、今は完璧!!頑張ったんだよー」
 
「今なにしてるって?絵を描いてるんだよ!もちろん見たままね。」
「どんなって?なんか凄く真っ暗なんだ」
 
「ま、いいや!早く完成させよっと!」
 
「じゃあね!またおいでよ」
 
 
その次の朝、新聞の一面を飾ったのは[現代のピカソ]だった。

内容は、最後に一つの作品を描いて息を引き取ったらしい。

彼の最後の作品は[停電]
 
あとがき
※なんかすみませんυ
文才が欲しいもんです。
 
次は[雪][花][散歩]でお願いします。
その日、私は大学時代の親友から手紙をもらった

ある研究の成果を見て欲しいらしい

(あの研究が・・・完成した??)

たしかに大学時代はそこそこ仲は良かったと思う

一緒に食事したのも両手じゃきかないし

二人で徹夜して研究に打ち込んだのも少なくない

付き合っていたように見られても否定はしないだろう


しかしあれからもう10年が経つ


私が研究をやめ
中堅のIT企業に就職したのに対し
彼は研究にこだわった

こだわって

こだわって

こだわり続けた

何年経ってもできるわけないと思ってた

だから確かめたかった

私はすぐに手紙に書かれていた住所に向かった


そこはまるで世界から隔離されたような場所だった

人間嫌いの彼らしい場所だと思った

「やあ、待ってたよ

「10年ぶり

「はは、そんなに経つんだ?

「時間の感覚ないんじゃないの?

「そうかもね、朝から晩までずっと研究一筋だったから
 でも、それも今日でおしまいさ

「本当に・・・完成したの?

「ああ、見てくれ


彼はいくつかの工具の中から1つを手に取ると
ゆっくりとこちらを見て、そしてはにかんだ


「本当さ
 大豆のみでエアコンを作ることは実際可能なんだ
 これからそれを証明してみせるよ




次は「洗濯バサミ」「コマ」「人魚」でお願いします
「洗濯バサミ」「コマ」「人魚」



 人魚が干されている。悲しい目をした犬がそれを見て吠え続ける。雨の上がった夕暮れ。漁師が身の丈ほどある銛を担いで海から上がってくる。彼は干された人魚を見て笑った。そこへ一升瓶を持ってきた女がやってきた。漁師は干人魚を開いて網の上に乗せる。雲の間からちらちらと星の光が覗いている。炭を熾して人魚を炙ると、乾いた血と肉が焦げる匂いが漂い始める。その匂いに惹かれて斑猫がやってきて七輪の隣にしなと座る。漁師と女は酒を煽って明日の天気の話をしている。

「洗濯バサミがのうなったんだ」

 女はそう言って右手を差し出す。漁師は地面に落ちている洗濯バサミを拾って女の手に乗せる。洗濯バサミを受け取ると女はそれで人魚の肉をはさんで食べ始めた。油が浮かぶ炙り目に歯を立てると、祝詞のような歌声が聞こえてくる。中性的な歌声。煙は高く上り雲との境がなくなっていく。斑猫は女の食べかすにありついては、鱗をはき出していた。
 漁師はぐい飲みをコマのように回して笑っていた。女は相変わらず洗濯バサミで器用に人魚の肉を啄んでは、酒を煽っていた。

 やがて一升瓶の中の酒がなくなり、月は中天に登る。漁師は女に別れを告げて家に帰った。

 家に灯りは灯っていない。静まりかえった家中に漁師がついた溜息が充満する。仏間に並べられた遺影。その数は今年八十を越した。そろそろ置き場がないなと思いながら、床につく。

