で、ヘッドフォン
結構好きです！
視覚器官というものが私は大嫌いで仕方がないのに、この眼球が腐り落ちた場合、やはり困るものだろうなというのは自認の致すところというわけです。
読みたくても観たくても何も分からない、そんな人生が楽しいわけがないので。
つまり私以外の人間の眼球が腐り落ちれば平和なんじゃないかな。
そんなどう考えても気が違っちゃった人の理論がつい数ヶ月前私の中で完成しましたがいかがいたしましょうか、なんて。
あ、でも大好きな漫画が私だけ読めたとしても書く人がいなきゃ駄目でしたね、反省反省。
じゃあやっぱり私が他人と接触する為に必要な器官を潰してしまえば楽なのではないかと、とりあえずほとんど最大音量でウォークマン装着してみました。
ふむ。耳が潰れた。
これでほとんどの雑音が消え、僅かにクリアな世界が広がり――
ああ、でもやはりごちゃごちゃとひしめき合うように寄り添う有象無象が不愉快で不愉快で。
じゃあ目を潰せばいいんじゃない？と古来より脳に住まうと伝説の、なんてことはないただの妄想が囁きかけてきたので私はそれに従うことにしたのです。
視力補正器具、簡単に言えば『眼鏡』とやらを踏み潰してしまえば、私の視力なんて雀の涙。段差も何もないところでこけるなんて朝飯前。
あらら。これは予想していませんでしたが眼鏡がなくても人間の輪郭はぼんやりと分かってしまうものでした。
目が認識できないので及第点くらいはいただけるでしょうか？
でも厄介なもので耳を潰しても目を潰しても、ウォークマンの電池はいずれなくなるし、見えない世界にもいずれ慣れるんです。
見えてるとおりにいかなくても、空気が読めれば、圧があれば、次第に次第に。
ほら、結局は。
結局は邪魔で、結局は欝陶しく、結局はややこしい。
どうすればこの問題は解決するんでしょうね。
残した器官を思い返すと。
口を縫い合わせるのか。
鼻を折って壊すのか。
皮膚を焼いてひきつれを？
舌を引っこ抜くのもいい。
どこまでやれば私は他人を感じなくなるのでしょう。引きこもっていたって箱の中に他人がいる。窓の外で話し声がする。最初は視覚器官がいらないと思っただけだったのに、今では目で耳で鼻で肌で――空気の味ですら。他人を感じることに不満が溢れてたまらなきなってしまいました。
殺しますか？
殺しませんか？
頭の中の妄想もとい妖精さんが私に囁きかけてきます。
殺しますか？
殺しませんか？
喧しいのでまた電池を買ってウォークマンを耳に差し込み垂れ流しますが、歌詞の合間に聞こえる問いがうるさくて、あまり意味がないのです。
自分の周りの人間を殺して静かな世界を手に入れるのか、このまま一生が終わりを迎えるまでこの喧しい世界で堪えて死ぬのか。
そういうことですか、妖精さん。
家ですら居場所がないのです。どこか穏やかな土地に行けたら。永住を望んでいるわけではなく、気分を転換したいだけ。山がいいでしょうか、海がいいでしょうか。出来るだけ人が少ない場所に、誰か私を連れ出してください。
電車は音が洩れると、睨まれるので嫌いでしたが、この度音洩れ防止ヘッドフォンとやらを買ったので、大音量でも大丈夫です。
だから。
山にしても海にしても軽装すぎる格好のまま私は久しぶりの駅にいました。
あまりよく見えないのですが、とくにあてがあるわけでもないので、何番線のホームでも何行きの電車でも正直なんでもいいのです。
とりあえず前でも後ろでも端っこなら人もいないでしょうと、ぼやけた輪郭を避けながらとにかく歩を進めました。
だから。
だけど。
すみません、一つ聞いてもいいですか。
私の左腕はどこに行きましたか。
すみません、言い直します。
私の左はどこに行きましたか。
手ってなんでしたっけ。
足ってなんでしたっけ。
痛いってなんでしたっけ。
私の体が目の前にあります。
足裏はこんな風に顔の前で、真正面に見えるようなもの――でしたか？
世界が真っ赤でなんだかとても眠たくて。こんな風に『物』を、はっきりと見るのは久しぶりだなぁと、しみじみしている私に頭上で誰かが忌ま忌ましそうに呟いているのが聞こえました。
「……マグロかよ」
私、人間ですけど。
そういえば私、もう眠いので寝ますけど、こんなときに妖精さんの質問のもう一つの答え気づいちゃったんです。
殺しますか？
殺しませんか？
そうですね、だから私は――
殺します。
自分を。
他人で選べないなら――なんてかっこつけすぎですか。
それじゃ、なんでしょう、本当に眠いのでここらへんでお暇をいただきます。
なんだか眠すぎるせいか指一本すら動かすことができないようなので。
そういえばヘッドフォン、どこ行ったんでしょうね？
私が次に起きるまでに、どなたか探しておいていただけませんか。
