とにかく怖い話。コミュの異国の人形

以前、本屋で店舗責任者として働いていた時の話です。

その店は１０時から２４時までの営業で
本の他に、ＣＤやゲームなども少しですが取り扱っていました。


その日の私のシフトは１４時から閉店までの勤務でした。

出勤し、着替えていると早番勤務の社員から

「店長、よろしいですか。
　お客さんからクレームで、この商品が返品されました。」

と、報告を受けました。

社員の手元に目をやると、返品されたと思われる人形をしっかりと抱いています。


「ああ、それか。それで、お客さんは何て言ってた。」

と、私は机で午前中の売り上げを見ながら
社員に尋ねました。
彼の話によると、オープンしてすぐに
５０代くらいのおばさんがいらっしゃって
とにかく返品したい、レシートもある、
ということなので返金したとのことでした。
物凄く急いでいたようで、お金を受け取るとすぐに帰ってしまった、
と彼は付け加えました。


なんで本屋で人形なんか売っているんだと
思われるかもしれません。
うちの会社では、不定期的に海外へ雑貨や菓子などを
商品部が格安で買い付けに行っているのです。
この人形もその中にありました。

輸入雑貨の入荷は５日前でした。

この人形を初めて見たとき
これは売れないな、と直感しました。

ちりちりのロングの金髪。
なぜか濃い褐色の肌。
チェックのエプロンみたいな縫いの甘い前掛け。
質の悪い皮膚の材質。
そして何よりバナナの発酵したような匂い。

輸入ものの商品は往々にして質が悪いのですが
この人形は抜けてました。
良くいえばアラレちゃんのガっちゃんが日に焼けた感じ。
多分女の子みたいです。
目だけはくりくりしてるのですが、なんと５体もあります。
私の経験では、普通に売っても完売は不可能でした。

また、この人形にはもう１つ機能がありまして
手のひらを押すと、ランダムに録音された言葉をしゃべるんです。

「コンニチハ」
「アソボウヨ」
「ママー」
「モー」

などなど簡単な言葉を２０種類くらい
内蔵されたスピーカーから発します。
ただ、なんか間の抜けているというか
緊張感ゼロな棒読みの話方なんです。

これは私の推測ですが
東南アジアかどこかの国でこの人形は生産されていて
現地の人が片言で録音したのではないか、と思いました。

期待はしていなかったのですが
ゲームソフトの発売日に合わせて、売り場に出したら１体だけ売れました。
値段は原価ギリギリまで下げて１０００円弱くらいだったと思います。
それが今日、返品されてしまいました。
私は人形を事務所の机のすみに置き、売り場へと出ました。


平日の勤務なので他にトラブルもなく、
閉店時間となりました。
最後のお客さんが退店すると
アルバイトさんに床をモップ掛けしてもらい
私はレジの精算などを行います。
すべて業務が終わると店内の照明を落とします。

非常灯だけが青く光り
真っ暗になった店内はいつでも不気味です。

最後にアルバイトさんには外で待機してもらい
警備会社のセキュリティを何箇所か掛けて１日は終わります。

私は最終確認で店内を１周し
セキュリティをセットしていきました。
事務所を確認した時のこと。
電気を消し部屋を出ようとすると

「行かないでー。
　ひとりは寂しいよー。」

と無人の部屋から声がしました。
私は恐怖で凍りつきました。

しかし、次の瞬間声の主はすぐに判明しました。
どうやら例の人形が発したようです。
センサーか何かが壊れているのかな。返品されたものだし。
と思いホッとしました。

ですが、帰宅している車の中でさっきの声が
頭から離れません。
あの人形、あんな複雑な言葉しゃべるのかな…
と考え出すと薄気味悪くなりました。
…明日確認しよう。


翌日。


少し早く出勤すると、すぐに人形のところへ行きました。
昨夜のことがあっただけに、人形は不気味に見えました。
おそるおそる手のひらを握ると、

「オナカスイター」

と間抜けな声。
続けて押します。

「ネーネー」
「ウレシイ」
「エーン」
「ウッソー」


やはり昨日聞いた声は空耳だったのでしょうか。
とてもあの長いセリフを言いそうにありません。

「ショックー」
「ワーイ」
「オハヨウ」
「イイヨー」

やはり内蔵されてません。
私は録音されてて欲しいという想いと
何かしゃくに障る間抜けな声でイライラしながら
手のひらのボタンを連打しました。

「オハ」
「ウレ」
「ママ」
「モー」
「コン」

と早く押しすぎて
前の言葉を言い終わらないうちに次のセリフが出てきました。
なんかちょっと楽しくなってきて
どうせ不良品だし、壊れてもいいや、
という気持ちになりさらに早く連打し出しました。

早くなりすぎて、もはや言葉は頭文字だけしか
発声されなくなりました。

より早くより早くと加速していくと
声のトーンが何故かだんだん低くなっていきます。
そして次の瞬間はっきり聞こえたのです。





「モ」
「ウ」
「オ」
「マ」
「エ」
「ワ」
「シ」
「ネ」



連呼される言葉の断片の中ではっきりと聞こえました。

この人形は普通じゃない。

私はその人形と、売れ残った分もまとめて
その日のうちにクレームの為という名目で
本社に全て送り返しました。

その後、あの人形がどうなったかは知りません。


終