）
此「執中」の二字を指て、我家の「秘法」といふべし。
）であった。
本研究の前提の仮説： 俳諧の変化
変化しなければ俳諧ではない。
式目も付け方も連歌・俳諧に変化をつけるための手だてである。
式目は変化をつけることが苦手な初心のために目安を示したものである。
式目は絶対的な戒律ではない。練達は式目からみると破格となるが、式
目なしに変化をつけることができる。すなわち変化のための付け方の妙
法を心得ている。
道に到達していない変化不自在の多くの弟子達の要望にもかかわらず、
芭蕉門としての式目を、変化自在の芭蕉が文書化しなかった理由の一端
はここにある。
芭蕉は特に貞門の各種の式目作法書を信用しがたしとした。芭蕉没後の
田舎蕉門各派は、芭蕉門に文書化された式目作法書がないので、貞門の
式目作法書なども持ち出し文書化した。どさくさに紛れて弟子独自の怪
しい式目論も盛り込まれ、蕉門の式目作法書という名前で世に広まった。
式目が事細かで条項が多く分厚いのは誇れることではなく、変化不自在
の証明である。だから、それを首っ引きで寸分違わず守ったからと言っ
てなんら誇れることではない。捌きとしてはそれが一番簡単で楽だw
式目は、古今変化してきているがどれが正しいか口角泡を飛ばして論じ
るのは当然ナンセンスである。
式目なしに変化自在となれば細々した式目など不要だからである。
われわれはそろそろ式目に頼って変化を求めるのではなく、付け方で変
化をつける方法を探求したい。変化のための付け方の妙法とは、どんな
ものか。見立て替え（取り成し）付けだけのことを言っているわけでは
ないだろう。
付け方の分類学は古今多いが、詠まれた結果の分析論的なものもある。
付句するとき、どの付け方でいこうか数十の付け方のレパートリーから
選択して付けるということはあんまりしないだろう。それよりこの年で
は覚え切れないだろうw
付け方にも基本と各論という区分けもいるだろう。もっと抽象度を挙げ
ていつも頭の中に保っておけるような言い方ができるといいかも知れな
い。
分類の観点が必ずしも同じではない数十の付け方をいきなり出しても話
は進みにくいかも知れないので、まず信用できそうな先人の付け方論の
断片でも集めることにしよう。
睡心流で学んだばかりの【一巻で同じような趣向・気分の句は再出しな
い】は、付け方の土俵としての基本事項の一つとなるだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第一回目のリサーチの結論
【変化のための付け方の妙法】
○前句の情を引來るを嫌ふ。ただ前句は是いかなる場、いかなる人と、其事・
其位を能く見定め、（前句にない観点を選び）、前句をつきはなして附べし。
○執中の法 前句に対して付くべき物（趣向）は、一字二字三字のものでよく
あとは付け足しである。このレベルで変化を大きくとらえていけばよい。
○余情付け 前句の余情と同じ響き、匂い、位の意味内容的にあまり関係ない
句を付ける。
○見立て ある物（柳）を別の物（細身の美人）になぞらえる。
見立て替え（取り成し） ある見立てをちゃらにし違う見立てをする。
○どんなときでも、俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。
今後もやっちゃあいけないこと。
●二句一連で短歌になっていない（意味が通らない）。
●前句の一部の言葉や言葉尻をとらえ、前句とはそれ以外関係のないことを詠む。
結果、二句一連で支離滅裂、意味が通らない。しかもこれが芭蕉門の余情付け、
匂い付けだと大いなる勘違いをしている。
●付け過ぎは初心者だと言われるので、はじめからまったく前句と関係のないこ
とを詠みベテランのふりをする。支離滅裂の無心所着歌。
●前句に引きずられ単なる前句の説明、言い換え。これを昔から前句の噂（うわ
さ）、前句の断（ことはり）と呼び嫌う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第二回目のリサーチの結論 2012年
【蕉門の前句の意を転ずる妙法】
蕉門の見立・趣向・句作の定法十三条 所収：原田曲齋『七部婆心録』
俳諧の連歌において付句は、以下の三つのプロセスによって行われる。
（１）見立：前句の意を転ずる案じ方で前句をどういう場面と見立てるか、
決める。見立て替え（取りなし）打越に対する前句の意味を意図的
に取り違えて句を付ける。
（２）趣向：初念の見立に対し付句をいかなる場、人、体、用、情、趣意
の趣向（付けの物柄）とするか、前句に対しいかなる姿勢、重ー起
情、中ー会釈、軽ー遁句で付けるか、起情、会釈は曲節ありなしの
どちらでいくか決める。
（３）句作：見立と趣向を掛け合わせ、古語、俤取り、余情などを加味し
て一句を仕立てる。匂い付け（余情付け）前句の余情と同じ匂い・
位・響きの意味的には直接関係のない句を付ける。
この三つを備えない句は大方、前句の説明か一向に付かない句である。
見立の五条
一、前句の上中下に言葉を添えて魂を替える法。
一、に留て留の句を見替えるには、に、ての後ろに言葉を添
えること定法なり。
一、何に対してかく言うと前句を咎める案じ方あり。
一、前句を虚(嘘)に言う言葉と見て、付句にその続きの戯言を付ける。
付句例 鼓手向くる弁慶の宮、麻刈といふ歌の集む
一、即体 其用や其情の句が並んだときを体ある物に見立てる。
趣向の五条
一、准(なぞらえ)付 人情をものに譬えた前句にはものに付ける。
一、逆付(後付) 前句より先に起こるべき事象を後から付ける。
巾に木槿を挟む琵琶打／牛の跡弔ふ草の夕暮に
一、裏付 前句の言葉の裏の意味を読み付ける。
道のべに立ち暮らしたる禰宜が麻／楽する頃と思ふ年延
一、それにつけてもの用 前句の内容であるが、それにつけてもと
案じる。
一、空撓め 前句とは何の付け筋もなくふと思い浮かんだ姿をも
って直感的に句を付ける。
句作の三条
一、相係り（前句の見立に半ば係りの言葉があれば付句も前句に
半ば懸けて作る。）、係付（前句を平生ならず見立てるとき
は、見立ての中の言葉で前句にもたれるように作る。） 結
付（前句に情か用の言葉がありその意を転ずるときは、付句
は其場、其体をもって作る。）
一、不用の用 後句を付けやすくするために付句には不用な言葉を
付加する。
一、執中の法 前句の余情から中心となる一二三字の単語を連想
し意味的には直接関係のない句を付ける。
上述を踏まえて平易な短い言葉で芭蕉流の付け転じ方を縮めて言えば以下のようになるだろうか。
【前句の言外に言ひ残したるもの・余情・曲解から見立て、趣向は遠く、句作は近く短歌
になるように付けるべし。】
変化しなければ俳諧ではない。
式目も付け方も連歌・俳諧に変化をつけるための手だてである。
式目は変化をつけることが苦手な初心のために目安を示したものである。
式目は絶対的な戒律ではない。練達は式目からみると破格となるが、式
目なしに変化をつけることができる。すなわち変化のための付け方の妙
法を心得ている。
道に到達していない変化不自在の多くの弟子達の要望にもかかわらず、
芭蕉門としての式目を、変化自在の芭蕉が文書化しなかった理由の一端
はここにある。
芭蕉は特に貞門の各種の式目作法書を信用しがたしとした。芭蕉没後の
田舎蕉門各派は、芭蕉門に文書化された式目作法書がないので、貞門の
式目作法書なども持ち出し文書化した。どさくさに紛れて弟子独自の怪
しい式目論も盛り込まれ、蕉門の式目作法書という名前で世に広まった。
式目が事細かで条項が多く分厚いのは誇れることではなく、変化不自在
の証明である。だから、それを首っ引きで寸分違わず守ったからと言っ
てなんら誇れることではない。捌きとしてはそれが一番簡単で楽だw
式目は、古今変化してきているがどれが正しいか口角泡を飛ばして論じ
るのは当然ナンセンスである。
式目なしに変化自在となれば細々した式目など不要だからである。
われわれはそろそろ式目に頼って変化を求めるのではなく、付け方で変
化をつける方法を探求したい。変化のための付け方の妙法とは、どんな
ものか。見立て替え（取り成し）付けだけのことを言っているわけでは
ないだろう。
付け方の分類学は古今多いが、詠まれた結果の分析論的なものもある。
付句するとき、どの付け方でいこうか数十の付け方のレパートリーから
選択して付けるということはあんまりしないだろう。それよりこの年で
は覚え切れないだろうw
付け方にも基本と各論という区分けもいるだろう。もっと抽象度を挙げ
ていつも頭の中に保っておけるような言い方ができるといいかも知れな
い。
分類の観点が必ずしも同じではない数十の付け方をいきなり出しても話
は進みにくいかも知れないので、まず信用できそうな先人の付け方論の
断片でも集めることにしよう。
睡心流で学んだばかりの【一巻で同じような趣向・気分の句は再出しな
い】は、付け方の土俵としての基本事項の一つとなるだろう。
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第一回目のリサーチの結論
【変化のための付け方の妙法】
○前句の情を引來るを嫌ふ。ただ前句は是いかなる場、いかなる人と、其事・
其位を能く見定め、（前句にない観点を選び）、前句をつきはなして附べし。
○執中の法 前句に対して付くべき物（趣向）は、一字二字三字のものでよく
あとは付け足しである。このレベルで変化を大きくとらえていけばよい。
○余情付け 前句の余情と同じ響き、匂い、位の意味内容的にあまり関係ない
句を付ける。
○見立て ある物（柳）を別の物（細身の美人）になぞらえる。
見立て替え（取り成し） ある見立てをちゃらにし違う見立てをする。
○どんなときでも、俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。
今後もやっちゃあいけないこと。
●二句一連で短歌になっていない（意味が通らない）。
●前句の一部の言葉や言葉尻をとらえ、前句とはそれ以外関係のないことを詠む。
結果、二句一連で支離滅裂、意味が通らない。しかもこれが芭蕉門の余情付け、
匂い付けだと大いなる勘違いをしている。
●付け過ぎは初心者だと言われるので、はじめからまったく前句と関係のないこ
とを詠みベテランのふりをする。支離滅裂の無心所着歌。
●前句に引きずられ単なる前句の説明、言い換え。これを昔から前句の噂（うわ
さ）、前句の断（ことはり）と呼び嫌う。
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第二回目のリサーチの結論 2012年
【蕉門の前句の意を転ずる妙法】
蕉門の見立・趣向・句作の定法十三条 所収：原田曲齋『七部婆心録』
俳諧の連歌において付句は、以下の三つのプロセスによって行われる。
（１）見立：前句の意を転ずる案じ方で前句をどういう場面と見立てるか、
決める。見立て替え（取りなし）打越に対する前句の意味を意図的
に取り違えて句を付ける。
（２）趣向：初念の見立に対し付句をいかなる場、人、体、用、情、趣意
の趣向（付けの物柄）とするか、前句に対しいかなる姿勢、重ー起
情、中ー会釈、軽ー遁句で付けるか、起情、会釈は曲節ありなしの
どちらでいくか決める。
（３）句作：見立と趣向を掛け合わせ、古語、俤取り、余情などを加味し
て一句を仕立てる。匂い付け（余情付け）前句の余情と同じ匂い・
位・響きの意味的には直接関係のない句を付ける。
この三つを備えない句は大方、前句の説明か一向に付かない句である。
見立の五条
一、前句の上中下に言葉を添えて魂を替える法。
一、に留て留の句を見替えるには、に、ての後ろに言葉を添
えること定法なり。
一、何に対してかく言うと前句を咎める案じ方あり。
一、前句を虚(嘘)に言う言葉と見て、付句にその続きの戯言を付ける。
付句例 鼓手向くる弁慶の宮、麻刈といふ歌の集む
一、即体 其用や其情の句が並んだときを体ある物に見立てる。
趣向の五条
一、准(なぞらえ)付 人情をものに譬えた前句にはものに付ける。
一、逆付(後付) 前句より先に起こるべき事象を後から付ける。
