香港ノワール映画－英雄片－コミュの【香港ノワール／過渡期】愛よりはやく撃て

原題：狂野生死戀(A Touch of Evil)
香港　モダン･プロデューサー･リミテッド作品　95年　103分　カラー　日本劇場未公開(ビデオ)

製作：イプ･クォン･キム　監督：トニー･オウ　脚本：イプ･クォン･キム／カルビン･プーン／トニー･オウ　撮影：アーサー･ウォン　武術指導：ユエン･タク　音楽：バイオレット･ラム　美術：ウィリアム･チャン　編集：チョン･カー･ファイ
出演：レオン･カーフェイ／ロザムンド･クァン／マイケル･ウォン／エリザベス･リー

－解説－
麻薬売買に関わった男の自殺を契機に､愛人の女へおとり捜査を強要する麻薬捜査官と､彼女と恋に落ちた密売人の青年との葛藤と闘いを描いたアクション･ドラマ。出演は『愛人/ラマン』(92年)などのレオン･カーフェイ(梁家輝)､『ブルー･エンカウンター』(2002年)などのロザムンド･クァン(關之琳)､『世界の涯てに』(96年)などのマイケル･ウォン(王敏德)､『野獣特捜隊』(94年)などのエリザベス･リー(李美鳳)､『プロジェクトＡ２』(87年)などのクァン･ホイ･サン(關海山)ほか。『南京の基督』(95年)などのトニー･オウ(區丁平)監督､95年作。

－物語－
ある日の未明､パキスタン製の麻薬密売に関わったダイという男がビルの屋上から飛び降りた。麻薬課のレオン刑事(梁家輝)はダイの愛人ココ(關之琳)におとり捜査を強要する。ダイの取引相手キング(王敏德)に近付いたココは､一旦は盗聴器を仕掛けるが､彼に強く惹かれ外してしまった。しかしレオンはココに贈った時計にも盗聴器を仕込み､それで得た情報で麻薬取引現場を押えるが相手は小物ばかり。キングに盗聴器がバレ､ココの身に危険を感じたレオンは彼のアジトへ乗込み､証人になれと迫るが拒否された。ココを挟み組織内で窮地に立つキングと不正を暴かれ停職となったレオンは､12時間後の取引に全てを賭ける!

コメント(3)

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[1] mixiユーザー 06月20日 05:14

美術監督出身で､日本との縁も深いトニー･オウ(區丁平)監督作の1本です。
日本で公開されたトニー･オウ監督作というと､当コミュでも一応ご紹介している『さらば英雄愛と銃撃の彼方に』(91年)のようなゴールデン･ハーベスト制作による時代がかった文芸路線寄りの超大作というイメージが強いです。しかし本作はガラッと趣が変わり､香港が舞台の現代アクションで､制作もゴールデン･ハーベストではありません。
本作では当時香港映画界でトレンドだったウォン･カーウァイ(王家衞)監督作の作風が随所に取入れられています。雲間から顔を出す満月を背景に､サックスとエレキギターが奏でるスローバラードをBGM
にしてキャストとスタッフが青や青の原色で横一直線にクレジットされるOPタイトルは､なかなかコジャレてますしキッチュでもあります。
また本作に独特な雰囲気を与えているのが､"音"と"色"なんですね。前述のウォン･カーウァイ監督も"音"にこだわる監督として知られていますが､香港映画もこの頃になると録音･音響の技術が向上し徐々にですがアフレコではなく同時録音の作品が出てくるんです。で､本作も同時録音です。なのでトーゼンながら現場での俳優本人の声が聴けるので､その反響具合や息遣い､そこに交じって聴こえてくるかすかな生活音も含め､良い意味で生々しいリアリティを生み出してるのは間違いないです。また登場人物の衣裳や警察署内､ヒロインの住む家の家具や装飾品にもかなりカラフルな配色が施され､視覚的にも楽しませてくれます。