 翌朝、気の早いアサガオが朝露に濡れた花弁を揺らしている。初夏の曙に漁師は今日も銛を携え沖へ出る。船は一艘。漁師が戻ってくるまで漁村は眠ったように静かになる。

「風がぬるうなった」

 誰に伝えるでもなく、漁師はそう呟いた。人魚が網に掛かったので、銛で突いて桶に入れる。この辺りで獲れる魚はこんな物しかない。

 日が落ちて、浜に戻ると女が一升瓶を持って待っている。生ぬるい風が吹いて寝苦しい季節がやってくる。夏がやってくるのだ。

 その晩女が犬にのど笛を噛み切られて死んだ。漁師は女の亡骸を海に流すと何もなかったように酒を煽って床についた。

 翌日も漁師は海に出る。干した人魚の周りを青色の蜻蛉がぐるぐるといつまでも飛び回っていた。やがて日が落ちて夜が来る。月が満ちて灯りの乏しい漁村から煙がもうもうといつまでも上がり続けた。




なんだか何が言いたいのか分からないようなものになってしまいましたが……

次は

「夜」「卵」「紙垂」

でお願いします。


「焼き鳥」「布団」「羽」


「辰夫は少し痩せたよなあ」
幸三爺さんが言った。部屋の空気がからりと乾く音がした。
布団からようやく這い出ると僕は
「あの、焼き鳥屋・・・まだあるかな・・・」
声を絞り出すのが精一杯だった。幸三爺さんは少し目を細めると
「まだあるさ」
と答えた。

僕の近隣の町にとても美味いことで評判の焼き鳥屋があったのだ。
よく母と幸三爺さんと三人で行ったものだ。
コロは食い地がものすごく張っていて、待ったをかける前に焼き鳥を全部食べてしまう。
そういう訳で、串が刺さったままでは危ないので、いつもお留守番をさせていたけれど、
本当はコロも連れて行きたかった。

そのコロが先々月、桜が咲くのを待たないで、遠くへ旅立った。僕の手に一生届かないところへ。
コロの"霊"を見たのはコロが亡くなって1週間目の晩のことだった。
僕は最初帰ってきたのかと思ったけれど、そうではなかった。 
お隣の山田さん(霊感が強い)が言うには、コロはまだ成仏できずにいるらしい。
「おばさん、コロはどうして留まってくれているんだろう」
と聞いたら、
「たっちゃんがいつまでも行ってほしくないって思ってるから、安心して帰れないんだって」
と言った。 それから、僕はコロに毎晩「僕はもう大丈夫だよ」とお祈りした。
左目頭が熱くなっているのを感じた夜が5、6回はあったと思う。

そして、数ヶ月が過ぎていったある日のこと。僕は母と幸三爺さんとまた、焼き鳥屋に訪れた。
風の強い日だった。 (コロがいなくなってからというもの、何故かそこへ
行くのが嫌だったのだけれど、意を決して行くことにした)
その帰り道、空にぶわっと何か鳥の羽が風に舞い上がっていったのを覚えている。
それは始めに僕の鼻先をふわっと掠めた後、びゅっと風が吹いて夕暮れの中に紛れて
消えていった。 ほんの一瞬の出来事だったけれど、僕はそれを見て、
コロが無事に帰ることができたのではないかとそんなことを考えていた。


キーワードの重複があったので、一旦消しました。
次は、「迷宮」、「肖像」、「魔術師」でお願いします。
『トイレ』『冷蔵庫』『こびと』


「コロボックルって知ってる?」とあなた。
「うん。こびとだよね。」と答える。
「俺、見たんだよ。」
「え?コロボックルを?」「うん。」

いかつい顔をしたあなただけれど、
心は子どものように純粋な人だから、
そんなものが見えたとしても不思議はないような気がする。

「どこで見たの?」
「トイレの中。」
「いつ?」
「昨日。」

麦茶と水羊羹を冷蔵庫から出しながら私は言った。

「それ、違うよ。」
「え?」
「私とあなたの子。」
「え?」
「昨日、流産したの。トイレで。」
「え?」
「どうしたらいいのか解らなくて、流しちゃったのよ。」
「そうか・・・。」
「そうなの。」