巾に木槿を挟む琵琶打／牛の跡弔ふ草の夕暮に
一、裏付 前句の言葉の裏の意味を読み付ける。
道のべに立ち暮らしたる禰宜が麻／楽する頃と思ふ年延
一、それにつけてもの用 前句の内容であるが、それにつけてもと
案じる。
一、空撓め 前句とは何の付け筋もなくふと思い浮かんだ姿をも
って直感的に句を付ける。
句作の三条
一、相係り（前句の見立に半ば係りの言葉があれば付句も前句に
半ば懸けて作る。）、係付（前句を平生ならず見立てるとき
は、見立ての中の言葉で前句にもたれるように作る。） 結
付（前句に情か用の言葉がありその意を転ずるときは、付句
は其場、其体をもって作る。）
一、不用の用 後句を付けやすくするために付句には不用な言葉を
付加する。
一、執中の法 前句の余情から中心となる一二三字の単語を連想
し意味的には直接関係のない句を付ける。
上述を踏まえて平易な短い言葉で芭蕉流の付け転じ方を縮めて言えば以下のようになるだろうか。
【前句の言外に言ひ残したるもの・余情・曲解から見立て、趣向は遠く、句作は近く短歌
になるように付けるべし。】
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コメント(90)
＞私は、たとえ、素人が、連歌において、575 77の前二句内の５７５ ないし７７
＞を繰り返し使っても、いいように思います。歌謡曲が、同じ歌詞を繰り返してうた
＞って、楽しむように。。。
そういう解釈で楽しむのはもちろん自由ですが、それは連歌とは違うものですね。
西洋詩や歌謡曲の歌詞などはたしかに同じ句や同じ趣向の句の繰り返し（リフレ
イン）をしますが、連俳はそれを逆に避けることで短詩形文芸のアイデンティティ
を保っています。
ちょっと見、昔の連歌百韻などを覗いても、別の前の面に似たような趣向の句が
出るのはさすがに避けられない感じはあります。しかし、同じ面のしかも数句前
あたりに同じ句や同じ趣向の句が存在することはあり得ません。それが連俳の根
本原理だからです。
＞を繰り返し使っても、いいように思います。歌謡曲が、同じ歌詞を繰り返してうた
＞って、楽しむように。。。
そういう解釈で楽しむのはもちろん自由ですが、それは連歌とは違うものですね。
西洋詩や歌謡曲の歌詞などはたしかに同じ句や同じ趣向の句の繰り返し（リフレ
イン）をしますが、連俳はそれを逆に避けることで短詩形文芸のアイデンティティ
を保っています。
ちょっと見、昔の連歌百韻などを覗いても、別の前の面に似たような趣向の句が
出るのはさすがに避けられない感じはあります。しかし、同じ面のしかも数句前
あたりに同じ句や同じ趣向の句が存在することはあり得ません。それが連俳の根
本原理だからです。
＞此処は譲れない。
同感です。
連歌（連句）が多人数で行われる文芸である以上、何らかのルールが必要なのは当然であり、
式目にもそれなりの意味があります。
鎌倉時代は賦物といって、「魚鳥」「白黒」など、交互に鳥や魚の名前をそのまま詠んだり、
隠し題にして詠みこむことが流行りました。
しかし、次第に賦物を云々するより、句を付けること自体に興味が移ってくるにつれ
同じ言葉や情景が繰返し出てくるのを防ぐため「去嫌」の法則が作られるようになります。
百韻の面白さは展開してゆくことにあり、なによりも変化が尊ばれます。
最も避けるべきことは同想の句の繰返し、すなわち輪廻です。
疑問に思うのは、ルフランのお好きな方が、今巻いている「別れ霜」で、前句の季を
続けられないことです。
二句の間では付け、三句目で、まるっきり違う世界を構築するのが連句の醍醐味なのです。
もう一度引用させてください。
東明雅「連句の復活とその将来」季刊連句創刊号 Ｓ５８年
連句の本質は、作品を創り出すこの文芸独自の運動であり、三句の転じのメカニズムである。
「付け句は前句にのみ付いて、打越の句とは全く縁がない。
このような関係を何回も 何十回も繰り返して一巻の作品が創り出される。
このような詩制作の手法はどこの国の文芸にも見られない、私どもの先祖が新しく創り出した
独自のものである。
究極においては、この独自の運動メカニズムさえ失わなければ、その一巻がどのような形式を
とろうとも、どのような式目を採用しようとも、私はそれを連句と認めようと思う」
同感です。
連歌（連句）が多人数で行われる文芸である以上、何らかのルールが必要なのは当然であり、
式目にもそれなりの意味があります。
鎌倉時代は賦物といって、「魚鳥」「白黒」など、交互に鳥や魚の名前をそのまま詠んだり、
隠し題にして詠みこむことが流行りました。
しかし、次第に賦物を云々するより、句を付けること自体に興味が移ってくるにつれ
同じ言葉や情景が繰返し出てくるのを防ぐため「去嫌」の法則が作られるようになります。
百韻の面白さは展開してゆくことにあり、なによりも変化が尊ばれます。
最も避けるべきことは同想の句の繰返し、すなわち輪廻です。
疑問に思うのは、ルフランのお好きな方が、今巻いている「別れ霜」で、前句の季を
続けられないことです。
二句の間では付け、三句目で、まるっきり違う世界を構築するのが連句の醍醐味なのです。
もう一度引用させてください。
東明雅「連句の復活とその将来」季刊連句創刊号 Ｓ５８年
連句の本質は、作品を創り出すこの文芸独自の運動であり、三句の転じのメカニズムである。
「付け句は前句にのみ付いて、打越の句とは全く縁がない。
このような関係を何回も 何十回も繰り返して一巻の作品が創り出される。
このような詩制作の手法はどこの国の文芸にも見られない、私どもの先祖が新しく創り出した
独自のものである。
究極においては、この独自の運動メカニズムさえ失わなければ、その一巻がどのような形式を
とろうとも、どのような式目を採用しようとも、私はそれを連句と認めようと思う」
立花北枝『山中問答』抄
俳諧大意
蕉門正風の俳道に志あらん人は、世上の得失是非に惑はず。
烏鷺馬鹿の言語に泥（なづ）むべからず。天地を右にして、
萬物、山川・草木・人倫の本質を忘れず、落花散葉の姿に
あそぶべし。其すがたにあそぶ時は、道古今に通じ、不易
の理を失はずして、流行の変にわたる。然る時は、こころ
ざし寛大にして物にさはらず、けふの変化を自在にし、世
上に和し、人情に達すべしと、翁申したまひき。
一 いにしへより詩といひ歌といひ、道の外に求るにあらず。
然るによのつね俳諧の文字にまよひて、和歌に対したる名
の道理を弁へず、頓作当話の俚俗に落て、狂言綺語とのみ
おぼえたる人もあるべし。これはあさましきことなり。
（和歌に対したる名とは、連歌であろう。連歌は和歌を
連ねるもの。歌仙なら３５首の和歌となる。去来抄に
ある俳諧に迷ひて俳諧の連歌ということを忘れたり、
とあるのと全く同じである。）
一 世人俳諧に苦しみて俳諧のたのしみを知らず。付句の案
じやう趣向を定むるに心得あり。
（この心得をこそ知りたい、このリサーチのメインテー
マである。）
一 俳諧は謡ひものなること、こころえべし。
（俳諧は歌、和歌を連ねるもの。二句一連で意味が通じ、
しかも吟唱に耐え得るリズムをもつものが理想。）
参考文献
日本哲学思想全書 １２ 俳論篇ほか、三枝博音ほか、平凡社、１９８０年
別トピから再掲
『元禄の蕉風』
俳諧註釋集上巻付録佐々醒雪・巌谷小波校訂、博文館、大正十三年
付合について抜粋：
付合には古来三変があると蕉風では常に説かれている。第一は「付け物」すなわち貞門風の語（ことば）の縁によって句を連ねることで、それが談林風では「心付け」に転じた。
その「心付け」とは前句の余意、余情をもって付句を作ることをいうのである。ところが「心付け」ではなお前句の作者の作意を受けたものであるから十分に変化しない。自分の趣向が前句の作者に囚われていて面白くない。
さればとて古風な取做し付では前句の作者の思い及ばぬ趣向は得られるがまるで謎謎を説いたようです毫も詩趣がなく言語上の洒落に落ちる。
そこで前句には囚われず自由に新意を出しつつなお語の縁をも借りない工夫を凝らしたのが芭蕉の創意でいわゆる匂いの付または位あるいは響きの付というのである。
匂い、位、響きは全く同じ意味で畢竟前句の縁語はもちろんその余意をももとめずしてただ前句の匂いと同じ匂いのする句を付けるということで、他の語で言えば前句の位や響きと同じ響きの句を付けるというのである。
貞門や談林の老俳は、正面から攻撃しているものではないが、蔭では新俳（蕉門）の俳諧は付合いと言いながら全く付いていないと嘲ったので、高弟去来の如きは付句の前句に付く（注：付け過ぎる）は病いである、しかし付かなくては付合でないと言って、不即不離というようなことを主張している。いわゆる響き匂い位は、この心持ちを暗示するために新たに設けられた俳語である。
コメント：
現代は暗黙のうちに物付け、心付け、取り做し付け、匂い・位・響きの付けのうち一つに絞らず、すべての付けをやってよいことになっているのだろう。
匂い、位、響きの付けを、初学がへたに真似すると前句に付かず、二句一連（短歌よみ）で意味の通じないてっぽう俳諧になりやすい。蕉門自体が当時貞門や談林から全く付いていないてっぽう俳諧見られていたとは驚いた。あまり関係ないことを詠みながら、同じ匂い、位、響きを二句が共有し、かつ二句一連（短歌よみ）で意味が通じるように詠むのは誰にとっても難しいのだ。
『元禄の蕉風』
俳諧註釋集上巻付録佐々醒雪・巌谷小波校訂、博文館、大正十三年
付合について抜粋：
付合には古来三変があると蕉風では常に説かれている。第一は「付け物」すなわち貞門風の語（ことば）の縁によって句を連ねることで、それが談林風では「心付け」に転じた。
その「心付け」とは前句の余意、余情をもって付句を作ることをいうのである。ところが「心付け」ではなお前句の作者の作意を受けたものであるから十分に変化しない。自分の趣向が前句の作者に囚われていて面白くない。
さればとて古風な取做し付では前句の作者の思い及ばぬ趣向は得られるがまるで謎謎を説いたようです毫も詩趣がなく言語上の洒落に落ちる。
そこで前句には囚われず自由に新意を出しつつなお語の縁をも借りない工夫を凝らしたのが芭蕉の創意でいわゆる匂いの付または位あるいは響きの付というのである。
匂い、位、響きは全く同じ意味で畢竟前句の縁語はもちろんその余意をももとめずしてただ前句の匂いと同じ匂いのする句を付けるということで、他の語で言えば前句の位や響きと同じ響きの句を付けるというのである。
貞門や談林の老俳は、正面から攻撃しているものではないが、蔭では新俳（蕉門）の俳諧は付合いと言いながら全く付いていないと嘲ったので、高弟去来の如きは付句の前句に付く（注：付け過ぎる）は病いである、しかし付かなくては付合でないと言って、不即不離というようなことを主張している。いわゆる響き匂い位は、この心持ちを暗示するために新たに設けられた俳語である。
コメント：
現代は暗黙のうちに物付け、心付け、取り做し付け、匂い・位・響きの付けのうち一つに絞らず、すべての付けをやってよいことになっているのだろう。
匂い、位、響きの付けを、初学がへたに真似すると前句に付かず、二句一連（短歌よみ）で意味の通じないてっぽう俳諧になりやすい。蕉門自体が当時貞門や談林から全く付いていないてっぽう俳諧見られていたとは驚いた。あまり関係ないことを詠みながら、同じ匂い、位、響きを二句が共有し、かつ二句一連（短歌よみ）で意味が通じるように詠むのは誰にとっても難しいのだ。
ここまでで煮詰まったもののまとめ
発端
○連俳に去嫌を立てしは変化の為なれど、当門には前句を転ずる妙法ある故に、
強ひて古式によらずと、其の理を勘破せよと也。
此の如く法の寛なるは、前意を転ずる別法あるが故也。（貞享式海印録）
○世人俳諧に苦しみて俳諧のたのしみを知らず。付句の案じやう趣向を定むる
に心得あり。 （山中問答）
考案
一 前句（前意）を転ずる妙法・別法とは何か。
二 付句の案じやう趣向を定むる心得とは何か。
仮の答案候補
○前句の情を引來るを嫌ふ。ただ前句は是いかなる場、いかなる人と、其事・
其位を能く見定め、前句をつきはなして附べし。（去来抄）
