2005年、京都の小さなギャラリーであるshin-biでやった『without record』は、こうしてはじまった。レコードという音の記憶媒体そのものを使うのではなく、ポータブル・レコード・プレーヤーという、見た目だけでも高度成長期の記憶が詰まっている機械そのものが出す音を使えないだろうか。私には、その寿命を終えたにもかかわらず、軋みながら回転するモーターや、レコードをかけなくてもノイズを拾うカートリッジ、フィードバックしてしまうスピーカーの壊れかけの音が、その生命力を主張しているかのように聴こえていた。レコードがなくても、彼等の出す音は充分に美しく私を魅了した。元気に音を出し続ける彼等を使ったアンサンブルができないだろうか。これがこの作品のきっかけとなった。 京都のあとは、北九州のギャラリーSOAPの人たちが中心なって『web版 without record』を。こうして、忘れさられたプレーヤー達は、今現在の私の作品を演奏してくれる無人楽団として息を吹き返した。といっても、もちろん優雅な、クラシックのような音楽を奏でるアンサンブルではない。それでも、彼らから聴こえるノイズたちは、私にとっては、電気技師を父にもち、そんな音があふれていた家を思い出させてくれる、充分にノスタルジックで多幸感に満ちた音だ。