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とにかく怖い話。コミュの-異人との夏 1977-

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もう9月だというのに日差しは遠慮なく地面を照りつける。
アスファルトは熱気を帯びて遥かな先に蜃気楼を作っていた。


そんな・・・残暑のつらい夏の午后だった。

俺はいつも通学路の途中で視線を止めていた。
仲間達はいつもの事と俺を無視してくれている。
Kもその友人の一人だった。
彼は、いつも俺を心配そうに見つめていた。

時間にしてそろそろ、俺の視線の先に彼女が現れる時刻。


そして・・・

20mも離れた十字路の手前、古びた家から彼女は現れる。
まっ白な…つばの大きな日陰帽子と右手には白いステッキを持ち。
いつも迎えにくるバスの停留所に歩いてくる。
その停留所は目の不自由な人々が5人ほど並び佇んでいた。盲学校に送迎車両の様だ。
俺は彼女に恋をしてしまった。
初恋だった・・・。



ある夏の夕方・・・俺は彼女が帰ってくる時間を心待ち待っている。
30分ほどして送迎バスが止まった。
何人かの生徒が降りて最後に彼女の姿をとらえた。

俺は、腹を決めて告白する事にした。

「すいません・・・」
「はい?」
「俺、この先の高校に通っている浜田と言います」
「はい?」
「なにか?」
彼女は明らかに不信がっている・・・

「突然ごめんなさい・・・」
俺もかなり緊張している。
「本当に…えっと…なんだ…いや、ごめんなさい・・・」

彼女は、俺の言葉から察してくれたみたいだ。

「はい、落ち着いてください・・・・何か私に御用ですか?」
彼女の驚くほどの落ち着きさに、いささか俺も冷静になれた。

「良かったら・・・俺と付き合ってください・・・」
「貴方を初めて見た時から好きになりました」

俺は初めての告白…そして彼女の涼しげな眼差しに目を背け、早口で告白をしてしまった。

「あっ、・・・はいありがとうございます」
「でも、私は目がよく見えないんです」

彼女は少し俯きながらはにかみ・・・
「ありがとう・・・お友達からでいいですか?」
俺は、初めて真っすぐに彼女を見つめる事ができた。

「はい、お友達からで・・・ありがとう」
「俺、浜田と言います」

「私は、福原さとみ・・・」
「よろしくね」

その時には送迎バスもなく…彼女の友人達もいなくなっていた。

「向かいの方は来るの?」
俺は尋ねた。

彼女は視線を落とし。
「今日は…向かいは在りません。・・・一人で帰ります」

「家まで送ろうか?」

「いえ、大丈夫です。さようなら」

彼女は一礼をして・・・逃げ水の漂うアスファルトの道を小さくなって消えていった。


「告白したのか?」
奴が聞いて来た・・・

「ああ、話したよ・・・綺麗な人だったよ」

彼は視線を避けながら俺につぶやいた。
「深入りするなよ、後が辛くなる・・・」


俺は、まだその時には奴の優しさには気づく事はできなかった。


毎日、通学時に微笑む彼女・・・
夏の夕暮れのたわいもない会話・・・

彼女はよく笑い、その笑顔に俺は夢中になっていく。

…初恋。


「浜田さん・・・いつもいらっしゃるお友達は・・・?」

「気を気かしているのかな・・・」
「今日は、いっしょではありません」

「浜田さん・・・私の事どう思っているのですか?」

「俺は、貴方の事を真剣に考えています」

「本当に・・・私を・・・良いのですか?」
真剣な彼女の瞳を私は、裏切る事は出来ない・・・

「はい・・・貴方と何処までも・・・」

彼女は、うつむきながら…。

「ありがとう・・・」
「私も、貴方の事忘れません」
「決して・・・一生・・・私に死が訪れようとも・・・」
彼女は、その瞳からいくつもの涙を流していた。
そして、その日から二人の歩みが始まり・・・
俺たちは下校時の短い時間の中で、互いを理解する事があたりまえになっていった。