○余情付け 前句の余情と同じ響き、匂い、位の意味内容的にあまり関係ない
句を付ける。
○見立て ある物（柳）を別の物（細身の美人）になぞらえる。
見立て替え（取り成し） ある見立てをちゃらにし違う見立てをする。
考案二については、『二十五箇條』（支考）に同名の項目がある。要調査。
しつこいが、
【俳諧は上下取り合わせて、歌一首と心得べし】
とある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
参考：Goo辞書（大辞林）
みたて【見立て】
［3］趣向。思いつき。考え。
［4］和歌・俳諧などで、ある物を別のものと仮にみなして表現すること。
なぞらえること。
みたてがえ［がへ］【見立て替え】
［1］先に見立てたものをやめて、他のものを代わりに見立てること。
とりなし【取り成し／執り成し】
［2］連歌・連句の付合(つけあい)手法の一。前句の言葉を別の意味に転じ
るなどして句を付けること。 ）
発端
○連俳に去嫌を立てしは変化の為なれど、当門には前句を転ずる妙法ある故に、
強ひて古式によらずと、其の理を勘破せよと也。
此の如く法の寛なるは、前意を転ずる別法あるが故也。（貞享式海印録）
○世人俳諧に苦しみて俳諧のたのしみを知らず。付句の案じやう趣向を定むる
に心得あり。 （山中問答）
考案
一 前句（前意）を転ずる妙法・別法とは何か。
二 付句の案じやう趣向を定むる心得とは何か。
仮の答案候補
○前句の情を引來るを嫌ふ。ただ前句は是いかなる場、いかなる人と、其事・
其位を能く見定め、前句をつきはなして附べし。（去来抄）
○余情付け 前句の余情と同じ響き、匂い、位の意味内容的にあまり関係ない
句を付ける。
○見立て ある物（柳）を別の物（細身の美人）になぞらえる。
見立て替え（取り成し） ある見立てをちゃらにし違う見立てをする。
考案二については、『二十五箇條』（支考）に同名の項目がある。要調査。
しつこいが、
【俳諧は上下取り合わせて、歌一首と心得べし】
とある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
参考：Goo辞書（大辞林）
みたて【見立て】
［3］趣向。思いつき。考え。
［4］和歌・俳諧などで、ある物を別のものと仮にみなして表現すること。
なぞらえること。
みたてがえ［がへ］【見立て替え】
［1］先に見立てたものをやめて、他のものを代わりに見立てること。
とりなし【取り成し／執り成し】
［2］連歌・連句の付合(つけあい)手法の一。前句の言葉を別の意味に転じ
るなどして句を付けること。 ）
芭蕉翁二十五箇條（支考）
○付句案じやうの事
発句はかく別の事なり。付句は其座に望みて、無性に案じぬが能なり。我
心沈みぬれば、趣向もしづみ、我草臥れより人も草臥れて、一座終に成就
せず。
付句は初念の趣向より、心を落としつけるがよき也。此故に趣向を定る伝
授あり。総じて工夫は平生にある事なり。其座に望んでは、只無分別なる
べし。定家卿も歌は深く案じて、いらぬものなりと仰せられしなり。
付句第一調子のものなり。あればとて速く出すべからず。なきとてもひさ
しく案じ入るべからず。よくもあしくも一座の程をしりてこそ、はいかい
の世情にたよりある修行なりとしるべけれ。但し大事の付句は、先づ言ひ
はなて、のちに思ひ返せば心の結ばれとけて、かく別なり。
（詳細レベルで一部わかりにくいところもあるが、全体的には付句の心構え
としてなるほどと理解できる。）
○趣向を定る事
付句は趣向をさだむべし。其趣向といふは、一字二字三字には過べからず。
是を執中の法（しっちゅうのほう）といふなり。中略 此法は第一に、変
化のためなりと心得べし。中略 此執中の二字を指て、我家の秘法といふ
べし。人よく此法を工夫せば、天下の政（まつりごと）明らかに、人間明
けくれの働きをもしるべし。
（中略の部分は、支考特有の表現で言葉多くして逆にわかりにくい。秘法だ
からわざとわかりにくく表現しているのか。執中の法のもっとわかりやす
い説明が俳諧附合小鏡（蓼太）にあった。つづく。）
参考文献
二十五箇條（支考）
in 俳書大系 蕉門俳話文集 上巻、勝峰晋風、春秋社、昭和４年
俳諧古今抄（支考）再撰貞享式（二十五箇條）
in 俳諧叢書 俳諧註釈集 下巻、佐々醒雪・巌谷小波校訂、博文館、昭和２年
連句辞典、東明雅・杉内徒司・大畑健治、東京堂出版、昭和６１年
○付句案じやうの事
発句はかく別の事なり。付句は其座に望みて、無性に案じぬが能なり。我
心沈みぬれば、趣向もしづみ、我草臥れより人も草臥れて、一座終に成就
せず。
付句は初念の趣向より、心を落としつけるがよき也。此故に趣向を定る伝
授あり。総じて工夫は平生にある事なり。其座に望んでは、只無分別なる
べし。定家卿も歌は深く案じて、いらぬものなりと仰せられしなり。
付句第一調子のものなり。あればとて速く出すべからず。なきとてもひさ
しく案じ入るべからず。よくもあしくも一座の程をしりてこそ、はいかい
の世情にたよりある修行なりとしるべけれ。但し大事の付句は、先づ言ひ
はなて、のちに思ひ返せば心の結ばれとけて、かく別なり。
（詳細レベルで一部わかりにくいところもあるが、全体的には付句の心構え
としてなるほどと理解できる。）
○趣向を定る事
付句は趣向をさだむべし。其趣向といふは、一字二字三字には過べからず。
是を執中の法（しっちゅうのほう）といふなり。中略 此法は第一に、変
化のためなりと心得べし。中略 此執中の二字を指て、我家の秘法といふ
べし。人よく此法を工夫せば、天下の政（まつりごと）明らかに、人間明
けくれの働きをもしるべし。
（中略の部分は、支考特有の表現で言葉多くして逆にわかりにくい。秘法だ
からわざとわかりにくく表現しているのか。執中の法のもっとわかりやす
い説明が俳諧附合小鏡（蓼太）にあった。つづく。）
参考文献
二十五箇條（支考）
in 俳書大系 蕉門俳話文集 上巻、勝峰晋風、春秋社、昭和４年
俳諧古今抄（支考）再撰貞享式（二十五箇條）
in 俳諧叢書 俳諧註釈集 下巻、佐々醒雪・巌谷小波校訂、博文館、昭和２年
連句辞典、東明雅・杉内徒司・大畑健治、東京堂出版、昭和６１年
【変化のための付け方の妙法】のリサーチも革新に迫ってきた感じが(^^)
●再撰貞享式（二十五箇條）in 俳諧古今抄（支考）
発句も付合も、我家のさばきには趣向と句作の差別ありて、趣向を先にし
て句作を後にするとは、たとへば花の題をとりて雪かと見るは趣向にて、
袖うち払ふと姿をつけ、志賀の山越へと詞をさばく、そこを句作の上手と
いふなり。中略 ここをもて我家には趣向を定むる法ありて、それを執中
の法とはいへり。
（支考の論は短い方がわかりやすい。長いと逆におぼろげになる傾向がある。
この論はとてもわかりやすい。）
●俳諧附合小鏡（蓼太）
執中之法
一 芭蕉翁二十五條の内、付句に執中の法あり。執中とは中をとるといふこ
と也。案じ方の肝要とす。源氏物語などの大部なる物も、須磨の左遷よ
り筆をたてて、前後は枝葉なりとぞ。浄瑠璃の五段続きも、先づ三段目
の面白き所を作して、さて初後は寄せもの也。
付句も左の如く、前句に対して付くべき物は、一字二字三字には過ぎず、
是を弁へざれば、句に向かって趣向を求むる事遅し。ここに至りて執中
の法を用ふべし。
其一字二字に、てにはを加へ、延べもし縮めもして、二句連綿すること
也。
付句は蓮（はちす）の茎を切りはなして、中に糸を引くがごとく、情の
かよひたるを上品（じょうぼん）とす。つらねうたといふも此の心にや。
へし折る枝のからき肉桂
扨は夢座敷なくなる草枕
付けは夢の一字。
糊強き袴に秋を打うらみ
鬢の白髪を今朝見付けたり
付けは老いの一字。
手紙を持ちて人の名を問ふ
本膳が出ればおのおのかしこまり
付けは振舞（の二字）。
此の秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月
付けは左遷（の二字）。
鳴子おどろく片薮の窓
盗人につれそふ妹が身を泣きて
付けは盗人（の二字）。
（上を踏まえて、二十五箇條の趣向を定る事を再読するとぐっとわかりやすい。）
●二十五箇條（支考）
趣向を定る事
付句は趣向をさだむべし。其趣向といふは、一字二字三字には過べからず。
是を執中の法（しっちゅうのほう）といふなり。中略
されば表八句の趣向 はつ櫻 塗笠 暖簾 村雨 鶯 手習子 月 新酒
（注 この百韻をまだ見つけていない。ご存知の方お知らせ乞う。）
此の如く趣向を定め置て、あるひは作にも、あるひは不作にも、あるひは
かたく、あるひは和やかに、黒白青黄のすがたは作るに、皆ただ句作のて
づま（手妻、手品）なり。
此法をしらざれば、人の俳諧に驚く事あり。最二字三字の趣向より、変化
のすがたも明らかに見ゆる故に、此法をしらざる人は、我句を作りて後に
うちこしもよからず、変化もおもしろからねど、今までの骨折に心残りて、
其句を崩す事かたし。二字三字の趣向を変ゆる事は、かつておしむべき骨
折にてもなり。
此法は第一に、変化のためなりと心得べし。中略 此執中の二字を指て、
我家の秘法といふべし。人よく此法を工夫せば、天下の政（まつりごと）
明らかに、人間明けくれの働きをもしるべし。
（なるほど、前句に付ける趣向は句の中心となる一、二、三字の言葉でよく
後は付け足し、そして二句連綿（一連＝短歌）となればいいということか、
これは、ありがたい。あとは先人の作品を見つつ、練習、実践あるのみ。）
■参考文献
(1)再撰貞享式（二十五箇條）in 俳諧古今抄（支考）
in 俳諧叢書 俳諧註釈集 下巻、佐々醒雪・巌谷小波校訂、博文館、昭和２年
(2)俳諧附合小鏡（蓼太）
in 俳諧叢書 俳論作法集、佐々醒雪・巌谷小波校訂、博文館、１９１４年
(3)二十五箇條（支考）
in 俳書大系 蕉門俳話文集 上巻、勝峰晋風、春秋社、昭和４年
(4)連句辞典、東明雅・杉内徒司・大畑健治、東京堂出版、昭和６１年
革新は核心のミス(^^;)
で、【変化のための付け方の妙法】とは何か、若干のリサーチをしてきたが、
いままでのところ、以下の事項がそれに該当すると考える。なんとか付けの
細かい解説のオンパレードにならないでよかった。
【変化のための付け方の妙法】
○前句の情を引來るを嫌ふ。ただ前句は是いかなる場、いかなる人と、其事・
其位を能く見定め、（前句にない観点を選び）、前句をつきはなして附べし。
○執中の法 前句に対して付くべき物（趣向）は、一字二字三字のものでよく
あとは付け足しである。このレベルで変化を大きくとらえていけばよい。
○余情付け 前句の余情と同じ響き、匂い、位の意味内容的にあまり関係ない
句を付ける。
○見立て ある物（柳）を別の物（細身の美人）になぞらえる。
見立て替え（取り成し） ある見立てをちゃらにし違う見立てをする。
○どんなときでも、俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。
以上
で、【変化のための付け方の妙法】とは何か、若干のリサーチをしてきたが、
いままでのところ、以下の事項がそれに該当すると考える。なんとか付けの
細かい解説のオンパレードにならないでよかった。
【変化のための付け方の妙法】
○前句の情を引來るを嫌ふ。ただ前句は是いかなる場、いかなる人と、其事・
其位を能く見定め、（前句にない観点を選び）、前句をつきはなして附べし。
○執中の法 前句に対して付くべき物（趣向）は、一字二字三字のものでよく
あとは付け足しである。このレベルで変化を大きくとらえていけばよい。
○余情付け 前句の余情と同じ響き、匂い、位の意味内容的にあまり関係ない
句を付ける。
○見立て ある物（柳）を別の物（細身の美人）になぞらえる。
見立て替え（取り成し） ある見立てをちゃらにし違う見立てをする。
○どんなときでも、俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。
以上
此処で質問です。
付け方の態度
まず趣向を定める。 了解
執中の法→秘伝の妙法
そこで
? 此の秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月
