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とにかく怖い話。コミュの灰色の光景

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他コミュにも投稿させて頂いた話です。

※物語で登場する人物名等はフィクションです。

前回:
夏!恋!ときどき生霊
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裏・夏!恋!ときどき生霊
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日常を共有できる友人
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 私が通う高校は大学の付属高校だが、県内でも有名な進学校でもある。
 
 特進科以外の一般生徒は2年に上がる段階で、
 本人の希望と1年の総合成績の良い順にA組からクラスの配属が決まる。
 しかしJ組から以下のクラスは就職組として、授業の内容そのものが変わってくる。
 ここから進学組に追いつくのは非常に難しい。
 
 先生達は授業でよく就職組を非難するようなことを言っては、
 進学組を炊きつけようとする。
 ここでは、学力による格差が既に確立しているのだ。
 
 長い目で見れば勉強した者勝ちなのだろう。
 だが人格よりも学力が優先される教育は詰まらない人間を造りだす。
 それは私も例外ではない。
 
 小さい頃に抱いていた夢や目標が機械のように勉強をするうちに、
 だんだんわからなくなっていく。
 
 
 
 また夏休みがやってきた。
 しかし、高い志を持つ学生に休みはないらしい。
 
 恒例の長期夏期講習を受けるために黙々と登校してくる生徒達。
 参考書を片手に、あるいはルーズリーフを片手に、
 俯きながら歩く彼らはまるで人形のようだ見えた。
 
 生徒達を横目に木陰に座る、その光景は何だか全てが灰色に見える。
 この時間が永遠に続くような気がして、憂鬱になった。
 
 
「ねえ君、夏期講習では見ない顔だね」
 
 ふいに声を掛けられ振り向く。
 そこには夏に似つかわしくない色白の男子生徒が立っていた。
 
「私は夏期講習を受講してないもの
 あなたこそ、こんな所に居ていいの?まだ講習の最中でしょう?」
「サボリだよ、サボリ」
 
 いたずらっ子のように微笑んだその顔は、少し疲れているように見える。
 そうか、彼も私と同じなのだろう。
 
 私は、菊地と名乗るその男子生徒と少し話をした。
 本当に他愛もない話。
 
 好きな音楽のこと。
 明日の天気のこと。
 クラスの友達のこと。
 
 彼も私も会話を面白可笑しく工夫できるタイプではないが、
 久しぶりに楽しく感じた。
 
 あまり長い時間戻らないと先生にサボっているのがバレるからといって、
 菊地は足早に戻っていった。
 特に会う約束はしなかったけど、明日もここに居たらまた会えるだろうか…
 
 空を見上げ、また憂鬱になる。
 
 
 
 翌日も翌々日も菊地はやってきた。
 日を重ねると徐々に会話も弾み、私は笑顔を見せる、彼も楽しそうに笑う。
 何だか笑うのは久しぶりな気がした。
 
 私達は、次第にこうやって会うのが日課のようになっていた。
 
 
 
「よう花岡」
 
 菊地は今日も声を掛けてきた。
 時間からして、また講習を抜け出してきたのだろう。
 そんなに苦痛ならいっそのこと勉強なんて止めてしまえばいいのに。
 
 花岡とは私の名前だ。
 
 彼は私の隣に座って俯いた。
 菊地の横顔を見て気づく、誰かに殴られでもしたのだろうか?
 その顔に大きな痣がついている。
  
「僕は義父に嫌われていてね…
 何かもう学校のことも家族のことも限界かも」
 
 菊地は聞こえないぐらい小さな声で呟く。
 家族間で何があったのか、私にはわからない。
 だが、昨日何をされたのかはその横顔の痣が物語っている。
 
 こういうときは話を聞いてあげるべきなのだろう。
 だけど菊地はそれ以上、何も言わない。
 私も彼に辛いことを思い出させる気がして、何も聞けなかった。
 
 長い沈黙が続く、しかし不思議と気まずさは感じない。
 隣に彼が居る時間がずっと続けばいいと思った。
 
 そして私は意を決して切り出すことにした。
 
「ねえ、私といいことしよっか」
 
 後悔した。
 何を言っているのだ私は。オヤジか私は。
 さすがに言い方にも程がある。
 これでは間違いなく誤解するじゃないか…
 
 菊地は私を見ながら、酷く驚いた表情で口をパクパクしている。
 何か言いたいけど、上手く言葉が出てこないらしい。
 どうやらバッチリ誤解したようだ。
 
「も、もうそろそろ戻らないとマズいでしょ!早く戻りなよ!」
 
 私は講習に戻ることをはぐらかすように強く促す。
 恥ずかしくて菊地の顔が見れない。
 
「あ、ああ…、そうだな戻らなきゃ」
 
 菊地は戸惑いながら、ゆっくり私から離れていく。
 途中1度だけ振り返り、少し間を置いてから足早に戻っていった。
 
 結局私は彼の話を聞くことも、励ましてあげることも出来なかった。
 何をやっているんだか。私のバカ。
 明日来たら、ちゃんと話そう。
 
 
 