ねぇ、あなた。
どう思った?
ホッとした?残念だった?
教えてほしい・・・でも聞きたくない。
産みたかったんだもん、私。


次のキーワード
『長袖シャツ』『背中』『湖』でお願いします。
『長袖シャツ』『背中』『湖』

祐子と付き合って3年ちょっと。今年30歳を迎える彼女は早くボクから結婚の2文字を聞きたがっている、そんな年頃だろう。

その日僕達は湖が見たいという祐子の希望を叶えるため、3時間かけて車で琵琶湖へドライブにでかけた。

「まだ暑いなぁ」
「だからまだ半袖でいいんじゃないって言ったのに」
「そうだなぁ。でも、このシャツ気に入ってるから」
「ありがと♪私がプレゼントしたやつだもんね」

昼下がりの日差しは強く、木陰のベンチに座ることにした。

「そうだ、そういえば沙織が今度結婚するんだって」
「そうなの?相手は知ってる人?」
「ううん、まだ紹介してもらってないの。でも、もうすぐ招待状来るはずなんだけどね。あぁ、これで最後に私が残っちゃったなぁ」

その言葉にはあえて反応しないようにした。多分ご飯を待つ子犬のような顔をしてるのだろう。
その後も他愛のない話を続け、過ぎゆく時間を楽しんでいた。

「そういえばさ、俺、祐子に言わなきゃいけないことがあるんだ」
「ん?なになに?」
「俺、結婚しようと思って」

ここに来て初めて彼女の瞳を見つめた。
潤んでいる。ボクの言葉を一文字も聞き漏らさないように瞬きもせずに見ている。

「やっと言ってくれたね」

安堵と喜びが混じる声。

「いや、そうじゃなくて、実は沙織の相手って俺なんだ」

そう、1年前、祐子が沙織を連れてきて3人で出かけたときに、僕達は恋に落ちた。許されない恋、そう思ってはいたけれど、沙織と二人で会う度にその気持ちは加速するばかりだった。祐子は人一倍寂しがり屋だから、この事を言ったらどうなるだろう、そのことばかり考えていたけれど。でも、ボクには祐子では無く沙織だったから。

言葉も出てこない。ただ彼女は泣いていた。世の中の全てを哀しむように。

震える背中をさすることはもうできない。
こんなとき何て言えばいいんだろう、いや、何も言えないのが正解だと自分でもわかっている。

「もう一緒に帰ることもできないんだよね」

精一杯の声が耳に届く。

「いや、俺電車で帰るよ」
「だから今日は私の車で行こうって言ったのね」
「うん。でも、これだけは言っておきたいんだけど、祐子にはホントに感謝してる。人を好きになるって気持ちを教えてくれたのはキミだから」

そういって彼女に背中を向け、ボクは歩き出した。
秋ほど切なくはないけれど。
長袖シャツの腕をまくり、暑い日差を浴びながら。
これからボクはボクの道を歩いていく。


次のキーワード
『ベンチ』『秋』『プレゼント』でお願いします。
『ベンチ』『秋』『プレゼント』

「立ち話もなんだから、座らない?」
彼女はすぐそばにあったベンチを指さした。

俺と彼女で並んで座った。
ふと見上げると、空にはすでに秋の雲がたなびいている。

「ごめんな」
少しの沈黙の後、俺は口を開いた。
「え?」
「いや、こういう時ってその、持って来るもんだろ。プレゼントとか」
彼女はくすっと笑った。
「あはははは、イヤだなあ。そんな改まらなくても。」
明日、彼女は留学のために外国へと旅立つ。
俺はそんな彼女に最大限の心遣いをしたつもりだったが、
ものの見事に一笑に付された。

「じゃ、帰ろうか。私もまだ明日持って行く荷物まとめてないし」
「あ、ああ。そうだな」
会えばいつも彼女のペース。まあ、彼女らしいといえば彼女らしいか。
きっと留学先でもたくましくやっていけるだろう。
家路につく後ろ姿をそんな気持ちで見つめていた。

次は「空港」「ドーナッツ」「ブーツ」で。
すいません。ブーツは既にでてましたね。
「空港」「ドーナッツ」「ボール」でお願いします。
「空港」 「ドーナッツ」 「ボール」