付けは左遷（の二字）。 について
此の秋も門の板橋崩れけり の句を読んだ時 「左遷」の二文字をイメージした。
そこで
赦免にもれて独り見る月 という「左遷」そのものの句をつけた。勿論「歌一首」となっている。
これは分りやすい。
? 手紙を持ちて人の名を問ふ
本膳が出ればおのおのかしこまり
付けは振舞（の二字）。
手紙を持ちて人の名を問ふ を読んだ時、私は（素人、凡人）は「振舞」をイメージできない。
しかし、
本膳が出ればおのおのかしこまり の「振舞」の句をつけた。
勿論「歌一首」となっている。
此処の所、ちょっと説明をお願いします。
付け方の態度
まず趣向を定める。 了解
執中の法→秘伝の妙法
そこで
? 此の秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月
付けは左遷（の二字）。 について
此の秋も門の板橋崩れけり の句を読んだ時 「左遷」の二文字をイメージした。
そこで
赦免にもれて独り見る月 という「左遷」そのものの句をつけた。勿論「歌一首」となっている。
これは分りやすい。
? 手紙を持ちて人の名を問ふ
本膳が出ればおのおのかしこまり
付けは振舞（の二字）。
手紙を持ちて人の名を問ふ を読んだ時、私は（素人、凡人）は「振舞」をイメージできない。
しかし、
本膳が出ればおのおのかしこまり の「振舞」の句をつけた。
勿論「歌一首」となっている。
此処の所、ちょっと説明をお願いします。
『俳句的』 外山滋比古著 みすず書房
日本語は豆腐のような言葉である。ヨローッパの言語は煉瓦みたいである。
煉瓦は積み上げるためにある。どうすればしっかりした組み方ができるか。
要素の連結の仕方ということに論理の眼目がある。
それにひきかえ、豆腐は切る。積み重ねがきかないが、小さく切って、汁の中などに
放ってやる。主観を客観に散らす方法である。
散らしながら全体としてどこかつながっていないこともないのが、豆腐の美学であり
俳諧の美学である。
俳諧から座談会記事まで、日本の言語文化は放つ美学、逆エディターシップの
おもしろさを追及してきた軌跡であると言ってもよいのではあるまいか。
【変化のための付け方の妙法】を学んだ人は、これからはやっちゃあいけないこと。
私も（みなさんも？）さんざんやってきた覚えが。１は始めた頃から直感で確信の
ないまま守ってきましたが、２番、４番あたりをばんばんw
１、二句一連で短歌になっていない（意味が通らない）。
２、前句の一部の言葉や言葉尻をとらえ、前句とはそれ以外関係のないことを詠む。
結果、二句一連で支離滅裂、意味が通らない。しかもこれが芭蕉門の余情付け、
匂い付けだと大いなる勘違いをしている。
３、付け過ぎは初心者だと言われるので、はじめからまったく前句と関係のないこ
とを詠みベテランのふりをする。支離滅裂の無心所着歌。
４、前句に引きずられ単なる前句の説明、言い換え。これを昔から前句の噂（うわ
さ）、前句の断（ことはり）と呼び嫌う。
私も（みなさんも？）さんざんやってきた覚えが。１は始めた頃から直感で確信の
ないまま守ってきましたが、２番、４番あたりをばんばんw
１、二句一連で短歌になっていない（意味が通らない）。
２、前句の一部の言葉や言葉尻をとらえ、前句とはそれ以外関係のないことを詠む。
結果、二句一連で支離滅裂、意味が通らない。しかもこれが芭蕉門の余情付け、
匂い付けだと大いなる勘違いをしている。
３、付け過ぎは初心者だと言われるので、はじめからまったく前句と関係のないこ
とを詠みベテランのふりをする。支離滅裂の無心所着歌。
４、前句に引きずられ単なる前句の説明、言い換え。これを昔から前句の噂（うわ
さ）、前句の断（ことはり）と呼び嫌う。
＞俳句（発句）と俳諧
（俳諧の連歌）は厳密には違いますよね。
＞一緒くたにしている参考書や本も多いのですが。
大辞林
【的】
（接尾）
(1)名詞およびそれに準ずる語に付いて、形容動詞の語幹をつくる。
(ア)主に物や人を表す名詞に付いて、それそのものではないが、それに
似た性質をもっていることを表す。…のよう。…ふう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『俳句的』 外山滋比古著 みすず書房
本のタイトルが『俳句的』となっていることにご注意ください。
日本人の言語感覚について考察したもので、内容はワーズワースの詩、芭蕉と子規の句を
耳と目の違いでとらえたり、季語の地理、切れ字など多岐にわたっていて、興味深い本です。
コメントに引用したところは、映画のモンタージュの手法と、俳諧について述べておられる
ところです。
＞俳諧が連歌で、短歌を連ねるとしたとき、短歌は豆腐なのか、 煉瓦（連歌？w）なのか、
歌人として鉄線さんはどう思われま すか。
煉瓦と豆腐は外山氏が西洋と東洋の詩の対比として用いられた比喩ですから、
ご質問の趣旨がピンとこないのですが・・・ n（ー_ー？）ﾝ？
短歌自体は歌であり、調べを重視しますから、「連綿体のかな文字」といったところですが
連歌となると、別人と詠むのですから、不即不離の水に放たれた豆腐でよろしいのでは。
また短歌では動詞が重要なはたらきをしますね。
俳句の方と連句をなさるとき７・７の部分も体言止になさり、それを何句続けても平気なのには、
ときどきびっくりさせられます。
（俳諧の連歌）は厳密には違いますよね。
＞一緒くたにしている参考書や本も多いのですが。
大辞林
【的】
（接尾）
(1)名詞およびそれに準ずる語に付いて、形容動詞の語幹をつくる。
(ア)主に物や人を表す名詞に付いて、それそのものではないが、それに
似た性質をもっていることを表す。…のよう。…ふう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『俳句的』 外山滋比古著 みすず書房
本のタイトルが『俳句的』となっていることにご注意ください。
日本人の言語感覚について考察したもので、内容はワーズワースの詩、芭蕉と子規の句を
耳と目の違いでとらえたり、季語の地理、切れ字など多岐にわたっていて、興味深い本です。
コメントに引用したところは、映画のモンタージュの手法と、俳諧について述べておられる
ところです。
＞俳諧が連歌で、短歌を連ねるとしたとき、短歌は豆腐なのか、 煉瓦（連歌？w）なのか、
歌人として鉄線さんはどう思われま すか。
煉瓦と豆腐は外山氏が西洋と東洋の詩の対比として用いられた比喩ですから、
ご質問の趣旨がピンとこないのですが・・・ n（ー_ー？）ﾝ？
短歌自体は歌であり、調べを重視しますから、「連綿体のかな文字」といったところですが
連歌となると、別人と詠むのですから、不即不離の水に放たれた豆腐でよろしいのでは。
また短歌では動詞が重要なはたらきをしますね。
俳句の方と連句をなさるとき７・７の部分も体言止になさり、それを何句続けても平気なのには、
ときどきびっくりさせられます。
昔、古代史の大発見的な本を一冊買ったら、今でも新刊案内の冊子が送られてきま
すが、みすず書房の書籍は、かなり専門的マニアックで難しそうな本が多い感じで
すね。
＞映画のモンタージュの手法と俳諧
この取り合わせで思うのは、青空文庫で、寺田寅彦『俳諧の本質的概論』というの
がありますね。http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2471_9353.html
＞俳句の方と連句をなさるとき７・７の部分も体言止になさりそれを何句続けても
＞平気なのには、ときどきびっくりさせられます。
短歌でも、第五句（７・７）を体言止めにして感動と余韻を高め短歌全体にひきし
まった感じを持たせる という短歌論もみられますが。
びっくりしているのは７７を体言止めすることではなくて、長句も込みで、体言止
め何連続を平気でやるっていうことかな。
＞俳句、すなわち発句は、もともと連句から切れて独立したという発生上の由来
＞をもっている。 切れ字はかつての母体との連帯の名残を止める「へそ」のよう
＞なものであることも忘れてはならない。
なるほど。
これは興味深い論点ですね。私も俳諧時代の連句の発句（立句）と地発句、そして
近現代の俳句の異同についていずれ調べたいと思っています。でもどうやって(^^;)
すが、みすず書房の書籍は、かなり専門的マニアックで難しそうな本が多い感じで
すね。
＞映画のモンタージュの手法と俳諧
この取り合わせで思うのは、青空文庫で、寺田寅彦『俳諧の本質的概論』というの
がありますね。http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2471_9353.html
＞俳句の方と連句をなさるとき７・７の部分も体言止になさりそれを何句続けても
＞平気なのには、ときどきびっくりさせられます。
短歌でも、第五句（７・７）を体言止めにして感動と余韻を高め短歌全体にひきし
まった感じを持たせる という短歌論もみられますが。
びっくりしているのは７７を体言止めすることではなくて、長句も込みで、体言止
め何連続を平気でやるっていうことかな。
＞俳句、すなわち発句は、もともと連句から切れて独立したという発生上の由来
＞をもっている。 切れ字はかつての母体との連帯の名残を止める「へそ」のよう
＞なものであることも忘れてはならない。
なるほど。
これは興味深い論点ですね。私も俳諧時代の連句の発句（立句）と地発句、そして
近現代の俳句の異同についていずれ調べたいと思っています。でもどうやって(^^;)
寺田寅彦についての記述も、角川源義が『近代文学の孤独』で語った寅彦像を
引用して「ルネッサンス的人間」という章p.166〜に書かれています。
寅彦は「作品の上ばかりでなく、生活の上にもこれを行ひ得た、極僅かな作家の
一人であった。」
「これ」とは自己を捨てて自己を活す連句精神の具現のことである。
また外山氏は「あとがき」で
俳句という様式に強い関心をいだくようになったきっかけは、桑原武夫の
「第二芸術ー現代俳句について」である。
時が流れ、いまさら弁護論ではいかにも間が抜けていると思わないでもなかった
けれども、俳句のすぐれているところをはっきりさせようと考えた。
「第二芸術」論が外国文学批評の立場に立ったものであることもあり、このアポロギアも
ヨーロッパの文学思想を視野に入れて俳句を見ている。
そういうわけで、この本は、俳句の本質をえぐりだそうとしたものではなく、
俳句そのものを論じたというものでもない。外から俳句の特質をさぐったにすぎない。
「俳句的」を書名としたゆえんである。
＞寅彦は「作品の上ばかりでなく、生活の上にもこれを行ひ得た、
＞極僅かな作家の一人であった。」 「これ」とは自己を捨てて
＞自己を活す連句精神の具現のことである。
それは驚きです。連歌の心敬や宗祇、俳諧の芭蕉や鬼貫のように、
連句とおのれの生活を一如としてとらえた人が近代にもいたとい
うことですか！
青空文庫に寺田寅彦の俳諧／俳句／連句関係の論述が結構あるよう
なのでそこらへんをまず漁ってみます。
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person42.html#sakuhin_list_1
『寺田寅彦と連句』という本には寅彦の連句が載っているようですね。
＞極僅かな作家の一人であった。」 「これ」とは自己を捨てて
＞自己を活す連句精神の具現のことである。
それは驚きです。連歌の心敬や宗祇、俳諧の芭蕉や鬼貫のように、
連句とおのれの生活を一如としてとらえた人が近代にもいたとい
うことですか！
青空文庫に寺田寅彦の俳諧／俳句／連句関係の論述が結構あるよう
なのでそこらへんをまず漁ってみます。
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person42.html#sakuhin_list_1
『寺田寅彦と連句』という本には寅彦の連句が載っているようですね。
こっちか
春蘭
Just FYI.
