俺は以前塾の先生のバイトをしてました。
一対一の個人指導のやつです
大学四年のとき、Ａくんという小柄な小学三年生の男の子の担当になりました。
Ａくんはスポーツが好きでぼうず頭でまっくろに日焼けしていました。
性格もとても明るく元気で、地元のサッカークラブに入っていたり、学校で水泳大会の選手に選ばれたという話をいつもとても楽しそうに話してくれました。
せんせい！おしっこ！なんて言ってふらふら教室から出ていってｱｲｽを買って戻ってくるといった、典型的なやんちゃっ子でした。
勉強はきらいで、成績はいつもひどいもんだしふだんもさわがしいので塾からは問題児扱いされていましたが、俺は子供はこんくらい元気なほうがいいんじゃねえのと思って、あまりしかることもなくかわいがっていました。
Ａくんのほうも、他の先生がきびしいのに対して俺が甘いので、授業終わってからもせんせいせんせいって言ってついてまわって、とてもなついてくれました。
大学を卒業して就職したのでいったん塾のバイトは辞めたのですが、三年たったらやりたいことができたので会社を辞めフリーターになりました。
そしてまた同じ塾でバイトをはじめました。
Ａくんはまだ塾に来てるのかな、いまは６年生だよな、身長のびたかな、俺のことおぼえてるかな、とすこしわくわくしながら生徒名簿で名前を探してみると、名前がありました。
その日は時間帯が合わず、会うことができませんでした。でもまだ在籍してるんだからいつか会えるだろうって思って楽しみにしながら塾のバイトを続けていました。
夏になって夏期講習がはじまりました。すると塾長に、いつもの先生が時間の都合で担当できないので夏のあいだだけ俺が担当することになりました。うれしかったです。
そして夏期講習の初日、教室でＡくんを待っていると…来ました。３年のあいだにＡくんはずいぶん変わっていました
異様なほどに太り、分厚い眼鏡をかけ、あたまはあいかわらずぼうずでしたがフケだらけで、身長はまったく伸びていませんでした。
態度も３年前とはだいぶ変わっており、常におびえているような目付きでキョドっていて、目もあわせてくれず、以前のように学校やサッカーの話もしてくれません。
驚いたのはものすごく臭うことでした。口臭でした。
初回の授業だし、まあのんびりはじめようぜってことで、最近どう？俺のことおぼえてる？サッカーまだやってる？みたいな雑談をふったのですが、反応はほとんどありません。
ぜったいこれはおかしいと思ってしつこくいろいろ聞いてみました。すると次のようなことを話してくれました
サッカーは受験勉強の邪魔だからと、親に辞めさせられた。
塾には週５日、学校終わってから夜の１０時まで通ってて、あと週一日英会話、残りの一日が過去問対策用に家庭教師をつけられている
ふだん担当している先生がすごく厳しい
毎日２時間くらいしか親が寝させてくれない。受験生だから
ごはんを食べても吐くようになってしまったので、なるべく好物のお菓子やカップラーメンを食べるようにしている
学校でデブ、ガリ勉、気持ち悪いと言われていじめをうけている
病院に通っている（何の病院かは聞かなかった）
口臭はおそらくｽﾄﾚｽで胃をわるくしていたのだと思います。
時間がもったいないというので、ためしに適当な学校の過去問をやってもらいました。
採点をしてみると１００点中１３点でした。偏差値４５くらいのすごく簡単な問題です。
志望校は早稲田と立教らしいです。親が絶対に入らせると言っているらしいです。両方とも超難関校です。
夏期講習中は以前のような楽しい雰囲気にはならず、淡々と進むかんじでした。雑談にも乗ってきません。しかも授業を聞いているというわけでもなく、いつも目が泳いでいました。
夏期講習も終盤になり、俺は塾長に、夏以降も担当させてくれと頼みましたが、親がＡくんは勉強できないので厳しい先生をつけてくれと要求しているため、担当させてくれませんでした。
最後の授業で俺はこれおもしろいよ！息抜きに読んでって言っておすすめのｷﾞｬｸﾞ漫画をあげました。ありがとうという言葉はありませんでした。
そして時間帯があわないまま、塾で会うこともなく、受験シーズンが終わりました。
三月になってうちの塾の生徒たちがどこの学校に受かったかという結果が貼り出されました。
Ａくんの名前はありませんでした
いまは１７歳になっているはずです。塾は受験が終わってすぐ辞めてしまったので、どこでなにをしているかはわかりません。
昔のＡくんに戻っていてほしいと心から思います
一対一の個人指導のやつです