私は母の手作りドーナッツが大好きだった。お砂糖たっぷり、少しだけいびつな形の、甘いドーナッツ。母のドーナッツ。

最後に食べたのは、もう十年以上も前。父の郷里の札幌に、父に手を引かれて旅立つ私に、箱いっぱい詰めて持たせてくれた。
母は悲しそうな目で私を見送った。

それが母との最後の思い出となった。

11月のある日、銀世界の札幌から紅葉の東京へ、彼と一緒に久々に訪れた。
懐かしい羽田空港。母との最後の思い出の場所。

目の前には、どこか見覚えのある少女が、赤いゴムボールで遊んでいた。
ボールは少女の手をすべり、私の足元に転がってきた。ボールを拾い上げ、よく見ると、私の名前が消えかけのマジックの文字で書いてあった。
そういえば、小さい頃よくこのボールで遊んだっけな…。

その時、
「すみませんー。」と懐かしい声がした。十数年ぶりに会う母だった。
少女は母にしがみつきながら、不思議そうに私を見た。
ああ、そうか。この子は私の妹なんだな。

母はじっと私を見つめ、言葉を失っていた。

私は軽く会釈してその場を離れた。

「どうしたの?」
彼の一言で、涙が込み上げてきた。
そうか、あの子も母のドーナッツを食べて育ってるんだね。
お砂糖いっぱい、ちょっといびつな甘いドーナッツ。
あの赤いゴムボールは、ちゃんと姉から妹に受け継がれていたんだ…。

母も妹も、とても幸せそうだった。


そうだ。今度は私の両親を東京に連れてこよう。
父と実の娘以上に愛情を注いでくれた、現在の母と一緒に。


次は 雷 口紅 日記 でお願い致します。
「雷」 「 口紅」 「日記」

愛のない結婚だと分かっていた。
父は白無垢の私に笑ってみせた。
「お前のお母さんだって、そうして嫁いできたんだよ」
愛のない結婚で生まれた娘が、愛のない結婚で家名を救うのか。
幸せだったかと問うてみたい母は、我が家が零落する少し前の冬、はやり病であっけなく逝った。
私は父の笑顔にこっくりと頷き、また前を見据えた。
「三井さんといえば新進の大店だ。何も案ずることはないからね」
祖母が、まるで幼子に言い聞かせでもするように、しわがれた声を出した。
「うちだってねぇ、大戦さえなければ、何もお前を差し出すような」
「お母さん」
父が困ったように、祖母を制した。
きぃぃぃぃぃと、遠くの山で雷鳥の啼く声がする。
翼があろうと、もはやどこへも行けはしない。
「お嬢さま。そろそろご準備を」
控えていたはずの化粧係の女中が、いつの間にかすぐ側に来ていた。
私がまたこっくりと、あたかも人形のように頷こうとしたせつな、
「おねえさま!」と、まだ幼さの残る声があがった。
蒲柳の質で、今日の婚儀も家で待っているはずだった五つ下の私の弟。
この子のためにも、いま私は嫁いでいく。
「隆太郎」
驚く父を尻目に、弟は荒れた息を苦しそうに吐き出した。
「おねえさま。お忘れ物です」
弟の手には一冊のノートが、宝物でも抱くようにかかげられている。
自室の書棚の奥に、隠すように置いてきたはずの私の日記帳だった。
中を読んだのだろう。弟は泣きはらしたような目で、私を見上げている。
「燃やして」
私は努めて、優しい声で言った。
そうだ。燃やしてしまえばいい。今日でもう、恋も終わる。
あんなに恋した人の名をいま再び呼ぶことも叶わないこの身に、あの人への想いのつまった日記は眩しすぎる。
私は弟の、その柔らかな細い頭髪を、おそるおそる撫ぜた。
「幸せにおなりなさい。隆太郎」
弟はぐっと唇を噛み、弱弱しく頷いた。
私は弟の差し出した細い手につかまり、ゆっくりと立ち上がる。
大きな鏡面に、白無垢の私が映し出される。
あぁこれは、死に装束だ。
髪をきっちりと結って、全てのものに別れを告げて。
「お嬢さま。最後に口紅を」
筆を持った化粧係が、べべを汚さぬようにと、白い布を首周りにかけた。
「待って。私が」
私は半ば強引に筆を奪うと、青ざめた唇にさっと赤い紅をさした。
ここだけが生きている。
にわかに蘇生した唇で、私は誰の名を呼ぼう。
うっすらと開きかけた唇を、しかしきりりと締め、私はまた前を見据えた。