『俳諧の本質的概論』寺田寅彦 （抜粋）
風雅は自我を去ることによって得らるる心の自由であり、万象の
正しい認識であるということから、和歌で理想とした典雅幽玄、
俳諧の魂とされたさびしおりというものがおのずから生まれて来
るのである。
芭蕉去って後の俳諧は狭隘（きょうあい）な個性の反撥力（はん
ぱつりょく）によって四散した。洒落風（しゃれふう）浮世風な
どというのさえできた。天明蕪村（ぶそん）の時代に一度は燃え
上がった余燼（よじん）も到底元禄（げんろく）の光炎に比すべ
くはなかった。芭蕉の完璧（かんぺき）の半面だけが光ってすぐ
消えた。天保より明治子規に至るいわゆる月並み宗匠流の俳諧は
最も低級なる川柳よりもさらに常套的（じょうとうてき）であり
無風雅であり不真実であり、俳諧の生命とする潜在的なるにおい
や響きは影を消した。最も顕在的に卑近なモラールやなぞなぞだ
けになってしまった。
あすの俳諧はどうなるであろうか。写生の行き詰まったあげくに
元禄（げんろく）に帰ろうとするは自然の勢いであろうが、芭蕉
の根本精神にまで立ちもどらなければ新しき展開は望まれないで
あろう。芭蕉は万葉から元禄までのあらゆる固有文化を消化し総
合して、そうして蒸留された国民思想のエッセンスを森羅万象（
しんらばんしょう）に映写した映像の中に「物の本情」を認めた
のである。われわれはその上に元禄以降大正昭和に至るまでのあ
らゆる所得を充分に吸収消化した上でもう一ぺん始めから出直さ
なければならないであろう。
『寺田寅彦と連句』榊原忠彦 （抜粋）
連句は、その一句としての価値を完全に発揮するためには、
（一）必ず前句を生かさなければならないこと、
（二）前句を生かすには、前句の中に潜在的にひそむところの
余情的な世界に着目して、それを別趣の映像として発展
させることによって、前句に新生命を与える手段が取ら
れていること、
（三）その生かし得たものによって付句の作者は自己の作を創
造し、これを発展させるものであること等が、おおよそ
に理解せられたかと思う。
「他を生かすことによってのみ自己が生き、自己が生きること
は同時に他を生かすことである」という消息は、ここに明ら
かにみられるのである。（引用『連句芸術の性格』能勢朝次）
252009年05月17日 11:44
mamiy >「他を生かすことによってのみ自己が生き、自己が生きること
は同時に他を生かすことである」
う〜〜む
これは、いきるすべ、付き合いのコツではありませんか
262009年05月17日 12:11
春蘭 張り合ったり皮肉ったりしているうちはこの境はほど遠いでしょうねw
272009年05月17日 14:36
鉄線 外山滋比古『俳句的』
もっともすぐれているのは、漱石が”即天去私”を説いたのに対し、
寅彦はまず”即天即私”の道を通らなくてはならぬと考えた、という
『近代文学の孤独』（角川源義）の一章であろう。
ここではむしろ漱石以上に寅彦を買っているように受け取られる。
春蘭
Just FYI.
『俳諧の本質的概論』寺田寅彦 （抜粋）
風雅は自我を去ることによって得らるる心の自由であり、万象の
正しい認識であるということから、和歌で理想とした典雅幽玄、
俳諧の魂とされたさびしおりというものがおのずから生まれて来
るのである。
芭蕉去って後の俳諧は狭隘（きょうあい）な個性の反撥力（はん
ぱつりょく）によって四散した。洒落風（しゃれふう）浮世風な
どというのさえできた。天明蕪村（ぶそん）の時代に一度は燃え
上がった余燼（よじん）も到底元禄（げんろく）の光炎に比すべ
くはなかった。芭蕉の完璧（かんぺき）の半面だけが光ってすぐ
消えた。天保より明治子規に至るいわゆる月並み宗匠流の俳諧は
最も低級なる川柳よりもさらに常套的（じょうとうてき）であり
無風雅であり不真実であり、俳諧の生命とする潜在的なるにおい
や響きは影を消した。最も顕在的に卑近なモラールやなぞなぞだ
けになってしまった。
あすの俳諧はどうなるであろうか。写生の行き詰まったあげくに
元禄（げんろく）に帰ろうとするは自然の勢いであろうが、芭蕉
の根本精神にまで立ちもどらなければ新しき展開は望まれないで
あろう。芭蕉は万葉から元禄までのあらゆる固有文化を消化し総
合して、そうして蒸留された国民思想のエッセンスを森羅万象（
しんらばんしょう）に映写した映像の中に「物の本情」を認めた
のである。われわれはその上に元禄以降大正昭和に至るまでのあ
らゆる所得を充分に吸収消化した上でもう一ぺん始めから出直さ
なければならないであろう。
『寺田寅彦と連句』榊原忠彦 （抜粋）
連句は、その一句としての価値を完全に発揮するためには、
（一）必ず前句を生かさなければならないこと、
（二）前句を生かすには、前句の中に潜在的にひそむところの
余情的な世界に着目して、それを別趣の映像として発展
させることによって、前句に新生命を与える手段が取ら
れていること、
（三）その生かし得たものによって付句の作者は自己の作を創
造し、これを発展させるものであること等が、おおよそ
に理解せられたかと思う。
「他を生かすことによってのみ自己が生き、自己が生きること
は同時に他を生かすことである」という消息は、ここに明ら
かにみられるのである。（引用『連句芸術の性格』能勢朝次）
252009年05月17日 11:44
mamiy >「他を生かすことによってのみ自己が生き、自己が生きること
は同時に他を生かすことである」
う〜〜む
これは、いきるすべ、付き合いのコツではありませんか
262009年05月17日 12:11
春蘭 張り合ったり皮肉ったりしているうちはこの境はほど遠いでしょうねw
272009年05月17日 14:36
鉄線 外山滋比古『俳句的』
もっともすぐれているのは、漱石が”即天去私”を説いたのに対し、
寅彦はまず”即天即私”の道を通らなくてはならぬと考えた、という
『近代文学の孤独』（角川源義）の一章であろう。
ここではむしろ漱石以上に寅彦を買っているように受け取られる。
寺田寅彦と連句
小宮豊隆宛の書簡で、
「則天去私に達するにはどうも一度は則天即私の道を通らなければダメのような気が
する。そうでないと則天去私の「私」も何も出来やしない。」と言い、二年後の書簡
では「僕は一生則私去天で終わりそうです。」と言う。しかし、その三ヶ月後の書簡
で、ついに悟達を思わせるようなことを言う。
「人の付け方が自分の気に入らぬ時でも
それをそのままに受納して
そうしてそれに付け方によって、
その気に入らぬ句を気に入るように活かすことを考えるのが
非常に張り合いのあることのように思われます。
これはもちろん油臭い我の強いやり方ではありますが、
そういう努力と闘争を続けることによって
芭蕉の到達した処に近づくことができるのではないかという気もします。
甚だ非凡なことではあるが
適切にそういうことを感じましたから申し上げます。」
※ この一文に出逢えこの本を読んだ甲斐があった。ひたぶるに共感できる。
正岡子規『俳諧大要』より第八章 俳諧連歌を抜粋
第八 俳諧連歌
一、易、源氏、七十二候など、その外、種々の名称あれども多くは空名に過ぎず。実際に行はるる者は歌仙を最も多しとし、百韻これに次ぐ。
一、歌仙は三十六句を以て成り、百韻は百句を以て成る。長句、短句にかかはらずこれを一句といふ。発句と最後の一句を除きて外は各句両用なるを以て、歌仙には三十五首の歌（則ち長句短句合わしたる者）あり、百韻には九十九首の歌あるわけなり。
一、歌仙は長に過ぎず、短に過ぎず、変化度に適せり。故に芭蕉以後は歌仙最も多く行はれたり。初学の人、連句を学ぶ、また歌仙よりすべし。
一、連句は変化を貴ぶ故に、その打越に似るを嫌ふ。即ち第三の句は第二句に附くこと言ふまでもなく、しかして第一句とはなるべく懸隔せるを要す。けだし第一句、第三句共に第二句に附く故に、両句動もすれば同一の趣向となり、あるいは正反対の趣向（黒と白、男と女、戦争と平和等の如し）となるを免れず。同一の趣向の変化せざるは勿論にして、正反対の趣向もまた変化せざるものなり。
一、「二句去り」、「三句去り」などといふことあり。「何句去り」とは、何句の間その物を泳みこむを禁ずといふことなり。例へば「竹は木に二句去りなり」といへば、木を詠み込し句より後二句の中には、竹を詠まれぬが如し。これらの法則は余りうるさきやうなれども、つまり法則的に変化せしめんとの意より出でたる者にして、愚人に連歌、連句を教へんがためなり。いやしくも変化の本意を知る者は、かかる人為の法則に拘泥するに及ぱず。ただ我が思ふままに馳駆して可なり。試みに芭蕉一派の連句を披き見よ。その古格を破りて縦横に思想を吐き散らせし処、常にその妙を見はすを。
一、古来定め来りし「去り」「嫌ひ」は、やや寛に過ぐるを憂ふ。二句去り、三句去りといふもの、多くは五句も六句も去らざれば変化少かるべし。
一、歌仙は分ちて表六句、裏十二句、名残の表十二句、名残の裏六句となす。
一、「月花の定座」なる者あり。そは月と花とを詠みこまざるべからざる句をいふ。即ち「月の定座」は表の第五句、裏の第七句、名残の表の第十一句とし、「花の定座」は裏の第十一句、名残の裏の第五句とす。但しこの句と固定せるにはあらず。時に応じて種々に動くべし。
一、表六句（百韻は八句）には神祗、釈教、恋、無常、述懐、人名、地名、疾病等を禁ず。窮屈なるやうなれども一理なきにあらず、従ふべし。元来歌仙全体を一つの物と見る時は、表は詩の起句の如し、故に此処はなるべくすらりとして苦の無きやうに致し、以て後段に変化の地を残し置くなり。二の表は、更に変化を要する所なりとぞ。
一、脇（第二句）には字止といふ定めあり。字止は名詞止なり。第三には「て止」といふ定めあり。これら、あながち固守すべきにもあらねど、また一理なきにもあらず。初学は古法に従ふべし。
一、春秋二季は三句乃至五句続き、夏冬二季は一句乃至三句続くを定めとす。時の宜しきに従ふべし。
一、月といふ者、必ずしも秋月なるを要せず。殊に裏の月は秋月ならぬ方、かへつて宜しからん。
一、花といふ者、必ず桜花なるを要せず。梅、桃、李、杏、もとより可なり。他季の花を用うる、また可なり。花と言はずして桜といふ、もとより可なり。各人の適宜に任すべし。 ＊注：古式の引用であろう。芭蕉門では桜以外の植物の花を正花とはみなしていない。
第八 俳諧連歌
一、易、源氏、七十二候など、その外、種々の名称あれども多くは空名に過ぎず。実際に行はるる者は歌仙を最も多しとし、百韻これに次ぐ。