 翌日、いつもの木陰で、
 相も変わらず夏期講習を受けるために登校してくる生徒達を眺めていた。
 いつも灰色に見えたその光景は、少し鮮やかに見える。
 いや世界はもともと色づいているのだ、
 灰色の光景は、鬱屈とした心境が見せた幻影なのだろう。
 
 早く会えないかな…
 
 
 
「よう」
 
 知らない男子生徒に声を掛けられた。
 …菊地じゃない。
 
「そうか、お前が花岡か〜」
「あなたは?」
「菊地の友達の高梁で〜す」
 
 高梁は、ヘラヘラ笑いながら答えた。
 
「菊地からの言伝だ
 『今日は行けない、ごめん』ってさ〜」
 
 そうか 今日来れないのか
 一体どうしたんだろう…
 彼の横顔についた大きな痣を思い出して心配になる。
 
「さて、菊池の用件は伝えた
 ここからは俺の用件を伝える」
 
 高梁の顔から先ほどまでの軽そうな笑みは消え、
 睨むような眼差しで私を見ていた。
 
「お前、死んでいるだろ」
 
 目に映る景色が灰色に変わる。
 
 …??
 私が死んでいる?
 この人は何を言っているんだろう。
 
「ここで自殺したから、ここに縛られているんだろ?」
 
 ロープが首に食い込む感触がした。
 
 自殺?縛られている?
 
「お前の事情に菊地を巻き込むな
 もし連れて行くつもりなら、諦めろ」
 
 私は菊地が心配なだけ。
 連れて行くって…どこへ?
 
 私がこの木の下に居るのは、
 夏期講習を受ける生徒達を冷やかしのつもりで眺めているだけ。
 
 そう、いつもいつもここで眺めていた。
 何年も…
 
 
 
 突然高梁が私の肩を鷲掴みにする。
 その瞬間、霧がかかったような私の意識が徐々に晴れていく。
 断片的だった記憶のピースが繋がっていく気がした。
 
 そうだ、思い出した。
 私は自殺しのだ、この木にロープを吊るして。
 
 与えられた課題をこなすだけの日々、自己主張のできない窮屈さ。
 それらにただ、抗いたかっただけ。
 親を少し困らせてやろうと思っただけ。
 それなのに、本当に死んでしまうとは思わなかった。
 
 私はこの木の下に立っていた。
 沢山の人達が私の前を通り過ぎていったが、そのほとんどは私に気がつかない。
 気がついても声を掛けてこない。孤独だった。
 
 その度に死んでしまったことを何度も後悔した。
 そして目に映る人たちを恨めしく思うようになっていた。
 いつしか他人への嫌悪だけが全てになって、自分が何故ここに居るのかなど、
 すっかり忘れてしまっていた。
 
 そんなとき、はじめて人に声を掛けられた。
 それが菊地だった。
 
「だから連れて行こうとしたのか」
 
 どうやら私に触れているとき、
 高梁は私の考えていることが分かるらしい。
 
「連れて行こうなどと思ってはいなかった」
「同じだ、自殺を促すつもりだったんだろう?」
 
 !!!
 そうだ、私は現実に苦しむ彼に自殺を促すつもりだった。
 それを今日話そうとしていた…
 
 何故そんなことを考えたのか、わからない。
 隣に彼が居る時間がずっと続けばいいと思ったとき、
 そうすることが正しいと思い込んでいた。
 
「他のヤツらがどうなろうと知ったことじゃねーけど、
 俺の友達に手を出したら許さねーからな」
 
 高梁の怒りが私の中に流れ込んでくる。
 間接的にしろ私は菊地を連れて行こうとしたのだから、
 友人である高梁が怒るのは当然の話だ。
 
「ここに居て、また菊池と会うのは面倒だ。
 俺が触れたから、お前は俺に憑くことができるだろう、ついて来い」
 
 高梁は私の手を引いて歩き出した。
 木の下を離れ、校門を潜り、校外へ出る。
 『縛られている』はずの私が高梁と共に歩いている。
 
 菊地も私が見えるようだったが…
 この男は一体何者なんだろう。
 
「どこへ行くつもり?」
 
 高梁は戸惑う私へ振り返り、ヘラヘラ笑って答えた。
 
「俺んちで清める」
 
 
 
