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とにかく怖い話。コミュの【創作】代替品【狂気】

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自分がおかしいのはわかるが何故おかしいのか分からない。

おかしくなった原因があやふやで点と線を繋ごうにもどれを繋げば正解なのか分からないからだ。

辛かった事象を覚えていてもそれがそれほどのものなのか。

真新しい記憶でもないのに手繰り寄せるのは困難で。そのくせ傷がトラウマのように残っているからたちが悪い。

今更覚えていたところで過去が巻き戻るわけでもあるまいに。

しかし夜毎うなされる夢は私にとってはあまりにも現実で。

いまだに人に触れることさえ躊躇う。なのに日々は変わりなく流れていく。世界は本当に――





「――残酷だ」


そんなことを考えながら私は「アキラ」と名付けた子猫の耳を削ぐ作業を続けている。

「アキラ」はひどく泣き喚くが仕方がない。「アキラ」が悪いのだ。
お前が私の給食に唾を吐いたから、私はあの日シチューが食べられなかった。

足元に転がる翼が折れた「チエミ」を適当に踏みながら、壁紙の一部になった「ユリエ」と「ケンジ」の肉にたかる蝿を鬱陶しいと振り払う。

「ユリエ」の上履きがなくなったのは私のせいじゃないし、たまたま教室で蝿が私に止まったからって臭い臭いと囃し立てた「ケンジ」も、今では自分が一番臭いって反省して後悔すればいいと思う。

両耳をなくしてドラえもんのようになった「アキラ」が次第に泣かなくなってきたから。不思議に思って手を止めると――なんだもう死んじゃったのか。

眼球にマチ針はやりすぎだったかな。でも、五本で死ぬなんてひ弱だね。


「今日は……日曜日か」


携帯電話を開いて日時を確認する。
なら明日は燃えるゴミの日だ。
さよなら「アキラ」「ユリエ」「ケンジ」。
君たちは焼却炉で燃えてくれ。

飛び回る蝿を素手でまた壁へと叩きつける。
蝿を――いや、「タカシ」は自分の中身をぶち撒けて壁紙の一部になった。
ハムスターの姿をした「ユリエ」と「ケンジ」とおそろいだ。
良かったね、みんな一緒なら寂しくないよ。


「喉かわいた……な」

一人暮らしは独り言が増えるな、なんて。
他人事に思って。

麦茶を飲もうとキッチンに行き、冷蔵庫を開けると冷蔵庫の中の「メグミ」と「マイ」と「ヒロユキ」と「ルミ」と何故か目があった。


「あ、うん」


今日は「ルミ」を使って鯵の叩きにしよう。
明日は「ヒロユキ」がいいかな。鯖は悪くなりやすいから。


麦茶をコップに移して飲んで、部屋中を這い回りやけに黒々と光る「ナッちゃん先生」をあちこちで踏みながら、私はソファに腰かけた。



辛かったことがあるのだけれど、今更何が辛かったのか。言葉にすればあまりに陳腐で、きっと誰も理解しないだろう。

時の流れは残酷で、私の行為なんて世界に比べたら笑っちゃうくらいちっぽけで。

そんなことを考えていると何故か私はいつも剃刀を腕にあてている。


「死にたいなぁ」


今日は日曜日だから。
仕事は休みだから。

何したっていいんだ。
死んだって。
殺したって。


「死にたいなぁ」


そういえばそろそろ世間ではおやつの時間だから。
私もおやつにしましょうと手近な紙袋をひっくり返す。

赤青黄の錠剤は苦いけど、時々甘い夢を見させてくれるから好きだ。


「死にたいなぁ」


ああ、狂ってるな。
本当に。


血まみれの腕を舐めて、「おやつ」の苦さを誤魔化してみた。





ぼんやりしてきた頭で気がつくと、玄関の方で物音がする。
ピンポンピンポンとやかましい。

耳鳴りかと思ったがドンドンと鈍い音まで聞こえてきた。どうやら誰かが外にいるようだ。面倒臭い。



「はいはーい」


適当に返事をしてぺたぺたとまた「ナッちゃん先生」を踏みながら、玄関へと向かい扉の穴を覗くと女の人が怖い顔をして立っているのが見えた。


「……はいはーい?」

誰だろう?
見覚えがあるようなないような。

「あのですね、私、隣の佐藤ですけど」

「さとう?」

砂糖で脳内変換をしそうになって、ああ佐藤かと納得して。
佐藤と言えば隣の席だったチヨちゃんは元気かなぁとそんなことを思った。


「あのですね、はっきり申し上げるとこちらのお宅、臭いんです」

「くさい、ですか」

「はい、生ゴミの臭いというか……、ちゃんと高橋さんゴミ捨ててらっしゃいますよね?」

「くさいですか」

「え、あ、はい」

くさい。

私が――くさい。

.....
なんで、チヨちゃん。

あなたまでそんなこと言うの?


