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第二回JBR掲載(準備中)コミュの重なる魂、分裂する心 その1

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「……ハ……!……ハァ……!」

 小早川セナは夜の闇を駆けていた。その腕には少年の細い腕に似つかわしくない黒い凶器が抱えられている。『レミントンM870』。ワンアクションで排莢と次弾の装填が行える、機構の単純さと堅牢さを併せ持つポンプアクション式の散弾銃だ。
 どれ位走り続けていただろう。まばらな林の山の中腹に辿り着いたころ、全力で走り続けたセナの足に、ついに限界が来た。膝が折れ、地面にひれ伏す。それでも逃げ出そうと腕を支えに上体を起こすが、四つん這いの格好のまま、下半身はまるで別の生き物になったかのようにそれ以上動こうとしない。
 その見開かれた目は血走り、ユニフォームの所々には赤い斑点がこびりついていた。

 十数分前――

 およそ生き死にとは縁遠い世界に生きていた彼は、何の前触れも無く殺し合いのゲームに投げ込まれたことで半ばパニック状態に陥り、とにかく身を隠すことを選んだのは本能に近いものだった。
 支給品の中には食料や地図に混じって、TVゲームや映画の中でしか見たことの無い凶器が入っていた。説明書きには「弾丸×20」と書かれていたが、14発しか見当たらないところ見るとすでに6発分の弾丸が銃の中に装填されているのだろう。隠れている最中、セナはその機構の理解に没頭した。何かしていなければ、不安と恐怖に心が押しつぶされてしまいそうだった。
 だから、気付かなかった。あまりにもその作業にのめり込み過ぎて、3メートル足らずの所にまでその少女が近づいていたのを。
 それを確認した時、セナは弾かれるように散弾銃の銃口を少女に向けていた。

少女「……」

 少女はその時の物音で、茂みの中のセナに気付いたようだった。彼女が近づいていたのは、まったくの偶然だったのだ。彼女はセナの方を見るとその歩みを止めた。
 しまった。と思った。こうなってしまったら、今更「自分には敵意が無い」と言って誰が信じるだろう。震える照準の先で、少女はじっ、としゃがんでいるセナを見下ろしていた。『最後の一人になるまでお互いに殺し合うこと。もちろん死んだらゲームオーバーだ』あの王子の言葉がセナの頭の中に幾重にも反響する。増幅する死の恐怖。だけど、自分に人殺しなんて出来っこない。今からでも遅くは無い。銃を下げて、敵意の無いことを伝えよう。

 ――そう思った矢先。
 
 極めて自然な動きで、少女の手が懐に伸びた。

 瞬間、セナの中の恐怖が爆発した。
 その爆発は震える銃口からほとばしった。
 セナの悲鳴。銃声。少女の苦悶が重なった。

 そうして体中に弾丸を受けた少女は、糸の切れた傀儡のようにくずおれた。
 次いで、少女を中心に放射状に広がる血溜り。ぱたり、と力なく地面に落ちた少女の手に握られていたものを見た時――

「う、う、……うわぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
 
 ――セナは、悲鳴を上げて走りだした。自分の罪から逃げるように。大声を上げる危険も忘れて、狂ったように叫びながら全力でそこから走り出した。……理解したはずだった。ショットガンの弾層に装填出来る弾は5発。にもかかわらず、銃の外に残っていた弾は14発。つまり、一発目の弾丸は発射される直前の状態で銃身にあったことを。わかっていて、自分は撃った。そして何よりセナの心を打ちのめしたのは、懐に伸びた少女の手に握られていたもの。それは、銀紙に包まれた四角い板。なんの変哲も無いチョコレートだった。少女は殺意を向けられているにも係わらず、その相手に施そうとしたのだろう。そして、そんな相手を、自分は撃った。

 ……そう、走り続け、肉体を痛めつけていたのは、そうすることで心の痛みを忘れようとしていたからだった。

「う、うあ、げぇぇぇぇ」

 肉体の限界と精神の臨界に同時に襲われたセナは、その場に胃の中のものをぶちまけた。胃液まで吐き出してもその嘔気は収まらず、ついには胃と傷付いた食道から流れる血液を吐き出した。吐いても吐いても消えない痛み。自分の中の深い部分に決定的に刻まれた罪悪の亀裂に、震える身を掻き抱いてのた打ち回った。

 違う、ちがう、チガウ――殺したく、なかった。殺すつもりなんて、なかった。だって、血が、チガウ、助けて、死にたくなかった、だから、なんで撃った、違う、殺した、誰か、僕が、飛び散った、赤い、女の子が、助けて、赤い臓物が、タスケテ、助けて、たすけて――

「……助けて、まもり姉ちゃん」

 そう呟いた自分が、自分を守ってくれていた彼女とひどくかけ離れた存在になっていることに気付く。汚れた手と、穢れた心。もう二度と真っ直ぐな心で彼女に会うことは出来ない。真っ直ぐな瞳で、仲間と共にクリスマスボウルを目指すことは出来ない。

 ――そんなのは、嫌だ。

 そう強く思った。思ってしまった。その時、セナの中で、彼の心を守るために「ある作用」が働いた。殺人者としての穢れを否定し、殺人に耐えられなかった彼の心は、決定的な亀裂を、自分の半分に全てなすりつけた。精神崩壊の危険を避けるための恒常性。そのストレスから自分自身を守るために新たな人格を作り出す。
 一方の自分を女性を殺した罪から逃す為に、一方の自らを元々女性を殺すものだったと位置付けした。

 チガウ、ちがう、違う――僕じゃない。殺したのは僕じゃない。そうだ、小早川セナは人殺しなどしていない。殺したのは、やったのは――

「殺ったのは、アイシールド21だ」

 そう呟く少年の目は昏く濁り、しかし、その体の震えだけはピタリと静まっていた。

 ……少年は、自らの心の平穏のために、新たな人格にその罪、歪みの全てを押し付けた。そうして生まれたそれは、「女を殺すもの」だった。


【小早川セナ@アイシールド21】
[状態]:肉体、精神共に疲弊
[道具]:荷物一式 【支給品:散弾銃(レミントンM870) 弾丸×19】
[思考]:女性を殺す(アイシールド21) 誰かに助けを求める。(セナ)
[備考]:小早川セナの人格は、精神の崩壊を防ぐために殺人を行ったことを忘れている。

現在地:F5
日時:一日目2:00

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