大学四年のとき、Ａくんという小柄な小学三年生の男の子の担当になりました。
Ａくんはスポーツが好きでぼうず頭でまっくろに日焼けしていました。
性格もとても明るく元気で、地元のサッカークラブに入っていたり、学校で水泳大会の選手に選ばれたという話をいつもとても楽しそうに話してくれました。
せんせい！おしっこ！なんて言ってふらふら教室から出ていってｱｲｽを買って戻ってくるといった、典型的なやんちゃっ子でした。
勉強はきらいで、成績はいつもひどいもんだしふだんもさわがしいので塾からは問題児扱いされていましたが、俺は子供はこんくらい元気なほうがいいんじゃねえのと思って、あまりしかることもなくかわいがっていました。
Ａくんのほうも、他の先生がきびしいのに対して俺が甘いので、授業終わってからもせんせいせんせいって言ってついてまわって、とてもなついてくれました。
大学を卒業して就職したのでいったん塾のバイトは辞めたのですが、三年たったらやりたいことができたので会社を辞めフリーターになりました。
そしてまた同じ塾でバイトをはじめました。
Ａくんはまだ塾に来てるのかな、いまは６年生だよな、身長のびたかな、俺のことおぼえてるかな、とすこしわくわくしながら生徒名簿で名前を探してみると、名前がありました。
その日は時間帯が合わず、会うことができませんでした。でもまだ在籍してるんだからいつか会えるだろうって思って楽しみにしながら塾のバイトを続けていました。
夏になって夏期講習がはじまりました。すると塾長に、いつもの先生が時間の都合で担当できないので夏のあいだだけ俺が担当することになりました。うれしかったです。
そして夏期講習の初日、教室でＡくんを待っていると…来ました。３年のあいだにＡくんはずいぶん変わっていました
異様なほどに太り、分厚い眼鏡をかけ、あたまはあいかわらずぼうずでしたがフケだらけで、身長はまったく伸びていませんでした。
態度も３年前とはだいぶ変わっており、常におびえているような目付きでキョドっていて、目もあわせてくれず、以前のように学校やサッカーの話もしてくれません。
驚いたのはものすごく臭うことでした。口臭でした。
初回の授業だし、まあのんびりはじめようぜってことで、最近どう？俺のことおぼえてる？サッカーまだやってる？みたいな雑談をふったのですが、反応はほとんどありません。
ぜったいこれはおかしいと思ってしつこくいろいろ聞いてみました。すると次のようなことを話してくれました
サッカーは受験勉強の邪魔だからと、親に辞めさせられた。
塾には週５日、学校終わってから夜の１０時まで通ってて、あと週一日英会話、残りの一日が過去問対策用に家庭教師をつけられている
ふだん担当している先生がすごく厳しい
毎日２時間くらいしか親が寝させてくれない。受験生だから
ごはんを食べても吐くようになってしまったので、なるべく好物のお菓子やカップラーメンを食べるようにしている
学校でデブ、ガリ勉、気持ち悪いと言われていじめをうけている
病院に通っている（何の病院かは聞かなかった）
口臭はおそらくｽﾄﾚｽで胃をわるくしていたのだと思います。
時間がもったいないというので、ためしに適当な学校の過去問をやってもらいました。
採点をしてみると１００点中１３点でした。偏差値４５くらいのすごく簡単な問題です。
志望校は早稲田と立教らしいです。親が絶対に入らせると言っているらしいです。両方とも超難関校です。
夏期講習中は以前のような楽しい雰囲気にはならず、淡々と進むかんじでした。雑談にも乗ってきません。しかも授業を聞いているというわけでもなく、いつも目が泳いでいました。
夏期講習も終盤になり、俺は塾長に、夏以降も担当させてくれと頼みましたが、親がＡくんは勉強できないので厳しい先生をつけてくれと要求しているため、担当させてくれませんでした。
最後の授業で俺はこれおもしろいよ！息抜きに読んでって言っておすすめのｷﾞｬｸﾞ漫画をあげました。ありがとうという言葉はありませんでした。
そして時間帯があわないまま、塾で会うこともなく、受験シーズンが終わりました。
三月になってうちの塾の生徒たちがどこの学校に受かったかという結果が貼り出されました。
Ａくんの名前はありませんでした
いまは１７歳になっているはずです。塾は受験が終わってすぐ辞めてしまったので、どこでなにをしているかはわかりません。
昔のＡくんに戻っていてほしいと心から思います
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