[2] mixiユーザー 07月11日 17:22

本作はレオン･カーフェイ(梁家輝､画像左)､マイケル･ウォン(王敏德､画像中)､そして彼らの"ファム･ファタル(運命の女)"となるロザムンド･クァン(關之琳､画像右)の３人を中心とした群像劇､会話劇として進んでいきます。時代を反映してもいるんですけど､メイン３人のキャラが異様に濃いというかそれすら超えてクドいんです(笑) 性格付けもありますけど､まずその外見ですね。当時は所謂"男性のロン毛"ブーム(契機はおそらくSMAP木村拓哉さんあたりでしょう)で､レオンもマイケルも揃ってロン毛です。しかもレオン･カーフェイの場合スタイリングもしてない真中分けの｢金八ロン毛｣なので､まぁ似合ってないこと甚だしい。でもそこは香港映画界きっての演技派俳優､ちゃんと彼なりの"味"にしてしまうんですね。マイケル･ウォンは当時長いスランプから脱しネクスト･ブレイクの位置まで来てたのですが､やはりレオン･カーフェイに比べると何か一つ喰い足りない印象でした。勿論ロザムンド･クァンが惚込む位の男前っぷりではあるのですが…。
そしてそのロザムンド･クァンですが､女優としてのピークは80年代後半から当コミュでもご紹介した｢新･愛と復讐の挽歌｣２部作に出演した92～93年ごろでしょう。ということは､本作に出演した時点で彼女の"旬"は過ぎていたことになります。そのことを痛感していたのは､他ならぬ彼女自身だったと思います。なのでこの辺になってくると､彼女は単なる善玉側ではなく"悪女"の要素を加えたキャラクターを積極的に演じるようになるんですね。以前当コミュでご紹介した『復讐のプレリュード』(95年)での役どころはその典型です。狂気をはらませた演技で､当時上り調子だったウー･チェンリン(ン･シンリン=吳倩蓮)を超えるインパクトを劇中に残しました。『復讐のプレリュード』(95年)は､名手リンゴ･ラム(林嶺東)の緻密な演出で彼女の役は成立していましたが､本作は前項でも名前を挙げたウォン･カーウァイ監督作ほどではないにしろ､良い意味で野放図というか､ある程度俳優自身の感性と表現に委ねた演出が施されているように感じます。特に物語のカギを握るロザムンド･クァンは､彼女自身の内面の揺らぎが､瑞々しく活写されていました。パッと見はすれっからしの"ビッチ"キャラですが､マイケル･ウォンに向けられる乙女のような純愛､レオン･カーフェイとの友情とも恋愛とも取れる微妙な駆引き､母親とその恋人への愛憎など､様々な心情が交錯する複雑なキャラクターです。結果こうした難役を演じ切ったロザムンド･クァンの女優としての価値が下がることはありませんでした。その後美貌と演技力を備えた実力派女優として順調に出演作を重ね､2001年には『ハッピー･フューネラル』といった国際的作品で大役を任せられるまでになります。
彼らを囲むキャストも､レオン･カーフェイの恋人である女刑事役でエリザベス･リー(李美鳳)が顔を見せるのを始め､多数の"香港ノワール映画"に出演し存在感を示してきたヴェテランのクァン･ホイ･サン(關海山)やジャッキー･チェン(成龍)映画でおなじみのタイ･ポー(太保)､日本で見ることのできる作品では久々の登場となったロン･フォン(龍方)などユニークな顔ぶれが揃っています。また､前項でもご紹介したトニー･オウ監督作品を手掛け､日本とも縁の深いゴールデン･ハーベストのプロデューサー､チャイ･ラン(蔡瀾)氏が警察署長役で出演しているのも特筆モノです。

[3] mixiユーザー 08月30日 23:22

前項でお伝えした通り､本作は前中半はほぼ会話のみの展開で進み､アクションシーンといえば前半での自動車の爆破や中半映画館での小競り合い位なのですが､ラスト10分砂浜を舞台に突如ド派手な銃撃戦が展開されます。マイケル･ウォン(画像左)は弟分の裏切りに遭いながらも､二丁拳銃で必死の反撃を見せ､サングラスでキメたロン･フォン(画像中)やタイ･ポー(画像左)もガンガン撃ちまくります。
ただ濃密ではあるんですけどもクドさはなくタイトに収まっており､その後は"ファム･ファタル(運命の女)"ロザムンド･クァンをめぐるマイケル･ウォンとレオン･カ―フェイとのクライマックスに至ります。例によってハッピーエンドとは言えないですが､トニー･オウ監督の手腕が光る非常に熱い余韻が残るラストシーンに仕上がっています。
そしてエンディングには､OPのインストに香港の人気女性シンガー､エリサ･チャン(陳潔靈)のヴォーカル｢向天邊海角贖罪｣が流れるのですが､現状音源がネットには挙がって来ていません。
日本ではビデオ発売のみで終わった作品ですが､レストアされたクリアな映像でソフトの再発を強く願うところです。

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