【完】
読みたくても観たくても何も分からない、そんな人生が楽しいわけがないので。
つまり私以外の人間の眼球が腐り落ちれば平和なんじゃないかな。
そんなどう考えても気が違っちゃった人の理論がつい数ヶ月前私の中で完成しましたがいかがいたしましょうか、なんて。
あ、でも大好きな漫画が私だけ読めたとしても書く人がいなきゃ駄目でしたね、反省反省。
じゃあやっぱり私が他人と接触する為に必要な器官を潰してしまえば楽なのではないかと、とりあえずほとんど最大音量でウォークマン装着してみました。
ふむ。耳が潰れた。
これでほとんどの雑音が消え、僅かにクリアな世界が広がり――
ああ、でもやはりごちゃごちゃとひしめき合うように寄り添う有象無象が不愉快で不愉快で。
じゃあ目を潰せばいいんじゃない？と古来より脳に住まうと伝説の、なんてことはないただの妄想が囁きかけてきたので私はそれに従うことにしたのです。
視力補正器具、簡単に言えば『眼鏡』とやらを踏み潰してしまえば、私の視力なんて雀の涙。段差も何もないところでこけるなんて朝飯前。
あらら。これは予想していませんでしたが眼鏡がなくても人間の輪郭はぼんやりと分かってしまうものでした。
目が認識できないので及第点くらいはいただけるでしょうか？
でも厄介なもので耳を潰しても目を潰しても、ウォークマンの電池はいずれなくなるし、見えない世界にもいずれ慣れるんです。
見えてるとおりにいかなくても、空気が読めれば、圧があれば、次第に次第に。
ほら、結局は。
結局は邪魔で、結局は欝陶しく、結局はややこしい。
どうすればこの問題は解決するんでしょうね。
残した器官を思い返すと。
口を縫い合わせるのか。
鼻を折って壊すのか。
皮膚を焼いてひきつれを？
舌を引っこ抜くのもいい。
どこまでやれば私は他人を感じなくなるのでしょう。引きこもっていたって箱の中に他人がいる。窓の外で話し声がする。最初は視覚器官がいらないと思っただけだったのに、今では目で耳で鼻で肌で――空気の味ですら。他人を感じることに不満が溢れてたまらなきなってしまいました。
殺しますか？
殺しませんか？
頭の中の妄想もとい妖精さんが私に囁きかけてきます。
殺しますか？
殺しませんか？
喧しいのでまた電池を買ってウォークマンを耳に差し込み垂れ流しますが、歌詞の合間に聞こえる問いがうるさくて、あまり意味がないのです。
自分の周りの人間を殺して静かな世界を手に入れるのか、このまま一生が終わりを迎えるまでこの喧しい世界で堪えて死ぬのか。
そういうことですか、妖精さん。
家ですら居場所がないのです。どこか穏やかな土地に行けたら。永住を望んでいるわけではなく、気分を転換したいだけ。山がいいでしょうか、海がいいでしょうか。出来るだけ人が少ない場所に、誰か私を連れ出してください。
電車は音が洩れると、睨まれるので嫌いでしたが、この度音洩れ防止ヘッドフォンとやらを買ったので、大音量でも大丈夫です。
だから。
山にしても海にしても軽装すぎる格好のまま私は久しぶりの駅にいました。
あまりよく見えないのですが、とくにあてがあるわけでもないので、何番線のホームでも何行きの電車でも正直なんでもいいのです。
とりあえず前でも後ろでも端っこなら人もいないでしょうと、ぼやけた輪郭を避けながらとにかく歩を進めました。
だから。
だけど。
すみません、一つ聞いてもいいですか。
私の左腕はどこに行きましたか。
すみません、言い直します。
私の左はどこに行きましたか。
手ってなんでしたっけ。
足ってなんでしたっけ。
痛いってなんでしたっけ。
私の体が目の前にあります。
足裏はこんな風に顔の前で、真正面に見えるようなもの――でしたか？
世界が真っ赤でなんだかとても眠たくて。こんな風に『物』を、はっきりと見るのは久しぶりだなぁと、しみじみしている私に頭上で誰かが忌ま忌ましそうに呟いているのが聞こえました。
「……マグロかよ」
私、人間ですけど。
そういえば私、もう眠いので寝ますけど、こんなときに妖精さんの質問のもう一つの答え気づいちゃったんです。
殺しますか？
殺しませんか？
そうですね、だから私は――
殺します。
自分を。
他人で選べないなら――なんてかっこつけすぎですか。
それじゃ、なんでしょう、本当に眠いのでここらへんでお暇をいただきます。
なんだか眠すぎるせいか指一本すら動かすことができないようなので。
そういえばヘッドフォン、どこ行ったんでしょうね？
私が次に起きるまでに、どなたか探しておいていただけませんか。
【完】
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