数日が過ぎ…いつもの停車場には彼女の姿が見えない・・・
2日・・・3日・・・4日・・・5日過ぎても彼女の姿は見えない。
俺は毎朝夕、彼女の姿を探していた。
そして一週間が過ぎる頃、友人のKが俺の所に訪れた。

「彼女・・・待っているのか?」

「ああ・・・」

彼は、ため息をついて。
「もう答えを出さなくては…でなければお前も連れて行かれる」
「よく見ろ・・・彼女の姿を」

一週間ぶりだろうか彼女の乗るいつものバスが、その場所に止まっていた。
そして、いつもの通り彼女は最後に降りて来た。



俺の、見た彼女の姿は・・・・
透き通っていた・・・共にバスから降りる友人たちの体に重なり透けていた。
透けて・・・誰にも相手もされず立ちすくんでいる・・・

俺はたまらず彼女のもとに走っていた。
ハアハアハア・・・少し息があがっていた。

「こんばんは、福原さん」

「はい、こんばんは・・・・浜田さん」

彼女は、いままでにないほどの笑顔を俺に注いでくれている。
俺は、あまりにも優しく満面のその笑顔にふれ…涙があふれてしまう。

「楽しかったです…短い間でしたけど・・・ありがとう・・・私を見つけてくれて・・・
 貴方が私を見つけてくれなかったら・・・私は永遠に孤独だったでしょう。だから本当に嬉しい、本当にありがとう」
「私は、短い人生だったけと・・・とても満足。貴方に会えたからとっても満足です」
俺は、うつむき涙が止まらず震えていた。

「貴方は、この世の人ではなかったんだ…?」

彼女の瞳からも・・・

「はい・・・私はもうこの世の者では…貴方からみたら異人です」

「俺は・・・君が何者であろうとかまわない・・・・

彼女の指が俺の唇を触れ…言葉を遮った。

「もう私の姿も見た通り・・・終わりが訪れたのです」
「けして、この世界には永遠は無いのです」

「だから・・・ありがとう…さようなら」
「また、いつの日にか…」

彼女の姿が薄くなっていく・・・
そして・・・満面のその笑顔が・・・きえた・・・
俺は、号泣してしまいその場に泣き崩れてしまった。
奴は、俺が泣き止むまで黙っていてくれた。

俺の異人との初恋は終わった。
見上げれば高き空から遠雷が聞こえて来た夏の夕暮れの事だった・・・。






コメント(18)

なんか、悲しいお話ですね(´・ω・`)ショボーン

こういうの、好きです♪
おもしろかったです♪
なんだか切なくてだけど、温かい気持ちになりました。
良質な短編小説を読んでる気がしました指でOKわーい(嬉しい顔)
まきたさん。ありがとう。悲しみの中に人は何かを見つけるのでしょうか。
白髭海賊団さん。ありがとう。切なさは愛しいものですよね。
プーさん。ありがとう。貴方の期待に応えるような物を作ります。
山田太一の小説を1988年に大林宣彦監督で映画化された「異人たちとの夏」をヒントに、お話を作られたのですね。

「異人たちとの夏」での「K」は、主人公(風間杜夫)の恋人で幽霊(異人)で名取裕子が演じましたね。
主人公の両親(片岡鶴太郎、秋吉久美子)も幽霊(異人)で、浅草のすき焼き屋「今半」で霊界に帰る際に体が透き通っていくシーンは心にしみますね。
> 鵜流歩さん

「異人たちとの夏」、懐かしいですね!
コメディアンでデビューした鶴太郎が演技派俳優として開花していましたね。
風間杜夫も若かった。タクシーの中での独り言に運転手がビビって後ろを振り向いたシーンがおかしくて笑ってしまいますね。
秋吉久美子も名取裕子も若くて美しかったなぁ。

懐かしいから、光テレビで久しぶりに観ようかな♪
> まちさん

はい。私も、あの映画が大好きです。
主人公とKが愛した曲、プッチーニの「私のお父さん」がとても素敵でオペラのCDを買ってしまったくらいです。
鵜流歩さん、まちさん。私も「異人たちとの夏」は好きな映画のひとつです。ありがとう。
海砂子さん。私も連れて行かれるのは遠慮申し上げます。
-雪時雨-さんありがとうございました。

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