一、歌仙は三十六句を以て成り、百韻は百句を以て成る。長句、短句にかかはらずこれを一句といふ。発句と最後の一句を除きて外は各句両用なるを以て、歌仙には三十五首の歌（則ち長句短句合わしたる者）あり、百韻には九十九首の歌あるわけなり。
一、歌仙は長に過ぎず、短に過ぎず、変化度に適せり。故に芭蕉以後は歌仙最も多く行はれたり。初学の人、連句を学ぶ、また歌仙よりすべし。
一、連句は変化を貴ぶ故に、その打越に似るを嫌ふ。即ち第三の句は第二句に附くこと言ふまでもなく、しかして第一句とはなるべく懸隔せるを要す。けだし第一句、第三句共に第二句に附く故に、両句動もすれば同一の趣向となり、あるいは正反対の趣向（黒と白、男と女、戦争と平和等の如し）となるを免れず。同一の趣向の変化せざるは勿論にして、正反対の趣向もまた変化せざるものなり。
一、「二句去り」、「三句去り」などといふことあり。「何句去り」とは、何句の間その物を泳みこむを禁ずといふことなり。例へば「竹は木に二句去りなり」といへば、木を詠み込し句より後二句の中には、竹を詠まれぬが如し。これらの法則は余りうるさきやうなれども、つまり法則的に変化せしめんとの意より出でたる者にして、愚人に連歌、連句を教へんがためなり。いやしくも変化の本意を知る者は、かかる人為の法則に拘泥するに及ぱず。ただ我が思ふままに馳駆して可なり。試みに芭蕉一派の連句を披き見よ。その古格を破りて縦横に思想を吐き散らせし処、常にその妙を見はすを。
一、古来定め来りし「去り」「嫌ひ」は、やや寛に過ぐるを憂ふ。二句去り、三句去りといふもの、多くは五句も六句も去らざれば変化少かるべし。
一、歌仙は分ちて表六句、裏十二句、名残の表十二句、名残の裏六句となす。
一、「月花の定座」なる者あり。そは月と花とを詠みこまざるべからざる句をいふ。即ち「月の定座」は表の第五句、裏の第七句、名残の表の第十一句とし、「花の定座」は裏の第十一句、名残の裏の第五句とす。但しこの句と固定せるにはあらず。時に応じて種々に動くべし。
一、表六句（百韻は八句）には神祗、釈教、恋、無常、述懐、人名、地名、疾病等を禁ず。窮屈なるやうなれども一理なきにあらず、従ふべし。元来歌仙全体を一つの物と見る時は、表は詩の起句の如し、故に此処はなるべくすらりとして苦の無きやうに致し、以て後段に変化の地を残し置くなり。二の表は、更に変化を要する所なりとぞ。
一、脇（第二句）には字止といふ定めあり。字止は名詞止なり。第三には「て止」といふ定めあり。これら、あながち固守すべきにもあらねど、また一理なきにもあらず。初学は古法に従ふべし。
一、春秋二季は三句乃至五句続き、夏冬二季は一句乃至三句続くを定めとす。時の宜しきに従ふべし。
一、月といふ者、必ずしも秋月なるを要せず。殊に裏の月は秋月ならぬ方、かへつて宜しからん。
一、花といふ者、必ず桜花なるを要せず。梅、桃、李、杏、もとより可なり。他季の花を用うる、また可なり。花と言はずして桜といふ、もとより可なり。各人の適宜に任すべし。 ＊注：古式の引用であろう。芭蕉門では桜以外の植物の花を正花とはみなしていない。
一、恋を一句にて棄てずといふ定めあり。従ふに及ばず。
一、百韻は初折表八句裏十四句、二の折表十四句裏十四句、三の折表十四句裏十四句、四の折表十四句裏八句なり。
一、百韻の月の定座は、表の終より二句目、裏（名残の裏を除く）の九句目なり。花は、裏の終より二句目なり。百韻にては殊に月花の定座に拘泥すべからず。
一、百韻は長き故に、ともすれば同一の趣向に陥りやすし。全体の変化に注意すること、最も肝心なり。一句々々の附具合も、歌仙に比すれば親句多かるべし。しからざれば窮屈なる百韻 となりをはらん。
一、規則、附様等、一々に説明しがたし。古書について見るべし。
一、俳諧連歌における各句の接続は、多く不即不離の間にあり。密着せる句、多くは佳ならず、一見無関係なるが如き句、必ずしも悪しからず。切なる関係なしとは見えながら、また前何と連続せざるにもあらざる処に、多く妙味を存するなり。初学のために一例を挙げて解釈すべし。
一、左に録する俳諧連歌は十八句より成り、召波十三回の迫悼会に催せし者と知らる。脇起とは、その座にをらぬ人の俳句を竪句（第一句）として作る者にて、追善の場合に亡き人の句を竪句とすること普通の例なり。これもまたしかなり。＊注：以下各句の評釈は省略。
冬ごもり五車の反古のあるじかな 召波
ひとり寒夜にホトギうつ月 維駒
郊外何焚やらん煙して 鉄僧
流れの末の水は二筋 臥央
枝伐て一のまぶしを定むらし 蕪村
甥の太郎が先づ口をきく 百池
新宅の夏を住みよき柱組 也好
水打ちそゝぐ進物の鯛 春坡
裂けやすき糸の乱れの古袴 正巴
妻を奪ひ行く夜半の暗きに 之兮
ちら／\と雪降る竹の伏見道 道立
小荷駄返して馬嘶ふらん 我則
泣く／\も棺を出だす暮の月 自笑
よからぬ酒に胸を病む秋 佳棠
小商ひ露のいく野の旅なれや 湖柳
燕来る日の長閑なりけり 湖��
反古ならぬ五車の主よ花の時 几董
春や昔の山吹の庵 田鶴
一、この連句にて、各句の附具合はそれぞれに味ひありて面白し。ただ一句として面白き句は
水うちそゝぐ進物の鯛
裂けやすき糸の乱れの古袴
妻を奪い行く夜半の暗きに
ちら／\と雪降る竹の伏見道
なく／\も棺を出だす暮の月
など、などなるべし。
明治二十八年十月二十二〜十二月三十一日
一、百韻は初折表八句裏十四句、二の折表十四句裏十四句、三の折表十四句裏十四句、四の折表十四句裏八句なり。
一、百韻の月の定座は、表の終より二句目、裏（名残の裏を除く）の九句目なり。花は、裏の終より二句目なり。百韻にては殊に月花の定座に拘泥すべからず。
一、百韻は長き故に、ともすれば同一の趣向に陥りやすし。全体の変化に注意すること、最も肝心なり。一句々々の附具合も、歌仙に比すれば親句多かるべし。しからざれば窮屈なる百韻 となりをはらん。
一、規則、附様等、一々に説明しがたし。古書について見るべし。
一、俳諧連歌における各句の接続は、多く不即不離の間にあり。密着せる句、多くは佳ならず、一見無関係なるが如き句、必ずしも悪しからず。切なる関係なしとは見えながら、また前何と連続せざるにもあらざる処に、多く妙味を存するなり。初学のために一例を挙げて解釈すべし。
一、左に録する俳諧連歌は十八句より成り、召波十三回の迫悼会に催せし者と知らる。脇起とは、その座にをらぬ人の俳句を竪句（第一句）として作る者にて、追善の場合に亡き人の句を竪句とすること普通の例なり。これもまたしかなり。＊注：以下各句の評釈は省略。
冬ごもり五車の反古のあるじかな 召波
ひとり寒夜にホトギうつ月 維駒
郊外何焚やらん煙して 鉄僧
流れの末の水は二筋 臥央
枝伐て一のまぶしを定むらし 蕪村
甥の太郎が先づ口をきく 百池
新宅の夏を住みよき柱組 也好
水打ちそゝぐ進物の鯛 春坡
裂けやすき糸の乱れの古袴 正巴
妻を奪ひ行く夜半の暗きに 之兮
ちら／\と雪降る竹の伏見道 道立
小荷駄返して馬嘶ふらん 我則
泣く／\も棺を出だす暮の月 自笑
よからぬ酒に胸を病む秋 佳棠
小商ひ露のいく野の旅なれや 湖柳
燕来る日の長閑なりけり 湖��
反古ならぬ五車の主よ花の時 几董
春や昔の山吹の庵 田鶴
一、この連句にて、各句の附具合はそれぞれに味ひありて面白し。ただ一句として面白き句は
水うちそゝぐ進物の鯛
裂けやすき糸の乱れの古袴
妻を奪い行く夜半の暗きに
ちら／\と雪降る竹の伏見道
なく／\も棺を出だす暮の月
など、などなるべし。
明治二十八年十月二十二〜十二月三十一日
芭蕉の俳諧 匂い付け
in 付録「元禄の蕉風」佐々醒雪 in 『俳諧註釈集上巻』 東京博文館
付合には、古来三変があると、蕉風では常に説かれている。
第一は「付け物」（注 物付け）即ち貞門風の語の縁によって句を連ねることで、それが談林風では「心付け」に転じた。その「心付け」とは、前句の余意余情を以って付句を作ることをいうのである。ところが「心付け」ではなお前句の作者の作意を受けたものであるから十分に変化しない。自分の趣向が前句の作者に囚われていて面白くない。
さればとて古風な取做し付け（注：見立て替え、曲解）では、前句の作者の思い及ばぬ趣向は得られるが、丸で謎々を説いた様で、毫も詩趣がなく、言語上の洒落に落ちる。
そこで前句に囚われず自由に新意を出しつつなお語の縁をも借りないで工夫を凝らしたのが、芭蕉の創意で、所謂る匂いの付けまたは位あるいは響きの付けというのである。
匂い、位、響きは、全く同じ意味で、畢竟、前句の縁語は勿論、その余意をももとめずして、ただ前句の匂いと同じ匂いのする句を付けるということで、他の語でいえば前句の位や響きと同じ位、同じ響きの句を付けるというのである。
たとえば、
灰うちたたくうるめ一枚
というと、自ら田舎びた匂いがするから、同じ田舎めいた匂いのする句、
此の筋は銀も見知らず不自由さよ
と付ける。この句には銀の両替が出来ぬからうるめで辛抱したという様な意味は決してない。ただ前句と付句の匂いが相通うのみである。もし更に、
青天に有明月の朝ぼらけ
という句をとると、自ら壮快で眼界の非常に広い様な心持ちがする、その位、その響きを以って、やはり大きな句を付けたのが、
湖水の秋の比良の初霜
である。
in 付録「元禄の蕉風」佐々醒雪 in 『俳諧註釈集上巻』 東京博文館
付合には、古来三変があると、蕉風では常に説かれている。
第一は「付け物」（注 物付け）即ち貞門風の語の縁によって句を連ねることで、それが談林風では「心付け」に転じた。その「心付け」とは、前句の余意余情を以って付句を作ることをいうのである。ところが「心付け」ではなお前句の作者の作意を受けたものであるから十分に変化しない。自分の趣向が前句の作者に囚われていて面白くない。
さればとて古風な取做し付け（注：見立て替え、曲解）では、前句の作者の思い及ばぬ趣向は得られるが、丸で謎々を説いた様で、毫も詩趣がなく、言語上の洒落に落ちる。
そこで前句に囚われず自由に新意を出しつつなお語の縁をも借りないで工夫を凝らしたのが、芭蕉の創意で、所謂る匂いの付けまたは位あるいは響きの付けというのである。
匂い、位、響きは、全く同じ意味で、畢竟、前句の縁語は勿論、その余意をももとめずして、ただ前句の匂いと同じ匂いのする句を付けるということで、他の語でいえば前句の位や響きと同じ位、同じ響きの句を付けるというのである。
たとえば、
灰うちたたくうるめ一枚
というと、自ら田舎びた匂いがするから、同じ田舎めいた匂いのする句、
此の筋は銀も見知らず不自由さよ
