江戸俳諧コミュの芭蕉

現在では芭蕉は俳聖として崇め奉れていますが、まぁ芭蕉さんだって生きているときは俳諧のお師匠さんであり、普通に生きていたわけです。あまり神格化しすぎるよりも、市井に生きた江戸の人という面もまた見ていく必要があるんじゃないかと思っています。

　　宵の年、空のなごりを惜しまむと、酒飲み夜ふかしして、元日寝忘れたれば
■ 二日にも　ぬかりはせじな　花の春（芭蕉）

この句などはまさに人間芭蕉の一面を表していて面白いと思っています。ものの本によれば、この句は元禄元年芭蕉四十五歳のときの句で、この時は郷里の伊賀で正月を迎えていました。

宵の年すなわち大晦日の夜に、月の終りですから当然月も出ていないわけですので、空に残っている行く年の名残を惜しもうと、郷里の友人と宴会をはじめ夜中まで飲んでしまって、元日の朝はぐっすり寝てしまって、餅が食いなかったので、、というのが前書で

二日には真面目に起きて餅を食ってよい正月にしよう
とユーモラスな中に、のどかな正月の気分を表現しています。

尚、普通に考えれば意味の上では「二日にも」ではなく「二日には」となります。が、芭蕉は、この句で「二日には」とするとあまりに当り前すぎて、面白くなく、賤しい（余りに平目にあたりて、聞なく、賤し」（土芳『三冊子』、赤双紙）としています。

※ 赤双紙では、この句の前書を「元日昼まで寝ねて、餅食いはづしたり。」としています。

コメント(1)

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[1] mixiユーザー 04月08日 16:57

■　花の雲　鐘は上野か浅草か

句の前書に草庵となっていますから、芭蕉が住んでいた深川の草庵からの状景を述べたものでしょう。

花の雲とは、昔から花盛りを形容するのに使われてきている言葉ですが、ここではまさにピッタリとした感じがします。暖い春の日差しをうけ、あたり一面は花花花...で霞んだようになっています。どこともなく鐘がなっているのが聞えてきますが、上野の鐘なんだろうか浅草の鐘なんだろうか...。なんとも長閑で気怠い時間の流れを感じます。

「花」とはもちろん桜花をさしていますが、今の私達が桜と言えば連想するソメイヨシノであったわけはありません。ソメイヨシノは江戸時代末期に江戸郊外の染井村（現在の東京都豊島区駒込）で人工的に作り出された品種で、芭蕉の頃には無かったわけですから...。芭蕉が見たものは江戸桜系統の花だったろうかと思います。

「上野」は上野の東叡山寛永寺を指し、「浅草」は浅草の浅草寺を指しています。芭蕉は深川（現在の江東区常盤）に住んでいましたから、当時はその辺りでも上野や浅草でならす鐘の音が聞えたのでしょう。

土芳の「三冊子」には次のような記述があります。

観音のいらか見やりつはなの雲
此句の事、或集にキ角云。鐘は上野か浅草か、と聞へし前のとしの吟なり。尤病起の眺望成べし。一聯二句の格也。句を呼て句とすとあり。さもあるべし。=== 潁原退蔵校訂「去來抄・三冊子・旅寝論」岩波文庫よりの引用===

観音とは、当然浅草観音ですから、芭蕉の住いのあたりからは浅草寺の一部が見えていたことがうかがい知れます。あたり一面花が咲きほこっている中で、浅草寺の伽藍を見つめていた...どことなく心細げで目線が弱々しく感じるのは、其角が言うように芭蕉が病気明けであった所為でしょうか。

この一年も離れて作られた二句を一連のものとして捉えた其角の感性は鋭いと感じます。

観音のいらか見やりつはなの雲
花の雲　鐘は上野か浅草か

と二句を並べて続けてよむと、なんとも長閑で悠々とした大江戸の春の情感が漂ってくるように感じます。

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