長々失礼しましたあせあせ(飛び散る汗)
次は、「カレンダー」 「外国語講座」 「オホーツク海」でお願いします。
「カレンダー」「外国語講座」「オホーツク海」


オホーツク海に流氷が現れると、しばらく漁師の仕事は休みになるので、その間近くの工場でアルバイトをしている。
車を飛ばし、流氷漂う港を眺めながらバイト先に向かう俺。

ある朝、珍しく晴れていたので、流氷を間近で見ようと途中で車を降りて岸まで向かった。
流氷がキラキラ光っていて、とても綺麗だった。その光の中、ひときわ強く太陽の光を受け輝いているものを見つけた。小さな透明のビンだった。
網で拾い上げると、中には手紙が入っていた。
英語と韓国語で簡単な自己紹介と名前とメールアドレスが書いてあった。
ソウルに住む、外語大に通う女子大生とのことだった。
よく大昔のドラマでありがちの「これを拾った方はお手紙下さい」と同じようなパターンだと思いつつ、遊び半分でメールを送った。辞書を片手に、とりあえず英語でメールを送った。

すると、予想に反してきちんとした日本語で返事が返ってきた。
彼女は大学で英語と日本語を勉強しているとのことだった。ビン詰め手紙が海を越え、日本にまでを渡ったことにとても驚いた様子だった。

それがきっかけで、彼女とのメールのやりとりが始まった。

仕事のこと、学校のこと、友達のこと、家族のこと、悩み事や将来の夢…いろんなことをメールで話した。
彼女の誕生日には「子供っぽいかな?」と思いつつも、北海道限定のキティのぬいぐるみをあげた。
お礼のメールには、道産子キティを抱えた彼女の写真があった。
彼女は予想以上に美しかった。

来年の流氷の時期に、彼女の住むソウルを訪れることにした。
韓国語が少しもできないのはなんだかカッコ悪い気がして、ラジオの外国語講座で、仕事の合間に韓国語を勉強した。
カレンダーに印をつけ、「ソウルまであと○日!」と記入するのが日課になった。

いよいよ出発の日を迎えた。ソウルの金浦空港で、彼女が俺を迎えに来てくれる。

空港で一番最初に目に入ってきたものは、彼女にそっくりのご婦人…彼女の母親だった。
憔悴しきった顔で、無理やり笑顔を作っていた。傍にはずっと俯いたままの彼女の父親もいた。

習いたての韓国語で聞いた、初めての生での韓国語は、彼女の訃報だった。
昨夜交通事故で急逝したとのことだった。

「明日いよいよ会えるぜ!」と書いたカレンダーの日付は、彼女の命日となった。


翌日、俺は彼女が通っていた大学を訪れた。
彼女の両親に葬儀に呼ばれたが、道産子キティを抱えた彼女が、遺影になっているのは見たくなかった。

ぶらりと文学部の部室に入った。部員達の作った詩集や文集が置かれていた。

その中に、彼女の名前が入った絵本の表紙が飛び込んできた。流氷の中に小さなビンが泳いでいる。
彼女の書いた絵本、俺にそっくりの「北海道の漁師さん」が描かれている、彼女の描いた絵本。