と付ける。この句には銀の両替が出来ぬからうるめで辛抱したという様な意味は決してない。ただ前句と付句の匂いが相通うのみである。もし更に、
青天に有明月の朝ぼらけ
という句をとると、自ら壮快で眼界の非常に広い様な心持ちがする、その位、その響きを以って、やはり大きな句を付けたのが、
湖水の秋の比良の初霜
である。
連句は曲解の文学、か？
連歌辞典：
【取りなし】
付け方の一体。前句の言葉や意味を、もとの意味と違ったものに取りなして転じる手法をいう。二条良基『撃蒙抄』にも見える同音異義（「恨み」を「浦見」など）に転換する詞の取りなしと、前句の場面や動作主体を転化する心の取りなしとがある。宗牧『当世連歌秘事』によれば、宗砌はこれも大事であるとしたが、宗祇は『長六文』で好ましくない例を挙げて批判した。宗長『連歌比況集』では前句のもとの内容を無視することのないように注意すべきと説く。
連句辞典：
【見立て替え】
打越の句に対して付けられた前句の趣向を、付句を付けるときに別の意味に解釈すること。主に談林俳諧で用いられた手法で、一句一句の独立性や三句の渡りを重んじる蕉風連句では、前句の解釈可能な範囲内で行われ、奇抜で極端な曲解をしたり、好んで用いるということはされない。
一例を蕉風連句から挙げると、
蝶はむぐらにとばかり鼻かむ 芭蕉
のり物に簾透顔おぼろなる 重五
いまぞ恨の矢をはなつ声 荷兮
『冬の日』「狂句こがらし」の巻
では、蝶はむぐらにから優美な貴人をもって前句が付けられているのに、付句はその人物を戦国時代の憎々しい面構えの男と見立て替えして付けたものである。劇的な事件への急転であるが、前句自体の解釈は許容範囲内にある。
感想：
連句は曲解の文学と言った人がいるようだが、曲解（＝取りなし＝見立て替え）は、付けおよび転じの一手法であり一面はとらえているが言い過ぎである。またその説を批判した人は蕉風俳諧に曲解は皆無であると言っているがそれも言い過ぎであろう。
連歌辞典：
【取りなし】
付け方の一体。前句の言葉や意味を、もとの意味と違ったものに取りなして転じる手法をいう。二条良基『撃蒙抄』にも見える同音異義（「恨み」を「浦見」など）に転換する詞の取りなしと、前句の場面や動作主体を転化する心の取りなしとがある。宗牧『当世連歌秘事』によれば、宗砌はこれも大事であるとしたが、宗祇は『長六文』で好ましくない例を挙げて批判した。宗長『連歌比況集』では前句のもとの内容を無視することのないように注意すべきと説く。
連句辞典：
【見立て替え】
打越の句に対して付けられた前句の趣向を、付句を付けるときに別の意味に解釈すること。主に談林俳諧で用いられた手法で、一句一句の独立性や三句の渡りを重んじる蕉風連句では、前句の解釈可能な範囲内で行われ、奇抜で極端な曲解をしたり、好んで用いるということはされない。
一例を蕉風連句から挙げると、
蝶はむぐらにとばかり鼻かむ 芭蕉
のり物に簾透顔おぼろなる 重五
いまぞ恨の矢をはなつ声 荷兮
『冬の日』「狂句こがらし」の巻
では、蝶はむぐらにから優美な貴人をもって前句が付けられているのに、付句はその人物を戦国時代の憎々しい面構えの男と見立て替えして付けたものである。劇的な事件への急転であるが、前句自体の解釈は許容範囲内にある。
感想：
連句は曲解の文学と言った人がいるようだが、曲解（＝取りなし＝見立て替え）は、付けおよび転じの一手法であり一面はとらえているが言い過ぎである。またその説を批判した人は蕉風俳諧に曲解は皆無であると言っているがそれも言い過ぎであろう。
蕉門の前句を転ずる妙法とは何か
まだ確証はないが１、２、３と、連歌時代から存在する４も含めた全体を指すか。
１、匂い付け（余情付け）
前句の余情と同じ匂い・位・響きの意味的には直接関係のない句を付ける。
灰うちたたくうるめ一枚
此の筋は銀も見知らず不自由さよ 同じ田舎の匂い
青天に有明月の朝ぼらけ
湖水の秋の比良の初霜 同じ壮大な響き
２、執中の法
前句の余情から中心となる一二三字の単語を連想し意味的には直接関係のない句を付ける。
糊強き袴に秋を打うらみ
鬢の白髪を今朝見付けたり 老を連想
手紙を持ちて人の名を問ふ
本膳が出ればおのおのかしこまり 振舞を連想
此の秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月 左遷を連想
３、空撓め（そらだめ）
前句とは何の付け筋もなくふと思い浮かんだ姿をもって直感的に句を付ける。それでいながら無心所着（短歌として意味不明）ではない。蕉門の秘法・妙法とも言われるが芭蕉自身も直弟子にも具体的に説明し得ない絶妙の術と言う。支考は証句として以下を挙げたが、七部集を繙き、付け筋はわからないが意味は通じる付句を探して、自分で判断し学ぶしかないのかも知れない。
障子に影の夕日ちらつく
婿殿はどれぞと老の目を拭ひ
４、見立て替え（取りなし）
打越に対する前句の意味を意図的に取り違えて句を付ける。
蝶はむぐらにとばかり鼻かむ
のり物に簾透顔おぼろなる 貴婦人を
いまぞ恨の矢をはなつ声 仇敵に見立て替え
参考文献
（１）俳諧叢書 俳論作法集、佐々醒雪 巌谷小波校注、東京博文館、大正三年
（２）俳諧叢書 俳諧註釈集 上巻、佐々醒雪 巌谷小波校注、東京博文館、大正十三年
（３）日本俳書大系 蕉門俳話文集 上巻、春秋社、昭和四年
写真提供は<a href="http://photozou.jp/photo/top">フォト蔵さん</a>
まだ確証はないが１、２、３と、連歌時代から存在する４も含めた全体を指すか。
１、匂い付け（余情付け）
前句の余情と同じ匂い・位・響きの意味的には直接関係のない句を付ける。
灰うちたたくうるめ一枚
此の筋は銀も見知らず不自由さよ 同じ田舎の匂い
青天に有明月の朝ぼらけ
湖水の秋の比良の初霜 同じ壮大な響き
２、執中の法
前句の余情から中心となる一二三字の単語を連想し意味的には直接関係のない句を付ける。
糊強き袴に秋を打うらみ
鬢の白髪を今朝見付けたり 老を連想
手紙を持ちて人の名を問ふ
本膳が出ればおのおのかしこまり 振舞を連想
此の秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月 左遷を連想
３、空撓め（そらだめ）
前句とは何の付け筋もなくふと思い浮かんだ姿をもって直感的に句を付ける。それでいながら無心所着（短歌として意味不明）ではない。蕉門の秘法・妙法とも言われるが芭蕉自身も直弟子にも具体的に説明し得ない絶妙の術と言う。支考は証句として以下を挙げたが、七部集を繙き、付け筋はわからないが意味は通じる付句を探して、自分で判断し学ぶしかないのかも知れない。
障子に影の夕日ちらつく
婿殿はどれぞと老の目を拭ひ
４、見立て替え（取りなし）
打越に対する前句の意味を意図的に取り違えて句を付ける。
蝶はむぐらにとばかり鼻かむ
のり物に簾透顔おぼろなる 貴婦人を
いまぞ恨の矢をはなつ声 仇敵に見立て替え
参考文献
（１）俳諧叢書 俳論作法集、佐々醒雪 巌谷小波校注、東京博文館、大正三年
（２）俳諧叢書 俳諧註釈集 上巻、佐々醒雪 巌谷小波校注、東京博文館、大正十三年
（３）日本俳書大系 蕉門俳話文集 上巻、春秋社、昭和四年
写真提供は<a href="http://photozou.jp/photo/top">フォト蔵さん</a>
蕉門の見立・趣向・句作の定法十三条
所収：原田曲齋『七部婆心録』
序
俳諧の連歌において付句は、以下の三つのプロセスによって行われる。
（１）見立：前句の意を転ずる案じ方で前句をどういう場面と見立てるか、
決める。
（２）趣向：初念の見立に対し付句をいかなる場、人、体、用、情、趣意
の趣向（付けの物柄）とするか、前句に対しいかなる姿勢、重ー起
情、中ー会釈、軽ー遁句で付けるか、起情、会釈は曲節ありなしの
どちらでいくか決める。
（３）句作：見立と趣向を掛け合わせ、古語、俤取り、余情などを加味し
て一句を仕立てる。
この三つを備えない句は大方、前句の註（説明）か一向に付かない句で
ある。
見立の五条
一、前句の上中下に言葉を添えて魂を替える法。
一、に留て留の句を見替えるには、に、ての後ろに言葉を添えること
定法なり。
一、何に対してかく言うと前句を咎める案じ方あり。
一、前句を虚(嘘)に言う言葉と見て、付句にその続きの戯言を付ける。
付句例 鼓手向くる弁慶の宮、麻刈といふ歌の集む
一、即体 其用や其情の句が並んだとき体ある物に見立てる。
趣向の五条
一、准(なぞらえ)付 人情をものに譬えた前句には其のものに対
して付ける。
一、逆付(後付) 前句より先に起こるべき事象を後から付ける。
巾に木槿を挟む琵琶打
牛の跡弔ふ草の夕暮に
一、裏付 前句の言葉の裏の意味を読み付ける。
道のべに立ち暮らしたる禰宜が麻
楽する頃と思ふ年延
一、それにつけてもの用 前句の内容であるが、それにつけてもと
案じる。
一、空撓め 前句とは何の付け筋もなくふと思い浮かんだ姿をもっ
て直感的に句を付ける。それでいながら無心所着（短歌として意
味不明）ではない。蕉門の秘法・妙法とも言われるが芭蕉自身も
直弟子にも具体的に説明し得ない絶妙の術と言う。支考は証句と
して以下を挙げたが、七部集を繙き付け筋はわからないが意味は
通じる付句を探して、自分で判断し学ぶしかないのかも知れない。
障子に影の夕日ちらつく
婿殿はどれぞと老の目を拭ひ
句作の三条
一、相係り（前句の見立に半ば係りの言葉があれば付句も前句に
半ば懸けて作る。）、係付（前句を平生ならず見立てるとき
は、見立ての中の言葉で前句にもたれるように作る。） 結
付（前句に情か用の言葉がありその意を転ずるときは、付句
は其場、其体をもって作る。）
一、不用の用 後句を付けやすくするために付句には不用な言葉を
付加する。
一、執中の法 前句の余情から中心となる一二三字の単語を連想し意
味的には直接関係のない句を付ける。
糊強き袴に秋を打うらみ
鬢の白髪を今朝見付けたり 老を連想
手紙を持ちて人の名を問ふ
本膳が出ればおのおのかしこまり 振舞を連想
此の秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月 左遷を連想
感想：