 夏が終わり、秋を過ぎて、厳しい冬を迎える。
 その先に再び暖かい季節がやってくる。
 この時期は人間にとっても動植物にとっても様々な変化をもたらす。
 
 テレレレテッテッテー
 
 どこかで聞いたことのある着信音が部屋に響いた。
 どうやら高梁の電話らしい。
 
「久しぶりだな、菊地〜」
 
 電話の相手は菊地らしい。
 
「おーおー合格したのか〜、おめでと〜
 じゃあ4月から県外か〜」
 
 ヘラヘラ笑いながら電話をする高梁の表情は、少し寂しそうに見えた。
 
 近づくと電話越しに菊地の声が聞こえてくる。
 私は高梁の肩に手を置いた。
 
「そうそう花岡って覚えてる?」
「あ〜、僕が高梁に言伝頼んだ子だよね、覚えてるよ〜
 あの後急に見かけなくなって、それっきりになっちゃったけど…」
「あとで先生に聞いたら、
 すんげえ遠いとこに引っ越したんだとよ、場所は分からないけど」
「そうなんだ、それは寂しいなぁ」
「菊地が合格したら伝えて欲しいって伝言あったから言うな」
 
 少し間を置いて高梁は伝える。
 
 『おめでとう
  あのとき君の力になれなくてごめんなさい。
  そして、これからも自分を見失うことなく頑張ってね』
 
「…そんなこと言われると泣ける!」
「泣けわめけ、リア充め」
「ありがとう、すごく嬉しいよ!
 あ、親にも連絡するからこの辺で切るわ〜」
「ああ、またな」
 
 電話を切り、高橋は私を見る。
 
「伝えたぞ」
 
 あのとき学校や家族の事情で苦しんでいた菊地は、
 私が途中で諦めてしまったことを遂げていた。
 考えてみれば受験など、ただの通過点でしかない。
 何故私は、永遠に続く苦行のように思っていたのだろう。
 
「で、お前はこれからどうするんだ?」
「そうね、菊地のところに行こうと思っている」
 
 高梁は少し考え込んだ。
 
「花岡はもう悪霊じゃないから、たぶん菊地には見えないぞ」
 
 高梁の話では、
 菊地はたまに悪霊を見たり、感じることがあるらしい。
 ただ、本人にその自覚がない。
 菊地はかつて悪霊になりかけていた私と接することが出来たが、
 今は見るはおろか、感じることも出来ないのだろう。
 
 だけど、今度こそ彼の力になりたい。
 
「花岡にとって菊地はそんなに大事な人かぁ、リア充め爆発しろ」
「あなたにとっても大事な人なんでしょう?彼は」
 
 高梁は目を逸らして、照れ臭そうに笑った。

コメント(13)

お見事exclamation
夜勤中にほっこり出来ました。ありがとううれしい顔
このシリーズ好きるんるん
次回を楽しみにしていますクローバー
書き込みありがとうございます!

> 大関 さん
夜勤お疲れ様です!(。∀゜)ゝ
怖い話でありながら、毎度あまり怖くない話になってしまい、
話の構成力、文章力が至らないところもありますが、
これからも読んで頂けると幸いですw

> ☆マコ☆ さん
楽しんで頂き、嬉しく思います!
これからもボチボチ書いていきたいと思うので、読んで頂けると幸いですw
> 祈遊.@黒縁眼鏡 さん
コメントありがとうございます!

破ァ!思わずぐぐってしまいました^^;
高梁は確かにTですが、寺生まれの先輩Tさんとは違いますよw
・・・ネタ合ってますよね?
読んでて引き込まれました。
いいお話ありがとうございます☆
皆様、書き込みありがとうございます!

> はねね さん
本当ですか!
マイペースですが、これからも投稿していく予定なので、
温かく見守っていてくださいw

> ジョジョリオン さん
ありがとうございます!
シリーズを通して、好きになってくれてるのは非常に嬉しく思いますw
これからも読んで頂けると幸いです!

> ふくちゃん さん
Γ●)) あざーーーーーーーーーーーーす!
確かに読んでみないことには、何の話か分からないですよね〜
シリーズものであるなら『シリーズ名 題名』という形などにする工夫が必要そうですね〜
ただ、実はシリーズ名をまだ考えていないですが・・・^^;

> きょん さん
涙をお拭き(o・_・)ノ"(ノ_<。)
シリーズの全体からすると、切ない系の話が多くなっているので、
切ない以外の話も今後書いていくればな〜と思いますw

> なっちー さん
読んで頂き、ありがとうございます!
引き込まれると言われるのは、まさに制作冥利に尽きます!
書き物はまだまだ慣れていませんが、今後もこのシリーズにお付き合い頂けると幸いですw


※ 今までは、トピックの冒頭で、前回の話のリンクを貼っておりましたが、
さすがに多くなってきたので、今後はコメントに貼っていこうと思います。
皆様、ご了承下さい!
ぬあー!!!!まってたのに、見逃してたー(>_<)一気に読んじゃいました!菊地君がイケメンでも、高梁君にキュンキュンしちゃうのはアタシだけかー????続きもこのまま読みに飛びますε=(/^ω^)/シュワッチ

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