臭い。
くさい。


ねえ、私ちゃんと毎日風呂に入ってるよ。
みんなが臭いって言うから毎日二回入ることにしたんだよ。
洗濯だってちゃんと三回洗ってから着ることにしたし、ねえ何が悪いの。
何がくさいの。


「――チヨちゃんも、そういうこと言うの?」

「……は?」


扉の向こうにいるチヨちゃんは不思議そうな声を出す。ああ、そうか。チヨちゃんにとっては私を臭いと言うのは当たり前のことなんだ。

そうか、チヨちゃんだけは味方だと思っていた。辛いときは頭を撫でてくれた。一緒に泣いてくれた。
休んだ私のためにノートをとってくれた。
チヨちゃん。
佐藤チヨちゃん。



「ひひっ」

何故か笑えた。


玄関の扉を開けると、少し太って背が縮んで一重瞼になったチヨちゃんが立っていた。

私を見て一瞬呆けた顔をして、次第にそれは脅えたものになって。


「チーヨちゃんっ」


チヨちゃんの唇が悲鳴の形を作りそうになって。

うるさいのは嫌いだから汚い私の左手でそれを塞いだ。



「あーそびまっしょ」



思い切り引っ張ってチヨちゃんを私の家へと招き入れる。
玄関に倒れ込むチヨちゃん。
鍵をかけた。チヨちゃん。
チヨちゃん、大好きなんだよ?
だけどチヨちゃんは這い回りながら逃げようとする、まるで「ナッちゃん先生」だな。
「ナッちゃん先生」にするみたいにチヨちゃんを思い切り踏みつける。
チヨちゃんの背骨が変な音を出した。

あー、そっか。
「ナッちゃん先生」みたいにぐちゃぐちゃにはならないんだね、チヨちゃんは。


「偽善者なのは一緒なのにー」


襟を掴んで無理矢理仰向けにチヨちゃんをひっくり返す。チヨちゃんは泣いている。口から血を出して「助けて」と叫んでいる。


「ひひっ」

馬鹿だなぁ、チヨちゃん。

泣きたいのも助けてほしいのもこっちだよ。


チヨちゃんの顔をひっぱたいた。
またひっぱたいた。
殴った。
殴り続けた。
殴って。殴って。殴って。殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って。



そういえば右手には剃刀を持ったままであることに今更気づいた頃には、チヨちゃんは随分と真っ赤になってしまっていた。



「――ひひっ」


何故か、笑えた。



チヨちゃんをそのままにしてリビングのソファへと戻る。
「タカシ」を叩き潰して、「ナッちゃん」先生を踏みつけようとしたら気持ち悪い黒い羽根で飛んで逃げてしまった。生意気ー。



ああ、今日は何曜日だっけ。

携帯電話を開いて日時を確認する。

ああ、そうか。日曜日だ。
明日は燃えるゴミの日だ。
そうだ、だから。

アキラとユリエとケンジとチヨちゃんには燃えてもらわなくちゃ。

みんな仲良くごみ袋に入れて、大丈夫私は寂しいけど、みんなは寂しくないよ。

「ひひっ――ひゃはっ」


そうだよね。
卒業文集にも、「みんな仲良し三年B組」って書いてあったもんね。
そうそう。みんな仲良し。
私はみんなに入っていない。

そんなことを考えていたらまたなんだかお腹がすいてきて。
私は紙袋からひっくり返ったままの「おやつ」を水もないまま飲み込んだ。






少しずつ目が開かなくなってきた頃に、玄関の方から物音がする。ピンポンピンポンとやかましい。
ドンドンと鈍い音まで聞こえてきた。耳鳴りだろうか。耳鳴りだろう。耳鳴りだ。そうに違いない。

「チヨちゃん?」

重い頭を動かして玄関の方を見るけれど、チヨちゃんは相変わらず玄関で目を開いたままよく寝ている。
じゃあやっぱり耳鳴りか。


サイレンが聞こえてきた。
ああ、もう。
うるさい耳鳴りだな。
私は眠いんだ。少し寝かせてくれ。
久しぶりにゆっくり眠れそうなんだからさ。



ああ、本当に。

私がおかしいのはわかるが何故おかしいのか分からない。

何がおかしいのかも。おかしいのは分かるんだ。だってそうじゃなきゃ。

..........
こうはならないでしょ?



「ひゃはっ」





私の部屋にはトモダチがいっぱい。
過去を振り返ったところで何もならないけど前に進めないから立ち止まる。

私の部屋にはトモダチがいっぱい。



あは。




あははははははははは。












みんな死ね。

みんなを殺して、








私も死ぬから。




【完】

コメント(4)

二宮先生の「!」に似てますね(´▽`)

主人公が狂ってく感じとか(;´Д`)

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