曲齋の『貞享式海印録』は、芭蕉俳諧の作法がどういうものだったか窺うには最適な書である。芭蕉門には前句の意を転ずる妙法なるものがあるから古式のような式目は不用なのだという記述が含まれている。その妙法とは匂付け（余情付け）、執中の法、空撓め、見立て替えかと私は見当を付けたが自信はない。評釈が嫌いできちんと読んだことがなかった芭蕉七部集の評釈本『七部婆心録』の註釈の仕方を解説した中に上述のコンパクトな記述を発見(^^)した。曲齋はこれを基に『附句見立鏡』という書を構想していたらしい。実際に発刊したのかは今の所不明である。曲齋が考える妙法には、私が見当を付けた四項目は含まれていたがそればかりではなかった。また、すべての付けは、前句の見立てなのだという考えに立っており、連句は見立て替え（曲解）の文芸なのだという説の論拠になり得そうである。難解で正しく咀嚼できたかは自信がない。今まで見立、趣向、句作を一緒くたにしてきた自身の付け転じに光明となることを祈る。
所収：原田曲齋『七部婆心録』
序
俳諧の連歌において付句は、以下の三つのプロセスによって行われる。
（１）見立：前句の意を転ずる案じ方で前句をどういう場面と見立てるか、
決める。
（２）趣向：初念の見立に対し付句をいかなる場、人、体、用、情、趣意
の趣向（付けの物柄）とするか、前句に対しいかなる姿勢、重ー起
情、中ー会釈、軽ー遁句で付けるか、起情、会釈は曲節ありなしの
どちらでいくか決める。
（３）句作：見立と趣向を掛け合わせ、古語、俤取り、余情などを加味し
て一句を仕立てる。
この三つを備えない句は大方、前句の註（説明）か一向に付かない句で
ある。
見立の五条
一、前句の上中下に言葉を添えて魂を替える法。
一、に留て留の句を見替えるには、に、ての後ろに言葉を添えること
定法なり。
一、何に対してかく言うと前句を咎める案じ方あり。
一、前句を虚(嘘)に言う言葉と見て、付句にその続きの戯言を付ける。
付句例 鼓手向くる弁慶の宮、麻刈といふ歌の集む
一、即体 其用や其情の句が並んだとき体ある物に見立てる。
趣向の五条
一、准(なぞらえ)付 人情をものに譬えた前句には其のものに対
して付ける。
一、逆付(後付) 前句より先に起こるべき事象を後から付ける。
巾に木槿を挟む琵琶打
牛の跡弔ふ草の夕暮に
一、裏付 前句の言葉の裏の意味を読み付ける。
道のべに立ち暮らしたる禰宜が麻
楽する頃と思ふ年延
一、それにつけてもの用 前句の内容であるが、それにつけてもと
案じる。
一、空撓め 前句とは何の付け筋もなくふと思い浮かんだ姿をもっ
て直感的に句を付ける。それでいながら無心所着（短歌として意
味不明）ではない。蕉門の秘法・妙法とも言われるが芭蕉自身も
直弟子にも具体的に説明し得ない絶妙の術と言う。支考は証句と
して以下を挙げたが、七部集を繙き付け筋はわからないが意味は
通じる付句を探して、自分で判断し学ぶしかないのかも知れない。
障子に影の夕日ちらつく
婿殿はどれぞと老の目を拭ひ
句作の三条
一、相係り（前句の見立に半ば係りの言葉があれば付句も前句に
半ば懸けて作る。）、係付（前句を平生ならず見立てるとき
は、見立ての中の言葉で前句にもたれるように作る。） 結
付（前句に情か用の言葉がありその意を転ずるときは、付句
は其場、其体をもって作る。）
一、不用の用 後句を付けやすくするために付句には不用な言葉を
付加する。
一、執中の法 前句の余情から中心となる一二三字の単語を連想し意
味的には直接関係のない句を付ける。
糊強き袴に秋を打うらみ
鬢の白髪を今朝見付けたり 老を連想
手紙を持ちて人の名を問ふ
本膳が出ればおのおのかしこまり 振舞を連想
此の秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月 左遷を連想
感想：
曲齋の『貞享式海印録』は、芭蕉俳諧の作法がどういうものだったか窺うには最適な書である。芭蕉門には前句の意を転ずる妙法なるものがあるから古式のような式目は不用なのだという記述が含まれている。その妙法とは匂付け（余情付け）、執中の法、空撓め、見立て替えかと私は見当を付けたが自信はない。評釈が嫌いできちんと読んだことがなかった芭蕉七部集の評釈本『七部婆心録』の註釈の仕方を解説した中に上述のコンパクトな記述を発見(^^)した。曲齋はこれを基に『附句見立鏡』という書を構想していたらしい。実際に発刊したのかは今の所不明である。曲齋が考える妙法には、私が見当を付けた四項目は含まれていたがそればかりではなかった。また、すべての付けは、前句の見立てなのだという考えに立っており、連句は見立て替え（曲解）の文芸なのだという説の論拠になり得そうである。難解で正しく咀嚼できたかは自信がない。今まで見立、趣向、句作を一緒くたにしてきた自身の付け転じに光明となることを祈る。
【俳諧に迷ひて俳諧の連歌といふ事を忘れたり】
日本名著全集 江戸文芸之部第二巻 芭蕉全集 去来抄
魯町曰。俳諧の基とはいかに。
訳：魯町が言った。「俳諧の基（もとい：基礎・土台）とはなにか？」
去來曰。詞にいひがたし。凡吟詠するもの品あり。歌は其一なり。其中に品
あり。はいかいは其一なり。其品々をわかちしらるゝ時は、俳諧連歌はかく
のごときものなりと、おのづからしらるべし。
訳：去来が言った。「一言では言いにくい。おおよそ吟詠する詩歌にも
種類がある。和歌はその一つだ。その中にも種類がある。俳諧歌は
その一つである。その種類を分けてそれぞれが理解できた時に、俳
諧の連歌とはこういうものだと自然にわかるだろう。」
それをしらざる宗匠達はいかいをするとて、詩やら歌やら、旋頭・混本歌や
ら知らぬ事をいへり。是等は俳諧に迷ひて、俳諧連歌といふ事を忘れたり。
訳：「それ（俳諧の連歌の詩歌における成り立ち・位置付け）を知らな
い宗匠達は、俳諧をすると言って漢詩やら和歌やら、旋頭歌、混本
歌やらわけのわからぬことを言っている。これらは俳諧という言葉
に迷わされて、俳諧が俳諧の連歌だということを忘れてしまったの
だ。」
俳諧をもて文を書ば俳諧文なり。歌をよまば俳諧歌なり。身に行はゞ俳諧の
人なり。唯いたづらに見を高くし、古をやぶり、人に違ふを手がらがほに、
あだ言いひちらしたるいと見苦し。
訳：「俳諧の心（滑稽、おかしみ、戯れ）をもって文章を書くならば俳
諧文である。俳諧の心をもって和歌を詠むならば俳諧歌である。俳
諧の心をもって行動するならその人は俳諧の人である。ただ無駄に
考え方を高慢にし昔からのやり方を破り、他人と違うことを自慢顔
にいいかげんなことを言い散らしている輩がいるがとても見苦しい。」
かくばかり器量自慢あらば、はいかい連歌の名目をからず、はいかい鐵炮と
なりとも、亂聲となりとも、一家の風を立てらるべし。
訳：「それほど自分の才能が自慢ならば、俳諧の連歌という名前を借り
ずに、俳諧鉄砲とでも、乱声（らんじょう）とでも名付け、俳諧の
軒を借りずに一家を立てるべきであろう。」
コメント：
『去来抄』の修業教の冒頭に不易流行と並んである一文である。芭蕉の在世
当時から本分を忘れたあやしい俳諧もどきが横行していたようだ。
「俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。」これは支考『芭蕉翁二十五
箇条』の第一条で心は去来抄の一文と同じである。
現代の連句界はとながめてみると、俳諧は俳諧の連歌で二句で短歌になるよ
うに詠むことを忘れた、温厚な去来が思わず怒りをこめて言った俳諧鉄砲や
乱声の輩の末流が跋扈している感がある。
参考： 連歌とは http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=連歌&oldid=41465286
日本名著全集 江戸文芸之部第二巻 芭蕉全集 去来抄
魯町曰。俳諧の基とはいかに。
訳：魯町が言った。「俳諧の基（もとい：基礎・土台）とはなにか？」
去來曰。詞にいひがたし。凡吟詠するもの品あり。歌は其一なり。其中に品
あり。はいかいは其一なり。其品々をわかちしらるゝ時は、俳諧連歌はかく
のごときものなりと、おのづからしらるべし。
訳：去来が言った。「一言では言いにくい。おおよそ吟詠する詩歌にも
種類がある。和歌はその一つだ。その中にも種類がある。俳諧歌は
その一つである。その種類を分けてそれぞれが理解できた時に、俳
諧の連歌とはこういうものだと自然にわかるだろう。」
それをしらざる宗匠達はいかいをするとて、詩やら歌やら、旋頭・混本歌や
ら知らぬ事をいへり。是等は俳諧に迷ひて、俳諧連歌といふ事を忘れたり。
訳：「それ（俳諧の連歌の詩歌における成り立ち・位置付け）を知らな
い宗匠達は、俳諧をすると言って漢詩やら和歌やら、旋頭歌、混本
歌やらわけのわからぬことを言っている。これらは俳諧という言葉
に迷わされて、俳諧が俳諧の連歌だということを忘れてしまったの
だ。」
俳諧をもて文を書ば俳諧文なり。歌をよまば俳諧歌なり。身に行はゞ俳諧の
人なり。唯いたづらに見を高くし、古をやぶり、人に違ふを手がらがほに、
あだ言いひちらしたるいと見苦し。
訳：「俳諧の心（滑稽、おかしみ、戯れ）をもって文章を書くならば俳
諧文である。俳諧の心をもって和歌を詠むならば俳諧歌である。俳
諧の心をもって行動するならその人は俳諧の人である。ただ無駄に
考え方を高慢にし昔からのやり方を破り、他人と違うことを自慢顔
にいいかげんなことを言い散らしている輩がいるがとても見苦しい。」
かくばかり器量自慢あらば、はいかい連歌の名目をからず、はいかい鐵炮と
なりとも、亂聲となりとも、一家の風を立てらるべし。
訳：「それほど自分の才能が自慢ならば、俳諧の連歌という名前を借り
ずに、俳諧鉄砲とでも、乱声（らんじょう）とでも名付け、俳諧の
軒を借りずに一家を立てるべきであろう。」
コメント：
『去来抄』の修業教の冒頭に不易流行と並んである一文である。芭蕉の在世
当時から本分を忘れたあやしい俳諧もどきが横行していたようだ。
「俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。」これは支考『芭蕉翁二十五
箇条』の第一条で心は去来抄の一文と同じである。
現代の連句界はとながめてみると、俳諧は俳諧の連歌で二句で短歌になるよ
うに詠むことを忘れた、温厚な去来が思わず怒りをこめて言った俳諧鉄砲や
乱声の輩の末流が跋扈している感がある。
参考： 連歌とは http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=連歌&oldid=41465286
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