俺は初めて声を上げて泣いた。学生達や教授や警備員らがやってきたが、かまわず大声で泣いた。


次は、 卵 絵の具 携帯電話 でお願いします。
すみません、卵はもう出ていましたね。

では、玉子焼き、絵の具、携帯電話でお願いします。
『卵焼き』『絵の具』『携帯電話』


サキちゃんは、変わり者だ。

「みおーっ、みてみて。」

セーラーの裾をヒラヒラさせながら、走ってくる。
短いスカートから、すらりと伸びた脚。
斜めにかけられたお気に入りのバックは、口が半分開いていて、中のポーチが顔を除かせている。

「そんなに走ったらあぶないよー。」

あたしが小走りで駆け寄ると、サキちゃんはようやくスピードを落として、ゆるゆると歩き出した。

あたしは、サキちゃんに並ぶとそれとなくサキちゃんのセーラーの襟を直してから、半開きの鞄を閉めるよう促した。
サキちゃんは、「気づかなかった!」といいながら、声に出して笑った。

あたしとサキちゃんは、中学に入って、たまたま同じクラスで、たまたま席が近くなったことがきっかけで仲良くなった。

「ねえ、サキちゃん。
さっき言ってたのってなぁに?」

サキちゃんが大騒ぎなのはいつものことだけど、あたしの名前を呼びながらあんなに走って、何を見せたかったのか気になっていた。

「あ!これーっ!!」

サキちゃんが自信満々にポケットから取り出したのは・・・

「…でっかい、、、卵…焼き??」

「違うっ!!!!!」

一瞬、本当にでっかい卵焼きかと思ったそれは、黄色くペイントされた、サキちゃんの携帯電話だった。

ポケットから卵焼きなんて、普通はありえないけど、サキちゃんならそれくらいやってのけそうだ。
どんなにありえないことでも、きっとケロリと笑って、「そうなの?」とか言っちゃうんだ。
サキちゃんはそうゆう子だ。

「これ、自分で塗ったの??」

「そうだよーっ!
みおみたいでしょ?」

「??」

少なくともあたしは携帯電話を自分でペイントしたりできるほど器用じゃない。それどころか、サキちゃんとは正反対の、平凡すぎるふつー…な、つまらない女の子だ。

「あたしの携帯、ふつーに白だけど…。」

だれかと、間違えてるのかな。

「違うよ。
携帯じゃなくて、みおだよ。」

サキちゃんは、黄色くペイントされた卵焼きみたいな携帯電話を太陽にかざすと、眩しそうに眼を細めて真面目な顔をした。

「あったかくて、やさしくて、キラキラしてて。みおみたいでしょ。
あたしね、本当はみおみたいになりたいんだ。
みんなにやさしくて、頼りになって。
みおって太陽みたいじゃん。」

それから、にゃははって。
サキちゃんは、ちょっと照れくさそうに笑った。

よく見ると、卵焼きみたいな携帯電話はところどころムラになっていて、だいたんなサキちゃんの性格がよく出ていた。

あたしは、サキちゃんの手から携帯電話をすくいとると、同じように太陽にかざしてみた。
やっぱり眩しくて、サキちゃんを見ると、サキちゃんの手は・・・黄色かった。

「…え?」

サキちゃんも、あたしの視線に気づいて、自分の手をみると、ぎゃっ!と、跳び跳ねた。

「サキちゃん!?
これ、何で塗った!!?」

「美術であまった絵の具!」

「絵の具!!?」

あたしは慌てて自分の手も確かめてみたけど、すっかり黄疸みたいになってる。
白いセーラーの衿にも、胸の辺りにまで黄色い色素が浮かんでいる。

サキちゃんはといえば、スカートのポケットの周りから、セーラーまで、あちこちに黄色い絵の具が足跡を残していた。
さすがはサキちゃん。
侮りがたし。

「もぉー…。
ふつー、絵の具で携帯ペイントしようとか思わないよ?」

あたしはちょっと大げさに呆れた素振りをして、サキちゃんを見た。

サキちゃんは、ケロリとしていて、「そうなの?」って、笑った。
あたしたちは、絵の具まみれの手をつなぐと、声に出して一緒に笑った。



えと、次は『海』『銀』『月』でお願いします。
『世界人間銀行』のシスターズが破たんした

「ばぁろおがぁっ、ちくしょおだあ!」
親父がテレビに向かって唾を飛ばしている。自分にとばっちりが来る前に、U太郎は居間と障子一枚で隔てられた4畳間に引っ込み、頭から布団をかぶった。雨の洩るこの木造アパートにシスターズの社員がやってきたのは3ヶ月前のことだった。

世界人間銀行は、あらゆる人間関係を分割し、それを再構築することで新たな関係性商品を生み出す世界的大企業だ。U太郎にはその意味するところがさっぱりわからなかった。ただ、シスターズが自分の家族関係を買い取ったこと。自分が親父やお袋、妹と赤の他人になること。そして別の人間たちと新しい家族をつくり、それが商品として売りに出されることがボンヤリを認識されていた。

U太郎の父親は酒乱よく家族に手をあげた。母親は無気力で抗鬱剤なしには寝られない。中学に入ったばかりの妹は月のこずかいでは到底買えそうもない高級ブランドを身につけていた。彼自身は高校を卒業してからの3年間をほとんど2部屋しかない木造アパートに籠って暮らしていた。そんなU太郎の家族をシスターズの社員は「崩壊家族」と表現した。そして「新しい人たちと別の家族をつくれば、より有意義な人生を送れます」とほほ笑み、売買契約書を差し出した。

なぜシスターズが自分たちの家族に目をつけたかはわからない。また、新しい家族というものがなぜ商品になりうるのか、一体誰がそんなものを買うのかU太郎には皆目見当もつかなかった。深い光沢のあるスーツに身を包んだシスターズ営業主任は「心配いりません。買い取られたところで別に奴隷として扱われるわけじゃない。ただ優生な社会資産としてよりよい社会づくりに貢献するだけです」と言った。はっきりとは言わなかったが、家族商品をほしがるのはどうやら政府と関係のある組織のようだった。

買収額はかなりの金額で、提示された条件も申し分なかった。相当額あった借金も帳消しになるらしかった。光沢スーツが来てから1ヶ月後、親父は契約書に判子をついた。百科事典かと思うような分厚い約款に目をさまよわせながら、お袋が「あたしたち、こんなですけど大丈夫ですかねぇ」とつぶやいた。光沢スーツは「ある程度のリスクは多様性として必要なんですよ」と答え、「それなりのメンバーと組むことになると思いますから、生活水準は今より各段に上がるはずですよ」と笑顔を見せた。

契約を結んで以来、シスターズからは何の連絡もなかった。2ヶ月が経ち、U太郎の家族には小さな変化が生まれていた。今までは聞かれなかった「ありがとう」や「すまんな」という言葉がぽつぽつ出てきていた。親父は酒を辞め新聞の求人欄を見るようになった。お袋は相変わらず薬なしでは寝れないようだったが、親父と話す姿をよく見かけるようになったし、時々は笑顔も見られた。妹が新しいブランド品を見せびらかすこともなった。U太郎ははじめ新しい家族にはかわいい女の子がいると良いななどと思っていたが、そのうち自分と同年代の男兄弟ができた場合、自分がみじめな思いをするのではないかと不安になってきた。彼は髪を切り、若者の自立を支援する市民団体にちょこちょこ足を運ぶようになった。

ある雨の夜更けに、U太郎の家族はシスターズが倒産したこをとテレビで知ったのだった。4畳間に親父が入ってきた。また怒鳴られると、U太郎はとっさに身を固くした。親父はどならなかった。布団のわきに腰を落とすとそのまましばらく黙っていた。そして「明日から工場で働く。俺たちはまた元通りだ」と言うと、障子を閉めて出て行った。U太郎はなぜか小学6年生の夏休みに家族で川釣りに出かけたことを思い出していた。魚は全く釣れず、不機嫌な親父の背中をお袋がさすっていたのがやけにおかしかった。元通り。そう思うとふいに涙が出た。U太郎はなぜか無償に誰かと一緒に川釣りへ行きたかった。

終
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次は『梯子』『ホテル』『日本酒』でお願いします

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